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(回答先: 国債残高のGDP比がこのまま増加すれば財政破綻は免れない 投稿者 ファイナンシャル・ディテクタ 日時 2002 年 7 月 23 日 23:00:00)
冷静に分析して得た結論がそうなのか、増税政策の必要性と根拠を示すために書いたものなのかはわからないが、主計官としては、あまりにも分析力が不足しているのみならず、不穏当な表現さえ含まれている内容である。
このまま手を拱いていれば、破綻はできない財政を取り繕うために国民経済がハイパーインフレという経済的災厄に見舞われると思っているが、誤った見通しに基づく政策が実施されれば、それがさらに早まりクラッシュとも言える状況を迎えることになると考えている。
>名目成長率(n)、利子率(r)、歳出(国債利払いを除く)のGDP 比(g)、歳入(新規国
>債発行による収入を除く)のGDP 比(t)、をいずれも一定と仮定して、国債残高(B)の
>GDP (Y)に対する比率の変化(微分)を求めると、以下のような式になる。
>d(B/Y) = (g―t) + (r−n) B/Y
>すなわち、国債残高のGDP 比が拡大していくか、低下していくかは、歳出が歳入を上
>回っている額(プライマリー・バランス赤字)のGDP 比と、金利と成長率の差に依存し
>ている。成長率が利子率を上回っている場合は、プライマリー・バランス赤字の水準
>にもよるが、財政の維持可能性は満たしやすい。しかし、現在の日本のように、利子
>率が成長率を上回っている場合には、少なくともプライマリー・バランスを黒字にし
>ないと財政の破綻は免れない。
一見もっともらしい数式だが、独立変数とは言えない値を独立変数として使っているのは根本的な誤りである。
利子率・歳出・国債残高は他の影響を受けないで自律的に設定できる独立変数だが、名目成長率・歳入・GDPは、数学的に言えば、歳出と国債残高(増減)をも含む様々な変数の関数で決定されるものである。
そうであることは、新規発行国債による借入れ分を含む歳出が変動することでGDPが変動し、GDPが変動すれば、歳入も変動することを考えればわかる。
歳出でGDPが変動しないのなら景気対策として財政支出を増加させること自体が意味がないことであり、昨年の税収が予算を大きく下回るようなこともない。
提示された数式は、財政と国民経済のあいだの動的連関性を無視したものである。
プライマリー・バランスを黒字にするということは(g―t)をマイナスにするということだが、現状はその値がプラスだから、その結果として、名目GDPの成長率がさらに低下し、 (r−n)のプラスを拡大する。そして、tの基である歳入も減少する。
(g―t)をマイナスにするつもりが締めてみたらプラスになり、(r−n)のプラスも拡大したという最悪の結果もありえるのである。
(g―t)だけがマイナスになって (r−n)は不変という都合のいい話は、誤った関数式の世界では成立しても、現実の世界では成立しない。
例えば、5兆円の歳出減が、名目GDPを5兆円だけ減少させるとしても、それによって、所得税や消費税が減収になり、利益に対して課税される法人税に至っては、それまでぎりぎりで黒字を計上していた企業が多いと仮定したら、そのために全体の税が大幅な減収になる可能性がある。
税収が減ったことで、翌年度のgとtの値は同じでも、GDPが縮小し歳入値も縮小するから、定義された歳出値も歳入に合わせてさらに縮小させてマイナスを確保するしかない。
これこそが、需要減少と供給減少による税収減少のスパイラル的進行である。
提示された数式を信じて政策を実施すれば、財政状況を改善できないだけでなく、国民経済を更なる不況に追い込んでいくことになるのである。
>なお、日本の国債は主として居住者に対する債務であり、国債の返済時の資金移動も
>主として国内で行われるから、98 年のロシアや最近のアルゼンチンとは違い、問題が
>ないという議論がある。確かに、日本の外貨準備は潤沢であり、国債返済が主として
>居住者に対して行われるとすれば、外貨が枯渇して国際収支困難に陥るという可能性
>は少ない。
「日本の外貨準備は潤沢」だから国際収支困難に陥らないわけではない、経常収支が黒字基調だから国際収支困難に陥らないのである。
4千億ドルの外貨準備と言っても、GDP規模で日本の2倍の米国の1年間の経常赤字である。経常収支が赤字に転換したら、外国から米ドルが資本流入してこない限り、外貨準備は遠からず不如意の水準に落ち込む。そして、経常収支赤字は円安を進行させるので、経常収支の赤字増加に拍車が掛かる。
>しかし、国債のGDP 比が際限なく上昇していけば、どこかで大増税や歳入の大幅カッ
>トで反転させないかぎり、国債のデフォルトは依然として起こりうる。
せっかく、国債のGDP比という発想をしているのだから、同じ債務残高600兆円でも分母の名目GDPが大きくなればGDP比は下降するという現実も考慮して欲しい。
実質GDPであれば難しいが、名目GDPなのだから、経済合理性に則った政策を実施すれば人為的に制御できるのである。
「どこかで大増税や歳入の大幅カットで反転させ」れば、名目GDP規模が縮小するため、同じ債務残高600兆円でもGDP比は上昇する。
大増税も目論見だけで増収にならなかったり、強引に増収を実現すれば、GDPは輪をかけて縮小することになる。
「国債のデフォルトは依然として起こりうる」と軽軽に書いているが、そんなことは絶対に起こらないと格付け会社に質問書を送ったのも財務省の高官である。
主計官であれば、日本国債の保有主体が銀行や郵便局という金融機関であることは熟知しているはずである。
対外債務のデフォルトであれば罵倒され次からの貸し出しを受けられないということで済むが、預貯金をベースにした対内債務をデフォルトすれば、罵倒や借入れ不能どころではなく日本経済そのものが瓦解することになる。
増税や歳出削減の根拠を示すための脅迫的表現なのかもしれないが、どんな事態になってもデフォルトするつもりなんかない主計官が、軽々しく「国債のデフォルトは依然として起こりうる」となぞ書いてはならない。
日本国が日本国として存続しなければならない限り、中央銀行から商業銀行に0%金利で日本円をじゃぶじゃぶ貸し出させ、「国債サイクル」を維持せざるを得ないのである。
大増税や歳出削減による財政破綻回避政策は、そうなる時期を早めるだけの妄動である。
昨日も書いたが、お声を掛けていただけば、できうる限りの時間を割いて説明するつもりである。