3回で足りるわけない米利上げ。2022年の米国経済は低速成長、日本株は20%超の下落も=藤井まり子 2021年12月22日 https://www.mag2.com/p/money/1140016 12月FOMCの結果は、市場の予想通りであり大きな波乱は起きずに済みました。しかし現在の米国経済のインフレ状況を見てみると、今のFRBの方針では抑えこむことは不可能です。2022年以降、FRBは掌返しで利上げを激しく行う可能性が高くなってきました。2022年以降の世界経済の行方について解説します。(『藤井まり子の資産形成プレミアム・レポート』藤井まり子)
パウエルFRBの「一日天下」 12月14〜15日に行われたFOMCの結果(=中身)と、その影響は15日当日だけの「わずか1日」だったことは、当メルマガ12月14日号で解説した通りになりました。
すなわち、パウエルFRBは、この日のFOMCの金利見通しを、金利先物市場の「のんびりと間違った金利予想」にこれ幸いと便乗して追随、「来年の利上げはおよそ年3回程度」としました。 記者会見も成功しました。議長は上手にしらばっくれて「内心のパニック」を市場に見透かされることはありませんでした。 その結果、内外の株式市場はほっと肩をなで下ろしました。アメリカ時間で12月15日当日は、アメリカ株式市場は「大幅上昇」で反応。翌日16日の日本株式市場もこのアメリカ株式市場に追随して、「爆上げ」で反応しました。 しかしながら、12月15日の「大幅上昇」は、よくよく調べてみるとその内実は「今回のFOMCの失敗」に賭けていた投機筋が、想定外の上昇に踏まれて、「売りポジション」を強制的に解消させられたことから起きていました。やはり、彼ら投機筋は「下げ」に賭けていたのです。 ですから、パウエル議長の「大芝居」が効力を発揮できたのは、踏み上げの起きたわずか1日だけでした。 一部の内外の市場関係者は、翌々日からは、もう一度改めて「FRBの来年の利上げ見通し」について精査を開始し始めた模様です。 12月16日、アメリカドル国債はさらに買い進められて、長期金利は再び1.40%台まで低下。 イールドカーブもフラット化したまま。 近い将来のアメリカ経済に「暗い見通し」を示します。 どちらにしろアメリカ経済はスローダウンする これはローレンス・サマーズ元財務長官の指摘するように、ドル国債の金利市場が、次のことを警戒しはじめたことの現れでしょう。 すなわち、パウエルFRBは、来年3回しか利上げしない。つまり、インフレ退治を放棄して高インフレを放任する。その結果、アメリカ経済は向こう数年間スタグフレーション的な状態に陥って、成長はスローダウンする。 あるいは、FRBのインフレ退治のためのビシバシ利上げで、向こう2年以内にアメリカ経済がスローダウン、もしかしたらリセッション入りするかもしれない。 つまりは、「どっちみち、アメリカ経済はスローダウンする」ことを、市場が警戒していることの現れでしょう。 16日から、内外の株式市場は弱含みに転じて、調整局面入りへ。やはり、年末から年始にかけて、10%調整は巻き起こりそうです。 今年12月の株式市場は、「ドル国債市場の異変」すなわち「ドル国債のイールドカーブのフラット化」「アメリカ経済の近い将来の異変への懸念」に追随して、いつ調整を開始しても不思議では無かったのです。 2022年にFRBは激しい利上げをする 2022年は、FRBが「ビシバシ利上げ」を開始する最初の年です。
ところが、金利先物市場の来年の利上げ予測は、いまだに「のんびりと間違ってる」まま。先物市場は、来年2022年のFRBの利上げを3回くらいしか織り込んでいません。 パウエルFRBも、この「金利先物市場の間違っている、のんびり予測」に便乗して、FRBも12月のFOMCでは「しらばっくれて」います。 しかしながら、FRBがいま現在の「アメリカの7%近い高インフレ」を抑え込みたいならば、FRBが政策金利を中立金利よりもはるかに高いところまで引き上げることが必須です。 今のアメリカの中立金利は、「2.00〜3.00%」と推定されています(分りやすくするために、今後は、その中間を取って「中立金利:2.50%」と記します)。 すなわち、パウエルFRBが高インフレを退治したいならば、FRBは政策金利を「2.50%」よりはるかに高い水準へ、「ビシバシ」引き上げて、加熱気味のアメリカの内需をクールダウンさせて、アメリカ経済をスローダウンさせることが、必須です。 来年2022年のパウエルFRBは、7%近い高インフレを抑え込みたいならば、本当のところは、「1回の引き上げ率が0.25%ならば、1年間で8回をはるかに上回る政策金利の引き上げが必要」なのです。 2022年の米利上げは、年8回以上も必要? ところが、年8回以上の利上げは、ものすごい勢いの利上げです。今のパウエルFRBは「とても厳しい現実」に直面しているのです。 「イールドカーブがフラット化して、長期金利が極度に低いまま」のドル国債の金利市場は、「後手後手に回り過ぎたパウエルFRBがさっさとインフレ退治を諦めて、今後はたいした利上げを行なわないまま、アメリカ経済をスローダウンさせてゆく」ことを織り込んでいるかもしれないのです。 一方、ローレン・サマーズ元財務長官によれば、もしかするとひょっとすると、「今のパウエルFRBさえも、この『厳しい現実』については、ちゃんと理解していない」かもしれないとのことです。 この「厳しい現実」を知った時、パウエルFRBは改めてパニックに陥って、内外の株式市場も震かんすることでしょう。 2022年はジェットコースター相場。どこかで20%の調整も 来年2022年のFRBは、どこかのFOMC会合で「間違っている市場予想」を大きく裏切りながら「今年は年8回の利上げが必要だ」と正直宣言して「タカ派へ急旋回」するかもしれません。この時、内外の株式市場は20%くらいの大幅調整をすることでしょう。 あるいは、来年2022年のFRBは、FOMCの会合が開かれるたびに、「2022年の利上げ見通し」を幾度も幾度も「小幅のタカ派修正」をして、幾度も幾度も「間違っている市場予想」をちょっとずつ驚かせていくかもしれません。 この場合は、内外の株式市場は5〜10%調整を繰り返すでしょう。が、どこかの時点で市場は、「自分たちもFRBも大きく間違っている」ことに気がついて、大幅調整するかもしれません。 いずれにせよ、来年2022年は、FOMCの会合が開かれるたびに、内外の株式市場は「市場予想を大きく上回る利上げ予告」に、動揺して調整することでしょう。 かくして、2022年は株式市場は乱高下が激しくなり、どこかの時点で、20%調整も起こり得るでしょう。 すなわち、来年2022年の内外の株式市場は、おそらく、「毎年株価が弱含む春から秋」(?)にかけて、一時的に20%くらいの大幅下落などなど、乱高下の激しい年になることが今から警戒されています。 それでも、2022年は、アメリカ経済では実質金利はマイナスのままです。S&P500は年間を通じては、まだ5〜6%の運用益は得られるだろと予想されています。 1年を平均してみると、おおむね株式ブームは継続することでしょう。 2022年末の株価目標は、とてもとてもザックリですが(2022年の予測は今までで一番ざっくりした予測です!)S&P500は、5,000〜5,100ポイント。2022年末のS&P500の株価目標については、モルガン・スタンレーなどの弱気派は(12月に入ってからさらに下方修正して)4,400ポイントとしています。ちなみに、モルガン・スタンレーは毎年弱気派です。 ヨーロッパ株式市場:高パフォーマンスが期待できる ヨーロッパ株式市場は、アメリカ株式市場よりも「出遅れ感」が強いです。2022年のヨーロッパ株式市場は、アメリカ株式市場よりも高パーフォーマンスが期待されています。 日本株式市場:アメリカよりもさらに売り込まれる 主体性の無い動きを続ける日本株式市場は、来年もアメリカ株式市場の動きに追随することでしょう。 岸田政権による経済刺激策は、張りボテなだけで「中身はしょぼい」のが実態です。日本経済は、引き続き内需が弱い状態が続きそう。 ですから、日本では2022年においてもたいしたインフレは起きないでしょう。 さらに、2022年の日本経済は引き続き中国経済の影響も強く受けます。が、その中国経済も2022年に入っても不動産バブル崩壊の後始末に手こずったまま、来年は成長が大きくスローダウンすることが見込まれています。 結果、来年アメリカ株が大きく売り込まれたときは、日本株はアメリカ株よりももっと売り込まれることでしょう。来年は、おそらく春から秋にかけて、一時的にせよ日経平均が2万4,000円を大きく割り込むなんて「悪夢」が現実になるかもしれません。裏を返すと、「ビック・チャンス」なのですが…。 2022年末の日経平均は、2万9,500円〜3万0,500円と予想しています。 中国株式市場とその他の新興国株式市場 中国は、来年も「大型不動産バブルの後始末」に追われて成長が大きくスローダウンしそうです。株式市場の大幅な上昇は、あまり期待できません。 中国と関係の深い新興国株式市場もあまり期待はできないでしょう。 ただし、2022年のどこかの時点で、「ドル安」基調が始まって、「ドル安新興国通貨高」トレンドが始まるならば、この限りではありません。 「ドル安トレンド」が始まるならば、中国株式や新興国株式にもチャンスが訪れるかも知れません。 アメリカの高インフレは向こう3年は続く? 繰り返しになりますが、今のアメリカでは7%近い高インフレが猛威をふるっています!
今から記すことは、2022年内はあまり心配しなくても良いかもしれません。心配し始めたほうがよいのは、再来年(2023年)以降でしょう。 この高インフレは向こう3年くらいは続くことでしょう。 来年2022年は、パウエルFRBが「高インフレと戦うために、ビシバシ利上げをする、向こう2〜3年間の『最初の年』」です。 FRBが「大きく後手後手に回っている、回り過ぎている」ために、今の7%近い高インフレは、今後もますます燃えさかっていく可能性が高いです(夏場には、二桁近いインフレが起きても不思議ではないです)。 さて、繰り返しになりますが、この高インフレを抑え込むためには、「中立金利:2.5%」よりもはるかに高い政策金利が必須になります。 パウエルFRBが「来年1年間で0.25%の政策金利の引き上げを8回行なった」としても、「来年末の政策金利は2.00%」です。まだ「中立金利:2.50%」には及びません。「政策金利:2.00%」では、まだ高インフレを抑え込むことはできないのです。すなわち、この「2.00%」水準では、来年末になっても、7%近い高インフレは加速することはあっても、沈静化したり、下火にはなっていないのです。 さらに、「金融引き締めによるインフレ退治」には、半年か1年のタイムラグが必要です。大変驚くべきことかもしれませんが、アメリカの政策金利が2.50%よりも遙かに高くなった時点から、さらに半年から1年の時間が経過しないと、高インフレは沈静化し始めないのです。 すなわち、来年2022年は無理だとしても、再来年の2023年のどこかに時点で、FRBの政策金利が「中立金利2.50%」よりはるかに高くなるかもしれません。そして2023年に、やっとこさ、はるかに高くなったとしても、7%近い高インフレは2023年末になっても燃えさかっているはず。FRBがここまでバカスカがんばっても、アメリカで高インフレが止まるのは、2024年に入ってから。これが、パウエルFRBが後手後手に回ってしまった結果の「厳しい現実」なのです。 かくして、パウエルFRBがどんなにうまくやっても、現在進行形の高インフレは2024年に入って「やっと静まり始める」程度でしょう。 パウエルFRBの「高インフレとの戦い」、言い換えると、「ビシバシ利上げを続ける年」は、少なくとも「向こう2〜3年間は続く」のです。 3年間の「高インフレ」がアメリカ経済に及ぼす影響 7%を軽く上回るようなインフレが向こう2〜3年間は続くと、アメリカ経済はどうなるのか? 2022年から2023年のどこかの時点で、インフレが二桁に近づいたりすると、パウエルFRBがますますパニックに陥りやすくなります。パウエルFRBがパニックに陥って利上げをし過ぎて、アメリカ経済が大きくスローダウン、リセッション入りしてしまう可能性は、かくして生まれるわけです。確率としては30%〜40%。 反対に、パウエルFRBが中央銀行としての責任を放棄する可能性もあります。パニックに陥り過ぎて、無気力になったFRBは、何もしなくなる可能性があるのです。すなわち、驚きべきことに、FRBはビシバシ利上げなどは行なわずに、高インフレを放置する可能性が今から指摘されているのです。 来年2022年の利上げでは、パウエルFRBは「市場予測通りの年3回の利上げ」だけに留めて、インフレ退治を最初から諦めてしまう可能性があるのです。 結果、アメリカ経済は向こう数年間は「スタグフレーション的」な状態に陥って、やはり経済成長は大きくスローダウンしてしまうことでしょう。最終的には、アメリカは数年後あたり(?)にアメリカ経済は正真正銘のスタグフレーション(不況の中の物価高)に陥ってしまうことでしょう。確率としては、33%くらいと読んでいます。 かくして、アメリカ経済が無事にソフトランディングする確率は20〜25%くらいに低下しています。
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