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ラインハート=ロゴフ論文は誤りか PB黒字化&債務残高目標 米GDP測定法 日本の「社会主義的」税制 デフレ=悪? 女子
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/611.html
投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 23 日 01:07:12: .WIEmPirTezGQ
 

(回答先: 欧米が日本に財政再建を求める本当の理由  日銀がお札をすれば アベノミクスでホクホク 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 22 日 02:19:05)

緊縮論争に火

ラインハート=ロゴフ論文は誤りか
2013年04月23日(Tue) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年4月20日号)

債務と成長の関係を分析した影響力の大きい論文が攻撃にさらされている。

 政府の債務水準は大きな問題だ。デフォルト(債務不履行)や金融恐慌は財務相にとって悪夢だ。政府の借り入れは民間投資を減少させる「クラウディングアウト」につながり、成長の足を引っ張る恐れがある。しかし、経済学者らは国が債務水準の心配をすべきタイミングをなかなか特定できなかった。

 現在ハーバード大学ケネディスクールの教授を務めるカーメン・ラインハート氏とハーバード大学の経済学者ケネス・ロゴフ氏は2010年の論文で、この問題に対する答えを出したかに見えた。政府の債務残高が国内総生産(GDP)の90%を超えると成長が大きく停滞するというのが両氏の主張だった。

緊縮推進派の「武器」になった大論文

 90%という数字は瞬く間に、緊縮政策を巡る政治論争における格好の材料となった。共和党所属の米下院議員、ポール・ライアン氏は公共支出の厳しい削減を求める予算案の中で、この「経験に基づく決定的な証拠」を引用した。

 2月には、欧州委員会のオリ・レーン副委員長が欧州連合(EU)加盟国の財務相に宛てた書簡の中で、欧州全体で緊縮財政を推し進める理由として「広く認知されている」90%の上限を引き合いに出した。

 こうした発言の影響もあり、ラインハート氏とロゴフ氏が挙げた数字は激しい議論の対象となった。そして先日、90%という数字に疑問を投げ掛ける研究結果が発表されたことで、火に油が注がれた。

 2010年の論文における計算は比較的単純なものだった。ラインハート氏とロゴフ氏は2009年、画期的な金融史の著作『This Time Is Different(邦題:国家は破綻する)』を出版しており、その執筆にあたって2世紀分の公的債務のデータを既に利用していた。

 論文の中で両氏は政府の債務水準を4段階に分け、それぞれのカテゴリーの平均成長率を算出した。その結果、債務残高がGDPの90%に達するまで、公的債務は成長率にほとんど影響を及ぼさないことが分かった。そこを超えると、成長率は急激に落ち込む。

 2世紀分(1790〜2009年)のデータを検証したところ、債務残高がこの臨界値を超えると、平均成長率が年3%強からわずか1.7%まで下がっていた。第2次世界大戦後の期間に限ったデータでは、落ち込みはさらに劇的だ。GDPの90%という閾値に達すると、平均成長率は約3%からマイナス0.1%まで下落するという。

 このターニングポイントにおける急激な変化は、多くの注目を集めた。経済学の専門用語を用いるなら、この場合、債務と成長の関係は「線形」ではないということになる。線形の関係では、債務が増えると成長率は徐々に低下する。しかしラインハート氏とロゴフ氏のデータでは、臨界点に達するまで債務の水準は悪影響を及ぼさないが、臨界点を超えると一変するのだ。

 90%の閾値を超えると、リスクに対する市場の認識が急激に変化するのかもしれないと、両氏は推測している。その結果、金利は上昇し、金融市場のストレスが増し、財政緊縮かインフレ、あるいはデフォルトという困難な選択を迫られることになるというわけだ。

90%の問題

 このたび発表された論文の中で、マサチューセッツ大学アマースト校のトーマス・ハーンドン、マイケル・アッシュ、ロバート・ポリンの3氏は、ラインハート=ロゴフ論文における大戦後の分析結果の再現を試みた。

 3氏はラインハートとロゴフ両氏の分析のミスを指摘し、これにより債務水準が高い場合の平均成長率が過小評価されたと論じている。両氏が使用したエクセルのスプレッドシートはコーディングに誤りがあり、複数の国が対象データから抜け落ちているというのだ。

 ほかにも、ニュージーランドでは戦後の重要な数年が抜け落ちており、債務水準と成長率の両方が高かった時期のデータがカウントされていないという。


 また、3氏は、ラインハート、ロゴフ両氏による平均成長率の計算法は典型的でないデータポイント(ニュージーランドがどん底の状態にあった1年間など)に過剰な比重が置かれていると指摘している。

 これらを総合し、新たな論文では90%の閾値を超えた時の戦後の平均成長率はマイナス0.1%ではなく2.2%であるべきだと結論づけている(図参照)。

 国際通貨基金(IMF)と世界銀行が毎年春に開催している会合のために政策立案者が集まっていたワシントンで、この論文は大いに話題をさらった。ただし、2つの論文は想像されるほどの不協和音を生んではいない。

 新しい論文への反応として、ラインハート氏とロゴフ氏は指摘されたコーディングのミスを認めている。また、「抜け落ち」と見られるデータについては、データセットが未完成なためだとしている。例えば、2010年と2012年に発表された改訂版の分析には新たなデータが追加されている。

 さらに重要な点として、ラインハート氏とロゴフ氏は分析の中で1つの数字を強調したことはなく、常に複数の計算法を用いているはずだと指摘している。両氏は、戦後と2世紀の両方の期間について平均値を算出している。さらに平均値に加え、各債務水準においてで成長率の「中央値(メジアン)」も提示した。

 2010年の論文では、90%の閾値を超えた時の成長率の中央値は1790〜2009年が1.9%、戦後が1.6%となっている。この結果は新たな論文で3氏が提示している数字とそう変わらないと、ラインハートとロゴフ両氏は主張している。

 どちらの論文も債務と成長には負の相関関係があるとしている。ただしラインハート=ロゴフ論文では、債務が一定の水準に達すると成長率に急激な変化があると示しているのに対し、ハーンドン氏ら3氏は、成長率は緩やかに下降すると考えている。

 自らの主張を明確にするため、3氏はGDPに対する債務の比率が90%を上回る国を、GDP比で120%を超えている国と超えていない国の2つに分類している。90〜120%の国の平均成長率は2.4%、120%の閾値を超えている国は1.6%まで落ち込む。これであれば両者の関係は線形と言っていいように見える。

 閾値に関して確固たる結論を見つけ出すのは困難だ。IMFは2010年の論文で、90%という数字について「ある程度の根拠」を提示している。国際決済銀行(BIS)が2011年に発表した論文では、閾値を85%としていた。しかしIMFは2012年に別の分析結果を発表し、「標準を下回る成長率に常に先立つ特定の閾値は存在しない」と述べている。

 だが、たとえ景気減速が穏やかなものにとどまっていたとしても、それによる経済への悪影響は急速に積み上がる可能性がある。ラインハート、ロゴフ両氏も、過剰債務の継続期間は平均で20年以上にわたると警告している。

まだ分からない因果関係

 今回の騒動は債務と成長の因果関係の解明には全く貢献していない。GDP成長率の鈍化は債務の増加の結果ではなく原因である可能性もある。ラインハート氏とロゴフ氏は、学術的な著作では、この難題は「まだ完全に解決されていない」と認めているにもかかわらず、メディアへの寄稿では不用意な記述が見受けられる。

 恐らく、これこそが両氏の最大のミスだろう。債務と成長の関係は政治色の濃い問題だ。経済学者が最も厳格な基準を守らなければならないのは、この分野だ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37639


 

 

20年度PB黒字化に加え債務残高目標も重要と民間議員=諮問会議
2013年 04月 22日 21:15 JST
[東京 22日 ロイター] 政府は22日夕、第9回の経済財政諮問会議を行い、経済再生と財政健全化の道筋について議論した。

民間議員らは2020年の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)黒字化に加え、ストックベースの目標も示すことが重要だと提言。麻生太郎財務相は、GDPを伸ばすことが重要だと指摘した。

<財政健全化、ストックベースでの目標も重要と提言>

民間議員らは、アベノミクスの効果を持続的なものとして成長に結びつけるには財政健全化への取り組みが不可欠だとして、中長期の財政健全化に向けた工程表を年央に明確にするよう提言。その際、毎年のフローベースの財政収支目標として、2020年度の基礎的財政収支の黒字化を目指すことに加え、債務残高というストックベースの目標も含む道筋を示すことが重要だとした。そのためには、トータルでの歳出の天井を設けることなしに財政健全化は難しいとし、基礎的財政収支の対象となる歳出総額をリーマン・ショック以前の水準に近づけるとともに、社会保障関係費の効率化や重点化の徹底を行うことを提言した。

<財政健全化は現在進行形の課題、首相は「骨太」への盛り込み指示>

麻生財務相は財政健全化について「将来の課題ではなく、今この時から取り組むべき現在進行形の課題だ」との認識を示した。民間議員からストックベースの目標を法制化することについてどう考えるかと問われ、麻生財務相は「財政健全化はこの内閣でしっかり対処していく。いまこの段階で法制化しなければいけないということではない」とし、「ストックベースは債務残高とGDPの比率の問題であり、GDPを伸ばすことが重要だ」との視点を示した。

日銀の黒田東彦総裁からは「金融緩和が財政ファイナンスだという懸念を招かないよう、財政健全化の道筋を明確化していくことが必要だ。その取り組みに強く期待する」との発言があった。

安倍晋三首相から、経済再生の道筋と合わせ、財政健全化の基本的方向を年央にまとめる骨太の方針に盛り込むよう指示があり、甘利明経済再生担当相が今後の骨太の方針の取りまとめに向け、財政健全化の大枠の方向性について検討を進めていきたい、と締めくくった。

<骨太で具体化し、中期財政計画で絞り込み>

会議後に会見した甘利経済再生相は、財政健全化に向けた今後の取り組みについて「骨太の方針でより具体化し、中期財政計画でさらに絞り込むという作業になる」との工程を明らかにした。歳出抑制については「一律カットではなく、成長を支える分野と効率化が見込める分野などでメリハリがついていくというかたちになる」とした。

中期財政計画を策定する時期については「年央をめどに骨太の方針をまとめ、成長戦略もほぼ同じ時期になる。それらを精査しながら、具体的なさらなるフォーカスの絞り込みになる」と説明。骨太の方針などとは時期がずれ、参議院選の後になる可能性もあることを示唆した。

この日の諮問会議ではこのほか、先に行われた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議についての報告に加え、規制改革や緊急経済対策の進ちょく状況などについても議論した。

安倍首相は、黒田日銀が実施した大胆な金融緩和について「期待通りの対応をしてもらった」と評価し、先週末のG20の共同声明でも、「デフレを止め内需を支えることを意図したものと国際的理解を得た」との認識を示した。

そのうえで、黒田総裁には、引き続き「2%の物価安定目標を2年程度の期間を念頭に、できるだけ早期に実現するよう舵取りをお願いしたい」と語った。

またこの日は、前回の諮問会議で設置を決めた「目指すべき市場経済システムに関する専門調査会」のメンバーを決定した。メンバーは伊丹敬之・東京理科大学専門職大学院イノベーション研究科長、伊藤元重・経済財政諮問会議民間議員、神永晋・住友精密工業相談役、小林喜光・経済財政諮問会議民間議員、原丈人・アライアンス・フォーラム財団代表理事、程近智・アクセンチュア代表取締役の6人。

(ロイターニュース 石田仁志、中川泉、吉川裕子:編集 内田慎一)

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE93L05920130422


 

 
米国GDPの測定方法改訂へ、3%の押し上げ効果
2013年04月23日(Tue) Financial Times
(2013年4月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 米国経済の様子が、この7月から少し違って見えるようになる。

 といってもそれは経済の基調の見通しが変わるからではない。米商務省経済分析局(BEA)が国民経済計算の作成基準を包括的に改訂し、国内総生産(GDP)の測定方法が十数年ぶりに劇的に変わるからだ。予備的な推計によれば、これによって米国のGDPは約3%押し上げられるという。

■研究開発

 今回の改訂の目玉は、ほかの財を生産するコストの1つにすぎないと見なされてきた研究開発費が設備投資に算入されることだ。

 BEAの国民経済計算担当部門を率いるブレント・モールトン氏は次のように述べている。「世界経済は変化している。そして、無形資産のようなものが現代経済では非常に重要で、過去に取得された有形資産と同様な役割を果たしているとますます認識されるようになっている」

 研究の初期段階で行われた推計によれば、研究開発費を投資と見なすことにより2007年(新方式の基準年)のGDPは3000億ドル、率にして2%以上押し上げられる。増加分の約3分の2は民間部門のもので、残る約3分の1が政府部門のものだ。この計算には、研究開発に実際に投じられた金額が使われる。

 この変化はあちこちに波及効果をもたらす。まず、新方式では企業の利益がこれまでよりも大きくなる。減価償却後の研究開発費(純額)がコストと見なされなくなるからだ。また、設備投資の増加を反映して個人と政府の貯蓄率も高まることになる。

 BEAのスティーブ・ランデフェルド局長は、研究開発費を設備投資に算入することは、経済成長をより正確に把握することに寄与する最初の一歩にすぎないと話している。「無形資産への投資についてはまだまだ研究する必要がある。研究開発費はジグソーパズルの1片でしかない」

■芸術的なオリジナル作品

 国民経済計算のデータが「インターネット・ムービー・データベース(IMDb)」から得られていると聞くと、意外な感じがするかもしれないが、BEAはほかの多くの資料に加えてこのデータベースも綿密にチェックした。映画への投資に関する一連のデータを作成するために、撮影所の記録を1920年代にまでさかのぼって調べ上げたのだ。

 この結果、全米の書籍、映画、レコード、テレビ番組、演劇、さらにはグリーティングカードのデザインの資本価値が推計できるだけでなく、経済にとってのそれらの重要性が時を経てどのように変化したかという興味深いことも分かるようになるという。

 映画や書籍は、1年間で作られても長年にわたって楽しまれる。例えば本紙(フィナンシャル・タイムズ)が先日報じたように、米国の人気シチュエーションコメディ「Seinfeld(となりのサインフェルド)」は1998年に放送が終わってから31億ドルもの収入を稼ぎ出している。今回の基準改訂の狙いは、この資本価値を把握することにある。

 BEAが行った予備的な研究によれば、芸術的なオリジナル作品への投資は2007年には700億ドルだったと見られる。従って、この金額がGDPに加算される。このような数字は一部で議論を呼ぶかもしれない。なぜならこれらの数字は、著作権法から得られる価値を初めて公的に推計する値になるからだ。

■年金会計

 最も直観に反する結果が生じる分野は年金会計だ。BEAは現在、企業が確定給付型年金基金に拠出する掛け金を賃金と見なしており、その年金基金の積立額が不足しているか否かという問題は無視している。だが基準改訂後は、企業が実際にどれほどの額の年金支給を約束しているかが計測される。

 奇妙なことに、これによって2007年のGDPは約300億ドル押し上げられると推計されている。企業がその時点の積立額を上回る年金支給を約束していたからだそうだ。また、連邦政府は年金の積立が比較的良好なため、国民経済計算で計測される支出が減少するが、積立額が約束した支給額よりも少ない州政府・地方自治体では逆に支出が増加するという。

 「大きな影響が出るのは赤字の値、貯蓄、企業の利益、そしてこれらに関係するほかの指標などの分野だ」とBEAのモールトン氏は言う。「積み立てができていない債務に関連する帰属利子のコストは非常に大きい」

 年金の積み立て不足の規模とそのコストについてBEAの推計値が得られることになれば、確定給付型年金の将来を巡る政治的な議論で重要な変化が促される可能性もあるだろう。

■その他の変更点

 技術的ながら重要な変更点もいくつかある。例えばBEAでは、銀行口座を維持するコストの計測方法の変更を計画している。実施されれば、銀行サービスの価格の変動性は今よりも小さくなりそうだ。もしそうなれば個人消費支出(PCE)指数という、米連邦準備理事会(FRB)が重視しているインフレ指標の動きにも変化が及ぶ。

 「大きな変化にはならないだろうが、我々の発表する数字をとても気にかけており、継続的にチェックしている人なら気づくだろう」とランデフェルド局長は語っている。

 また、あらゆる住宅購入コスト――印紙税や弁護士費用など――が支出ではなく投資として扱われるようになる。これにより、2007年のGDPは約600億ドル押し上げられると見られている。現在は、不動産仲介業者が手にする手数料だけが資産計上されている。

By Robin Harding
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37644

 

日本の「社会主義的」税制に驚く中国人
「長者に二代なし」の国は魅力なし?
2013年04月23日(Tue) 姫田 小夏
 不動産譲渡にかかわる個人所得税の課税(新国五条)で、中国が今大騒ぎとなっていることは前々回お伝えした。

 その一方で、筆者は「これほどまでに国民が税金を納めることに抵抗を持っている」という現実に驚いている。

 「不動産の売却益はあくまで“不労所得”。不動産という財産を持つ資産家であれば、納税は当然のこと」といった議論はほとんど見られない。相続税の導入が決まろうものなら、それこそ蜂の巣をつついたような大騒動となっても不思議ではない。

 習近平体制では「公平な社会の実現」が大きなテーマとなっているが、それは国民の今の不満が「世の中は不公平だ」という一言に尽きるからだ。公平な社会の実現のカギを握るのが“富の再分配”であり、税制改革はその試金石だと言える。

日本の「厳正な課税」に驚く中国人

 中国には「富三代」(fusandai)という言葉がある。3代にわたって代々家が栄える、という意味だが、もう1つのシニカルな意味も込められている。それは「金持ちの子は金持ち」、その逆の「貧乏人の子は貧乏」という意味だ。

 一方、日本には「長者三代」や「長者に二代なし」という言い方があると中国人に説明すると、相手の目つきが変わる。「ほう、それはどういう意味かね?」と身を乗り出してくるのだ。「金持ちは何代も続かない」という意味だと言うと、「日本は“先進国”だとばかり思っていたのに、“名家が続かない”とはどういうことか」と聞いてくる。

 「金持ちの子供や孫は甘やかされて育つから家が没落する。加えて、日本には相続税があることも大きな原因だ」と説明すると、相手の中国人は「日本の税制は厳しいからね」と、気の毒そうな目を向ける。同時に「中国で相続税が導入されたらそんなことになるのか」と、その先を想像して首をすくめる。

 中国では建国当時、相続税の導入が定められたが、実際の課税については保留扱いになった。長らくその状態が続いていたが、今、導入に向けての準備が進められている。

 そして日本の相続税について中国人に次のように話すと、目を丸くして驚く。

 「皇族であろうが、官僚であろうが、あるいは現金を持たない世帯であろうが、財産を相続した者は例外なく平等に法定税率によって算出された税額が課される。相続税を払うために、土地家屋を売り払うケースは決して少なくない」

 中国人の驚きのポイントはいくつかある。

(1)皇族ですら納税義務を負うという点
(2)「例外なく平等に」という点
(3)国民がそれを遵守するという点

 中国では「国家の上層部は腐敗しており、彼らが真面目に納税義務を果たすことなどあり得ない、それどころか当たり前のように脱税する」という認識が一般的だ。また国民は国民で、できるだけしたたかに納税の抜け道をくぐり抜けるべきだと考えている。そんな中国人から見れば、上から下まできちんと納税する日本人の国民性は驚きに値するというわけだ。

 日本の「厳正な課税ぶり」を表すエピソードがある。これを話すと、彼らの反応は驚きから畏敬に変わる。

 1999年、美智子皇后は父親の逝去に伴って株式や自宅、預金など33億円の財産を兄弟姉妹4人で相続することになった。しかし3人の兄弟妹は現金で相続税を払うことができずに、結局、自宅を物納した。70年間にわたり保存された洋館だったが、結局取り壊され国有財産となり、現在は区立公園となっている──。

 ここで彼らは納得する。日本人はなぜガツガツと住宅を2戸も3戸も保有しないのか。その理由に合点がいくのである。

 日本では、財産を相続する人は、「富を受け継ぐ」という喜びよりも、むしろ「煩わしさの種を受け継ぐ」という意識の方が根強い。富めば富むほど、相続税によって「社会への還元」という圧力が一層強くなる仕組みになっているためだ。

 南海大学教授の劉暢氏もまた「透視日本的房与税」(房は住宅の意味)と題する執筆で「住宅を持てば持つほど課税が増える、そのため日本では2戸目の住宅を持つ人が少ない」と指摘している。

とても払えない「1億円の相続税」

 日本では、相続が発生したとき、相続税を払うために家を売る相続人は少なくない。都心部などでは、「いつのまにか高級住宅地になってしまった」という宅地が少なくなく、また鉄道の新線開通などで価値が上昇した宅地もあるため、大なり小なり相続人は納税に苦労しているのが現状だ。

 さらに日本は財政危機を打開するため増税傾向にあり、相続税についても、課税対象となる相続財産のうち6億円を超える部分への課税が最高で55%に引き上がると言われている。

 地方でも地方ならではの相続問題がある。筆者はインターネット上の相続関係のサイトでこんな書き込みを目にした。

 「私の親は農家で、田舎に土地を所有しています。親はアパートを経営していますが、空き室が目立ちます。最近、取引銀行から、『今のままでは相続税が1億円かかる』と言われ、節税対策のために『農地を一部転用して、アパートをもう1棟建てては』と言われました。そのためには1億円の準備が必要ですが、私の預金残高は1割にも満たない・・・」

 節税対策にアパートを建てても借り手が見つからず、空き家になってしまうことはよくある。しかも、親元を離れて東京でOLをする本人には、それを相続するほどの収入も預金もない。

 日本で相続税を課せられると貯金がほとんどなくなり、借金が必要になる場合もある。しかも、不動産は所有しているだけで固定資産税が発生し、売却時も納税負担が生じる。土地が右肩上がりに上昇したのは過去の話だ。現在、日本人にとって不動産は「できるだけ持ちたくないもの」になっていると言っても過言ではない。

 逆に言えば、中国で過去10年にわたり、住宅価格急上昇の抑え込みが効かなかったのは、「不動産に関する税制」が機能してこなかったためだと言える。

日本の平等社会はモデルになるのか?

 日本の相続税制は、確かにシステムとしては公正であり、富の再分配への貢献度は高い。だが、国民の不満も多い。多くの国民が相続の際に金銭的犠牲を強いられ、家族間のトラブルの元にもなる(ひどい場合は「親子の縁を切る」「兄弟の縁を切る」などの沙汰にも及ぶ)。

 奥村土牛という有名な日本画家がいた。四男の奥村勝之氏は、父・土牛の死去にあたり相続税が払えず、素描を燃やすに至った。著名な画家の相続人といえば、膨大な遺産を引き継いで豊かに暮らしていると思われがちだが、実際は壮絶な苦労を強いられていたのである。勝之氏は巨額の相続税を納めるだけでなく、相続税を支払うために借金までして、その返済に追われる人生を送ることになる(参考:『相続税が払えない―父・奥村土牛の素描を燃やしたわけ』奥村勝之著)

 日本の相続税制は、富の集中を防ぐためには有効に作用しても、結果として社会全体の活力を失わせることにもなった。「日本は平等社会で中国以上に社会主義だ」「中国は共産党一党支配だが、日本以上に資本主義だ」とよく言われるが、相続税制を見る限り、まさにその通りかもしれない。

 これから相続税制を導入しようとする中国にとっては、日本の相続税は累進課税であるという点を除けば参考にならないかもしれない。だが、国民の納税があってこそ公平な社会が実現される、という点は、日本を見習うべきだろう。

 中国では、今回導入された不動産所得税(新国五条)に対して、「国民の財産に手をつけるのか」と猛反発する国民が圧倒的だ。ある市民はこうも言う。「税金払うなら、権利をくれ」。国民の権利を認めない政府に誰が納税するものか、という反発である。

 公平な社会というのは、ある日突然降って湧いてくるものではない。国民の理解と譲歩、そして協力という姿勢がなければ、永遠に実現は困難なのである。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37523


崩壊するスウェーデンの学校制度(上)
教育が差別と分断を招くのか〜北欧・福祉社会の光と影(8)
2013年04月23日(Tue) みゆき ポアチャ
 スウェーデンの学校が崩壊の危機に立っている。国の教育制度が前例のない批判の嵐を受けている。国際的な比較においても、スウェーデン生徒の学力の低下は著しい。

 3月の終わりに、「学校の運営と管理責任を地方自治体から国家管理へ戻すことを要求する請願書」が提出され、それに続いて全国紙ダーゲンス・ニーへテルが「教員の月給を1万クローナ(約15万円)引き上げよ」と題する記事を掲載した。この記事は4月21日現在、9000人近くがフェイスブックの「いいね!」で共有している*1。

 これらをきっかけに、4月以降、学校制度に対する疑問と批判が噴出している。

 と言っても、学校の問題は今急に始まったわけではない。以前にも書いたが、まず教師の離職率が高い。筆者が勤めるヨーテボリの高校でも、校長をはじめ頻繁に先生が代わるので、私自身、半数かそれ以上の先生はもう名前すら分からない。というより、覚える気力を失った。

 校長ですらしょっちゅう交代している。筆者が教えている高校では、この2年間で3人目の校長だ。スウェーデンテレビの報道によると、南部スコーネのヘッセルホルム・コミューンにある、6年生から9年生が通うティリンゲ校では、3年間で4人の校長が代わったとされている。同じ記事によると、同コミューンでは2010年の秋学期以降、校長が2人以上代わった学校が13校ある*2。

 なので、これは局所的・地域的な問題ではなく、全国に蔓延している現象なのだ。

 これについて新しく来た校長に、なぜ今までの校長が辞めたのかと理由を尋ねてみたことがある。彼は「それについて意見を言うことはできない。自分も知らない」という返事だった。が、彼は、校長が長期的にとどまることは非常に重要であるし、校長が代わることが学校の問題を悪化させていると思うと言う。

 「とにかく我々は今、前任が辞めたギャップを埋めるために働いているのだ」という返事だった。

 同僚である保健の先生は、最近は胃の痛みや体調の不調を訴える学生が増えていると言う。特に2011年秋から成績の評価方法が変わったことが生徒にストレスをもたらす大きな要因だと考えている。この新評価システムも、学生間に不公平と不平等をもたらすと批判されている*3。

学校システムの崩壊 


 定期的に行われる「学校査察」によると、教育現場の現状は惨憺たる結果だ。

 2012年に査察を受けた小中学校のうち、「問題なし」とされた学校はわずか4%。残りの96%、全国745校のうち715校が何らかの点において「不十分である」とされている。

 特に多かった批判点は、「生徒に必要なサポートが届いていない」ことだ。多くの学生が勉学で遅れており、支援を必要としているが、65%の学校で必要なサポートが実行されていない*4。

*1=http://www.dn.se/ledare/kolumner/peter-wolodarski-lyft-lararlonen-med-10000-kronor-i-manaden

*2=http://www.svt.se/nyheter/sverige/elev-man-har-inte-kant-sig-sa-trygg

*3=http://www.dn.se/nyheter/betygen-fortfarande-orattvisa

*4=http://www.dn.se/nyheter/sverige/betyget-de-klarar-inte-kraven

 極端なケースでは、障害を負った生徒のために拠出されている補助金が、当の生徒のためには全く使われていないという事例もある。

 報道によると、ストックホルム近郊のオーケル小学校は、脳性マヒ、自閉症、てんかん、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の障害を背負った7歳の生徒への特別支援金として昨年4万5000クローナを受けているが、同校の校長は「学校はリソースを見つけることができない」ため、これを同生徒のサポートにではなく、結局学校の一般予算に入れて諸経費として使ったことを認めている*5。


 また、学校は生徒の発達状況について定期的に保護者に連絡することになっているが、これが適切に実行されていないとされた学校も65%に上る。

 それ以外では、いじめが認められた学校が60%、十分な質を保った業務が行われていないとされた学校が53%、特別支援が不十分となっている学校が32%。

 すべての基準を満たした学校は、全国に30校しかない。

 学校が学校としての機能を果たしていないのか。これはほとんど、「学校制度の崩壊」と言ってもいい状況ではないのか。

誰でも先生になれる時代

 同時に、「先生」に対する尊敬や敬意の念が失われている。「先生」になりたい人がいなくなっている。

 全国紙ダーゲンス・ニーへテルに掲載された記事「ほとんど誰でも先生になることができる」によると、「先生のステータスは底辺に追い込まれている。大学の教員養成プログラムに入学するのは非常に簡単で、質問を読まずに試験を書いても十分だ」*6。

 かつて、教育プログラムは大学で最も人気のある魅力的なプログラムだった。同記事によると、1982年には、小学校教諭の職1つにつき7.5人の応募があった。

 が、2012秋には大学試験(Högskoleprovet)の結果が0.1であった学生123人が、国の教員養成課程への入学資格を得ている。試験の最大スコアは2.0なので、100点満点に換算するとわずか5点である。

*5=http://www.dn.se/nyheter/sverige/pengarna-for-stod-at-johan-gick-till-annat

*6=http://www.dn.se/nyheter/sverige/nastan-vem-som-helst-kan-bli-larare

 これほどの低スコアの理由は、恐らく試験を受けなかったとか、何らかの事情により試験の途中で退席したなどの理由によるものではないかと思われる。

 スウェーデンでは、獲得した点数にかかわらず定員に達するまで自動的に受験者に入学資格を与えることになっている。そのため、応募者が少なすぎると、「質問を読まずに試験の答えを書いても十分」という事態が起こることになる。

教師の4人に1人が離職


 また、教育庁のリポートによると、2007年から2012年までの5年間で、定年退職以外の理由で先生を辞めて他の仕事に就いた人は24%に上る。

 離職率が高い大きな理由は、給与が低く労働条件が悪いことだ*7。

 自発的に辞める先生も多いが、最近は学校予算などの理由で辞めさせられるケースが急増している。

 筆者は、昨年まで2つの高校で日本語を教えていたが、1校では「履修する生徒数が少ない」ためにコースを開講しないことになった。こうした理由で、非自発的に、いわば「クビ切り」されて職を失っている先生たちもいる。

 別の高校で日本語を教えているT先生は、スウェーデンでの正式な教員免許を取得するために大学に通っている。仕事をしながらなので、取得まで5年半を要するのだが、それも残すところあと1学期というところまできた。

 こうして頑張っているのだが、彼女も先日、「来学期は日本語をとる生徒がいないので、秋から『arbetslös(無職)』になっちゃうんです〜(涙)」というメールをくれた。

 「教職取って意味があるのだろうかと思ってしまう・・・。やっぱり日本語の人気は落ちてきてますね・・・」

 さらに「私の学校、景気悪いみたいで、来学期からは私だけでなくほかの先生も数名辞めさせられるみたい・・・」

教職員の大量解雇と生徒の抗議スト

 今秋に始まる新学期に、多くの先生が首切りされる予定だ。ヨテボリ全体で、教職員合わせて約110人が解任されるという 。

 市内の2校、シーレスカ高とフヴフェルツカ高では、両校ともそれぞれ20人規模で教員が馘首される計画になっている。これまで学校で教えていた約4割の先生が、秋からの新学期には一気にいなくなるのだ。

*7= http://www.dn.se/nyheter/sverige/en-av-fyra-larare-lamnar-yrket


生徒たちの抗議行動の様子を報じるヨテボリ・ポステン紙(4月18日)
 17日には「先生の大量解雇反対!」の声を上げて両高校の生徒数百人が抗議のストライキに起った。

 ニュース報道のインタビューに答えていた、抗議行動を組織したフリーダという女子生徒は、こう話している。

 「全く怒りを抑えられない。これほどの先生方が急に辞めさせられるということに、何の論理も正義もない」「教育は明るい未来をつくり、失業率を低下させ、将来の発展のカギとなるものだ。政治家は、これほどの先生が急にいなくなるということがどれほどひどいことか、分かっていない」

 1年生のエリアスは言う。「生徒の数が変わらないのに先生が減るということは、残った先生に過度のストレスがかかるなど、いろいろな弊害がある。これによって学校の雰囲気をひどいものに変えることになる」

 生徒たちは、抗議の署名を集めており、後に教育省に提出する予定だ*8。

 学校がこれほどの状況に至った要因としてやり玉に挙げられているのは、1990年代に行われた2つの大きな教育改革だ。次回はこの2大教育改革の問題点について稿を進めていきたい。

*8=http://www.svt.se/nyheter/regionalt/vastnytt/elevprotester-mot-nedskarningar
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37602


 


コンビニ“大量閉店時代”は来るのか

出店競争にローソンが背を向けるワケ

2013年4月23日(火)  山崎 良兵

 また新しいコンビニエンスストアが近所にオープンした。ここ1〜2年で、私が住む東京都内の自宅マンションから徒歩10分圏内にできたコンビニは実に4店舗。余計なお世話かもしれないが、「こんなにお店ができて、経営は大丈夫なのか」と心配になってしまうほどだ。どの店もそれなりにお客が入っているように見えるが、以前からあったコンビニ店は客を奪われているのは間違いない。

 同じような現象は読者の方々が住む多くの町でも起きていることだろう。2013年2月期、コンビニ大手は過去最大規模の出店を実施。セブン-イレブン・ジャパンは前期比153店舗増の1354店舗。2位のローソンは172店舗増の938店舗、3位のファミリーマートは49店舗増の900店舗を出店。至る所で出店競争を繰り広げてきた。業界全体でも出店の限界とされてきた国内5万店舗の壁を昨年11月に突破した。

 激化する一方だった出店競争に、異変が起きている。セブンイレブンとファミリーマートは2014年2月期にさらに出店を増やし、揃って1500店舗に高める計画。だが、ローソンは逆に出店を減らす戦略を打ち出したのだ。新規出店を68店舗減らして870店舗に抑える一方、閉店は185店舗増の450店舗にする。規模を拡大する路線を明確に転換する方針を、明らかにした。


出店にブレーキをかけるローソンの店舗(東京都港区)
出店拡大の根拠は“コンビニ進化論”

 なぜなのか。これまでコンビニ各社の出店拡大の根拠になってきたのは、いわゆる“コンビニ進化論”だ。従来は20〜50代の男性が中心顧客だったが、客層が拡大。肉や野菜など生鮮品の品揃えを強化して主婦など女性層を取り込む。小サイズのお総菜などを充実させ、宅配サービスも始めてシニア層を掘り起こす。店舗で抽出するコーヒーや味にこだわったフライドチキンなどで外食市場を奪うといった動きで、コンビニの成長の余地が大きくなっているという見方だ。

 「こうした客層拡大は今後も続く」とローソンの新浪剛史社長は話すが、それ以上に出店競争が激化して、出店のハードルは上がっている。ローソンの場合、2013年2月期の新店舗の1日当たり販売額は前年をやや下回る程度。ライバルと比べても堅調だが、既存店売上高は前の期比で横ばいと、伸び率は鈍化している。ライバルではセブンイレブンを除くと、既存店売上高がマイナスになるチェーンも目立つ。コンビニがいかに進化しようとも、狭い商圏に店舗が乱立すると顧客の奪い合いは避けられない。

 ただ何もしないと出店に積極的なライバルに店舗用地を奪われる。「食うか食われるかの戦いだから、出店を増やす必要がある」(サークルKサンクスを傘下に持つユニーグループ・ホールディングスの中村元彦社長)といった声が目立つ。このため家賃が高くても出店を決めるチェーンが増えているようだ。

 出店拡大を成功させるカギは、店舗開発を支援する本部の人材が握る。「パイロットは簡単に育成できない。飛行機が飛ばせない(店舗が不採算になる)と加盟店にも迷惑をかける」とローソンの新浪社長は慎重だ。10年ほど前にトップに就任した頃に、無理な出店の影響で、不採算店を大量に閉鎖した苦い記憶が頭をよぎる。

既存店の利益率改善を優先する

 だからこそローソンはライバルが出店競争を一層加速しても、出店ペースを減速することを決めた。

 出店は厳選する。優れた経営力を持ち、店舗運営の実績があるオーナーに、新たな店舗の経営を任せる仕組みにシフトする。それがマネジメントオーナー(MO)制度。現在、複数店を経営するMOは72人で、経営する店舗は592に達する。これを大幅に増やす。1人平均12店舗を経営することを想定しており、今後、5年間でMOを300人育成し、3000〜4000店舗の運営を任せる方針を掲げる。

 出店拡大よりも、既存店の収益力強化に力を注ぐ。売上高ベースで利用客の5割近くが利用するポイントカードの「PONTA(ポンタ)」を活用。店舗ごとに購入客の年齢、性別、住所、購入商品と購入時間など詳細な情報を分析して、商品の欠品を防ぐのと同時に、廃棄ロスを減らす。利益率の高い商品の品ぞろえも強化。粗利益率が6割以上に達する、店舗で抽出するコーヒーの販売も強化し、提供店舗を5000店舗に増やす。

 「無理な出店を続けると、大規模な閉店を迫られる」(新浪社長)とみて、足腰の強化を優先するローソン。ローソンに限らず、過去に過剰に出店して、採算が合わずに大規模な閉店を迫られたコンビニは少なからずある。

 だが、ライバルのコンビニ大手の意見は違うようだ。「(競争が激しくなっても)出店する場所や形態を変えれば、まだまだ新規出店は可能」とファミリーマートの中山勇社長は強調。鉄道駅や中小ドラッグストアとの融合業態での出店を加速する。首位のセブンイレブンはライバル店にないユニークなPB(プライベートブランド)商品の拡充などで集客して既存店や新店の売上高が堅調に推移。「他社では採算が取れない立地でもまだまだ出店できる」(同社幹部)とする。

 どちらの見方が正しいのか。現段階では評価しにくいが、明らかに言えるのは、昨年前半まで成長力に光が当たってきたコンビニが“ふるい”にかけられる段階にきていることだ。2013年2月期の営業利益は、大手3社が揃って増益だった一方、4位のサークルKサンクスと5位のミニストップは2ケタの減益。より規模の小さいチェーンでは業績不振にあえぐケースが目立つ。

 既存店や新店の売上高が苦戦するコンビニが増える中、採算の厳しい店舗が閉鎖を迫られるのは自然な流れだ。競争力を高めることができないチェーンは、大規模な閉店を迫られるシナリオも否定できない。


http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130419/246948/?ST=print

 


日本のTPP交渉参加、賛成派にもギリギリまで隠したUSTR

米連邦議員も賛否両論入り乱れる

2013年4月23日(火)  堀田 佳男

 「正直に驚いています。あんなに早く日本がTPP(環太平洋経済連携協定)への交渉参加を決めてくるとは思っていませんでした。もうすこし時間がかかると思っていた」

 今月12日、日本がTPPへの交渉参加を表明したことに対し、米連邦下院のグレゴリー・ミークス議員(民主・ニューヨーク州)は驚きを隠さない。

 というのも、ミークス議員はその2日前、民主党議員有志で構成される「ニュー・デモクラティック・コーリション(新民主連合)」のメンバー数人と、米通商代表部(USTR)のデメトリオス・マランティス代表代行と会合を持っていたからだ。

日本の参加は「すぐではない」と語っていたUSTR

 マランティス代表代行はロン・カーク前通商代表が退任した後、米国側のTPP交渉の責任者になっている。同連合のリーダー格であるミークス議員が会合で同代表代行から聞かされたのは、「(日本参加は)いい流れではあるが、すぐではない」というものだった。

 12日早朝、日本参加のニュースがメディアで報道された時、ミークス議員は事前にオバマ政権側からその事実を聞かされていなかった。公式発表後、マランティス代表代行は新民主連合メンバーに直接電話連絡を入れている。

 驚いているといっても、ミークス議員をはじめとする約50人の新民主連合のメンバーは皆、日本のTPP参加への賛同者である。大局的に、自由貿易こそが世界経済を発展させる最良の手立てであり、保護主義的な貿易政策は産業全体にとってはマイナスであるとの意見でまとまっている。ただUSTRは、日本の参加交渉の進捗状況を、同じ政党の賛成派議員にも告げていなかった。

 その背景には反対派への牽制がある。TPP問題で、米国はもちろん一枚岩ではない。全米商工会議所や豚肉生産者、小麦生産者、大手建設機械メーカーのキャタピラーなどは日本のTPP参加に賛同するが、自動車業界や鉄鋼業界、全米自動車労働組合(UAW)、全米鉄鋼労働組合(USW)などは反対してきた。

 連邦議員の反対派は民主・共和両党にいる。中でも自動車産業のメッカ、ミシガン州やオハイオ州に強硬派議員が多い。ミシガン州のデイビッド・キャンプ下院歳入委員会委員長や同委員会のサンダー・レビン議員、オハイオ州選出のシェロッド・ブラウン上院財政委員会委員長などが代表格である。

 実は、議員の賛否両論の構図は日本とまったく同じである。地元州民の利害を代弁する連邦議員である以上、地元の産業擁護が使命だ。日本の農業従事者を守る議員がTPPに反対するのと一緒で、米国では自動車産業擁護派が日本のTPP参加を快く思っていない。

 12日に日本が交渉参加を正式表明した後、オバマ政権内には一部で「出来レース」のような流れができたという。彼らの思惑通りに進めば、交渉妥結は年内、遅くとも来年初頭になるとの見方が強い。

 しかし7月に日本がTPPの交渉へ参加する道筋ができても、米議会では90日間、日本の交渉参加についての議論がなされる。それがスムーズにいくかは予断を許さない。というのも、前出したレビン下院議員などは米自動車業界からの圧力を背に、相変わらず日本への強硬な態度を弱めていないからだ。

 「日本に最終的な交渉の参加を許す前に、日本は米国産自動車の輸入を拡大しなくてはいけない。日本市場の開放が先だ」(レビン議員)

 来年11月の中間選挙で自身の議席がかかっているだけに、ミシガン州議員として日本批判の急先鋒に立つ。また前出した新民主連合とは逆の立場の議員50人が、日本に厳しい態度で臨むようにホワイトハウスに書簡を送付してもいる。これが今のワシントンの政治力学だ。

 さらに、自動車業界関係者からは「TPP締結後、日本の非関税障壁が本当に除去されるか大きな疑問です。なにしろ80年代から米国は非関税障壁について言い続けていますが、依然として大きくは改善されていません。米国市場だけが開放されて、日本が変わらずではいけないでしょう」という憤懣も聞こえてくる。

今こそ政治力を試される反対勢力

 米国には2007年まで、大統領が貿易交渉の優先権を担った「ファストトラック(一括承認手続き)」という権限があった。それが失効している今、オバマ大統領は議会からの「委任状」を取りつける必要がある。今後、自動車業界や労組は連邦議会でロビー活動を活発化させ、日本との交渉現場で米国の利害を前面に出してくるはずだ。

 筆者は首都ワシントンに25年滞在し(2007年帰国)、長い間米国政治を観てきた。もちろんすべてを見通せるわけではない。だが強力なロビイングによって法案が廃案にされたり、法案内容が変更されたりという事例を数多く知っている。反対派勢力にとっては、今こそが政治力を試される時でもあるのだ。

 そうはいっても、TPPのような多国間が関与する交渉で、しかも理念的に自由貿易推進という立場で参加国が包括的に合意した場合、時間はかかっても肯定的な結果が生まれることが多い。たとえば、米国農業団体は日本のコメに対して柔軟な姿勢を見せている。778%という日本のコメ関税を「ゼロにすることなど望んでいない」という。米国でもこれまで、他国との自由貿易協定ではピーナッツや綿花といった保護対象品目がいくつもあった。米国は世界最大の農業国でもある。

 USAライス連合会のロバート・カニングCOO(最高執行責任者)は4月15日の会見で、日本がコメに対して敏感であることを認識したうえで、「完全な関税撤廃か高関税維持といった両極の議論ではなく、日米で妥結できる着地点があるはず」との考え方を示した。日本の農業関係者の多くは、コメを含めた5分野を「聖域」として死守したい意向だが、時間をかけてでも着地点を探らないとTPPという自由貿易協定の枠組みが崩れかねない。

 米国の官報である連邦官報(フェデラル・レジスター)が2011年11月、日本のTPP参加に関する賛否を米民間企業・団体に問うている。100以上の組織から回答があった。40%が農業団体で、25%が製造業、25%がサービス業、残りが非営利団体などだ。何割が賛成に回っているかの記述はないが、結果は過半数が賛成派である。

「日本が不参加ならTPPの信憑性が損なわれる」

 その中には、過去の日米貿易交渉において、米国の要求は日本にはむしろ通りにくかったとの見方も散見される。そうした経緯から、貿易問題を専門にする米弁護士などは、「まず日本をTPPに参加させて、それから日本を変えていけばいい」という狙いを口にする。しかし同問題は両刃の剣で、全関係者を満足させる帰着点はない。そこに政治の究極的な難しさが内在する。

 オバマ大統領は今後、欧州連合(EU)とも包括的な自由貿易協定の交渉に入ることを打ち出している。10年後の世界の貿易体制を眺望したとき、日本が特定分野擁護による保護主義を貫くことで、米国をはじめとした太平洋諸国との自由貿易協定の中に入っていない姿はほとんど想像できない。

 米議会調査局(CRS)でTPP問題を精査しているビル・クーパー氏は4月9日付の報告書で、「日本がTPP交渉に不参加になったとしたら、TPPの信憑性は著しく損なわれるばかりか、アジア太平洋地域の経済統合が逆行することになる」と論じている。

 日米両国には常に強硬派がいる。だが両政府が国の意思として日本のTPP交渉参加にゴーサインを出した以上、TPPという自由貿易推進の道筋はぶれてはならないし、それが日本経済を上昇させる正道であるはずだ。


アメリカのイマを読む

日中関係、北朝鮮問題、TPP、沖縄の基地問題…。アジア太平洋地域の関係が複雑になっていく中で、同盟国である米国は今、何を考えているのか。25年にわたって米国に滞在してきた著者が、米国の実情、本音に鋭く迫る。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20130419/246971/?ST=print


【第275回】 2013年4月23日 真壁昭夫 [信州大学教授]
足踏みする成長率に鳥インフルエンザ感染の拡大
えくぼがあばたに? 輝きを失う中国経済の近未来考
予想を下回る成長率に鳥インフルエンザ
マイナスのニュースが目立つ中国経済

 最近、中国に関するニュースが気になる。中国の経済・社会にとって、マイナスの記事が目立つからだ。

 中国経済が“超”高成長期を経て安定成長期に足を踏み入れ、それまで“えくぼ”に見えていた部分が、実態的に“あばた”に見え始めた感がある。現在の中国に、リーマンショック以降、米国に代わって世界経済を牽引してきた輝きを見つけることは難しい。

 4月15日、中国国家統計局が発表した、今年1‐3月期の物価変動を考慮しない実質ベースのGDPの伸び率は、対前期比7.7%増だった。この成長率は、経済専門家の事前予想(8.1%)を下回った。

 昨年10−12月期のGDPがプラス7.9%だったことを考えると、中国経済は足踏み状態と言える。GDPよりも経済実態を鮮明に表すと言われている中国の電力消費量は、前期対比でわずか2.9%の伸びに留まり、昨年1-12月期の同4.7%増を下回った。企業の生産活動が低下していることは明らかだ。

 さらに、中国国内で鳥インフルエンザの感染が広がるなど、社会的な不安が拡大することも懸念される。インフルエンザ感染の拡大の背景には、以前から指摘されてきた中国国内の検疫体制などに問題がありそうだ。

 また、そうした問題に加えて民主化の遅れなど、様々な問題が今後顕在化してくると見られる。これから“中国リスク”を頭に入れておく必要があるだろう。

 発表されたGDPの内訳を見ると、政府のインフラ投資を中心とした投資活動や輸出が堅調である一方、企業の生産活動や個人消費が盛り上がらない姿が浮き彫りになる。

 中国政府が、投資や輸出をエンジンにした経済構造から、国内の個人消費を中心とした経済へのモデルチェンジを図っていることを考えると、今までのところ、政府が意図したほどモデルチェンジが進んでいないことがわかる。

 昨年中国政府は、1兆元規模のインフラ投資を実施して景気を下支えする方針を打ち出した。そうした方針に従って、鉄道建設などを中心に投資分野が大幅に伸び、固定資産投資は前年同月比20.9%も伸びた。輸出も東南アジア諸国向け中心に堅調で、同18.4%も増加した。そのため、相変わらず投資と輸出とが、中国経済を引っ張っている構図が続いている。

振るわない工業生産や個人消費
遅れる経済構造のモデルチェンジ

 一方、在庫を抱えた企業の生産活動の勢いは鈍く、1-3月期の工業生産は同9.5%とわずかな伸びに止まった。また個人消費に関しては、共産党政権の反腐敗運動による倹約の影響が広がっていることもあり、高級食糧品などを中心に買い控え傾向が鮮明になった。

 また、中国国内の経済格差拡大の問題もあり、短期間に消費が大きく伸びることは考えにくい。今年1-3月の社会消費品小売売上総額(小売売上高)の上昇幅は、前年の実績に届かなかった。

 こうした経済状況を考えると、中国政府はこれからも景気下支えのために大規模なインフラ投資を続けざるを得ないだろう。また、世界経済の動きに大きく左右される輸出にも、国内経済の行方を託さなければならない状況が続くはずだ。それだけ、中国経済が不安定化することが予想される。

 もともと中国は、看過できない問題を抱えている。まず頭に浮かぶのは民主化の遅れだ。今でも中国は共産党の一党独裁体制になっており、一般民衆に対する厳しい情報統制が残っている。そのため現在の中国は、89年の“天安門事件”以降、あまり民主化が進んでいないと言われている。

 インターネットなどの情報・通信技術が進み、多くの人々が瞬時に同じ情報を共有できる状況になると、国民に対する情報遮断を維持することは事実上不可能になりつつある。新幹線の事故現場の映像や、共産党首脳部の個人的な蓄財などの報道は、瞬時に多くの国民の目に晒される。それは、国民の政権に対する不満につながるはずだ。

 また、中国社会に影を落としている要因に、鳥インフルエンザの感染拡大懸念がある。4月21日現在、中国国内の感染者の数は100名を越え、死亡者は20人に上っている。しかも、ウイルス感染地域は浙江省や上海などを中心に次第に拡大しており、今後さらに拡大するものと見られる。

 野生の鳩などから検出されたウイルスは新型のH7N9型で、中国国内の検疫体制が十分に追いついていないようだ。

 中国国内の衛生管理体制については、かなり以前から不備が指摘されてきた。これまでの感染症の流行に関しても、アジア諸国と並んで中国での感染拡大の危険性が指摘されてきた。それにもかかわらず、中国国内の体制整備は遅れている。

 中国は、衛生管理に関する体制について「先進国とは言えない」との指摘もある。今後中国の政策当局は、そうした問題点をいかに迅速に解決するかを問われる。

 感染者の数が限定的な間に有効な検疫措置を実行しないと、人々の不安が膨らみ、“食の安全”に関する疑問に結びつくことも考えられる。それがさらに拡大すると、最終的に中国のパンデミックス・リスクが、世界全体に大きな脅威を与えることも考えられる。

次々に問題点が顕在化する中国
近未来的な中国の動向予測は?

 まず中国に関して重要なポイントは、民主化をいかに進めるかだろう。これほど情報・通信技術が発達した現代、国際社会や国民に対して情報を遮断することはできない。いずれかの段階で民主化を進めることは避けられない。重要なポイントは、どのような手段でどれだけのスピードで進めるかだ。

 おそらく最も現実味があるのは、革命のような激変イベントが起きるのではなく、共産党政権が一般民衆の圧力を考慮しながら、徐々に民主化に向けて舵を切る可能性が高いと考える。そのプロセスが最も自然だからだ。

 そうした変革に伴い、時間をかけて共産党一党独裁の仕組みが見直されるかもしれない。官僚制度などの行政のシステム、裁判所などの法律に関する仕組みも少しずつ変えられるだろう。そうしたプロセスによって、中国はスムーズに、西欧流の民主国家に変身を遂げていくことが期待される。

 一方経済については、中国はすでにコーナーを曲がっている。リーマンショック以前の輸出をエンジンにした経済モデルはとりあえず破綻している。そうしたモデルに基づく“超”高成長期が終焉を迎えたことは、習主席自身が認めている。問題は、これから中国自身が新しい経済モデルをいかにつくり上げるかだ。

 中国経済の中心は、今でも国営企業や旧国営企業、さらには不動産投資を積極的に行う地方政府などである。それらの経済主体は、国の政策運営に沿って動きやすいというメリットがあるとはいえ、政治が企業経営を行うことには限界がある。

中国がソフトランディングしないと
今よりも扱いにくい国になってしまう?

 経済合理性の働かない経営では、いずれ破綻を招くことは目に見えている。そうした中国の経済構造を、短期間に一変させることは困難だ。実行しようとしても、様々な軋轢が生じるだろう。

 不必要な軋轢を回避するためには、時間をかけて改革することが必要になる。問題は、改革に時間をかけすぎると世界経済の進歩に置いて行かれることだ。

 特に、中国では早晩、生産年齢人口の減少に遭遇する。それが現実のものになると、中国の賃金水準は今まで以上の上昇傾向を鮮明化する。そうなると、付加価値の低い産業分野は中国での存続が難しい。

 今後中国は、付加価値の高い産業分野を育成するために、自前の技術や新製品をつくることが必要になる。それができれば、中国経済のプレゼンスは上昇するだろう。

 逆にそれができないと、中国は多くの人口を抱えた普通の大国にランディングするはずだ。その場合、人口が多いぶん国をまとめる富国強兵策のようなロジックが必要になるだろう。中国は、今より扱い難い国になるかもしれない。
http://diamond.jp/articles/print/35052


 

【第2回】 2013年4月23日 加藤嘉一 [国際コラムニスト]
歴史は終焉するか? フクヤマVSケ小平
未完のイデオロギー闘争
戦後からポスト冷戦で
歴史は終わったか

 フランシス・フクヤマ氏(Francis Fukuyama)という政治学者がいる。

 その名の通り日系アメリカ人であるフクヤマ氏は、1989年に『The End of History』(歴史の終焉)という論文をThe National Interestという学術ジャーナルに寄稿し、1992年には『The End of History and the Last Man』(Free Press)という著書を出版している。

 1989〜1992年と言えば、国際政治システムを歴史的変化が襲った時期である。ソビエト連邦が解体され、“冷戦”(冷たい戦争)が崩壊した。

 第二次世界大戦が終わり、朝鮮戦争などを経て、米国とソ連はそれぞれ“西側”と呼ばれた資本主義陣営と“東側”と呼ばれた共産主義陣営を代表する主要大国として、イデオロギー闘争を繰り広げた。1962年には所謂“キューバ危機”が勃発、米ソ対立は世界中に第三次世界大戦を予感させ、核戦争寸前までエスカレートした。

“西側”は民主主義、“東側”は社会主義を掲げ、政治体制だけではなく経済発展モデルまでをも、市場経済VS計画経済という形でイデオロギー闘争の渦の中へと飲み込んでいった。

 そんな冷戦が終わり、ポスト冷戦時代への移行期にある過程で登場したのが、冒頭におけるフクヤマ氏の論考『The End of History』(歴史の終焉)である。

 同論文・同書を通じて、フクヤマ氏は、ソ連邦の解体、冷戦の崩壊は自由民主主義の共産社会主義に対する完全勝利を意味しており、前者こそが人類の平和と繁栄を永久に保障してくれる最高の政治体制であり、と同時に人類が追求する最終の社会システムであることを主張した。

 私は当時小学校に上がるか上がらないかという頃であったため、ソ連の解体も冷戦の崩壊も全く記憶にないが、フクヤマ氏の論考が世界中の知識人をイデオロギーや価値観をめぐる新たな論争へと追いやったことは想像に難くない。

 西側陣営に属していた日本は“冷戦”という文脈の中では“戦勝国”となったわけだが、当時の日本社会・国民がどのように日系アメリカ人であるフクヤマ氏の「歴史の終焉」を迎えたのかは興味深い。歓喜だったのか。違和感を遺したのか。それとも、自国のバブル崩壊でそれどころではなかったのか……。

“敗戦国”として挑んだ冷戦時代、“戦勝国”として挑んだポスト冷戦時代――。

 日本人にとってのポスト冷戦時代は即ち“失われた××年”と時期を共にする。この期間、日本人にとって、何が終わって何が始まったのか。或いは、何か始まって何が終わったのか。

 私たちは、頭の中でタイムマシーンを想像しながら、歴史を遡ってみる必要があるのかもしれない。

西側識者たちが想像した
“中国崩壊”という終着点

 歴史を遡ってみるというミッションは、本連載がターゲットとする中国にものしかかる。

 フクヤマ氏が同論文を世に問うた1989年、中国では天安門事件が勃発し(6月4日)、共産党指導部は胡耀邦氏の死をきっかけに始まった学生の民主化を求める運動を武力で鎮圧した。

 当時の中国の最高指導者、ケ小平氏は同じ共産圏に属していたソビエト連邦共産党書記長のミハイル・ゴルバチョフ氏が急速に自由化・民主化を進め(ペレストロイカ)、情報公開(グラスノスチ)に踏み切るプロセスを、危機感を持ちながら注視していた。民主化運動を武力で鎮圧する決断とソ連社会が崩壊していくロードマップは、ケ小平氏の脳裏では一本の糸でつながっていたのかもしれない。

「六・四事件」とも呼ばれる天安門事件は単なる独立した国内事件には留まらなかった。自由民主主義という大義名分を謳歌してきた“西側”社会を中心に、学生たちによる“正当な”民主化運動を軍隊が武力で鎮圧する模様は世界中に映像として流され、国際社会の“共産中国”に対する不信感はピークに達した。西側諸国は基本的人権を重んじない中国政府に対する経済制裁を行使した。

 1991年12月25日、ゴルバチョフ氏が辞任し、ソビエト連邦を構成する共和国が主権国家として独立していくプロセスを通じて、“東側”の象徴であったソ連は解体される。

「六・四事件」から約2年半というこの期間、下(人民)からの民主化要求を、上(国家)からの暴力で鎮圧した「共産中国」の社会主義体制は持続可能ではなく、「もうこれ以上もたない。近いうちに崩壊する。いや、そもそも崩壊するべきだ」と予測した知識人は世界中で少なくなかったであろう。ソ連解体によって、そんなコスモポリタンたちの“期待”と“想像力”は最高点にまで達した。

 これらの議論をリードしていたのが、まさにフクヤマ氏の論考であり、同氏は1992年1月、ついに著書『The End of History and the Last Man』を出版した。

 私自身の推測にすぎないが、論文を発表してから著書を出版するまでの約三年間に起こった出来事は、フクヤマ氏の「歴史の終焉」に対する確信を一層深めたに違いない。

「ソ連の解体、冷戦の崩壊によって“西側”VS“東側”というイデオロギー闘争の歴史は終わった。あとは中国が崩壊するのを待って私のストーリーは完結する」

 フクヤマ氏はこのようなイメージを抱きながら、同書が世に問われていくプロセスを“傍観”していたのであろうか。機会があればぜひ本人に直接確認してみたいと思っている。

ケ小平が編み出した
“世紀のプラグマティズム”

 フクヤマ氏が同書を出版したのとほぼ同時期、1992年1〜2月にかけて、ケ小平氏は武昌、深セン、珠海、上海などを視察し、一連の重要講話を発表した。通称「南巡講話」と呼ばれるものだ。

 ケ小平氏が後世に残した中で最も重量感のある“遺産”のひとつといっても過言ではないこの講話の中で、同氏は、社会主義を堅持しつつ改革開放を加速させていくことの必要性、重要性、切迫性を訴えた。

 その過程で、「姓が“資”か“社”か、という問題に縛られるべきではない」と強調した。即ち、「資本主義VS社会主義」という議論そのものが陳腐であり、中国が長期的に発展していくためには、冷戦期に国際システムを覆ったイデオロギー闘争に終止符を打つ必要があると説いた。

 東洋人の血を受け継ぐ西洋人であるフクヤマ氏は、「自由民主主義の共産社会主義に対する完全勝利」という論調でイデオロギー闘争の歴史に終焉を見出そうとした。一方、“中国改革の総設計師”と呼ばれたケ小平氏は「自由民主主義か共産社会主義かは問題ではない」という立場でイデオロギー闘争の歴史に終焉を見出そうとした。

 共に、1992年1月の出来事である。

 天安門事件から約2年半が経過していたが、いまだに「六・四」のトラウマから抜け出せず、“西側”から不信感と警戒心を浴び続ける中国共産党。そして、「崩壊へのカウントダウン」を予測され続ける中国社会。

 そんな“西側”からの呪縛を払拭し、未来へ活路を見出すためにケ小平氏が編み出したのが、「南巡講話」に代表される「世紀のプラグマティズム(実用主義)」であった。「姓が“資”か“社”か、という問題に縛られるべきではない」は、生産力の増大を第一に考えたケ小平氏の「白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕る猫が好い猫である」という“白猫黒猫論”にも反映されている。

「南巡講話」から5年後の1997年2月19日、ケ小平氏は92歳で人生の幕を閉じた。

エズラ・ヴォーゲルの『Deng Xiaoping』
ケ小平の後継者に課せられた難題

 それでも時は流れる。

 いま、「戦後最も影響力のある、偉大な指導者は誰か?」と聞かれて、「ケ小平」と答えるコスモポリタンは少なくないであろう。昨年8月に米ハーバード大学に拠点を移して以来、私は事あることに学者や学生たちにこの質問を投げかけてきたが、皮膚感覚で約20%が「Deng Xiaoping」(ケ小平)と答えてくる。

 そのケ小平氏はフランス留学中の1922年に中国共産党に入党。その後もソ連や中国国内で共産主義を学び、共産主義運動に身を投じた根っからの共産主義者である。政治の第一線で活躍するようになってからというもの、経済レベルでは生産力の増大を重んじ、改革開放を訴えたが、政治レベルでは常に保守的で、社会主義を堅持することに邁進した。ケ小平氏の思想信条の根底は、「根っからの共産主義者」という青少年時代に遡ると、私は思っている。

 そんなケ小平氏を、自由と民主主義という西側の価値観を心から愛してやまないハーバード大学に身を置く有識者たちの多くが、「戦後最も偉大な指導者」と尊敬してやまないのだ。ケ小平氏とハーバード大学も、92年に編み出された「世紀のプラグマティズム」という一本の見えない糸でつながっているのかもしれない。

 それを証明するかのように、2011年、『Deng Xiaoping and the Transformation of China』(Harvard University Press)を出版したエズラ・ヴォーゲル(Ezra F. Vogel)ハーバード大名誉教授は、同書の最終部分において「ケ小平の後継者たちにとっての挑戦」に関する問題提起をしている。

「毛沢東は内戦に勝利し、外国の帝国主義者を駆逐し、国家を統一することで正当性(legitimacy)を確保した。ケ小平は文化大革命のカオスから秩序を取り戻し、国家が直面する深刻な問題をプラグマティズムで処理し、急速な経済成長を通じて正当性を確保した。ケ小平の後継者たちは新しい時代において、どのように自らの正当性を確立するのであろうか?」

 ヴォーゲル氏は、高度経済成長を実現するだけではなく、国民が最も関心を持つ以下の問題に進展を見出すことで、党の正当性を確立する必要があると説く。

「腐敗と不公正性という二大問題を解決しつつ、国民の間で合理的な医療保障や社会福祉を普及させ、各政府機関の政策において国民世論を尊重するチャネルを模索する必要がある。」(以上、P713参照)

 仮に、ヴォーゲル氏が主張する課題を中国共産党指導部が軽視し、或いは重視したとしても適当な解決を見いだせなかった場合、近い将来、胡錦濤政権から習近平政権に移行する過程でも、ケ小平時代と同じく「社会主義の堅持」を赤裸々に掲げる共産中国は何らかのかたちで「崩壊」し、フクヤマ氏の「歴史の終焉」は有終の美を迎えるのかもしれない。

習近平体制発足前夜に中国で出された
フクヤマ氏の『政治秩序の起源』

 ケ小平氏が亡くなって16年が経った。

 しかし、「共産中国」は崩壊していない。崩壊するどころか、超大国アメリカにとって欠かすことのできない、協力していかざるを得ない戦略的パートナーと化している。私がアメリカに拠点を移して8ヵ月が経つが、この大地でアメリカ人の口から「China will be collapsed」(中国は崩壊するだろう)という文言を聞いたことは一度もない。

 1989年の天安門事件後、国際世論を覆った「中国崩壊論」がパネルディスカッションのテーマになったり、それをめぐって議論が繰り広げられたりする光景も一度も見たことがない。それどころか、「中国の台頭を受け入れつつ、政治体制や価値観の違いを乗り越えて、如何にして中国と建設的なウィン―ウィン関係を築いていくか」という現実的論調が米国知識界の主流であると私は感じている。

 まさにケ小平が言動で体現した、時空をも超越する「世紀のプラグマティズム」が米国の政策決定者や知識人、そして軍人までをも“洗脳”しているということだ。

 そういった意味で、冷戦時代に世界を覆ったイデオロギー闘争の歴史は終焉を迎えたと言っていいだろう。人類社会にとっては確かな進歩と言える。

 そんな進化の理論的立役者であるフランシス・フクヤマ、ハーバード大博士はどのような気持ちでこの24年間(1989〜2013)を過ごしたのであろうか。同氏が主張してきた「自由民主主義こそが最高の政治体制であり、社会の最終形態である」を信奉する人は少なくない。私が18〜28歳を過ごした中国でも、学者やビジネスマン、政府役人や若年層を問わず、“フクヤマ・ファン”は非常に多い。

「中国が将来的に、フランシス・フクヤマが描いた軌道に乗ることは必須だ。我々がどう望もうが、この歴史の趨勢は不可避だ」

 約3年前、北京で人民解放軍の制服組と杯を交わした際に耳にした議論を、私は昨日のことのように覚えている。

 一方、フクヤマ氏のストーリーはいまだ未完であることも疑いない。

 理由はシンプルだ。「共産中国」が崩壊していないからだ。ソ連の後を追っていないからだ。

 それどころか、米国発の金融危機、欧州初の債務危機が世界経済をめぐるトラブルメーカーとみなされるようになり、且つ気候変動やテロリズムなどグローバルイシューが台頭する中で、チャイナ・インパクトが益々重んじられ、「中国の協力、関与、リーダーシップなしには世界政治経済システムは機能せず、グローバリゼーションは前進しない」という論調が国際世論の主流になりつつある。

「チャイナモデル」(中国模式)とも言われることのある中国の発展形態に現実味を見出し、そこに魅力を感じ、追随するかのような現象すら途上国を中心に見受けられる。この世紀の事実を最も切実に受け止めているのが、他でもない、アメリカ合衆国である。私はこの事実を渡米して以来、肌で感じている。

「フクヤマは当初の論調に修正を加えている。ソ連のように崩壊するというシナリオでその後の中国をウォッチしていないし、逆に、アメリカの自由民主主義とは異なる中国の体制がなぜここまで続いて、機能しているのか、その源泉はどこにあるのかという部分に多大な好奇心を抱いているようだった」

 フクヤマ氏と親交のある中国人学者は、同氏と政治体制をめぐって議論したときのことをこう振り返る。

 フクヤマ氏は2011年に『The Origin of Political Order―From Prehuman Times to the French Revolution』(Farrar, Straus and Giroux)を出版した。同書の中では、タイトルの如く、「政治秩序の起源」を歴史的に模索する作業が展開され、「中国の政治体制をめぐって古来脈々と流れるエッセンスは何なのか」という命題を、西側における自由民主主義との比較を通じてなされる検証に多くのページが割かれている。

 2012年10月、中国共産党第18党大会直前、即ち習近平氏が総書記の座を胡錦濤氏から受け継ぎ、共産党政権における最高意思決定機関である政治局常務委員の新メンバーが登場する前夜、フクヤマ氏による「政治秩序の起源」の簡体字中国語版が中国大陸で出版された。

 フクヤマ氏は『政治秩序の起源』において中国の政治体制に何を見出すのであろうか。その論考は、中国民主化への道にどのようなインプリケーションをもたらすのであろうか。「歴史の終焉」は何処へ……。

 次回以降、考察していくことにする。

<加藤嘉一氏の著書>

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【第2回】 2013年4月23日 佐々木融
「インフレ=善」、「デフレ=悪」は本当か?
インフレには3つの種類がある。そのうち、良いインフレはひとつだけ。だが、無理にインフレを起こそうとすれば、良いインフレにつながるとは限らない。そして、仮にインフレに転じることができても、銀行預金程度の資産しか持たない人の暮らしは厳しくなる確率が相当高い。

 そもそも、インフレーション(インフレ)とは何だろうか。

 簡単にいえば「物価上昇」だ。若干小難しい金融用語辞典などで調べると「通貨膨張による物価の持続的騰貴、その逆数としての貨幣価値の下落」と定義されている。インフレとは物価が上がることだが、物価が上がるとはつまり「お金の価値が下がる」ことも意味している。財布の中にあるお札の価値が下がるのである。なぜか?それは、世の中にお札がたくさん出回るからである。

 では、インフレはどのようなプロセスで起こるのだろうか。大きく3つに大別できるが、“良いインフレ”はそのうちひとつしかない。まずは、3つの違いから説明しよう。

 第1は、原油価格、食料品価格等が上昇することによって発生する“悪い”インフレである。雇用や所得を増加させないまま、エネルギーや食料品の価格だけ上昇するので、実質的な購買力が低下する。円安によって輸入品の価格が上昇するのも、同じタイプのインフレである。昨年11月以降進んだ円安により、今後は輸入品の価格上昇が予想されるが、これを喜ぶ消費者は少ないであろう。

最悪のインフレはどのように起こるのか?

 第2は、お札の価値を引き下げることによって発生する“最悪”のインフレである。インフレはここで挙げる3つのタイプ全てにおいて「お札の価値が下がる」ことを意味するが、この場合は、意図的にお札の価値を下げてインフレを引き起こすケースが想定される。特に、中央銀行と政府が無理にインフレを起こそうとすると、このタイプのインフレが起きる可能性がある。お札の価値の下がり方が急激かつ大幅になりやすいので、ハイパーインフレーションにつながる可能性が高い。今の日本も、そのリスクを排除できない。

 このタイプのインフレは、どのようなプロセスを経て起こるのだろうか。

 元来、お札の製造原価は1万円札、5000円札、2000円札、1000円札のいずれもそれほど大差はなく、20円前後である。それを、皆さんが1万円札は千円札の10倍の価値があると信じているから、実際に10倍の価値があるかのように使われている。しかし、日本銀行が株や土地、もしくは国債を大量に購入し続ける中で、政府も多額の歳出を行ったとすると、株や土地を保有していた人や、政府の歳出により潤う人たちの預金が急激に増加する。その結果、メリットを受けた人たちが預金を取り崩すことで、市中に流通するお札の量が急増する。世の中に1万円札が氾濫するようになると、所詮は1枚20円程度の紙切れであるから、みながありがたみを感じなくなり、極端にいえば、単なる紙切れ同然となる。これがハイパーインフレである。

 第3は、需要が増加することで発生するインフレである。これは“良い”インフレで、日本経済にとって必要なのはこのタイプである。

 さまざまな製品やサービスに対する需要が増加すると、企業は製品やサービスをもっと生産・提供するために雇用を増やす。各企業が雇用を増やすようになると、人材を確保するのが難しくなる。そうなると、給料が上がり、需要がさらに増える。この好循環が続くと、企業は製品やサービスの価格を引き上げ始める。

「デフレは悪だ。インフレにしなければならない」と主張する人は、当然このタイプのインフレを想定している。しかし、経済の構造がこれまでと変わらず、需要が増えにくいのであれば、価格の引き上げだけで、需要増→生産増→雇用増→給料増という好循環には繋がらないだろう。下手をすれば、価格の引き上げによって需要が減退するだけで終わってしまう可能性がある。

デフレの間に格差は縮まった

 日本ではここ数年(数十年というべきか?)、経済停滞を反転できない問題の根源を「デフレ」であるかのように議論し、「デフレ脱却」が政策の主要テーマに据えられてきた。このため、「インフレ=善」「デフレ=悪」という考え方が一般の間でも定着しつつあるようだ。

 しかしこれは、強者の論理ではないだろうか。

 緩やかなデフレが続く中で、資産価格が下落し続けた日本の消費者物価指数は、結局は横ばいといえる状況が20年間続いてきた。この間、国民の平均賃金は4%程度上昇している。さらに多くの社会人は勤続年数が長ければ、それなりに昇給しているはずである。つまり、弱者である個人、平均的な労働者にとって、それほど悪い状況ではなかったはずだ。

 一方、デフレの間、最悪な思いをしたのは、企業や資産家である。企業は、物価が上昇しなければ収益が伸びず、成長ができない。資産価格や物価が下落するということは、借金をして投資をしても価値が毀損しやすくなる。また、資産家にとっては保有資産の価値がどんどん目減りしてしまう。過去20年間の緩やかなデフレの間に、資産家と普通の労働者の間の格差、つまり貧富の格差は確実に縮まった。

インフレで痛手を受けるのは弱者だ

 今後、インフレに転じれば、みなさんが比較的多額の資産を持っている資産家でない限り、今の生活が改善する保証はない。むしろ悪化する可能性のほうが高い。それにも関わらず、日本では強者である企業や資産家が「デフレは悪だ」と言い続けるので、弱者である個人や平均的な労働者まで同じことを言い始めている。もし本当にインフレが起きたら、弱者には非常な痛手となることに気づいているだろうか。

 安倍晋三首相からの要請もあって、複数の大手企業が2013年春の労使交渉でボーナス(一時金)の引き上げを決めた。これにより、今年の賃金上昇率が、目標インフレ率の2%と同程度になる企業も出てきたようである。そうした企業に勤務する人は、仮に今年のインフレ率が2%上昇しても当面は今と同じ暮らしができそうだ(よくなるわけではない)。

 しかし実際は、ボーナスすら引き上げられない企業のほうが多いだろう。そうした企業に勤務する人は、もしインフレ率が2%上昇すれば、実質的な購買力は2%低下する。むろん、今年のボーナスが引き上げられて、年収が2%以上増えた人も安泰ではない。基本給部分が上昇したわけではないため、来年は年収が下がるリスクもある。こうして、インフレになると経済的な格差が拡大していくのである。

次回は4月24日更新予定です。
http://diamond.jp/articles/print/34922

 

【第18回】 2013年4月23日 山口揚平 [ブルーマーリンパートナーズ 代表取締役]
お金とは、実体が存在しない
最も純粋な投機である
ゲスト:岩井克人・東京大学名誉教授【前編】
お金とはいったい何か?社会においてどのような役割を果たしていて、私たちはどのようなスタンスで接するべきなのか?『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』の著者・山口揚平さんが同著の主題でもあった「お金」について、東京大学経済学部名誉教授で貨幣論の権威である岩井克人さんから、長年の研究と思想の一片を聞き出す。

他の人がお金として受け取ることで、価値が生まれる

山口 先生の一連のご著書はもちろん拝読してきましたが、改めてまず伺いたいのは、「お金とは何か?」というテーマについてです。先生はお金をどういったものであると捉えているのでしょうか?

岩井 お金は交換の一般的媒体です。すべてのモノは基本的にはお金と交換に手に入れることができる。それは、人類が生み出したものの中で最も抽象的な媒体です。多くの人はいま起こっているキャッシュレス化はお金が消える過程と言っていますが、お金の本質を理解していない。そもそもお金はこの世に発生した時点から抽象的なものでした。

山口 具体的には、お金のどういった側面が抽象的なのでしょうか?


岩井克人(いわい・かつひと)1947年生まれ。東京大学経済学部卒業、マサチュセッツ工科大学Ph.D.イェール大学助教授、コウルズ経済研究所上級研究員、プリンストン大学客員准教授、ペンシルバニア大学客員教授、東京大学経済学部教授等を経て、現在、国際基督教大学客員教授、武蔵野大学客員教授、東京財団上席研究員、東京大学名誉教授。著書に、Disequilibrium Dynamics(日経図書文化賞特賞)、『ヴェニスの商人の資本論』、『貨幣論』(サントリー学芸賞)、『二十一世紀の資本主義論』、『資本主義を語る』、『会社はこれからどうなるのか』(小林秀雄賞)、『資本主義から市民主義へ』ほか多数。(写真・住友一俊)
岩井 よく考えると、お金とは非常に不思議な存在です。お金のお金としての価値は、お金のモノとしての価値を必ず上回っています。かつて金本位制の時代には、お金の価値は金のモノとしての価値に支えられていると考えられていました。でも間違えです。なぜなら、もしも「金のお金としての価値」が「金の金としての価値」を下回ったら、誰しもその金を手放さないで、モノとして使うからです。つまりお金として流通しない。金がお金として使われた途端に、「お金のお金としての価値」が金の価値を上回ってしまいます。

山口 それは当然のことですよね。

岩井 言い換えれば、お金の唯一の価値とは、他の人がお金と認識して受け取ってくれることにあると言えるでしょう。つまり、自分が使うからではなく、他の人が受け取ってくれることで価値が生み出されるという性質のものなんです。しかも、また別の人が受け取ってくれると信じているからこそ、その人はお金を受け取るわけです。

山口 言語もそれに近い側面がありますね。

岩井 はい。言語もモノとして捉えた場合は空気の振動であったり、インクのシミにすぎない。だが、それは「意味」をもつことによって、大きな力を発揮する。でも、その意味とは、同じ言語を用いる人たちの誰もが意味として受け取ってくれるから意味でしかない。たとえば、同じ日本人なら「水」という言葉を「水」として理解してもらえる。

山口 お金には、それを発行している国の存在も大きく関わってきますね。

岩井 多くの人は国の信用力や権力によってお金の価値が支えられていると思っています。でもそれも間違いです。第一次世界大戦後にドイツがハイパーインフレ(通貨価値の暴落)に見舞われたように、いくら国がお金を発行しても誰も受け取ってくれなければ、その価値は失墜してしまいます。こうして国の信用力や権力もお金の価値をバックアップできないことに、多くの人がようやく気づきはじめています。

 お金はお金として流通するからお金である、という基本原理に、ようやく認識が追いついてきた。その例が電子マネーですが、その原理はお金が生まれた時点からあったということです。突き詰めれば、人間が言語を話し始めて、人間が人間となった頃からその原理は存在しました。


山口 どちらかといえば、僕は実態価値に基づいて判断するファンダメンタリストとしてのスタンスで物事を見ていて、お金は価値と信用を数値化したもので、それらを媒介するものだと考えています。しかし、一方でマネタリストたちは交換価値を非常に重視していますよね。そして、価値と信用を媒介するというお金本来の役割が忘れ去られてしまい、たとえばGDPよりもはるかに多くのマネーが流通するといった状況を招いています。あるいは、各国の中央銀行が無節操に輪転機を回してお金の価値がどんどん希薄化している現象とか、そういった金融政策に関して先生はどのようにお考えでしょうか?

岩井 少なくともこれまでのところ、短期的政策としてはアベノミクスはうまくいっていると思っています。

アベノミクスの真の狙いは、世代間の所得移転にある

山口 人為的に流通量を拡大してお金の価値を希薄化させる権限を、時の権力はあまり行使すべきではない、と考えています。たとえば、貨幣のモラルという観点でも、お年寄りが大事に抱えてきた現金の価値を希薄化させることは問題がありそうで、非常に判断が難しいとの思うのですが、その点はいかがでしょうか?

岩井 アベノミクスの真の狙いが、お年寄りから若い世代への所得移転を促すことにあるというのは正しい。そして、わたしはすでに年寄り世代ですが、それは望ましいことだと考えています。

 そもそも、資本主義と金融は密接な関係にあります。資本主義とは、アイデアを利潤に転化する仕組みです。多くの場合、若い人はアイデアを持っているものの、お金がありません。一方で、多くの年寄りは、お金はあるけれどアイデアがない。金融が両者を仲介することでアイデアが新しいビジネスとなり、新しいイノベーションを起こすきっかけともなっていくわけです。

山口 金融を介してタスキがつながれていくわけですね。

岩井 アベノミクスの話に戻ると、デフレとはお金の価値がモノの価値に比べて上昇することです。だから、アイデアはなくてお金だけがある人や企業がお金を手放さないので、なかなか利潤が生み出されません。

 そこで、金融緩和を進めて若干インフレ気味にすることによって、お金を持っているだけでは損をする状況にしようとしている。「それなら、誰かに貸したほうがいい」と思う人が増えてくる。インフレ期待が高まれば、将来的に高い値段で売れる可能性が出てくるので、アイデアを持っている人がそれを商品・サービスに実現化するインセンティブが高まってきます。その結果として投資が促進されて景気が刺激されていくという好循環が期待されるわけです。

 もちろん、それが行きすぎるとハイパーインフレを引き起こしかねませんが……。でも、一国内のハイパーインフレは、先進国であれば制御可能です。

山口 お金を抱え込んだまま動かない人の背中を押そうとしているわけですね。ただ、僕が心配しているのは、それに伴ってお金そのものに対する信用が損なわれることです。先生が指摘する効果が期待できる一方で、それがとどまるところを知らなければ、いつか大量にばらまかれたお金のことを誰も信用しなくなってしまう。その分岐点は。いったいどこになるのでしょうか?

岩井 なそれがマクロ経済学において最も重要ポイントの1つですね。デフレは基本的に悪です。これに対し、緩やかなインフレは先程述べたように経済にはプラスの作用をもたらします。ところが、その一方で常にインフレはお金の価値を低下させてしまいます。

山口 そこがネックになってくるわけですよね。

岩井 先程の言語の話に戻って考えてみましょう。


 自己循環論法的にいえば、言語はほかの人も言語として用いているから言語なのであって、人が言語を覚えるのは、その言語が将来的にも使われ続けることに無意識のうちに賭けているわけです。お金にも同様の原理が働いて、お金とはすべての人がお金として受け取るからお金なのです。同じ貨幣を使い続けるという行為は、実は、将来に対する投機にほかならないのです。

 しかも、通常の意味での投機の対象は、株式や商品先物や金融派生商品に至るまで、どこかで必ず実体的な生産活動や消費活動に結びついている。たとえば原油の先物取引にしても、最終的にはその実需に左右されていくわけですし、派生商品であっても例外ではありません。ところが、お金の場合は、どこにもこうした実体が存在しない。誰もお金を食べるためや見るために使うわけではなく、常にほかの人に渡すために使うわけです。つまり、お金とは最も純粋な投機なのです。

(後編に続く)


 
【第83回】 2013年4月23日 出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役社長]
女性・若者に焦点をあてた
アベノミクス成長戦略第1弾を評価する
 安倍首相は4月19日、日本記者クラブで「成長戦略スピーチ」を行った。金融緩和・財政出動に次ぐ3本目の矢(成長戦略)の第1弾が放たれたことになる。

成長戦略の中核は「女性の活躍」

 まず、首相スピーチの内容を見てみよう。その骨子は概ね以下の通りである。

●成長戦略の3つのキーワード
 ・「挑戦:チャレンジ」
 ・「海外展開:オープン」
 ・「創造:イノベーション」

●「健康長寿社会」から創造される成長産業
 「規制・制度改革」再生医療・創薬が1つの鍵
 「日本版NIH:国立衛生研究所」  
   医療研究開発の司令塔を創設し、難病対策を加速

●全員参加の成長戦略
 「失業なき労働移動」
   労働移動支援。財成金の大幅増。トライアル雇用制度の拡充。

●世界に勝てる若者
 「公務員試験に生きた英語を必須化」
 「就職活動を後ろ倒し」
   3年生の3月(春休み)から広報活動開始、
   留学生が帰国した8月から採用選考活動。

●女性が輝く日本(成長戦略の中核は「女性の活躍」)
 「役員に1人は女性を登用」
 「待機児童解消加速化プラン」
   横浜方式の全国横展開。今後2年間で20万人分の保育の受け皿を設備。
   さらに2017年度末までに20万人増を図り、待機児童ゼロを目指す
   (従来の国の計画を2年間前倒し)
 「3年間抱っこし放題での職場復帰支援」
   3年育休の推進を経済3団体に要請。助成金や「学び直し」プログラムも。
 「子育て後の再就職・起業支援」

 なお、スピーチ全文は、首相官邸のホームページで読めるので、ぜひ一読してほしい。

 私見では、3つのキーワードを始めとして、成長戦略第1弾は、正しい方向に放たれたのではないかと思われる。とりわけ女性・若者に焦点を当てたことは高く評価したい。

具体策の中身にもう少し
踏み込んでも良かったのではないか

 首相がスピーチの中で繰り返し強調したのは、女性の活躍は成長戦略の中核をなす、という考え方である。首相は具体的に、こう述べている。

『優秀な人材には、どんどん活躍してもらう社会を作る。そのことが、社会全体の生産性を押し上げます。現在、最も活かしきれていない人材とは何か。それは、「女性」です。女性の活躍は、しばしば、社会政策の文脈で語られがちです。しかし、私は、違います。「成長戦略」の中核をなすものであると考えています。女性の中に眠る高い能力を、十二分に開花させていただくことが、閉塞感の漂う日本を、再び成長軌道に乗せる原動力だ、と確信しています。』

 この認識に異論を唱える人は恐らくいないだろう。

 ところで、女性の活躍と言えば、フランスのシラク3原則が脳裏に浮かぶ。

1.子どもを持つことによって新たな経済的負担が生じないようにする
2.無料の保育所を完備する
3.3年後に女性が職場復帰するときは、その3年間、ずっと勤務していたものと見なし、企業は受け入れなくてはいけない

 このシラク3原則と首相スピーチを比べて見ると、次のような違いがある。

●スピーチでは、1に言及されていない。もっとも、好意的に解釈すれば、今回は子育てではなく女性の活躍に焦点を当てたものであるので、子育ての問題は第2弾以降に語られるのかもしれないが。

●2は、まだスピードが遅いのでは、という気持ちが無い訳ではないが、わが国の自治体の現状等を勘案すれば、スピーチは現実的なプランかもしれない。

●3は、強制力を持つフランスの方がはるかに強い。安倍内閣は世論の高い支持を受けているのだから、ここはもっと強く踏み込んでほしかった気がする。同様に、女性役員の登用についても、ヨーロッパのクオーター制に比べれば、まだまだ改善の余地がある。

 同様のことは、「世界に勝てる若者」についても言える。『将来のわが国を担う若者たちには、もっと能力を伸ばしてもらわねばなりません。(中略)国際的な大競争時代にあって、求められているのは「国際人材」です。今、必要なのは、「世界に勝てる若者」なのです。』という首相の認識は正しいと考える。『世界との大競争時代に、日本の将来を担う若者が、目の前の就職活動にとらわれ、内向きで能力を伸ばす機会を失うのは、看過できません』と、ここまで真っ当な現状認識を持つ首相が、どうして「3年生まで学業に集中」するだけで満足できるのだろうか。ロジカルに考えれば、「学生の間は学業に集中して、卒業後に就活を」という結論に当然なるはずだと考えるが、どうか。

第2弾、第3弾に期待

 その他、首相スピーチで少し気になったのは、痛みを伴う構造改革や規制緩和に触れた部分が少なかったことでもある。もっとも、新聞報道によれば、首相は参院選までに少なくともあと2回は新たな成長戦略を打ち出す考えだと伝えられているので、成長戦略第2弾、第3弾に期待したい。少なくとも農業改革やエネルギー政策、社会保障と税の一体改革等、喫緊の政策課題について、成長戦略の文脈で政府の考え方を詳らかにしてほしいと考える。加えて、長期的な課題である人口を増やす政策についても、同様である。

 顧みれば、バブル崩壊以降のわが国の政治・経済情勢の中で、今ほど、景況感も上向きで市場や市民の政権支持率も高い時期は、数えるほどしかなかったと記憶する。骨太の構造改革を断行する好機は、今をおいてはないのではないか。

(文中意見に係る部分はすべて筆者の個人的見解である。)
http://diamond.jp/articles/print/35057

 


 
【第122回】 2013年4月23日 小川 たまか [編集・ライター/プレスラボ取締役]
主婦たちの財布の紐はゆるみがち?
予算は多いのに外出に消極的な今年のGW
 今週末からいよいよゴールデンウィーク(GW)に突入する。4月30日、5月1日、2日の平日に、3日間の有給を取って10連休にする人も多いのではないだろうか。アベノミクスの影響か、昨年よりもGWにかける金額が増加傾向だという調査結果もある。

昨年より「GW予算増」と
答えた主婦は25.3%

 ネオマーケティングが既婚女性400人を対象に行った調査(※1)によると、GWに使う予算は、子どもがいる家庭、いない家庭どちらも「5万円以上」と答えた人が最も多かった。お出かけ予算については昨年と変わらないと答えた人が最も多かったが、昨年より「増えた」と答えた人は25.3%で、「減った」と答えた人(9.3%)を2倍以上も上回った。また、子どもがいない人より、いる人の方が「増えた」と答えた割合がやや多かった。


今年のGWのお出かけに使う予算は昨年に比べて増えた?減った?
 ただし、リサーチバンクが20代〜50代までのビジネスパーソン1200人(性別・年代ごとに各150人)に行った調査(※2)では、この傾向は見られない。GWに使う費用が昨年より多い予定と答えた人は15.4%で、少ないと答えた人は14.7%。これは、昨年に行った同調査とほぼ同じ数値だった。

 とはいえ、ネオマーケティングが行った調査は家計を握る主婦が対象。お父さんはまだ知らなくても、昨年より少し贅沢なGWが計画されている家もあるのかもしれない。

(※1) 調査期間は2013年4月5日〜9日。首都圏在住のゴールデンウィークに出かける予定がある既婚女性、20歳〜49歳の400人(子どもがいる人200人、いない人200人)にWEB調査。

(※2) 調査期間は2013年4月4日〜10日。調査対象は20〜50代までの会社員・公務員の男女1200人(各年代・性別均等)。

予定ナシ派も20%以上
聞いてみたい「理想のGW」

 リサーチバンクが行った調査では、GWに休暇がある人(1200人中1001人)に複数回答で休暇中の予定を聞いている。これによると、ベスト3は「自宅でゆっくり過ごす」(33.7%)、「外食をする」(24.2%)、「特に予定はない」(24.0%)という、外出にはやや消極的とも言える結果に。「海外旅行」と答えた人は、2%台だった2011年・2012年調査より少ない1.9%。これは海外旅行先で邦人の巻き込まれる事件・事故が今年に入ってから連続して起こったことも影響しているのかもしれない。

 Yahoo!ニュースクリックリサーチが行っている「あなたのGWの予定は?」(調査期間4月19日〜29日)を聞いた意識調査でも、4月21日の時点ではGWに「家で過ごす」「まだ予定が決まっていない」「仕事」と答えている人が目立って多い。

 リサーチバンクの調査では、こんなコメントが紹介されている。

「ゴールデンウィークは会社で出勤日に当たる日はなるべく働くようにしています。休日手当がつくし、電車も朝はすいているし、いつもよりもオフィスも静かで仕事がはかどるし、いうことなし!人が休んでいるときに働いて、人が働いているときに休むのが、私のこれまでのゴールデンウィークの快適な過ごし方です」(40代女性)

「寒い季節に大掃除はしたくないので、うちはGWに台所を大掃除する。長い休みほど先送りになって、最終日に換気扇を分解していることが多い」(50代女性)

「一昨年までは、カレンダーと関係なく勤務していました。転職したての去年は、ついうっかりGWの存在を忘れていて、何も予約しなかったので旅行に行けませんでした。今年こそはしっかり予定を立てて遊ぶぞー!」(30代女性)

 過ごし方はさまざまだが、終わってしまえばあっという間のGW。実際の予定だけではなく、「理想の過ごし方」も聞いてみたいと感じた調査だった。

(プレスラボ 小川たまか)
http://diamond.jp/articles/print/35056


 
【第85回】 2013年4月23日 竹井善昭 [ソーシャルビジネス・プランナー&CSRコンサルタント/株式会社ソーシャルプランニング代表]
ニッポン女子の動向をウォッチせよ! 「女子力」が景気回復と社会貢献ブームの起爆剤になる
 なんだか景気が良くなっている。そう感じている人も多いだろう。もちろん、アベノミクス効果で円安・株高だとか、百貨店の売り上げが好調で、といったような誰でもわかる客観的な数字によって景気の上昇を判断している人も多いだろうが、もっと定性的というか、世の中の「気分」として、景気は回復している。あるいはバブルに向かっている。そう感じている人も多いと思う。

 もちろん、経済は最終的にはすべてが数字で現れるわけで、景気の良し悪しも数字で判断すべきものだが、数字というものは「結果」でしかないので、世の中の「気」がどちらに向いているのか、日本の経済活動全体がどちらに向かっているかを知るためには、数字には現れない「気の流れ」、生活者の「気分」のようなものを理解する必要がある。

 そういった定性的なデータとして昔から言われているものに「タクシーの運転手」の話がある。彼らが「最近は景気がいい」、つまり客足がいいと言うときは世の中の景気も良くなっているという話である。これはこれで、ひとつのわかりやすい景気インジケーターではあるのだが、ハッキリ言ってタクシー運転手が「景気がいい」と感じる頃には、すでに世の中は好景気になっている。

 つまり、タクシーの運転手インジケーターは結果論であり、株価の上昇より遅いので、「いまの景況感が正しいかどうか」を確認するためには使えるが、「これから」を知るためには適切ではないし、2〜3年くらいのスパンでの景気動向を予測するにも足りない。ビジネス・パーソンが景気について知りたいのは、やはりこれからどうなるかだろう。実はそのための予測インジケーターというものはある。『女子力』である。

「女子力」と景気の相関関係

 景気は女子力に比例する。女子力とは何かについては、はてなキーワードでは、「女性の、メイク、ファッション、センスに対するモチベーション、レベルなどを指す言葉」と定義しているが、筆者もほぼ同義として考えている。そして、この女子力の高さと景気は相関関係にあるのだ。世の中の女性の女子力が高い時代は景気も良くなり、低いと悪くなる。相関関係は必ずしも原因と結果の関係にはならないし、女性が女子力を高めただけで、GDPが約500兆円と言われる日本の経済全体が上向くわけもない。しかし、それでも定性的な指標としては、やはり使えると思うのだ。

 景気が上向けば女性の経済力が上がり、ファッションなどへのモチベーションも上がるのは当然ではないかと思うかもしれないが、そうではない。基本的に女子力は景気の上昇に先行する。景気が良くなったから、ファッションへの関心が高まるのではなく、景気に先行して関心が高まる傾向があるのだ。

 その端的な例が80年代バブルだろう。バブル時代の女性の象徴と言えばワンレン・ボディコンだが、その流行は80年代前半から始まっていた。日本におけるボディコンの先駆者とも言えるジュンコ・シマダが大人気だったのが83年、84年頃、そして85年頃にボディコンの代名詞となるピンキー&ダイアンが大ブレイクする。バブル景気の到来はその1年後の86年からだ。

日本の「女子力」に
大きな陰りが見えた時代も

 ちなみに、日本経済が最も危機的な状態に陥ったのは、90年代後半の頃だろう。山一証券と拓銀の破綻が97年。長銀の破綻が98年だが、この頃、女子大生の女子力も急激に低下していた。ある意味で、女子力を最も開花させるべき世代である女子大生が、オシャレに関心を持たなくなった時代である。ジーンズにフリースを着てればOKといった感じで、当時の女子大生から色気というものがどんどん失われていた。

 フリースがダサいとは言わないが、安くて暖かいというだけの理由で多くの女子大生がフリースを着るという状況は、やはり女子力が低下していたと言えるだろう。ハッキリ言って、ジーンズにフリースの女子大生とは、男は金をかけたデートをしようとは思わないのだ。

 その頃、女子力低下の象徴的な出来事を僕は目の当たりにしている。たしか、97年か98年のクリスマス・イブの夜だったと思う。当時、僕も妻も仕事が忙しくて、イブの夜の予定が立てられず、レストランの予約もできなかった。しかし当日、運良く僕も妻も仕事が片付き、イブの夜を家族で過ごすことができることになった。しかし、バブル世代の僕らは、「イブの夜には小洒落たレストランはどこも予約で満席で、飛び込みで食事できるはずがない」と考え、「ラーメン屋なら空いているだろう」と考え、まだ小学生だった娘を連れて親子3人でラーメンを食べに行った。ところが、店に入るとそこには大学生と思われるカップルが3組も(!)いたのである。

 イブの夜にラーメンを食べて悪い理由はないし、事実、僕ら家族もラーメン屋に行ったわけだが、若いカップルがイブの夜にラーメン屋で当たり前のようにデートしている(しかも何組も!)という光景はやはり大きなカルチャー・ショックだった。世代による価値観の違いと言ってしまえばそれまでだが、この頃の女子大生の女子力が大きく低下していたことの事例であると言えるだろう。考えてみれば、この頃からバレンタイン・デーも大きく盛り下がり、義理チョコなるものも廃れてきたように思えるが、ともあれ、この頃は日本経済に暗雲が立ちこめ、日本の女子の女子力にも大きな陰りが見えていたわけだ。

 そして時代は21世紀に入り、徐々に日本の女子力は回復していく。2004年頃からだったと記憶しているが、モデルの蛯原友里が人気を集め出した頃から女子大生の女子力がみるみると回復していった。いわゆる小泉景気の時代だが、経済的にはその後、2008年のリーマン・ショックで大きな打撃を受けるものの、日本の女子力は衰えを見せず、どんどんアップしていく。はてなキーワードのデータに拠れば、『女子力』のネットでの「言及ランキング」は2009年から2010年にかけて微増し、その後はほぼ横ばい。PVランキングも同様だ。これはつまり、リーマン・ショック後も『女子力』に対する関心は高まり、現在はほぼ定着しているということが言える。


出典:はてなキーワード「ランキング」より
日本オリジナルの「女子」という存在

 ところで、日本の「女子」というのは世界的に見ると、特殊な存在で独特なものだ。「女子」を意味する英語はない。「女子」=「Girl」ではない。なにしろ日本には「60代女子」という女性も存在する(実際に僕は、深夜のコンビニで60代女子とおぼしき女性を目撃したことがある)。英語で「a girl in the sixties」という言い方は成り立たないはずだが、日本語では「60代女子」という言い方は成立する。もちろん、「30代女子」「40代女子」も存在する。

 手前味噌で恐縮だが、僕の妻で家族問題評論家の池内ひろ美も、代表的な「50代女子」である。40代女子や50代女子は、いわゆる美魔女とは違う。女子とは、外見のことではなく、中身が「女子」ということである。40代、50代の女子が、外面的に若くて美しいのは結果にすぎない。


池内ひろ美
http://ikeuchi.com
50代女子を代表する働く女性、一女の母。家族問題評論家。30冊の著作があり、テレビ出演、全国各地での講演活動を行う。50歳で女優デビューし、今年3月に新国立劇場の舞台「国家」に出演。桓武天皇の義弟の母(井上内親王)役。金子修介監督の最新作「百年の時計」にも主人公の母親役として出演。5月25日(土)よりテアトル新宿、6月15日(土)よりテアトル梅田ほか全国順次公開。http://www.100watch.net
 彼女たち女子は新しいことを怖がらない。ちなみに、妻の池内ひろ美は評論家としてのポジションを確立させているにもかかわらず、50歳を超えて女優になることを決意した。実際、この3月には新国立劇場の舞台にも立ち、平成ガメラ・シリーズや「デス・ノート」の金子修介監督の映画「百年の時計」(2013年5月全国公開予定)にも出演している。

 このように、年齢を無視した(超越した)人生に対する積極性、能動性、つまり、精神的な若さを持ち続けている女性が「女子」なのだが、いまの日本は、20代から60代まで、このような「女子」が大幅に増殖している時代なのである。言葉を換えれば、日本女性の女子力が大きくアップしているわけで、これにアベノミクスの効果が加わり、バブルの予感を醸し出しているというわけである。

 実際、恵比寿や渋谷あたりのカフェに行けば、女子力の高い20代女子で溢れかえっており、その活況ぶりはバブル時代を彷彿とさせる。最近の若者はミニマル消費と言われ、節約志向、お金を使わないと言われ続けてきたにもかかわらず、若い女子たちのなかには、スタバなら一杯300円(shortサイズ)で飲めるコーヒーを、カフェ・ラウンジで600円払って飲む時代になっているのである。

「女子力」が社会貢献の起爆剤に

 さて、このような女子力の高まりが、社会貢献とどう関係があるのか。実は、日本の社会貢献シーンを大きく活性化するキーワードが、この『女子力』ではないかと筆者は思っている。

 というのも、ブームだと言われて久しい社会貢献が、実はいまいちブレイクしきれてないという実情があった。しかし、ブレイクしないのは起爆剤がなかったから。エネルギーは高まっているものの爆発しないため、多くの人を巻き込むだけのパワーが発揮できないという状態。それがいまの日本の社会貢献シーンだろう。

 だからこそ起爆剤が必要だ。『女子力』は、その十分な起爆剤になると思っている。なぜか。理由はシンプルで、いつの時代も女子力が高い女性は、マーケット・リーダーになりえるからだ。特にいまの20代、30代女性は、オシャレへの関心だけでなく、社会貢献への関心も高い。これがバブル女子との最大の違いである。

 バブル世代のオヤジどもはいまだに誤解しているようだが、いまの20代女子にバブル時代の極め技は通用しない。ジャガーやベンツに乗っているからといって、ホイホイとドライブ・デートにつきあってくれるわけでもないし、そもそもドライブ・デートしたいとも思っていない。狙った女子大生を落とすためにデートの度に高価なブランド物をプレゼントしていたら、それが理由で嫌われたオヤジもいる。高級ホテルのスイートルームより、オシャレなカフェ・ラウンジでのデートのほうを好む。金をかければ落ちるというものではないのだ。いまの若い女子は。

 その一方で、社会貢献をテーマに若い女子と仲良くなることもできる。自慢ではないが、僕のiPhoneにはミス・キャンパスの女の子の携帯番号とメアドが5人分、入っている。まあ、携帯番号やメアドを教えてくれたからといって、それで深い関係になれるわけでもないのだが、お茶くらいはしてくれる(かもしれない)。なにゆえに50歳を超えたオヤジに女子大生が携帯番号を教えてくれるかというと、彼女たちと僕の間には、社会貢献という共通の価値観があるからだ(それだけしかないのが残念だが)。

 というわけで、女子力と社会貢献には、一見なんの関係もないはずなのだが、女子力と併せて社会貢献意識ともに高い女子が増えていることは事実である。そして今後、アベノミクスによってお金が溢れることも既定路線である。あとはこの状況をどう活かして、社会貢献を大きなムーブメントにしていくか――社会セクターや企業のCSR担当者などの社会貢献業界の人間には、いまそれが問われている。

 なんだかんだ言っても社会に大きなインパクトを与えるためには、大きな資金も必要。つまり、世界を変えるためには、強い経済力の背景が要る。お金が余ると同時に、ラグジュアリー・ブランドよりも社会貢献に関心のある女子が増えているいまだからこそ、社会貢献を志す人間はこのチャンスを活かさずして世界を変えることなどできないだろうし、その自覚を持つべきだろう。自戒を込めて、そう思う。
http://diamond.jp/articles/print/35055

 

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01. 2013年4月23日 14:19:32 : niiL5nr8dQ
第3回 米国の静かなる後退と「シェール革命」
歴史的な構造変化の始まり
田中保春
2013/4/23
歴史をひも解く〜大英帝国から米国の時代へ

 今回はイラクからの撤退やアフガニスタンでの行き詰まりによる米国の中東戦略の変化が、中東全体にどのような影響を及ぼしているのか、そして先行きを読むにあたって、どういう視点が必要かについて述べます。さらに、注目を集める「シェール革命」や世界のエネルギーを取り巻く環境が中東へ及ぼす影響についても触れたいと思います。

 ところで、読者の皆さんは「中東」(the Middle East)地域がこのように呼ばれるようになった歴史的背景をご存じでしょうか。それは、大英帝国がインド以西の地域を植民地化する過程で出てきたもので、米海軍の軍人で海洋戦略の研究者として知られるアルフレッド・マハンが1902年に初めて使ったとされています。

 大英帝国にとって、植民地にしていたインドのあるところが東であり、さらに遠い日本など東アジアは「極東」と呼ばれます。一方、「中東」はインド以西の地理的には欧州により近い地域を指す概念です。

 余談ですが、日露戦争で連合艦隊の作戦主任を務め、日本海軍きっての戦略家といわれた秋山真之もマハンの研究に深く影響を受けたとされています。秋山真之はNHKのスペシャルドラマ「坂の上の雲」で俳優、本木雅弘氏が演じたので、ご記憶の方も多いでしょう。

(1)希薄化する関与〜米国の中東戦略の歴史的な変化

 少し歴史を遡ります。1956年7月26日、エジプトのナセル大統領はスエズ運河の国有化を宣言します。中東戦略上、重要な地点であることから、スエズ運河の株式の44%を保有していた英国をはじめ、フランスやイスラエルは共同して国有化に反発し、第二次中東戦争の勃発につながりました。

 結局、米国の介入により、英国はスエズ運河の東側からの撤退を余儀なくされ、これによって「大英帝国」の凋落は決定的になり、中東における米国の時代が始まりました。

>> 米空母は帰還、イランは海軍基地を新設

米空母は帰還、イランは海軍基地を新設

 その米国がいま、中東から静かに後退し、プレゼンスを下げ、そして中東への関与を希薄化させています。それは歴史的な構造変化です。この変化が、どういった影響を中東全体に及ぼすのか。中東の地政学的なパワーバランスからしても、非常に重要です。

 米国のイラク攻撃は、アラブ社会から米国に対する不信の要因となりました。米国のイラク政策は実質的に失敗に終わったと言えますし、アフガンでは行き詰まりました。米国は中東への関与を徐々に下げ、アジア太平洋への関与を強化しています。 

 エジプト国内で政権打倒のデモが活発化した時に、米国は長年の盟友であったムバラク大統領(当時)を見限りました。そしてそのことが、二大聖地を抱えるイスラムの盟主、サウジアラビアが米国に対して強烈な不信を抱く要因となり、中東における米国のダブルスタンダードが大きく指摘されるようになりました。

 米国政府はアラビア海に常駐する空母を1隻減らすことを決め、「ハリー・S・トルーマン」を米バージニア州ノーフォークの基地に戻しましたが、これに合わせるかのようにイランはオマーン湾に面したパキスタン国境近くのパサバンダルに海軍基地を新設すると発表しました。

 さらに注目されるのは、イランとの国境に近いパキスタン南西部のグワダル港を巡る動きです。パキスタン政府が今年初め、グワダル港の権益とインフラ施設の建設権を中国国営企業に移譲したのです。米紙ニューヨークタイムズはエネルギー資源を求めてイランとの関係強化を図る最近のパキスタン政府の動きが米国に影響を及ぼす潜在性があると指摘しています。

 中東海域で約5カ月にわたり、対イラン警戒活動やアフガニスタンで対テロ戦についていた米空母「ジョン・C・ステニス」も、インド洋や西太平洋を担当する米海軍第七艦隊の管轄エリアに3月26日に移動しています。

 とにかく、原油輸入の80%を中東に依存する日本にとって、中東の地政学的なリスクマネジメントは国益上の大きな課題です。米国が中東地域での関与を希薄化する過程では、中東原油に依存する中国、そしてロシアといった大国が政治的影響力を強めることも予想されます。また、米国の中東関与の低下は、次に述べる「シェールガス」や「シェールオイル」、米国の財政赤字とも密接に関係しているだけに、米国の動きからは目が離せません。

>> 「シェール革命」で米国は中東産油国に取って代わるか

(2)「シェール革命」を巡る各国の動き

 5年ほど前までは、石油化学に関係する米国の方々と話をすると、サウジアラビアの石油化学の絶対的な比較優位はいつも話題になっていましたが、米国で地中深くの岩盤に含まれる「シェールガス」や「シェールオイル」の開発が急速に進むにつれて、いまでは彼らの口ぶりには余裕たっぷりというニュアンスが強くなり、劇的な変化を実感しています。

 最初にシェールオイルについて、少し説明しておきましょう。シェールオイルは軽質で「スイート」(硫黄含有量が1%以下)であることが特徴です。一方、中東原油は軽質から重質まで様々な比重の原油を産出しますが、日本の輸入原油の30%を占めるサウジ産原油は軽中質が約8割、重質が約2割で、「サワー」と呼ばれる硫黄分が多いのが特徴です。

 ナイジェリア、リビアなどの原油も軽質でスイートですが、ざっくり言ってサウジアラビア原油は軽質だけれどサワーということになります。そのため、シェールオイルが必ずしもサウジ原油と真正面から競合することにはならないと思っています。

 次に需給面ではどうでしょうか。シェールオイル開発により、世界のエネルギー需給に変化が起こり、米国が今の中東の役割を果たすのではないか、という意見があります。その意見については、筆者は少し誇張しているように思っています。もちろん大きな影響はありますが、エネルギー供給源としての中東の重要性は変わらないと思っています。その一番の理由は、中国やインド、そして韓国や経済成長が続く他のアジア諸国における原油需要がこれからも拡大が見込まれるからです。それゆえ、米国が中東に代わって原油供給の役割を一手に引き受けることは考えにくいのではないでしょうか。

>> 徐々に変化する中東でのパワーバランス

徐々に変化する中東でのパワーバランス

 世界のエネルギー事情については、米エクソンモービルが今年公表した「The Outlook for Energy: A View to 2040」が参考になります。それによると、世界の非OECD(経済協力開発機構)諸国全体のエネルギー需要は2010年との比較で2040年には65%も拡大すると予測されています。中でも伸びが大きいのは、中国とインドを抱えるアジアと、アフリカです。また世界の人口は今日の約70億人から2040年には90億人近くに爆発するとエクソンモービルは予想しており、インドとアフリカで伸びが顕著です。

 中国の人口は一人っ子政策により2015年ごろにはピークアウトして人口成長率は減少に向かうと予想されていますが、インドとアフリカの人口爆発は続き、2040年までに世界人口の75%がアジア太平洋とアフリカに住むと同社は予想しています。

 米国が中東からの石油輸入に依存しなくなると、中東に対する米国の戦略的な対応は変わり、優先順位も下がることは予想されます。しかし、現実には昨年から中東のサウジ原油の輸入は逆に増えています。この傾向が今後も続くという確証はありませんが、米国にとってサウジアラビアは地政学的にも重要な同盟国であるというスタンスは当分変わらないと筆者は考えています。もっとも、中国などの中東原油依存度が高まっており、中東でのパワーバランスは近年徐々に変化していることは事実です。

 次に、シェール革命は、シェールガスをフィードストック(原料)とする石油化学に、どのような影響を与えるかを考えてみましょう。米化学大手ダウ・ケミカル、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどが相次ぎ、米国でエチレン工場の建設を計画しています。シェールガスをフィードストックとするエチレン誘導品の生産が開始されるのは2017年以降の見通しですが、主要市場は北米と中南米で、中国を中心とするアジアまでは回らないだろうという見方がある一方、アジア市場にも大きな影響を及ぼすという見方があります。いずれにしても、需給関係を留意していく必要があります。

>> 世界の石化生産拠点は二分される?

世界の石化生産拠点は二分される?

 ただし、ひとつ重要な変化があります。それは、大西洋と太平洋をつなぐパナマ運河の拡張工事が2015年には完了することです。拡張は2007年に着工され、当初はパナマ運河設立100周年にあたる2014年に完成させる予定でしたが、少し遅れて2015年前半には完成する予定です。

 拡張工事の結果、液化天然ガス(LNG)専用の運搬船が通航できるようになります。米国では南部メキシコ湾岸などでアジアに向けたLNG輸出基地の建設が計画されています。パナマ運河拡張により、日本への到着は短縮される一方、コストもかかります。そのため、パナマ運河を通らないカナダで産出するシェールガス由来のLNGの方がコスト面で優位だという見方もあります。

 石油化学の競争力を決める最大の要因はフィードストックのコストです。サウジアラビアはこれまで100万BTU(英国熱量単位)当たり75セントという世界最強のコスト競争力をベースに世界の石化市場を席巻してきました。サウジ産石化の主な市場は中国をはじめとするアジアです。2017年以降、シェールガスによる米国産の石化製品は北米を中心に中南米に向かうでしょう。フィードストックのコスト競争力から見ると、世界の石化市場は、将来的には米国産と中東産に大きく二分されるかもしれません。

 世界最大の石油会社であるサウジアラムコは、紅海における天然ガス田発見を公表し、これまでのアラビア湾に加えて紅海でもガス開発を非常に積極的に進めています。また、非従来型ガスの開発も今後、積極的に展開するようです。シェールガスの埋蔵量についても推定量を公表していますが、サウジアラビアにとっての最大の課題は、シェール層の開発に必要な膨大な量の水をどうやって低コストで安定的に確保するかです。ただ、最近では水に頼らないシェール層の開発技術も進んできました。今後の技術開発とコスト競争力の強化に注目が必要です。

 最後に、カタールを中心とした中東産や北米のシェールガス由来などの世界のLNG価格は、輸送費をはじめとする世界中の様々なコスト要因を反映したうえで、将来的には平準化すると考えるのが妥当だと思います。

◇   ◇   ◇

 中東で起こりえる様々な出来事や変化は、日本にとって決して対岸の火事ではありません。特に、グローバルな活躍をめざすビジネスパーソンの皆さんには、日本が中東の動向から直接あるいは間接的に影響を受けることを、ぜひ認識してほしいと思っています。中東の安定化は、輸入原油の8割を中東に依存する日本にとって、非常に重要な国益であり、日本人一人ひとりの生活に結びついています。

 (以上は筆者の個人的な意見であり、勤務する会社の意見を反映したものではありません)

「田中保春 サウジアラビアから世界を見る」はこちら

http://bizacademy.nikkei.co.jp/column/m-east/article.aspx?id=MMAC13000019042013&waad=fAS3oiky

 


異次元金融緩和が“メタボ経済”を引き起こす危険性
2013/4/23
 日銀の黒田新総裁が4月4日に発表した新しい金融緩和策は、市場に大きなインパクトを与えました。特に「マネタリーベース(資金供給量)を2年で2倍に拡大する」という話は、予測をはるかに超えたものでした。市場の反応を裏付けるように、その直後、円安が急速に進み、日本株も上昇しました。

 しかし、こうした期待バブルが実体経済の回復につながるかどうか。6月に発表される成長戦略やTPP交渉が日本企業の心をつかむのかどうかが問題です。今回は、これらのポイントを考察します。

市場を驚かせた異次元緩和策 ただし、実体経済が伴うかは別

 黒田新総裁が4日の日銀金融政策決定会合で発表した緩和策の中でも、大きな反響を呼んだのは、マネタリーベースを2年で2倍に増やすという政策でした。日本のマネタリーベースは、2012年末の時点で138兆円。これから毎月7兆円程度の長期国債を買い入れることで、マネタリーベースを2013年末に200兆円、2014年末に270兆円に拡大させるのです。


 ただ、この推移を見ていただくと、2012年は前年比5〜10%程度の水準を維持していたことが分かります。2013年に入るとさらに増加しています。白川前総裁の頃から、すでに金融緩和を進めていたのです。これを、今後はさらに年50%程度ずつ増やしていこうとしています。

 この大胆な緩和策は、世界中を驚かせました。マネタリーベースを増やすことや長期国債を買い入れるなどの手法自体は、市場も十分に織り込み済みだったわけですが、マネタリーベースを2倍に膨らませようという内容は、予想をはるかに超えていたのです。

 しかし、それが日本経済を長期的に成長させていくかどうかは分かりません。デフレ脱却のために金融政策を推進する考えを持つリフレ派と呼ばれる人たちは、「日本経済を伸ばすことができる」と信じていますが、金融緩和はリスクも伴います。必ずしも良い影響が出るとは限らないのです。マネーの増加によりミニバブルは起きるかもしれませんが、あくまでも実体経済が好転しなければ、副作用のほうが大きくなる可能性もあります。

 こうした不安を象徴する出来事がありました。今回の要旨発表の翌日である4月5日付の日本経済新聞朝刊1面に「デフレ脱却へ戻れぬ賭け 黒田日銀」という見出しがついていたのです。その箇所からは、日本経済新聞社もこの大胆な緩和策に若干危惧している部分があると読み取れます。

 では、この「異次元緩和策」は、どのようなリスクをはらんでいるのでしょうか。

>> 大規模な緩和策は、日本経済を“メタボ”にする

大規模な緩和策は、日本経済を“メタボ”にする

 先週、私は大阪で毎日放送の「ちちんぷいぷい」というテレビ番組に出演しました。そこで黒田新総裁の金融緩和策についてのコメントを求められ、このように説明しました。

 例えば、この20年間くらい、全く成績のふるわない学生がいました。その学生に「今日からごはんを2倍食べて体力をつけなさい」と言ったのです。学生がご飯をいっぱい食べて「じゃあ、がんばって勉強してみよう」と思うのかどうか。2倍になったごはんのおかげで、学生が勉強に対する姿勢を変えれば成績は上がりますが、今までと同じようなことをやっていたら、結局はメタボ街道まっしぐらなわけです。

 この20年間、経済が成長していない日本に、2倍の量の資金を供給することで、経済成長につながるかどうかということを「食事とメタボ」に例えたのです。

 マネタリーベースを2倍にするということは、ある意味、ショック療法と言えます。その結果、景気がよくなるかは分かりませんが、高確率で起こるのがミニバブルです。

 先程も述べたように、黒田新総裁は現在140兆円程度のマネタリーベースを2年間で270兆円まで増やそうとしています。つまり、資金をじゃぶじゃぶにつけるということです。

 この膨張したマネーは、間違いなく投機資金に向かうでしょう。さらに言えば、株高と不動産価格の上昇を招きやすくなります。こうした背景から、黒田総裁が会合要旨を発表した翌日の株価を見ますと、不動産株と証券株が軒並み上昇していました。投資家たちは、しっかりと読んでいたのですね。

>> 緩和策によって、企業の資金需要は伸びるのか?

緩和策によって、企業の資金需要は伸びるのか?

 日銀はマネタリーベースをどんどん増やそうとしていますが、本当に増えなければならないのは、「M3」です。これは現金通貨と民間金融機関の預金の合計で、いわゆる「マネーサプライ」と呼ばれるものです。景気がよくなりますと、この「M3」が増えるのです。

 それはどういうことか。過去のコラムでも説明していますが、簡単に復習します。景気が回復してきますと、企業や個人の資金需要が増え、借入が増えます。借入が増えると、いったんはお金が預金に入れられますから、「M3」が増えるのです。

 つまり、マネタリーベースを増やすことによってお金を借りやすくし、その結果、景気が刺激されて「M3」が順調に増えれば、金融政策は成功したと言えます。


 「M3」の推移を見ますと、前年比2%の増加を維持しています。先程、推移を見たマネタリーベースは前年比5〜10%の割合で増えていましたが、「M3」はほとんど反応していません。企業や個人は、まだ先行きを慎重に見ており、投資を行おうとする段階まで至っていないのです。今後、果たしてこれが増加してくるのかどうか。しっかり注目することが肝要です。

 日銀は今回の緩和策でマネタリーベースの増加をターゲットにしましたが、そういう点ではM3の増加をターゲットにしてもよかったのではないかと私は思います。

 ポール・ボルカー氏が米FRB議長をしていた1980年代、マネーサプライ(日本でいうM3)の安定化を重視し、この増加範囲を金融政策の目標値に設定していました。マネーサプライの上限と下限を決めて、その間に入るように金融政策を行っていたのです。

 マネーサプライ自体は当局ではコントロールできません。コントロールできるのは、マネタリーベースだけです。しかし、自分たちでコントロールできるマネタリーベースだけを拡大させても、マネーサプライが反応しなければ意味がありませんから、ボルカー元議長はマネーサプライもターゲットにしたのです。

 通貨だけ膨張させてバブルができても、その後に待ち受けているのは「宴の後」です。宴の後には、株式や日本国債の暴落が訪れる恐れがあります。国民も政府も、実体経済が改善されるかどうかをきちんと見なければ、本当に「戻れない賭け」になってしまうのです。

 実体経済をよくするためには、最終的には成長戦略にかかっています。アベノミクス3本目の矢である成長戦略は、6月に発表される予定ですが、これが国内産業を育成できる政策かどうかが問題です。企業業績が改善することは重要ですが、それが海外で稼ぐだけだったら、国内経済は改善されません。日本国内での産業を伸ばさなければ、根本的な成長にはならないのです。

 今、円安によって輸出産業の業績が伸びたと言われていますが、正確には、グローバル企業が海外で稼いだ利益の円換算額が伸びているだけです。これでは日本の税収が増えるわけではありませんし、国内経済にそれほど大きな好影響が出るわけでもありません。

 成長戦略によって、国内の産業が伸びて、国内での資金需要が増えて、国内での投資が増えて、国内での雇用が増える、という循環を作り出さなければ、日本の成長率は継続的に上昇していきません。

 ただ、成長戦略は即効性がある政策ではなく、結果出るまで時間がかかります。ですから、「これに従っていけば、国内景気は良くなるだろう」と国民が、特に経済人が思えるような内容を発表できるかどうかが、今後の景気を大きく左右するのです(成長戦略については、次回、詳しく述べます)。

>> 円安、株高はいつまで続く?

円安、株高はいつまで続く?

 本日(2013年4月16日現在)、1ドル=97円前後となっています。2012年秋までの異常な円高水準が修正されたことで、市場のマインドが改善し、日経平均株価も1万3000円台まで回復しました。そこまではよかったのです。ただ、本格的にアベノミクスが始動し始めたのはつい最近です。それまでは、アベノミクスの序曲みたいなものでしたからね。

 今後の円相場はどう動いていくのでしょうか。私は、長期的には円安ドル高傾向になると考えています。米国の貿易赤字が、シェールガスの産出によって大きく改善される可能性があることと、日本の金融緩和が少なくとも今後2年は継続されることが主な理由です。

 ただ、短期的には、波乱要因が多々あります。先週末から現在にかけて少し円高に振れていますが、この原因は、一つは12日に米財務省が議会に提出した為替報告書で、日本の円安を懸念する表現が加えられたこと。次に、米国指標が若干弱含んだこと。もう一つは、ボストンでマラソン大会中にテロとみられる爆発事故が発生したことです。一時は1ドル=95円台まで値を上げました。

 欧州問題も小康状態ではあるものの、火種を抱えていることには変わりありません。2月末から3月に、イタリア総選挙やキプロス問題によって少し円高に振れました。市場は、今の日本は期待バブルだと分かっていますから、不安要因が表面化するたびに相場が大きく動いてしまうのです。

 一時は1ドル=100円近くまで円安が進んでいましたが、今のところ、上記の米国の要因から1ドル=97円程度となっています。もし、このレベルで円安が止まるならば、株式のほうは先に話したようにマネタリーベースが倍になることでミニバブルが続くかもしれませんが、企業業績への好影響は限定的になる可能性があります。

>> 景気対策より経済対策に力をいれるべき

景気対策より経済対策に力をいれるべき

 繰り返しますが、いくら金融政策や公共工事中心の景気対策を行っても、本質的な経済成長はありません。経済成長のためには、成長戦略、経済対策が必要です。

 確かに、多くの人が考えるように、今の円安は景気対策という面ではいいことかもしれません。アベノミクスの2本目の矢である財政支出も短期的には効果的かと思います。しかし、それだけでは経済が継続的に成長することはないのです。

 経済対策と関連しますが、今、政府内で雇用制度改革が議論されています。「金銭解雇ルール」を創設しようというのです(これは正確に言いますと、解雇について訴訟問題まで発展し、解雇無効になった場合は、金銭で解決しても問題ない、という話です。お金出せば解雇できますよ、という話とは本質的に違います)。

 当然ですが、これだけでは企業を活性化させることはできません。解雇ルールが日本経済低迷のボトムネックになっているわけではないのですから、解雇権の権限を若干強めたところで、企業は「じゃあ人を雇おうか」というふうには変わらないのです。

 注目すべきは、6月に発表される成長戦略です。これが、中長期的に日本経済を発展させるものだと皆を納得させられるものなのかどうか。企業が「日本国内で投資しよう」と思える内容かどうか。国内産業の足腰を強くするための経済対策が発表されることを強く期待しています。

 次回は、TPP交渉や成長戦略について私の考えを述べたいと思います。

(つづく)
>> 本連載は、BizCOLLEGEのコンテンツを転載したものです

◇   ◇   ◇

小宮一慶(こみや・かずよし)


経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』(日経BP社)――絶賛発売中!

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第2回 混沌の21世紀を私たちはどのように生きるべきか(下)
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授)
2013/4/22
 世界が資源枯渇や持続可能性について考えるきっかけになった世界的シンクタンク、ローマ・クラブによる世界予測『成長の限界』(1972年)。その著者の一人、ヨルゲン・ランダースが40年の時を経て発表した新たな未来予測『2052 今後40年のグローバル予測』を同書日本語版の解説を執筆した竹中平蔵氏と著者ランダースの言葉から読み解いていく。2回目の今回は竹中氏による解説の後半部分を見ていこう。

◇   ◇   ◇


 著者ヨルゲン・ランダースが『2052 今後40年のグローバル予測』を書いた最大の目的は、私たちが「パラダイム」が変化したことを真に理解し、健全な危機感を持って速やかに行動を起こすよう に促すことだ。私は特に以下の2つの観点から、ランダースのメッセージを受け止めたいと思う。

 第1のメッセージは、我々は未来のために大きな投資をするという決意をしなければならない、という点だ。

 ランダースによれば、平均して人間は1年間に生産する財・サービスのうち、75%を消費し、25%を投資に回している。しかし今後、世界が資源枯渇、環境 汚染、生態系破壊、気候変動に目を向けざるを得なくなり、その結果、従来の投資に加えて2種類の投資を増やさざるをえなくなる。

 1つは、資源枯渇や環境破壊を避けるための「予防的な自発的投資」。もう1つは、資源・環境問題によって引き起こされたダメージを修復するための、いわば「事後の強制的投資」である。これらを足し合わせると、投資は現在の1.5倍、つまりGDPの36%を占めるようになる。

 ちなみにこの比率は、第二次世界大戦末期の(つまり非常時の)米国の国家予算に占める軍事費の比率に相当する。著者が言うように、この比率は相当に高いものだが、かと言って決して実現不可能な比率ではないのだ。

>> ポピュリズムという短期主義が危機を招く

ポピュリズムという短期主義が危機を招く


ノルウェービジネススクールのヨルゲン・ランダース教授
 第2のメッセージは、今後の国家の役割に関するものだ。ランダースは、以上のような投資の促進は通常の資本主義経済(市場経済)では、極めて緩慢なスピードでしか進まないことを、過去40年の経験から指摘している。

 現状では、短期主義、つまり近視眼的な視点が蔓延している。したがって今後は、これを実現させるための国家(政府)の役割が極めて重要になると結論する。そのため具体的な施策として、増税によって消費財・サービスの需要を縮小させ、資源配分を変えていくことが主張されている。賢い政府のより強い役割が不可欠、と述べているのである。

 以上、2つのメッセージから得られる示唆は、なかなか複雑で厄介なものだ。市場は確かに近視眼的である。

 多くの企業は40年先の地球社会を考えることなく、目の前の利益最大化に走っており、その結果、資源の枯渇と環境破壊が進んでいく。しかし、それに対して政府はどうか。政府の重要なプレーヤーである政治家や官僚は、時に企業以上に近視眼的である。

 19世紀のアメリカの牧師ジェームズ・F・クラークは、「政治家は次の時代を考える、政治屋は次の選挙を考える」という名言を残したが、残念ながら政府関係者の多くは、次の時代に思いを致していないように見える。

 多くの国で政治はポピュリズムという短期主義に走り、結果的に政府は愚かな政策を採ってきた。その結果が莫大な財政赤字であり、これが世界的な金融危機という新たなグローバル問題を惹起している。その政府に、まず愚かな政策をやめさせねばならない。そのうえで、長期の地球社会を運営する賢い政府になる、ということが求められている。これはとんでもない難題である。

>> グロークラインの先進国として

 著者ランダースは、地球上の人々がそれぞれ前向きのアクションを起こすことを期待し、『2052』を通じて警告を発している。その中身としては、個人としての節約努力、企業としての社会貢献などさまざまなものがあろう。しかし、個人が起こすべき最大の行動は、地球問題を解決できる賢い政府を作るための健全な投票行動なのかもしれない。民主主義社会において、それができるのは我々以外にはいないのだ。

 今まさに、これまで人間社会を発展させてきた資本主義と民主主義そのものが問われていると言えよう。

グロークラインの先進国として

 これからの40年は、決して悲観一色の時代ではない。しかし、持続可能ではない今の地球社会のシステムは間違いなく綻びを拡大し、2052年以降の世界を決定的に悲観的なものにする可能性が高い。これからの40年こそ、人類の希望を繋ぐ最後のチャンスなのだ。

 多くの示唆に富むこの本の中で、日本に関係する興味深い表現がある。「グロークライン」、つまりグロース(成長)とデクライン(衰退)の同時進行である。すでに日本では、GDP全体は伸びない、ないしは減少し、デクラインの状況にある。しかし、人口減少によって1人当たり所得は成長(グロー)している。日本はグロークラインの先進国だが、今後の世界、とりわけ先進工業国は、このグロークラインの状況になるとランダースは言う。

 グロークラインになれば、持続可能な地球を取り戻せるかもしれない。問題は、グロークラインは実現しても、すでに手遅れになっているかもしれない、という点にある。いずれにしても日本は、グロークラインの先進国として、こうした状況下でどのように社会を安定的に運営するか、その手本を世界に示さねばならない。

◇   ◇   ◇


竹中平蔵(たけなか・へいぞう)

1951年生まれ。1973年一橋大学経済学部を卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)に入行。89年米ハーバード大学客員准教授。2001〜06年に経済財政政策担当相、金融担当相、郵政民営化担当相、総務相を歴任。2006年から慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長。

2052 今後40年のグローバル予測
著者:ヨルゲン・ランダース
出版:日経BP社
価格:2,310円(税込み)
http://bizacademy.nikkei.co.jp/column/2052-keikoku/article.aspx?id=MMAC0l000018042013&waad=fAS3oiky


02. 2013年4月23日 14:31:18 : niiL5nr8dQ

第1回 混沌の21世紀を私たちはどのように生きるべきか(上)
竹中 平蔵(慶應義塾大学教授)
2013/4/15
 1972年に発表された世界的なシンクタンク、ローマ・クラブによる未来予測『成長の限界』は、それまで多くの人が気にかけていなかった資源枯渇や持続可能性について、世界が考えるきっかけをつくった。その著者の一人、ヨルゲン・ランダースが40年の時を経て発表したのが『2052 今後40年のグローバル予測』。1月には日本語版が発表され、『成長の限界』を受け継ぐ「21世紀の警告書」として、大胆な予測をわれわれに問いかける。その中身はどんなものなのか、日本語版の解説を執筆した竹中平蔵氏と著者ランダースの未邦訳の言葉から読み解いていく。まずは竹中氏による解説を2回にわたって見ていこう。
 この1月、『2052 今後40年のグローバル予測』という本が上梓された。この本は、今から40年前、世界の人々に重大な警告を発したローマ・クラブ『成長の限界』(日本語版はダイヤモンド社、1972年)を受け継いで、21世紀への警告書としてあらためて世界に問い直したものだ。
 著者のヨルゲン・ランダース(ノルウェービジネススクール教授)は、1970年代に『成長の限界』に関する研究が始まった時点から、直接・間接に地球社会の将来に関するこのような作業に関与してきた。まさに、元祖『成長の限界』の手になるこの本は、混沌の21世紀を私たちがどのように生きるべきか、貴重な道しるべとなる。
“21世紀のマルサス”か
 経済学者である私としては、こうした警告の書を読むと、イギリスの経済学者ロバート・マルサスが18世紀末に記した、あの『人口論』を想起する。食料を生産するための耕作地の増加が人口の増加に追い付かず、人類は飢餓・戦争など悲惨な状況に突き進む……。マルサスがそう主張するのを聞いて、イギリスの歴史家トーマス・カーライルは「経済学はなんと陰鬱な学問(dismal science)か」と述べたという。
 『2052』の著者ヨルゲン・ランダースは地球社会の将来に対し厳しい警告を発しているという意味で、21世紀のマルサスかもしれない。しかし同時に著者はこの本において、厳しい将来は私たちの行動で変えることができる、という主張も繰り返し述べている。ランダースの警告をマルサスのように陰鬱と受け取るかどうか、私たちの今後の行動次第であることも、重要な含意であろう。
 以下では、2010年代初めの現時点でこの本を読む機会に恵まれた私たちが、いったいどのように問題提起を受け止め、いかに行動するべきなのか、考えてみたい。
>> 復活、ローマ・クラブの警告
復活、ローマ・クラブの警告
ノルウェービジネススクールのヨルゲン・ランダース教授
 1972年にローマ・クラブが『成長の限界』を公表したとき、世界の人々は大きな衝撃を受けた。現状が続けば、人口増加と地球環境の破壊、さらには資源の枯渇などで、人類の成長は限界に達するという警鐘を鳴らしたのである。今でこそ、有限な地球、地球温暖化、グリーン革命など様々な言葉が飛び交っているが、その起源はすべてこの『成長の限界』にあったと言ってよい。「持続可能」(sustainable)という概念自体も、これがきっかけとなって定着していった。
 このローマ・クラブは、スイスに本部を置く民間のシンクタンクだ。その20年後、1992年には、続編に当たる『限界を超えて─生きるための選択』(日本語版はダイヤモンド社)も公表されている。
 『成長の限界』が社会にもたらしたショックは、とりわけ日本において大きいものがあった。公表の時点で日本は、いまだ60年代の高度成長の余韻の中にいた。前年の1971年、ニクソンショックで1ドル360円時代は終焉していたが、それはむしろ日本の経済発展の結果を象徴する出来事と受け止められた。しかし1973年、第一次石油危機が世界を襲う。資源が有限であるという事実をまざまざと見せつけられた日本では、高度成長とは異なる新しい道を歩まねばならないことが、多くの人々の実感として受け止められた。
 『2052』の出発点となる問題意識は、ローマ・クラブの警告にもかかわらず、人類は十分な対応を行わないまま40年が過ぎた、という点にある。ランダースは言う。
 「『問題の発見と認知』には時間がかかり、『解決策の発見と適用』にも時間がかかる。……そのような遅れは、私たちが『オーバーシュート(需要超過)』と呼ぶ状態を招く。オーバーシュートはしばらくの間なら持続可能だが、やがて基礎から崩壊し、破綻する」(序章)
 「しきりに未来について心配していた10年ほど前、私は、人類が直面している難問の大半は解決できるが、少なくとも現時点では、人類に何らかの手立てを講じるつもりはないということを確信した」(1章)
 40年前の「成長の限界」の公表から間もないころ、日本人としてその作業に参加された茅陽一教授(当時東京大学)にお話を伺う機会があった。茅教授は、「この警告を人類はどの程度本気で受け止めるだろうか」と懸念しておられたことを記憶している。気がつけば成長の限界以降、さらに地球温暖化やグローバル金融危機など新たな難問も追加されている。ランダースはこのような懸念の上に、あらためてこの本を世に問うたのである。
>> 40年後の世界は?
40年後の世界は?
 将来見通し、とりわけ40年という長期に及ぶ期間を見通すのは容易なことではない。その予測にどの程度の科学性が認められるのか、さらにはこのような予測には信憑性があるのか、細かな議論をすればきりがないだろう。
 ここでは、『成長の限界』のシナリオ分析から出発して、慎重な手続きで将来予測の精度を高めるいくつかの工夫がとり入れられている。また、各分野の専門家による34の予測を挿入しながら多面的な検討を行い、各予測の間の整合性にも相当の配慮をしているという点を指摘しておこう。
 さて、そこで描かれている40年後の世界については、実に膨大な記述がなされている。それらすべてを要約することはできないが、枠組みに関する最重要なポイントとして、以下の諸点を理解しておくことは肝要だ。

都市化が進み、出生率が急激に低下するなかで、世界の人口は予想より早く2040年直後にピーク(81億人)となり、その後は減少する。

経済の成熟、社会不安の高まり、異常気象によるダメージなどから、生産性の伸びも鈍化する。

人口増加の鈍化と生産性向上の鈍化から、世界のGDPは予想より低い成長となる。それでも2050年には現状の2.2倍になる。

資源枯渇、汚染、気候変動、生態系の損失、不公平といった問題を解決するために、GDPのより多くの部分を投資に回す必要が生じる。このため世界の消費は、2045年をピークに減少する。

資源と気候の問題は、2052年までは壊滅的なものにはならない。しかし21世紀半ば頃には、歯止めの利かない気候変動に人類は大いに苦しむことになる。

資本主義と民主主義は本来短期志向であり、ゆえに長期的な幸せを築くための合意がなかなか得られず、手遅れになる。

以上の影響は、米国、米国を除くOECD加盟国(EU、日本、カナダ、その他大半の先進国)、中国、BRISE(ブラジル、ロシア、インド、南アフリカ、その他新興大国10カ国)、残りの地域(所得面で最下層の21億人)で大きく異なる。

予想外の敗者は現在の経済大国、中でもアメリカ(次世代で1人当たりの消費が停滞する)。勝者は中国。BRISEはまずまずの発展を見せるが、残りの地域は貧しさから抜け出せない。
 なお、『2052』の面白さは、巻末に近い第3部で「大勢の人に荒らされる前に世界中の魅力あるものを見ておこう」「決定を下すことのできる国に引っ越しなさい」などの具体的な助言が示されていることだ。読者なりの問題意識で、興味ある個所を熟読すれば極めて有益な情報が得られるだろう。
 次回は、ランダースの予測に対すると私の見解と、日本の今後40年について考えてみたい。


 

システム思考革命 物事の依存関係と全体の構造を見る 〜センゲ著「最強組織の法則」(2)
プライスウォーターハウスクーパース 森下幸典
2013/4/23

 社会現象の因果関係は複雑化し、ビジネスパーソンが意思決定するために必要な情報量も急増しています。正しい判断をするためには、情報を整理し因果関係を把握するノウハウが不可欠です。センゲは本書で「システム思考革命」の必要性を唱え、学習する組織(ラーニングオーガニゼーション)の中核的な考え方として位置付けます。

 システム思考とは、物事の依存関係を確認し、全体の構造を見いだすことです。センゲは「木を見て森も見る」ことが必要だと主張し、ある個別の事象の原因を特定するだけでは済まないと指摘します。様々な事象の相互の関連性と全体の中での重要性を理解し、どの部分に働きかければ最も効果的に問題を解決できるのかを見いだすことが重要とみるのです。これを「レバレッジの原則」と定義します。

 ただ、効果的な作用点は通常見えづらいものです。また、経営管理における多くの施策は、それを実施すれば一度は業績が好転しますが、後に悪化しがちです。短期的に状況を好転させる方法はたくさんありますが、それだけで問題自体が消えたと錯覚してはならないのです。

 例えば、需要があるからと増産すれば、いずれ在庫や設備などの余剰に悩む可能性もあります。低価格で良いサービスを提供しているつもりでも、人材確保や教育を怠れば、価格も質も維持できなくなります。こうした点について、センゲは「スナップショットとしての出来事よりも、プロセスや構造を見ることが必要」と指摘します。

 このように、システム思考は全体を見るための考え方ですが、事象を正しく捉えるためには、戦略の結果をフィードバックする仕組みが重要となります。フィードバックを通じて、現場の最前線で発生する「遅れ」を適切に把握します。戦略を実行する場合、的確なフィードバックがタイムリーでなければ、致命傷になりかねないのです。

>> ケーススタディー 組織変革で見いだした4つの「着眼点」

ケーススタディー

ある行政機関の10年後を目標にした変革プラン

 A国のある行政機関では、10年後のあるべき姿を見据えた変革プランの策定に取り組みました。組織の上位職層から中堅層、現場のリーダークラスまでを対象として、ビジョン策定のためのワークショップを開催しました。

 この行政機関が目指したのは、中央集権型で早急に課題を解決することではなく、組織全体あるいはチームとして業務の全体構造を見つめ直すことです。その観点から、どのように変革すべきかの4つの着眼点を見つけ出しました。それが「効率」「俊敏性」「説明責任」「統合」の4点です。

 この行政機関では、「効率」は日々の業務のやり方を改善しながら向上させるべきものと位置付けて、いくつかの具体的な目標を定義しました。その1つ目が「組織、部署間での業務の重複を解消する」ことです。プロセスの見直しと同時に、システム化により可能な限りの自動化を目指します。組織の機能やシステムを最大限活用することは、限られた人的資源を活用して成果をあげるために重要なポイントになります。

 また、長期的にコスト低減効果を享受するために、シェアードサービス(間接業務などの集約)の導入やアウトソーシング(業務の外部委託)、契約単位の集約化、サプライヤーに対する費用対効果の明確な説明なども実施します。

>> 人的資源を「自分だけのもの」と思い込む管理職

人的資源を「自分だけのもの」と思い込む管理職

 さらに、組織で働く人材そのものにも変革が必要です。特に管理職が人的資源を「自分だけのもの」と思って使う傾向が見られたため、その意識を変える取り組みが必要でした。生産性を向上し、継続的に改善活動やトレーニングをするためには、十分な作業環境を提供することも必要です。

 これらの目指すところは、無駄を最小化し価値を最大化するための革新的なソリューション(問題解決)の導入と、仕事に対する主体性と意欲の高い人材を活用し、生産性を向上させることです。

 次は「俊敏性」についてです。外部および各部門からの要求に迅速に応えるためには、個人からチームまで全てのレベルにおいて、能力が高く、柔軟性を持った人材が必要です。また、様々なニーズに対応するためには多様性も持たなければなりません。

外部関係者との強固な協力関係も重要です。さらに、この行政機関では、継続的な改善、改革をもたらす組織文化の醸成も目標に掲げ、具体策に取り組むことにしました。

 「説明責任」に関しては、組織内外ともに透明性を確保することを重視しました。例えば、投資に関する情報について、コストや選択肢を含めて、タイムリーに共有することを目指します。

 また、パフォーマンスの評価に関する首尾一貫性、個人と組織の責任範囲のバランス調整にも取り組みました。職員一人ひとりに、仕事に対するオーナーシップを持たせることを目指して、日々の仕事の意思決定を任せるようにしました。

>> 個人の成果だけで評価しない

個人の成果だけで評価しない

 最後の「統合」に関しては、「共通の目標に向かって、様々なスキルを持った人材がひとつのチームとして協力し合う」ことを目標としました。人的資源が全ての機能や部署を通じて統合的に管理され、統合されたプロセス、システムおよびナレッジシェア(知識共有)の仕組みによってサポートされている形をあるべき姿として定義しています。そして、部門間での連携を促すとともに、成果は個人および全体の両面で評価します。

 これらの改革にあたって、この行政機関では特に「変革のポイントは人である」と認識しました。当事者である各職員に変革の必要性と意義を十分に浸透させ、それを理解してもらうために、客観的なデータやシステマティックなアプローチ、定期的なモニタリングとフィードバックの仕組みが重要と考えたのです。

◇   ◇   ◇

森下幸典(もりした・ゆきのり)
プライスウォーターハウスクーパース(PwC) パートナー

慶応義塾大学商学部卒業。世界158カ国、18万人以上のプロフェッショナルを有するPwCのネットワークを活用し、クライアントの経営課題解決のために経営戦略の策定から実行まで総合的に取り組んでいる。国内外大手企業に対するグローバルプロジェクトの支援実績多数。現在は英国ロンドンに駐在し、英国における日系企業支援サービス統括パートナーを務める。

この連載は日本経済新聞火曜朝刊「キャリアアップ面」と連動しています。

「最強組織の法則」はこちら


03. 2013年4月23日 14:46:33 : niiL5nr8dQ


【社説】墜落する韓国経済に翼はない
2013年04月23日09時20分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版] comment63hatena0
今年の韓国の経済成長見通しがますます暗くなっている。アジア開発銀行(ADB)はこのほど韓国の今年の成長率見通しを昨年10月の3.4%から2.8%に大幅に引き下げた。これは日本を除くアジアの国内総生産(GDP)上位11カ国のうち下から2番目だ。今年のアジア経済圏の平均成長率は6.6%に達する。アジア圏で成長率が韓国より低い国はシンガポール(2.6%)だけで、昨年の1人当たりGDPが5万1162ドルと韓国の2万3113ドルの2倍を超える事実上の先進国だ。一時成長神話の主役だった韓国が1人当たり所得2万ドルの敷居を越えるやいなやアジアの劣等生に転落する危機にさらされているのだ。

国際的な会計コンサルティング会社であるアーンスト・アンド・ヤングは今年の韓国の成長率見通しを1月に発表した3.3%から2.2%と3カ月で1.1ポイントも引き下げた。政府が先月税収不足を補填するための追加補正予算の必要性を強調しながら出した2.3%よりも低い数値だ。新政権発足後、韓国経済が急転直下で墜落するかも知れないという警告だ。

経済状況がこのように厳しくなっているが政府はこれといった対策を出せずにいる。追加補正予算案を提示したが税収確保次元の生ぬるい措置にすぎず、不動産対策も冷えきった住宅景気を回復させるには力不足だ。円安の空襲に輸出は萎縮し、消費と投資は停滞と退歩を繰り返している。このように輸出と内需が一度に不振となれば成長が止まり働き口が不足するのは当然のことだ。

この渦中に韓国銀行は政府の景気対策に反対し、政界は企業の投資を萎縮させるあらゆる経済民主化立法に熱を上げる。政府自らも税務調査強化と新たな規制拡大で企業を圧迫し、同時に投資と雇用を増やせと脅す。これでも経済が生き返るならばそれこそ奇跡に違いない。経済環境の悪化と政府の無対策が重なりながら韓国経済はいまや特有の挑戦精神と活力まで失っている。経済状況が悪化するのはもちろん「またやってみよう」という覇気と意欲まで消えていっているのだ。こんなようでは所得2万ドルの入口で低成長構造が固定化される懸念はますます大きくなる。

さらに大きな問題は新政権がこのような危機状況に対し全く危機意識を持たないでいるということだ。現在の韓国経済の不振は急速な人口高齢化と新たな成長公式の不在という構造的な沈滞要因と対内外経済環境の悪化という景気循環的な沈滞要因が重なったものだ。これを克服するには中長期成長戦略と短期的な景気対策を同時に講じる必要がある。しかし新政権は新成長戦略に対する下絵どころか現在の経済状況に対する総合的な診断さえ出せずにいる。経済に対する青写真なくして「大統領選挙公約」だけを繰り返し言っているので成長戦略と対策もないのだ。
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ビル・ゲイツ氏、韓国と次世代原子炉開発を推進(1) 2013年04月22日 (月) 09時50分
ビル・ゲイツ流? 朴大統領との握手で…=韓国・ソウル 2013年04月23日 (火) 08時34分


ビル・ゲイツ「韓国は卓越した基盤を持った国」
2013年04月23日11時29分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版] comment39hatena0
朴槿恵(パク・クンヘ)大統領とマイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ米テラパワー会長が22日に会った。ゲイツ会長は朴大統領がこれまで何度も創造経済の成功事例として挙げた人物だ。45分間の面談で朴大統領は創造経済の概念を説明し、これに対するゲイツ会長の意見を主に尋ねた。

朴大統領=われわれが必要とする人材モデルとしてゲイツ会長のような方がいるという話をよくした。大学生との対話はどうだったか?

ゲイツ会長=興味深い時間を持った。大学生から情熱とエネルギー、インターネットに対する関心を感じた。

朴大統領=想像力や創意性、アイデアと科学技術が融合し、産業と産業、文化と産業が融合する過程で新たな産業が花開き、それによって新たな市場と雇用を作るつもりだ。

ゲイツ会長=創造力を活用して成功できる領域に出て行けるというのは賢明な構想だ。

朴大統領=創造経済の核心のひとつが創業だ。創業が活発に行われるために国がどんな環境を作ることが特に重要か。

ビル・ゲイツ=企業家精神を増進させる方策と中小企業関連の部分で革新性と創意性を高めなければならない。大きな進展は科学と工学を通じてなされる。この分野の人材が創業市場で雇用されるようにすることが重要だ。

朴大統領=Change(変化)のGをCに変えればChance(機会)になるという、危機の中に機会が隠れているという言葉が印象的だった。

ゲイツ会長=韓国は教育、エネルギー、インフラ、サムスンのような卓越した基盤を持った国だ。

朴大統領=創意性ある人材を育てる教育システムに対する意見は?

ゲイツ会長=技術と教育をつなげることは、創意性を導入できる機会を提供することができる。

朴大統領=韓国で本当に人気があったようだ。

ゲイツ会長=米シアトルを訪問する機会があれば一度おもてなししたい。

朴大統領=5月の訪米中は難しい。シアトルと言えば「Sleepless in Seattle」(映画「めぐり逢えたら」)を思い出す。

このほかゲイツ会長はコンピュータ技術を組み合わせた第4世代原子炉開発に対する韓国の関心を求めた。朴大統領は、「協力計画が良い方向に進むことを望む」と答えた。

これに先立ち、朴大統領は首席秘書官会議で「肌で感じられるようネガティブ方式ではっきりと規制を緩和し、国民が体感できるようにしたら良いだろう。それでこそ雇用もたくさんでき、国民もそれを見ることができる。このままちびりちびりとやっていてできるものではない」と話した。朴大統領は、「経済は心理というがこの厳しい状況でそれでも投資をするという企業に対しては多くの力を与えなければならない」としてこのように強調した。

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ビル・ゲイツ流? 朴大統領との握手で…=韓国・ソウル
2013年04月23日08時34分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版] comment47hatena0
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朴槿恵(パク・クネ)大統領が22日、青瓦台(チョンワデ、大統領府)を表敬訪問したマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ会長と握手している。 朴槿恵(パク・クネ)大統領が22日、青瓦台(チョンワデ、大統領府)を表敬訪問したマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ会長と握手している。

ビル・ゲイツ会長は2008年、李明博(イ・ミョンバク)前大統領と会った時も左手をポケットに入れたまま握手をしてエチケット論争を引き起こした。
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ビル・ゲイツ氏、韓国と次世代原子炉開発を推進(1)
2013年04月22日09時50分
[ⓒ 中央日報/中央日報日本語版] comment26hatena0
マイクロソフト創業者で会長のビル・ゲイツ氏が韓国と共同で親環境的かつ経済的な次世代原子炉開発を推進する。2008年にマイクロソフトの経営の第一線から退いたゲイツ氏は、テラパワーというエネルギーベンチャー企業の設立に参加しオーナーとして活動している。

ゲイツ氏は21日、ソウル大学CJインターナショナルハウスでKAISTの張舜興(チャン・スンフン)教授、韓国原子力研究院ナトリウム冷却高速炉(SFR)開発事業団のパク・ウォンソク団長らと会い第4世代原子炉開発を共同で推進する方策について議論した。

大統領職引き継ぎ委員会の教育科学分科委員として参加した張教授は記者との通話で、「第4世代原子炉開発を推進している韓国原子力研究院とテラパワーがプロトタイプの共同開発をめぐり今後3カ月ほど妥当性を集中検討した上で最終結論を下すことにした」と話した。張教授とゲイツ氏は22日に青瓦台(チョンワデ、大統領府)を訪問し朴槿恵(パク・クンヘ)大統領と会談する席でこのような計画を紹介し政府の支援も要請する計画だ。

張教授は、「米国と韓国とも次世代原子炉の形態がタンク型で燃料も金属(ウラン合金)のため共同開発に乗り出す場合には開発期間と費用を減らせるという長所がある」と説明した。テラパワー側は2022年までに60万キロワット級原子炉を、韓国は2028年までに1兆5000億ウォン(約1336億円)の研究費を投資し15万キロワット級小型原子炉を開発するのが目標だ。

ゲイツ氏はこの日午後、ソウル大学近代法学教育100周年記念館で開かれた講演でも「貧困や気候変動など全地球的問題を解決するための技術を考えている。貧しい国に低費用でエネルギーを供給するためには原子力など新しいエネルギー技術開発が重要だ」と話した。ただ、「原子力エネルギーは安全・廃棄物の問題があり唯一の対案ではない。エネルギー問題を解決するためには消費構造を変えられる新たな革新が必要だ」と述べた。

ビル・ゲイツ氏、韓国と次世代原子炉開発を推進(2)

朴槿恵政権が推進する「創造経済」をどのように達成できるかに対する質問も出された。ゲイツ氏は2007年のハーバード大学の卒業式に続き、2008年1月のダボス世界経済フォーラムで現代資本主義を批判し、疎外された階層に配慮しようという意味で「創造的資本主義」を力説した。参席者によるとゲイツ氏は「韓国は貧しい国から発展した世界的に特別なケースで、いまは世界最高水準に到達している。アップルのような企業をまねるより韓国だけの固有な道を探さなければならない」と答えた。

その上で、基礎科学の重要性を強調した。ゲイツ氏は「模倣を跳び越えようとするなら創造が必要だ。知識はどこにでもあるが、創造のためにはこれを単純に使うよりも基本になる基礎的知識がなければならない」と話した。

1975年にハーバード大学を自主退学しマイクロソフトを創業したゲイツ氏は、「創業のため退学を悩んでいる」というあるソウル大生の質問に、「可能ならば推薦したくない。創意性は知識の中で出てくるものであり、大学生活で得られることが多い」と助言した。この日の講演にはあらかじめ申し込んだ教授と学生300人余りだけが参加した。

一方、ゲイツ氏はこの日午後にソウル・瑞草洞(ソチョドン)のサムスン電子社屋を訪問し、李在鎔(イ・ジェヨン)副会長と崔志成(チェ・ジソン)未来戦略室長らサムスングループ役員と会い、IT懸案などについて意見を交わし夕食をともにした。ゲイツ氏は第一線からは退いているが、会社の長期戦略を決め理事会議長職を維持している。午後9時ごろに社屋を出たゲイツ氏はこの日の面談について「有益な議論だった。サムスンとマイクロソフト間の協業について話し、コンピューティングの未来に対し意見を交わした」と話した。マイクロソフトの新しい基本ソフト(OS)の「ウィンドウズ8」に対する意見を交わしたかという記者らの質問には、「ウィンドウズ8を通じどれだけ多くの革新が行われているのか話し、教育分野などでサムスンと何を一緒にするのかについても議論した」と答えた。

ビル・ゲイツ氏、韓国と次世代原子炉開発を推進(1)
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04. 2013年4月23日 14:54:57 : niiL5nr8dQ
コラム:「実感なき回復」回避に必要な円安損得勘定=唐鎌大輔氏
2013年 04月 23日 14:44 JST
唐鎌大輔 みずほコーポレート銀行 マーケット・エコノミスト(2013年4月23日)

年初のコラムで、「どこまで円安になって、どれくらい景気が回復するか」だけでなく、「どこまでいったら円安デメリットを意識すべきか」という論点も念頭に入れておきたいと書いた。

安倍晋三政権の思惑通りに円安・株高が演出できたとしても、その過程で輸入物価経由の物価上昇が発生する可能性は当初から想定されていた。事実、輸入食糧やブランド品などを中心に値上げの動きが少しずつ報じられるようになっている。これらの動きについて円安(あるいはアベノミクス)の副作用という表現を目にすることがあるが、当初の想定に照らせば、これらは明らかにわかっていたことである。

今後、輸出増という円安メリットを享受した企業が、輸入物価上昇という円安コストを相殺し最終価格に転嫁できるか否かが勝負なのであって、現時点での値上げを「副作用」と断じるのは尚早だ。現状は円安コストが現実のものとなっているのに対し、円安メリットが期待の域を出ていないので、社会全体で焦る気持ちが前のめりになってしまっているのだろう。

こうした世間の反応をみていると、日々の相場の方向感を予測することはもちろん重要だが(企業の財務担当者や資産運用者にとって100円や105円、110円といった節目水準に至るタイミングが極めて重要な問題であることも十分理解している)、最終的に実現した為替水準が実体経済に与える影響の具体的中身やその是非に関する社会的議論が不十分であるような気がしてならない。最近では「円安になれば何だって良い」と言わんばかりの極論も珍しくない。

欧米経済の落ち着きや、日本の貿易赤字拡大を背景とした需給環境の緩み、そして政府債務の累増などを踏まえれば、「放って置けば円安」は円相場の中長期見通しとして基本認識なのだろう。ただ、そんな状況になった今だからこそ、円安を望んだ政財界はもとより国民レベルでも円安の損得勘定をきちんと整理し、特にそのコスト(デメリット)との付き合い方を深く考察する必要があろう。

<円安で本当に輸出数量増に至るのか>

言わずもがな、円安の影響をより強く受けるのは輸入物価だ。2000年1月から13年2月までの名目実効円相場と輸出入物価の関係について単回帰分析を試みると、1%の円安(円高)は円建て輸出物価を0.6%程度上昇(下落)させるのに対し、円建て輸入物価を0.65%程度上昇(下落)させることがわかる。つまり、(数量面を無視して)価格面だけに着目すれば、円安はその初期段階では貿易収支を悪化させる方に作用する(もちろん、現実的には価格に応じて数量も動くので必ずしも悪化するとは限らないが)。

また、財務省発表の貿易取引通貨別比率(12年上半期)によれば、貿易取引通貨に占める米ドルの割合は輸出が51.5%であるのに対して、輸入は72.5%である。これをみても、円安・ドル高の影響をどちらが受けやすいのか直感的にわかるだろう。

こうした事実はアベノミクスという言葉が世に浸透する以前からわかっていたことであり、うろたえるような話ではない。今は円安による輸入物価の上振れというコストに耐えながら、輸出企業の収益回復を受けて生産・所得・消費の好循環が回り始めるというメリットを待つしかない。

もっとも、問題は「円安、それを受けた契約通貨(現地通貨)建て輸出物価下落、そして輸出数量増」という円安メリットの経路が今後実現するか、である。

周知の通り、日本の輸入品目の多くを占めるのは、需要の価格弾力性の低い(つまり価格変動に応じた需要の動きが鈍い)鉱物性燃料だ。値段が高いからといって鉱物性燃料の輸入を絞るわけにはいかず、外貨取引が多い日本の輸入において「円安、それを受けた円建て輸入物価上昇」という経路はある程度は読めていた。実際、この円安コストは着々と顕現化している。

また、国内企業物価指数(CGPI)に目を向けても、円安を受けた輸入物価の上昇に伴い、昨年11月以降、上昇基調が続いている。注目すべきは、需要段階別でみて、素原材料や中間財だけでなく、最終財も上昇傾向にあることだ。

これまでCGPIが上昇する際には、その上昇寄与のほとんどは素原材料や中間財であり、最終財への価格転嫁は進まないどころか、逆に下落してきた。これは、言うまでもなく、コスト高を企業が自社で飲み込んできた可能性を示唆しており、究極的には雇用・賃金情勢を抑圧する(そしてデフレを強める)ことにつながっていると思われる。金融危機後の需要縮小と円高という逆風にさらされながらも、安易な値上げを「我慢」してきた企業の姿が浮かび上がる。

それだけに、11月以降のCGPIで最終財への価格転嫁が徐々に始まっている様子が確認できることは、要注意だ。最近になって断続的にみられる値上げと平仄(ひょうそく)も合う。最終財への価格転嫁は、円安コストとして当面続くことが予想される。

一方で、前述した円安のメリットの経路はまだ実現していない。円安が加速し始めた昨年11月から今年3月まで、5カ月連続で輸出数量は減少中である。

円安が輸出企業にとって有利なのは、現地通貨建て価格を横這いにしたままで収益が増加するから、もしくは現地通貨建て価格を引き下げてもこれまでと見劣りしない収益を確保できるからである。後者のケースにおいて、競争的な価格を盾に輸出数量を増やすことができれば「生産増から雇用増、そして所得増から消費増」の好循環が回り始め、アベノミクスの望んだ展開に着地することになる。

事実、「円安バブル」と呼ばれた05―07年には、円安に伴い契約通貨ベースの輸出物価が継続的に下落し、輸出企業の好調を支えた。これに対して、08年のリーマンショック以降は(直後の特殊な時期を除いて)慢性的な円高を背景に契約通貨ベースの輸出物価がじわじわ上昇しており、日本の輸出競争力を奪った。

その後、11年10月にドル円相場が戦後最安値(75.35円)をつけた頃を境に、契約通貨ベースの輸出物価上昇はピークアウトしているが、今後を考える上で重要なのは円安が加速した昨年11月以降の動きである。急速な円安相場が実現したにもかかわらず、契約通貨ベースの輸出物価はまだ目立った下落をみせておらず、むしろほぼ横這いイメージにとどまっている。なぜだろうか。

理由は一つではないだろうが、未曾有の円高局面にあっても契約通貨ベースの輸出物価の上昇幅が小さなものだったことが効いている可能性がある。アジアを中心に国際競争が激化する現状を踏まえれば、やはり「円高だからといって価格転嫁しかねる状況」にあったのではないか。輸出企業は現地通貨建て価格をかなりディスカウントした設定にしていたと推測される。

価格変動の影響を除去した実質輸出(数量ベース、2010年平均=100)をみると、金融危機発生前で円安局面だった「05年1月―08年8月」の平均が97.5であったのに対し、「08年9月―12年2月」の平均は94.2と3%程度しか落ちていない。リーマンショック以降で円相場が最大30%以上も上昇したことに照らせば、この実質輸出減少はかなり軽微なものである。円高コストを飲み込んで競争的な値付けを行なうことで、底割れを防ごうとした輸出企業の努力がうかがえる。

そうだとすると、輸出企業は果たして今回の円安をテコにして競争的な現地通貨建て価格を再設定し、数量を獲りに行けるのか、という不安に至る。もうすでに現地通貨建て価格を十分割り引いているのであれば、引き下げは難しいはずだ。「今はまだJカーブの初期段階」との言い訳が難しくなる6月以降の日銀短観が公表される頃には、この不安の行く末が明らかになるだろう。願わくは、右肩上がりの景況感改善を期待したい。

なお、3月短観調査において、企業のドル円想定レートは85円付近と円高気味に設定されていたが、これは70円台後半からの急騰過程にあって、断続的に為替予約を進めた結果、加重平均した持ち値が90円に届いていないという事情がありそうである。年央以降の想定レートは90円台に乗ってくるはずで、円安・株高・低金利を手に入れた輸出企業の本当の競争力が明らかになってくるだろう。6月以降の短観はそのままアベノミクスへの中間評定になりそうである。

<実質国民総所得(GNI)重視の意義>

要するに、今のところ円安の影響として確実に言えることは「円建て輸入物価の上昇とその国内物価への波及」というコストだけで、メリットである「契約通貨建て輸出物価の下落と輸出数量の拡大」については不透明である。

足元では不透明なメリットに賭ける格好で日経平均が上昇しているが、各種値上げ報道の例を出すまでもなく、前者による影響は確実に出始めている。冒頭述べたように、円安メリットについては期待主導の域を出ていないが、円安コストについては紛れもない現実として浮び上がっているのが実情である。

ちなみに、02―07年の「戦後最長の景気回復局面」では純輸出(輸出−輸入)で稼いだ分がほとんど交易損失(輸出価格よりも輸入価格の方が相対的に上昇した分)として相殺されたという経緯がある。同期間の純輸出額が約20兆円増えたのに対し、交易損失は約17兆円に達した。円安を背景に安値で輸出しても、高値で輸入していれば、国として所得が増える道理はない。

「戦後最長の景気回復局面」が「実感なき景気回復」と呼ばれた理由の一つはここにある。現在、第2次安倍政権下の経済財政諮問会議が「実質国民総所得(GNI)の持続的拡大」「10年以内GNI拡大目標値設定」と掲げているのも「同じ轍は踏まない」との思いが働いているからだろう。

GNIという物差しを使って、成長を測っていこうとする政府の動きはもっと広く喧伝されるべきで、有意義な動きかと思う。計算上、交易損失を拡大し続ける円安一本槍戦略ではGNIは拡大しないわけで(しなかったわけで)、雇用規制緩和などを筆頭とする「第3の矢」が経済に変革を迫ることを期待したい。

つまるところ、この世にゼロリスクの政策は存在しない。責任ある政策運営には、コストとリターン双方の分析が不可欠だ。「円安で得られるものもあれば、失うものもある」という円安コストへの正しい理解を浸透させなければ、また「実感なき景気回復」を繰り返してしまうだろう。

*唐鎌大輔氏は、みずほコーポレート銀行国際為替部のマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より現職。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位。


 


円安で輸入物価上昇は当たり前、対応必要ならその段階で考慮=財務相
2013年 04月 23日 10:30 JST
[東京 23日 ロイター] 麻生太郎財務相は23日朝の閣議後会見で、最近の円安で輸入物価が上昇していることについて「当たり前の現象」とした上で、今後影響が広がった際は対応を検討する考えを示した。

財務相は円安進行の結果として「その分だけ輸出はしやすくなる。両方いいことはない。輸入物価が上がるのはわかっていた話」とメリットも指摘。物価高と賃金上昇にずれが生じることも「わかっていた。別に驚くことはない」としながら、これまでの予算編成を通じて策定した対策で対応しつつ「その他さらにいろいなこと(影響)が出るのであれば、その段階でまた考えなければならないと思っている」と表明した。

外国為替市場で円相場は対ドルで1ドル99円台と、4年ぶりの100円乗せに接近している。

<財政健全化目標は国際公約>

22日の経済財政諮問会議で、民間議員が2020年の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)黒字化を重ねて求めたことに対しては「前々から決められていた話。前々からの国際公約でもある。目標に向かって(健全化)計画を年央をめどに出す」考えをあらためて示した。

<靖国参拝、外交に影響ない>

麻生氏が靖国神社へ参拝したことに、韓国などが反発を強めていることには「代議士になって行かなかった時はない。だいたい毎年2─3回行っている。いまさら言われる話ではない」としたうえで「特にそれによって、外交に影響が出ることはあまりないと思う」と話した。

韓国の聯合ニュースは22日、外務省当局者の話として、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は安倍晋三首相が靖国神社に供物を奉納するなどしたことを受け、日本訪問を中止したと伝えた。

(ロイターニュース 基太村真司:編集 宮崎大)

20年度PB黒字化に加え債務残高目標も重要と民間議員=諮問会議 2013年4月22日
財政健全化目標、補正予算で厳しくなったが13年度予算で一歩接近=麻生財務相 2013年4月9日
キプロス、17年以降GDP比4%の基礎的財政黒字達成の必要=覚書 2013年4月3日


 


 

ドル・円が98円台、米中の景気不透明感でリスク回避の円買い 

  4月23日(ブルームバーグ):東京外国為替市場では、円が対ドルで1ドル=98円台に上昇。米国や中国の景気に対する不透明感から、リスク回避の円買いが強まっている。
午後零時44分現在のドル・円は98円69銭前後。朝方は99円前半でもみ合っていたが、午前10時すぎに公表された英HSBCホールディングスとマークイット・エコノミクスによる中国の製造業統計が事前予想を下回ったことが確認されると、円買いが一気に強まった。円は一時98円59銭まで上昇した。
前日のニューヨーク時間でも、相場は米国の経済指標が予想を下回ったのを背景に一時99円割れを試す場面があったが、ドル買い・円売り圧力は根強く残り、東京時間の早朝にかけては99円前半を維持していた。
みずほコーポレート銀行国際為替部の加藤倫義参事役は、ドル・円について「投機筋が仕掛けてきたが、100円を抜けられなかったので元気がなくなっている」と指摘。中国のHSBC製造業PMIが予想を下回ったこともこの日の下落の一因だとした上で、「中国はそれほど景気が良くないので米国に回復してほしいところだが、米中の経済指標がともにさえず、リスクオフの円買いが入っている」と説明した。
4月のHSBC製造業PMI(速報値)は50.5と、事前予想の51.5を下回った。全米不動産業者協会(NAR)が22日に発表した3月の中古住宅販売件数 (季節調整済み、年換算、以下同じ)も前月比0.6%減の492万戸と、ブルームバーグ・ニュースがまとめたエコノミスト調査の予想中央値500万戸を下回るなど、米中の景気動向に不透明感が出ている。
利益確保
ウエストパック銀行の為替ストラテジスト、ジョナサン・キャベナー氏(シンガポール在勤)は、「マーケットはリスクオンにかなり傾いていて、円はそういった取引の調達通貨になっていた」と指摘した上でこの日の中国データの発表後のように、「そうした取引からの利益確保が出始めたのは驚きではない」と述べた。
市場関係者からは、過去半年間で20%近くも値下がりした円が一段と円安に進むことに否定的な見方も出ている。
日本生命保険 財務企画部の大関洋部長は22日に開いた2013年度運用計画の記者説明会で、「日銀の金融緩和政策が継続する中、欧州債務問題に対する懸念も徐々に落ち着き、過度な円高は回避されると想定」と述べた。その一方で、「日米欧での緩やかなペースでの景気回復を見込み、円安が急速に進むのではなく、円・ドルでは98円、ユーロ・円では127円のボックス圏相場」を予想するとした。
日本生命は13年度の運用計画で、国内の低金利傾向が続く場合は超長期国債などの残高増加を一時抑制する一方、その分をヘッジ付き外債、社債、貸し付けなど短期の投融資に振り向ける方針。生保の今年度の運用計画では、明治安田生命、住友生命なども今週、相次いで発表する予定だ。
記事に関する記者への問い合わせ先:東京 崎浜秀磨 ksakihama@bloomberg.net;東京 野沢茂樹 snozawa1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Rocky Swift rswift5@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/04/23 12:45 JST

 

日本生命:低金利継続なら超長期債抑制、円金利資産に7000億円 

  4月23日(ブルームバーグ): 日本生命保険 は2013年度の運用計画で、円金利資産に振り向ける約7000億円のうち、国内の低金利傾向が続く場合は超長期国債などの残高増加を一時抑制する方針だ。その分はヘッジ付き外債、社債、貸し付けなど短期の投融資に振り向ける。新規に増加する運用資金は1兆円を見込んでいる。
財務企画部の大関洋部長は22日の記者説明で国内債券の残高について「増やすとしても金利水準に応じて増加を抑制することは避けられないかもしれない」と述べた。社債など信用力に応じ金利が取れる資産については「スプレッド自体が絶対金利として大きな意味を持つ」とし、低金利下での有力な運用の選択肢として積極的に取り組む考えだ。
もっとも、将来的には、日銀の物価目標が達成されるならば、2年後には2%超への金利上昇が予想されるとし、「短期間の投融資で待機し、金利が上昇した際に再度、長い債券を買いに行く時間差で物事を考えることも必要」と述べた。
ヘッジ付き外債については、経済やマーケット状況を踏まえ、国内債券の比較優位性を注意深くモニタリングしながら取り組む方針だ。オープン外債は為替リスク量に留意しつつ、為替や金利水準に応じて機動的に為替リスクのコントロールを行う。
円相場は昨年9月末の1ドル=78円前後から約半年で1ドル=100円に迫る勢いで下落しており、大関氏は「すでにかなりいろいろなものを織り込んだ水準で、この水準からどんどんオープン外債を増やすかというより、押し目をみてやっていく」と述べた。為替相場の見通しについては、1ドル=93−103円のボックス圏と想定している。
昨年度、オープン外債圧縮
昨年度はヘッジ外債を2600億円積み増す一方、オープン外債は4200億円減らした。ただ、外国株式等を1900億円増やしており、大関氏は為替のリスクを取りに行っている部分もあると説明した。国内債は2兆1300億円の純増。安倍晋三内閣が誕生する可能性が高まった局面で、金利低下が進むと予想し、前倒しで投資した面があったと言う。
一方、今年度の内外株式の残高は横ばいから減少の見込み。国内株はポートフォリオの改善に向けて一定の銘柄入れ替えを実施する。外株については「より成長が見込めるのであれば、少し資産配分をシフトすることも考える」と述べた。一般貸し付けの残高は、横ばいから減少とし、不動産残高については横ばいとしている。

2013年度運用計画一覧
===============================================================
資産 国内株 国内債 外株 外債
残高 オープン ヘッジ
---------------------------------------------------------------
日生 横ばい 増加抑制 横ばい 金利・為替水準を勘案
〜減少 〜減少 しつつ配分を調整
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予想 10年国債 日経平均 米国10年債 NYダウ
---------------------------------------------------------------
日生 0.6 13500 N/A 15500
0.3-0.9 10500−15500 N/A 14000-17000
===============================================================
予想 円/ドル 円/ユーロ
---------------------------------------------------------------
日生 98 127
93-103 117-137
===============================================================
※表内の予想は上段が年度末中心値、下段が年度末見通し 
更新日時: 2013/04/23 12:02 JST


 

アベノミクスで増配長期化読む、配当指数先物の期先上昇が急 

  4月23日(ブルームバーグ):日本株市場で、将来の配当利回りの予想指標である日経平均・配当指数 先物の動きを見ると、期先物ほど高くなっている。安倍政権の経済政策「アベノミクス」によって企業収益が今後押し上げられ、中長期的に株主還元としての配当の増加が続くとみられているためだ。
日経配当指数先物の2013年12月限 は22日に215円50銭。同日の日経平均株価 終値1万3568円37銭に基づけば、市場が予想する13年の配当利回りは1.6%となる。
これに対し、14年12月限 は22日に241円、15年12月限 は243円、16年12月限 は243円50銭だ。いずれの限月も、10年7月の指数算出来の最高値圏にある。長らく期先ほど安い傾向にあったが、昨年11月中旬以降に急ピッチに期先が水準を切り上げ、同12月後半からことし1月にかけ、期近と期先の逆転現象が起きた。
損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントの中尾剛也シニア・インベストメントマネジャーは、「業績見通しに対する投資家の目線が切り上がっていることを反映している」と指摘。企業の配当性向は大きく変わらないため、配当水準は収益の変化に左右されるとし、期先物ほど高くなっている背景には「業績改善に連動する形で配当も増えるとの見込み」がある、とした。
ブルームバーグ・データによると、向こう12カ月間の日経平均採用銘柄の1株利益(EPS)成長率 は32%が見込まれている。米S&P500種株価指数採用銘柄の同EPS成長率は12%となっており、相対的に日本企業の方が増益モメンタム(勢い)は強い。
まずは5割増益予想
為替の円安進行がまず輸出企業の業績を上向かせ、やがて収益改善の流れは幅広い業種に波及するとし、日本企業の業績見通しについては楽観的な見方が増えている。大和証券投資戦略部の塩村賢史シニアストラテジストは、1ドル=100円、1ユーロ=130円を前提に大和210(集計対象とする日本の全産業の代表的な210社)ベースで、13年度の純利益を前期比52%増と予想する。
衆院解散の流れが決まった昨年11月14日には1ドル=80円、1ユーロ=100−102円前後だったが、今月11日に円は対ドルで一時99円95銭と4年ぶり、対ユーロでは131円12銭まで円安水準に振れた。
BNPパリバ・インベストメント・パートナーズの清川鉉徳運用本部長は、「日本株は為替動向と将来配当の相関が高い」と見ている。円高傾向の場合は、全体として期中で必ず企業業績の下方修正が起きる経験則があり、将来の配当予想は今よりも先の方が下がると指摘。現在のように、「円安方向で安定した段階になって初めて、先行きの配当見通しを示す配当指数先物は期先ほど上がっていく」と言う。
脱デフレなら内部留保の言い訳できず
また、日本企業のキャッシュが積み上がっている点も、株主還元策としての増配期待が強い一因となっている。ゴールドマン・サックス証券のチーフ日本株ストラテジスト、キャシー・松井氏は、日本がデフレから脱却するとの想定の下、「企業のマネジメントがもはやデフレを内部留保の言い訳に用いることができず、今後はより多くのキャッシュを分配する可能性が高い」と見方だ。同証によれば、12年末時点の東証1部上場企業(金融除く)の現金・現金同等物は73兆円だった。
こうした中、塩野義製薬 は22日、業績好調を受け、13年3月期の期末配当を従来の1株当たり20円から22円に変更すると発表。連結配当性向については、目標を35%から40%に引き上げた。先月14日には、日立製作所 が未定としていた13年3月期の期末配当を5円と計画、年間でも10円と前期実績比で2円増やす。しまむら、マネックスグループ、ヤフーなども前期に増配した。
日経配当指数は、日経平均構成銘柄をある年の1月から12月まで保有した場合、受取配当金が確定するごとに日経平均の水準に調整した上で積み上げて算出するもので、10年4月に算出が開始された。東京証券取引所での同先物は10年7月26日から取引が始まり、限月は12月限のみの8限月取引制。
現在は20年12月限までが東証に上場している。ブルームバーグ・データのよると、ことし3月29日に取引最終日を迎えた12年12月限は、207円80銭で確定した。取引単位は同指数に1000円を乗じたもの。 
更新日時: 2013/04/23 11:10 JST


 


中国:製造業活動の拡大ペース、4月に鈍化−成長失速懸念 

  4月23日(ブルームバーグ):中国の製造業活動の拡大ペースが4月に鈍化したことが23日発表の指標で示され、世界2位の同国経済の成長失速への懸念がさらに強まった。
英HSBCホールディングスとマークイット・エコノミクスが23日発表した4月の中国製造業購買担当者指数(PMI )速報値は50.5と、3月改定値(51.6)を下回った。ブルームバーグ・ニュースが調査したアナリスト11人の予想中央値は51.5だった。同指数は50を超えると製造業活動の拡大を示す。
15日に発表された中国の1−3月(第1四半期)の国内総生産(GDP)は前年同期比7.7%増加と市場予想を下回った。これを受けて、ゴールドマン・サックス・グループなど各金融機関は通年の成長見通しを引き下げた。中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は先週ワシントンで、1−3月期の成長減速は正常との見解を示し、10%を超える高い伸びが10年間続いた後、成長への期待が低下している状況が示された。
ソシエテ・ジェネラルの中国担当エコノミスト、姚偉氏(香港在勤)は「この指標は中国製造業の回復が引き続き極めて緩慢なペースにとどまっている様子を示す」と分析。「流動性の緩和が実体経済の成長を後押しするよう政府は促す必要がある」と指摘した。
中国当局者らは現在、輸出需要の低迷や不動産市場の過熱、いわゆるシャドーバンキングの急拡大に伴うリスク、浪費抑制キャンペーンによる消費の落ち込みといった問題に取り組んでおり、鳥インフルエンザの感染拡大と四川省地震への対応も迫られている。
中国株の指標である上海総合指数は現地時間午前10時24分(日本時間同11時24分)現在、1.5%安。
原題:China Manufacturing Grows at Slower Pace as RecoveryFalters (1)(抜粋) 
更新日時: 2013/04/23 12:44 JST


05. 2013年4月23日 15:58:49 : niiL5nr8dQ
死んでたまるか! 日本の電機
2013年、電機の最終的な浮沈が懸かっている
週刊東洋経済編集部:2013年4月22日

庄内平野の南部に位置する山形県鶴岡市。作家・藤沢周平が描く海坂藩のモデルにもなった自然豊かなこの街が、大きく揺れている。市内で雇用者数、生産額とも最大規模を占めるルネサス山形セミコンダクタ鶴岡工場の行方が定まらないからだ。

2010年にルネサステクノロジ(日立製作所と三菱電機の半導体合弁)とNECエレクトロニクスが統合されてできたルネサスエレクトロニクス。母体3社から引き継いだ国内工場の再編を決定したのは昨年7月のこと。3年以内に、国内に18ある製造拠点のうち10拠点を売却・閉鎖すると打ち出した。中でも目玉となったのが、子会社であるルネサス山形の主力工場だった。

だが、売却計画は難航している。一時報じられた世界最大のファウンドリー(半導体受託製造企業)・台湾TSMCとの交渉も進展する様子がない。売却できない場合の閉鎖を会社側は否定しているが、先端設備のみ売却するといった話も持ち上がっている。

「市としては雇用が守られるかどうかをいちばん心配している。ルネサスが安定して、現状(の子会社)が維持されるのがベスト。売却されるのは不安だが、買った企業が投資をして雇用が増えてくれればいい」(鶴岡市商工課)。

鶴岡工場の稼働率は低迷しているものの、地元企業との取引が少ないこともあって、連鎖倒産などは起こっていない。とはいえ、それでなくても厳しい地方経済へのマイナス影響は否めない。

ルネサスは昨年10月に希望退職を実施した。五千数百人の予定数に対して7400人以上が応募。従業員約1300人のルネサス山形でも300人以上が退職した。

これに対し、鶴岡市や山形県、鶴岡商工会議所などは協力して、ルネサス山形の退職者を雇用するよう地元企業に呼びかけた。一定の成果はあったが、全員の再雇用には程遠い。鶴岡市の有効求人倍率は11月以降、1倍を切ったままだ。

ルネサスは3月末にも追加で3000人規模の希望退職実施を発表しており、山形でもさらなる応募者が出る可能性がある。

鶴岡工場から程近くにあるハローワーク鶴岡。掲示板に張られた伝票の中に正社員求人は少ない。あってもサービス業がほとんどだ。

希望退職繰り返し 先が見えない

ルネサスはウエハサイズ300ミリメートルの最先端工場を二つ持つ。一つが日立系の那珂事業所(茨城)、もう一つがNEC系の鶴岡工場だ。

那珂事業所は、看板製品である車載マイコンの主力工場だ。東日本大震災で被災した際、トヨタ自動車をはじめとする日系自動車メーカーがヒト・モノを送り込み、短期間での操業再開を果たした。ルネサス救済のために、政府系ファンドの産業革新機構とトヨタなど民間8社が1500億円出資を決めたのも、那珂を外資ファンドに渡さないことが最大の目的だった。

一方の鶴岡は、ルネサスの赤字の元凶とされるシステムLSIを主力とする。ルネサスの日立主導が鮮明になる中で、一時は新規受注を止め、11年以降は海外企業を中心に売却先を模索してきた。

業界内には、鶴岡工場の技術を高く評価する声もある。「鶴岡工場が持つ技術が失われるのは日本の半導体産業の損失だ」と懸念するのは、ライバルだった日系半導体メーカーの元社長だ。

鶴岡が磨いてきた混載DRAM技術は、記憶回路であるDRAMとロジック回路という製造工程がまったく違う二つを1枚のウエハ上で実現できる。量産できているのは世界でもルネサスだけだ。

現在は任天堂のゲーム機向けが大半で、用途が広がっていない。だが、モバイルやデーターセンターなど低消費電力の需要が増える中、将来性に期待が持てる。

一時期、この技術を武器に鶴岡工場が出資を募り、独立する動きがあった。社外にもこれを支援する機運があった。ただ、資金や先行受注を集める社内勢力の動きが鈍いままで、実現可能性は低くなっている。

工場の先行きが見えないまま、繰り返される希望退職。「残った人間は頑張るだけ。ただ、モチベーションの維持が難しい人間がいることも確か」。鶴岡工場のある従業員は苦しい胸の内を吐露する。

降って湧いた円安 一息つくエルピーダ

死んだかに見えた工場が、息を吹き返している。DRAMメーカー・エルピーダメモリの広島工場が今、活況に沸いている。直径300ミリメートルウエハで月間12万枚の生産能力はフル稼働中だ。

牽引役は、スマートフォン向けのモバイルDRAM。搭載端末ごとに要求される仕様が違うため、付加価値をつけやすい。価格変動が激しいパソコン用の汎用DRAMと違い、モバイルDRAMの価格は安定しており、利益を確保しやすい。

エルピーダは昨年2月に会社更生法を申請。負債総額4480億円で、製造業としては過去最大の大型倒産となった。現在は会社更生手続き中で、同業の米マイクロン・テクノロジー傘下で再建を目指すことが正式決定している。

エルピーダはリーマンショック後、世界的にDRAM需要が冷え込んだ折にも倒産の危機に瀕している。このときは、日本にDRAM産業を残すという大義名分の下、産業活力再生特別措置法(産活法)による公的資金300億円が投じられて難を逃れた。

“日の丸DRAM”のまさに象徴が、この広島工場だった。しかし、円高と壊滅的な価格下落に見舞われ、エルピーダは台湾子会社の工場に生産シフトを進めていく。広島はモバイル用に特化するなど試行錯誤を続けたが焼け石に水。その存在価値に疑問を呈する声も上がった。

「この1年間で起きた為替変動の大きさは、一企業の努力ではカバーし切れない」。倒産会見で坂本幸雄社長はこう釈明した。当時は1ドル=80円を切り、厳しい国際競争を強いられていた。さらにパソコン用DRAMも、主力の2ギガビット品が1個1ドルを下回り採算割れが常態化していた。

円安で風向きは変わった

それからわずか1年後、風向きが変わった。1ドル=97円まで円安が進み、DRAM単価は1.74ドル(3月末時点)に上昇。広島で生産しても、十分に利益が出る。

米調査会社IHSグローバルの南川明・主席アナリストは、「DRAM需給は決してよくないが、価格が下がらない。局面が完全に変わった」と指摘する。マイクロンがエルピーダを買収することで、DRAMは世界3強体制に集約された。10年前には15社で繰り広げられていた過当競争も一段落したといえそうだ。

エルピーダのシェアは13.5%(12年末時点)で、経営破綻直後からほぼ横ばい。倒産から1年以上が過ぎたが、この間、人員削減などは一度も行われていない。買収側のマイクロンも、雇用を維持する意向を表明している。ただ、今回の復活は持続的なものというには、まだ頼りない状況だ。

兵庫県尼崎市。そびえ立つ三つの棟はまだ真新しい。プラズマ世界一を目指してパナソニックが第1(05年)、第2(07年)、第3(09年)と立て続けに竣工させたプラズマパネルの巨大工場である。

前々任の中村邦夫社長がプラズマへの巨額投資を決断したのは03年。次の大坪文雄社長も拡大路線を引継いだ。プラズマへの投資総額は5000億円を超える。

00年代半ばの時点で、プラズマ敗戦は確実とみられていた。液晶テレビの品質が格段に向上し、しかも安く造れるようになってきたからだ。

パナが迫られる プラズマの総括

結局、第3工場は稼働からわずか1年半で生産停止となる。「すぐに閉鎖すべきだ」。11年にAV機器部門を統括していた津賀一宏専務が、大坪社長らに対して直談判したのだ。このとき、中村、大坪の両氏は反対しなかったという。

現在は第2工場だけが生産を続ける。ほぼ全量が自社テレビ「ビエラ」向けで、50型以上など大型がメインとなっている。操業状況は意外にも悪くない。年末商戦向けの製品を造っていた昨秋の稼働率は8割、端境期の直近でも6割程度を維持しているもようだ。

ただ、その先行きは厳しい。プラズマテレビの売り上げは一貫して減り続け、パナソニックの11年度の売上高は前年比4割減の2838億円。12年度はここからさらに半減する見通しだ。

同じく不振が続く液晶パネルは、儲からないビエラ向けの生産を段階的に減らし、外販を増やすことで生き延びようとしている。昨年はアマゾンの電子書籍端末「キンドル・ファイア」向けの受注を獲得した。

プラズマも教育用の電子黒板などに活路を見いだしたいが、「高価格が嫌気されほとんど成約に至っていないようだ」(証券アナリスト)。

設備産業であるため、地元・尼崎での雇用はもともと多くない。ただ、サプライヤーには確実に影響が出ている。ガラス基板を納めていた日本電気硝子は、パナ尼崎の急激な生産調整を受け、12年3月期に設備の減損を余儀なくされた。

今年3月に行った中期経営計画の発表で、津賀社長はプラズマ撤退を明言しなかった。「利害関係者がいる。具体化する前に方向を明確にする必要はない」(津賀社長)。ただ、市場関係者は、「あとはタイミングの問題」という見方で一致する。

ここ数年続けてきたリストラの効果もあって、電機メーカー各社の業績は底を打ちつつある。株価も回復し、奇妙な安堵感も漂う。この先、ニッポンのエレクトロニクスは何を目指すのか。その答えは、しだいにはっきりとしてきた。

今号では電機各社の動きを紹介する。
http://toyokeizai.net/articles/print/13731



デジタル家電、国内出荷額は過去最低水準 薄型テレビの不振響く
SankeiBiz 4月23日(火)8時15分配信

デジタル家電の国内出荷額(写真:フジサンケイビジネスアイ)

 電子情報技術産業協会(JEITA)が22日発表した2012年度のデジタル家電の国内出荷額は前年度比42.5%減の1兆4794億円で2年連続で前年度を下回った。

【BDレコーダー】止まらぬ価格下落 テレビより深刻だった

 データが比較可能な1992年度以降では、過去最低の水準。薄型テレビを中心に伸びてきた日本の電機産業の深刻ぶりを浮き彫りにした格好だ。分野別では、薄型テレビなどの映像機器が56.7%減の7795億円。出荷台数でみると、薄型テレビは576万6000台で、6割超のマイナスとなった。サイズ別では29型以下が約7割減に落ち込み、特に小型タイプを中心に厳しい状況となっている。

 11年7月の地上デジタル放送への完全移行を前にテレビの需要が先食いされ、販売台数の減少や価格下落に歯止めがかからない状況が12年度も続いた。またラジオなどの音声機器は18.0%減の1195億円、カーナビなどの車載機器は8.3%減の5749億円だった。

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最終更新:4月23日(火)10時43分




ヤマダ電機、家電量販王者が国内外で苦戦クリップする
東洋経済オンライン 2013/4/22 19:15 山田 俊浩

ヤマダ電機、家電量販王者が国内外で苦戦
[拡大]
 家電量販店のガリバーとして君臨するヤマダ電機が、国内外で苦戦している。

 ヤマダ電機は4月22日、前年度(2013年3月期)業績見通しを下方修正した。売上高見通しこそ、従来の1兆7180億円から1兆7040億円(前期比7.2%減)へと小幅な減額にとどまったものの、本業の儲けを示す営業利益見通しは従来の573億円(同35%減)から330億円(同63%減)へと大幅に後退することとなった。

■ AV機器やパソコンが低迷、値引き競争も激しく

 減収減益幅が拡大した理由はテレビ、レコーダーなどのAV機器が想定よりも低迷したうえ、パソコンなど情報機器も伸び悩んだためだ。競合店との値引き競争も激しく、粗利益率を大幅に落とす結果になった。

 ヤマダは前年度、大量出店を推し進め、期初の時点では営業利益925億円(前期比4%増)と増益をもくろんでいた。ところが、想定外の家電不振により、昨年11月時点で営業利益見通しを573億円へと下方修正。決算が締まった後で、さらに下振れた格好だ。

 とはいうものの、苦戦はヤマダに限らず、国内の家電量販店業界全体に共通することで2位以下の落ち込みは、さらに大きい。ヤマダの減益幅は確かに大きいが、相対的にみると踏みとどまっているほうではある。

 ヤマダは同日、中国事業の見直しについても明らかにした。12年3月にオープンしたばかりの南京店について、サプライチェーン構築が思うように進まなかったことなどから5月末で閉鎖する。閉鎖後は他社との資本業務提携、店舗譲渡などを模索しているという。

 瀋陽店、天津店については営業を続ける。しかし、反日デモ以降、「積極出店」から「現状維持」へと切り替えた中国戦略を、今度は「見直し」へ切り替えたといえるだろう。南京店閉鎖に伴う損失は未定だが2013年3月期、もしくは14年3月期に在庫廃棄損等を含む一定の特別損失が見込まれる。

 (撮影:吉野 純治)
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最終更新日:2013/4/22 22:55



ヤマダ電機、エス・バイ・エルへの苛立ち
傘下の住宅メーカーへ経営関与を強めるワケ
武政 秀明,水落 隆博:2013年2月28日

家電量販業界の巨人、ヤマダ電機は昨年末、同業大手のベスト電器を傘下に取り込み、一段と規模を拡大した。そのヤマダが同業の買収に先駆けて進めてきたのが、異業種のM&A。代表例が大阪を地盤とする住宅メーカーのエス・バイ・エルである。

スマートハウスを強化

ヤマダはエス・バイ・エルを2011年に買収。山田昇会長の肝いりで、「スマートハウス」事業の強化を進めている。スマートハウスとは、太陽光発電システムや蓄電池などと、家電や住宅設備を組み合わせ、ITを使って家庭内のエネルギー消費を最適に制御する住宅のことだ。ヤマダは14年3月期にはグループで3000戸のスマートハウスを分譲することを目標としている。

ただ、その意気込みとは裏腹に、これまでの成果はイマイチ芳しくない。肝心のエス・バイ・エルの業績がパッとしないのだ。

エス・バイ・エルは今年度(13年2月期)の期初には売上高530億円(前期は変則決算のため単純比較できず)、営業利益12億円(同)を計画していたものの、今年1月時点で売上高413億円、営業赤字4.4億円へと下方修正。赤字転落する見通しになった。

ヤマダとのスマートハウス事業の提携効果を狙い、地区本部制の導入など組織体制を見直したが、狙い通りの機動力発揮となっていない。過去最大の規模で新卒社員を大量採用し、また賃貸へ本格参入するなど事業領域の拡大を図ったことで、先行投資負担が重くなり、前期に利益貢献した仮設住宅の剥落も響いた。

この事態に、ヤマダも黙っていられなくなったようだ。

エス・バイ・エルは1月、社名を「ヤマダ・エスバイエルホーム」に変更すると発表。さらに2月上旬には、積水ハウスグループを経て09年からエス・バイ・エル社長を務めてきた荒川俊治氏が退任し、後任に就くヤマダ取締役兼執行役員副社長の松田佳紀氏をはじめ、ヤマダ電機から非常勤も入れて計6人の役員・監査役を受け入れる人事など、経営陣の大幅刷新も打ち出した。いずれも5月28日に開催する予定の株主総会を経て実現する。

ヤマダはこの社名変更により、知名度の高いヤマダブランドを前面に打ち出すとともに、エス・バイ・エルの経営にも積極的に関与してスマートハウス事業における相乗効果の発現や、事業拡大を急ぐ姿勢を明確に打ち出したワケだ。

次なる収益柱が必要

「住宅や電気自動車、太陽光、蓄電池、家電までをトータルで提供するのは、究極の家電ビジネス」というのが、山田会長の方針である。ヤマダに限らず、国内の家電量販店業界は、エコポイント特需の剥落やパソコンの不振など逆風が吹く。ガリバーのヤマダは縮む市場での熾烈な競争にも勝ち残るだろうが、次なる一手も必要となる。

エス・バイ・エルへの経営関与を強めるのは、新しい収益柱への育成をもくろむスマートハウスを早く軌道に乗せるためだ。ヤマダは過去にもダイクマやマツヤデンキ、サトームセンなど、買収した企業へ積極的に経営関与して、あとかたもなくその中身を変えてきた。今回のエス・バイ・エルについても規定路線である。

ただし、買収した企業の人材であっても、能力に応じて平等に扱うのもヤマダ流。ヤマダ・エスバイエルホームの社長に就く松田氏は、マツヤデンキ出身だ。ヤマダの積極的な経営関与で、現エス・バイ・エルの企業風土は大きく変わる可能性がある。エス・バイ・エルで働く人材にとっては、サバイバルの幕開けである。



ソニー「中高年リストラ」の現場
「キャリアデザイン室」で何が行われているか?
岡田 広行:東洋経済 記者2013年3月25日

「東京キャリアデザイン室」が置かれているソニー旧本社ビル(撮影:今井康一)
東京・品川のソニー旧本社ビル──。現在、「御殿山テクノロジーセンター NSビル」と改称された8階建てのビルの最上階に、問題とされる部署はある。

「東京キャリアデザイン室」。かつて大賀典雄名誉会長が執務室を構え、役員室が置かれていた由緒正しきフロアは今、社内で「戦力外」とされた中高年の社員を集めてスキルアップや求職活動を行わせることを目的とした部署に衣替えしている。

Aさん(50代前半)も東京キャリアデザイン室への異動を命じられた一人だ。午前9時前に出勤すると、自身に割り当てられた席に着き、パソコンを起動させる。ここまでは普通の職場と変わりない。

違っているのが“仕事”の中身だ。会社から与えられた仕事はなく、やることを自分で決めなければならない。「スキルアップにつながるものであれば、何をやってもいい」(Aさん)とされているものの、多くの社員が取り組んでいるのは、市販のCD−ROMの教材を用いての英会話学習やパソコンソフトの習熟、ビジネス書を読むことだ。

Aさんも英会話に励んでいるが、「自分が置かれている境遇のことで頭がいっぱいになる。いくら勉強しても身にならない」と打ち明ける。

「隣の人との会話はなく、電話もかかってこない。まるで図書館のような静けさ。時々、孤立感や言いようのない焦燥感にさいなまれることがある」ともAさんは言う。

社内で「キャリア」と略して呼ばれる同室は、品川のほかに神奈川県厚木市の「ソニー厚木第二テクノロジーセンター」、宮城県多賀城市の「ソニー仙台テクノロジーセンター」内にも設けられている。関係者によれば、3カ所合計で250人前後が配属されているとされ、人数自体も増加傾向にあるという。

ノルマも残業もなく人事評価は最低レベル

ソニーは2012年3月期まで4期連続の最終赤字となっており、業績回復が急務だ。12年度にグループで1万人の人員を削減する計画で、昨年5月、9月、そして今年2月末を期限として「勤続10年以上かつ満40歳以上」の社員を対象に3度にわたり早期退職者の募集が行われた。

キャリアデザイン室が人員削減のための部署であることは、社員ならば誰もが知っている。この部署がほかと大きく異なる点は、配属された社員の人事評価が、多くの場合に「最低レベル」となり、在籍期間が長くなるほど、給与がダウンする仕組みになっていることだ。というのも、仕事の内容がソニーの業績に直接貢献するものではなく、他社への転職を含めて本人の「スキルアップ」を目的としているためだ。

同じくキャリアデザイン室に所属するBさん(40代)によれば、「ノルマや課題もなく、残業もない」という。「何をやっていてもいい」とはいうものの、「社外で英会話を学ぶ場合には自分で授業料を払わなければならず、近場での無料の講習会に参加する際に交通費が出る程度。社内の仕事を斡旋してくれることも皆無に等しく、自分で探し出さなければならない」(Bさん)。

しかし、大規模な人員削減が続く社内では新たな仕事を見つけることは困難で、必然的に転職のための活動を余儀なくされる。「上司」に当たる人事担当者とは1〜2週間に1度の個別面談があり、その際に「他社への就職活動はきちんとやっているか」などと説明を求められる。

もし社内に踏みとどまろうとすれば、誰でもできる単調な仕事しか与えられない。「仕事が見つからずにキャリアデザイン室に在籍して2年が過ぎると、子会社への異動を命じられ、そこでは紙文書のPDFファイル化など、ひたすら単純作業をやらされる」(ソニー関係者)。

キャリアデザイン室に送り込まれる前の段階であっても、早期退職の勧奨が熾烈さを増している。

ソニーから生産子会社に出向中のCさん(50代前半)も度重なる早期退職の勧奨を受けた一人だ。

Cさんへの退職勧奨は、昨年11月、部長による面談から始まった。

電子メールで呼び出しがあり、指定された会議室に入ると、上司から開口一番、次のように告げられた。

「来年も今の仕事を続けるのは厳しい。社内か社外で仕事を探してください。期限は13年3月末です」

そして3度目に当たる3週間後の面談で、「13年3月いっぱいであなたの仕事はなくなります」と言われた。

「今の仕事は本当になくなるのですか」と問い返すCさんに、上司は「ほかの人がやる」と返答。納得がいかなかったCさんがさらに尋ねると、「事業規模に見合った人数にするためです。近隣の事業所に異動先はないので、社内募集に手を挙げてください」と促された。

Cさんはやむなく社内募集のエントリーシートに必要事項を記入して提出したものの、12月末には「書類審査で通らなかった」との回答があった。年をまたいだ1月の5回目の面談では、「2月末が早期退職募集の期限だから、早く社内の仕事を見つけてください」と言われた。

だが、Cさんは仕事を見つけることができなかった。会社が指定した再就職支援会社の面接も受けたが、求人内容は年収が大幅にダウンするものばかりで、これまでの経験を生かすことができる仕事はなかった。

そうした中、6回目に当たる2月の面談で、前出の上司から来年度の事業計画での戦力外を通告される。そのうえで「身の振り方を決めていないのはあなただけです」と暗に退職を求められた。その翌日の人事担当者との面談でも「あなたに合う社内募集はない。2月末が早期退職の期限なので、急いで経歴書を作ってください」と催促された。

結局、会社にとどまることを希望して早期退職を拒否したCさんは、3月に入っても次の異動先が提示されないままだ。Cさんは「不安な日々が続いている」と言う。

縮小する一途のソニー 巧妙なリストラ話法

Dさん(50代前半)も昨年11月に上司から「あなたの仕事はなくなる。キャリアを生かせる場所をほかで探してほしい」と告げられた。

その後も上司との面談が続けられたが、今年1月の面談では「(辞めないのなら)下請け会社での清掃業務や九州など遠隔地の子会社への異動もありうる」との説明があった。

CさんやDさんは「退職を強要されている」と受け止めている。だが、ソニー広報センターは本誌に「退職強要の事実はない」と説明。少数組合のソニー労働組合が問題視しているキャリアデザイン室についても、「異動先が未定の社員が次のキャリアを速やかに見つけるための調整部署。(「追い出し部屋」との)指摘のような事実はない」としている。

CさんやDさんによれば、上司は「仕事がない」と繰り返す一方で、「辞めてください」とは決して言わないという。また、「早期退職という方法がある」と話すものの、「申し込んだらどうか、とも言わない」ともいう。Cさんが「退職を勧奨しているのですか」と聞いたところ、上司は「違います。あくまでキャリアについての面談です」と返答。それでもCさんは「退職を強く促されている」と感じている。

そして退職勧奨されている社員が最も恐れているのが、キャリアデザイン室への異動だ。Cさん、Dさんとも、「絶対に行きたくない」と口をそろえる。

Cさんは、面談を受けた再就職支援会社の担当者から、次のようにアドバイスされた。

「あそこ(=キャリアデザイン室)にいると働こうとする気持ちが失せてしまい、グループ外の企業に応募しても合格しなくなる。在籍するにしても、せいぜい半年にとどめておいたほうがいいと思います」

11年当時にキャリアデザイン室に在籍していた同僚からも、「何もしないというよどんだ空気が嫌だ。今回は退職勧奨を受けたので会社を辞める。あの部屋にだけは絶対に戻りたくない」という言葉を聞いた。

ソニーの生産子会社の期間社員として勤務した後、雇い止め撤回のための団体交渉で再就職となり、ソニーの孫会社の正社員となった3人の社員も、疎外感を抱いている。

3人は昨年7月に孫会社への就職が実現した。しかし、「キャリア育成グループ」に配属されて7カ月が経った現在も、「仕事ではほかの社員と区別され、朝のミーティングへの参加も認められていない」(3人の一人のEさん)という。

疎外感を抱く孫会社の社員たち

Eさんによれば、「担当する清掃業務に必要ない」という理由でパソコンは支給されていない。そのため、紙の勤務記録表に手書きで出退勤時間を書き込んでいる。

また、パソコンがないために社内のホームページを見ることができず、「監督者」としてソニー本社から派遣されている上司から情報を得るしかない。ところが、この上司がしばしば情報伝達を失念するために、締め切り直前まで健康診断や予防接種の連絡がなかったという。

3人の社員は今年2月、上司に処遇の是正を求めたが、上司は「仕事の内容が違うのだから、ミーティングをほかの社員と一緒にやる必要はない。パソコンも支給しない」との考えを変えなかった。

ソニー広報センターは「雇用確保のために外部委託していた仕事を取り込むことで採用したため、(孫会社の)事務職の社員とは職場環境が異なる。同社では首都圏でも直接雇用の清掃職が存在しているが、(3人と)就業条件には差がない」と説明している。3人が具体例を挙げて嫌がらせや差別を受けていると語っていることについては、「指摘のような事実は確認していない」と本誌に回答している。

労働法が専門の西谷敏・大阪市立大学名誉教授は、「嫌がらせの有無や程度にもよる」としたうえで、「退職勧奨やキャリアデザイン室への異動、孫会社での処遇が、嫌気が差して辞めるようにしむけることが目的であるならば、法的に許された域を超えてくる」と指摘する。

企業のメンタルヘルス問題に詳しい生越照幸弁護士は、「度重なる退職勧奨によって、社員本人が精神疾患を発症した場合、企業が労働契約法に基づく安全配慮義務違反を問われる可能性がある」と分析する。

企業のリストラ策にはさまざまな手法がある。中には、ある日突然、職場への出入りを禁止する「ロックアウト型」の解雇や本人に過大なノルマを課して辞めさせる手法など、ソニーのやり方をはるかにしのぐものもある。

ソニーだけでなく日本企業の多くが、中高年世代の余剰人員を抱えている。企業からすれば人員スリム化は理由のあることかもしれない。だが、企業業績の悪化→中高年への退職勧奨を続けるかぎり、ビジネスパーソンはつねに不安を抱えながら働くことになる。
http://toyokeizai.net/articles/print/13335

ソニーをダメにした、「派手な成功」狙い
【短期集中連載】冨山和彦氏に聞く(第2回)
山田 雄大,前野 裕香:2012年11月21日

日本航空(JAL)やカネボウ、ダイエーなど数多くの企業再生や経営改革に携わり、オムロンの社外取締役なども務める冨山和彦氏(=上写真=)のロングインタビュー。短期集中連載の第2回は、電機業界のヒエラルキー(序列)や旧電電ファミリーの病巣、経営者のあり方などに切り込む冨山氏の談話を掲載する。第1回目はこちら。

日本の電機業界には、アイデア商品は二流の会社が作るもので、テレビのような、大きくて大量にモノをつくるのが一流というヒエラルキーがあった。昔は組み立てメーカーが一番偉かったんですよ。それ以外の部品メーカー、部材メーカーは全部下請けという位置づけだった。

そういうヒエラルキーの幻想から脱却する必要がある。GEのジャック・ウェルチは30年前にその幻想から卒業した。

一流、二流の幻想と京都企業の価値観

東京や大阪の電機業界はそうしたヒエラルキーの序列があった。でも、京都だけは関係なかった。

京都では、「東京や大阪の一流電機メーカーの下請けに入れました」といっても誰も褒めてくれない。京都的には東京も大阪も都ではないから。やはり価値観がキモで、「イケている」とコミュニティの中で思われているのが大事だ。「ウチは今度でっかい注文を松下から取ってきたんだ」と言ったって「それがどうしたんだよ。何がうれしいんだ」と言われちゃう。

それはともかく、結局のところ、持続的な競争力がある事業体を作った人が一流なのであって、いかに稼げるかということに尽きる。だって、経済なんだから。だから、京都の企業は、汎用部品を売ろうと考える。あるいは最初から世界に売ろうと考える。

そもそも何が一流で、何が二流かというのは、典型的な開発経済の発想。開発経済段階では、鉄が国家をけん引するというのは正しい。だから、鉄に一流の人材がいくべき。その次に重工業になって、その次に組み立て産業になる。その順番で立ち上がらないと産業基盤が立ち上がらないのだから、開発経済の段階では序列があってもいい。

成熟経済になった途端、産業界の序列はナンセンスになる。日本では、経済なんとか連合会とかにそうした序列はまだ残っている。だから、日本国の経済はダメになっていく。アホじゃなかろうかと思うんだけど。

実際に世界の経済をけん引しているのは、少なくとも先進国においてはそうした古い序列で一流とされた産業ではない。

旧電電ファミリーという病巣

NECや富士通はこれまで述べてきた電器メーカーとしての問題に加えて、旧電電ファミリーという病巣も抱えている。電電公社が仕様を決めて、それに合わせてモノを作ってきたという問題だ。単なる下請け意識に加えて、特殊な国家独占資本のほうを向いてしまう、二重三重に内向きになる。

NTTグループが持つ要素技術は本当に半端じゃない。クアルコムに対抗できる位のW−CDMAの技術を持っていたわけだから。NTTやNTTドコモに引っ張られて、旧電電ファミリーも要素技術ではある瞬間、ユビキタスの世界で最先端に立っていた。瞬間だけど。アイフォーンが出てくるまではアップルだって敵じゃかった。

アップルがアイフォーンを出す前は、旧電電ファミリーや松下通信工業などは今のアップルのように大化けする可能性はあった。そのポテンシャルを考えたとき、「なぜかくもガラパゴスの罠にはまらなくちゃいけなかったのか?」という失望は大きい。

ただし、シャープなどに比べると、旧電電ファミリーはB2B(BtoB=企業向け取引)モデルだから安定している。

日本は通信会社が技術をリードしてきた世界の中でも特殊な産業形態。NTTがつくった世界の中に閉じ込められてしまう。ただ、見方を変えれば、その世界はお客さんとすり合っている世界。外の人が入ってきにくい世界が形成されている。エントリーバリア(参入障壁)が高い。

携帯端末機はもうギブアップしているが、交換機とかネットワーク系の商売は意外に堅い。

地味なB2Bにこそ活路

ならば、旧電電ファミリーの企業群は、顧客とのすり合わせを必要とするB2Bに商売の軸足を置いていけば、B2C(BtoC=消費者向け取引)のパワーゲームの世界で戦うよりも可能性はある。


エレクトロニクス産業を語るときに、B2Cで派手な成功を収めないとダメといった幻想がある。評論家の側に。ソニーもそこを期待されるでしょ。馬鹿だと思いますね、あの議論は。

もともとITの世界はB2BとB2Cが交錯する。交換機はB2Bだが、端末機はB2C。あと、コンピュータ、パソコンもB2Bの部分もあれば、B2Cの部分もあった。ある時期まではむしろB2Bの部分が大きかった。

それで旧電電ファミリーは技術ベースで成功したが、技術ベースで成功し続けられるほどビジネスは甘くない。やっぱりB2B型で出来上がった会社がB2Cで成功するのは非常にハードルが高い。

まさかパソコンや携帯端末がここまで官能性商材になるとは思わなかった。それはインターネットのなせる業なんだ。インターネットが出てくるまでは、パソコンも携帯端末もやはり機能材だった。それが完全に官能財になった。だから、スティーブ・ジョブズは復活できた。

日本のエレクトロニクスメーカーは渋く行くべきです。GEのモデルです。B2Cのようにみんなに知られている必要はない。渋いところで日本の社会基盤を支える。情報通信やITやコンピュータやエネルギーマネジメントといったところでB2Bベースの渋いビジネスをやっていればいい。地味でもそうしたビジネスのほうが堅い。

B2CビジネスはAKB48と大差ない

まず、B2Cはパワーゲームになってしまう。プラス、お客様の感性に振り回されるので、ボラティリティが高い。流行り廃り商売だから、極端に言ってAKB48と大差ない商売です。

家電売り場で、自分が使っているテレビがどこのメーカーかを考えずに新しいテレビを買う。これまでと違うメーカーのテレビを買っても不都合は感じない。スイッチングコストはかからない。バリアフリーになっていて、お客さんもそれを要求する。それがまさにソニーが苦しんでいる部分だ。

一方で、B2Bというのは機能を売っていくビジネス。B2Bの買い手は経済的な動物。最終的には機能と機能を経済価値に換算して製品やサービスを買う。そうすると感性に振り回されるリスクはまずない。かつ、B2Bの世界はスイッチングコストが高い。ベンダーを換えることに対するバリアを作れる。GEの飛行機用エンジンなんてスイッチングコストがまさに優位性なんだ。

あるベンダーの商材を使うことに対して、お客さんも投資をしちゃうので。スイッチに対するバリアも作りやすい。

オリンパスはまさにその典型例だ。だから、内視鏡ビジネスは結局揺るがなかった。お医者さんとめちゃくちゃすり合っているから。微妙な操作をするのに機械が変わったら一から勉強になるから、そんなにスイッチされない。

旧電電ファミリーというのはB2Bに集中していけば、はるかにゲームはやりやすいと思う。そのまま旧電電向けビジネスだけをやっていると先がないので、そこで世界で最も安全性が高く、最も安定している日本で出来上がった、システムとしてのノウハウを汎用化して、世界に横展開できるかという先ほどのすり合わせの議論と同じ課題が出てくる。

これは電力のビジネスでも同じことがいえる。本当に日本のグリッド技術が世界一なら、世界で売ることを考えるべきだ。グリッドは世界一だから発送電分離は嫌だとか言っているのではなく、もし本当に世界一だったらそれを買う人はいるはず。経済価値があるということだから。

日本の電機メーカーの手本はGE

くどいようだが、GEは日本のエレクトロニクスメーカーの手本になる。

GEがやっているのはガスタービン、白物家電、照明器具、航空機エンジン、医療機器。それであれだけの巨大企業になれる。なぜ医療機器ではGEやフィリップス、ジーメンスの天下になっているのか。医療機器は日本が得意なすり合わせの塊だ。メカトロや工作機械でこんなに強い国が医療機器で勝てないなんてことはあり得ない。ガスタービンだっていまだGEの後塵を拝している。

日本でも、すり合わせを標準化して展開して成功している企業はある。ファナック、コマツ、ダイキン、日本電産などがそうだ。彼らのようにそれぞれの立場でB2Bをもっと高度化、最適化できるはずだ。

経営改革のカギ一つが経営者であり、経営者の人の使い方ともいえる。経営者を支える一つ下のレイヤーの人材をどう使うかがカギとなる。


日本の場合、圧倒的な専制君主になれるのは創業者だけだ。創業者ではない人が中興の祖になるにはミドル層に軍団を作らないといけない。そうしないと日本の会社は回らないから。トップダウンでビジョナリーであることに加えて、中堅層を上手に使うことができるリーダーが必要だ。

トップダウンとボトムアップの二つの力を働かせないと日本の組織は動かない。上からだけ歯車を押そうとすると、下から抵抗する力が働く。すると、歯車が動かないか、下手をすると逆回転する。そうではなく、下からも歯車が回る方向にきちんと押すように裏側でオルグしておかないといけない。

「米国流CEO」は通用しない

日本の電機メーカーのトップが、「俺はアメリカ流のCEOだ」とわめいてみても組織は動かない。「こいつは何を言っているんだ」でおしまい。アメリカ流のCEOだと言ってみたところで周りがそう思わなければそうならない。

では、創業者ではない経営者が、改革を実行しようとしたら、ミドル層のコア、キーになっている人間を握らないといけない。トップが50代なら、40前後、場合によっては30歳代に紅衛兵とまでは言わないが、それに近いものを組織化しないといけない。大きく会社の形や組織の有り様を変えていくときには、意思決定=ディシジョンだけではできない。実行する段階が重要になる。

日本の現場は、現場にとって愉快なことを実行するときはおそらく世界最強だろう。これは震災後の復旧を見ればよくわかる。問題は、企業の構造改革は現場に不愉快なことをやってもらう必要がある。それはやはり簡単にはいかない。

現場に不愉快なことを「俺はアメリカ流のCEOなんだから、お前ら言うことを聞くべきだ」と言ってみたって「お前、昨日まで横にいた奴だろう。なんでお前の言うことを聞かなくちゃならないんだよ」と言われた瞬間に、改革はとん挫する。

社内昇進のトップではなく、社外から来た人であっても改革は難しい。一つ間違えると裸の王様になる。それで失敗しているケースもある。欧米でCEOといったら、そういうもので偉いとみんなが思っているからいい。だけど、日本のCEOというのは社長だとダサいからCEOと付けていますといったなんちゃってCEOなんだ。

上でギャーギャー言えば聞くほど、日本の企業も官僚機構も甘くない。あからさまに抵抗してきたら鎮圧できるからまだいいが、面従腹背されたらどうしようもない。「はいはいわかりました」と言われて牛歩戦術されたらどうしようもない。「障害がありまして、苦労して前に進んでいます」といった報告で時間稼ぎをしながら、腹の中では「どうせこいつは3〜4年でいなくなる」と思っている。

経営者は紅衛兵を持て

その中で、企業を変えていくというのが、まさに経営者の腕の見せ所でもある。執行役、部長、課長などそれぞれのレイヤーの中に紅衛兵のようなやつをオルグして、下放していかないと改革は起きない。

そうした日本の組織をよくわかっていたのがカルロス・ゴーン氏。彼は、部門横断のクロスファンクショナルチームを作って当時40歳前後の人間を抜擢して全部権限を移管した。日本の企業社会は、トップダウンでギャーギャー言ってもみんなに面従腹背されたらどうしようもないということを、彼は知っていた。

ゴーン改革って、トップダウンでバッサリやったことだと思っている人は多いが、それは誤解だ。彼はマイクロマネジメントではなく、マクロマネジメントの人。細かいことを言わず、マイクロは任せている。そうでなければ、みんなが抵抗運動をやってゴーン氏を追い出そうとなった。もちろん、系列とか切ったところもある。それは戦略ビジョンとしてあれは壊さないとどうしようもないというのがあったから。ただし、それは単にコスト論ではなく、自動車産業の構造論・産業組織論の戦略ビジョンとしてやっていた。

少なくとも稲盛和夫さんだってそれに近いことをJALでやっていた。ものすごいオルグをやってアメーバ経営の刷り込みからすごい時間をかけていた。そのシンパ代表が社長の植木義晴さん。そういう人たちを50代前後から40代まで作った。さすがに稲盛さんは企業経営のなんたるかを心得ている。

エレクトロニクス業界でも、そういうことができる経営者が出てきて欲しい。

(撮影:今井 康一)

※:インタビューの続きはこちら:JALの公的再生は失敗だ

JALの公的再生は失敗だ
【短期集中連載】冨山和彦氏に聞く(最終回)
山田 雄大,前野 裕香:2012年11月22日

日本航空(JAL)やカネボウ、ダイエーなど数多くの企業再生や経営改革に携わり、オムロンの社外取締役なども務める冨山和彦氏(=上写真=)のロングインタビュー最終回。冨山氏は再上場を果たしたJALの再建問題を振り返り、公的再生の問題点を指摘。「企業倒産は悪ではない」と主張する。第2回目はこちら。

JALが再上場したこと自体は正しい。国民負担を生まないことが大事だということと国が早く手を引くべきだということは間違っていない。だから、再上場を選んだ以上はできるだけ早く再上場したほうが良かった。

しかし、「そもそも論」まで遡ったときには違う議論になる。

国が民間企業を支援する場合、競争歪曲という問題がつきまとう。イグジットする際、この問題に対する解決策は2通りある。一つは市場経済的な解決。これは経営支配権を売却、オークションにかけることです。そうすれば開かれた競争入札で、競争相手も公的支援の果実を手に入れる機会が生まれる。もう一つはEU競争法のガイドライン的な解決。これは競争政策的な解決方法で、あくまでも経営支配権をオークションでかけないときに出てくる。

カネボウ再生は競争歪曲ではなかった

私がCOOを務めた産業再生機構では全部経営支配権をオークションにかけた。産業再生機構の経営陣はこの問題を非常に重要だと考えていたからだ。当初、カネボウのときは競争歪曲という批判があったが、結果的に花王が競り落とした。そうすると、その問題が消えてしまう。だから、産業界から文句は出なかった。

オークション、競争入札にかけるのは、価格の最大化を図る上での担保にもなる。経営支配権というのは通常はプレミアが付くので、普通に上場するよりも高値が付く。そのことはソフトバンクによるイー・アクセス買収でもわかる。なので、経営支配権の競争入札をしたほうが、再上場よりも高く売れる。

JALの管財人でもあった企業再生支援機構は、どういうワケかかなり早い段階で再上場によるイグジットという選択をしたようだ。が、その選択をした時点で競争歪曲の問題にどのような回答を用意するか、当時の経営陣は考えなくてはいけなかった。

企業再生支援機構がJALの支援を決めた段階で、競争歪曲の問題についてANA(全日本空輸)も、私も発言していた。そうした周囲の声に耳を貸さなかったということになる。だから、競争歪曲の問題について企業再生支援機構の責任は相当に重い。

ただし、競争歪曲という問題に関して、少なくともJALには責任はない。JALは法律上の制度を使っただけだから。一私企業に過ぎないJALが、競争の公平性や国民資産投入にかかわる透明性だとかには何ら責任を負っていない。やはり国の側というか企業再生支援機構なり、国交省側に問題があったと思う。自民党にあれだけワーワー言われるまで大した問題じゃないと思っていたとすれば、不作為責任は大きい。

JAL増資問題の本質

JALに関しては変な増資もやっている。あの増資は論外だ。(注:2011年3月に京セラなど8社に対して、1株2000円で127億円分の第三者割当増資が行われた件)

当時のJALは非上場なのでインサイダーとの批判は当たらないが、この増資が問題であることは間違いない。

この問題の本質は、あの増資が割安な価格で行われていたとしたら、その前に投じられた3500億円の国民の税金による資産が希薄化するということだ。

2010年11月の更生計画認可を受けて、12月に企業再生支援機構が第三者割当増資に応じる形で1株2000円で3500億円を入れている。更生計画の時点で11年3月期の営業利益予想は約640億円だった。しかし、問題の増資が行われた翌年3月段階では1600億円以上の営業利益が出ることがわかっていた(最終的には1884億円)。

この10年12月と翌年3月で株価の評価が同じということはあり得ない。利益は3倍になっているのだから、収益還元法で考えれば株価は3倍になっていておかしくない。まあ、3倍というのは極端ではあるが。

つまり、2回目の11年3月の第三者割当増資には有利発行の疑いがある。有利発行であれば、最初の3500億円を希薄化させることになる。3500億円は国民の税金から出ている以上、それは明らかに問題だ。

もし、同じ株価で増資をしなければならない理由があるなら、説明責任は当時の管財人にある。普通の会社更生法なら利害関係者だけだからこうした問題は生じない。しかし、今回は公的資金を入れているので1億2000万人の国民全員に対する説明責任を負っている。

産業再生機構では「あり得ない」

産業再生機構ではあり得ない判断です。11年3月に増資をする必要があったとしたら、その時点で、ブックビルディング方式で値段を付けさせます。


それが株価の計算方法を明らかにしていないし、引受先も明らかにしなかった。守秘義務だというが、国の機関である企業再生支援機構が税金を使っていることに対して、国民一般への説明責任という公益に勝る守秘義務とは何あるのか。

それができないとすると二通りしかない。引受先が異様に高く株を買っているから、彼らが株主に対して説明が付かないという事情。もしくは、異様に安いから世の中に批判されるからという事情。いずれにしろ守秘義務によって守るべき正統の利益ではない。

どんな契約でも、公益上の要請があればそちらが勝る。そんなのは当たり前のことだ。公的機関として、そのバランス感覚がなかったとしたら批判を受けるべきでしょう。

JALの再生について、競争歪曲の問題を放置したこと、不透明な増資をやったこと、それらによって政治問題になったということに関して、本件は公的再生としては失敗案件です。公的再生というのは、政治家がそこに口を挟むような世界を作ってはいけない。それをやった瞬間から公的再生は利権の巣になる。

上場益で儲かったからいいじゃないかという主張もあるが、会社更生法を使う段階で、日本政策投資銀行など公的金融機関も相当な引当てをしている。税金など国トータルで考えれば損失を取り返せていないはずです もちろん、二次破綻のリスクもあった中で追加負担を回避できたことは評価できる。

100満点では、追加負担を出さなかったということで50点だけど、公的再生の透明性や公平性で国民の疑義を生んだとすれば、残りの50点は0点です。公的再生としてはむしろ汚点を残した。

ただし、JALに対する批判は間違っている。責任があるのは、当時の企業再生支援機構の責任者です。

企業倒産は悪か

マクロ経済的な観点からすると、会社が潰れることはいいことで、何ら悪いことではない。日本の社会では、「企業倒産は悪である」とされているが、人間が死ぬのと同じように企業も死んだほうがいい。新陳代謝があるからシリコンバレーは隆盛を続けている。

日本長期信用銀行が潰れたことで、むしろ長銀出身にいた人が社外に出て活躍している。何か悪いことがありますか?

確かに弱い立場である現場の働き手は会社倒産で困る。でも、彼らは潰れなくてもリストラされてしまう。彼らをどう守るかという問題は、社会政策の問題であって経済政策の問題ではない。経済運営では潰れることは善なんです。

会社が潰れるのは、今ある会社の形なり、事業の形に対して競争市場が退場を命じているから。あるいはリシャッフルを命じている。資源を別のところに売りなさいよと命じている。赤字で債務超過ということは経済的には社会的存在がないということ。

新陳代謝の促進こそが大事

そのリシャッフルをどれだけ少ない社会コストでやるかという問題であって、潰れること自体に何ら問題はない。そのときに外資が買ったから技術流出だとか言う人も多いが、日本国の産業の基盤競争力にかかわるようなすばらしい技術を持った会社がなぜ潰れるのか。それよりは、新陳代謝を流していくのがよほど大事です。個別企業を救うことになんら美しさはない。

本来、潰れなきゃいけないような会社がゾンビな状態でいつまでも延命していて、そこに有用な人・モノ・ノウハウ、情報が閉じこめられたままじわじわ腐っていくことの方がよほど問題なんです。そういう会社はさっさと整理をして、あるものはやめる、必要なものは別の会社にひきとってもらう。だから、産業再生機構では原則として再上場という選択肢を取らなかった。


会社が潰れること自体は、企業社会という生態系における健康的な新陳代謝です。経済はまさにエコシステム、エコノミーだから。生態系ですべての生き物が死ななかったら大変なことになります。

私の世界観では企業の死はなんら悪いことではない。その中で別の会社がテイクオフするチャンスがあればしていけばいい。そこを変に政府が介入して妨げることをやってはいけない。

日本の経済停滞、デフレの大きな部分は新陳代謝が進まないことに原因がある。中小企業にものすごいカネをばらまいて淘汰を止めている。それで日本の雇用が増えたのかといったら増えていない。じわじわ減るだけです。むしろ所得は下がり続ける。実力以上の雇用を抱え込んでしまう。

本来淘汰されるものが生き残ってしまうわけだから。それでお互いに過当競争している。物価が下がる。賃金下がる。デフレ的な均衡が続くわけですよ。

新陳代謝を促すことによって、日本人の持っている抵抗力なり、創造力なり、反発力が生まれることを信じている。あの敗戦からもちゃんと復活している。少なくとも歴史を見る限り、信じないほうがよくわからない。少なくとも私は日本人の力を信じています。

(撮影:今井 康一)
http://toyokeizai.net/articles/print/11817


漁船20万隻、一斉休漁検討 円安で燃料高騰「対策を」
朝日新聞デジタル 4月23日(火)8時31分配信
 【古谷祐伸】円安で漁船の燃料費が上がっているため、全国漁業協同組合連合会(全漁連)が5月に全国の漁船約20万隻を一斉休漁しようと検討している。政府に燃料高騰の対策を求めるためだ。一斉休漁に踏み切れば、2008年7月以来約5年ぶり。休漁で漁獲量が減ると、魚の値段が上がるおそれもある。

 まず、全漁連に入る「全国いか釣漁業協議会」所属のイカ釣り漁船約3千隻が4月26、27日の2日間、一斉休漁する。夜間にイカをおびき寄せる照明に大量の燃料を使うため、燃料高騰の影響を受けやすいからだ。

 全漁連は同時に、政府や与党に燃料高騰で減った収入を補うよう支援を求める。政府が対応しない場合は、5月に全国の漁船約20万隻が一斉休漁する「ストライキ」に踏み切る。

朝日新聞社
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最終更新:4月23日(火)9時19分

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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130423-00000007-asahi-ind



黒田緩和が開けてしまった「パンドラの箱」
市場動向を読む(債券・金利)
森田 長太郎:バークレイズ証券 チーフストラテジスト2013年4月17日
4月4日に黒田東彦新総裁の下で、日本銀行が行った金融緩和の決定は、後世の多くの市場実務家、金融論や金融史の研究者たちによって何十年、あるいは百年といったスパンで語り継がれていくことになるだろう。

1930年代の世界恐慌を研究したFRB(米国連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長がリーマン危機後に行なった量的緩和が、歴史的な実験であると言われたが、今回の日銀の決定は、恐らくそれ以上の影響を後世に残すことになるのではないか?

歴史的な実験が微妙な均衡を崩した

そう考える理由は2つある。すなわち、

(1)世界史的に見ても類例のない巨額な公的債務を持つ国において、国債発行額の約7割を中央銀行が購入するという、その規模感。

(2)インフレを抑制するのではなく、デフレをインフレにするという、これもまた過去にない歴史的な実験の手段として、中央銀行による国債大量購入が行われること。

まず(1)の点について言えば、すでに日銀は白川総裁時代の金融緩和によって国債発行量の4割近くを購入しており、それが7割に増加したというだけで本質的な差異はない、という議論もありうる。しかし、今回の緩和を受けて、実際に日本国債の市場参加者がその規模の大きさに驚いてしまったことは否定し得ない事実である。

4日の政策発表後、10年国債金利は一時0.3%近くまで急低下した後、その2倍の0.6%強まで急騰した。そして、何よりも、今回の緩和の前後で生じた最も顕著な変化は、市場の乱高下の中で日本国債の「流動性」が著しく低下してしまったことである。

今回の日銀による緩和がもたらした「流動性」の低下によって、日本国債の市場の主たる投資家である、銀行や生保など大手の債券投資家は、自身が大量に保有している日本国債について、もはや市場で売りたい時に売ることのできる資産ではないかもしれない、との懸念を抱いてしまったのではないか。

もちろん、これまでも、大手の債券投資家が国債を一斉に市場で売却しようとすれば、流通市場にそれを吸収するだけの十分なキャパシティはなかったであろう。しかし、「財務省の国債管理政策」、「日銀の市場機能保持への配慮」、「国債を保有しやすい金融規制」など、様々な要素が複合的に生み出す「微妙な均衡」が日本国債の市場では成立しており、それが、債券投資家に大量の国債の保有を促してきた一つの理由でもあった。

今回の政策決定は、その「微妙な均衡」を崩してしまった可能性がある。たとえ日銀が発行量の7割を吸収しても、その背後には1000兆円の巨額な政府債務ストックがあり、その大半を国内債券投資家が保有しているのである。閉じていた「パンドラの箱」の蓋がほんの少し開けられ、中の光が漏れ出てくる状況が生まれてしまったのではないか。

2年で2%の非現実的な目標が流動性の低下を助長

上記(2)の点も、今回引き起こされた国債市場の「流動性」の低下を助長する要素の一つかもしれない。というのは、「2年でCPI(消費者物価)上昇率2%の物価安定目標を達成する」という非現実的な目標を掲げてしまったがゆえに、日銀が国債購入政策を継続する時間軸が、日本国債の市場においては極めて長く認識されてしまったのである。

元々2%程度だったインフレ率をそのまま2%水準にとどめておくことを目的にして行われた米国や英国のQE(量的緩和)とは、その点で本質的な相違がある。米国や英国のQEも中央銀行が大量の国債を市場から購入することには変らないが、どの程度の量をどの程度の期間購入し続けるのかという市場の期待は、経済ファンダメンタルズの違いによって、左右されうる。

しかし、日本の場合、その政策目標があまりにも非現実なものであるがゆえに、中央銀行の国債購入は一時的な政策措置にはとどまらないと市場では想定せざるを得なくなっているのである。それは同時に、「流動性」の低下が短期的なものではなく恒常的なものとなることを意味している。

こうした認識が債券投資家の間に定着していくことにより、日本国債のリスク・プロファイル自体が変質してしまい、それがまた投資家にとって日本国債をより保有しにくい資産に変化させ始めている可能性がある。

日本国債のリスク・プロファイルという観点においては、日本国債が国内の金融機関にとって有効な収益資産である限りにおいては、財政状況がいくら悪化していても、その投資需要が根本的に減退してくる事態は起こらない。しかし、リターンに対して明らかにリスクが上昇してしまったと市場で認識されてしまった場合、投資家の行動は変化する。

もちろん、今回の金融緩和のそもそもの意図は、国内金融機関が日本国債保有に固定化させている資金から株式・不動産・外貨建資産といったリスク性資産へのシフトを促すことにあるので、日本国債のリスク・プロファイルの悪化を目指しているのだということも一面の真実ではあろう。

いずれ日銀が政府債務全額を保有する、というイメージ

しかし、そういった政策を、市場に全く配慮なく推し進めていくことの最終的な帰結は、「日本の政府債務は、いずれ日銀が全額を保有することになる」という状況かもしれない。少なくとも、市場はそういうイメージをわずかに持ち始めている。

ここに、「財政ファイナンス」という概念における究極の問いが投げかけられる。すなわち、「たとえ市場からの購入であったとしても、日銀が国債発行の全額を保有してしまった場合、それは財政ファイナンスではないのか」という問いである。

この点については、実は昨年12月27日の当欄において言及をしている。そこで述べた結論は、「財政ファイナンスかそうでないかは、中央銀行の国債保有額によって決まるのではなく、中央銀行の国債購入政策が拡張的な財政政策を誘発するかどうかである」ということであった。

その考え方に基けば、今回採られた日銀の金融緩和によって日本国債の市場が「全面的な日銀依存」の構造を強めていったとしても、その事だけをもって「財政ファイナンス」であるとまでは言えない。

とはいえ、そのような究極の姿が具現化した場合、1000兆円の政府債務を全額日銀が保有し、膨れ上がった日銀のバランスシートの負債側に民間金融機関の膨大な超過準備保有が存在するという極めて異常な金融構造が出現することになる。

為替市場の急落がインフレーションを招く未来像

その時点で起こっている状況は、「政府の財政拡張」に対する市場の懸念や感応度が極端に過敏になっている状況であろう。GDP比でわずか0.1%の財政赤字の変動であっても、市場は今とは比較にならない大きな反応を示すことになるだろう。しかも、それはすでに実質的に存在しなくなった日本国債市場ではなく、為替など他市場において、その反応が全て示されることになるだろう。為替市場の急落が結果的にインフレーションを招く可能性は、現在よりも遥かに高まっているはずである。

これは、現時点においては一つの空想的なシナリオである。しかし、中央銀行の政府債務に対する関わり方は、そういった空想、連想を市場にもたらし得るという一点において、極めて慎重に取り扱われるべきものである。今回の日銀の措置は、どうやらその点についてあまりにも配慮に欠けたものであったようだ。

今後、日銀は市場安定化を図り、投資家のパニックも鎮まって、 「パンドラの箱」の蓋は、短期的には一回は閉じられることにはなるのかもしれない。しかし、一度「パンドラの箱」の中から漏れ出した光は、日本国債市場の参加者の眼には今後も焼きついて離れることはないであろう。一回は閉じられたとしても、二回目に蓋の隙間が開いた時には、もはやその光を封じ込めることは難しくなるのかもしれない。
http://toyokeizai.net/articles/print/13675


06. 2013年4月23日 16:14:00 : niiL5nr8dQ
第8回 「2%物価上昇」実現に潜む消費増税の落とし穴
2013年04月23日

 2%の物価上昇を目指している政府・日銀ですが、実際には金融緩和策ではなく、消費増税で2%インフレが2014年度にも実現され、15年度には3.5〜4%に達し、想定外の混乱が広がるおそれもあります。2014、15年の消費増税がもたらす経済への撹乱効果です。

消費者物価を政府・日銀と民間調査機関はどう見ているか
 2%の物価目標に対して、官民のエコノミストはどのような予想をしているのでしょうか。

 まず、政府試算では、2012年度(実績見込み)はGDPデフレーターがマイナス0.7%、消費者物価指数がマイナス0.1%となっています。続いて、2013年度にはGDPデフレーターがプラス0.2%、消費者物価指数がプラス0.5%と、デフレ脱却の兆候が見えるとしています。

 2%の目標実現に大車輪の黒田日銀は、近々発表の「展望リポート」で異次元緩和の展開に対応して本年1月時点の展望を修正します。そこでは消費者物価上昇率を13年度0.8%前後、14年度1.5%前後、15年春に2%と見通すものと見られます。しかし、消費増税を見込むと、14年度は3.5%前後となりそうです。この類推でいえば、15年度は4.5〜5%に達しかねません。

 一方、民間予測はどうでしょうか。日本総合研究所の試算では、13年度はGDPデフレーターがマイナス0.1%、消費者物価指数がプラス0.1%と厳しい数字です。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの試算では、13年度はGDPデフレーターがマイナス0.4%、消費者物価指数がプラス0.6%です。

 しかし、14年度は、日本総研の試算はGDPデフレーターがプラス1.5%、消費者物価指数がプラス2.7%です。三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、GDPデフレーターがプラス1.2%、消費者物価指数がプラス2.2%と、いずれもデフレ脱却をほぼ果たしているかに見えます。

 これら民間見通しは日銀の異次元緩和の発表以前のものですから、早晩、民間予測も修正され、おそらく消費増税込みで14年度に3%台前半、そして15年度に4.5%前後となるのではないでしょうか。

Next:物価上昇は消費増税の影響を除くと黒田発言

細かな違いはありますが、官民のどちらの予想も、15年度には消費増税抜きの実質ベースで2%の物価目標が達成できると考える点では大差はないでしょう。これだけを見ると、「2%の物価目標が達成できるのだから、結構なことじゃないか」と思われるかもしれません。

 ところが、3月28日の参院財政金融委員会で、日銀の黒田総裁はこう述べているのです。

 「14年に予定されている消費税の引き上げと物価安定目標の関係について問われ、『(物価安定の目標は)一時的、短期的な物価上昇の影響を前提にしているのではない』と語り、消費税引き上げによる消費者物価押し上げの影響を除いた水準をみるべきだとの考えを示した」(3月28日付日本経済新聞より)

 そこで黒田総裁は、消費増税の影響を除いた上で、2%のインフレを何としても15年春には実現すべきとしているわけですから、14年度に消費増税込みで3.5%前後の消費者物価上昇率をさらに上昇させるべく、マネー大投入に拍車をかけることになります。なぜならば、14年度では消費増税抜きの実質インフレ率は1.5%前後(日銀見通し)と2%を下回る水準と考えるためです。つまり、さらに0.5%を上乗せさせねばということです。

 しかし、すでに現在、日銀は過去最高水準に達する約140兆円にのぼる大量マネーを供給していますが、物価はなかなか上昇していません。今後さらにマネーを供給し2倍の270兆円に膨らませるとしていますが、それをしたところで、どれだけの効果があるかは疑問です。

 否、逆に前代未聞の過剰マネーで金融市場などに「異常現象」が生じかねません。この点に関連してA.ブラインダー元FRB副議長はこう指摘しています。「日銀がマネタリーベースを2年で倍増する目標は私はとらない。デフレ脱却にどの程度の資金供給が必要かわからないからだ。大事なのは物価であり、資金量の目標は混乱を招く面がある」(日経電子版 4月18日付)

Next:金融市場だけが異例の活況を呈す

さて、14年度には消費増税によって物価は3%台に上がるけれども、黒田日銀はこれは消費増税込みで、実質ベースのインフレは2%以下だからとみて、一段と現金供給の拡張に踏み込むでしょう。

 ここで黒田総裁、岩田副総裁など金融リフレ派の真価が問われ始めます。金融リフレ派は「デフレは貨幣現象だ」というマネタリズム原理主義の信奉者ですが、「異常なマネー供給」が企業や家計の経済活動にいかなるインパクトを持つかは、ブラインダーの指摘のように、実質的にはむろん、理論的にも未知の世界なのです。

 普通は、マネーが供給されると、それによって設備投資をして、企業が元気になれば賃金も上がり、需要が増えるので物価が上がると考えられています。

 この論法に基づきながら、現代リフレ派は非伝統的な量的緩和策で市場や人々の「インフレ期待」を高め、その結果、実質金利(名目金利−期待インフレ率)を低下させ、現金保有意欲を引き下げれば、設備投資と消費が拡大し、デフレ脱却が実現されると強調してはばかりません。

 しかし、ケインズの貨幣理論では、お金というものが設備投資や消費といった実体取引に使われるだけでなく、金融投資に使われるという点に着目します。経済の先行きが不透明な時には消費や設備投資にお金は回りません。また、今のような低金利では貯蓄をしても意味がない。そこで、株式や債券、投信さらに不動産や外貨などといったところへとお金が殺到していくというわけです。

 つまり、日銀マネーがモノの購買や設備活動に向かわないで、金融市場に集中的に流れてしまうため、株価や地価などは上がるが、実体経済は付いてこないということになってしまいます。賃金が上がらずに金融市場だけが活況を呈すると、ますますそこでお金を稼ごうとして金融投資さらに投機が異常なまでに活発になります。

 アベノミクス以降の株式市場の盛り上がりを見ていても、同じものを感じます。持続的な賃上げに期待できない個人投資家が、自分でお金を運用しなければとの焦燥感にとらわれ始めつつあることです。実体経済の活況化ではなく、金融経済だけの盛況は奇妙かつ異様な光景なのです。

Next:ミセス・ワタナベの「エクソダス」が起きている...

 そんな中、「ミセス・ワタナベ」が気になる動きを見せています。ミセス・ワタナベというのは目ざとい日本の個人投資家の総称です。

 そのミセス・ワタナベが外債投資を積極的に行うようになっているのです。背景には円安があります。たとえばドル建て債を買うことで、円安が進めば進むほど円換算のリターンが増えていきます。

 言ってみれば、ミセス・ワタナベの「日本脱出(エクソダス)」が起きている。そして、このエクソダスが、円安に今後さらに拍車をかけるという現象が起こるのです。

 さらなる円安を期待して外債投資(FXを含む)が増えると、外貨が買い進まれますから円安が進行します。そうするとさらに円安への期待が膨らんで、外債投資へとお金がどんどん回っていく。円安が円安を呼び、外債投資が外債投資を呼ぶスパイラル現象が広がるのです。

 このように、日銀の過度な金融緩和策は、過剰な金融投資を生むだけで、実体経済にはプラスにならない可能性があります。結局、国民を株式や債券のリスクにさらすことになりかねない。この点によく注意しなくてはなりません。

 では金融市場が盛り上がる一方で、実体経済にはどのような光景が繰り広げられてくるでしょうか。

Next:2014年度は消費税引き上げでマイナス成長

 14年度の実質成長率の見通しについて本年1月時点の「展望リポート」で日銀はプラス0.8%前後(13年度はプラス2.3%)としています。一方、日本総研は14年度についてマイナス0.8%と日銀と対照的な見通しを発表しています。

 いずれも、14年4月の消費増税(5%から8%)で物価が上がるのに、賃金がなかなか伸びないため、消費が減ってしまうからですが、そのインパクトが日銀と日本総研とは大きく異なるわけです。

 1997年の消費増税の時は、それまで0.3%だった物価上昇率が7倍の2.1%に上がりました。しかし賃金は伸びなかったため、消費が落ちて、マイナス成長となり、98年からデフレ(マイナスの消費者物価上昇率)に陥っていしまったのです。つまり、賃金が上がるかどうかで、消費増税の負のGDP効果をどこまで抑えられるかの評価が分かれるのです。

 私自身は、14年度には、名目GDP成長率プラス1.5%、GDPデフレーターがプラス2.0%、消費者物価指数がプラス1.3%となり、実質GDP成長率自体はマイナス0.5%になってしまうと見ています。

 日本総研も私も、14年度について「実質成長率のマイナス化(各々マイナス0.8%、マイナス0.5%)と消費者物価上昇率(各々プラス2.7%、プラス1.3%)」と見ていますが、このことは物価高の景気停滞、すなわちスタグフレーションが頭をもたげてくることを意味します。

Next:2015年度の消費者物価上昇率は4%台半ばか

ここで多くの人はこう考えるかもしれません。14年度は3%の消費増税もあるし、異次元緩和の効果発現も道半ばで多くは期待できないが、15年度になればインフレ率(消費増税抜きの実質ベース)は2%目標が達成されるし、円安での輸出増や設備投資拡大、さらに資産効果による消費増大などから、日本経済は脱デフレおよび成長軌道回帰が見えてくるのではないかと。

 こうした「グッドシナリオ」はむろん、実現可能性があります。このグッドシナリオ実現には国内設備投資の復活と賃上げの広がりが大前提になります。ところが、実はここに政府・日銀そして多くの人に見落とされている「消費増税の罠」が控えているのです。これが14年のスタグ化が1年に止まらず、15年以降の日本経済の光景を「バッドシナリオ」に落としかねないからです。

 それは何故でしょうか。「消費の落ち込み」と「国内設備投資の伸び悩み」です。まず、前者からです。2%インフレ達成で、実質金利は低下するにもかかわらず、金融リフレ派が強調するように、経済拡大の効果が期待通りにいかない可能性があるからです。

 15年にインフレ率は実質ベースで2%が実現しても、既述のように消費増税込みでは4.5%前後に達しかねず、97年の消費増税を超える「負の効果」が家計消費にもたらされる公算が大きいからです。

 14年以降に賃上げが年率2〜3%で進めば、賃上げ → 消費拡大 → 設備投資増加 → 成長促進の善循環過程が具現化します。しかし、ここ2〜3年で企業の賃上げ力が復元するとはとても考えにくいのです。

Next:先行きに「不確実性の靄」がかかる

今回の家計消費に対する「消費増税の罠」は97年時と異なって、異次元緩和のもとでの陥穽だけに、その負の効果はなかなか事前に想定しにくいところにも、脱デフレを目指すアベノミクス下の経済見通しを不確実性にさらします。

 異次元緩和で株高ラリーや円安など資産効果そして収益効果が発現する一方、都合5%の消費増税ですから、これらの正と負の効果が錯綜する点は前回の消費増税時と状況を全く異にします。リフレ派はむろん、正の効果を強調します。しかし、消費者物価上昇率を実質ベースの1.5〜2%でとらえるか、消費増税込みの4.5%前後ととらえるかで、経済状況や市場の異変への評価は異なります。

 つまり、非リフレ派や常識論でみれば、たとえ明白な負の効果がないとしても、先行きについて「不確実性の靄(もや)」がかかることだけは確実に予想できます。この不確実性こそが後者の「企業投資の伸び悩み」に陰に陽に作用するのです。

 ここでプラスのアベノミクス効果についても認識しておかねばなりません。円安と株高、さらに一部不動産の底入れなどが企業収益の大幅な改善を引き起こし、企業心理が好転、経営者が展望を開くべく、未来指向型経営刷新に動き出すからです。

 安倍首相の賃上げ要請に一時金や定昇で前向きに応じる企業も今春目立ちました。いいことです。そして、事業構造の立て直しにやっと前向きになる経営者も増えてきました。政府・日銀は国際的な制約から公言は憚かれますが、企業心理に与える「円安」効果は絶大ですし、株高など資産効果は一段と大きくなりつつあります。

Next:企業投資は国内よりも海外を一段と選好

 ところが、ここ20年の長い停滞と世界の市場環境の激変を知った日本の経営者は、円安や株高のメリットを受けつつ、企業投資について三つの基本方向を打ち出しつつあります。結論を先にいえば、国内での設備投資については相変わらず慎重姿勢を崩していないことです。

 その最大の理由は異次元緩和と消費増税さらに財政リスクなどに伴う「市場の不確実性」の靄の広がりです。一つは不確実性が強まるもとで企業は新規の国内設備投資について依然様子見をしています。しかし、株ラリー、円安化、地価の底入れなどを見て、余裕資金を金融投資、いわゆる財テクに向ける企業も目立ち始めています。これが二つめです。

 そして三つめが今後一段と大きくなる動きの事業転換投資です。これは企業全体の事業ポートフォリオを世界の市場環境に対応すべく、再編していくという競争力戦略の立て直しです。

 すでにトヨタ自動車はハイブランド車「レクサス」の米国生産(2015年夏からケンタッキー工場)を決定、また中国での同ブランドの生産も検討中です。また、三菱自動車は主力の水島製作所の縮小を軸に国内生産を2割減らし、事業集約化と効率化に動き出しています。川崎重工と三井造船の統合化の動きも、新日鉄・住金の統合や日立・三菱重工の提携など、このところ目立つ日本の重工業産業の再編がアベノミクス下でやっと本格化する機運が芽生えてきたととらえることができます。

 だからといって、これらの事業構造の刷新が国内設備投資の増大につながるのはなお、かなり先になりそうです。事業刷新といっても、人口減圧力のもとで大手製造業が国内市場の縮小化への根本的対策にやっと真剣に乗り出してきたもので、新しい設備投資にしてもトヨタに象徴されるように、国内よりも基本的に海外に比重を移す動きが一段と大きくなるからです。

 すでにサービス業や中小製造業は国内投資から海外直接投資に投資先の転換を大きく進めてきています。この問題は「空洞化」、いいかえれば日本産業の「エクソダス」として真っ正面から取り組むべきものですが、残念ながらアベノミクスでは放置されたままになっています。

 ともあれ、アベノミクスで市場が大きく動き出したことは一方で、不確実性を高めつつありますが、他方で経営者に刷新の機会を与えつつある効果を持つことも否定できません。問題は消費増税の悪影響次第では、国内市場の一段の縮小化を見て日本企業がますます「バスに乗り遅れるな」とばかりに、やみくもな海外直接投資とリスクの多い財テクに走らないかどうか、注視することが不可欠です。

齋藤 精一郎(さいとう・せいいちろう)
NTTデータ経営研究所 所長、千葉商科大学大学院名誉教授
社会経済学者、エコノミスト

 1963年東京大学経済学部卒。63〜71年まで日本銀行勤務。72〜05年まで立教大学社会学部教授(経済原論、日本経済論担当)。05年〜09年まで千葉商科大学大学院教授。
 2012年まで24年間、「ワールドビジネスサテライト」(WBS、テレビ東京系)のコメンテーターを務める。
 主要著作は、近著に『デフレ突破 −第3次産業革命に挑む−』(日本経済新聞出版社、2012年12月)、『「10年不況」脱却のシナリオ』(集英社新書)、『パワーレス・エコノミー 2010年代「憂鬱の靄」とその先の「光」』(日本経済新聞出版社)など。翻訳書としてはジョン・F・ガルブレイスの『不確実性の時代』(講談社学術文庫)など。

第7回 「異次元金融緩和策」の限界とリスクを考える
2013年04月11日

 黒田東彦総裁の就任後、日銀の新体制で初めての金融決定会合が4月3、4日に開かれ、世界に、サプライズを超えてショック効果を与える「異次元緩和策」が決定されました。

問われる金融緩和策の真の効果
 「トラックで現金をばらまく以外何でもあり」(4月5日付の英フィナンシャル・タイムズ紙)と指摘される黒田日銀の大実験は想定通り、成果をあげられるでしょうか。

 米国の量的緩和の実験を含め、その限界とリスクを考えてみたいと思います。

 黒田新総裁は記者会見などで「量的・質的に大胆な緩和」を強調しています。違う言葉で言えば、物価上昇率2%を2年間で達成するまでは、いくらでも、何でも、いつまでも金融緩和を続けるということです。

 オールド日銀からニュー日銀への「レジームチェンジ(体制転換)」に対する世間の期待も高まっています。マーケットも、乱高下はあるものの、基本的には円安・株高の「黒田トレード」を続けていくでしょう。

 投資家心理だけでなく、賃上げ、高額消費や資金需要などの動きに見られるように、企業家心理、消費者心理も上向き始めています。

 しかし、ここで問題になるのが金融緩和策の真の効果です。金融緩和策は、原理的には三つの経路を通して効果が発揮されます。

Next:長期国債の大量買い入れで長期金利を下げる

 一つは金利低下です。金利はずいぶん下がっているじゃないかと思われるかもしれませんが、黒田日銀では長期金利を引き下げることに主眼を置いています。

 これまでは日銀は残存期間が3年以内の国債を買っていましたが、平均残存期間は7年と、かなり延ばし、対象も40年債まで広げることになります。長期国債を大量に期限を設けずに買う体制を築くことで、長期金利を下げていくわけです。

 最近、長期金利は一番安い時で0.525%くらいでした。それが黒田日銀において、長期金利は一時0.315%と過去最低となっています(4月5日)。

 私自身は、0.2〜0.1%にまで下がる可能性もあると考えています。長期金利が限りなくゼロに近づいていくことになります。後述しますが、「異次元緩和策」のもとでは、インフレ目標を高々と掲げますから、期待インフレ率も次第に上昇してきます。このとき、日銀の大量の国債買入にもかかわらず、名目の長期金利は上昇に転じる可能性があり、これが国債暴落の「国債リスク」を浮上させかねません。

 ところで、長期金利の低下による効果はどういったものがあるのでしょうか。一見、長期金利なんてわれわれの生活に直接関係ないと思われがちですが、長期金利は住宅金利と連動しています。また、企業の設備投資資金にも関係します。

 そういう意味で、黒田日銀下における“ウルトラ低金利”によって、資金需要が増えていくことが期待されています。家を買う人が増えたり、設備投資をする企業が増える。つまり、実需が動き、需給ギャップが埋まり、脱デフレが軌道に乗ってくるというわけです。

Next:黒田日銀のホンネは「円安」「資産効果」を通じた需要拡大効果
 二つめの経路は、円安です。

 低金利下では当然、円を持っている投資家が低い利回りの円預金や円投資を嫌います。日本と海外との金利差も開きますから、円を売って外貨を買ったり、外債などの外貨資産を買う動きが強まります。最近のFX(外国為替証拠金取引)や外貨建て投信の盛り上がりは驚くべきものがあります。

 一方、いわゆる円キャリートレードも増えるでしょう。低金利の円で資金を借りて、そのお金を外貨に転換して使う行動で、円売りで円安が進みます。

 いずれにしろ、金利低下が続きますから、円安が進行、1ドル=100円台はおろか、110〜120円台に向う勢いがあります。政府・日銀としては、金融緩和の目的が円安だとは公言できませんが、ホンネはこの円安という“派生効果”を期待しています。円安が進めば当然のことながら、輸出企業の収益アップにつながり、企業活動が活発化してくるというわけですね。

 三つめは、資産効果です。

 日銀のマネー供給というのは、銀行や機関投資家、事業会社が持っている国債などを日銀が買うことで、市中に現金を供給するということです。今回の「異次元緩和策」で世界が度肝を抜かれたのは、日銀が現金供給(マネタリーベース=民間銀行の日銀当座預金+流通現金)を2年間で倍増し、現在の米国FRB(連邦準備理事会)並みの規模(約270兆円)にすると公約したことです。これがどういった影響をもたらすかを考えてみます。

 たとえば、金融資産に占める現金の割合が30%だったものが、日銀のマネー供給によって50%に上昇したとしましょう。現金は利子を生みませんから、普通はそれを設備投資などの実物投資に回します。ここで期待インフレ率が高まってくれば、現預金から消費や投資へとマネーの流れが一段と大きくなります。

 しかし、経済の先行きが不透明だと、別の高利回りの証券あるいは不動産などの投資へと回されます。アベノミクス下では、それがまず株式へと向かいました。さらに海外市場に比べて日本の株式市場は低迷していましたから、割安感から一気に買われるようになりました。

 株式以外にも、土地などの資産が買われるようになっており、地価も下げ止まる動きが見られるようになります。今後もしばらくは株式や外貨建て資産に過剰マネーが向かい、それら資産価格が上昇を続けていきそうです。日経平均株価が今夏に1万5000〜1万7000円近くに迫ってもおかしくありません。これほどダブダブの現金が日銀から供給されるのですから、企業も家計も資産市場にマネーを大量に注ぎ込むのです。

 これが資産効果で、株高や不動産価格上昇などで「豊かになった」と考える企業や家計が投資・消費を拡大させるように動くと期待されます。

Next:長期金利の低下で実需を本当に刺激できるか

 以上が、金融緩和策の効果が発揮される三つの原理的な経路です。しかし、ここまで述べたのはあくまでも原理的に起こりうる話であり、実際には、これら三つの経路は限定性ないしは不安定性を持っているということに注意しなくてはなりません。

 また今般の黒田日銀の大胆な実験は原理的な経路を上回る効果を持ちます。「異次元」とか「量的・質的」と形容されるように、史上初の大現金供給ですから、市場の「期待」が大きく膨らみ、円レートが円安化にオーバーシュートしたり、リスク資産(株、不動産など)の価格が急上昇したりするからです。

 さて、まずは金利低下ですが、仮に長期金利が0.2%前後とゼロに向かって低くなったとしても、下がり幅というのはわずかです。金融市場、とくに債券市場はわずかな金利変動でも乱高下しますが、家計や企業の行動(消費や設備投資)に対する影響は非常に限定的なものとなります。

 家計が住宅を購入したり、企業が事業拡大やM&A(企業の合併・買収)をやるためには、お金を借りる必要があります。しかし、長期金利がわずかに下がったくらいでは、それほど強い効果は期待できないというのが現実ですし、これまでの経験です。

 また、経済の先行きが不透明なままでは、どんなに美味しいエサを目の前にぶらさげても、本人は走り出しません。将来の雇用問題や賃金水準が見通せなければ、金利がゼロに近くなっても、インフレ期待で実質金利が低下したところで、住宅投資とか設備投資という大きな支出はなかなか動かないでしょう。「投資の利子弾力性が小さい」という経済学理論上の制約です。

 バブル崩壊以降、20年近く行われてきた日本の金融緩和の流れを見ていると、金利を下げるだけでは実需刺激には力不足なのです。だから、量的緩和策や「異次元緩和策」はインフレ期待を煽るように大々的な現金供給を行い、実質金利(名目金利−インフレ率)を低下させ、消費や投資の増大を図ることを強調するのです。ですから、黒田日銀の新金融緩和策はインフレ率2%に強くこだわるわけです。

 次回にも触れますが、消費増税と円安加速で期待インフレ率は今後上昇していきます。ただ、このとき名目金利も上昇を始めます。これが金融市場を不安定化させるとともに物価上昇(インフレ率上昇)は雇用・賃金が増えない限り、消費を抑制するように作用します。

 これらを考えますと、「異次元緩和」は、しばらくは市場の大変化(円安や株高など)で効果が目にみえ、期待も膨れ上がりますが、時間の経過とともに市場の不安定化や実体経済回復の弱さが見えてきますと、期待がしぼんでいく可能性があります。

Next:円安による業績改善、資産効果はともに長続きししない

 続いて、円安についてですが、確かに円が安くなれば直ちに輸出企業の業績は改善されます。ただ、それで本当に輸出企業の競争力が高まるか、そして収益アップがいつまで続くかというと、疑問が残ります。

 円安により価格面で優位に立ったからといって、米アップルや韓国サムスン電子のスマートフォンの代わりに日本企業のスマホが世界で売れるようになるでしょうか。そんなことはありません。やはり、価格よりも性能やデザイン、さらに品質こそが問題の核心なのです。

 さらに言えば、いくら円安(例えば1ドル=120円)が進行したところで、賃金上昇の著しい中国などを別にすれば、多くの東南アジアや中南米諸国の賃金の安さをここ当分の間は埋めることはできません。彼らは日本の賃金の10分の1、15分の1で働いているからです。

 また、円安によって一服した日本企業が、競争力の低い既存事業への設備投資の増加を続けるという誤った経営判断を下してしまう可能性もあります。その結果、液晶パネルに過剰投資をして経営不振に陥ったシャープのような悲劇やパナソニックのプラズマテレビの事業縮小化などのさびしい話がまた繰り返されるかもしれません。円安の結果、日本企業が現状に甘んじてしまえば、かえって中長期的な日本の競争力にとってはマイナスになってしまいます。

 つまり、円安というのは、見えない形で日本企業のイノベーションを阻害する危険性をはらんでいるのです。既存事業を見直し、新しい製品開発に力を注ぐという姿勢をくじき、イノベーションを遅らせてしまう(詳しくは「『3本の矢』の死角」をご参照ください)。その意味で、円安に対する過大評価は慎まなければならないでしょう。

 そして三つめの資産効果ですが、黒田総裁は資産効果を念頭に置きながら、記者会見でも「株価に期待している。私は市場の期待に働きかける」ということを言っています。確かに、資産価格が上昇すれば、企業収益が改善されたり、家計の消費意欲が高まったりする効果が期待されます。

 しかし、資産効果はいつまでも続くものではありません。なぜなら、株価などはずっと一直線上に上昇を続けるものではないからです。株式、投信、不動産などはリスク資産だからです。またユーロ危機や中国経済の屈折、さらに北朝鮮問題といった外的要因も影響します。あくまでも激変の21世紀世界にあっては資産効果は不安定なものなのです。

 ですから、そうした不安定なものに基づいた資産効果を信じ切って、国の基本的舵取りをするのは得策とも賢明とも言えません。資産効果はあくまで限定的なものだということを肝に銘じておくべきでしょう。

Next:金融緩和だけの単発型リフレ策では実体経済は回復しない

 ここまで見てきたように、金融緩和策にはある程度の効果が見込め、景気には明らかにプラスです。ただ同時に、大胆かつ意表を突く「異次元緩和策」には限定性と不安定性がある。そこで、財政出動によって実体経済を刺激する必要が出てきます。

 アベノミクスが市場から支持されたのも、金融緩和策だけではなく、財政出動がセットになっているからです。いわゆるリフレーション(景気浮揚)政策は、金融と財政が両輪となっていることにこそ、実体的効果があります。

 ここで懸念されるのが、多額の累積国家債務を抱える日本では、財政出動は今年度に限定されるということです。そのため、金融と財政による双発型リフレ策を続けることができず、来年以降は金融だけの単発型リフレ策になってしまうことが避けられません。経済学者の中にはもともとリフレ策とは金融緩和の単発型だと主張する人もいますが、米国の大恐慌脱出も日本の高橋リフレ策も背後に財政拡張があったことを忘れてはなりません。

 とにかく、金融、すなわち日銀にだけ経済政策の責任を押しつけるというのはおかしな話です。単発型リフレ策では、そのうちにどうしても限界にぶち当たってしまいます。たとえ、「異次元緩和策」を全開させ、現金の大供給をしたところで一時的にはともかく、基本的には実体経済の復元につながらない、金融世界だけの「饗宴」に終わってしまうからです。

 その点で考えてみたいのが、米国の金融緩和策です。一般的に米国の金融緩和策は成功してきたと言われていますし、黒田総裁も米国を模範とし、それを超える「異次元緩和策」を志向しています。

 米国は、2008年12月にFRBが量的緩和策(QE)を始めました。それ以来、形を変えながらも現在まで量的緩和策を続けています。それによって、金融システムの安定化、バランスシートの調整(過大債務の減少)を4年余り進めてきました。

 また、住宅価格の押し上げにも成功しています。リーマンショック以降、米国の住宅価格は急落しましたが、2011年には住宅価格が底を打っているのです。一方、日本の住宅価格は、バブル崩壊以降、現在に到るまでまだ底を打っていません。

Next:「2年で物価上昇率を2%以上」は実現可能か

日米の違いはどこにあるのでしょうか。それは、対応の早さと大胆さです。

 米国は2008年9月にリーマンショックが起きると、同じ年の12月にはもう量的緩和策を大々的に始めています。その結果、金融面では絶大な効果を発揮したと言えます。

 ところが、問題は実体経済でした。リーマンショック後の米国の失業率は、最大で10.1%にまで悪化しましたが、現在も7.6%という水準で高止まっています。2013年3月の米国の雇用者数増加は前月比8万8000人と10万人を割り込み、金融政策の雇用拡大効果が弱いとの「厳しい現実」を改めて浮き彫りにしています。バーナンキFRB議長が目安と考えている失業率6.5%を達成するには、早くても2015年になると予想されています。

 結局、金融危機が起きてから米国の実体経済が正常に戻るには、7年以上の長い月日が必要になります。実体経済に対する金融緩和策の効果は、きわめて緩慢なものにとどまるというわけです。

 しかし、金融拡張は円安とか株高など市場に「効果」がすぐに目にみえて表れるものですから、日本の政府をはじめ企業も人々も「金融大緩和は効能抜群!」と誤認してしまうのです。

 金融超緩和策には金融システム正常化効果が確実にあると断定できても、実体経済効果はあくまでも限定的なのです。この点で金融超緩和策は、せいぜい実体経済が回復するまでの「時間稼ぎ」にとどまると言った方がいいかもしれません。

 このように、成功したと言われている米国の金融緩和策であっても、単発型リフレ策の限界を乗り越えることができない。この事実を看過してはいけません。まして、米国は日本に比べ、人口増、シェールガス革命、州や都市の地域主権制、イノベーション・マインドなど実体経済を復元させるポテンシャルが大であるにもかかわらず、金融大緩和の実体経済効果は遅々としているのです。米国も財政問題を抱えていますから、単発型リフレ策を採るしかありません。

 以上の米国の状況を考えると、同じく単発型リフレ策を採っている日本において、黒田総裁が言うような「2年で物価上昇率を2%にして景気を回復させる」という見通しは、「危うい」ものがあると考えざるを得ません。

 何が何でも2年間にインフレ2%達成を担うわけですから、過剰現金が「異次元」ならぬ「異常」に出回り、実体景気の緩慢な動きのもとで過度の円安化(オーバーシュート)が進み、消費増税が重なってインフレ圧力が組み込まれ、名目金利が反騰に転じる可能性が大きいのです。このリスクが2014年には現実化しかねません。

Next:「国債」「スタグフレーション」「空洞化」の三つのリスク

 以上のことから、黒田日銀の金融政策には、ここしばらくは大いなる「円安と株高」で期待は大きく膨らみますが、その底流には危うさがつきまとっていると言えます。それは次の三つのリスクに代表されます。

 一つは「国債リスク」です。以前にも書いたように、国債はほとんどを日本人が保有(92%前後)しており、日本人の貯蓄率は高く、経常収支もプラスを維持しているから国債暴落のリスクはない、大丈夫だとの「前提」が強固ですが、実は水面下でこの「大前提」は崩れつつあるのです。家計貯蓄率は低下傾向にあるし、貿易赤字が常態化しているからです。だから、国債リスクが「何か」をきっかけに浮上してもおかしくないのです。円安、インフレを促す「異次元緩和」が名目金利の反転上昇という形で、「大前提」を突き、国債リスクを顕現させかねないからです。

 もう一つは「スタグフレーション・リスク」です。仮にこのまま物価が上昇したとしても、賃金が十分に上がらなければ、消費は冷え込んでいきます。まして、消費増税を考えれば、消費減少ショックを過小評価できません。インフレ下での不況、いわゆるスタグフレーションに陥る可能性が考えられるのです。

 最後は「空洞化リスク」あるいは「停滞化リスク」です。金融緩和策に頼りっぱなしで日本の競争力強化がないがしろにされれば、日本企業はますます海外に移転してしまうでしょう。日本人労働者も、国内を見限って海外で働くようになるかもしれません。

 現在、政府・日銀が進めている政策は、物価さえ上げればすべてが解決するかのような幻想を抱いているようにも見えます。しかし、いくら物価が上がっても、競争優位力が復元し、賃金が増えて雇用が増えなければ、経済はうまく回っていかないのです。

 そうした本質的なところに抜本的な「改革の斧」を振り下ろさないまま、目先の「過剰現金」に踊っていると、かえって日本の「停滞リスク」が増すことになります。単発型リフレ策に過度に依存し、日銀だけが突出して動いているような現在の状況に、もう少し危機感を持った方がいいのではないでしょうか。

齋藤 精一郎(さいとう・せいいちろう)
NTTデータ経営研究所 所長、千葉商科大学大学院名誉教授
社会経済学者、エコノミスト

 1963年東京大学経済学部卒。63〜71年まで日本銀行勤務。72〜05年まで立教大学社会学部教授(経済原論、日本経済論担当)。05年〜09年まで千葉商科大学大学院教授。
 2012年まで24年間、「ワールドビジネスサテライト」(WBS、テレビ東京系)のコメンテーターを務める。
 主要著作は、近著に『デフレ突破 −第3次産業革命に挑む−』(日本経済新聞出版社、2012年12月)、『「10年不況」脱却のシナリオ』(集英社新書)、『パワーレス・エコノミー 2010年代「憂鬱の靄」とその先の「光」』(日本経済新聞出版社)など。翻訳書としてはジョン・F・ガルブレイスの『不確実性の時代』(講談社学術文庫)など。
http://www.nikkeibp.co.jp/article/tk/20130411/347240/?ST=jousyo&P=8


バックナンバー
第7回 「異次元金融緩和策」の限界とリスクを考える(2013年04月11日)
第6回 黒田日銀で脱デフレは本当に可能か(2013年03月22日)
第5回 「海外直接投資立国」が日本再生のもう一つのカギ(2013年03月14日)
第4回 21世紀型製造業の希求こそが日本復活のカギを握る(2013年02月28日)
第3回 「3本の矢」の死角―旧態依然の事業構造の温存と政府の過剰なお節介(2013年02月20日)
第2回 日本が長期デフレに陥っている本当の原因は何か(2013年01月28日)
第1回 なりふり構わぬ財政出動が加わり、現状は完全に「期待相場」(2013年01月22日)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/tk/20130422/348461/?ST=jousyo&P=8


 


「知識社会」で定説と違うことを習得する意味

2013年04月23日 

 今回、海外出張後の多忙のために、すっかり締め切りを忘れてしまっていた。

 こんなことでは、いつクビになってもおかしくはない。サバイバルのための思考法を書いていて、サバイバルできないのでは格好がつかない。

締め切りとクオリティ、どちらを優先すべきか?
 ただ、サバイバルの方法論としては、締め切りをきちんと守るだけでは十分ではない。私の知り合いの小説家や脚本家には有名な遅筆の人がいるが、書くものが素晴らしいので、結局、生き延びている。

 私自身は、まだそのレベルに達しているとは思っていないので、締め切りに遅れることは論外なのだが、締め切りに遅れても生き延びられるくらい面白く、読者に支持されるような原稿を書きたいとは常日頃思っている。著者の評価を決めるのは、やはり内容だからだ。

 読者の方にも、締め切りとクオリティでどちらを優先させないといけないかを悩む人は少なくないだろう。

 一般的には、締め切りである(だから、悪いと思ってこうやって懺悔をしている)。

 本人がクオリティにこだわるばかりに締め切りに遅れると、その仕事がストップしてしまう。多少クオリティで妥協しても、締め切りに間に合うように提出していれば、上司や同僚のほうで、ある程度、修正を加えることで、それなりのクオリティにまでもっていけるし、業務に遅れは生じない。

Next:情報を集め、知識化していくことの方法論を考える.

 ただ一方で、いつもクオリティで妥協していると、少なくとも周囲から目立った人間にはなれない。勝負だと思った時には、可能な限りの情報やアドバイスを集めて、許される範囲で(これを超えるのは絶対にダメである)、多少締め切りに遅れても(遅れないに越したことはないが)、クリーンヒット的な企画などを出しておきたい。

 今回に関しては、私のミスであるが、単行本の執筆などのときは、締め切りに遅れても、いいものを書こうとすることはある。

 私自身は文体とか、文章に凝るほうではないので、通常は、より広い範囲から情報を集めことに力を注ぐ。

 締め切りの遅れへの言い訳を含め、前置きが長くなったが、今回は、情報を集め、それを知識化していくことの方法論と意味を考えてみたい。

 ドラッカーブームがあったせいか、人によっては耳にタコができるかもしれないが、「知識社会」という言葉が現代社会を表すキーワードとなりつつある。

 20世紀の末くらいから、この言葉が盛んに使われ、1999年のドイツのケルンで行われたサミットでも、知識社会に対応するために、「ケルン憲章――生涯学習の目的と希望」というものが採択されている。

Next:「知識社会」は「情報化社会」へのアンチテーゼ...

 ドラッカーが意味した知識社会というのは、知識が重要な生産手段とか、意味のある資源になる社会のことである。要するに、工業製品とか地下資源の価値などが落ちて、知識によって生み出されるような製品のほうがはるかにお金を生む社会ということだ。

 私は、知識社会というのは、それ以前に使われ、最近はあまり使われなくなった「情報化社会」という言葉へのアンチテーゼなのではないかとも考えている。

 情報化社会というのは、情報に価値がある社会ということであるし、また情報の量も飛躍的に増える社会でもある。

 地方などでは、民放テレビが2局くらいしか見られなかったのが、CSや有線が利用できるようになると、一気に100チャンネルくらい見られるようになり、リアルタイムでCNNやBBCといった海外の放送局の番組も見られるようになった。いろいろな分野で専門雑誌も創刊された。

 さらに、高度情報化社会といわれるIT社会になると、情報を好きな時間に(CSや有線では、やはり決まった時間に決まった番組であることに変わりない)、受身でなく能動的に取りに行けるようになったし、情報の量も飛躍的に増えた。世界中の情報に原則的にアクセスが可能になった。

 PCが小型化し、さらにワイヤレス化が進むと、PCを持ち歩いていれば、どこでも情報が取れるようになった。

Next:逆に頭のいい人と悪い人の差が大きくなった

すると、勉強なんかしなくていいのではないかという夢が生まれる。

 確かに単語を覚えなくても、すぐに意味を調べられる。日本語の新しい言葉でも、ちょっと難しい概念でもインターネット上のWikipediaなどが教えてくれる。漢字を知らなくても、たいてい書ける。計算機にもなる。

 ところが、情報を誰でも、いくらでも取れるようになると、逆に頭のいい人と、悪い人の差がよけいに大きくなった。

 たとえば、医学情報がいくらでも取れるようになっても、医学的な知識がないと、それを読んでも理解は困難だろう。経済情報や国際情勢の情報についても同じことだ。

 私は、よく受験をたとえ話に出す。

 慶応の文学部などは辞書の持ち込みが可なのだが、そのかわり結構な長文が出される。

 辞書が持ち込み可能だからと言って、単語をろくに覚えていない受験生が受験すると、辞書をものすごい回数引かないといけないので、時間がいくらあっても足りない。ところが、単語をしっかり覚えている受験生であれば、たとえば、3つしか知らない単語がなければ、3つとも辞書を引くことができれば、90点のはずが満点になる。

 要するに辞書を持ち込み可にすると、できない受験生は、よけいに時間が足りなくなるし、できる受験生はより満点に近付くことになる。

 数学だって、計算機持ち込みにしても、解き方がわからない受験生にはお手上げだが、解ける受験生にとっては、計算のミスが減るうえに、スピードが速くなるのでよけいに満点に近付く。

Next:知識を加工してアイデアにすることに価値がある...

 昔は人より情報源が多い人間が重宝されたが、インターネットの時代には、頭にある知識のほうがより重要性が増してくるのだ。

 ここであらためて、伝えておきたいのは、情報というのは原則的に頭の外にある。ところが知識というのは、情報が頭の中に入って、思考の材料などに使えるようになった状態をいう。勉強をしている人間のほうが、やはり知識社会では有利なのである。

 ところで、情報が頭の中に入るのが知識ということだから、記憶力がいい人のほうが知識社会では有利のように思われがちだが、実は、ただ単に知識が多いことより、それが思考の材料になるかどうかのほうが、重要だと考えられている。

 単なる物知りであれば、いくらでもネットが使える環境では、それに勝てない。

 でも、その知識を加工して、ネットを検索しただけでは出てこないようなアイデアにできれば、ものすごく価値があるのが知識社会である。

 今のテレビでは、知識をひけらかすだけのようなクイズに強い芸能人が頭のいいように思われているが、これはきわめて前時代的な頭のよさである。クイズで勝てるくらいの知識をもっているのなら、それをうまく加工して、たとえば面白い漫才ができるような人のほうが本当は頭がいい。

Next:いろいろな考え方があることを知るのが勉強

 そのために、私は知識の幅が広いほうがいいと考えている。

 自分の知っているようなことをおさらいしたり、あるいは、それについてちょっと知識が増えたりしたところで、ユニークなアイデアは出てこない。

 ところが、自分の知っていることへの異論、暴論のような情報を得ると、それで思考の幅も広がってくる。

 勉強をすれば真理を知りえるように思っている人が多いが、今の学問というのは、経済学にせよ、医学にせよ、心理学にせよ、仮説に過ぎない。将来、いつ覆されるかわからない。

 私がアメリカに精神分析を勉強するために留学した際に、ものすごい量の本や文献を読まされた。いろいろな学者がいろいろな学説を立てていて、当初は頭が混乱したが、最終的な結論としては、「フロイトであれ、ユングであれ、誰が正解とか、真理ということはなくて、人の心については、いろいろな見方がある」ということだった。だから、目の前にいる患者さんについて、その人にいちばん合った理論で治療していこうという気になった。

 そういう点では、一つの理論に凝り固まった治療者より、いろいろな理論や治療法を知っている治療者のほうが、心の治療だってうまくいく可能性が高い。

 勉強というのは、一つの真理を知るためではなく、いろいろな考え方があることを知るためにするものだというのが、今の私の信念だ。

Next:定説と違う情報を取り入れ、知識化することが大切


 要するに知識が多い人のほうが、ほかの可能性も考えられるし、即断したり、ある理論にだまされたりすることも少ない。

 将棋の名人のような人は、打てる手のパターンが多いから、強いとされる。

 私があえて、世間から見て異論、暴論と思われるようなことを言うように努めているのは、もちろん、自分の思考の訓練ということもあるのだが、ほかの人があまり言っていないことを言うことで、読む側の思考のパターンを広げてほしいという思いがある。けっして、自分の言うことだけが正しいと思って主張しているわけではない。

 ところが、往々にして、私の言うことが定説と違うということを得意気に説き、自分は勉強をしているが、私はしていないとでも言いたいようなメッセージをいただくことが多い。

 定説と違うことに意味があるのだが、おそらくそういう人は思考のパターンを広げる気がないのだろう。余計な御世話だが、脳が老化するだけだ。

 それよりも悲しいのは、世間様と違うことを言う分だけ情報としての価値が高いと信じているのに、そういう本があまり売れないことだ。それだけトレンドに逆らえる人が少ないのかもしれない。

 私の著書に限らず、定説と違う話を情報として取り入れたり、知識化するようにして、思考の幅を広げることがサバイバルにつながると、本心から信じている。

和田秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年生まれ。
 東京大学医学部卒、東京大学附属病院精神神経科助手、アメリカ・カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、『和田秀樹こころと体のクリニック』院長。国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師。川崎幸病院精神科顧問。老年精神医学、精神分析学(とくに自己心理学)、集団精神療法学を専門とする。  『テレビの大罪』(新潮選書)、『人は「感情」から老化する』(祥伝社新書)など著書は多数。


07. 2013年4月30日 14:15:52 : xEBOc6ttRg
 
3月消費支出、5・2%増…実収入は1・8%増

 総務省が30日発表した3月の家計調査(速報)によると、1世帯(2人以上)あたりの消費支出は31万6166円で、物価変動の影響を除いた実質では前年同月より5・2%増加し、2004年2月(5・3%増)以来、9年1か月ぶりの高い伸びを示した。


 株高効果や一時金支給の増加などで消費者心理が改善し、消費支出が活発になったことが主な要因だ。

 消費支出の前年同月比プラスは3か月連続。腕時計やハンドバッグなど高級品を含む「身の回り用品」が13・8%増と大きく伸び、家族などで外食の機会が増えたことから「一般外食」も5・6%増加した。休日が前年より1日多かったこともあり、買いだめしやすい野菜などを中心に食料支出も増えた。

 一方、サラリーマン世帯の実収入は44万4379円と、実質で1・8%増加した。「臨時収入・賞与」が前年同月より50・5%増えたためで、年度末の一時金を支給した企業が前年より増えたとみられる。

(2013年4月30日11時50分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20130430-OYT1T00445.htm?from=ylist


3月の鉱工業生産、0.2%上昇 基調判断引き上げ
2013/4/30 11:41
 景気が緩やかに持ち直している。経済産業省が30日発表した3月の鉱工業生産指数(2005年=100、季節調整値)速報値は89.8と前月に比べて0.2%上昇した。1〜3月期は4四半期ぶりに前期比で増産となった。完全失業率は4年4カ月ぶりの低水準となり、有効求人倍率も改善傾向にある。個人消費も底堅い。ただ、輸出の伸び悩みなどを背景に一部には勢いを欠く部分もある。

 昨年末の安倍晋三政権の発足後の金融緩和の強化に伴う円安・株高の影響が3月の経済統計にも表れてきた。消費者心理が大きく改善し、生産も出荷が増えて在庫が減る好循環に入った。一方で自動車を含む輸送機械の生産は4カ月ぶりに前月割れ。完全失業率が下がった背景には就業を諦める人が増えていることもあり、景気はまだ期待先行の色彩も残っている。

 3月の鉱工業生産指数は4カ月連続の改善となった。経産省は基調判断を「緩やかな持ち直しの動き」とし、前月の「下げ止まり、一部に持ち直しの動きがみられる」から引き上げた。基調判断の上方修正は1月以来2カ月ぶりとなる。

 3月の生産指数は全16業種のうち8業種が前月を上回った。自動車のタイヤなどに使う合成ゴムなど化学工業は前月比5.3%増となった。工場トラブルで生産が減っていた分の反動増に加え、韓国など輸出用の生産も伸びた。

 電子部品・デバイスは、前月比4.7%増となり、4カ月ぶりの上昇となった。半導体集積回路や液晶素子など、中国などで組み立てているスマートフォン(スマホ)向け部品の生産の回復が影響した。情報通信機械工業は北米・アジア向けが好調で、前月比7.9%と高い伸びとなった。

 一方、自動車など輸送機械工業は前月比5.0%減と、4カ月ぶりに低下した。北米や欧州向けに輸出する普通乗用車の生産が減ったことなどが主因だ。経産省は「マイナスにはなったが、依然として底堅い動きが続いている」とみている。

 1〜3月期の生産指数は89.5と前期比1.9%増となり、4四半期ぶりにプラスとなった。12年度の生産指数は90.0と前年度比3.4%減となった。

 同時に発表した生産予測調査は4月が0.8%増、5月が0.3%減を見込む。4月は輸送機械や一般機械工業などの生産増を背景に高い伸びを見込む一方、5月は輸送機械の生産が一服する反動減で小幅なマイナス予測となっている。SMBC日興証券の宮前耕也エコノミストは「生産の伸びは想定よりは緩やかなペース。円安や外需の持ち直しを受けて実際に輸出が本格回復するのは年後半になる」とみている。

3月の失業率4.1%に改善、4年4カ月ぶり低水準 (2013/4/30 11:41)
 雇用も改善している。総務省が30日発表した3月の完全失業率(季節調整値)は、前月比0.2ポイント低い4.1%で、2カ月ぶりに低下した。2008年11月以来、4年4カ月ぶりの低水準。厚生労働省が発表した3月の有効求人倍率(同)も0.01ポイント上昇の0.86倍となり、リーマン・ショック直前の08年8月(0.86倍)以来の高水準となった。

 3月の男女別の失業率は、男性が0.1ポイント改善の4.5%、女性が0.4ポイント改善の3.5%。就業者数(季節調整値)は前月比1万人減の6297万人、完全失業者数(同)は17万人減の267万人だった。

 宿泊・飲食サービス業や卸小売業、建設業など幅広い業種で求人の増加が続き、失業率も改善した。ただ総務省は「女性を中心に職探しを諦めて、労働市場から退出した人が増えた」と指摘。職探しをやめると完全失業者には該当しないため、これが失業率の低下につながったと分析している。

 12年度平均の完全失業率は前年度比0.2ポイント低下の4.3%となった。12年度平均の有効求人倍率は0.14ポイント上昇の0.82倍。景気の緩やかな持ち直しを受け、いずれも3年連続で改善した。


3月の有効求人倍率、前月比0.01ポイント上昇の0.86倍 (2013/4/30 8:30)
 厚生労働省が30日朝発表した3月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.01ポイント上昇の0.86倍で、リーマン・ショック前の2008年8月の水準に並んだ。

 雇用の先行指数となる新規求人数は1.6%減で5カ月ぶりにマイナスへ転じた。一方、新規求人倍率は、分母となる新規求職申込件数が減ったため0.04ポイント上昇の1.39倍だった。

 前年同月と比べた新規求人数(原数値)は3.6%の増加だった。宿泊業・飲食サービス業(10.1%増)、卸売業・小売業(8.5%増)、建設業(8.0%増)の増加が目立った。一方、製造業は4.3%減と10カ月連続の前年割れ。金属製品や電気機器、電子部品・デバイスで減少した。

 都道府県別で有効求人倍率が最も高かったのは宮城県の1.29倍。最も低かったのは沖縄県の0.47倍だった。

 併せて発表した12年度平均の有効求人倍率は前年度比0.14ポイント上昇の0.82倍だった。〔日経QUICKニュース(NQN)〕

3月の消費支出、実質5.2%増 9年ぶり伸び (2013/4/30 11:43)

円高修正、内需型には逆風 原燃料高など懸念 (2013/4/29 2:05) [有料会員限定]

円安効果で2ケタ増益、上場企業の13年度 (2013/4/29 2:05) [有料会員限定]

日銀「強気」で景気浮揚狙う 好循環シナリオ描く (2013/4/27 0:21)

過去の統計データはこちら
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS30015_Q3A430C1MM0000/

3月鉱工業生産速報は前月比+0.2%、基調判断を上方修正
3月完全失業率は4.1%に改善、有効求人倍率は0.86倍に上昇
「グーグルナウ」がiPhoneでも、アップル独自機能と競合へ
日経平均は続落で始まる、円高進行で輸出株に売り先行

TOPIXが反発、金融や通信株高い−円高嫌気し自動車、電機安い
鉱工業生産は4カ月連続上昇、予想下回る−判断「緩やかな持ち直し」
債券は上昇スタート、円高基調や日銀買いオペ観測−10年債入札が重し
3月の完全失業率は4.1%に低下、予想下回る−有効求人倍率も改善
大塚製薬、アルツハイマー治療の3本柱構築へ−ルンドベックと共同で

3月全世帯の実質消費支出は前年比+5.2%、前月比+2.0%
2013年 04月 30日 08:46 JST
[東京 30日 ロイター] 総務省が30日に発表した3月の家計調査によると、全世帯(単身世帯除く2人以上の世帯)の実質消費支出は前年比5.2%増となった。増加は3カ月連続。実額は31万6166円。

ロイターが民間調査機関に行った聞き取り調査では、前年比1.8%増が予測中央値だった。季節調整済み全世帯消費支出は前月比2.0%増、勤労者世帯の実収入は実質で前年比1.8%増だった。

3月完全失業率は4.1%に改善、有効求人倍率は0.86倍に上昇
2013年 04月 30日 08:38 JST
[東京 30日 ロイター] 総務省が30日に発表した労働力調査によると、3月の完全失業率(季節調整値)は4.1%で、2月(4.3%)に比べて改善した。ロイターが民間調査機関に行った聞き取り調査では4.3%が予測中央値だった。

一方、厚生労働省が発表した3月の有効求人倍率(季節調整値)は0.86倍で、2月から0.01ポイント上昇した。これは2008年8月の0.86倍以来、4年7カ月ぶりの高水準。ロイターの事前予測調査の中央値も0.86倍だった。

有効求人数は前月比0.6%増。有効求職者数は同0.9%減となった。

2012年度の有効求人倍率は0.82倍となり、前年度に比べて0.14ポイント上昇した。


3月貿易収支は3624億円の赤字、12年度は過去最大の赤字 2013年4月18日
2月の完全失業率は4.3%に悪化、有効求人倍率は横ばい 2013年3月29日
2月全国消費者物価は前年比‐0.3%、3月東京都区部は‐0.5% 2013年3月29日


EU、将来の銀行破綻で預金者保護検討
2013年 04月 30日 08:59 JST


[ブリュッセル 29日 ロイター] 欧州連合(EU)が、銀行の破綻時には預金者に損失負担を求めるのは最後の手段とすべきとの案を検討している。この措置は、キプロスで求められたような損失負担から預金者を守ることにつながる。

民間に損失負担を求める「ベイルイン」のプロセスや問題行への対応策をまとめたEUの関連文書で明らかになった。

EU各国は、将来的な銀行の危機で、大口預金者の損失負担が恒久的なものとなるような新たな法律の草案を最終的に取りまとめているが、EUの当局者はそうした方法が預金者の混乱を招き、預金引き出しを加速させると懸念している。

この文書では、銀行の破綻時に損失負担の順番を決める場合、預金者を全ての債権者よりも後回しとすることが賢明かもしれない、との見解が示された。

10万ユーロ以下の小口預金者は、どのような場合でも保護される。銀行破綻時に、国によって大口預金者の損失負担を回避できるような余地を残す可能性も高まった。

新法の施行は2015年となる可能性があるが、大口預金者への対応をより緩和することは欧州中央銀行(ECB)と国際通貨基金(IMF)の支持を得ている。

4月29日付の文書では、「ベイルインの対象として除外されないことを意味するものだが、相応の預金者に負担を求める前に他の債権者がまずできるだけ損失を負担することになる」と記されている。

改定が盛り込まれる前に、こうした譲歩案に依然として懐疑的なドイツを説得する必要がある。


大口預金者、銀行破綻時に負担求められる可能性=欧州委員 2013年4月8日
焦点:キプロス、銀行再編で新たな成長モデル確立が急務 2013年4月4日
大量の預金引き出し起こっていない=スロベニア中銀総裁 2013年4月2日
キプロスが資本規制を一部緩和、大統領は危機の調査に着手 2013年4月2日


レッタ伊首相候補が成長・雇用支援に注力と表明、緊縮路線から転換
2013年 04月 30日 02:16 JST

[ローマ 29日 ロイター] イタリア次期首相に指名された中道左派連合のエンリコ・レッタ氏は29日、信認投票を前に議会で所信表明演説を行い、欧州連合(EU)が進める緊縮路線一辺倒の流れから成長・雇用促進に軸足を移す考えを示した。

レッタ氏は、イタリア経済は10年以上に及ぶ景気低迷から脱却できておらず依然深刻な状況にあるとし、「財政再建だけではイタリアは死んでしまう。成長政策をこれ以上先延ばしにすることはできない」と言明。リセッション(景気後退)脱却に向け、景気てこ入れに注力する姿勢を鮮明にした。

だが一方で、EU諸国のパートナーに示した財政再建へのコミットメントは堅持する意向も示し、今週ブリュッセル、パリ、ベルリンを訪問することを明らかにした。

イタリア連立政権の発足を受けた同日の金融市場では、国債利回りが低下する一方、株価は上昇。イタリア5・10年債入札でも、利回りがともに2010年10月以来の水準に低下した。

ただ、レッタ氏は困難な改革を断行しながら、政権基盤のぜい弱な連立政権の求心力を維持するという厳しい課題に直面している。

同氏は、広範な不動産税改革を行う方針を示し、6月の不動産税徴収を取り止めることを明らかにした。連立を組むベルルスコーニ氏率いる中道右派は、不動産税の撤廃を求めており、歩み寄った格好。ただ全面撤廃は確約しなかった。

また7月に予定されていた付加価値税の引き上げも先送りすることを望むと述べた。

福祉制度の強化や、若者や失業者を雇用する企業への給与税減税、女性の労働参加促進など、一連の改革に意欲を示した。

レッタ氏はさらに、2月の総選挙で明確な勝者が出ず、およそ2カ月に及ぶ政治空白を招いた反省に立ち、選挙制度改革に取り組む考えも示した。

1年半後に改革の進ちょく状況を見直す方針も明らかにし、他党の横やりで改革が阻止されていると感じれば、辞任も辞さない構えを示唆した。

関連ニュース

ユーロが対ドル・円で上昇 伊連立政権発足を好感=NY外為市場 2013年4月30日
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3月米個人消費は予想上回る、PCE価格指数は11月以来のマイナス
2013年 04月 30日 00:38 JST
[ワシントン 29日 ロイター] 米商務省が発表した3月の個人消費支出は前月比0.2%増と、2月の同0.7%増から伸びが落ちたものの、市場予想(変わらず)を上回る結果となった。

インフレ調整後の支出は0.3%増で2月と同じ伸びだった。

個人消費支出(PCE)価格指数は、総合が前月比マイナス0.1%と昨年11月以来の低下。コアベースも同横ばいとなった。前年比では総合が1.0%上昇と、2009年10月以来の低い伸びにとどまり、コアベースも1.1%上昇と、2011年3月以来の低水準となった。

物価圧力が見られないことから、米連邦準備理事会(FRB)には金融緩和を継続する余地があると見られる。

CIBCワールド・マーケッツ(トロント)のエコノミスト、アンドリュー・グラム氏は「消費者動向を見ると、第2・四半期にかけて予想以上に勢いがある」とする一方、月次では今後も緩やかな伸びが予想されると述べた。

個人所得は前月比0.2%増と、前月の同1.1%増から鈍化。市場予想は0.4%増だった。インフレ・税調整後の可処分所得も0.3%増と、前月の0.7%増から鈍化した。個人貯蓄率は2.7%と変わらずだった。

第1四半期米GDP速報値、2.5%増に加速:識者はこうみる 2013年4月26日
コモディティ価格下落で市場にデフレ懸念、FRBはまだ共有せず 2013年4月23日
アングル:商品価格が下落、世界経済に好影響も 2013年4月22日
3月の米CB景気先行指数は‐0.1%、7カ月ぶり低下 2013年4月19日


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【視点】調整加速、米指標の弱さも頭を抑える
2013/04/30 (火) 09:19


※忙しい人のサマリー
調整加速、米指標の弱さも頭を抑える
ドル円は一時97円台半ばに

短期筋が一旦調整に回る展開
米景気回復の減速懸念拡大も重石に

週末の雇用統計での弱めの数字を警戒の動きも
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【26日の市場】

29日の市場は東京市場から円高気味に推移した
東京午後1時35分に結果が出た日銀金融政策決定会合を前に
海外勢が調整売り、
99円をしっかり割り込むとストップを巻き込んで98円50銭台まで値を崩した。
その後会合結果発表を前に買い戻しが入り
99円25銭まで値を戻す格好に。
結果は、日本勢にとっては完全に予想通りとなる変更無しであったが
海外勢の一部で追加緩和の期待があった様子で
発表後は再び98円台。
さらに、98円台半ばを割り込んでストップが加速し、
98円20銭台まで値を崩した。
クロス円もこの動きに軒並み値を崩す展開に。

欧州時間になって海外勢が本格参加し、
やや値を戻す展開となったが
欧州株が軟調でクロス円の頭が抑えられ
ドル円の戻しも一息で、
98円台半ば近辺でもみ合いに。

そうした中発表された米第1四半期国内総生産(GDP)は
予想を下回る弱めの数字。
前期に引き続き国防費の減少が見られ
中身がそこまで弱いと言うほどではなかったが、
しっかりとした回復期待が強かっただけに
ドル売りにつながり、ドル円は98円の大台すら割り込んで
97円50銭台まで値を崩した。
ユーロ円などクロス円も軟調
ユーロは対ドルではもみ合いに。

【29日の市場】

アジア市場では、前日金曜日の流れを引き継ぎ
円買いの流れに。
97円台半ばを割り込んでストップを付け
97.35近辺まで下落。
ユーロ円が127円ちょうどに迫るなど
クロス円も軟調に。
もっとも、欧州時間に入ると
イタリアでレッタ新政権が樹立したことを好感した
ユーロの買いが対ドル、対円で入り
ユーロ円は128.30台まで
ドル円も、クロス円に支えられて98円手前まで上昇。

NY市場でもその流れが継続し
一時98円台を回復する等
調整の動きとなった。

【本日の見通し】目先戻り売りも、中長期では買い場探し

ドル円、クロス円は目先の頭が重く
短期的には戻り売りの意識も。
FOMCでのサプライズはないと見られるが
今週末の雇用統計が弱いと、
先週のGDPと合わせ、米景気回復の減速懸念が拡大し
リスク回避の円高が入る可能性があるだけに
慎重に動きを見極めたい。

【本日の戦略】
デイトレードであれば、98円台前半を売って、97円台半ば手前で買い戻す意識か。
100円を付けきれなかったことで
上で捕まったポジションの調整が済んでおらず
戻りは売りの意識も。
ただし、この動きはあくまで調整と見ている
スイング、もしくはもっと中長期の投資であれば
下値を買い下がる意識継続。

ユーロは、イタリア新政権好感での買いであれば
今回の上昇は売り場と見る
(政権がまとまるのは少し前から分かっていたこと。ご祝儀相場での上昇継続は厳しい。)


ドル・円相場は97円台後半、米国の量的緩和継続との見方

  4月30日(ブルームバーグ):日本時間朝の外国為替市場で、ドル・円相場は1ドル=97円台後半で推移している。米金融当局による債券購入は当面続くと見方がドル売りの背景となっている。
午前7時52分現在のドル・円は97円88銭前後。前日のニューヨーク市場では、米国の景気動向に対する不透明感から量的緩和の縮小観測が後退し、ドルは主要16通貨中14通貨に対して下落した。円に対しても一時97円35銭と、17日以来の安値を付けている。
三井住友信託銀行ニューヨークマーケットビジネスユニットマーケットメイクチーム長の海崎康宏氏(ニューヨーク在勤)は、「米国の景気指標がだいぶ弱くなってきているので、いったんQE(量的緩和)長期化というような話もあり、ドルが売られる展開。ドル・円もちょっと落ちているという感じ」と指摘していた。
米商務省が29日発表した3月の個人消費支出(PCE)は前月比0.2%増と、前月の0.7%増を下回った。26日発表された第1四半期の実質国内総生産(GDP、季節調整済み、年率)速報値は前期比2.5%増で、伸びは市場予想(3%増)に届かなかった。
クレディ・アグリコルの為替ストラテジスト、シレーン・ハラーリ氏(ニューヨーク在勤)は電話取材で、「米経済は4−6月期に軟化局面を迎えると予想されていたが、実際その通りになっている。これは金融当局が量的緩和策を変更しないことを意味している」と述べた。
米連邦準備制度理事会(FRB)はこの日から2日間の日程で米連邦公開市場委員会(FOMC)を開催する。
三菱東京UFJ銀行の世界市場調査部門で欧州責任者を務めるデレク・ハルペニー氏(ロンドン在勤)は、「市場は量的緩和第3弾(QE3)の縮小予想をほんの少しだけ弱めつつある」とし、「経済指標の多少の軟化を認めるような文言が何らかの形でFOMCの声明に含まれることはあり得る。こうした状況は全て、ドルの若干の押し下げにつながる可能性がある」と語っていた。
同時刻現在、ドルは対ユーロで1ユーロ=1.3098ドル前後、ユーロは対円で1ユーロ=128円20銭前後で推移している。
記事についての記者への問い合わせ先:東京 崎浜秀磨 ksakihama@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Rocky Swift rswift5@bloomberg.net;大久保義人 yokubo1@bloomberg.net
更新日時: 2013/04/30 07:54 JST

http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MM1GD86JIJUP01.html


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