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出典:http://www.mof.go.jp/jouhou/soken/kenkyu/ron027.pdf
財政の維持可能性の問題
日本では、上述のとおり、経常収支赤字、インフレ、クラウディング・アウトという財政赤字に伴うフロー面の問題は重大ではなかったが、国債残高の累増に伴う問題が次第に注目されるようになってきた。第1 は、財政の維持可能性についての懸念である。国債残高のGDP に対する比率が今後一定比率以下に収まる見込みがあれば、財政の維持可能性は基本的には満たされている。しかし、これが今後拡大し、発散するというおそれが出てくれば、それだけで国債のデフォルトの可能性から国債金利のリスク・プレミアムは上昇し、それは直ちに利払いのための歳出増大につながり、いずれ国債価格は暴落して、デフォルトかハイパー・インフレによるショックに見舞われるということになってしまう。
名目成長率(n)、利子率(r)、歳出(国債利払いを除く)のGDP 比(g)、歳入(新規国債発行による収入を除く)のGDP 比(t)、をいずれも一定と仮定して、国債残高(B)のGDP (Y)に対する比率の変化(微分)を求めると、以下のような式になる。
d(B/Y) = (g―t) + (r−n) B/Y
すなわち、国債残高のGDP 比が拡大していくか、低下していくかは、歳出が歳入を上回っている額(プライマリー・バランス赤字)のGDP 比と、金利と成長率の差に依存している。成長率が利子率を上回っている場合は、プライマリー・バランス赤字の水準にもよるが、財政の維持可能性は満たしやすい。しかし、現在の日本のように、利子率が成長率を上回っている場合には、少なくともプライマリー・バランスを黒字にしないと財政の破綻は免れない。
現実の日本の状況に関し一般政府ベースで試算を試みると、おおざっぱにプライマリー・バランスの赤字はGDP の5%程度15、国債金利と名目成長率の差は少なくとも2%程度、国債(債務)のGDP 比率は130%程度と考えると、上記の式に当てはめて、国債のGDP 比率は次年度に向けて7.6%拡大し、国債のGDP 比率が上昇していくに従って、その拡大スピードは更に増していくことになる。すなわち、足元の状況を見ると、財政の維持可能性は満たされていないことになる。
しかし、現実には、財政が破綻するという見通しを市場が抱いて、国債価格が暴落する、あるいは金利が急上昇する、といった事態は生じていない。これは、日本の成長率がいずれはもっと上がる、その際、金利はそんなには上がらない、プライマリー・バランスもいずれは均衡から黒字に向かう、と市場が期待しているからである。ただし、格付け機関の中には、日本の国債の格付けを下げる動きがあり、今後については必ずしも楽観はできない。今後経済が回復した場合、名目成長率の上昇はよい方向であるが、国債発行による資金需要が民間の資金需要と競合し、また、インフレ率の上昇を反映し、金利が上がるとしたら、それは国債のGDP 比を上昇させる要因になってしまう。また、財政赤字の削減が遅れれば遅れるほどその時点での国債のGDP 比は上がるから、上記の式の右辺を見れば分かるように、金利が成長率より高いという前提では、国債のGDP 比を下げる方向に持っていくためにより大きなプライマリー・バランスの黒字が必要となる。
なお、日本の国債は主として居住者に対する債務であり、国債の返済時の資金移動も主として国内で行われるから、98 年のロシアや最近のアルゼンチンとは違い、問題が
ないという議論がある。確かに、日本の外貨準備は潤沢であり、国債返済が主として居住者に対して行われるとすれば、外貨が枯渇して国際収支困難に陥るという可能性は少ない。しかし、国債のGDP 比が際限なく上昇していけば、どこかで大増税や歳入の大幅カットで反転させないかぎり、国債のデフォルトは依然として起こりうる。