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(回答先: 経済学の歴史、信用貨幣論、MMT 投稿者 中川隆 日時 2020 年 12 月 11 日 18:48:52)
2021/2/12
本当はヤバイ MMT・・・誰得の理論で説明してみる
https://green.ap.teacup.com/pekepon/2707.html
■ MMTを簡単に説明してみる ■
MMTの主張はこんな感じでしょうか。
1)お金は政府が国債を発行した時に生まれる
2)お金は政府の債務で、国民の債権
3)政府が国債を発行して作り出したお金は、民間の信用創造で拡大される
4)民間の信用創造も、誰かの債務が誰かの債権
5)民間の金融資産は債権と債務がバランスしているのでプラス・マイナス0
7)純粋にお金を拡大出来るのは政府が国債を発行して作り出すお金(債務)
8)プライマリーバランスをゼロにすると民間の資金が無くなってしまう
9)政府の債務は経済規模に対して小さすぎるから、もっと政府は国債を発行してお金を作るべき
10)お金が増えるとお金の価値が減るが、納税はその国の通貨でしか出来ないのでお金の価値は失われる事は無い
11)お金を発行し過ぎるとインフレが発生するが、その時はお金の発行を減らすか、金利を上げるか、税金を上げれ良い。
12)中央銀行は政府の子会社だから中央銀行が保有する国債は国家の資産でもある
13)自国通貨建ての国債を中央銀行が書いとる限り国債は論理的に無限に発行出来る
14)国債を無限に発行出来るのだから、国債のデフォルトは起こり得ない
とっても無邪気な主張です。
■ MMTと主流派経済学は「供給サイドの経済学」という根幹は同じ ■
MMT支持者は「お金とは債務(借金)から生まれる」と言う事を「新発見」の如く吹聴して、「主流派経済学者はお金が何か分かっていない」と言います。「お金は誰かの債務で誰かの債権なのだから、モノの量と関係が無い」とも主張します。(ここ変ですよね・・・お金の二重性の一方を敢えて無視している感がハンパ無いのに、それこそが新発見だと大声で主張するあたり、相当にネジが緩んでいる)
主流派経済学はオイルショックの後にスタグフレーションの時代に台頭します。この時代、原油価格の上昇でインフレが進行していますが、同時に不況も寸効していました。各国はケインズ経済学に基づいて財政を拡大して景気回復を図りますが、インフレの進行と財政赤字の増大という結果となります。
そこで一部の経済学者達が言い始めたのが「財政では無くマネタリーベースを増やす事で実質金利を下げ経済を活性化させる」という「供給サイドの経済学」です。彼らは「財政の拡大」や「大きな政府」を嫌い、「市場原理」を重視しました。
MMT支持者達が主流派経済学を否定するのは、主流派経済学が財政の拡大を嫌うからです。しかし、主流派経済学はオイルショックの時代の財政拡大を反省に生まれたので、財政拡大を否定する事が彼らのアイデンティティーなので、これは仕方が有りません。
しかし、「財政拡大の是非」を抜きにして眺めると、主流派経済学もMMTも「供給サイドの経済学」としては非常に良く似ています。
1)主流派経済学はお金を市場に供給する事で市場原理で景気をコントロールする
2)MMTは国債を発行して財政を拡大し、国民に直接お金を供給する事で景気をコントロールする
お金の大元は国債発行ですから、一部の主流派経済学者が主張した「リフレ政策」は国債発行抜きにしては成立しません。実際に日銀の異次元緩和は、日銀が大量の国債を市場から買い入れる事で日本の国債発行をサポートしています。
日銀の異次元緩和でも日本で金利上昇が起きないので、一部の主流派経済学者も「日本はもっと財政を拡大した方が良い」と言い出しました。ここに至って主流派経済学者とMMTの差がほとんど無くなってしまった・・・。だって、両者とも「供給サイドの経済学」ですから、市場や民間にお金をバラマク事で景気を刺激するという根幹は同じなのです。
では両者の違いは何か。MMT支持者は「主流派経済学者は金属通貨から抜け出していない。だからお金自体に価値があると思い込んでいる」と主張します。しかし、主流派経済学者は景気刺激の為に「マネタリーベースを拡大しろ」と主張しています。マネタリーベースの拡大の方法は市場から中央銀行が国債を買い入れるか別の金融資産を買い入れる方法が取られます。
ニクソンショック以降、通貨は物質の裏付けを失い、既に紙切れとなっていますが、主流派経済学の台頭で、お金の供給量も肥大化しました。結果的にお金の元となる国債や債券は市場に溢れています。ワザワザ中央銀行が中央銀行法に抵触する国債の直接買い入れを行う必要はありません。
■ 社会主義と親和性の高いMMT ■
主流派経済学とMMTの最大の違いは、お金の供給先です。
主流派経済学は「市場」に、MMTは「国民」に供給します。
リーマンショック後の狂った様な金融緩和(お金のバラマキ)によって国民の生活が豊になったかと言えば答えはNOです。市場に供給されたお金は資産市場に滞留するだけで、庶民の手元には渡っていません。結果、市場にアクセス出来る者のみが恩恵に預かり、庶民の生活はむしろ貧しくなった。
MMT支持者達は「国債を発行して政府が国民にお金を配れば国民は豊になり、経済も成長フェーズに乗る。」と主張します。私もこの考え方にはある程度の共感を覚えます。
しかし、MMT支持者達のパラダイスが実現すると、実は社会主義的な世界が出現するのでは無いかと危惧しています。アメリカでは民主党左派のサンダースを支持する若者達がMMTを支持したのは偶然では有りません。アメリカでは若者の間に社会主義へのシンパシーが年々高まっています。
一方、日本でMMTを最初に支持したのは三橋教信者です(教祖が宣伝したので)。彼らは「財政を拡大しろ」という大きな政府の支持者で、日本では自民党の保守派(旧田中派)に近い考えを持っています。自民党は社会主義に対抗する勢力と考えられていますが、実は戦後の日本は世界でも最も成功した社会主義国家です。官僚が業界を統率して、公共事業を中心に経済を発展させて来ました。自民党の保守派(田舎のオッサン)や三橋教信者は嫌韓嫌中なので、社会主義を嫌っている様に見えますが、実は頭の中はコッテコテの社会主義経済の信望者なのです。(むしろ日本においては統制経済と言った方が良いかも)
■ 社会主義の失敗 ■
MMT的政策が可能となったとして、政治家はベーシックインカムの様な方法を好みません。何故なら自分達の利益が失われてしまうからです。政治家は予算配分でいくら分取れるかが存在意義ですから、拡大した予算は、公共事業や補助金などでバラまかれる。そこに様々な利権が生まれ、誰かが美味しい思いをして、国民はそのオコボレに預かる事になります。それでも雇用が増えるのでこれを支持する国民は多いでしょう。
問題は国家は金の使い方が下手という事。要らない公共事業を増やしても経済は成長しません。有力政治家を多く輩出した島根県は、人工密度が低いのに、河に立派な橋が何本も掛かっています。別にこれで島根県の経済が活性化した訳ではありません。一時、地元の建設業者が潤っただけです。
農水省も土壌改良工事や高規格の広域農道を沢山作るでしょう。田圃の真ん中に飛行機の滑走路の様な立派な道路が走っていて、車はたまに軽トラが走るだけ・・・こんな道が沢山出来ます。(自転車で走るには良いのですが)
こうして、過去、社会主義は政治的な腐敗と、景気の低迷によって失敗に終わりました。MMTを政治主導で実現すると、同じ失敗を繰り返す可能性が高い。
■ 低金利は正義では無い ■
MMT的な財政政策が実現するには国債金利が低い方が良い。異次元緩和を見ても分かる様にゼロ金利が国債発行を容易にします。
一方、市中金利が国債金利に連動して下がってしまうと困った事が発生します。民間の投資意欲を削いでしまうのです。投資に対して得られる金利が低すぎると、投資リスクが高くなるので、金融機関は企業にお金を貸し出せなくなります。実際に現在の日本で銀行が安心して融資出来るのは担保がしっかりした案件だけです。結果、住宅ローンは奪い合いになり、資産が沢山有る大企業には融資出来ますが、ベンチャー企業や町工場などは高い金利を要求されます。
■ 低金利に追い込まれた国家の資産は海外に流出する ■
お金は金利が大好きですから、少しでも金利の高い所へ流れて行きます。
日本では高齢者が資産の大多数を保有していますが、預金や投資信託を通して彼らの資産は金利の高いアメリカなどで運用されます。ゆうちょ銀行が良い例でしょう。
年金の資金も低金利の日本国内での運用が減り、海外での運用が50%になっています。米国債や米国株などに投資されている。
仮に国家が100万円を国民に配ったとして、その資金の多くは資産市場を通して海外に流出してしまうでしょう。
■ 本当は怖いMMT ■
MMTでは経済を、国家、民間、海外に分けて考えます。
海外が存在しなければ、「国家の負債=民間の資産」の等式が成り立ちます。しかし、上に書いた様に海外に資金が流出すると「国家の負債 = 国内の民間の資産 + 海外資産」となります。
海外資産には、民間の保有する海外の債権の他に、政府が保有する米国債なども含まれます。
ここで話を単純化する為に、国債発行によって国民に配られたお金が米国債に投資されたとして考えてみます。
1)日本国債を発行して100万円を国民全員に配る
2)30%が預金や投資を通じて米国債購入に使われる
3)米国がデフォルトを宣言する
4)米国債に投資された日本のお金は消えて無くなる
この場合、「日本の債権=米国の債務」となっていますが、米国がデフォルト(債務不履行)を宣言すると、日本の債権も消えて無くなります。
実際に海外に投資されている日本の資金は、民間の信用創造で作られたお金(マネーサプライ)が多いので、こんな極端な例にはなりませんが、国民の直接給付が始まれば、上記の様なケースも起こり得ます。実際にアメリカではコロナ給付金の一部が株式投資アプリのロビンフットなどを通して市場に流入しています。
実際に投資されるのは、米国債では無く株式や、様々な債権、そして怪しいデリバティブなどですが、大きな金融危機が起きると、株価が暴落したり、債権がデフォルトしたり、デリバティブが破綻したりして「債務不履行」が起ります。飛行機に乗って債権を取りたてに行った所で、ごった煮状態の金融商品の中の取り分なんて玄関の表札1枚程度かも知れません。
さて、どうでしょう。これがバブル崩壊以降、失われた20年で作り出された「税金の吸収システム」です。発達し過ぎた金融市場を持つ経済では、低金利に追い込まれた国が負け組になります。
「お金は消えて無くならない」という方もいらっしゃるでしょう。確かに、最初に市場から逃げたヤツラがしっかり確保しています。
■ MMTを実施するならベーシックインカムで ■
ここまで読んで来て、私がMMT反対者であると思われるでしょう。
しかし、私は少子高齢化が進行した先進国は、いずれはMMT的な政策を取らざるを得ないと思います。現に日本は「異次元緩和」というステルスMMT政策でしか財政を維持出来ません。そして財政で大きな比率を占めるのが年金や医療といった福祉分野です。
日本の様に高齢者だらけになった国では、民間の資金の多くが預金などにトラップされて経済がどんどん疲弊します。結果的に若者の賃金が下がり続ける。
これに歯止めを掛けられるのはベーシックインカムしか思い浮かば無。一部は従来の福祉費用に充てられますが、残りは消費性向の強い若い世代に配分される事で景気を直接刺激する事が出来ます。
■ 問題はインフレ率 ■
問題はベーシックインカムの規模とインフレ率です。
コロナ対策の国民全員に10万円プレゼント程度では、全くインフレ率は動きませんでした。むしろ預金が増えた。
国民一人50万円ならどうだろうが・・・4人世帯で年間200万円。これなら消費も大幅に回復するでしょう。これならインフレも発生するかも知れません。
・・・でも、一度200万円を手にした家庭は、インフレが進行したからと言って翌年、ベーシンクインカムが無くなりましたと言われて我慢出来るだろうか・・・・。たぶん国会議事堂前は抗議の群衆で埋め尽くされるでしょう。
■ 過剰供給力を抱える経済で容易にはインフレは起こらない? ■
「現在の世界や日本は供給力が過剰なのだから、容易にはインフレは起こらない」とMMT支持者達は言いますが、はたして本当か。
マンション価格は上がり過ぎて既に普通のサラリーマンが買える金額では有りません。これは便利な立地が限られるという供給制約が存在するので価格が上昇する。株式市場も既にバブルの域に達しており、これも資産市場のインフレです。
では物価はどうか・・・。これは米中関係や中東情勢の影響が大きい。
コロナ危機の巣ごもり需要でゲーム機のICの需要が高まっており、車載用のICが世界的に足りなくなっています。この様に供給力の制約は意外に日常的に起こっていますが、米中貿易摩擦が激化したりすると、中国製品がボイコットされ、供給が一気に減少する事も起こり得ます。
中東で戦争が起きても、オイルショック時同様に、原油価格の上昇から、全ての物価が上る可能性がある。
現在のインフレ率をして「財政はいくらでも拡大可能」と言い切るのは危険です。仮に上記の様なリスクが現実化して、日本のインフレ率が上昇した場合、国債金利も上昇するので、隠れMMT政策の異次元緩和は継続出来なくなります。
ここから先はいつも書いていますが、あまり嬉しい結末では無い。
https://green.ap.teacup.com/pekepon/2707.html
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