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Re: 65歳雇用義務化についてのまとめ
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/496.html
投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 09 日 02:29:34: .WIEmPirTezGQ
 

(回答先: 65歳雇用義務化についてのまとめ 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 09 日 02:27:43)

65歳雇用義務化についてのまとめ --- 城 繁幸
アゴラ 4月8日(月)11時6分配信
なぜか65歳雇用義務化についての取材が多いので、以下に論点をまとめておこう。一々同じこと話すのはめんどくさいので、これ読んでまとめちゃってください(話聞きに来る場合でも最低限読んでおいて下さい)。


・65歳までの雇用が義務化される影響は何がありますか?

企業の人件費原資は一定なので、5年分の雇用が増えた分を誰かの人件費を削ることで対応しないといけません。2011年経団連調査によると、38.4%の企業が新卒採用の削減で対応。また、派遣社員や契約社員といった正社員以外を雇い止めし、高齢者に置き換えることで対応する企業も多いです。

それから、全体的にこれから企業に入ろうとする人も採用されにくくなります。たとえば新卒学生の場合、従来は「こいつは60歳まで雇う価値があるか」を人事が判断していましたが、これからは「こいつは65歳まで〜」となるわけで、それだけの価値のある人間だけが雇われることになります。

そして、人材がロックされることで、企業活動も制約されます。今、政府の有識者会議で、人材の移動を活発化させ経済の新陳代謝を促進することが議論されていますが、新陳代謝どころか麻痺させるようなもんです。

要するに、世代間、男女間、雇用形態、能力といったすべての面で格差を拡大させる政策といえます。ILO、OECD勧告に真っ向から歯向かう政策です。

・でも「高齢者のやる仕事と若者のやる仕事はかぶらない」という意見もありますが

仕事はかぶらないけど、人件費は同じ財布から出ているので、誰かを雇えば誰かを切るしかないです。「パパのお小遣いと子供の塾の費用は全然関係ないじゃないか」というロジックは恐らくママには通じまい。

・新卒求人倍率は1.27なんだから若者は贅沢言わなきゃ就職口はあるんじゃないですか?

じゃ高齢者も贅沢言わずに自分で再就職活動すればいいんじゃないですかね。

・日本は人口減少が続くので、これからは65歳まで働ける社会をつくるべきでは?

65歳まで働ける社会と、特定の人間だけ65歳まで雇わせる社会はまったく別物ですね。

ついでに言うと、労働力不足対策としては「女性や高齢者も働きやすい流動的な労働市場を作ること」であって、一律で正社員65歳雇用義務化なんてやったら(現状では女性と若者ががはじき出されるわけだから)いっそう少子化が進んで逆効果でしょう。

・65歳雇用義務化に賛成の論者が見当たらないのでどなたか推薦してください。

いないんだったら別に取り上げなくていいんじゃないですかね。これだけ無料メディアが発達している昨今、うちは両論併記で中身には一切コミットしないというスタンスだと商売上がったりになるんじゃないですかね。

まああえて言えば、厚生労働省OBか慶應義塾長がおススメです。他に本件に賛成する識者はまずいないはず。

・じゃ、なんでそんなむちゃくちゃな法改正が通ったんですか?

年金財政が破たん寸前→ 〇支給開始年齢の引き上げ → 〇企業は65歳まで雇え
                 ×年金支給額カット         ×高齢者は自分で職探せ
                 ×増税or保険料引き上げ    

要はシルバー民主主義。

・なぜ急に複数の政府の有識者会議で解雇規制の緩和が取り上げられ始めたんでしょうか?

それくらい、希望者全員65歳まで雇わせる法律は常軌を逸したものだから。さすがに委員の皆さんも危機感抱いたんでしょう。

・この人はどう思いますか?

ただのバカですね。

編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe's Labo」2013年4月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe's Laboをご覧ください。

城 繁幸
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最終更新:4月8日(月)11時6分


 


◆若者の職を奪うのか
改正高年齢者雇用安定法の施行と若年失業(櫨浩一/出典:ニッセイ基礎研究所) 高年齢者の雇用を促進しようとしたのは、現役世代の負担を軽減しようという意図であったのだが、残念ながら現実には高年齢者が若者の職を奪うという形で現役世代の負担となってしまっている。若年層の失業は、オンザジョブトレーニングで職業能力を高めていく機会を失うことも意味している。
65歳定年制が若者の雇用を食い潰す(財部誠一/出典:日経BPネット) 「新入社員を採用できなくなる」。そんな事態を避けようとすれば30代、40代の中堅社員の賃下げによって総人件費をコントロールする他ない。
65歳までの継続雇用義務化 若年労働者の雇用機会は奪われるのか?(福島淑彦/出典:読売新聞) 1980年代から90年代初めにかけてヨーロッパ諸国で、若者の雇用機会を増加させるために積極的に高齢者を早期に退職させる政策(早期退職政策)が行われたが、若年労働者の雇用機会を増加させなかった。また、多くの日本企業では長期的な視点で若年労働者の育成を行ってきており、今後もその方向性は変わらない。
65歳まで雇用が本当に若年雇用を奪うのか(山崎俊輔/出典:All About) 労働者人口は放っておいてもどんどん減る分、若者の雇用の機会は増えます。結論とすれば、若者の仕事の問題を、高齢者の働き口とリンクさせて議論するから論点がずれてミスリードを誘っています。


◇65歳雇用義務化とは
・ 60代も働く社会に 65歳まで企業に雇用義務 - 厚生年金の支給開始年齢引き上げのスケジュール図解も。東京新聞(4月1日)
・ 「65歳まで全員雇用」で企業、個人はどうなる - 東洋経済オンライン (1月21日)
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/economy/employment/?1365414731  

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コメント
 
01. 2013年4月09日 02:32:24 : W18zBTaIM6
日本から中国人を追い出せば済む話さ

02. 2013年4月09日 11:04:01 : xEBOc6ttRg
>厚生労働省OBか慶應義塾長がおススメ

http://www.jeed.or.jp/data/elderly/elder/download/2013-04_05.pdf
高齢者雇用の必要性
回答者  慶應義塾大学商学部教授 樋口美雄

Q
法律が改正されて、企業では希望者全員を65歳まで雇用しなければならなくなったと聞きました。業種によっては、高齢者の活躍の場があまりないような企業もあると思うのですが、どうして企業は高齢者を雇用しなければならないのでしょうか。

A
ご質問のとおり、昨年、高年齢者雇用安定法が改正されて、この4月1日から企業は希望者全員を原則として65歳まで雇用しなければならなくなりました。
 ここで今回の改正にいたるまでの日本の高齢者雇用の状況を確認しておきましょう。高年齢者雇用安定法によって企業に義務づけられていた、65歳までの雇用確保措置の内訳を見ますと、定年制を維持しながら継続雇用制度を導入している企業が全体の82・6%、定年年齢を引き上げた企業は14・6%、定年を廃止した企業が2・8%となっています(図表1)。
 また、この調査のなかで、今回の法律の改正の柱となった「希望者全員が雇用延長の対象となっている」企業は、調査企業全体の
43・2%でした。これに対して、雇用の延長にあたって何らかの基準を設けている企業が56・8%でこのなかで301人以上規模と比較的規模の大きな企業では78・4%と基準を設けている企業が多くなっていることがわかります。
 労使協定の締結を前提に認められているこの基準を設けられる仕組みを廃止するというのが今回の法改正の趣旨のひとつです。希望者全員65歳まで働ける企業が、この調査にあるように合計しても半分未満という状況が続いているため、基準を設けることを禁止して、さらに高齢者雇用を進めようということが法改正の趣旨だといえるでしょう。

日本の少子高齢化の現状 ではなぜ日本では高齢者の雇用を進める必要があるのでしょうか。

 みなさんは、「日本の将来推計人口」(図表2)をご覧になったことがあるでしょうか。この推計は、前回の国勢調査に基づき発表されたものですが、ここから日本社会はいかに高齢化が進んでいくかを読み解くことができます。
 まずは平均寿命です。男性は79・64歳ですが、2060年には84・19歳になる見込みです。一方、女性ですが、86・39歳が2060年には90・93歳になる見込みです。
 この平均寿命と合計特殊出生率(1・35)が明らかになると、将来の人口を推計することができます。これによると、現在の総人口、およそ1億2800万人が、2060年には9000万人を割り込むと予想されています。つまり、約50年後には人口が4100万人も減少するのです。
 人口とともに考える必要があるのが、人口の年齢構成です。年少人口(0?14歳)は1684万人から50年後には791万人となり、約900万人減少すると推計されています。率にして50%減です。

これに対して、65歳以上の老年人口は2948万人から3464万人へ、500万人以上増える見込みです。減少した年少人口と増加した老年人口がほぼ相殺するかたちとなりますから、総人口4100万人の減少は、主として生産年齢人口(15?64歳)の減少がもたらすであろうことがわかります。生産年齢人口の減少は率にして約50%。生産年齢人口2・77人で老年人口1人を支えている社会が、2060年には、1・28人で1人の高齢者を支えることになります。
ただ、生産年齢人口には学生や専業主婦も含まれますから、実質的には0・8?0・9人で高齢者1人を支えるのが将来の日本の姿なのです。
 このように、少子高齢化が進み若年者が減少していきますから、労働力人口が将来的に減少せざるを得ない状況です。ですから、意欲と能力を持った人が年齢に関わらず働けるような社会にしていくことが必要です。これが、高齢者雇用を進める大きな理由なのです。

高齢化社会は人類の長年の夢

 私はある国際シンポジウムで日本の高齢化の現状を紹介したことがあります。この発表を聞いたドイツの大臣から、「これは本当に政府が出した数字なのか。もし本当ならば、政府はこのような状況で、どのようにして持続可能な社会を構築しようとしているのか」と指摘されたことがありました。
 私はその大臣に対して、「日本は健康長寿を実現しつつある社会です。若い人が多い時代につくられた制度を改革していく必要はありますし、その過程でいろいろな摩擦はありますが、改革の方向性が見えている以上、それに向かって各種の制度を変えていくようにしています」と答えました。
 日本は健康で長生きしたいという、人類の長年の夢が実現しつつある社会ですから、世界の主要国を先取りするかたちで高齢社会のお手本を示す必要があります。そのために私たちがまずやらなければならないことは、若いころから働いてきて、年を重ねても意欲と能力のある人たちが、年齢にとらわれることなく働けるようにすることではないかと思います。前に紹介したとおり、企業にとっても、将来的に労働力人口が減ってくると、人材確保の必要性が高まると考えられます。若者の就職難が問題となっていますが、長い眼で見ると日本には人材不足の時代が来ることが予想されるのです。
 一方、働く人にとっても公的年金の支給開始年齢の引上げとともに、多くの企業が定年年齢としている60歳でリタイアしてしまえば、年金が支給開始されるまでの間に無収入の期間が生じてしまいます。十分な貯蓄があるという人にとってはそれでもいいかもしれませんが、収入がない時期はやはり不安定な生活になりますから、定年後も何らかの形で働き続けたいという人が増えてくることは間違いないと思います。
本人の希望に応じて働くことができるような仕組みが求められるようになるでしょう。
 これからは、人数的にも多くの人が働ける社会が大切ですし、質的にも高度な人材が生涯にわたって働くことができることが必要なのです。その中で、年齢にとらわれずに目指していくべきだろうと思います。
 今回の法律の改正は、希望者全員が65歳まで働けるようにするにはどうすればよいのかを考えるきっかけになるのではないかと、私は思います。これは企業にとっての課題であるばかりではなく、働く人にとっても、真剣に考えなければならないです。例えば、国が雇いなさいといっているから雇っている、というのであれば、高齢者のプライドを保つこともできませんし、モチベーションも上がらないでしょう。今回の
法改正が、国民を幸福にするための法改正だったと評価してもらえるようにしたいものだと思います。


Q
大学生が就職に苦労しているというニュースを目にすることがあり、かなり深刻な状況であるように感じます。こうしたニュースを見ると、これ以上高齢者雇用を進めると、若者の就職の機会をさらに奪うのではないかと心配しています。高齢者雇用を進めても、問題はないでしょうか。

A
日本の経済が低迷しているなかで、高齢者雇用を進めましょうというと、必ず出てくる質問が、「それでは、若者の雇用はどうするのか」という話です。国全体の経済のパイが縮小している状況では、高齢者であるか、若者であるかに限らず、企業が働く人の数を減らす局面が出てくることは間違いありません。
高齢者と若者が仕事を奪い合うということも考えられます。こうした議論を回避するための重要な課題は、経済のパイをいかに拡大し、雇用の機会を増やさなければならないということになるでしょう。

 一方、企業が若者に期待している役割と高齢者に期待している役割には、違いがあるでしょうから、片方が増えれば片方が減るといった「代替関係」にあるのではなく、「補完的な関係」にあるのではないかというのが私の見方です。
高齢者が長年かけて身につけた技術や技能を、若者に対して継承する姿を想像していただければ、ご理解いただけるのではないでしょうか。
 さらに企業が若者に期待しているのは、すぐに企業を背負っていく人材というよりも、将来、企業を背負う人材であり、どちらかといえば能力開発の機会をつくりながら、一人前になっていく人材として期待しているのではないかと思います。とりわけ正社員として採用した若者に対する企業の期待はそのようなところにあり、将来の人材として、むしろ長期的な視点でみていく人材ではないかと思います。これに対して高齢者は、身につけた能力を発揮して、即戦力とした活躍する人材として期待されているのではないかと思います。また、若者が活躍するのは主として第三次産業であり、高齢者が活躍する業種や業態とは異なります。そうであれば、高齢者と若者が仕事を奪い合うことはそもそもありません。
 このように、高齢者の雇用を進めると若者の雇用を奪うことにはならないということを、理解していただけるのではないかと思います。

海外との比較で見えるもの

 日本において60代前半で働いている人の比率の推移を見てみましょう(図表3)。
 年金(定額部分)の支給開始年齢が引き上げられたこともあり、実際に働いている人はこれだけ増えました。2002(平成14)年の64%が谷で、それ以前は自営業の人たち、例えば農業などで60代で働いている人たちがかなりいました。その人たちが仕事を辞めることで比率は下がりましたが、2002年を谷にその後は上がっています。
 ただし、2008年から2010年にかけ、わずかですが72・5%から70・6%に下がっています。
2008年はリーマンショックの年です。景気が急激に悪化したことで企業の採用意欲が低下して、さまざまな措置をとりながらも、実際に働いている人の比率は下がってしまったのです。これからは、この比率をいかに高めていくかが重要になると思います。
 実はここに重要なポイントがあります。60代前半の80%近くが働いている国など、先進国ではどこにもありません。例えばフランスでは20%しか働いていません。
8割の人は引退してしまうのです。またドイツでも50%しか働いていません。約半数の人は引退してしまいます。これに比べて日本人は、
特に男性で就業率が高いのは、高齢者の働く意欲が高いことを意味しています。
 日本、米国、英国、フランス、ドイツ、韓国における、60代前半の男性で、就業している人の割合を見てください(図表4)。
 日本は、60代前半の約8割の人が就業していることがわかります。一方、1990年代以降のフランスは2割程度で推移し、多くの人が50代後半になると引退してしまう社会であることがわかります。
 なぜフランスで働く高齢者の割合が大きく減少したかといいますと、高齢者に早めに引退してもらって、雇用の機会を若い人に譲ってもらうという政策があったからです。
50代後半に引退する人には、年金を支給しようという施策を実施したのです。このような早期引退をよしとする風潮は、フランス以外のEU諸国にも広がりました。しかし、こうした政策によって早期に引退する人は増えましたが、若者の雇用は増えず、ただ働く人が減ることで終わってしまったのです。
 こうした政策に関して、いまでは各国とも大きく反省していて、むしろ日本を見習い、高齢者が活躍できるようにしようではないかと、1
990年代に入って「アクティブ・エイジング」に政策を転換しました。その結果、フランスでも、ドイツでも高齢者が働ける環境を整えよう
という傾向に徐々に変わってきています。

2013年 主な上場企業 希望・早期退職者募集状況調査(4月5日現在)〜募集実施企業...−13-04-09
<1>高齢者雇用の必要性:高齢者雇用入門−13-04-09
<2>高齢者の賃金と処遇:高齢者雇用入門−13-04-09
<3>高齢者が働きやすい職場:高齢者雇用入門−13-04-09
<4>高齢期まで働くための体力と健康:高齢者雇用入門−13-04-09
<5>高齢者雇用と能力開発:高齢者雇用入門−13-04-09
継続雇用者から見た高齢者雇用 第5回 ダイキン工業株式会社 総務部シニアスキルスペシ...−13-04-09
改正高年齢者雇用安定法Q&A 第1回 就業規則の変更−13-04-09
海外の高齢者雇用 新たな展開−13-04-09
http://www3.keizaireport.com/report.php/RID/182085/


65歳までの継続雇用義務化

若年労働者の雇用機会は奪われるのか?

福島 淑彦/早稲田大学政治経済学術院教授

 2012年8月に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、「高年齢者雇用安定法」と記す)が改正され、2013年4月1日から施行されることとなった。この改正により、企業は60歳の定年後も雇用の継続を希望する労働者のすべてに対して、65歳まで雇用を維持・継続することが義務付けられた。この改正の背景には、2013年4月から厚生年金の支給給開始年齢が65歳へと段階的に引き上げられることがある。つまり、2013年4月以降には、60歳定年から年金支給開始の65歳までの期間で無収入となる期間が存在する高齢者が発生してしまう可能性がある。60歳定年後の無収入期間を解消するために、雇用主に年金支給開始年齢の65歳まで高齢者の雇用を維持・継続することを義務付けたのである。本稿では、65歳までの雇用の義務化が労働市場にどのような影響を及ぼすのかについて論じてみたい。

高年齢労働者の雇用延長と若年労働者の雇用機会

 総務省統計局「労働力調査」によると、20歳〜24歳人口は1995年をピークに減少し続けているのに対して、55歳〜59歳人口は1968年以降、増加し続けている。また、2000年には初めて55歳〜59歳人口が20歳〜24歳人口を上回った。つまり、2000年以降は、55歳〜59歳人口の方が20歳〜24歳人口よりも多く、その差は年々拡がっている。また、2000年以降の失業率に関しては、15歳〜19歳の完全失業率が9%から12%、20歳〜24歳の失業率が8%から9%で推移しているのに対して、55歳〜59歳の完全失業率は3%から4%で推移している。このことは、60歳定年前の世代の方が、学校を卒業して新規に労働市場に参入する若年世代よりも労働市場の雇用環境(就労環境)が良好であることを示している。このような状況下で、高年齢労働者の雇用が延長されるとますます若年労働者の雇用機会が奪われるのではないかという議論がある。

 では逆に、高年齢労働者を早く退職させれば、それだけ若者の雇用機会が増えるのであろうか。実際に1980年代から90年代初めにかけてヨーロッパ諸国で、若者の雇用機会を増加させるために積極的に高齢者を早期に退職させる政策(早期退職政策)が行われた。年金支給開始年齢前に高年齢労働者を退職させ、若年労働者に雇用機会を提供しようとしたのである。しかし、この早期退職政策は各国政府が予想していたほどには、若年労働者の雇用機会を増加させなかった。その理由として以下の2つがある。第1の理由として、高年齢労働者と若年労働者が代替可能(交換可能)な労働者ではなかったということがある。つまり、退職した高年齢労働者の仕事を若年労働者で穴埋めするためには、高年齢労働者と若年労働者のスキルが同一であり、両者が即座に交換可能な労働資源である必要がある。しかし、長年の就労経験がある労働者と、これから働き始める或いは働き始めたばかりの労働者が同一のスキルを有し、同等の労働生産性を発揮することはまずない。実際、多くの実証研究で、高年齢労働者と若年労働者が代替可能な生産要素ではなく、むしろ補完的な生産要素であるということ、言い換えると、高年齢労働者と若年労働者がセットで付加価値を生み出している、ということが示されている。第2の理由として、早期退職政策が年金を含む社会福祉関連費用を増加させ、その結果として雇主側が負担する社会保険料が増えてしまったことがある。つまり、既存の従業員に対する賃金以外の費用(企業負担の社会保険料)が大幅に増加したため、退職者数と同程度の労働者を新たに雇い入れることができなかったのである。早期退職政策は、社会福祉関連費用は増加させ、その費用を負担する労働者数を減少させてしまったのである。このヨーロッパの経験からいえることは、高年齢労働者の延長雇用は、必ずしも若年労働者の雇用機会を奪うものではないということである。

 このことに加えて、バブル崩壊後の不況期においても日本企業の新卒有効求人倍率は概ね1以上であったことが示すように、新卒者に対する労働需要は大きい。また、多くの日本企業では長期的な視点で若年労働者の育成を行ってきており、今後もその方向性は変わらない。このような状況を踏まえると、高年齢労働者の延長雇用が若年労働者数の減少をもたらすとは考えにくい。

高年齢労働者の雇用延長はどのような影響を及ぼすのか?

 高年齢労働者の延長雇用は、若年労働者の雇用機会の減少ではなく労働者全体の賃金水準の低下を引き起こすであろう。今回の高齢者の雇用延長に際して労働者は60歳で一旦退職し、その後、新たに雇用契約を結ぶ。多くの場合、再契約時の賃金は60歳定年時の水準から大幅に減額される。しかし60歳以上の労働者の賃金が大幅に減額されたとしても、高年齢労働者の雇用延長は雇用主にとっては総労働コストの増加を意味する。筆者がいくつかの企業の人事担当者から聞いた話では、高齢者の雇用延長に伴う総労働コストの増加は、60歳未満の労働者の賃金で調整するとのことであった。つまり、企業は若年労働者の雇用を減少させて総労働コストの調整を行うのではなく、60歳未満の労働者の賃金を減少させることによって総労働コストの上昇を抑えようとしているのである。

 少子化で今後、人口及び労働人口が減少していくことを考えると、労働力確保の観点からは高年齢労働者の雇用延長は望ましいことである。また、高齢化に伴う社会福祉関連費用が増加していくことを考えると、その増加する費用の一部を労働という形で高齢者が負担することはその他世代の費用負担増を軽減させることを意味する。今回の高年齢労働者の雇用延長の義務化は、短期的には60歳未満の労働者の所得を減少させるというマイナスの影響を及ぼすであろうが、長期的には社会全体にとってプラスの効果があるのでなないだろうか。

福島 淑彦(ふくしま・よしひこ)/早稲田大学政治経済学術院教授

【略歴】
早稲田大学政治経済学術院、公共経営研究科教授。1988年慶應義塾大学経済学部卒業。1990年同大学大学院経済学研究科前期博士課程修了(経済学修士)。同年、ソロモンブラザーズアジア証券会社に入社し、東京・ニューヨーク・ロンドンで勤務。2003年スウェーデン王立ストックホルム大学経済学研究科博士課程修了(Ph.D)。名古屋商科大学教授を経て2007年より現職。


 


65歳まで雇用が本当に若年雇用を奪うのか

2013年問題に備え、65歳まで雇用を義務づける法律改正が行われます。若者の仕事を奪うと批判も多いのですが本当でしょうか。実は意外な「敵」がいたりします。

執筆者:山崎 俊輔
更新日:2012年08月31日


65歳まで雇用義務化と大卒ニート3万人の関係?

2013年問題が間近に迫っています。これは、60歳到達者が完全に無年金になり、61〜65歳まで順次年金受取開始年齢が引き上げられていく問題です。60歳代前半が完全に無収入になると貯金等の取り崩しを余儀なくされますから、長い老後の最初の5年で一気に財産を使い切ることが心配されます。(→ 「2013年問題は会社内世代間闘争になる?(2012/7/31)」も参考にどうぞ)

すでに65歳までの雇用を図るべく実施されている高年齢者雇用安定法は、定年延長や継続雇用の実施を義務づけていますが、会社が労使協定により継続雇用の対象者を決めるのが一般的です。管理職は除外したり、運営上は希望者全員とはなっていない会社が多いようです。

今回、原則全員を年金受給開始年齢まで継続して雇用することを義務づけ(強化)する法案が議論され、8月29日に成立しました。これにより、60歳を迎える人の「無収入」問題に改善が期待されます。一方で、2012年春の大卒者の6%、3.3万人が仕事が見つからずニート化しているというニュースもあります(文部科学省、学校基本調査速報)。卒業までに就職がみつからず今も求職している人の割合も含めると、15.5%にものぼるとされています。
若い人に働くチャンスが与えられないことは、個人的にも社会的にも大きな問題です。

こうしたニュースを見ると、高齢者の雇用を守るほど、若者の仕事が奪われるという構図で議論されることになります。お年寄りが職場の席を譲らないため、若者の働くポストがない、というわけです。これは本当でしょうか? 少し考えてみます。

60歳代の雇用は給料泥棒ではない〜新卒以下の場合も

高齢者雇用の批判でよくみかけるのが、「給料泥棒が居座る」というような論調です。年収600万円以上のお年寄り社員が3人、5年長く会社にいたら、年間1800万円、5年で9000万円必要です(実際には会社負担の社会保険料等で1億を超える)。同じお金があれば年収400万円の新卒を4.5人雇えます。高給取りがいつまでも席を譲らないことで若い人の採用が進まないというわけです。

しかし、高齢者雇用の実態はそうではありません。継続雇用はいったん退職して会社と再契約しますので、賃金もゼロベースで見直すのが一般的です。統計的には30〜40%ほどダウンするのが一般的で、現実的には月収20万円程度(あるいはそれ以下)というのも珍しくありません。労働日数を抑えることでさらなる賃下げにすることもあります。週5日働いていた現役時代と比べ、3割下がった賃金計算で、かつ週3日とすれば実際に払う賃金は半分以下、ということもあります。

今回の継続雇用強化についても、「60歳代の社員に高い年収を維持させる」と考えている会社はほとんどありません。企業サイドでよく議論されているのは「生涯賃金は変わらない」というアプローチで、50歳代の賃下げを行い、その分を継続雇用期間の年収に回すことが検討されています。今までより長い年数働くわけですから、時給換算すれば、実質的賃下げです。

つまり、「たくさん給料をもらっている高齢者が、若者の邪魔をする」というのはちょっと不正確と考えたほうがいいでしょう。しかし、「年収ベースではあまり変わらないとしても、高齢者のポストが若者のポストを邪魔しているのではないか」という疑問は残ります。こちらはどうでしょうか?

→「働き手」の数は大きく減るから若者は大丈夫?次ページへ

労働者人口は放っておいてもどんどん減る分、若者の機会は増える

15〜65歳未満の人口を「現役世代」と考えてみると、実はすでにその頭数は大きく減っています。1995年に8716万人いた現役世代の数は、今や8017万人程度とみられています。さらに現役世代の人口数は大きく減っていきます。2020年7340万人、2030年6773万人、2040年には5786万人という勢いです。この差は少子化と団塊世代の65歳到達によって生じるものです。

長い目(といっても5年先でも十分に影響あり)でみれば、若者の仕事がない、という問題は今以上に深刻化することは考えにくいのが日本の人口の状態です。(むしろ、もっと働き手を増やさないと日本のシステムが成り立たないかも、という議論がされている)一方、仕事をして所得を得ている人(就業者数)をみてみますと1995年の6414万人が、現在は6300万人を割っているくらいに減ったものとみられます。しかし、現役世代の頭数の減り具合に比べるとそれほど減ってはいません。

「働く人口は大きく減り」「実際に働く人はそれほど減っていない」とすれば、60代が「働く席」を奪って、若い人の「働く席」がない、というのはあまり正確ではありません。(今回は略しますが「今まで働いていなかった現役世代が働く」という、同じ世代間での席の奪い合いも生じています)

もし奪われている席を明確にするとすれば「正社員の席」であり、非正規の働く人が増えているということです。近年正社員の席が減少するのと同じくらい、非正規の仕事の席が増えているからです。その数は数百万人にもなります(2003年から2010年で、非正規+250万人、正社員−90万人という統計あり)。つまり、「60歳代の正社員が1人辞めたら、新人の正社員を1人雇う」というシンプルな状況にもはやなっていないのです。

若者の働き口の問題と、60歳代前半の働き口問題を冷静に考える

結論とすれば、若者の仕事の問題を、高齢者の働き口とリンクさせて議論するから論点がずれてミスリードを誘っています。残念ながらそれは一対にならないからです。若者の仕事の問題は、「非正規採用を正社員と原則として同等に取り扱うこと」「新卒採用のみに依存する求人を廃止すること」のほうで議論したほうが実は有意義です。

まず、非正規雇用というアプローチは、会社に採用をしやすくする反面、賃金格差や社会保障の格差を生みます。特に社会保障の適用の差を設けることは致命的問題で、会社を楽させたツケが個人の老後に帰着する(年金が減る/なくなる)関係を付くってしまいます。同等の仕事をしていても非正規は安い賃金、というのも問題です(差を生じさせるのなら労働時間や仕事の責任によってのみ差をつけるべきです)。

現在、非正規社員の一部に厚生年金等を適用する条件緩和がありますが、そうではなく「勤労者はみんな、厚生年金と社会保険を適用する」というルールに統一したほうが問題はすっきりするでしょう。非正規は社会保険を適用しなくていい、という考え方がそもそも間違いの始まりだったからです。

また、新卒採用のみに求人を特化させたことで「たまたま就職年度に世の中の景気が悪かった新卒学生」が何十年も割を食う、という問題が生じています。これも若者に景気悪化のしわ寄せを押しつける悪習だと思います。自分も就職氷河期最初の世代なので、こんな不公平はないと思っています(バブル世代なんか、新卒数は団塊ジュニアより少ないのに求人が多かったのですから、こんなに不公平な話はありません!)。

現在、3年以内既卒者を新卒扱いするような取り組みが行われていますが会社の努力義務にとどまります。求人に「新卒を対象」は不可、とするべきです。この2点のみ解決すれば問題が霧消するほど簡単な話ではありませんが、それでもずいぶん世の中は改善するのではないでしょうか。

■   ■

高齢者雇用から議論が若年雇用(というか採用)に話題が転じてしまいました。しかし、もっともらしい議論ほどその論拠や接続部分に疑いをもってみるといいと思います。アジテーターの技術は、もっともらしいところを巧みにつないで感情に訴えかけ、世論を喚起するところにありますが、読者サイドもそれを読み取る技術が必要です。

実は65歳雇用は、彼らに年金を受け取らず65歳まで暮らしてもらうことで、若年層の負担を軽減する効果もあります。単なる世代間不公平の問題でもないのです。

JPモルガンが15億円払う人脈と交渉力−稼ぎまくるブレア氏

  4月5日(ブルームバーグ):2月半ばの雪の朝、トニー・ブレア元英首相はロンドンのメイフェア地区にある事務所でコーヒーを飲んでいる。週5回の体力トレーニングで体型は以前より引き締まっている。首相を辞めてから約6年、今ではここがダウニング街10番地に代わるブレア帝国の中心だ。「50代の初めで首相の座を降りたら、その後何をしたらいいだろう。ゴルフでもするのか。そう考えるとぞっとした」と同氏は話した。ブルームバーグ・マーケッツ誌5月号が報じている。
5月6日で60歳になる元首相は自身を、世界をまたにかけたディールメーカー、アドバイザー、慈善活動家に作り替えた。今は世界の20カ国以上で活動する企業・慈善団体ネットワークに君臨している。
ブレア氏と同氏のネットワークに入っている8社は2007年以来、少なくとも5900万ポンド(約89兆円)を世界の個人や企業、政府関連機関から受け取っている。ブレア氏の慈善事業は2550万ポンドを集めた。昨年はネットワーク企業のウィンドラッシュ・ベンチャーズが1600万ポンドと過去最高の収入を上げた。米JPモルガン ・チェース1行だけでも08年1月以来、労働党の元首相に1000万ポンド以上を支払っている。
生まれ変わったブレア氏の稼ぎぶりに対し、首相時代の同氏の外交政策に批判的な英国民は快く思っていない。ブレア氏は今や、アブダビのムハンマド皇太子が率いるアブダビ総務局(EAA)のアドバイザーとして報酬を受け取るほか、4820億ドル(約47兆4000億円)規模の中国の政府系ファンド、中国投資(CIC)のために案件成立に助力している。
助言料契約
カザフスタンのナザルバエフ政権は11年春以来、ブレア氏とチームに年間800万ポンドを助言料として支払っている。ニューヨークに本拠を置く非営利の人権監視団体、ヒューマン・ライツ・ウォッチはストライキ中の油田労働者12人を射殺した問題でカザフスタン政府を批判している。
ブラジルのサンパウロ州政府とも助言チームの編成で契約。クウェートとも契約更新が近いほか、アジアや中南米諸国とも同様の契約について交渉しているもようだ。
「ブレア・アンバウンド(仮訳:縛られないブレア)」の著者、アンソニー・セルドン氏によれば、ブレア氏は世界の表舞台から引っ込む気などない。「結構なことだ」と労働党貴族院議員でロンドン・スクール・オブ・エコノミクス・アンド・ポリティカル・サイエンスの名誉教授、メナッド・デサイ氏は言う。「英国の元首相が役に立つ存在である方が、暇を持て余したり必要とされていない場に偉そうに出てきたりするより望ましい」と同氏は述べた。
「自己満足に酔っている」
高いレベルでの人脈と首相として培った交渉力は、ブレア氏にとって未経験の分野である金融の世界で高い需要がある。12年最大の案件だったグレンコア・インターナショナルとエクストラータの合併の取りまとめにも同氏は暗躍した。事情に詳しい複数の関係者によれば、この件で受け取った手数料は100万ドル以上。ブレア氏は手数料の額について言明を避けた。
バンカーへの風当たりが強い時世、ディールメーカーとして高額を稼ぐブレア氏に憤りを隠さない英国民もいる。元下院議員で閣僚経験もあるピーター・キルフォイル氏は「政治の真似事をしながら巨額の金を稼いでいる。立場を忘れ、自己満足に酔っているようだ」と苦言を呈した。
ブレア氏の新人生はそれでも、首相時代とは様変わりだ。同氏は1997年を皮切りに3回の総選挙で労働党を勝利に導き、同党の113年の歴史の中で最長期間、首相を務めた。しかし2003年のイラク進攻で米国に同調したことへの批判が支持基盤を揺るがせたほか、労働党内のライバルだったブラウン前首相の派閥からの妨害も加わり、07年5月10日にブレア氏は辞意を表明。その後7週間のうちに首相官邸を去り、1983年以来保持していた下院議員の座も去った。
「権力への執着」
ブレア氏はブルームバーグ・マーケッツ誌との2回のインタビューで、ポスト政治家としての身の振り方を常に考えていたと語った。「まったく違う元首相人生というのを創造しようと思った。何をしたいのかは最初から非常にはっきりしていた。私自身の組織網を作りたかった」という。
辞任の苦さを味わった夏以来、築き上げ拡大してきた自らの王国について同氏は「堅固で強力になり、前進している」と述べた。「権力への執着を克服する唯一の方法が、権力を捨てることである場合もある」と振り返った。ブレア氏は権力を捨ててなどいない。別の形で権力を行使しているだけだ。
原題:Blair Scorned in U.K. Is Dealmaking Impresario Aided byJPMorgan(抜粋)
更新日時: 2013/04/09 07:01 JST


03. 2013年4月09日 18:40:43 : xEBOc6ttRg

http://www.jeed.or.jp/data/elderly/elder/download/2013-04_07.pdf
高齢者が働きやすい職場

改善ポイント
 ここまでに説明したことを前提にして、快適
職場の形成をはばむ職場環境が何かを考えてみ
ます。すると、実は高齢者に特化した対策が必
要なのではなく、すべての年齢層に当てはまる
対策が必要になることがわかります。このこと
は、高齢者のための快適職場づくりには、それ
ほど大がかりな取組みや多くの予算は必要ない
ことがわかります。
 ここでは製造現場で最低限必要になる、3つ
の対策を上げてみましょう。
(1)不自然な作業姿勢の改善
 重いものを扱わない限り、筋骨格系に障害を
与えるのは不良作業姿勢です。見た目には、何
ともないと思われる姿勢でも、腰痛を起こすリ
スクが極めて高い姿勢がたくさんあります。職
場でよく見られる姿勢の中で、腰痛を引き起こ
すといわれているのは次の5つの不良姿勢で
す。
@腰が高い
A腕を長く伸ばす
B身体の傾きが深い
C背が丸い
D急に身体をねじる
 こうした姿勢をなるべく避けることが必要で
す。不良作業姿勢を正しく直すための手立てが
あります。注目点はヒジです。すわった姿勢で
作業をするのであれ、立ったままで作業をする
のであれ、ヒジの曲げ角度が
90
度になるように
作業面を設計することが重要です。コンベヤー
作業であれば、ヒジの曲げ角度が90 度になるあ
たりに、コンベヤーの高さがくるように調整し
ます。
 事務作業であれば、机の高さ、またはコンピュータのキーボードの高さがその位置になるよ
うに調整しましょう。どうしてもヒジの曲げ角
度を
90
度にすることができない場合は、
90
度か
ら100度までの間になるようにすることが望
ましいといえるでしょう。これを「エルボール
ール」、または「アームの法則」と呼んでいます。
これはあらゆる仕事の場面での姿勢の改善に役
立つ重要なキーワードです。図表2を参考にし
てください。
(2)重量物の取扱いに対する改善
 厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指
針」(平成6年9月6日、基発第547号)に
よると、「
55
s 以上の重量があるものを持って
はいけない」とか、「自分の体重の、おおむね
40

を超えるものを持ってはいけない」とされています。
ちなみに、この指針は現在、厚生労働省において
改正が検討
されていま
すが、「
55
s」という
数値は明示
を避ける方
向で検討が
進んでいま
す。
55
sと
いいますと、若者にとっても、かなりきつい数値ですね。当
面の目安としては、重量物は最大
20
sをめどに
するのが望ましいでしょう。
 一方、1人では扱えない重い物を2人で取り
扱う場合には、身長の差が大きい人の組み合わ
せは避けるようにしましょう。身長差があると、
身長が低い人のほうに7割以上の負担がかかり
ます。これと同じように、階段や段差でも下の
ほうにいる人に7割以上の負担がかかってしま
うのです。
 持ち上げるものの荷姿も重要です。つかみや
すいようにすることはもちろんですが、取扱い
対象物をなるべくコンパクトにすることも大切
です。たとえば、重さが
20
sの荷物で、大きさ

55
pの品物を持ち上げた場合と、同じ
20
sで
も大きさが
35
pの荷物だと、作業している人に
とっては、
12
・5
kg
の荷物を抱え上げた場合と
同じ負荷となります。
 そして、荷物は、できる限り身体に近づけて
持ち上げるか、あるいは保持するように作業員
を指導してください。椎間板(骨と骨との間に
あるクッションのこと。脊椎には5つの椎間板
があります)にかかる圧迫力が3600ニュー
トン(約360sf)になると、腰痛を起こす
リスクが最も高くなるといわれています。身体
から
60
p離して荷物を抱えこむと、およそ34
00ニュートン(約340s f)かかります。
これを身体から
20
pの距離に改善すると、21
82ニュートン(約218sf)となり、
36

も軽減されるのです。
 従来、椎間板に加わる1700〜1800ニ
ュートンほどの数値は、腰痛を起こすほどの負
荷ではないといわれていました。確かにそうし
た作業姿勢は、とりわけ問題視するような作業
姿勢とは見えません。しかし、以前、私が行っ
た研究では、こうした姿勢であっても、その姿
勢が
30
秒間保持されると、腰痛を起こすリスク
が極めて高くなることが明らかになっています。
(3)眼を使う作業への配慮
 年をとったことを意識する現象として、眼の
機能の衰えが上げられます。職場でも、加齢に
よる眼の機能の衰えは、仕事に大きな影響を与
えます。仕事上で大きく影響を受ける眼の機能
は、「近点の調節機能の衰え」、いわゆる老眼で
す。老眼は、水晶体が固くなり、ピント合わせ
が不自由になります。これは適正なメガネ(老
眼鏡)をかけることで補正することができます。
 最近では、職場でコンピュータを使用する作
業(VDT作業)が一般的になっています。通
常のディスプレイの場合は、眼と画面との距離

45

50
p離すことが求められています。
 また、コンピュータを使って設計などを行う
場合は、
20
インチ以上のディスプレイが使われ
ることが多いですが、この場合は、眼とディス
プレイとの距離が
65
pほど離れていることが望
ましいとされています。
 老眼鏡は、使用する用途に応じた焦点調節距
離でつくらなければなりません。少なくとも、
家で新聞や本を読むときの老眼鏡は適正ではあ
りません。加えて、高齢者にとってやさしい職
場にするためには、読み間違いが起きないよう
に、文字や数字の大きさとか配色などを配慮す
るようにしましょう。
 職場においてもうひとつ気をつけなければな
らないのは、夜間視力の低下です。これは水晶
体の主成分であるクリスタリンというタンパク
質が加齢とともに濁ってきて、光を通しにくく
することによって起きます。これをカバーする
には、作業場の明るさを確保してあげればよい
のです。若い人と同じ明るさの下で仕事をした
ら、高齢者の作業能率が落ちたり、品質が確保
できなくなったりします。職場の照度に注意を
払ってみてください。
転倒・転落の防止
 高齢者は残念ながら転倒・転落しやすいとい
えます。これを防ぐためには、職場でさまざま
な対策が可能で
す。たとえば、
手すりの取付
け、スリップ防
止床の採用、階
段の蹴上げと板
幅といった防御
用の設備改善な
どがあります。
 こうした対策
も重要ですが、
そのようなハー
ド面での対策で
はなく、身体づくりによっても転倒・転落を防ぐこともできま
す。たとえば、加齢によって股関節周りの筋肉
が固くなりますが、股関節のストレッチを職場
体操に取り入れれば解決が可能です。腸腰筋(太
ももを上げる筋肉)が弱くなるのを防ぐには、
相撲のしこ踏みを取り入れるのが効果的です。
このようにして、転倒・転落事故を起こしにく
い身体をつくることができます。
終わりに
 これまで紹介した多くの取組みは、共通した
重要なメッセージを発しています。すなわち、
高齢者の作業負担を軽減し、快適な仕事環境を
支援するための最良の方法は、支援機器などの
導入ではないということです。最も大切なこと
は、教育と研修です。作業の方法を教える、仕
事をする際の身の処し方を教える教育と研修が
最も大切であるということをお分かりいただき
たいと思います。
 さらに詳しくお知りになりたいかたは、『高
齢者雇用に役立つエイジマネジメント』(囲み
参照)を参考にしてみてください。


http://www.jeed.or.jp/data/elderly/elder/download/2013-04_16.pdf
海外の高齢者雇用 新たな展開

厚生労働省が昨年3月に公表し
た「2010〜2011年海外情
勢報告」では、雇用・失業情勢を
分析するとともに、世界の主要国
の労働施策と最近の動向を調査し
た定例報告部分では、多くの国に
おける高齢者雇用対策についても
報告されている。本稿はそのあら
ましを紹介する。
米国では、1967年雇用にお
ける年齢差別禁止法により、
40

以上の労働者と求職者への高齢者
差別を禁止している。
高齢者を対象とした雇用施策と
しては、「高齢者地域社会サービ
ス雇用事業」がある。これは、仕
事がない低所得の高齢者のために
パートタイム労働の機会を提供
し、一般の雇用に結びつけること
を目的としており、高齢者に支払
われる賃金などの経費が連邦政府
から助成される制度である。
これに対してEU加盟諸国で
は、2000年の一般雇用機会均
等指令に基づき制定された差別禁
止法により、すべての国で年齢に
よる差別が禁止されている。この
中で英国では、標準退職年齢が設
けられ
65
歳定年制が容認されてい
たが、2011年
10
月に定年制は
完全に廃止された。
ドイツでは、かつては若年失業
者や長期失業者の雇用機会の拡大
のため高齢労働者の早期引退を推
進していた。しかし、老齢年金の
標準支給開始年齢の引上げや高齢
者の就業促進を掲げるEU雇用戦
略等により、近年は高齢者の就業
促進の方向に政策転換している。
同国では、高齢者雇用対策とし
て、@低賃金の雇用を受け入れて
失業状態を終了させるかまたは回
避しようとする
50
歳以上の中高年
労働者に対する所得保障制度、A
50
歳以上で採用以前に6カ月以上
失業していた者を採用した場合
に、事業主に対して支給される統
合助成金制度、B中小企業の低資
格労働者・中高年労働者のための
職業継続訓練がある。
フランスでは、高齢者雇用促進
対策として、企業別または業界別
に、
55
歳以上の従業員の雇用維持

50
歳以上の従業員の採用につい
ての労使協定を策定するように定
めた。ただし、労使協定が難しい
場合は、企業が従業員代表に相談
したうえで、行動計画を策定する

こととされた。2010年1月以
降、従業員
50
人以上の企業で労使
協定または行動計画を策定してい
ない企業に対しては、適用除外の
場合を除き、全従業員の賃金総額
の1%の社会保険料を課徴金とし
て徴収されている。
イタリアでは、手厚い年金制度
の代表格であった「年功年金」に
ついて、段階的に受給要件が厳格
化され、2012年から2022
年にかけて、男女ともに支給開始
年齢が
67
歳に引き上げられること
となっている。また、「参入契約」
制度の導入により、若年者だけで
なく、
50
歳以上の中高年齢者も、
企業で働きながら職業訓練を受け
て、労働市場への復帰を目指すこ
とができる施策がとられている。
一方、アジア諸国のうち、韓国
では、「雇用上年齢差別禁止およ
び高齢者雇用促進に関する法律」
により、2009年より年齢差別
禁止と雇用促進政策が並行推進さ
れている。定年を定める場合、
60
歳以上にするよう努力義務が課せ
られており、300人以上規模の
雇用主は定年年齢が著しく低い場
合、定年延長計画の提出を求めら
れたり、定年延長を雇用労働大臣
から勧告されることがある。また、
300人以上規模の雇用主は、基
準雇用率以上の高齢者(
55
歳以上)
を雇用するよう努力しなければな
らず、それに満たない場合、雇用
率履行計画書の提出や必要な措置
をとるよう求められる。
また、シンガポールでは、20
05年から、高齢者の募集や62歳
を超えた高齢者の再雇用促進の助
成措置を行ってきたが、高齢化の
進展に伴い、2007年に201
2年時点で62歳に達する労働者を65歳まで再雇用することを義務付
け、将来的に、再雇用の年齢を
67
歳まで引き上げると発表した。こ
れを受け、2010年3月に「政
労使による再雇用のためのガイド
ライン」が発表され、2011年
1月には「定年法」が「退職及び
再雇用法」に改正され高齢者の再
雇用が法制化された。
タイでは、高齢者に対してはジ
ョブサービスセンターにおける就
職支援、民間企業と連携した面接
会の実施や遠隔地の巡回相談など
を行っている。また、高齢者の雇
用確保のため、一部のジョブサー
ビスセンターにおいて、55歳以上
の者を雇用し、失業者の相談等に
活用している。
このほか、オーストラリアでは、
2010年2月に新たな高齢者雇
用促進策を発表した。この施策に
は、@高齢者の継続雇用や技術伝
承の支援、A高齢者の職業転換支
援が含まれる。また、50歳以上の
高齢者の雇用対策として、@起業
をサポートする新事業奨励制度、
A
45歳以上の者に対する無料のキ
ャリア・アドバイスなどの支援が
含まれている。
急激な少子高齢化の社会で年金
制度を持続するには、支え手の就
業率を高めるほかない。年齢によ
る差別禁止をはじめとする高齢者
対策は、雇用と年金との接続をい
かに実現するかの施策である。最
後に、高齢者就業率の国際比較を
表に示す。
表 就業率の国際比較(%)
出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較(2012)


http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/hata/pdf/h_1304d.pdf
米国 ヘッドラインは急激に鈍化したが緩やかな回復基調は変わらず(2013年3月雇用統計)〜失業率の低下は職探しを諦めた人の増加による見せかけの改善


米3月雇用者は8.8万人増と予想を大きく下回り、9ヵ月ぶりの低水準に
2013/04/08


土肥原 晋
経済調査部門 
経済・金融フラッシュ2013/04/08全文ダウンロード(235KB)
米労働省が発表した3月非農業事業部門の雇用者は前月比8.8万人の増加と市場予想(19万人)を大きく下回った。ただし、前2ヵ月で計6.1万人の上方修正が行われ、今年に入ってからの月平均は16.8万人増となる。一方、失業率は7.6%と低下したが(予想は7.7%)、多数の雇用市場からの撤退が失業率低下の背景となっている。雇用の増加トレンドは維持されているものの、企業は増税や歳出削減等による景気への影響を警戒しており、そうした懸念が薄らぐまで雇用増の伸びは緩やかなものとなりそうだ。


04. 2013年4月11日 19:56:07 : xEBOc6ttRg

定年延長の経済学
いま必要なのは雇用の流動化ではなく、安定化だ

安藤至大・日本大学総合科学研究科准教授に聞く

2013年4月11日(木)  広野 彩子

 高年齢者雇用安定化法の改正で、65歳までは希望者全員を引き続き雇用することが義務づけられた。少子高齢化が進み生産年齢人口が減っていく一方、増え続ける高齢労働者。労働力の高齢化の影響は、社会にどのような形で現れるのか、労働経済学が専門の安藤至大・日本大学准教授に聞いた。
4月から、60歳で定年を迎えた会社員でも、希望すれば会社に引き続き雇用されるようになりました。

安藤:多くの人がこれを大ざっぱに「定年延長」と言ってしまうんですが、それは間違いだということをまず整理しておきましょう。高年齢者雇用安定法では、これまでも高齢者の継続雇用を義務付けていました。その際に、定年の引き上げも選択肢の1つですが、そのほかに定年を廃止することと継続雇用制度を導入すること、合わせて3つのやり方をから選ぶことができました。そして継続雇用制度を選んだ場合に、これまでは労使の合意があれば対象者を限定できる仕組みがあったのですが、これが廃止されたのが今回の法改正の注目点ですね。

辞めてほしかった人にも居座られてしまうことに

 継続雇用というのは、雇用関係は定年で終了し、その後に新たに契約するということです。ですから、そこで待遇を変えても良いし、仕事の中身を変えてもいい。子会社や関連会社での継続雇用も認められています。極端な話、直前まで部長さんだった人を子会社の平社員にして、最低賃金で雇っても理論上は問題ありません。


安藤 至大(あんどう・むねとも)
日本大学大学院総合科学研究科(ARISH)准教授。1998年3月法政大学経済学部経済学科卒業、2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授などを経て2005年4月から現職。専門は契約と組織の経済学、労働経済学、法と経済学。 NHK(Eテレ)の「オイコノミア」に講師役で時々出演。
これまでも、大企業などでは定年退職でいったん辞めてもらい、子会社などで再雇用している例は多いですよね。

安藤:高齢者の継続雇用自体は、大企業を中心として、ニーズに応じて以前からありました。2007年問題とか、2012年問題などと言われたように、団塊の世代が大量に退職することから、企業内の知識や技能が失われてしまう懸念があったことも大きいですね。ただ、全員が継続雇用されていたわけではありません。高齢者になると、健康面や能力面で差が生まれてしまいますから。

 積極的に後進を指導し、皆に慕われるような高齢者もいるでしょうが、50代後半から、戦力にならないどころか若手の足を引っ張っているような「ちょっと、この人はお引き取り願いたいなあ」という社員も実際にいるわけです。このような場合でも、これまでなら定年の60歳までは約束した通り雇い続けますが、それ以降については事実上、そうした人々の再雇用を避けることができた。ところが4月からは、本人が望むなら原則として働く場を用意しなければならなくなった。厚生労働省のホームページのQ&Aのコーナーにもありますが、心身の状態や勤務状況が著しく悪い場合には継続雇用をしなくて良いとされています。しかし、多くの企業では、争いになることを避けるために、何らかの仕事を用意することになるでしょう。最近のニュースでは、NTTとトヨタ自動車で象徴的な事例がありました。

 NTTの場合は、労働組合と話し合った結果として、60歳以降でがくっと待遇が落ちるのではなく、60歳以降もある程度給料をもらう代わりに40代、50代から賃金を下げるという方法を採るようです。現在40代、50代の人たちは、今の給料を下げる代わり、後払いで受け取るようなものです。今ちょうど59歳の人は、ラッキーかもしれません。

NTTは、40歳から50歳までの現役世代の賃金カーブの伸びを抑えるという施策でしたね。

安藤:そうです。それによって65歳までの賃金原資を確保するということでした。これは基本的には、60歳以上の人にも普通の労働者としていろいろな仕事をこなしてもらおうという考え方です。

 トヨタ自動車の場合は少し違います。一部新聞報道により、定年後には全員が清掃や緑化業務を担当するというような印象を受けた人もいるかもしれませんが、そうではありません。健康などの問題でこれまでだったら継続雇用が困難だった人を対象として、清掃や緑化などの仕事を用意します、という話なんです。全員清掃事業に回ってもらいますよ、と言っているのではないです。

定年廃止では米国型に近くなる

 これまでだって必要な人は再雇用し、そこそこの人でもある程度は処遇していました。これに対して、これまでは健康問題など様々理由で実質的に継続雇用されるのが難しかった人でも、本人が望んだら雇わなければならないケースが増えるため、そういった人でも活躍できる場所を用意しましょうということです。

現場で、世代間の不公平感を刺激しそうな気もしますが…。

安藤:しかし、高齢者だって皆が喜んでいるわけではないでしょう。本当はリタイアして年金をもらう方がうれしかったかもしれません。そもそも60歳から年金をもらえるはずだったのに、支給開始年齢が徐々に引き上げられることになった。つまり約束を一方的に破られているわけですよね。だから、高齢者だけ優遇されていてずるいとも言えないのです。

継続雇用は、定年廃止、定年延長と比べ、選択肢としてはどういう位置づけになるでしょうか。

安藤:一番、選ばれやすい方法ですよね。例えば定年を廃止するというのは区切りが付けにくいわけです。定年がなくてもいつかは仕事を辞めてもらう必要があり、あえて言うなら米国型に近くなる。でも、日本では能力不足を理由にして辞めてもらうのは実質的には難しいでしょう。その場合は定年退職ではなくて「普通解雇」になるからです。

 普通解雇というのは、労働者が定められた仕事をできなくなった場合の解雇です。しかし日本では多くの場合、職務を特定しないかたちで労働者が雇われているため、その労働者が現在の仕事をできないだけでは解雇できません。したがって配置転換をして十分なチャンスを与えたり、教育したりすること、また与えられた仕事がこなせないことを立証するために、上司が記録をつけたりしながら「本当に何をやらせてもだめなのか」を検証する必要があります。

 例えば欧州では、定年を定めることが禁止されています。年齢を理由とする差別に当たりますからね。その代わり、あらかじめ定められた仕事で働く能力がなくなれば、当然にその仕事を辞めることになります。これは、日本のように職能給型ではなく職務型であり、仕事の内容が「ジョブディスクリプション」という形で明確になっているからこそ可能なのです。

 日本で正社員として雇われている場合、採用する時の契約は、基本的には総務でも人事でも営業でも企画でも何でもやってもらいますという、企業にとって働かせ方の自由度が高いものであることが多いですね。

 採用する時に仕事を特定していないからこそ、会社側が好き勝手に働く場所や仕事の中身などを変えられる。そして自由度が高い働かせ方が可能である代わりに、能力不足を理由に解雇しようと思った時は、まず、ほかにいろいろな仕事をさせてみて、それでもだめだとなって初めて普通解雇が可能になるという手順になるわけなのです。よく日本では、正社員の解雇が厳しいと言われたりしますが、こう考えると解雇に条件が課されるのは当たり前だということが分かるのではないでしょうか。

なるほど。しかしそもそも、なぜこういう制度になったのですか。

安藤:日本の雇用は長い間、法律上は1年までの有期雇用か、期間の定めのない無期契約のどちらかしかありませんでした。そして最近になって、契約期間の上限は原則3年、例外5年になりました。一般に正社員と言われる働き方は、無期で直接雇用でフルタイムということが条件となりますが、そのなかで最も大事なのはやはり無期であることですね。雇用の安定を気にする人が多いからです。

 無期雇用というと、定年までの長期雇用のことだと思われがちなのですが、実は法律上は、これは「日雇いの自動更新」のようなものなのです。自動更新とは、今日も1日仕事をして、帰るまでに企業側と労働者側のどちらも「雇用契約をやめましょう」とか、「退職します」とかいった申し出がなかった。だから明日も自動的に契約関係が続いている、といった感じです。

口約束ばかりでトラブルが多発した高度成長時代

 高度成長期には、なにしろ人手が足りなかったので、「長い間いてもらうから」とか「後で報いるから我慢してくれ」などと口約束をしてどんどん人を雇った。口約束も約束です。民法では解約の申し入れをしてから2週間で無期雇用契約は終了することになっているのですが、裁判になると、長期契約を約束したのだから雇用を守りましょうという判断になった。

 こうして無期契約が、判例を通じて実質的に定年までの長期契約へと置き換えられていったわけです。

なるほど。長い間のさまざまなトラブルを経て、実質的には「日雇いの自動更新」のようであった契約関係が、「終身雇用」という形に変わっていった。

安藤:ただし、専門家は終身雇用という言葉は使いません。終身というと、死ぬまでと言うニュアンスがありますからね。米国では確かに終身雇用は「終身」です。本人が辞めるというまで雇い続けるという雇用契約が可能ですから。日本では多くの場合は定年が決められているので、例えば今22歳の人を雇ったら、実質的には定年が65歳なら、43年間の長期雇用、ということになるでしょう。

解雇規制を緩和して、労働市場を流動化させないと若者が職に就けないという意見もあります。

安藤:それはいろいろな場所で言われていますが、違いますね。かなりの誤解があると思います。

 実は日本の解雇って、それほど厳しくないんですよ。大企業などが評判を気にするために抑制的になっているのは事実ですし、たとえばどのような時に解雇が可能なのかといった基準が不明確で、事前に予想がつきにくいという指摘は正しいのですが。一方で中小企業などでは、解雇規制なんて知るかといって平気でひどい解雇をしているという、かなり二極化された状況になっているのです。

 先ほど普通解雇について話しましたが、解雇にはほかに懲戒解雇と整理解雇があります。懲戒解雇は、職場で盗みを働いた場合など、就業規則で定められた懲戒事由に該当する行為をした場合の解雇です。そして整理解雇とは、時代の変化や技術進歩、消費者の好みの変化などの理由で、仕事がなくなってしまった場合の解雇です。

 整理解雇についても、整理解雇の4要素と言われる基準があり、解雇規制が厳しいなどと言われています。しかしよく見てみると、この法理は整理解雇自体を規制しているわけではありません。きちんと法律の専門家に相談して手順を踏めば、仕事がなくなった場合の整理解雇は可能なんです。それでは何を規制しているのかというと、整理解雇のふりをして恣意的な解雇をすることを規制しているのです。

 整理解雇はそもそも、会社に仕事がなくなって人が余っているので、本当は辞めさせたくないけれど仕方がないから辞めてもらうという会社の都合による解雇ですから、本当に解雇が必要か、それを回避する努力をしたか、対象者の選定基準がしっかりしているか、十分な説明をしているかがチェックされます。

 例えば解雇の必要性についてです。ある会社が、どんな仕事にも就く可能性がある長期雇用の労働者を整理解雇して、その直後に会社が新規採用をしたとしましょう。すると、仕事がなくなったから解雇したという理由は、真実ではないことになりますね。また回避努力として、正社員を解雇する前に新規採用を抑制し、非正規労働者を削減するよう求めています。これは正社員は一応、実質的には定年までの長期契約なのだから、契約をできるだけ守るためにも、例えば半年後に契約が終わる人がいれば、まずはそちらの人に先に辞めてもらうのが筋だ、などという意味です。

恣意的な狙い撃ち解雇を禁止しているのだが…

 対象者の選定基準については、恣意的な選び方をしていないかどうかが問われます。そして十分な説明というのは、あくまで一方的な解雇なのだから、こういう理由で残念ですが、ということを十分に説明しているかが問われます。

 繰り返しますが整理解雇法理は、あくまで、労働組合で活動しているから、だとか、生意気だからとか、本当は別の理由があるのに、恣意的な狙い撃ちで解雇をするのを禁止しているわけです。

 まあ、働けなくなった場合の普通解雇でも仕事がなくなった場合の整理解雇でも、もう少し条件が明確になり、その内容が周知されることは必要ですね。裁判所がどのような判断を下すかについて予想がしにくいということもあり、実質解雇が難しいと思っている企業も多いからです。しかし労働契約法に書いてあるのは「客観的に見て合理的でないことや、社会通念上、変なことはしちゃいけません」ということだけなんですよ。

恣意的かどうかは判断が難しい部分も多いでしょうが、どちらにしても、身動きが取りにくい制度ではあります。

安藤:そうですね。こうした解雇の問題をクリアにするためには、原則3年までという短い有期雇用か、実質は定年までという長期雇用かという、極端な二者択一であることをどうにかしなければいけない。短期で雇うか超長期にするかを選ぶとなると、まず短期の採用が増えてしまいます。そして超長期で採用した場合も、やはり人の能力や経済環境は長期的には変わるため、解雇をしなければならなくなるケースも生まれるからです。

 これに対して、たとえば契約期間については5年や10年の契約ができるなど、多様な雇用契約が可能になった場合は、そもそも解雇なんてしなくてもよくなるはずです。約束できる範囲で契約をして、約束は守る。その方が労働者にとっても先が見えやすいのではないでしょうか。

 仕事や会社の中身がどんどん変わっていく時代です。このことを前提とすると、正社員として定年まで長期雇用される人というのは、今後は極めて能力が高くて順応性と学習能力を備えた人だけに限られてしまいます。この時短期雇用が増えすぎてしまうよりも、より安定した5年や10年といった中期の雇用というのがあってもいいと思います。

中期の雇用が可能になれば、労働市場の流動性も高まるということでしょうか。

安藤:労働市場の流動性を高める必要があるというのも、誤解が多い話です。まず2つの意味があって、成長産業に人を移動させる必要があるという話と、衰退している企業を身軽にするために人減らしが必要だという話があります。

 前者については、景気が良くなり、新たな成長産業があれば、放っておいても人は移動します。長期雇用というのは、約束した期間内は労働者の雇用をできるだけ守るということが会社側に課される「片務的」な雇用保障であって、労働者は辞められるんです。労働市場を流動的にしないと新産業に人が移らないという話は、まあウソだと言ってよいでしょう。

 ただ、退職金税制は変えた方がいいですし、年金もよりポータブルにすべきです。退職金は、労働者にとっては、普通に給料でもらうと累進課税がかかりますが、退職金には優遇税制があるので、会社に貯めておいてもらって後で受け取った方が得になります。会社も、高度成長期はよっぽど問題がある人以外は、ずっと会社にいてもらって能力を向上させてほしかった。だから会社に長くいてもらうために、退職金をニンジンとしてぶら下げて、雇用の安定を望んだわけです。

会社の中身も仕事も、どんどん変わる時代に

 でも、最近は状況が変わりました。1つの会社に長期間いられるとも限らないし、仕事の中身もどんどん変わっていきます。過去には祖父の時代から農業をやっていて、親も農業だったら自分も農業という時代がありました。そして、紡績会社が化粧品会社になるなど、会社の名前は同じでも中身が変わって生き残ってきた時代もありました。しかし現在は、たとえ有名企業であっても経営危機が叫ばれる時代になったわけです。退職金により労働者が企業に縛り付けられるのは望ましくない。よって優遇税制はやめた方がいい。これがあると、辞めたら損すると思う人が出てくるからです。労働者をつなぎとめるなら、立派な待遇などでつなぎとめるべきですね。

 そもそも流動化が必要だという話について、私はそれは逆ではないかと思っています。流動化ではなく、安定化が必要なのです。先ほどもお話しましたが、今の二極化した雇用ルールのままだと、短期の仕事が増えすぎる。つまり、過度に流動化してしまうのが問題なのです。多くの人は安定を望むわけですから。では、より安定した雇用を生み出すために、何をすればよいのか。ここで、従来型の正社員を増やそう、非正規は使いにくくしてしまおう、という形にしてしまってはいけない。1つの会社の中で安定させることをゴールとするのではなく、転職や職業訓練などもはさみつつ、結果として途切れない働き方を目指すべきです。そのために必要なのは、雇用の「流動化」ではなくて雇用の「多様化」です。

なるほど。このままでは仕事の中身が不安定になっていくというお話ですが、技術革新で、人の仕事が機械に置き換えられ、人がいらなくなるという話もありますね。

安藤:昨年の3月に、米国ネバダ州で、自動運転自動車の公道走行を許可する法律が通りました。最初に免許を取得したのは、グーグルでした。現時点では人がモニターしながら走行しているようですが、行き先を登録すればクルマが勝手に走るようにするといった実験が公道で可能になった。これは画期的ですね。このままいくと、10年後にはトラックやバス、タクシーの運転手などという仕事がなくなってしまうかもしれません。

まさに技術革新によって、人の仕事が減っていくかもしれないケースですね。

安藤:技術革新により人の仕事が増える場合もあるけれど、減る場合もあります。ファミリーレストランのドリンクバーなども仕事が減った例と言えるでしょう。今は、多くの店で飲み放題のセルフサービスになっているでしょう。経理だって、昔はそろばんを使う担当者が会社に何人もいて、毎日パチパチやっていたわけです。それが今はコンピューターソフトウエアと担当者が数人。機械に置き換えられています。駅の改札もそうでしょう。こういうことがこれからも、どんどん起こっていく。

 これまでの歴史を振り返ると、様々な心配があったにもかかわらず、技術革新によりトータルでは仕事が増えてきました。しかしあまりにスピードが加速したため、今回は違うのではないかという懸念を持つ人も多いのです。

技術革新を止めることはできない

 一方で、日本では15歳から64歳までの生産年齢人口が今後どんどん減っていきます。およその数字ですが、10年おきに1000万人弱のペースで生産年齢人口が減っていくわけで、人手不足が起こる心配が十分にある。しかし高齢者は同じペースでは減りません。そうすると技術革新による仕事の減少と、どっちが早いかという相対的速度が非常に問題になるかもしれません。労働力も減っていくけれど、仕事も減っていく。高齢者の65歳までの継続雇用は、2025年までかけて段階的に実施されていくわけですが、そのタイミングが、この人手不足のところにうまくかみ合ってくるといいのですが。そして技術革新によって増える方の仕事にうまく対応できる人材を増やすためにも、今まで以上に教育や職業訓練が重要になってくると思います。

 これから、高齢者の数はだいたい横ばいで若者は減っていきます。そうすれば、人手不足の心配は十分にあるわけです。「高齢者が会社に居座るから若者の良い職がない」ことを心配するよりも、仕事をこなす人材がいないことを心配しなければならない日も近いのではないでしょうか。そもそも継続雇用された高齢者が担当する仕事と、中・長期雇用を前提として若者にやってもらう仕事は直接的にはバッティングしないでしょう。仕事の奪い合いの図式から抜け出して、いかにしてこの国を豊かにしていくのかを考える必要があります。もちろん、必要な再分配への目配りは欠かせません。

 今後は、技術革新によって仕事が減るのと労働力が減るのと、どっちが早いかという相対的速度が問題になるという視点を持っておいた方が良いでしょう。もし仕事の減少の方が緩やかなら、人手不足になって労働者の待遇は上がる。反対に仕事の減少の方が早かったら、仕事がなくて困ることになる。これはこれからの問題です。

 でも1つだけはっきりしているのは、技術革新を止めるのは、無理だということでしょうね。


広野 彩子(ひろの・あやこ)

日経ビジネス記者。1993年早稲田大学政経学部卒業後、朝日新聞社入社。阪神大震災から温暖化防止京都会議(COP3)まで幅広い取材を経験した後、2001年1月から日経ビジネス記者に転身。国内外の小売・消費財・不動産・保険・マクロ経済などを担当、『日経ビジネスオンライン』、『日経ビジネスマネジメント』(休刊)の創刊に従事。休職してCWAJ(College Women’s Association of Japan)と米プリンストン大学の奨学金により同大学ウッドローウィルソンスクールに留学、2005年に修士課程修了(公共政策修士)。近年は経済学コラムの企画・編集、マネジメント手法に関する取材、執筆などを担当。


定年延長の経済学

高年齢者雇用安定化法の改正で、65歳までは希望者全員を引き続き雇用することが義務づけられた。少子高齢化が進み生産年齢人口が減っていく一方、増え続ける高齢労働者。労働力の高齢化の影響は、社会にどのような形で現れるのか。労働経済学が専門の2人の経済学者に聞いた。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130403/246069/?ST=print


 


 


 


【第9回】 2013年4月11日 米田智彦
固定的な人生設計が役立たない今、
柔軟にしなやかに生きるには?
ビジネスでも「リーンスタートアップ」がブームとなり、リスクを柔軟に取り込む起業のあり方に注目が集まっているが、不確実な時代の人生設計もまた同じである。家もオフィスも持たない生活実験プロジェクト「ノマド・トーキョー」から見えた、予測不可能な時代を柔軟にしなやかに生き抜くヒントとは?

「アジャイル」と「リーンスタートアップ」の
手法を人生にもインストールする

?ここ数年、「俊敏な」という意味を持つ「アジャイル」という言葉をよく目にするようになりました。ソフトウェア開発プロセスのうち、いいものを素早く無駄なくつくろうとする手法の総称であり、従来の、後戻り不可能な開発スタイルと対比して使われたりします。

?今、IT業界での開発の主流は、このアジャイル型の設計となってきています。周到に計画し長い時間をかけて制作し、完成してから発表するのではなく、未完成であっても、核となる要素が備わったβ版をまずはリリースしてみる。そこで、ユーザーや顧客の意見や不具合の報告を取り入れながら調整を施していくというやり方です。

?つまり、最初から「可変」という要素が設計に組み込まれているのです。これからのライフデザインも、この「アジャイル」に近くなるはずです。世の中が急速に変化する中で、10年計画の固定化されたライフプランより、偶然や経験を取り込んで変化し続ける設計の方が合理的です。

?アジャイルに似たコンセプトとして、「リーンスタートアップ」という言葉もあります。「リーン」とは本来は「引き締まった」とか「シンプル」といった意味で、ここ数年、アジャイルと同様にIT業界で注目を浴びています。そこに起業家、いわゆる「スタートアップ」の経営とも結びついたことで、「リーンスタートアップ」という素早く立ち上げる起業のスタイルとして定義され、アメリカの西海岸からムーブメントは広がり、日本でも知られるようになりました。

?インターネットやソフトウェアの世界というのは、進歩のスピードがあまりにも速すぎて、その状況の中で事業を興していくスタートアップは常に実験の連続ですし、ほとんどのスタートアップが失敗をし、倒産を余儀なくされるのが現実です。起業とはいつの時代もリスクが高いことには変わりがありません。

?しかし、スタートアップで問われているのは、単に「何がつくれるのか?」という近視眼的な目先の目標ではなく、「何をつくり、何を社会に届けるのか」という根本的なビジョンです。スタートアップにおける「本当の失敗」というのは、技術的な欠点ではなく、人々が望まないもの、社会にとって意味を成さない、ビジョンのないものをつくってしまうということです。

?この「アジャイル」と「リーンスタートアップ」という考え方を、ビジネスや起業の範疇を超えて、ライフデザインにも転用したらどうなるでしょうか。「自分には何ができるか」ということにとらわれすぎると、「○○ができるようになってから××を始めよう」という考えになって、結果的に動けなくなってしまいがちです。

?でも、リーンスタートアップ的な考えを応用してみれば、まずは試してみて、周りの評価を確認したり、自分の適正を正確に図ったりしながら、その経験をいかに素早く次に活用するかということになります。第7回でご紹介した、ライフデザインにおける3つの要素、「セルフ」「ワーク」「リビング」に関して、最初から完全なものを求めるのではなく、不完全なプロトタイプの状態から動き出し、その過程で起こる変化を上手に取り入れていくわけです。

?僕が出会ったライフデザイナーたちも当初、周りから必ずと言っていいほど「そんなので大丈夫?」と思われたようですが、彼らに共通していたのは、始めることに躊躇せず、まずはやってみて、そこから検証を重ねて、徐々に良くしていくという意識を持っていたことのように思います。

?ライフデザインをする上で、これまでと視点を変えるためには、こうした「プロトタイプ思考」と呼ぶような、まずスタートして、改善しながら前進するという意識を持つことがポイントになりそうです。あくまでも振り返っての結果論ですが、僕が行ったノマド・トーキョーも、まさにアジャイルでリーンなやり方で始めて、改良を重ねていったプロジェクトだったという気がしています。

過去と未来をつなぐ
「コネクティング・ザ・ドッツ」

?あらためて僕が紹介するまでもないとは思いますが、「ハングリーであれ、愚かであれ」というフレーズで有名な故スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチがあります。

?実はこのスピーチは、「コネクティング・ザ・ドッツ」(点と点をつなげる)というエピソードから始まります。ジョブズが学生当時どう役立つのかわからず、自分の興味のあるままに学んだカリグラフィの授業が、後のマッキントッシュの特性を生み出したという話です。

「先を見て点をつなげることはできない。できるのは過去を振り返って、点をつなげることだけだ。だから将来、その点がつながることを信じなければならない。直感や運命、人生、カルマ、何でもいいからそれを信じること。点がつながって道となることを信じることで心に確信を持てる。たとえ人と違う道を歩むことになっても、信じることだ」

?先回りして点(ドッツ)と点をつなげていくことは、預言者や占い師にでもならなければ不可能です。最初は些細な「予感」のようなものしかなくても、その予感を信じることが重要だとジョブズは語っています。

?これは、今後のライフデザインで極めて重要な視点だと思います。プランニングや未来予測、試算、逆算などに時間とお金をかけすぎることより、今自分が集中すべきことに集中してまず動くことだ、いつかその点と点がつながったことを振り返るときがくるのだと、ジョブズは言っているような気がします。

「あいだ」がしなやかさと強さを生む

?ただ、計画すること自体が無意味だというつもりはありません。もちろん、人生を生きる上で計画と目標は必要です。でも、第7回でご紹介した、計画の中に偶然性を取り入れる「プランド・ハプンスタンス・セオリー」のように生きようとしなければ、予定が変更されたときに折れてしまうことがあるのです。

?また、クランボルツが言うように、個人のキャリアの8割は偶然性に左右されているのですから、自分の立脚点や接している面積を広げることが偶然性に対応できる策でもあります。そのためには、自分の世界を限定せずに「あいだ」を行き来するようにしておきたいものです。

?仕事だって、社畜を自認する人が本人の希望とは裏腹に、ある日クビを宣告されて突然フリーランスにならざるを得ない可能性は十分あるし、クリエイターやエンジニアが天職だと思っていた人が、実は営業やマネジメントで新しい才能を発揮する可能性もあります。

?仕事にはやりたい仕事と、やりたくない仕事があるのも厳然たる事実です。やりたくないことはやらなくてもいいなどと言うつもりはありません。仕事はその「あいだ」の往復によって、自分の可能性が高まることは間違いありません。

?自分の可能性を一つに限定せず、二者択一にして他を切り捨てることをせずに、複数の可能性を残したまま、「あいだ」を積極的に行き来する人生を送ること。会社員とフリーランスの「あいだ」、お金と充実の「あいだ」、ネットとリアルの「あいだ」を自由に往復するのです。

?シェアという考え方だって、今後すべてがシェア社会になるという単純な話ではありません。多くの人にとっては、消費と所有の「あいだ」にシェアがあるはずです。あるいは、自らDIYで創り出すような選択肢だってあります。

「あいだ」を行き来する、行き来できる複数の選択肢、拠点を持つということは、折れにくい生活をつくり出すことができます。また、偶然にも柔軟に対応することができ、新たなチャンスを生み出せます。固い板は大きな衝撃で二つに折れてしまいますが、しなやかで強いカーボンのような素材は衝撃を吸収し、その反動を使って衝撃を遠くに打ち返すことができるのです。時に形を変えることもできる変幻自在な素材です。これからのライフデザインも、そのようなしなやかさを持つことです。

大切なのは「選択」と「意志」の時代

?ノーベル賞を受賞し、『エデンの東』などの作品で知られるアメリカ人作家、ジョン・スタインベックの言葉に、「天才とは山の頂上まで蝶を追う少年である」というものがあります。

?夢を持ちなさい、夢を見ることを忘れないように、と大人はつい子どもに言ってしまいます。しかし、夢を見ている瞬間は、現実的な「目標」になっていないのもよくあることです。

?けれど、スタインベッックが語った「少年」は、努力して山を登ったのではなく、目の前の蝶に「夢中」になっていたのです。遠くにある夢に憧れていたのではなく、「夢の中に入って」いた。このような精神状況を“フロー状態”と呼びます。努力は時に残酷にも人を裏切ることがありますが、夢中は決して人を裏切らない。

?まだ見ぬ未来というのは、誰にとっても不安に感じられるでしょう。けれど、フロー状態における根拠のない自信こそ最大の武器です。それは未来におびえて備えることより、今に夢中になることで生まれます。

?今日のランチで食べるお弁当もおいしいし、明日食べる高級レストランでのディナーもまたおいしい。今日生きていることを無駄にして、見えない未来に捧げようと思わなくてもいい。今、苦境に立たされていても、「視点の解像度」を上げて、それも人生のハイライトの一つととらえてみる。

?根拠のない自信と、クランボルツの言う「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」で突き進んでいきながら、少しずつ可能性を現実にしていくこと。それこそ人生をデザインすることだと思います。僕がノマド・トーキョーで出会ったライフデザイナーたちは、突出した才能やスキル、お金ではなく、「選択」と「意志」があれば、自分だけの人生をつくれることを証明しています。

?しかし、特にノマドを巡る論争では、弱肉強食の自由競争の中、強い者しか勝ち残れない、そういった自己責任論が強く喧伝されています。しかし、僕が伝えたいのは真逆です。「持たざる者」こそ、さまざまなライフデザインの実践法や工夫を自分にインストールしてほしいのです。

?新しい働き方・生き方論に対しては、必ず、「どうせ特殊な人がやっていること」「すべてを自己責任とすることの限界」という意見があると思います。でも、自分の現状と取り巻く社会のネガティブな要素を一つ一つ見つめていてもキリがないし、自分の言葉は自分の人生の魔法にもなれば、呪いにもなります。冷笑的になっていても現実は変わりません。何と言っても、僕らにとって最も貴重な時間、一回きりの人生が過ぎ去っていくだけです。あれこれと難癖をつけるよりもやってみること。つくってしまうこと。それこそライフデザインの本質です。

世界同時多発的に起きる流動的な生き方
「フラックス世代」

?米ビジネス誌『ファストカンパニー』は、2012年に「フラックス世代」という特集を組みました。フラックス(flux)とは「流動」の意味で、不安定な状況を積極的に受け入れ、これまでのキャリアやビジネスモデル、常識などを修正しながら楽しむ人々のことだそうです。特定の年齢層で定義されるのではなく、心理学的な特性やものの考え方によって定義されるともいいます。

?不確定な時代だからこそ、従来の価値観にとらわれない流動的な生き方は、世界中で静かに同時多発的に始まっています。自分の人生をつくるのは自分です。誰かがどこからかやって来て救ってくれる。そう思えば思うほど、残念ながらそんなことは起こらないのが人生でもあります。

?しかし、自己決定には、困難さだけでなく喜びもあります。自分でイニシアティブを握って行う仕事や暮らしというのは、自分で決めたから誰にも言い訳できないし、妥協はできませんが、だからこそ、何ものにも代えがたい充実感をもたらしてくれます。

?この本に登場したライフデザイナーたちも不安を抱えながら、「えいやっ!」と歩を進めてきたことだと思います。彼らは、それぞれに与えられた「設定条件」の中で、自分なりのライフデザインを夢中になって行い、振り返ると今があるということなのだと思うのです。

?そして、各人に与えられた設定条件と同じように、生き方や働き方の問題や悩みもまたそれぞれ個別のものであり、万人への解もありません。他の誰かのようにやらなくてもいいのです。あなたはあなたの人生のタイミングで、あなたに与えられた設定条件の中、踏み出していくだけです。

?確かに、一人一人の個は大きな組織に比べると弱い。でも、僕らは今や神経ニューロンのようにつながっています。弱い個であっても、僕らのネットワークは木の枝や血管のようにリアルタイムに伸びていく。やりようはいくらでもあります。

?ソーシャルメディアもまた万能ではありません。ツールは時代によって入れ替わり、ノマドやシェア、コワーキングといった言葉も時代の流れとともに新しいものに変化していくでしょう。止めることのできない時間の流れの中で、フォーカスすべきは常にリアルの世界の、僕たちの暮らしの中にあります。

?僕がライフデザイナーと呼んだ人々の暮らし方や働き方も、無数にある選択肢の一つです。情報に振り回されるのではなく、僕らは自分自身を「内観」し続け、与えられた環境の中でヒントを探し、自分で選んでいく。「あきらめずにしぶとく、しなやかに」です。(連載終了)

新刊書籍のご案内

米田智彦・著
『僕らの時代のライフデザイン』
自分でつくる自由でしなやかな働き方・暮らし方


高城剛氏推薦!
「21世紀の“リアル”が、ここにある」

家やオフィス、家財道具を持たずに旅しながら暮らす生活実験プロジェクト「ノマド・トーキョー」から見えてきた、新時代の働き方・暮らし方。パラレルキャリア、コワーキング、独自の経済圏、DIYリノベーション、デュアルライフ、海外移住…ライフプランが役立たない不確実な時代の人生設計とは?ノマド・トーキョーで出会った28人の新しい人生のつくり方を紹介。
http://diamond.jp/articles/-/34106


【第4回】 2013年4月11日 オバタカズユキ[監修]
「後悔しないための大学選び、
基本のき【就職問題/中編】」
今の時代、受験生はもとより、受験生の親御さんが一番気になるであろう、各大学の就職問題。大学案内を見比べてもなかなか実情がわからないこの問題について、複数の大学でキャリア支援に携わる『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』で話題の著者、沢田健太さんにその「本当のところ」を突撃インタビュー。

大学案内パンフレットの
就職率はウソだらけ?

――?大学案内パンフレットや公式ホームページには、その大学の就職についての記述があります。それらはそのまま鵜呑みにしてもいいのでしょうか?

沢田?パンフレットの中で、「就職」や「キャリア教育」に関するページがどんどどん前のほうへ移動し、目立つように作られてきていますよね。うちの大学は、それだけ卒業後に企業社会で羽ばたいている人材を育成しているんだ、とアピールしたいのでしょう。

?けれど、その内容は現実離れしたものが少なくありません。一番わかりやすいのは「就職率」の操作です。
?よく、「就職率98%」などと謳っている大学や学部があるじゃないですか。医療系などの職業直結型の学部データであればそれもありえます。しかし、たいていの場合は、数字を操作して実態より高く出しています。大学関係者として、申し訳ない気持ちでいっぱいなのですが、就職データはうそだらけです。
?まず、「就職率」を計算するときの分子。常識的に考えて、そこは正規社員内定者の人数ですよね。ところが、そこに断り書きもなく、非正規社員内定者を加えている。
?分母もしばしば操作されています。本来なら、「全卒業者−進学者−留学者−就職を希望しない者」の人数を分母とすべきでしょう。ところが、そこからさらに「進路不明者(進路未決定者)」「状況不明者(回答未収)」も引き算。ひどい場合は、「公務員再受験予定者」などの再就職組や再受験組まで引いている。

?とにかく、就職率に関しては、せこいワザを駆使して、実態とかけ離れた高い数字を掲げている大学ばかりです。

有名企業名がズラリ。
「就職実績」は信用していい?

――?大学案内パンフレットにかかれている「就職率」はあてにならない。では、「就職実績」のほうはいかがでしょうか?

沢田?こちらも参考にしづらいですよ。大学階層が下位にいくほど見せ方がご都合主義になりやすい。
?よくある見せ方は、学部ごとにどんな業界へ就職したかの円グラフの掲載です。製造業32%、情報・通信関連27%、建築・不動産11%……という具合に、グラフがどのように計算されて作られたものなのか説明はありません。だから、%を見せられても、何かがわかるわけではない。
?で、円グラフだけでは恰好がつかないため、その下や横に内定獲得の実績企業名をずらずらと列記しています。有名な大企業の固有名詞をたくさん並べます。けれども、そのまた下に小さな字で「最近5年間の実績」となっていたりするわけです。

?それならまだ良心的なほうで、何の断り書きもない大学だって多いんですよ。うがった見方をすれば、人気企業の社名が堂々とトップに掲げられていたとしても、それは10年以上も前に親のコネで1人だけ内定が取れた「実績」かもしれない。

?就職の「実績」を示すなら、就職した企業ごとに、単年度の「実績」を載せなければ参考にならないですよね。誰がどう考えたって、本気で情報公開をする気があるなら、就職に関しては就職先の人数を具体的に明かすべきなんです。
?でも、それはないものねだりの理想論、という現実もあります。「実数」を明かせる可能性があるのは、上位校だけでしょう。そうじゃない大学だと、それこそ保護者さん世代が見て「なにこの会社?」という社名ばかりになってしまいますから。
?もし、就職の「実数」をありのままに出している大学があったら、その姿勢をおおいに評価してください。低い数字でもあえて発表していたらそれは従来の大学の悪しき慣習を改革しようとしているチャレンジにほかなりません。

(本コラムは、「大学図鑑!2014」からの抜粋です)
次回は4月12日更新予定です。

お話をしてくれた人
沢田健太(さわだ・けんた)
民間企業で営業職や人事職に従事。その後は、教育分野に転身。複数の大学にて、キャリア形成支援に携わる。現在の主な関心ごとは、「就職と若者の不安」「正解を求めようとする就職活動生の意識」「大学におけるキャリア教育の今後」など。著書に『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』(ソフトバンク新書)がある。
http://diamond.jp/articles/print/34120


【第4回】 2013年4月11日 齊藤義明 [野村総合研究所・2030年研究室室長]
未来の雇用を生み出すのは、従来型の大企業雇用か、
個人やチームのネットワーキングか
「個人に焦点を当てれば、日本はまだまだ経済発展できる」

?インターネットが社会のインフラとなり、ネットワーク上でやり取りできる仕事の種類が増えている。例えばパワーポイントの作成、ライティング、翻訳、ミニリサーチ、デザインやロゴマークの開発、ウェブ制作、アプリケーション開発などだ。これらの仕事の遂行は非対面でも可能であり、働く場所も自由になった。これと並行して、従来の正規社員や派遣社員という枠組みに縛られないフリーランス・ワーカーや「多足のわらじ」のように、兼業・プロジェクト型で仕事をする人たちも拡大している。

?これら2つの流れ――インターネットベースの仕事の種類の増大とプロジェクトベースで仕事をするワーカーの拡大――が結びつくことによって、組織への雇用をベースとした従来の仕事や働き方とは違う、個人をベースとした新しい仕事や働き方の形が今、広がりを見せ始めている。

「個人に焦点を当てれば、日本はまだまだ経済発展できる可能性がある」とクラウドワークスの吉田浩一郎社長兼CEOは言う。

「組織に雇用される正社員は今やWindowsと同じような固定的なフォーマットになってきている。プライベートではFacebookやTwitterなどでインターネットによってオンラインの情報共有が進んでいるにも関わらず、労働環境はあらかじめ決められた構造の中で、時間や場所が制限され個の可能性を引き出し切れていない場合がある。労務コンプライアンスの厳格化の中で、かえって働きにくいと感じている社員も多い。

?インターネット時代に対応して個人の働き方のフォーマットが変わり始めている。そして中小企業は先が読めない経済状況の中で、実際のところ正社員の採用は敷居が高いと感じるところも増えている。もちろん正社員のメリットは明確に存在するので、正社員という制度に加えて、時間や場所にとらわれない言うなればLinux型の働き方も必要だ」と吉田さんは言う。

?増大するインターネットベースの多様な仕事を対象に、仕事を発注したい企業(クライアント)と受注したい個人(登録ワーカー)とがウェブ上で自由に結びつく。人と仕事のマッチングのみならず、仕事の遂行、契約、決済までを一気に完結させることができる新たなワーキング・プラットフォーム――吉田さん率いるクラウドワークスは2012年3月にサイトを公開、わずか1年でクライアント数は6000社を突破、登録ワーカー数も2万3000人を超え、急速にその支持を獲得し始めている。20世紀の人材派遣のプラットフォームはリクルートだった。今、急速に成長しているのはリブセンスの成功報酬型。さらにこの先の未来はどうなるのだろうか。

インターネット時代のワーキング・プラットフォーム

?クラウドワークスのしくみは次のようなものだ。仕事の受注を希望する個人(登録ワーカー)は、自身の「スキル」と「空き時間(仕事することが可能な時間)」を同社のウェブサイトに登録する。ウェブサイトには登録ワーカーの過去の受注実績やその仕事ぶりに対する顧客の満足度などの情報も掲載されている。

?他方、仕事の発注企業(クライアント)は発注内容を1ページ程度で入力し、ウェブサイトに投稿する。従来のメディアだと仕事内容の掲載までに数日間を要したが、クラウドワークスのウェブサイトではわずか10分で仕事依頼が可能である。投稿された仕事内容と金額を見て、登録ワーカーたちが応募する。通常、複数の応募がある。発注企業は応募してきた登録ワーカーの情報を見ながら今回仕事を依頼する人を選択する。

?このしくみは個人(受注者)と企業(発注者)の双方にとってメリットがある。まず受注する個人にとっては、仕事する時間や場所を発注者の都合で固定化されず比較的自由に働くことができる。極端に言うと発注企業と直接顔を合わせる必要すらないため、在宅でも、喫茶店でも、旅の途中でもどこで仕事をしてもかまわない。大事なのは成果の質だ。また営業や集金管理といった本業以外のところに時間を取られないで済む。自分の得意な仕事に集中でき、かつ多様な案件に接することができる。

?子育てをしながら主婦が家で仕事をすることもできる。現状、登録ワーカーのうち約20%が主婦で、従来なら子育てによって分断されていた女性のキャリアを継続的に支える一助になっている。

?また地方に居たまま首都圏の仕事をすることができるため、衰退する地方に仕事を生みだすしくみとしても注目される。実際、クラウドワークスを利用する発注企業の約60%が首都圏立地の企業であるのに対し、登録ワーカーの60%以上が首都圏外の地方居住者だという。

?クラウドワークスへの登録ワーカーの70%は35歳未満と若く、90%が組織雇用されていないフリーランスである。これまでであれば、あまりスキルの蓄積につながらないアルバイトを転々とするしかなかったが、クラウドワークスの仕事は短期・スポットでありながらも特定の専門スキルや編集・デザインなどの創造性を要求される仕事が多いため、登録ワーカーは自らの付加価値を高めていくことが可能だ。

?現状、クラウドワークスの登録ワーカーの最上位者の時給は5000円程度であり、収入は月収70万円程度に達する人もいる。先行する米国のoDeskの場合、週30時間以上働くフルタイムワーカーが60%以上に達しており、単なるスポットのアルバイトや副業的な小遣い稼ぎに留まらない新しいワーキング・プラットフォームとしての可能性を高めてきている。

新しい才能を発掘し、
Myプロジェクトチームをつくる

?他方、発注企業にとってのメリットとしては第一にコストとスピードがある。固定費で人材を抱えるよりも、クラウド・ソーシングで発注した方が必要な時に稼働するので変動費化できコストも抑えられる。またクラウドワークスでは従来の契約書や見積書などのややこしい手続きを極力簡略化した上で、すぐに仕事を進めることが可能だ。

?吉田さんによると「Webの仕事では、成果物の要件を全て決めてから発注するというスタイル自体がもう古い」という。従来の発注形態ではワーカー側の発想やアイディアも生きない。「要件をあらかじめ全て決めないと業務がスタートできないのでは遅すぎる。Webやアプリケーションの作成業務とはスタイルが合わない。時給制で実験的に進めてみる方が絶対に合う」と吉田さんは断言する。

?第二に、この新しいしくみは多くの登録ワーカーの選択肢の中から仕事を頼む人を選べるというメリットがある。デザインやプログラミングなどの仕事は従来、以前仕事をしたことがある決まりきった関係者の中から相手を選ぶことが多く、新しい候補者を試してみる機会が少なかった。そこには一定の安定・安心感があるものの、発注企業の予想を超えるような驚きや刺激はなく、新しいクリエイターやパートナーの発掘や育成にもつながらない。

?新しい感性は若い人たちの中にどんどん育ってきているのに、既得権の中だけで仕事をしているのはもったいないことだ。進化もない。クラウドワークスのしくみでは、発注企業が仕事を分割して複数の新しい候補者に同時発注し、それらのワーカーの実力、個性、信頼性などを見ながら継続発注の相手を絞り込んでいくといった利用が可能である。まさに「自分のプロジェクトチームを選び、育てていくような感覚」だ。複数の候補者へ同時発注して結果を比較しながらプロジェクトを進めるやり方は、一見ムダに見えるが、総合的にみればリスクを低減できるやり方にもなる。

評判を見える化して、
取引リスクをコントロールする

?新しいしくみゆえの不安は当然ある。会ったこともない人に仕事を頼んで大丈夫か、ちゃんと最後まで仕事を遂行してくれるだろうか、品質は大丈夫なのか、隠れた才能を持つひとなんて本当にいるのか。こうした不安に対し、クラウドワークスでは、登録ワーカーの仕事に対する顧客の評価がウェブ上にたまっていくしくみを採用し、登録ワーカーの実力や評判の見える化を進めている。

?また登録ワーカーがサボらずに本当に時間分働いているかどうかについても、1時間に6回、ワーカーの作業画面をキャプチャーするシステムを採用するなどして信頼性を担保している(※ただしあくまで業務委託契約を前提としているので、発注者がリアルタイムにキャプチャーを閲覧することはできない。業務終了後にチェックが可能とのこと)。さらに商取引は、クラウドワークスが発注企業から契約金額をいったん預かり、仕事が完了した後で精算して受注者(登録ワーカー)へ支払うしくみを採用している。

オープン・イノベーションへ

?とはいえクラウド・ソーシングのしくみには、なじむ仕事、なじまない仕事がある。一見、クリエイティブな仕事に向いているように見えるが、本当にゼロから何かを生みだす創造的な業務の場合、時給制は馴染まない。

?創造的なアウトプットを生みだすためには、寄り道、試行錯誤が不可欠であり、時間単位でカリカリと計られても良いものは生まれない。創造的な業務はゴールの姿があいまいなまま、走りながら考えていくことも多いが、この過程でイメージをすり合わせるために発注者と受注者のコミュニケーションは必須であり、非対面、ネット完結型のワーキング・プラットフォームには限界もあろう。

?これまでは「既に内容(コンテンツ)のあるものに編集やデザインなどの付加価値を加える仕事、あるいは既にあるシステムのメンテナンスや保守などの仕事への適性が高かった」と吉田さんは語る。

?しかし「今後はコンペ形式で業務を発注できる仕組みを拡大したいと思っている」と展望を語った。例えば米国には、99Designsというクラウド・ソーシングのビジネスがある。これは主にデザイン業務に特化した受発注マッチングのプラットフォームであるが、発注企業のリクエストに対し、複数の登録デザイナーが自らの作品を提案し、その中から最も良かったものが一つだけ選ばれ、対価が支払われるしくみになっている。つまり一つの発注に対し、100の提案があり、そのうち一つだけが採択され、残りの99は不採用になってしまうシステムなのである。

?一見すると非常に厳しいシステムに見えるが、それでもデザイナーたちは競い合うように参加している。デザイナーにヒアリングしてみると「自分なりのテイストでデザインをして、選ばれれば継続的なお仕事に繋がるし、選ばれない場合でも特に迷惑がかからないので、自由に表現をしてトライできる」とのことで気軽に応募できるのが良いのだと言う。成功者への一種の「登竜門」のような感覚が作用しているのであろう。こうした登竜門型のソーシングのしくみを採り込めば、クラウドワークスのプラットフォームは創造的業務への適合性をさらに高めることになるだろう。

新しいしくみを殺してはいけない

?クラウド・ソーシングの普及には課題もある。まず、発注企業側にとって情報漏洩を含むセキュリティの問題が新しいしくみを活用する際のためらいとなる可能性がある。また、非正規雇用を助長するのではないかという労働政策面からみた葛藤も生じよう。

?出る杭を叩き、挙げ足をとる風潮といかに闘い、説得していくか。ネガティブな要素を解決し、若者の新しい仕事のスタイルや在宅主婦の活用、地方経済への貢献といったプラスの社会的意義をいかに伸ばせるか、これらをめぐるシステムとルールの攻防はこれから10年、20年と続いていくだろう。

?ノマドから大企業が生まれた例はないという批判もあろう。だが、個人ベースの才能が生みだすダイナミズムと大企業の強み(標準化、規範化、規模の経済性など)とは自ずと異なるものであり、社会経済的に期待すべき役割が違う。クラウド・ソーシングが牽引するのは、個やチームというスケールでいい仕事をする、そして他の個やチームと連携しつつ存在感を拡大していく、そういう仕事の世界観である。

?未来の雇用を生み出すのははたして従来型の大企業雇用型なのか、それとも個人やチームのネットワーキングが新しい雇用を作り出すのか、その答えは過去の日本の成功パターンの中にはないかもしれない。

?最も懸念されるのは、取引量だけに走ると、質の低い仕事と質の低いワーカーの廉価な組み合わせのためのプラットフォームに堕してしまい、ワーカーのスキルの蓄積や向上、新しい働き方といった世界観とは離れていくことだ。クラウド・ソーシングに期待される未来のプラットフォームは、フリーターではなくフリーランスのためのメディアである。単なるアルバイトや小遣い稼ぎのためのメディアになってしまえば、従来の労働の価値観や雇用システムに対する挑戦的なメッセージ性は失われる。

?専門性をベースとし、プロジェクト型で仕事をする新しい働き方のプラットフォーム、質の高い仕事と質の高いワーカーを結びつけ新しい才能を育てるプラットフォームを次世代は求めている。そしていずれ、デザインやエンジニアリングという職種だけでなく、多様な専門能力を持つ個人が結集して社会課題を解決していくようなメディアへと進化していくことも期待したい。それが吉田さんの言うLinux型のワークフォースの未来への意味なのではないだろうか。
http://diamond.jp/articles/print/34483


【第147回】 2013年4月11日 池上正樹 [ジャーナリスト]
ハローワークで就職できるのは3割未満!?
長期失業中の中高年が“自宅警備員”になるまで
?最近、とりわけ反響が大きいのは、前々回取り上げた「ハローワークに集まる“怪しいお仕事”」を巡る実態だ。

「企業の求人募集に応募し続けているのに、仕事に就くことができない」といった体験談から、「もうすぐ貯金も底をつく。どう生きていけばいいのか?」「紹介されて入ってみたらブラック企業でした」といったものまで、本当に毎日、読者の方々からの情報が何通も当連載のアドレスに寄せられてくる。

?マスメディア上は、アベノミクスという浮かれたフレーズで賑わっているというのに、筆者の元には、仕事がなく、日々の生活に追いつめられた人たちや、彼らを支える現場からの悲鳴が聞こえてくる。

?今回は、そんな中から、都会のハローワークで仕事探しをしている40歳代後半の元営業職の会社員男性、Aさんの事例を紹介したいと思い、改めてお話を伺った。

110社応募しても就職できない
ハローワークで途方に暮れる日々

?昨年、事実上の退職勧奨に遭ったというAさんは、すでに1年にわたって、ハローワークや再就職支援会社などを通じ、営業職の仕事を探している。

?これまで、インターネットやハローワークの中高年人材銀行経由などもすべて含めると、110社余り応募した。そのうち面接まで行けたのは、およそ1割の12〜3社。しかし、まったく決まらなかった。

?しかも、ハローワーク経由の場合、ダメだった理由を教えてくれない。そればかりか、Aさんが応募した会社は、いまでも誰も採用しないまま、求人募集を続けているという。

「ハローワークは、同じ求人がグルグル回っているだけなんです。補助金目当てで出すとか、会社の宣伝として出しているところもある。無料なので、もしいい魚が釣れたら儲けものという感じで出しているところもある。待遇が悪くて、人がすぐ辞めちゃうので出しているところもある。とにかく、3ヵ月経つと更新されるので、また新規求人になる。だから、いい求人はないかと思って新規を探してみると、見たことのある求人ばかりなんです」(Aさん)

?ハローワークで検索して、受けたい会社の希望を出す。しかし、担当者は「はい、わかりました」と事務的に答えるだけで、アドバイスは何もない。

「推薦状というのを書いてくれます。でも、これもおかしなシステム。印刷されただけの紙1枚で、大体、ここで今、お互いが会ったばかりなのに、何を推薦するというのでしょうか…」

?こうして何回受けても、何度も落ち続ける。そうAさんは、ため息をつく。

「ハローワークの担当者にしつこく言われるのは、“ちゃんと連絡してくれ”、そして“結果を教えろ”ということでした。あなたは、いつ、どこで面接して、結果はどうだったのか。もし知らせなかったら、もう紹介しないぞと。自分の仕事のレポートを書くために、そのネタをくれ、というような話ばかりですよ」

「ネジを作った経験ありますか?」
非現実的なスペックを求める求人も

?非現実的なスペックを要求する求人もある。

?例えば、「企画営業」の求人を見て、ある会社に行くと、「ネジを作った経験はありますか?」と聞かれた。

?いったい、営業経験者で、かつネジ作りの経験もある人など、どれくらいいるのか。Aさんならずとも首を傾げたくなる。

「ネジ作りだけではありません。海外にネジを売っているので、英語と中国語のできる人。さらに、今後、ベトナムに進出するので、ベトナム語もわかって、経理のできる営業経験者で、給料は22万円と言われる。そういう無茶なスペックを条件にする求人が少なくありません」

?別の原子力発電所用のネジを作っている会社では、アラブの国にネジを売るという。

「そこで募集していたのは、ネジのことだけでなく、原発の仕組みが理解できていて、各国のエリートと張り合って行けるような英語が堪能な営業経験者でした」(Aさん)

?意外なことに、同じ求人がグルグル回る“カラ求人”の中には、一部上場企業も含まれているという。

「ある上場企業の場合、系列会社も含めて全職種でしょっちゅう募集しているのに、応募しても、返事は1度も来たことがない。放ったらかしですよ。さすがに、ハローワークでも再就職支援会社でも“この会社は勧めていません”と言われます」

?これらの会社は、“ブラック企業”としても知られていると、Aさんは言う。

年間求人件数800万件超でも
就職できるのは4〜5人に1人だけ

?ハローワークの窓口へ相談に行っても、なかなかいい情報はない。

「派遣や非正規の仕事も多くて、勧めて来られるんですけど…。私が“不安定だから”と言ったら、カウンセラーは気に障ったのか、“私も非正規なんですよ”“以前、有名企業の人事にいたけど、給料だって半分ももらってない。私だって、他人の仕事を探してるどころじゃないんだ”って言われたこともありました」

?その窓口担当者自身も、時々、端末を見て、職探しをしていたと、Aさんは明かす。

「こういう状況なので、ハローワークは当てにできない。結局、それまでの経験が生かせるような仕事はないということです」

?求人情報に募集の対象年齢などを明記できなくなかったことも、受けてみなければわからないまま失業が長期化していく実態に拍車をかけているようだ。

?厚労省が先月29日に公表した今年2月の有効求人倍率は、前月比横ばいの0.85倍。全国のハローワークので求人件数は4月10日現在、77万760件で、仕事は溢れているように見える。

?ところが、前々回の記事でも紹介したように、2011年度の求人数の815万7140人のうち、同年度中に就職できた人は、219万810人で、「充足率」はわずか26.9%。今年1月の実数では17.6%に過ぎない。これだけの求人数がありながら、4〜5人に1人程度しか雇用につながらない状況が続いていて、上向きな有効求人倍率の数字とは裏腹に、実態は悪化している。

長期失業中の中高年は
“引きこもり”と変わらない

?そんな中で、Aさんが「中高年?長期失業」をネットで検索したところ、「引きこもり」がヒットしたという。

「長期失業は、表面的には池上さんが追求している“引きこもり”と、あまり変わりません。カネがないから家にいるだけであって、ネット上では“自宅警備員”と呼んでいます。ほかにも、“一級在宅士”“代表戸締役社長”“ホームガーディアン”“職務放棄員”“閉鎖空間の神人”“内交官”なんていう名前を名乗っています」

?一方、Aさんの妻は、最初の頃、「失業は個人的な問題」と捉えて、夫を責めた。

?しかし、周りにも急速に失業が増えていることがわかってくると、最近は「タクシー運転手や交通誘導員をやれ」などと言うように変わってきたという。

「中高年が在宅していると、精神的な問題を抱えていたり、無能力者にみられると言って、家内は嫌がります。表面的には、このような問題を抱えている人も、引きこもりの人も、失業者も、まったく同じに見えますから…」

?もちろん、平日に街をぶらぶらしているのは、失業者だけではなく、私たちのような自由・自営業者や芸能人たちもいる。しかし、長期失業をきっかけに、家から出る理由がなくなり、社会とのつながりがなくなって、引きこもっていく人たちを何人も見てきた。

?もはや長期失業は、個人的な問題でもなく、ハローワークだけの問題でもない。

?雇用の現場で起きている問題の歪みを是正して、限りある国の資源を広く国民に還元していかなければ、たとえ再就職できたとしても、また同じことが繰り返され、水面下に長期失業者が溢れるだけである。

?次回も引き続き、雇用の現場で起きている問題を取り上げたい。
http://diamond.jp/articles/print/34501

2013年 4月 10日 20:44 JST
職場にいても害がないディーバ
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By ELIZABETH BERNSTEIN

 ジェフリー・ジトマー氏は年に12回ほど赤の他人からランチに誘われる。キャリアや事業に関する同氏からのアドバイスを求めてのことである。


These days, divas (or divos)―high-performing, high-maintenance narcissists―can be found everywhere: at work, in social settings and, heaven help us, at home. Elizabeth Bernstein look at what separates the "healthy" from "unhealthy" divas, and how to let your inner diva shine. Photo: Getty Images.
 営業コンサルタント、講演者、著者の肩書を持つジトマー氏はいつも喜んでそれに応じている。同氏は電話をかけてきた起業家や中小企業の経営者に「もちろん、いいですよ。ランチ代も私が出しましょう」と言う。「ただし、相談料は1時間1000ドルです」

 ノースカロライナ州シャーロット在住のジトマー氏によると、ランチに誘ってくれた人のほぼ半数がその相談料を受け入れるという。「尊敬とは勝ち取るものだと思うし、私にはそれだけの価値がある」

 多くの人はすべてのディーバが女性だと思っている。そしてすべてのディーバが見苦しい振る舞いをすると思っている。ディーバであれば「違う、違う、違う」と言ってそれを否定するだろう。

 ディーバという概念はオペラのプリマドンナに由来する。ディーバとその男性版のディーボは今やどこにでもいる。職場、社会集団、公共の空間、そして驚いたことに家庭にまでも。

 優れた業績を残しているが世話の焼けるナルシスト、これがディーバの定義だ。愛に飢えている人、注文が多い人、悲観的な人、自分のことをひっきりなしにしゃべる人などがいる。研究者たちによるとこうした人々は「不健全なディーバ」で、たいていの場合、そのナルシズムの根源にあるのは低い自尊心だという。彼らは常に自分たちを盛り上げようとしているのである。

 信じられないかもしれないが、なかには健全なディーバもいると研究者たちは主張する。注目の的になることを好み、常に中心的存在であるための努力を惜しまない――それでいて他人にも活躍の場を与える。彼らは元気があって、楽しく、楽観的だ。周りにいる全員が自分たちに興味を持っていると思い込んでいるので、自分たちの情報の多くを共有し、これが団結を生むことになる。彼らには、通常は楽しめないようなこと――店での長い行列、会議、上司との食事など――を他の人たちが楽しめるようにするという能力もある。

 オーストラリアに拠点を置く心理学者、メレディス・フラー氏はこう説明する。「周囲に健全なディーバがいると多くの活気がもたらされる。ディーバたちと一緒に脚光を浴びることができるので、自分の世界がより興味深く楽しいものになるのだ」

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M.K. Perker
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 健全なディーバと不健全なディーバの違いは何か。最近出版された意地悪女や職場での嫌がらせの克服に関する本の著者でもあるフラー氏によると、健全なディーバは自分たちのためだけではなく、他人のためにも立ち上がるのだという。「自分たちの能力や貢献に自信があり、認められることが大好きだが、喜んで他人に手柄を譲るという一面もある」

 ディーバの誰もが才能と権利意識を持っている。遠慮することなく配偶者に誕生日プレゼントとして欲しい物を言ったり、上司に昇給を求めたりする。

 それでも、健全なディーバは己を知っている。彼らの特権意識は、自分たちにはその価値があるという知識からきているのだ。期待されている以上のこと、150%の仕事をする。「私はこれが得意です。私がこれを得るのは当然です。私は人間関係にこれを期待します」と宣言することの重要性を彼らは知っているとフラー氏は言う。

 ニューヨーク市で活躍する31歳のコメディアン、ダン・ナイナン氏は数年前にあるコールガールのインタビュー記事を新聞で読んだことをきっかけに、自己主張が強くなり、あまり妥協しなくなったという。「料金を500ドルから3000ドルに引き上げたところ、彼女に対する男たちの態度が格段に良くなったそうだ。それで考え方が本当に変わった」とナイナン氏は話す。

 ナイナン氏に大きな影響を与えた人物がもう1人いる。ロック界のディーボの草分け的存在、デービッド・リー・ロス氏だ。彼はコンサートの契約本体に付随する条項で、ヴァン・ヘイレンの楽屋に茶色を取り除いたM&Mチョコレートを置くように指示したことで有名だ。(ロス氏によるとそれは安全対策だったという。楽屋のテーブルの上に茶色のM&Mがあったら、ステージ建設に関する詳細な指示なども書かれている付随条項をコンサートの主催者がきちんと読んでいないことがわかるというわけだ)

 企業のイベントや結婚式などに呼ばれるナイナン氏は、ときどき自分の中にいるロックスターと交信するという。契約書にあるように、ギャラが事前に支払われない場合はステージに上がることを拒否している。「タレントならば、自分の価値なりのことを要求していく必要がある。私にはその価値があるのだ」と同氏は言う。

 研究者たちはディーバ的な振る舞いには進化的根拠があると考えている。ニューヨーク州ガーデンシティにあるアデルファイ大学の教授で心理学者のローレンス・ジョセフス氏は次のように指摘する。「ナルシズムは支配への適応だ。自分はあなたより優れているので、あなたは譲るか服従すべきだ。あなたは支配階層における自分の位置を知っておくべきだ、と基本的に言っている」

 健全、不健全に関係なく、ナルシストは通常、短期的にはうまくやれる。彼らは自分の身分を醸し出す。たいていの人は、少なくとも当初は、ナルシストたちについて外向的で自信に満ちており、カリスマ性があると感じる。「そうした特質はセクシーだ」とジョセフス氏は言う。「ナルシストたちは印象的なライバル、あるいは魅力的なパートナーと目されることになる」

 ところが、不健全なナルシストたちは長期的な代償を支払うことになるという研究結果が出ている。彼らは過敏であり、注文が多く、自分と異なった見解を受け入れることができない。すぐにかっとなるという問題を抱えている人も多い。

 健全なディーバはカリスマ的知性と考えられているものを持っており、不健全なディーバはマキャベリ的知性や巧みな操作として知られているものを専門にしている。「彼らのことを知れば知るほど、彼らのことが好きではなくなるだろう。したがって彼らの人間関係の質は悪化していく」とジョセフス氏は言う。

 専門家たちは、謙虚な人でも健全なディーバになることを学べると主張する。しかし、パワースーツを着て、横柄な態度を取ればいいというものではない。フラー氏によると、ボディランゲージや話し方を通じて自信を伝えなければならないという。姿勢や自分のスタイルを通じて存在感を磨き上げ、個性を輝かせるのがいいだろう。

 そして忘れてはいけないのが、自分はもとより他人を認める必要があるということだ。

 イリノイ州ウィートンで事業やキャリアの指導をしている56歳のビッキー・オースティン氏は注目されるための服を身に付けている。特にビンテージの服、真珠、赤い口紅などがお気に入りだ。同氏は人脈や助言を求める人たちに、コーヒー持参で自分のオフィスに来るようにと指示している。数年前、母親が亡くなったあと、同氏は夫と息子を残してパリで1カ月間を過ごした。「結婚生活のために延期していた夢で、絶対にかなえると決めていた」と同氏は話す。

 オースティン氏は自分自身を「礼儀正しいディーバ」だと思っている。先月も自分の会計士、アシスタント、ソーシャルメディアコンサルタント、ウェブ/グラフィックデザイナー、技術顧問、知的財産専門の弁護士、エステティシャン、美容師、親友兼/ヨガインストラクターなど約20人を地元のフランス料理店に招待し、仲間への感謝を伝える昼食会を催した。「日頃、私を支えてくれている人たちにお礼が言いたかった。結局、一番大事なのは人間関係だから」と話すオースティン氏は、その会で招待客一人ひとりの席を回り、その貢献に対して感謝の言葉を述べた。それはまるで「アカデミー賞のような感じだった」という。


2013年 4月 10日 13:45 JST
140文字以内の新種の履歴書 ツイッター、「ソー活」の一角に 
By RACHEL EMMA SILVERMAN、LAUREN WEBER

 簡易ブログのツイッターは新種の求人掲示板になっているだけでなく、新種のレジュメ(履歴書)にもなっている。

 一部の採用担当者は、従来型の求人サイトや見当外れの履歴書の多さに飽き飽きしており、ツイッターを利用して求人を知らせたり、候補者を探したり、応募者について調べたりしている。

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Twitter
 一方の求職者は、履歴書の内容を140文字以内にまとめたり、6秒の動画にしたりしようとしている。

 2006年創業のツイッターは、採用の分野でまだ革命を起こしていない。しかし、一部の雇用主は既にツイッターをうまく利用している。候補者と早く直接連絡が取れることと、幅広いネットワークにアクセスできるためだ。

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Twitter
求職者はツイッターを使用している
 デロイト・コンサルティング傘下の人事調査会社バーシン・バイ・デロイトの創業者で代表を務めるジョシュ・バーシン氏は、サイトの発展につれて魅力も増すだろうと話す。同氏は「企業は潜在力を認めており、時間の経過とともにより洗練されていくことを知っている」と指摘し、採用担当者はこれにより、スポンサード・ツイート(事実上の求人広告)と通常のツイートの両方で、適切な個人を標的にできるようになると述べた。

 一方で、懐疑的に見る向きもある。

 まず、ツイッターにおける採用のルールは依然として不明確だ。求職者は仕事に関することについてのみ投稿すべきなのか、私的なアップデートはfair game(格好の的、良い判断材料)になるのか、そして採用担当者は候補者発の呼び掛けに返答すべきなのかといったことだ。

 それに加え、どうしたら140文字の履歴書を書けるのだろうかという問題もある。そもそも、個人の経験や特性を1つのツイートにまとめることができるのだろうか。

 ボストンに本拠を置くネットワーク・インフラ企業エンテラシスはソーシャルメディアマーケティング担当ポストの募集をツイッターのみで行うことを決めた。同社はツイートを通じて求人を公表し、socialCVというハッシュタグを使ったツイートで関心を示した応募者のみを受け付けた。応募の条件には、ツイッターのアクティブなフォロワーが1000人以上であることも含まれた。

 候補者を15人程度にまで絞り込んだ同社のVala Afshar最高マーケティング責任者は、ツイッターによる採用が良い方法であることを確信したという。

 Afshar氏は「わたしは(これまでの)履歴書による採用プロセスをやめることになると確信している」と述べ、「ウェブは個人の履歴書であり、ソーシャルネットワークは身元保証人だ」と付け加えた。


Some recruiters say Twitter has transformed their prospecting and hiring, helping them identify candidates they wouldn’t have found otherwise, but others say the messaging platform has some way to go before it can replace LinkedIn, Facebook or other job-hunting tools. Lauren Weber reports. Photo: Twitter.
 テキサス州オースティンに本拠を置く広告会社GSD&Mの採用担当者ジョセリン・ライ氏は、候補者がどんな感じの人なのかをつかむためによくツイッターを利用するという。同氏は「人々が連絡を取り合うのを見て、どういった立場にあるのか、ツイッターでは誰が親友なのか、それにユーモアのセンスがあるのかを調べる。こういったことからは、かなり正確なイメージをつかめる」と話した。

 それでも、人事担当幹部や採用担当者の大半は採用にツイッターを利用しておらず、リンクトインなどといった他のソーシャルメディアサイトの方がより効果的だとの見解を示している。また、採用担当者らはユーザーが職探しの目的でそれを利用しているかどうか確信できていない。

 人事コンサルティング会社のCareerXroadsは3月、米国の大企業37社のうち、求人を掲載したり、候補者を調べたりするのにツイッターのみを利用している企業は皆無だったとの調査結果を明らかにした。しかし、採用担当者が将来的には、とりわけ欠員を知らせるために、ツイッターを使用する見込みがあることが分かった。

 メディア業界やハイテク業界など、あちこちの業界の候補者や採用担当者は、ツイッターの価値が極めて高いとみている。

 米公共ラジオ局NPRの採用・イノベーション担当幹部ラース・シュミット氏は、チケット販売のチケットマスターからNPRに転職後、ツイッターを利用するようになった。予算が限られるため、採用の目標達成にはクリエーティブな戦略が不可欠だからだ。同氏はツイッターに@NPRJobsというアカウントを開設し、求人を知らせるためだけでなく、NPRの企業文化に関する情報を共有し、会員のラジオ局に欠員を知らせるなどのためにも使っている。

 シュミット氏は「優れた能力を持つ人が常に職探しをしているわけではなく、必ずしもわれわれの求人サイトにやって来るとも限らないが、彼らはソーシャルメディアは利用している」と述べた。昨年採用した人のうち2人は、フォローする人のツイッターフィードにあった通知を見て応募してきたという。


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