http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/569.html
Tweet |
(回答先: 欧州がスペインの解決策でなくなった理由 ドイツのサッチャリズム 欧米韓国TPP 日銀資産バブル マンション激安 相続税 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 17 日 01:20:19)
【
中央銀行がデフレに打ち勝つ方法
2013年04月18日(Thu) Financial Times
(2013年4月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
高所得国がデフレに陥っていないのはなぜなのか――。これこそが今日の謎にほかならない。ハイパーインフレになるという、一部のヒステリックな人たちの誤った予想通りになっていないことが謎なのではない。
国内総生産(GDP)が金融危機以前のトレンドに比べて大幅に落ち込んでいるにもかかわらず、そして高失業が長引いているにもかかわらず、インフレがこれほど安定しているのは実に不思議なことだ。なぜこうなるのかを理解することは非常に重要だ。なぜなら、その答え次第でどんな政策対応が正しいかが決まるからだ。
幸いなことに、これについてはうれしい答えが示されている。どうやらインフレが安定しているのは、インフレターゲット政策が信頼されていることのご褒美であるようなのだ。
そしてそのおかげで政策当局は、危険を冒して拡張的な経済政策を取る余地を手にできているという。皮肉なことだが、インフレターゲット政策の成功がケインズ的なマクロ経済安定化政策を蘇らせたことになる。
インフレという犬は吠えなかった
既にギャビン・デービス氏やポール・クルーグマン氏らが指摘しているように、国際通貨基金(IMF)は先日公表した世界経済見通し(WEO)で希望を抱かせてくれる上記の議論を展開している。
IMFの議論は、非常に高い失業率が長期間続いているにもかかわらず、インフレ率が変化していないという認識からスタートする。インフレという「犬は吠えなかった」というのだ*1。
この現象については、構造的な側面に着目した説明が考えられる。例えば、バブル時代に栄えた建設業界などの職を失った人は、既に出ている(あるいは近々出てくる)かもしれない求人に応募できるスキルを持っていなかったり遠く離れたところに住んでいたりする、という説を唱える人は多い。
また、失業率が長期間高止まりすると、職探しを比較的容易にしてくれるスキルや人脈が失われるにつれ、当初は一時的だった失業が長期的なものになりやすい。長期に及ぶグレートリセッション(大不況)で長期失業者が記録的な高水準に達しているのはそのためだ。これらはいずれも、労働市場の需給を緩和させる傾向がある。
*1=シャーロック・ホームズ・シリーズの小説『白銀号事件』の推理で使われた表現
一方、もっと元気が出る説もある。これによると、インフレターゲット政策は人々のインフレ期待の変動を抑制するアンカー(錨)になっており、労働市場の動きにもこれが影響している。しかも、今日のインフレターゲットは0%に近い。
労働者が名目賃金の引き下げに抵抗するのは周知の通りで、グレートリセッションに入ってからもその状況は続いている。実際、ユーロ圏内の調整が非常に大きな痛みをもたらしているのはこの抵抗のためでもある。従って、この状況のせいもあってインフレ率は(少なくとも下方には)硬直的になる、というのだ。
IMFが導いた3つの結論
IMFは、WEOでこれらの説を予備的に分析し、主要な結論を3つ導いている。第1の結論は、「インフレ期待は、中央銀行のインフレターゲットというアンカーでしっかり抑制されており、足元のインフレ率からは特に影響を受けていない」というもの。
第2の結論は、このアンカーによるインフレ期待抑制の度合いは時とともに強まってきたが、その一方で足元のインフレ率が期待インフレ率に及ぼす影響は逆に弱くなっているというもの。
そして第3の結論は、それに伴ってインフレ率と足元の失業率との関係も弱まってきたというものだ。1995年以降はこの関係がほとんどなくなっており、中央銀行のインフレターゲットに沿った安定的なインフレが長期間続いているという。
計量経済学の手法を使った詳細な分析では上記の予備的分析を支持する結果が出ているが、さらに2つのことが分かったという。
1つ目の特に重要な点は、現段階では景気循環による失業がかなりの数に上っているということ。そして1つ目ほど重要ではない2つ目の点は、世界経済全体のインフレが個々の国のインフレに及ぼすインパクトには明確なトレンドが見受けられないということである。
米国の状況を分析すると、これらの変化の意味が明らかになる。もし景気循環とインフレの間に今日見られる関係が1970年代のそれと同じだったら、米国の物価水準は既に下落していると考えられるのだ。
幸いなことに、物価は下落していない。もし下落していたら、実質金利は今ごろ大幅なプラスになっているだろうし、バランスシートデフレは米国の安定性をこれまでよりもはるかに激しく脅かしていたことだろう。
またうれしいことに、金融危機前の好況期の状況を見る限り、インフレは一方向にのみ硬直的なのではない。インフレ率は好況期にもインフレターゲットに沿った動きをしていたのだ。特にスペインと英国ではその傾向が顕著だった。
また、米国とドイツが1970年代に対称的なパフォーマンスを見せたことからも興味深い結論が導かれる。ドイツの中央銀行(ブンデスバンク)は1970年代にその評価を高めたが、それはブンデスバンクが一度もミスをしなかったからではなく、目標の達成に必要な施策をブンデスバンクは講じるだろうと人々が信じていたからだった。
つまり、そこに信頼性がある限り、インフレターゲット政策は柔軟に実施できる可能性があるのだ。
これは重要な分析結果であり、今後の政策に大きな示唆をもたらしている。
今後の政策に対する3つの示唆
第1の示唆は、景気がどの程度落ち込んでいるかという推計には誤りがつきものだが、中央銀行がインフレターゲットの達成に取り組んでいると人々が信じている限り、推計の誤りはあまり問題にならないかもしれない、というものだ。これは循環的な失業とインフレ率の関係を示した「フィリップス曲線」が水平になることによる大きな恩恵の1つである。
第2の示唆は、景気の落ち込み具合について不確実性があることと、大幅な景気後退にインフレ率が反応していないことを考えれば、中央銀行はインフレターゲットの達成だけを目指してはいけない、というものである。
深刻な景気後退に陥った国々やそれがさらに悪化している一部の国々では、安定的なインフレと両立する範囲内で経済活動を最も活発な状態に導くことが中央銀行の仕事になる。過去に成功を収めたことにより、中央銀行には、景気後退期に危険を冒して需要拡大を試みる機会だけでなく、そうする責務も与えられているのだ。
欧州中央銀行(ECB)の幹部の方々に申し上げたい。インフレ率が低いだけでは不十分なのである。
第3の示唆は、中央銀行はインフレターゲットを目標の中核に据え続けるべきだが、過去の経験を振り返るとそれだけでは不十分であることが分かる、というものだ。信用バブルを抑制するよりもバブルが弾けてから後片付けをする方が簡単だという見方は誤りだった。となれば問題は、どのように行動するかに絞られる。
明らかに重要なのは、金融システムの強化である。自己資本比率基準の引き上げや積極的なマクロプルーデンス政策の推進を通じて、打撃を受けても短期間で回復できるようにするのである。
いずれも容易なことではないだろう。例えば、同じIMFが公表した国際金融安定性報告書(GFSR)は、金利水準が0%に近づいた時に中央銀行が用いざるを得なかった非伝統的な金融政策に潜んでいるかもしれない短所をいくつか指摘している。
インフレターゲットの変更は極めて大きなリスクをはらんでいるだろうが、これまでに起こったことを見る限り、インフレ率がいくぶん高まることは有用だったかもしれない。
政策当局は柔軟性を生かせ
また、過去の経験がはっきり示しているように、バランスシート不況においては金融政策を単独で発動してもあまり効き目はない。
金融システムの迅速な立て直し、民間セクターのデレバレッジング(負債圧縮)の加速、そして可能な時には必ず財政支出で需要を下支えするという意思の3点セットで金融政策を補強しなければならないのだ。
しかし、金融危機前の油断にもかかわらず、インフレ期待の変動の抑制という明らかな成功のおかげで、政策当局は必要な柔軟性を手に入れることができている。それが分かったのは喜ばしいことだ。この柔軟性を使わない手はない。
By Martin Wolf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37616
黒田日銀の「バズーカ砲」で国債市場が大揺れ
2013年04月18日(Thu) Financial Times
(2013年4月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
信用の流れをよくしようとする黒田東彦氏の計画も、もはやこれまでか。日銀新総裁の黒田氏が2週間前に「大型バズーカ砲」をかつぎ、借り入れコストを引き下げるためにかつてないほど国債を大量購入すると約束して以来、30年物国債の利回り曲線が全面的に上昇し、一部の銀行は融資の利率を引き上げた。
一方、国債の売買高は激減し、ボラティリティー(変動率)が記録的な水準に上昇、世界で最も多額の債務を負った日本政府が世界一の低金利で資金を賄い続ける能力が脅かされている。
急進的な政策転換でボラティリティーが急騰
世の中に出回るお金の量を増やすことを目標とする「量的・質的金融緩和」策が市場を揺るがしている〔AFPBB News〕
先週行われた30年物国債の入札は、あるストラテジストの言葉を借りれば「悲惨」で、最低落札価格と平均落札価格の差が過去最大となり、不安定な需要を裏付ける証拠となった。
トレーダーやアナリストの話では、混乱の一部は大手銀行1行の国債売却に端を発していた。この銀行は黒田氏のデビューの翌日、保有していた国債を大量に売って利益を確定し、同様の国債売りの引き金を引いたという。
だが、こうしたトレーダーに言わせると、混乱の責任の大半を負うべきは、従来の金融緩和政策からの劇的な転換の意味合いを十分に説明しなかった中央銀行だ。
野村によると、日銀の正味の年間資産購入額は名目国内総生産(GDP)比15%近くに達しており、黒田氏の「次元の違う」緩和は世界中のどの金融緩和策よりも規模がかなり大きくなる。
さらに、新たな政策は通常の量的緩和ではなく、日銀の用語で言う「質的・量的緩和」だ。日銀は月間の国債購入額を2倍以上に増やす(新発国債の約7割を政府から吸い上げることになる)一方で、買い入れる国債の平均残存期間も現在の3年から7年程度まで延ばす計画だ。
野村証券のチーフストラテジスト、松沢中氏は、この急進的な政策転換の「衝撃と畏怖」が広がる中、914兆円という世界第2位の規模を誇る日本国債市場の投資家は「方向を見失った」と言う。
ボラティリティーの高い状態が長引くようなら、「バリュー・アット・リスク」モデルによって投資家が保有国債の売却を余儀なくされ、利回りが一段と上昇する恐れがあるとアナリストらは警告する。
そうなると、日銀がマイナスの実質金利に対する期待感を生み出すのが一段と難しくなるかもしれない。マイナスの実質金利は、日本国内で融資とリスク資産に対する幅広い需要を喚起するために不可欠だと見なされている要素だ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券のチーフ債券ストラテジスト、石井純氏は「今のところ、鳴り物入りで発表された緩和策は失敗と判断せざるを得ない」と言う。
国債購入計画の詳細開示を求める声
トップ交代とともに大きく政策を転換した日銀〔AFPBB News〕
アナリストらによると、秩序回復のためには、今週起きることが極めて重要かもしれない。
日銀は17日午後、国債トレーダー30人と特別会合を開いた。金融機関の上層部との先週の会合で持ち上がった新たな懸念を具体的に詰める狙いだった。
日銀は先週の会合の後、翌日に残存年数が10年までの国債を2.5兆円買い入れると発表した。日銀が資産購入に関して数時間以上の通知期間を与えたのは、これが初めてだ。
だが、投資家が需給をもっとしっかり把握できるよう、将来は日銀による月間7.5兆円の国債購入のタイミングと規模に関するより詳細な情報が必要だとの声も上がる。
「日銀が提示するスケジュールが長ければ長いほどいい」。東京在勤のあるシニアトレーダーはこう話す。「向こう2カ月程度、あるいは次の四半期の買い入れが分かっていれば、ポートフォリオ構築に着手し、入札で買うものを調整することができる」
アナリストらは、18日に実施される1.2兆円規模の20年物国債の入札にも注目している。これはゴールデンウイーク前に行われる最後の超長期の国債入札で、もし落札価格の差が先週の30年物国債入札より大幅に縮まれば、市場全体のボラティリティーが低下するだろう、とみずほ信託銀行のシニアファンドマネジャー、吉野剛仁氏は語る。
今のところ、黒田氏にとって良い知らせは、資金が概ね債券市場にとどまっていることだ。生命保険会社などの機関投資家が外国資産への投資を増やすためにポートフォリオを組み替えるという話も聞かれたが、アナリストらは、今のところ、そうした動きを示す兆候はほとんど見られないと話している。
バークレイズ証券の債券ストラテジスト、丹治倫敦氏は、今週発表された米国と中国の弱い統計は債券投資家に様子見を促す追加材料を与えると指摘する。また、クレディ・スイス証券の債券調査部長、宮坂知宏氏は「現時点では、投資家はボラティリティーに耐える」と言う。
多くの市場参加者は当面様子見
JPモルガン証券の債券ストラテジスト、山下悠也氏は、それでも日銀が神経を尖らしているのは明白だと言い、超過準備が歴史的な高水準に達しているにもかかわらず、日銀は最大で期間1年の資金を0.1%の翌日物レートで供給するオペを7日連続で実施したと指摘する。短期金利の安定を図るこの「多大な」努力は「極めて異例だ」と同氏は言う。
一方、多くの市場参加者は依然、様子見を決め込んでいる。三菱UFJモルガン・スタンレーの石井氏は、売買高の減少が「自己成就的な悪循環」で荒い値動きを増幅させるとし、「市場心理が完全に回復できるまでには、まだ時間がかかる」と話している。
By Ben McLannahan
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37615
第110回】 2013年4月18日 週刊ダイヤモンド編集部 日銀超弩級緩和の衝撃【後編】〜政策矛盾・企業
大胆緩和に出口戦略はあるか
壮大なる“金融実験”の行方
超緩和策の目的はインフレ率2%だが、達成すれば長期金利は上がるはず。だが日銀はそのために国債を大量購入、長期金利を低く抑え込む。矛盾を抱えた政策に潜むリスクを検証する。
「あれは平成の真珠湾攻撃だったのか」──。日本銀行周辺では今、そんな会話がよくなされている。日銀が“超サプライズ”の大胆緩和策を打ち出した際、黒田東彦総裁は「戦力の逐次投入はしない」と繰り返し、2年という短期決戦であることを強調した。
真珠湾攻撃の指揮に当たった山本五十六が、単なる思い付きで「短期決戦」を仕掛けたのか、はたまた“出口”を考えた上での行動だったのか、それは定かではない。が、対する日銀はどうなのか──そんな話題で持ち切りなのだ。
戦争には否定的だったと言われる山本の奇襲は成功したが、その後は戦争から抜け出せず、泥沼に陥ったことは言うまでもない。
一方の日銀は、対外的には「出口の議論は時期尚早」(黒田総裁)としているが、むろん内部では徹底議論し、戦略を練った上で踏み切ってはいるだろう。だが、国債発行市場で7割を日銀が買い占めていくだけに、そこから手を引くのは想像を絶する困難を伴う。
超長期債購入は8倍に
財政再建も見送られるか
図を見てほしい。これは、日銀が購入する長期国債について、残存年限別に金額の変化を示したものだ。全体で約2倍というだけでも驚きだが、5〜10年は8.5倍、10年以上も8倍に膨らんでいるのだから凄まじい。
拡大画像表示
なぜかくも大規模かつ長期化したのか。日銀が今回、最も変わった点は、段階的に5兆〜10兆円規模の追加緩和を打ち出していくのではなく、「2年でインフレ率2%」から逆算した資産購入総額を“一気に”打ち出したことだ。逆に言えば、追加緩和という退路を自ら断ったともいえる。
ここまでくると、「目的はどうあれ、現実として財政ファイナンス」(末澤豪謙・SMBC日興証券チーフ債券ストラテジスト)だろうが、ファイナンスできているうちはまだいい。問題はこの先、景気が過熱したときである。
いつ引き締めるか、その判断が難しいこともそうだが、最終的には長期国債の売却によって、市場に供給した資金を吸収する必要がある。だが、景気回復期に金利が上昇しやすい中、国債を売却すれば一気に需給バランスは崩れ、長期金利が急騰しかねない。
それを避けようと、保有国債の償還による自然減で正常化を狙っても、保有国債の年限長期化により、遅々として償還が進まない状況に陥っている可能性が高い。
そうこうしているうちに景気が腰折れでもすれば、日銀は次なる追加緩和を迫られるだろう。かくして永遠に正常化はなされず、物価は制御不能になる。
足元でも、追加緩和を迫られるリスクシナリオは二つある。
一つは、物価見通しが思うように上昇しなかったときだ。その時こそ「金融政策だけでデフレ脱却は難しい」との世論が巻き起こればいいが、追加緩和を求める空気が形成されないとも限らない。
もう一つが、このところ再燃しつつある欧州危機によって、またも円高に振れたときだろう。
喉元を過ぎて熱さを忘れた官邸周辺からは、早くも「消費増税は見送る」との声すら上がり始めた。利払い費の低位安定にあぐらをかいて財政健全化の道筋を示さなければ、それだけでも金利急騰につながる恐れはある。
世論の期待に応えて日銀が踏み出した短期決戦は吉と出るか凶と出るか。壮大なる実験が始まった。
円安で笑い、金利低下で恩恵
それでも弱い設備投資への意欲
超弩級の金融緩和の衝撃は、日本企業にも波及している。急激に円安が進行し、株高や長期金利の急低下で、ビジネス環境が一変、一部の業種や企業に追い風となって吹き付けている。
笑いが止まらないのは、自動車業界だ。東日本大震災などから反転攻勢中に円安の追い風を受けただけに、それもうなずける。
例えば、トヨタ自動車は対ドルで1円円安だと400億円、対ユーロだと50億円の営業利益の増益要因となる。ホンダは対ドルで160億円、対ユーロで10億円と縮むが、それでも途方もない金額だ。
拡大画像表示
グラフを参照してほしい。3月の日本銀行の企業短期経済観測調査(短観)での2013年度の主要輸出産業の想定為替レートと、実際のレートの乖離を示したものだ。各産業とも軒並み80円台後半に集中する中、自動車は84.31円(13年度上期)と保守的で、この急激な円安で大幅な増益が確実視されている。「自動車にぶら下がる産業の裾野は広いので期待している」(大手化学幹部)と、他産業から熱い視線が注がれている。
一方、同じ輸出産業でも「自動車と対極にあるのが電機業界」(同)。
パナソニックの3月末の中期経営計画発表会見。津賀一宏社長は「自動車メーカーさんに怒られるかも」と苦笑いしつつも、「円安に振れ過ぎないでほしい」と本音を吐露した。
実は、デジタル家電が死に体となり、残された大きな収益の柱となっている冷蔵庫などの白物家電は海外に生産拠点を移管済み。つまり円安は逆風となる。
とりわけ、深刻なのが再建に苦しむシャープだ。液晶事業が大赤字を垂れ流す中、白物家電と複写機は最後の砦。それが、この円安で為替差損が拡大しており、赤字事業に転落しかねない事態に陥っている。電機業界が輸出産業というのは過去の残像にすぎない。
資金調達を前倒し
溶け始めた企業心理
株高で恩恵を受けている企業も少なくない。代表的なのが保険業界。例えば東京海上日動火災保険は13年3月末の株の含み益が1兆数千億円に上ったが、その後も含み益は増えている。
自動車の好調ぶりなども反映し、「円安で輸出が活発化している」(大手損害保険幹部)ため本業の保険料収入も増加傾向にある。損保大手3社の海上保険の3月の保険料収入が計約273億円と、前年同月比で約24%も増加しており、この流れはしばらく続きそう。
株高以上に企業への影響が全般的に及ぶのは、金利の低下だ。
「より低い資金調達手段を利用するのは当然で社債の発行を検討している」。ホンダ幹部はこうきっぱりと言い切った。日産自動車、NTTも、4月中に前倒しで1000億円規模の資金調達に動く。日産は「起債のタイミングが合っただけ」としているが、有利な発行条件になることは間違いない。
「資金需要がない」──。金融機関が口癖のように嘆いていたにもかかわらず、根雪のように固まった企業のマインドが溶けだした。「今はまだ借り換えが中心」という冷ややかな見方もあり、住宅ローン中心だが銀行の貸出残高も若干増加に転じた。
本格的な景気回復サイクルに向かうには、調達した資金が設備投資に回るかどうかによる。「金利が下がろうが、株の含み益で儲かろうが、過剰設備の状況下では蚊帳の外」(新日鐵住金幹部)、「設備投資の計画を変えることはない」(コマツ幹部)と、現状では様子見を決め込む企業が多いのが実態だ。
絶好調の自動車でさえ、「海外シフトの動きが鈍化する」(アナリスト)という程度だ。本格的な景気回復への道のりはまだ遠い。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池田光史、河野拓郎、中村正毅、宮原啓彰)
http://diamond.jp/articles/print/34838
国債購入、日程増やす検討を=市場との意見交換で日銀幹部
2013年 04月 17日 21:26 JST
[東京 17日 ロイター] 日銀は17日夕、金融機関の役員を集めた11日の会合に続いて現場レベルの担当者らとの意見交換会を開催した。参加者からは、日銀が買い入れる1回当たりの国債の量を減らし、月5、6回としている回数を増やすべきとの意見が出され、日銀は、こうした声を踏まえ、実際に回数を増やすことが可能かどうか検討に入る方向だ。
日銀幹部が会合後、記者団に明らかにした。公式な場での市場参加者と意見交換会は、黒田日銀が異次元緩和に踏み切って以降、2回目。オペ対象となっている31金融機関から31人が出席した。
会合では長期国債の購入手法や、年限ごとの割り振りについての意見が相次いだ。日銀が買い取る国債は月額7.5兆円で、1回当たりに均しても1兆円超が吸い上げられる状況の下、相場変動がより激しくなったためだ。「1回当たりの購入額をより少額にし、回数そのものを増やしたらどうかとの声が多かった」(日銀幹部)という。
焦点となっている購入日の事前公表については意見が分かれたという。「購入日をめぐる思惑から市場が乱高下するぐらいなら、事前に分かっていた方がいい」との声がある一方、参加者の間では「手の内を明かすことはかえってボラティリティを高める」、「(1回の購入量を)小さいロットに変えられるなら、事前に公表する必要性は低下するのでは」などの声も上がった。
一方、国債先物取引の決済に使用される受渡適格銘柄を買い取りの対象にするかどうかに関しては、「日銀が買うとスクイーズが起きる」と、参加者からは消極的な意見が出されたいう。
(ロイターニュース 山口貴也、伊藤純夫 編集:山川薫)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00720130417
フランス2017年の赤字削減目標を緩和
2013年 04月 17日 23:22 JST
[パリ/ベルリン 17日 ロイター] フランスのモスコビシ経済・財務相は17日、2017年までの経済見通しを閣議に提出し、17年の財政赤字削減目標を達成できない見込みであることを明らかにした。
それによると、2017年の財政赤字は国内総生産(GDP)比0.7%と、当初目標の0.3%から引き上げた。
ただ景気循環の影響を除く構造ベースでは2016年にGDP比0.2%、2017年に0.5%の黒字を見込む。
公的債務は2014年がGDP比94.3%に達する見通しとしている。当初は90.5%と想定していた。
財政見通しの前提となる成長率予想は、今年がプラス0.1%、2015―2017年は平均2%としている。
財政見通しは来週、議会に提出される予定。
欧州連合(EU)が定める財政再建目標の達成が想定より遅れるとの仏発表を受け、独財務省のコットハウス報道官は、EUの全加盟国は、同じ財政再建目標の達成で合意しているとの見解を示した。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00H20130417
ECB、経済指標が正当化するなら利下げの可能性=独連銀総裁
2013年 04月 18日 00:45 JST
[フランクフルト 17日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)理事会メンバーのバイトマン独連銀総裁は、経済指標が正当化すれば、ECBは追加利下げを行う可能性があるとの見解を示した。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)が17日、伝えた。
総裁は金利について問われ、「新たな情報に基づき、調整する可能性がある」と答えた。一方で「金融政策スタンスが重要な問題だとは思わない」とも述べた。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00R20130417
米BOAの1−3月:利益が予想下回る、住宅金融事業が不調 (21:31) 米銀バンク・オブ・アメリカ(BOA)の2013年1−3月(第1四半期)決算では、利益がアナリスト予想を下回った。住宅金融事業が不調だった。株価はニューヨーク市場の時間外取引で一時3.3%下落した。
記事全文
NY外為(午前):ユーロ一段安、当局者発言報道でECB利下げ観測 (00:19)
ECBはユーロ押し下げへ行動を起こすだろう−ビニスマギ元理事 (23:29)
米モルガンSは日本株の短期下落を予想、ゴールドマンや野村に挑戦状 (00:01)
シティとBOA口座の野村資金を差し押さえへ−伊パスキ捜査で検察 (20:39)
キプロス、数カ月以内に金準備売却の見通し=財務相
2013年 04月 17日 19:36 JST
[ニコシア 17日 ロイター] キプロスのジョージアデス財務相は17日、同国は「今後数カ月以内に」金準備の一部を売却するとの見通しを示した。ただその上で、最終的な決定は中央銀行にかかっていると述べた。
欧州委員会が準備したキプロスの資金調達ニーズに関する評価によると、キプロスは欧州連合(EU)/国際通貨基金(IMF)からの100億ユーロの支援のうち自力で一部資金を調達するため、金準備を売却して約4億ユーロを調達する必要がある。
キプロスは先週、金準備の売却について同国向け支援プログラムへの拠出金調達に向けた選択肢に含まれていることを確認したが、最終的な責任は中銀が担っているとしていた。
ジョージアデス財務相は、ブルームバーグテレビに対し「金に関しては中銀に最終決定権がある」と語った。金の売却規模や価格には言及しなかった。
金の売却について政府は中銀のサポートを得ているかとの質問には「それについては近く検討されることを望んでいる」と述べた。
中銀の報道官は先週、金準備の売却は現時点で議題ではないと述べていた。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE93G05K20130417
ポルトガルが緊縮策の違憲判断後初の入札、1年物TB利回り上昇
2013年 04月 17日 23:34 JST
[リスボン 17日 ロイター] ポルトガルが17日実施した短期証券(Tビル)入札で、1年物Tビルの利回りが上昇した。今回の入札は、ポルトガルの憲法裁が今月初めに同国の緊縮策の一部に対し違憲判断を下してから初めて。
ポルトガルの債務管理庁(IGCP)によると、1年物Tビルの利回りは1.394%と、2月に実施された前回入札の1.277%から上昇した。応札倍率は2.1倍。
同時に実施された3カ月物Tビルの利回りは0.743%と、3月に実施された前回入札の0.757%から低下した。応札倍率は4.8%倍。
調達額は1年物Tビルが15億ユーロ、3カ月物が2億5000万ユーロとなり、目標総額17億5000万ユーロ(23億ドル)すべてを調達した。
クレディ・アグリコルの債券ストラテジスト、オーランド・グリーン氏は、憲法裁の判断を受け、ポルトガルの緊縮財政への取り組みが困難になるとの見方から、やや警戒感の高まりがみられたと指摘した。
ポルトガルの憲法裁判所は5日、政府が2013年予算に盛り込んだ財政緊縮策で、年金受給者への支払いや失業手当など4項目について違憲との判断を下した。これを受け、ポルトガルの財政再建計画が逸脱し、債券市場への復帰を遅らせる可能性があるとの懸念が高まった。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00L20130417
米FRB、雇用の責務をこれ以上重視すべきでない=地区連銀総裁
2013年 04月 17日 23:41 JST
[ニューヨーク 17日 ロイター] 米セントルイス地区連銀のブラード総裁は17日、米連邦準備理事会(FRB)は引き続きインフレを注視すべきであり、最大雇用の責務にこれ以上重きを置くべきではないとの見解を示した。講演原稿で述べた。
総裁は、雇用市場が深刻な問題を抱える状況下でも、物価安定に政策の主眼を置くべきとする研究結果に触れ、「FRBは失業をより重視すべき、との考えは極めて非生産的な可能性がある」と指摘した。
その上で、研究結果は「金融政策だけでは雇用市場の複数の問題について効果的に対処できないため、より直接的な雇用政策を活用することが肝要」であることを示しているとした。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE93G00N20130417
仮想通貨:デジタルの世界の「金採掘」
2013年04月18日(Thu) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37609
(英エコノミスト誌 2013年4月13日号)
ビットコインは、たとえ崩壊したとしても、金融界に影響を与えるかもしれない。
1999年、ショーン・ファニングという18歳の青年が音楽業界を永遠に変えた。レコード会社から高いCDを買う代わりに、個人が音楽ファイルを交換できるようにする「ナップスター」というサービスを開発したのだ。
訴訟が相次ぎ、ナップスターは2001年7月に閉鎖された。だが、その発想は「ビットトレント」などのピアツーピア(P2P)のファイル共有ソフトという形で生き続けた。ナップスターというブランド名は今も合法的な音楽ダウンロードサービスによって利用されている。
ナップスターの物語は、同様の技術に基づくデジタル通貨「ビットコイン」に関する熱狂を説明する助けになる。ビットコインの1単位の価格は1月時点で約15ドルだった(ビットコインは少額取引のために小数点第8位まで分解できる)。
4月11日に本誌(英エコノミスト)が印刷に回された時点で、ビットコインは179ドルで安定しており、流通しているすべてのビットコインの価値が20億ドルになっていた。
膨れ上がる「ビットコイン・バブル」
ビットコインは世界で最も熱い投資先の1つになっている。ソーシャルメディア、最新のものを探し求めて自由に動く資本、そして恐らくはキプロスでの最近の出来事で取り乱した銀行預金者によって膨らんだバブルだ。
ナップスターと同じように、ビットコインは崩壊するかもしれないが、永続的な遺産を残す可能性がある。
実際、ビットコインは4月10日に急激な調整を経験した。この日は一時、価値の半分近くを失い、その後急回復している(図参照)。
たが、ビットコインに関しては、価格は最も面白みに欠ける部分だ、と小売業者向けにビットコインの支払いを処理する企業ビットペイの創業者トニー・ガリッピ氏は言う。
価格以上に重要なのは、電子商取引を今よりずっと容易にするビットコインの力だ。
ビットコインは、唯一のデジタル通貨でもなければ、唯一の成功したデジタル通貨でもない。仮想世界「セカンドライフ」のゲーマーたちは、「リンデンドル」で支払う。中国のネット大手「テンセント(騰訊控股)」の顧客は「QQコイン」で取引する。フェイスブックは「クレジット」を販売している。
仮想通貨はビットコインだけではないが・・・〔AFPBB News〕
ビットコインが際立つのは、他のオンライン(そしてオフライン)通貨と異なり、中央銀行のような単一機関によって創造・管理されていないことだ。
代わりに、ビットコインの「金融政策」は利口なアルゴリズムによって決定される。新しいビットコインは「採掘」されなければならない。つまり、ユーザーは、自分のコンピューターに複雑な数学的問題を解く競争をさせることで新しい通貨を獲得できるのだ(勝者は仮想現金を得る)。
コインそのものは単に数字の羅列だ。それゆえビットコインは完全に分権的な通貨であり、いわばデジタルの金のようなものだ。
ナゾの日本人(?)が開発した技術
ビットコインの発明者であるナカモト・サトシ氏は謎めいたハッカー(あるいはハッカー集団)で、2009年にビットコインを生み出し、2010年のある時にインターネットから姿を消した。この通貨の初期の利用者は大抵、国家管理から抜け出すことを決意した技術好きのリバータリアン(自由至上主義者)や金の投資家だった。
ビットコインが使われている最も悪名高い場所は、「トール」と呼ばれるウェブの匿名通信部分に隠れた市場「シルクロード」だ。ユーザーは、品物――通常は違法薬物――を注文し、ビットコインで支払う。
一部の合法的な企業もビットコインを受け入れ始めている。その中には、ソーシャルメディアサイト「レディット」や、ブロガーにウェブホスティングやソフトウエアを提供する「ワードプレス」などがある。小売業者に対する訴求力は強い。
ビットペイのような企業は、スポット価格でのドルへの交換サービスを提供している。手数料は通常、クレジットカード会社や銀行が請求するよりもはるかに安く、特に海外からの注文の場合はそれが顕著だ。そして、ビットコインの取引は取り消しができないため、詐欺によって小売業者が損失を被る状態に置かれることもない。
だが、カリフォルニアに拠点を置くビットコイン取引所で、ユーザーが自分のデジタル財産を保管できる「お財布サービス」を提供しているコインベースの共同開発者フレッド・アーサム氏は、ビットコインが主流になるためには、多くのことが起こらなければならないと言う。
初めてビットコインを手に入れるのは難しい。また、ビットコインを使うのは骨が折れる。ハッカーに盗まれることもあるし、洗濯機の中のドル紙幣のように単になくなってしまうこともある。いくつかのビットコイン取引所は過去2年ほどで、盗難や崩壊に見舞われた。
その結果、ビットコインの事業は統合が進んだ。最大の取引所が「Mt.Gox(マウントゴックス)」だ。東京に本拠を構え、2人のフランス人が運営しているマウントゴックスは、ビットコインとドルの取引の約80%を処理している。このような事業が失敗すれば、ビットコインは大打撃を受ける。
事実、4月10日の価格急落を引き起こしたのは、マウントゴックスのソフトウエアの障害だった。その結果、多くのビットコインユーザーがパニックに陥った。
ビットコインの法的地位も不明確だ。米国の政府機関、金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は3月18日、ビットコインの取引所を規制するよう提案した。この提案は、FinCENがビットコインの取引所を閉鎖する可能性が小さいことを示唆している。
技術的な問題も克服しなければならない、とビットコインの専門家マイク・ハーン氏は言う。ネットワークに参加するユーザーが増えるにつれ、(それぞれのビットコインの所有者を確認するために)ユーザー同士の間を流れるデータ量が増え、システムの動きが遅くなる。
技術的な解決策が助けになる可能性はあるが、その展開は難しい。すべてのユーザーがビットコインのお財布と採掘ソフトを更新しなければならないからだ。ハーン氏は、ビットコインは自身のためにならないほど急成長するのではないかと懸念している。
リップルの波及効果
だが、本当の脅威は競争だ。ビットコインの支持者は、法定貨幣と異なり、新しいビットコインは思いつきで創造できないと指摘したがる。確かにそうだが、新しいデジタル通貨は思いつきで創造できる。
既に別の選択肢が開発途上にある。ビットコインによく似た「ライトコイン」がその1つだ。これまでのところ、ライトコインはごく少数の筋金入りのギークによって利用されているだけだが、これも最近価格が急騰している。噂によれば、ライトコインは間もなくマウントゴックスで取引できるようになるという。
もう少し社会性のある代替手段は「リップル」だ。シリコンバレーで事業を次々立ち上げた起業家で、リップルを開発した新興企業オープンコインの共同創業者クリス・ラーセン氏は、リップルはビットコインよりもはるかに使いやすくなると言う。
典型的なビットコインの取引が確認に10分かかるのに対し、リップルの取引は数秒で承認される(あるいは拒否される)。リップルの起源に謎めいたところはないし、犯罪行為やその他の怪しげな行為との関連も(まだ)ない。
オープンコインは、5月にリップルを一般に分配し始めると見られている。同社は1000億リップルを作り出しており、この数字は決して増やさないと約束している。
新たな通貨に弾みをつけるため、オープンコインは最終的に供給量の75%を分配する計画だ。オープンコインの口座を開設する人は全員、5リップルを受け取る。既存のビットコインユーザーはそれより多くのリップルを手に入れるという。
オープンコインが持ち続ける25%は、リップルを強い通貨にする大きなインセンティブになる。価値が上がれば上がるほど、オープンコインが売却された時に同社の投資家が得る見返りが大きくなるからだ。4月10日、流行の最先端を行くアンドリーセン・ホロウィッツなどの一流ベンチャーキャピタル数社がオープンコインに投資したと発表した。
ビットコインが残す足跡
リップルが勢いを増せば、さらに大きな金融機関が競争に参加するかもしれない。ビザのような企業は、安価な即時国際決済システムを構築する可能性がある、とビットペイのガリッピ氏は指摘する。そして国がアルゴリズムの通貨を発行したらどうなるだろうか?
その時点で、ビットコインは恐らく破綻するだろう。だが、実際にそうなれば、ビットコインを生み出した人たちは、ファニング氏のようなことを達成したことになる。
ナップスターなどのファイル共有サービスは、音楽業界に「アイチューンズ」や「スポティファイ」のようなオンラインサービスを受け入れさせた。ビットコインの価格は崩壊するかもしれない。ユーザーが突然別の通貨に乗り換えるかもしれないからだ。
だが、恐らくは、何らかの形のデジタル通貨が金融の世界に永続的な足跡を残すことになるだろう。
田嶋智太郎の外国為替攻略法
2013年04月17日
2年で2%なら1ドル=120円?
4月初旬に日銀が決定した「異次元緩和」の内容を受けて、英バークレイズのチーフエコノミスト、ジュリアン・キャロー氏は「2年で2%の(物価目標)達成には1ドル=120円まで円安が進む必要がある」と述べました。今後、実際に日銀が長期国債の購入残高を2倍超の水準に増額させるならば、それに連れてマネタリーベース(=資金供給量/金融機関が日銀に預けている当座預金と市中に出回っている現金を合わせた額)もほぼ2倍となり、結果的に物価高と円安が同時に進む可能性は十分にあります。
下図に見るとおり、1982年10月にドル/円が278台円の高値をつけて以降、長らくの価格推移には、大よそ8〜9年ごとに主要な高値をつけるパターン(=サイクル)が認められています。近過去における主要な高値というのは、2007年6月につけた124円台の水準を指していることから、その8〜9年後は2015〜16年あたりということになります。つまり、それは今から約2年後のことであり、日銀が2%の物価目標達成期限としている時期ともほぼ重なります。
ちなみに、日銀は量的・質的金融緩和の取り組みについて「これを安定的に持続するために必要な時点まで継続する」と明言しています。つまり、2%の物価安定目標に到達したからといって、すぐさま金融緩和策の規模を縮小し、ほどなく撤退するというわけではないのです。よって、今から2年+αの期間は、基本的に円安傾向が続く可能性が高いと言うことができるでしょう。その目標水準は、やはり07年6月高値の124円台+αということになるのではないでしょうか。
今から2年後の2015年と言えば、本来、日本の消費税率が段階的に10%まで引き上げられていなければならない時期にあたります。よって当然、それまでに消費税増税実施の大前提となる「実質2%、名目3%」の経済成長率の目標達成と同水準の安定的な維持にメドがついていなければなりません。万が一にも、それが難しい状況となれば、消費税増税の目標は果たされず、財政再建の太い道筋の一つが断たれるとの懸念が強まることとなります。もちろん、それは相当に強い円売り圧力となるはずです。
加えて、2015年あたりまでの間に一段と日本の貿易赤字が膨らめば、いよいよ通年の経常収支において黒字確保が難しくなるとの懸念も強まることでしょう。ひとたび通年で経常赤字に陥ることとなれば、もはや「日本売り=円売り」の流れに歯止めがかからなくなる恐れもあります。だからこそ、アベノミクスは今後2年間、政策総動員で髪を振り乱して、経済成長、輸出促進、財政破たん回避に取り組まねばならないのであり、そのファースト・ステップとしてのデフレ克服=円高是正を何としてもやり遂げなければならないのです。
すでに、目の前の円安やそれに伴う物価上昇に嫌気を表明する向きもありますが、ここは少々ガマンしなければなりません。でないと、それこそ「目も当てられないほどの円安進行」と「悪い物価上昇」に見舞われる可能性があるからです。4月初旬の日銀の決定を受けて、英フィナンシャルタイムズ紙の社説が「実際のところ、これ以外に選択肢はなかった」と評したのも納得と言えます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役
前の記事:当面のドル/円の上値余地は限られてきた? −2013年04月10日
http://lounge.monex.co.jp/pro/gaikokukawase/2013/04/17.html
日銀金融政策決定会合におけるキーワード「2」
4月3日、4日の日銀金融政策決定会合を受け、4月5日に長期金利は0.315%まで低下、過去最低利回りを更新しました。つまり債券価格が上昇しているということで、機関投資家が債券を多く買っているわけです。
今回の会合では、数字の「2」がキーワードとなりました。日銀は、物価安定目標として前年比で上昇率2%を2年程度で達成するとしました。また、マネタリーベース、長期国債ETFの保有額を2年間で2倍にするとしました。こうしたことを受けて、日銀が債券を買うので債券価格は下がらないという見通しから、会合の結果が出た翌営業日に機関投資家が債券を買いに動き、0.315%まで利回りが低下したということなのです。あるシンクタンクの予測ではさらに利回りは下がるとも見られています。
しかし一方で、最低利回りを更新した後には一旦利益を確保しようという動きが出て、債券は大きく値下がりしたのです。債券にも株のストップ高ストップ安のようなシステムがあり、これをサーキットブレーカーと言います。債券の場合は、価格が上下に1円動いたら一旦取引を止めるというルールになっています。また、このサーキットブレーカーは一度発動されると、2度目は倍の2円動いたときに取引を止めるという仕組みになっています。
今回は一度1円下がって発動され、再び2円下がったので二度目のサーキットブレーカーが発動されました。合わせて3円、大幅に債券価格が下がったのです。債券市場はパニックにこそなりませんでしたが、この下げはある意味暴落と言えます。このようなことは過去にも珍しく、サーキットブレーカーの発動は2008年10月14日、リーマンショック以来のことです。
その後は持ち直し、利回りが低下している債券市場ですが、このような水準での推移が続けば債券で運用する価値がなくなるのではないかという懸念が浮上します。利回りが0になってしまえば、債券価格には上昇の余地がありません。債券先物は6%が前提で運用しているので価格が形成されるのですが、実際に利回りがここまで低下すると生損保などが運用するリターンが期待できなくなってしまいます。日銀が債券を買うことによって、必然的に運用している機関投資家が日本国債では運用が成り立たなくなるのです。
そこで、円安になってきていることもあり、機関投資家が日本国債を売り、外国債券に投資する可能性が高まってきます。ただし、機関投資家が売っても日銀が買うので、日本国債の価格は保たれます。このように機関投資家が日本国債を売って外国債券を買うことになると、円を売ってドルを買うので更なる円安に繋がると考えられるのです。
日銀は2年間で2%のインフレを目標にした金融緩和として、国債を買ってお金を市中に流し、マネタリーベースで銀行に貸し出すお金も増やすということを言っています。しかし、実際の実需で円を売ったりドルを買ったりお金が動かないと絵に書いた餅になってしまいます。価格を支えて金利を低下させ機関投資家を運用難にさせることによって、日銀は外債に投資が向かうことを促しているとも言えるのです。強制はしないものの、運用の魅力がないことで自然と外債にお金が向かうのです。これは介入と同じようなことであり、円安を保つことができるのです。なおかつ先物やFXなどではなく、実需のお金が流れるので、実際に市中にお金が流れて円が売られるということです。
日本から海外へのお金のシフトが起こることで更に円安になり、製造業にとっては円安効果が続くことになります。それを利用してうまく競争力を付けることができれば、日本株がまだまだ買われるという期待も一段と高まると言えます。
これまでの日銀は、金融緩和は効果がないと言ってきたのですが、大きく方針転換をしたことによって実際に大きな効果に繋がるのか、投資家目線でしっかりと見て資産配分を考えていく必要があるでしょう。
上昇相場で見るべきテクニカル指標とは?
日経平均のチャートを見てみましょう。上昇が続く中、どこで買っていいのか分からないという声をよく聞きます。こういう時の買いのポイントは、どのようなチャートを使うかです。
MACDというチャートはオシレーター系といわれる上下の振幅でタイミングを測るものですが、これは売りシグナルがいろいろなところに出てくるのでこのような場合にはとても不向きです。こうしたときにポイントになるのはトレンド系のチャートを見ることで、ボリンジャーバンドの+σ(シグマ)のラインを抜いたら買うというような手法です。トレンドというのは安値を更新しないからこそ上昇トレンドがあるのです。高値を更新したり、直近の高値を抜いたりすればトレンドが上向いていることの示唆になります。
上がっているところを買うという強気の考え方もありますし、一方、下げた後に戻し始めたら買うという考え方もあります。その時の基準になるのは5本線あるボリンジャーバンドのうち、真ん中の移動平均線や+σの線なのです。そこまで下がってきて反発したところを買っていけば基本的にはトレンドは上向きですから、仮に戻りが鈍い場合でも少し時間が経てば上がってくるので、右肩上がりの相場に付いていけるというということになります。
注意するのは高くなりすぎたところです。ボリンジャーバンドで+2σを超えているところなど勢いはいいのですが、持っている人は売らなくてもよいものの、買ってしまうとすごく長い上ひげになっているところもあるので高値づかみをしてしまう可能性があります。また、ボリンジャーバンドの真ん中を割り込んでしまった時なども買うのは様子を見た方がよいでしょう。その後に反発してきたところを買えばよいのです。さらに、高くなり過ぎのところを買わないようにするためには移動平均線との乖離率も参考になります。52週移動平均線との乖離が30%を超えてきた時は警戒信号です。
高値は買わず、でも相場が上昇してしまうという状況になると心理的にはどうしようかと焦り、迷ってしまうものですが、可能ならこのように上昇トレンドができる前に上向いた段階で付いていくというのが一番のポイントです。上昇トレンドができてかなり高くなっている時には、やはり短期的な考え方で買って利益が出たら一旦売るという利益確保を優先するやり方をしていかないと危険と言えます。
講師紹介
ビジネス・ブレークスルー大学
資産形成力養成講座 講師
株式会社インベストラスト 代表取締役
IFTA国際検定テクニカルアナリスト
福永 博之
テクニカル分析講座のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
詳しくはこちら
その他の記事を読む
株式投資初心者の陥りやすいミス
http://www.ohmae.ac.jp/ex/asset/column/20130417_140057.html
【第1回】 2013年4月18日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【新連載】
円安が進んでいるが、実体経済は停滞したまま
日本銀行が新しい金融政策を決定した。今後2年間でマネタリーベースを2倍に増加させ、消費者物価指数上昇率を2%にするとしている。
これを受けて、株価が上昇している。「円安が進行して輸出が増大する。輸出関連企業の利益が増大し、株価が上がる。日本経済は長く続いた停滞から脱却しようとしている」と考えている人が多い。
この期待は、実現されるだろうか? 以下では、この問題について考えることとしよう。
資産価格は、実体経済の動向から
乖離してバブルを起こす
最初に注意すべきは、「株価や為替レートは、しばしば実体経済の動向から乖離する」ということだ(このような文脈での実体経済は、しばしば「ファンダメンタルズ」と呼ばれる)。
株価や為替レートは資産価格であり、「期待」、つまり将来の見通しに影響される。何らかの理由によって将来への期待が好転すると、ファンダメンタルズに何の変化がないにもかかわらず、価格が上昇する。価格上昇がさらに需要を増やし、投機的な取引も増えるので、ファンダメンタルズから乖離した価格上昇が続く。これが、「バブル」だ。
それに対して、実体経済は、期待が変化しても、それによって直接に動かされることはない(ただし、まったく独立であるわけでもない。これについては後で述べる)。
これから述べることのおおよそのストーリーをあらかじめ示すと、つぎのとおりだ。
日本経済の現状を見ると、円安が進み、株価が高騰しているにもかかわらず、実体経済の動向ははかばかしくない。好転していると考えられる側面はほとんどなく、悪化している側面が多い。
したがって、ここ数カ月間の株価高騰は、ファンダメンタルズの好転によって引き起こされたものではなく、将来への過大な期待が醸成されたことによるバブルであることが、ほぼ確実だ。
もちろん、実体経済の停滞的状態が、今後も継続するというわけではない。しかし、円安や株価高騰が実体経済を改善する可能性は、今後も小さいのである。
実体経済が改善するのは、短期・中期的に見れば、世界経済が好転して日本の輸出数量が増加する場合である。
長期的に言えば、日本に生産性の高い新しい産業が生まれ、縮小する製造業からの雇用の受け皿になる場合だ。それこそが、日本を再生させる唯一のルートだ。そして、これは、金融政策によって実現されることではない。
金融緩和が
引き起こす諸問題
他方で、金融緩和は、さまざまな問題を引き起こす。とりわけ問題なのは、つぎの3つだ。
1. 円安とインフレの見通しが高まると、キャピタルフライト(資本逃避)が生じる危険がある。いったんこれが起こると、コントロールは難しい。キャピタルフライトは円安を加速し、それが輸入価格の高騰をもたらす。かくして、スパイラル的な円安・インフレの過程に落ち込む危険がある。
2. 今回の日銀決定による国債購入額は、新規国債の発行額より大きい。したがって、「財政赤字がいくら拡大しても、日銀が買ってくれるから問題ない」という考えが支配的になる。そして、財政規律が弛緩し、財政赤字が拡大する。実際、社会保障制度の改革は焦眉の急であるが、ほとんど忘れ去られている。何らかのきっかけで金利が高騰すると、金融機関の資産悪化、国債利払い費の増大など、きわめて大きな問題が起きる。
3. 本来必要とされる企業のビジネスモデルの見直しがなおざりにされる恐れがある。日本の電機産業は、ビジネスモデルの抜本的な再編成を求められている。ところが、赤字が予想される企業も含めて、企業業績の改善を遥かに超える株価上昇が生じている。これによって真の問題が覆い隠されてしまい、問題が深刻化する。
以上のように判断される基本的な理由は、実体経済が改善せず、したがって資金需要が増えないと考えられることだ。そこで、今回の金融緩和の金融的側面を考えるに先立って、実体経済の動向について見ておくことにしよう。
円高の期間に
実質輸出が増大した
将来を考えるにあたっては、いま何が起きているかを正確に把握しておくことが不可欠だ。そこで、ここ数年の実体経済の推移を見ることから始めよう。
以下で見ることをあらかじめ要約すれば、「2012年11月以降の円安の進展は、輸出数量や国内生産に影響を与えていない」ということである。
実体経済の動向を見るためのもっとも確実なデータは、実質GDP(国内総生産)だ。現在得られる最新のデータは、2012年10−12月期のものだ。
ここ数年の季節調整済み実質GDPの需要項目別の推移(対前期伸び率の年率換算値)を見ると、図表1に示すとおりである。
拡大画像表示
まず注目されるのは、輸出の変動が、経済全体の変動に大きな影響を与えていることだ。より詳しく見ると、つぎのとおりだ。
リーマンショック後の2008年10−12月期、09年1−3月期に、実質輸出は、それぞれ-45.3%、-68.8%というきわめて大きな減少を記録した。実質GDPが落ち込んだ大きな理由は、このように輸出が急減したことだ。
その後、輸出は高い伸びで増加した。落ち込んだことの反動もあるが、それだけではない。
実質輸出の実額を見ると、単なる反動とは言えないことがよく分かる。図表2に見るように、10年10−12月期(4Q)まで、実額が増加し続けたのである。これは、主として中国への輸出が増大したからだ。そしてこれは、中国が強力な景気刺激策をとったからである。
拡大画像表示
この時期には顕著に円高が進行したにもかかわらず、このように輸出が伸びたことに注意が必要だ(ただし、実質輸出が経済危機前のピークを回復することはなかった。これは、経済危機前の輸出が、アメリカの住宅バブルに支えられたものだったからだ)。
輸出が増加したため、GDPの伸び率も高まった。09年10−12月期(4Q)から10年7−9月期(3Q)にかけては、とくにそれが顕著だった。
ところが、大震災後に輸出が急減し、これがGDPのマイナス成長をもたらした。その後回復したが、12年7−9月期から、実質輸出が再び大きく減少した。
円安が顕著になった12年10−12月期においても、輸出が減少していることに注意が必要だ。図表2の実額で見ると、12年1−3月期をピークとして、それ以降は継続的に減少しているのである。これは、中国経済の減速とヨーロッパの景気後退によるものだ。10−12月期の実質輸出は、大震災後の11年4−6月期よりさらに低い水準だ。
震災による落ち込みをならして見れば、図表2に見るリーマンショック後の実質輸出の推移は、つぎの3つの期間に区別される。
(1)落ち込みからの回復期:10年7−9月期頃まで
(2)安定期:10年7−9月期頃から12年4−6月期まで
(3)減少期:12年7−9月期以降、最近時点まで
しばしば、「リーマンショック後の急激な円高が日本の輸出の競争力を低め、それが日本経済回復の障害になっている」と言われた。しかし、上で見たように、急激な円高の時代に、日本の実質輸出は(大震災の影響を除外すれば)、減ったのではなく、増えたのである。
この間に日本の実質輸出が増大した基本的な要因は、すでに述べたように、中国の経済刺激策など、世界経済のリアルな面での要因である。実質輸出に影響を与えているのは、為替レートではなく、世界経済のファンダメンタルズなのである。
この事実は、今後を考える場合にも、重要な意味を持つことになる。
実質純輸出と実質設備投資の落ち込みが
経済の足を引っ張る
2007年からの実質純輸出の推移を示すと、図表3のとおりだ(注)。
経済危機によって大きく落ち込んだあと、回復して、10年には07年の水準を超えた。しかし、大震災で落ち込んだ。その後回復したが、12年1−3月期をピークとして減少している。
拡大画像表示
12年10−12月期の水準は、08年10−12月期や09年4−6月期より少なくなっている。11年10−12月期に比べると5.1兆円ほど少ない。これは、12年10−12月期のGDPの約1%である。これだけ総需要が減少しているわけである。
大震災後純輸出が減少したのは、発電の火力シフトによって燃料輸入が増大し、実質輸入が増えたことが大きな原因だ。しかし、実質輸入は12年4−6月期をピークとして減少しているので、それ以降の実質純輸出減少の原因は、実質輸出の減少だ。
なお、図表2には、民間企業設備も示した。推移は、つぎのとおりだ。
リーマン前から減少。リーマン後はほぼ一定。10年に輸出が増えても一定。11年10−12月期に増加したが、その後減少。
輸出が増えても設備投資が増えないことに注意が必要だ。投資をしても海外投資になってしまうのだ。これは、04−07年頃とは違う傾向である。
12年7−9月期には、実質純輸出と民間企業設備が落ち込んだため、GDP成長率はマイナスになった。
10−12月期においてGDPがマイナス成長を免れたのは、住宅投資が高い伸びを示したからだ。これは、復興と住宅エコポイントによるものである。
株価は、リーマンショック直前の水準を回復した。
実質GDPがリーマンショック直前の水準にほぼ戻ったのは事実だ。しかしそれは、政府最終消費支出と公的固定資本形成が増えたことによる。
企業活動に関係する民間住宅と民間企業設備は、いずれもリーマンショック直前の水準を下回る。また、鉱工業生産指数も1割程度低い。
株価に直接関係するのは、企業利益だ。これは、リーマンショック直前の水準よりかなり低い。これについては、後で述べる。
(注)現実の貿易収支は赤字になっているが、実質の純輸出(実質輸出と実質輸入の差)は、図表3に見るように、黒字だ。実質値は、基準時点を変えると値が変わるので、こうした事態になる。したがって、純輸出の絶対水準を問題にするのは、適当でない。異時点間の比較をする場合に用いるべきだ。
円安にもかかわらず、輸出数量の
対前年比マイナスが続く
GDP統計は有用な統計であるが、タイムラグがある(2013年1−3月期の第1次速報が発表されるのは、5月16日)。
そこで、もっと最近の状況を把握するために、タイムラグがより短いデータを見ることが必要になる。タイムラグがもっとも短いのは、貿易統計だ。
貿易統計では、数量指数と価格指数が算出されている。数量指数は、実質輸出や実質輸入に近い。価格指数は、現地価格と為替レートに影響される。原油や食料品などを除けば、現地価格はそれほど大きく変化しないので、1年程度の期間を見ているかぎり、価格指数はほぼ為替レートの動きを反映していると考えることができる。
輸出数量指数の推移を見ると、図表4のとおりだ。
拡大画像表示
12年6月以降、対前年比マイナスだ。13年2月は、対前年比-15.3%ときわめて大きい。円安にもかかわらず、輸出数量は落ち込んでいるのである。
3月上中旬は、輸出金額の対前年比が1.9%。価格指数は20%程度のはずなので、数量の対前年比はマイナス18%程度のはずだ(速報値は4月18日に発表される)。
なお、JETRO(日本貿易振興機構)が算出する「ドル建て輸出額」は、数量指数に近いものだ。
13年2月は、前年比マイナス18.3%と、きわめて大きな落ち込みだ。
この原因として、今年は春節(旧正月)が2月だったことの影響があると言われる。実際、対中輸出の対前年比は、1月に-9.2%だったが、2月には-29.2%となっている。
ただし、寄与率で見ると、2月には、中国-5.4%、北米-2.4%、欧州-2.7%などだ。北米、欧州だけで-5.1%になる。つまり、落ち込んでいるのは中国だけではないのである。
季節調整後も輸出数量は
減少している可能性
ただし、以上で見た数字は、季節変動を含むものだ。季節変動を除去した場合に、ここ数ヵ月間で輸出数量が減少しているのか否かは、これまで見た数字では確実には分からない。この問題の答えは、正確には、GDP統計を見ないと分からないのである。
以下では、その数字が分かるまでの暫定的な評価を行なってみよう。
貿易統計においても、季節調整済みの値が「参考」として算出されている。その値を現実の価格指数で割った値の推移を見ると、図表5のとおりだ。
拡大画像表示
円安が始まった11月には、10月に比べて大きく減少した。その後増加したが、2月に大きく低下している。水準は12年3月以降で最低だ。したがって、季節調整後の値でも、円安が実質輸出を増やしているとは言い難い。
なお、すでに述べたように、今年2月の輸出は、中国春節の影響を受けている。しかし、上で算出した値の1月と2月の平均値0.858は、12月の数字0.872より小さい。
したがって、季節調整後・中国の春節影響除外後でも、輸出数量は減っている可能性が高いのである。
なお、前年に比べれば、大きく落ち込んでいることは確実だ。
輸出数量(正確には実質輸出)が円安によってどのように影響されるかは、今後の日本経済を考える上で、重要なポイントだ。
一般には、「輸出数量が増えないのは、一時的現象。円安が続くと、日本からの輸出の現地価格が引き下げられ、輸出数量が増加する」と考えられている。そうなるかどうかは後で検討するが、あらかじめ結論を言えば、そうはならない可能性が高いのである。
もちろん、輸出数量が将来増加する可能性はある。しかし、それは世界経済が好転して輸入が増えた場合のことである。円安によって日本の輸出の価格競争力が高まることによって輸出が増大するという事態は、生じないと考えられる。言いかえれば、今後の日本のGDPの状況は、主として海外の事情によって決まるのであり、日本の経済政策によって決まるのではない。
12年3月以降の生産の落ち込みは止まったが、
はかばかしい回復でない
では、国内における生産はどうか。
この状況は、鉱工業生産指数を見ることで確認できる。
拡大画像表示
図表6−Aに見るように、大震災で大きく落ち込んだ生産は、2011年夏頃までに回復した。しかし、その後は頭打ちになっていた。そして、12年3月以降は、低下に転じた。6月に若干上昇したことを除けば、継続的に低下していた。
12年12月になって上昇したが、継続的な上昇過程に入ったわけではない。2月は、わずかながら1月より低下している。
12年3月以降の低下が顕著であったため、現在の水準は、前年に比べると大幅に低い。13年2月の指数は、12年2月の指数より5.7%ほど低い。
大震災の影響をならしてリーマンショック後の状況を見ると、つぎのとおりだ。
(1)落ち込みからの回復期:2010年4月頃まで
(2)安定期:10年1月から12年4月まで
(3)低下期:12年3月頃から12年9月まで
(4)下げ止まり期:12年9月以降
先に見た実質輸出の動向(図表2)と比べると、つぎのとおりだ。
(2)の安定期の始まりは、輸出より若干早い。
(3)の低下期の始まりも、輸出より若干早い。
(4)の下げ止まりが実質輸出でも生じているのかどうかは、はっきりしない。しかし、9月は円安が始まる前なので、鉱工業生産における「下げ止まり」が円安の影響とは考えられない。
なお、2012年1月以降の状況は、図表6−Bに見るとおりである。
13年1−2月の平均89.1は、10−12月の平均87.8より1.2%ほど高くなっている。年率にすれば、4%程度になる。実質GDPがこれに比例すれば、年率4%程度の上昇だ。
拡大画像表示
これは円安の影響か?
そうとは考えられない。なぜなら、第1に、上で述べたように、「下げ止まり」は、円安の始まる以前に生じている。第2に、もし円安の影響なら、2月は1月より増加したはずだが、そうはなっていない。
このように、国内生産に関しても、円安が影響を与えている兆候は見られない。
●野口教授が監修された経済データリンク集です。ぜひご活用ください!●
●編集部からのお知らせ●
野口教授の最新刊『金融緩和で日本は破綻する』絶賛発売中!
安倍政権による金融緩和策が経済再生の「魔法の杖」のごとく喧伝されているが、いかに追加緩和がなされようと、デフレ脱却は見込めない。安易な緩和策は問題を先送りする「麻薬」でしかなく、その先に待っているのは、財政規律の弛緩と制御不能なインフレである。日本経済論の第一人者が金融政策の限界を検証する。
〈主な目次〉
第1章 金融政策はどう行なわれるか
第2章 効果がなかった量的緩和
第3章 大規模為替介入と円安バブル
第4章 日銀による財政赤字のファイナンス
第5章 金融緩和でデフレ脱却はできない
第6章 世界を混乱させるアメリカ金融緩和QE
第7章 金融緩和のエンドレスゲームに突入する世界
第8章 金利高騰は大問題
第9章 財政赤字と金融緩和で国家は破綻する
http://diamond.jp/articles/print/34876
2013年4月17日 ザイ編集部
【マーティン・ツバイクに学ぶ】金融政策の大きな変更は長期トレンド転換の重要なサインとなる!
マーティン・ツバイクの巻【第2回】
トレンド判断の名手は大暴落の回避も上手い
マーティン・ツバイク/米国で最も著名な株式市場アナリストの1人であり、市場トレンド分析の第一人者。約1兆円の資金を運用するという著名なファンドマネジャーでもある【イラスト/南後卓矢】
トレンド判断の名手マーティン・ツバイクは、上昇トレンドに乗ることには、もちろん長けているが、彼のさらに凄いところは、下降トレンドや暴落を避けることが上手いことだろう。
たとえば、1987年10月下旬、米国ではブラックマンデーと呼ばれる株価大暴落が起き、NYダウは2週間で2600ドル台→1700ドル台と約35%下落した。
しかし、ツバイクは、この暴落の直前に市場から警戒サインを読み取り、株の買いを手控えたばかりか、保険のつもりで買ったプット(株価が下落すれば儲かる金融商品)が大幅上昇して利益を手にすることとなった。
2年ぶり金融引き締めが株価暴落のサインに
ツバイクが暴落の可能性を察知した手がかりは、「金融政策」にあった。
この87年の状況を振り返ると、1月から8月にかけてNYダウが1900ドル台→2700ドル台と大幅に上昇していた。そして、株式市場が熱気に包まれる中、FRB(米国の中央銀行に当たる機関)は、9月初旬に政策金利(当時は公定歩合)を5・5%→6・0%と引き上げた。これは、「約4年ぶりの金融引き締め」であった。
ツバイクは、大きな金融政策の転換は、株価トレンドを転換させる最重要な原因と考える。ここで、ツバイクの考える「大きな金融政策の転換」とは、
・ずっと続いてきた金融政策の方向性(緩和か引き締め)が逆方向に転換する
・2年以上ぶりに、金融緩和か金融引き締めが行なわれる
ということだ。
つまり、「約4年ぶりの金融引き締め」は、ツバイクにとっては極めて重要な警戒サインだったのだ。そして、実際に、この警戒サインは見事的中することになったのだ。
日本株の大転換点でも金融政策がサインに
こうした金融政策と株価についての経験則は、日本株の歴史を振り返っても当てはまるケースが多い。
たとえば、80年代の歴史的なバブル相場においては、89年12月の3万8000円台というピークに向かうさなかで、89年5月に「約9年ぶりの金融引き締め」(このときは公定歩合引き上げ)が実施され、その後、10月、12月と連続して金融引き締めが実施された。そして、90年1月からバブル相場の大崩壊がスタートした。
また、2000年初旬をピークとするITバブルについても、同年初旬に「コンピュータ2000年問題に備えて大量に供給していた資金を吸収する」という形で、実質的な金融引き締めが行なわれ、その後、ITバブルが崩壊し始めた。さらに、同年7月には「ゼロ金利政策の解除」という金融引き締めが行なわれ、バブル崩壊を加速させた。
逆に、98年9月には「コールレートの誘導目標引き下げ」という形により約3年ぶりの金融緩和が行なわれたが、その後、日経平均は同年10月の1万2000円台を底に上昇に転じ、1年半後に2万円を突破した。
以上のように、金融政策には政策金利変更や量的緩和など様々なものがあるが、投資家としては、政策の方向性(緩和なのか引き締めなのか)を意識し、それが2年以上ぶりに転換されるなどの重要な動きがあれば、株価トレンドの転換のサインではないかと考えるべきだろう。
(文・小泉秀希 『ダイヤモンド・ザイ』2004年1月号より転載)
http://diamond.jp/articles/-/34640?page=2
【第65回】 2013年4月18日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
アベノミクスがまだわからない人へ
アベノミクスは金融政策がすべてといってもいい。そのキモは驚くほど簡単だ。ひとことでいえば、デフレ予想からインフレ予想への転換だ。人々のインフレ予想率を高めるわけだ。
ポイントはインフレ予想
どういう経路をたどるかと言うと、マネタリーベース(中銀当座預金と中央銀行券の合計)を増やすとインフレ予想が高まる。すると、実質金利(名目金利マイナスインフレ予想率)が下がり、株価(株高)と為替(円安)に効く。これは早く出る。今はその最中だ。円安になると輸出は半年から1年半ぐらいの間に増加し、株高になると消費は半年から1年半ぐらいの間に上向く。
実質金利が低下するので、設備投資は半年から2年ぐらいの間に伸びる。輸出、消費と設備投資が伸びてくると、ようやく物価や賃金が上がる。ここまで約2年間だ。設備投資について、企業は内部資金を最初に使うから、外部資金を借りるまでには時間がかかるので、3年ぐらい経たないと貸出は増えない。そうなると金利も徐々にあがるだろう。
ここで、ポイントになっているのは、マネタリーベースを増やすとインフレ予想が高まるということだ。実質金利が下がると、円安、株高になるのは従来の経済理論でもわかる。輸出、消費、設備投資が伸びるのも、従来の経済理論だ。要するに、マネタリーベースを増やすとインフレ予想が高まるのかという点だけが、ちょっと怪しいところだった。
筆者は、こうしたメカニズムを1998年から2001年までプリンストン大学で学んだ。あとでクルーグマンに聞いたら、プリンストンは金融政策の研究ではトップで、世界的な権威が集まっているとのことだった。彼は冗談めかして、プリンストンはインフレ目標陰謀団の本拠地であるといっていた。毎週開かれる金融政策のセミナーで、ベン・バーナンキ、アラン・ブラインダー、ウィリアム・ブランソン、マイケル・ウッドフォード、ポール・クルーグマンらは、日本をやり玉にあげながら、喧々諤々の議論をし、日本のデフレへの処方箋を語り合っていた。
世界トップクラスの経済学者がいうのだから、3年間は貴重な体験だった。2001年に日本に帰国した筆者にとって、学術的な議論はもう必要なく、早く実行すべき政策課題だった。
インフレ予想を「可視化」する
それには、インフレ予想を「可視化」しなければならない。小泉政権では竹中平蔵経済財政担当相がマクロ経済を担当していた。竹中さんとは二十数年来の旧知の仲だ。アメリカに留学するときもアドバイスを受け、竹中さんとアメリカでも会っていた。
竹中さんもアメリカの最新事情を知りたがっていた。そこでプリンストン大学時代の金融政策の話をして、そのための第一歩として、インフレ予想の「可視化」のために、以下に述べるような物価連動国債(元本償還額が物価上昇率に連動して増減する国債)の導入を提言した。
当時、まともな金融政策を日銀にさせるためには、経済財政諮問会議は有用だと思っていた。竹中さんが同会議を仕切っており、そのメンバーに福井俊彦日銀総裁がいたからだ。
とくに量的緩和がインフレ予想に与える影響を分析しようとしたのだが、インフレ予想を正確に把握するのは簡単ではない。アンケート調査では、調査対象者が依頼者にこびた意見をいってしまうおそれがある。そこで、アメリカその他の国では物価連動債があって、特にアメリカのFOMC(連邦市場操作委員会)は、物価連動国債の利回りと普通の利付国債の利回りの差から、インフレ予想を把握していることを知っていたので、日本でも物価連動債を導入すべきだと考えて、01年12月の経済諮問会議の資料に物価連動債のことを書いた。
つまり、インフレ予想の「可視化」だ。勝手に、新型国債の導入を経済財政諮問会議が決めると、財務省は怒りまくっていたが、当時の理財局長に「悪いことではないのだから」と掛け合って、03年にようやく導入が決まった。リーマンショック後、発行が停止されたが、アベノミクスとともに発行が再開される予定だ。
2003年3月から日銀は量的緩和を実施していた。おっかなびっくりの慎重な運転なので、マネタリーベースとインフレ予想の関係が出るか出ないか、心配だった。しかも、まだ物価連動債がない状況で量的緩和の経済効果を測定するのは難しかったが、カールソン・パーキン法という特殊な方法を使って日銀短観からインフレ予想を抽出してみたら、日銀当座預金の増加率とそれから半年後のインフレ予想が極めて正確に連動していることが判明した。
これは、日本で初めての量的緩和の効果計測だったと思う(『週刊東洋経済』2005年6月4日号)。「量的緩和には効果がある。もっとやるべきだ」と言って、当時の福井俊彦日銀総裁(03年3月〜08年3月)にも伝わったはずだ。
デフレは回避できた
今では、リーマンショック後、欧米で量的緩和が行われたので、マネタリーベースの増加とインフレ予想の増加に、一定のラグで対応関係があるのは世界各国で観測されている。大恐慌でマクロ経済学が発達したように、リーマンショックという大きな経済ショックと各国の対応が、その国の経済パフォーマンスをわけるので、ある意味で壮大な社会実験となって、デフレの経済学の理論的基礎やデータが集まっている。
アメリカに「IGM Forum」という、何十人もの著名な経済学者に経済の疑問を尋ねるサイトがある。1月29日付けのページで、「日本のデフレーション」と題して「97年以来から続いている日本のデフレーションは、日銀が異なる金融政策を採っていたら、回避できた」という意見に賛成か反対かを学者たちに尋ねている。
結果は、「強く賛成する(strongly agree)」が21%、「賛成する(agree)」が32%で、賛成が50%を超えている。「反対する(disagre)」はわずか3%。残りは、「はっきりしない(uncertain)」が16%、「わからない(no opinion)」が18%で、日本のデフレの状況をよく知らないから、答えられないという学者もいるだろう。自分の意見には10段階で自信度を付ける欄があり、それを加味した結果は、実に79%が「強く賛成」「賛成」となっている。「わからない」が16%、「反対」はわずか5%だ。
日銀が資金調達難に陥るという誤認
筆者が十数年前にプリンストン大学で聞いた話は、今ではもう論争の対象ではなく、常識だろう。ところが、日本では、まだ量的緩和がわからない人がいる。一般の人ならわかるが、アカデミックの世界なのだから驚く。
4月16日の日経経済教室の斎藤誠・一橋大教授の「資金、実体経済に回らず」だ。アメリカだったら反対5%の類だ。
間違いが少なくないが、中でも「民間銀行がより有利な資金運用先を求めて日銀当座預金から資金を引き出してしまえば、日銀が資金調達難に陥り、国債を売却せざるをえなくなる」は酷い。
ある銀行が当座預金を引き出して有利な有価証券を購入すると、その有価証券を売却した別の銀行の当座預金に、はじめの銀行の当座預金から購入代金が移るだけで、トータルの当座預金は変わらない。一体どうなったら、日銀が資金調達難に陥るのか説明してほしいくらいだ。
こうした基本的な事実は、今度の日銀副総裁になった岩田規久男氏が学部学生に教えている内容だ。その程度を知らずに、日銀の金融政策を論じているので、金融関係者を含めて多くの人はのけぞったに違いない。
実は斎藤氏は過去にも似たようなことがある。数学モデルを使って、デフレはブラックホールのようになって、金利がゼロだといくら金融緩和しても効かないと主張したのだ。筆者は数学系出身なので、数学モデルを一見して金利ゼロでも金融緩和するとデフレから脱却できるパスを見つけて、それを経済雑誌に投稿した(『経済セミナー』2003年5月号)が、その時の返事はまだない。
世界から十数年遅れている日本の経済学者は、まずは、日銀で岩田副総裁の講義を受けてから、日銀の金融政策を論じたほうがいいのではないだろうか。
まともなインフレ目標や量的緩和については、日本は先進国でビリの導入だ。いろいろな疑問があっても、先行例のバーナンキ・FRB議長やキング・イングランド銀行総裁に聞けば、すぐ答えが出るはずだ。量的緩和で中央銀行が資金調達難になるといったら、彼らは笑い転げるだろう。
http://diamond.jp/articles/print/34836
【第149回】 2013年4月18日 桃田健史 [ジャーナリスト]
TPP自動車交渉で、日本は完全不利に!
軽自動車税制も標的にしかねないアメリカのワガママ
日米TPP事前交渉で合意するも
自動車項目で不釣り合いな妥協案
日本政府がTPP交渉で、日米の事前協議合意を発表した2013年4月12日当日の霞が関官庁街。TPP交渉を踏まえて今後、具体的な産業育成政策を進めるのは、写真の経済産業省になる Photo by Kenji Momota
「今般、わが国のTPP交渉参加において日米が合意を致しました。わが国の国益を実現するための本当の勝負はこれからであり、最強の態勢のもと1日も早くTPP交渉に参加をし、かつTPP交渉を主導していきたい」
2013年4月12日(金)の夕方、安倍晋三内閣総理大臣はそう発言した。
同日公開された日米でのTPP交渉に関する事前協議の合意文書のなかに、今年2月の日米首脳会議以来、注目が集まっていた自動車に関する項目がある。
その概要は、日本側はいわゆる「非関税障壁」で、自動車輸入に対する手続き等での規制緩和(詳しくは後述)をする。対するアメリカ側は、現在、乗用車に2.5%、トラックに25%の輸入関税を「TPP交渉における最大限度期間で段階的に撤廃」するとした。ここでいう最大限度期間は、日本のマスコミや自動車業界関係者の間では「米韓FTAより長い期間」、つまり「概ね10年間」と解釈されている。
こうした合意内容について日本のメディアは、「丸呑み」「先送り」または「棚上げ」といった表現で、日米間での不釣り合いを指摘している。
そうしたなか本稿では、具体的なデータを見ながら、「なぜ今回、このような日米で不釣り合いな合意がなされたのか?」、そして「これからどうなるのか?」について考えてみたい。
対米輸出は重要だが…
自動車業界は「総合的な見地」で判断
日本にとってアメリカは、最大の自動車輸出先だ。
図1 四輪車の仕向地別輸出台数推移(4〜3月期) 出所:日本自動車工業会 拡大画像表示
日本自動車工業会によると、2011年度の日本の四輪車輸出台数は446万4413台。そのうちの32%にあたる142万6833台がアメリカ向けである(図1)。また、同2位はロシア(35万2689台)、3位はオーストラリア(33万7903台)、そして4位が中国(22万4888台)と続く。
輸出台数全体の年度別変化を見ると、2005年度から2008年度にかけて急上昇し、リーマンショックを受けて2009年に急減。2010年度は回復するも、2011年度は東日本大震災とタイ洪水の影響で再び落ち込んだ。そうした増減のなかで、最大輸出先のアメリカ市場の動向が大きく影響している。
2012年の輸出については、アメリカ市場が高級車市場を中心に内需が拡大しており、暦年(1〜12月)でみると、乗用車が167万7516台、トラックが2万636台となった。
こうした状況を考えると、今回日本がTPP事前交渉において合意した、乗用車に2.5%、トラックに25%の輸入関税の「TPP交渉における最大限度期間で段階的に撤廃」は、日本にとってはネガティブ要因だ。
自動車産業界全体としてもそう見ている。
トヨタ自動車代表取締役であり、日本自動車工業会・会長の豊田章男氏は2013年4月12日、「環太平洋パートナーシップ事前協議妥結について」とし、次のようなコメントを発表した。
〈去る3月15日に、安倍総理が、TPP交渉参加の意思表明を行なった際、自動車業界としても歓迎の意を表明したところである。日本のTPP参加は、日本経済再生の鍵であり、アジア太平洋地域のルール形成、他の経済連携への進展にも大きく貢献するものであり、出来るだけ早期に交渉に参加することが重要と考えている。
今般、TPP交渉参加に関する米国との事前協議の結果、関税の撤廃時期については残念であるが、TPP交渉への早期参加の重要性など総合的な見地から、一定の合意に至ったと承知している。
日本政府には、今後とも自動車業界の要望を踏まえつつ、我が国の国益の一層の増進の観点から交渉に臨んでいただくことを期待したい。また、今後の協議において、日本の市場閉鎖性について、米側の根拠のない誤解を解くとともに、両国の消費者にとって建設的な協議が行われることを期待したい。〉(原文ママ)
ここでいう「総合的な見地」には、2つの意味があると考えられる。
不利な条件を許容した
日本自動車産業界の内情
ひとつは、自動車分野で「一歩譲る」ことで、アメリカが日本のTPP参加許可に大きく動いた、ということ。これにより、日本経済の再生が進む、ということだ。
本田技研工業・東京青山本社1F正面玄関前。販売好調の軽自動車「N Box」、「N One」が並ぶ Photo by Kenji Momota
もうひとつは、自動車産業界の内部の事情に関することだ。先に紹介したように、日本からアメリカへは四輪車の輸出量が多い。だが、トヨタ、ホンダを筆頭に今後、米国での販売車は、北米内で企画・設計・部品調達・生産と一括化する方向にあり、日本からの輸出は減る傾向にある。
さらにはメキシコからアメリカへの日本車完成車の輸出増大により、日本からアメリカ向け輸出数が減少する。具体的には、日産は2013年12月にメキシコ中部のアグアスカリエンテス州アグアスカリエンテス市に年産17万5000台、従業員数3000人規模の第三工場を稼働させる。サプライヤーパーツを備えた広大な敷地で、その投資額は20億ドル(約2000億円)にも及ぶ。
ホンダはグアナファト州セラヤ市2014年から年産20万台規模、投資額8億ドル(約800億円)で次期「フィット」やその派生車のMPV(マルチ・パーバス・ヴィークル)を生産する。またマツダも2013年中にグアナファト州サマランカ市で、「デミオ」等の工場を稼働させる予定だ。
この他、アメリカ向けの生産拠点としては、トヨタ、ホンダがカナダを活用している。そこに、生産コストの安いメキシコを連携させることで、NAFTA(北米自由貿易協定)の枠内で、アメリカ向けの完成車・及び自動車部品の物流が活性化していくのだ。
こうした「総合的見地」では、アメリカで日本車を売ることと、アメリカが日本からの完成車輸入に課する税率とが、直結しなくなる。
この他、メキシコからの南米向け輸出も「総合的見地」に絡んでくる。マツダとホンダに関しては、当初計画ではメキシコ工場はブラジル向け輸出拠点としても考慮されていた。だが、ブラジル政府は2012年3月、メキシコからの輸入車急増に伴い、FTA締結内容の一部修正を実施。2012〜2014年まで輸入総額に上限を持たせた。2015年以降はその上限を撤廃するとしているが、新たなる修正が行われない保障はない。そのため、日本車メーカー各社はブラジル市場戦略を大幅に見直すこととなった。
さらに南米では、TPP参加国にチリとペルーが含まれており、同じく南米のブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ベネゼエラで形成する自由貿易協定のメルコスール(南米南部共同市場)と、今後どのように連携をしていくのかが注目される。日本車メーカーは南米大陸全体を「次世代の成長市場」と見ているのだ。
では次に、豊田章男氏が指摘した「米側の根拠のない誤解」への対応について、見ていきたい。
実需アップに結びつかない
カタチだけの規制緩和
今回のTPP事前交渉での日米合意発表に連携し、太田昭宏・国土交通大臣は同発表と同日、「輸入自動車特別取扱制度(PHP)の年間販売予定上限台数の引き上げ」(PDFはこちら)を発表した。
それによると、「今般、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に係る日米での事前協議の中で、PHPの一型式当たりの年間販売予定上限台数(2000台)の引き上げが取り上げられたことや、欧州車で年間販売台数が上限に近い約1800台のものが存在することを踏まえて、自動車の輸入の際の負担軽減の観点から、PHPの一型式当たりの年間販売予定上限台数を5000台に引き上げることとしたのでお知らせします」(原文ママ)とある。
この規制緩和は確かに、「非関税障壁」の一部かもしれない。だが現時点で、アメ車の日本国内販売量は極めて少なく、今回の「台数引き上げ」が日本でのアメ車実需アップに直結するとは、到底思えない。
図2 輸入車販売台数推移 出所:日本自動車工業会 拡大画像表示
輸入車全体でみると、その販売総数は20〜25万台程度で推移している(図2)。
アメ車の日本国内需要については、本連載第146回でも触れたが、日本自動車輸入組合が2013年4月4日に発表した最新データ(2012年度:2012年4月〜2013年3月)から、その詳細をご紹介しておく。
それによると、輸入車総数は前年比108.9%の32万1292台。このうち、タイからの日産「マーチ」、三菱「ミラージュ」など日本メーカー車を除く、外国メーカー車が24万5679万台だった。そのなかで、ブランド別でアメリカ系トップは、12位のジープ(4956台)、15位のフォード(4009台)、20位のGMシボレー(1443台)、21位の同キャデラック(1351台)などで、アメ車の合計は1万4210台。全輸入車に占める割合は、4.4%に過ぎない。
一方、アメリカ市場を見ると、直近の2013年1〜3月期、乗用車とライトトラック(SUV等含む)の販売総数は前年同期比で6.4%増の368万8662台だった。このうち、日本車はトヨタがGM、フォードに次ぎ、シェア14.4%。それにホンダが9.2%、日産が8.6%と続き、日本車メーカー全体でのシェアは37.4%だった。(Wall Street Journal Website / Market Data Center公開データより)。
日本でのアメ車、アメリカでの日本車の市場での存在感には、あまりにも大きな差がある。こうしたなか、本連載第146回でも説明したように、少々な規制緩和をしただけでは、日本でアメ車の販売量が急増することはない。
結局、今回の「輸入自動車特別取扱制度(PHP)の年間販売予定上限台数の引き上げ」は、ほとんどアメリカ側の直接的メリットにはならない。逆に言えば、アメリカに対して「非関税障壁の存在」を知らせてしまったに過ぎない。
しかし、TPP交渉の事前協議全体を見るなかでは、日本側が「なんらかのカード」を切る必要があり、そのなかで「痛みが少なくて済むカード」を切った、といえる。
今後、何を言ってくるか分からない
「交渉」に対する日米の意識の大差
今回の事前交渉は、自動車については「難しいこと、細かいことは、この後、実際の交渉が始まってから随時考えていく」というカタチを取った。だが、よくよく考えてみれば、自動車関連案件はTPP参加11ヵ国共通の重要案件ではなく、あくまでも日米間での懸案である。したがって、日本がTPP交渉に参加した後でも、自動車案件は日米二国間FTAのような協議の進め方になると思える。
そうしたなかで、アメリカは自動車関連案件については、これまでの事前協議と同様に、交渉相手を「ほぼ日本一国」に絞って、「非関税障壁」という不明瞭な領域で、様々な注文を突きつけてくるだろう。
ダイハツ本社(大阪府池田市ダイハツ町)1階ショールーム。第三のエコカー「ミラ・イース」の他、「ココア」、「ムーヴ」、「タント」が並ぶ Photo by Kenji Momota
そのなかで、アメリカが標的にし易いのが、軽自動車だ。税制優遇や、車両規格において日本市場ガラパゴスの象徴だからだ。
果たして日本側は、アメリカの「根拠のない誤解」というワガママを、どこまで受け入れていくのか?
その過程で、自動車関連案件とは直接関係のない、農業や医療など日本国内市場の最重要領域を守るため、自動車関連領域でどのカードを切っていくのか?
はたまた日本側は、日本のお家芸である「外圧を利用した国内市場改革」を、国内自動車産業界に求めてくるのだろうか?
さて、最後にひとつ。
そもそも、アメリカ人と日本人、「交渉」とか「話し合い」というモノについて、基本的な考え方が違う。
アメリカ人は、「自己主張することは、損をしない」と言う。日本的にいえば「聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という姿勢だ。しかも、この度合いが物凄く強い。
一方、日本人の基本姿勢は「口は災いの元」、「言わぬが花」、さらには、場の空気を読み過ぎてしまうきらいがある。
先日、米国の大手ITメーカーの元日本法人社長と、ある行事の際に名刺交換をしながら話した。そこで彼は、若い人を含めて日本人は(英語力の有無によらず、体外的な)「コミュニケーション下手」が大きな問題だと指摘していた。
TPP交渉、今年7月から本番。日本側は、政府だけでなく、民間企業も国民自身も気を引き締め、「国益を守ることとはどういうことなのか?」を熟慮し、「真の交渉」を進めていかねばならない。
【第179回】 2013年4月18日 田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授]
TPPはあくまでも経済・貿易問題
外交・安保を意識し過ぎてはいないか?
TPP交渉参加に向けての日米の事前協議が決着。日本は7月の全体交渉会合から参加できる見通しとなった。
それにしても、日本は米国に譲り過ぎたのではないか。特に自動車では、米国の関税撤廃は「最大限後ろ倒し」となり、10年以上経ても維持される恐れがある。
米国の自動車関税の撤廃は、TPP推進論者の象徴的な案件で、「TPPに参加しなければ、自動車で韓国などにかなわない」と叫んできた。
どうしてこうなったのか。「そうしなければ農産5品目を守れない」という声も聞こえてくる。しかし、こんなことでは農産5品目も危うくなる。
政治的、外交的意義が
垣間見られるTPP参加
私が気になるには、安倍晋三首相と日本政府が、TPP参加の政治的、外交的意義を必要以上に重視しすぎているのではないかということ。安全保障面での意義を過大に意識し、考慮しているように見えることだ。
2月の日米首脳会議で、安倍首相はオバマ米大統領にTPP参加の意向を明言した。そしてその後、幾度も安全保障上の意義が大きいことを強調した。
首相が言う安全保障上の意義とは何か。
@まず、普天間移設問題で米国に迷惑をかけているから、TPPで譲って、日米同盟を再構築する。
A中国抜きの経済圏、貿易圏を築き、中国の政治的、経済的、軍事的な勢力拡大を牽制する。
B将来は米国が東太平洋諸国の盟主、日本が西太平洋諸国の盟主となって環太平洋地域の共同体を形成する。
そんな思惑が背景にあるように見える。
確かに、現在の無謀な北朝鮮、領土欲をつのらせる中国など、日本の安全保障環境は、かつてなく緊迫している。日米の強い信頼関係が今ほど試されているときはない。
だが、だからと言ってTPPで弱腰になる必要はない。基本的には経済・貿易と外交・安保は切り離して考えればよいのである。
どうやら、日本の主役は、経産省というより外務省なのだろう。だから、経済・貿易よりも、外交・安保を重視している印象を受けるのだ。
首相はまた「国益を守る」とも強調している。一大臣なら1つの分野の国家的利益を意味するが、首相が言えば、外交、安保から経済に至るまでの総合的な国益を意味することになる。それではどうしても外交や安保の比重が高くなってしまう。
この際、首相は一歩引いて経産省と甘利担当大臣にすべてを任せたほうがよい。米国が通商代表部なのだから、こちらも経産省の通商部門がよい。外務省が実質的に主導しているような印象を内外に与えると逃げ道がなくなってしまう。
交渉は言うまでもなくお互いのエゴが激突するもの。相手に1つ譲ろうとして臨めば、結果的に2つも3つも譲ることになる。米国に配慮し過ぎる外務省が仕切ると、譲歩に譲歩を重ねることになりかねない。
貿易で弱腰な国は、安全保障でも弱腰になる。そういうものではないか。
http://diamond.jp/articles/print/34837
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
- ユーロ危機:ドイツのジレンマ 中銀手探り FRBデフレ 勝者総取 アベノミクス 中国通過 eco 2013/4/19 01:25:20
(4)
- 「量的・質的緩和」後の2つのシナリオ 2〜3年でデフレは終 eco 2013/4/20 13:06:00
(3)
- 意味不明なG20共同声明の日本語訳 中国富裕層の新たな移民先 米国・カナダは人気に陰り eco 2013/4/21 01:00:38
(2)
- 欧米が日本に財政再建を求める本当の理由 日銀がお札をすれば アベノミクスでホクホク eco 2013/4/22 02:19:05
(1)
- ラインハート=ロゴフ論文は誤りか PB黒字化&債務残高目標 米GDP測定法 日本の「社会主義的」税制 デフレ=悪? 女子 eco 2013/4/23 01:07:12
(0)
- ラインハート=ロゴフ論文は誤りか PB黒字化&債務残高目標 米GDP測定法 日本の「社会主義的」税制 デフレ=悪? 女子 eco 2013/4/23 01:07:12
(0)
- 欧米が日本に財政再建を求める本当の理由 日銀がお札をすれば アベノミクスでホクホク eco 2013/4/22 02:19:05
(1)
- 意味不明なG20共同声明の日本語訳 中国富裕層の新たな移民先 米国・カナダは人気に陰り eco 2013/4/21 01:00:38
(2)
- 「量的・質的緩和」後の2つのシナリオ 2〜3年でデフレは終 eco 2013/4/20 13:06:00
(3)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。