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意味不明なG20共同声明の日本語訳 中国富裕層の新たな移民先 米国・カナダは人気に陰り 
http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/595.html
投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 21 日 01:00:38: .WIEmPirTezGQ
 

(回答先: 「量的・質的緩和」後の2つのシナリオ  2〜3年でデフレは終 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 20 日 13:06:00)

小笠原誠治の経済ニュースに異議あり! トップ |
意味不明なG20共同声明の日本語訳
2013/04/20 (土) 13:51


 G20会合が終わり、日本のメディアは、日本の異次元緩和策に理解が示されたなんて報道している訳ですが‥それでもって円安がさらに進みそうだとの見方も出ているのですが‥

 本当に異次元緩和策に理解が示されたのか?

 それを知るためにはどうしたらいいのか?

 取り敢えず、共同声明の原文を読んでみればいいのですよね。

 では、今回の会議はどこで開かれたのか?

 ワシントンで開かれたのですよね?

 だったら、米財務省のサイトにアクセスすれば、原文を読むことができるのでしょうか?

  
(米財務省のサイトより)  

 ところが、以前でしたらこのような国際会議が開かれれると即座に声明文などを掲載していたのが、最近は、どういう訳かサイトの更新をさぼっているのです。
 
 嘘だと思うなら、米財務省のサイトにアクセスしてみて下さい。今年2月のG7とG20の声明すらまだ掲載されていないのです。一体どうしたのでしょう?
 
 でも、心配は要りません。日本の財務省のサイトを訪れると、ちゃんと声明文が掲載されているからです。

 但し、喜ぶのはまだ早い。

 というのは、声明文の日本語訳を読み始めると‥ちんぷんかんぷんだからです。

 どうしてこんなに分かりづらい日本語訳にしてしまうのでしょう?

 そうなれば、自分で改訳するしかない。

 分かり易い日本語になおしてみましたので、お読みになって下さい。

 「1.我々、G20 財務大臣・中央銀行総裁は、世界経済の現状を議論し、9月の首脳によるサミットに向けて政策アジェンダを進めるために、会合した。」

 「アジェンダを進めるために」と言われて、何のことか貴方はお分かりになるでしょうか? 私には分かりません。

  アジェンダを進めるなんて日本人に言っても、「どういうこと?」って聞き返されるに決まっています。

  そこで、英文を見ると、

  We, the G20 Finance Ministers and Central Bank Governors, met to discuss the current situation in the global economy and to bring forward the policy agenda for our Leaders' summit in September.

  とあります。

  20か国の財務大臣と中央銀行の総裁たちが、最近の世界経済の状況を議論するために今回、会合を開いたというのはよく分かります。

 でも、to bring forward the policy agenda for our Leaders' summit in Septemberの意味は?

  bring foward というのは、提案するとか、議題に乗せるという意味であり、彼らは、9月のサミットで取り上げられるべき政策議題を提案するために会合を開いた、と言っているのです。

  「アジェンダを進める」のではなく「議題を提案する」という意味なのです。


 「世界経済及び強固で持続可能かつ均衡ある成長のためのG20フレームワーク」

 「2.我々は成長を引き上げ、雇用を創出する決意を再確認した。」

 これは問題なし。

 「3.世界経済はいくつかの主要なテール・リスクを回避し、金融市場の状況は改善を続けている。しかし、世界経済の成長は、引き続き弱過ぎ、多くの国において失業は高すぎる状態にとどまっている。回復は引き続き一様ではなく、新興市場国が相対的に力強い成長を経験し、米国が漸進的な民間需要の強化を示しているが、ユーロ圏は全体として未だ回復を実現していないように、異なる速度で進行している。政策の不確実性、民間のデレバレッジ、財政による抑制、傷ついた信用仲介、そして世界の需要の未だ不完全なリバランスは、引き続き世界経済の成長見通しにとって重しとなっている。財政の持続可能性と金融の安定性に関連する課題を含め、中期的な課題もまた、多くの国において存在している。」

  文章が長いので、分解します。

 「世界経済はいくつかの主要なテール・リスクを回避し、金融市場の状況は改善を続けている。」

 テール・リスクの意味が分からない人がいるかもしれませんが、それは、起きる確率は小さいものの、起きたら大変な事態になるリスクを意味します。

 では、それが分かったとして、この場合の幾つかのテールリスクとは何を意味するのか?
  
 普通に推測すれば、欧州の債務問題などを指しているのでしょう。

 「しかし、世界経済の成長は、引き続き弱過ぎ、多くの国において失業は高すぎる状態にとどまっている。」

  これは問題はないでしょう。

 「回復は引き続き一様ではなく、新興市場国が相対的に力強い成長を経験し、米国が漸進的な民間需要の強化を示しているが、ユーロ圏は全体として未だ回復を実現していないように、異なる速度で進行している。」

  これも問題はないかもしれませんが、もう少し分かり易い表現に変更することは可能です。

  英文は次のようになっています。

 The recovery remains uneven and is progressing at different speeds with emerging markets experiencing relatively strong growth, the United States demonstrating a gradual strengthening of private demand, and the recovery in the euro area as a whole yet to materialize.

次のように改訳したら如何でしょう。

 「経済の回復状況は一様ではない状態が続き、そして、進展のスピードも異なっている。例えば、新興市場国では、比較的力強い成長を続けている。米国については、民間需要が少しずつ力強さを増している。そうした一方、ユーロ圏は、全体として未だ回復軌道に乗っていない。」
 
 「政策の不確実性、民間のデレバレッジ、財政による抑制、傷ついた信用仲介、そして世界の需要の未だ不完全なリバランスは、引き続き世界経済の成長見通しにとって重しとなっている。」

  この箇所は全く頂けません。文章を読むのが嫌になってしまうという感じです。

  民間のデレバレッジって何?と思わず言いたくなってしまいます。世界の需要の未だ不完全なリバランスって何のこと?

 英文をみてみましょう。

  Policy uncertainty, private deleveraging, fiscal drag, impaired credit intermediation, and a still incomplete rebalancing of global demand continue to weigh on global growth prospects.

  英文を直訳してしまったということですね。直訳が悪いという訳ではありませんが、英文の意味することを本当に理解しているのか疑問に思ってしまいます。

 Policy uncertaintyは確かに政策の不確実性のこと。では、これは何を意味するのか?

 米国で議会の分裂状態が続き、何も決められない政治が続いていることを意味しているのです。

  Private deleveragingとは?

  leverageは、梃を意味します。 もっと言えば、他人からお金を借りて投資や投機をすることです。deleverageはその反対になる訳ですから、結局、民間部門が、他人からお金を借りて行う投資を抑えることを意味するのです。

 a still incomplete rebalancing of global demandは何を意味するのか?

 未だ不完全なリバランスなんて言ってもらっては困ります。

 これは世界的な需要の再調整がまだ完了していないことを意味しているのです。リーマンショックが起きた。そして、ユーロ危機が起きた。そうしたことに伴い世界経済は不況になり、需要が落ち込んだ。その落ち込んだ需要が、まだ、自然に戻るべきところに到達していないことを言っているのです。

従って、「世界経済の需要の再調整が未だに完了していないこと」と言ったら如何でしょうか?  
 「4.我々は、進展は見られるものの、成長を強固で持続的かつ均衡あるものとするには更なる措置が必要であることに合意している。我々が前回会合して以降、いくつかの国は経済活動を刺激するための措置を取っている。とりわけ、日本の最近の政策措置は、デフレを止め、内需を支えることを意図したものである。加えて、韓国は積極的なマクロ経済政策パッケージを発表した。」

  日本が登場しました。じっくりと見てみましょう。

 We have agreed that while progress has been made, further actions are required to make growth strong, sustainable and balanced. Some countries have taken steps to stimulate activity since we last met. In particular, Japan's recent policy actions are intended to stop deflation and support domestic demand. In addition, Korea announced an active macroeconomic policy package.

  この箇所は全然問題がありません。よく理解できます。

 「しかし、進行中の世界経済の弱さに対応するとの我々のコミットメントを達成するには、一層多くの措置が必要とされる。」

  ここは、またしても分かりにくい! 少なくても一般の方なら、何を意味しているのかさっぱり分からないでしょう。

 However, much more is needed to fulfill our commitment to address the ongoing weakness in the global economy.

 次のように改訳してみました。

 「世界経済の力強さに欠ける状態がずっと続いているが、それではいけない。そのための対策を打つと我々は公言しているが、その約束を果たすためには一層の措置が必要なのだ。」

 これなら理解できるでしょう?

 「主要な優先政策課題は概ね以前と同様のものである。ユーロ圏においては、銀行同盟に向けた速やかな動き、金融市場の分断の更なる縮小、および銀行のバランスシートの継続的な強化を通じて、経済通貨同盟の基礎が強化されるべきである。」

 この箇所も一般の方には理解が難しい。

 Major policy priorities remain largely the same.

 「主要な課題はほぼ今までと同じ。」

 In the euro area the foundations of economic and monetary union should be enhanced, including through an urgent movement towards banking union, further reducing financial fragmentation, and continued strengthening of banks' balance sheets.

 「ユーロ圏においては、銀行同盟に向け速やかに行動するとともに、金融システム崩壊のリスクの少なくし、さらに、銀行の資産内容を引き続き改善することによって、経済通貨同盟の基盤が強化されなければならない。」

 これなら意味が分かるでしょう?

 「米国では著しい赤字削減が既に達成されたが、バランスのとれた中期的な財政健全化計画に向けた更なる進展が必要である。日本は、信頼に足る中期財政計画を策定すべきである。大幅な黒字国は、国内の成長源を強化するための更なる措置の実施を検討すべきである。我々は、潜在的な成長を引き上げ雇用を創出するため、引き続き野心的な構造改革を実施する。」

 この箇所は、まあ良しとしましょう。

 ただ、「大幅な黒字国は、国内の成長源を強化するための更なる措置の実施を検討すべきである。」の意味がお分かりですか?

 これは中国に対する注文なのです。中国は、国内の成長源、つまり消費や投資といった国内需要を高める政策を採用すべきだと言っているのです。

 「5.先進国における財政の持続可能性の維持は、引き続き極めて重要である。先進国は、ロスカボスで我々の首脳が行ったコミットメントに沿って、中期的な財政戦略をサンクトペテルブルグ・サミットまでに策定する。我々は、次の会合で我々の戦略を提示し、検証する。」

 この箇所もいいでしょう。

 「6.我々は、根底にあるファンダメンタルズを反映するため、より市場で決定される為替レートシステムと為替の柔軟性に一層迅速に移行し、為替レートの継続したファンダメンタルズからの乖離を避けるとの我々のコミットメントを再確認する。」

 We reiterate our commitments to move more rapidly toward more market-determined exchange rate systems and exchange rate flexibility to reflect underlying fundamentals, and avoid persistent exchange rate misalignments.

 次のように改訳すると分かり易いと思います。

 「我々は、為替レートがファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映するようにするために、より柔軟な変動相場制度へ速やかに移行し、そして為替レートの柔軟性を実現するために行動するとした我々の公約を再確認する。」

 「我々は、通貨の競争的な切り下げを回避し、競争力のために為替レートを目的とはしない。そして我々は、あらゆる形態の保護主義に対抗し、我々の開かれた市場を維持する。」

  We will refrain from competitive devaluation and will not target our exchange rates for
  competitive purposes, and we will resist all forms of protectionism and keep our markets open.

 この箇所も敢て改訳するなら、次のようになります。

 「我々は、通貨価値の切り下げ競争を慎み、競争力を強化する目的で為替レートを目標にすることはしない。」

  「我々は、資金フローの過度の変動及び為替レートの無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与えることを再確認する。金融政策は、中央銀行の各々のマンデートに従って、国内の物価安定に向けられるとともに、経済の回復を引き続き支援するべきである。我々は、長期間の金融緩和から生じる意図せざる負の副作用に留意する。」

  最後の部分は問題ないでしょう。

  さあ、これで如何に財務省の日本語訳が分かりにくいかお分かりになったと思うのです。そしてまた、本当に言いたいことがどういうことであるのかも分かって頂けたと思うのです。

 肝心の、日本の異次元緩和策に関して、世界が理解を示したというのはどうなのでしょうか?

 本心からそう思っているかは別にして、取り敢えずはセーフの判断がなされたと理解していいでしょう。
http://www.gci-klug.jp/ogasawara/2013/04/20/018853.php

 

20か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明(仮訳)(2013年4月18-19日 於:米国・ワシントンD.C.)

我々、G20 財務大臣・中央銀行総裁は、世界経済の現状を議論し、9月の首脳によるサミットに向けて政策アジェンダを進めるために、会合した。

世界経済及び強固で持続可能かつ均衡ある成長のためのG20フレームワーク
我々は成長を引き上げ、雇用を創出する決意を再確認した。

世界経済はいくつかの主要なテール・リスクを回避し、金融市場の状況は改善を続けている。しかし、世界経済の成長は、引き続き弱過ぎ、多くの国において失業は高すぎる状態にとどまっている。回復は引き続き一様ではなく、新興市場国が相対的に力強い成長を経験し、米国が漸進的な民間需要の強化を示しているが、ユーロ圏は全体として未だ回復を実現していないように、異なる速度で進行している。政策の不確実性、民間のデレバレッジ、財政による抑制、傷ついた信用仲介、そして世界の需要の未だ不完全なリバランスは、引き続き世界経済の成長見通しにとって重しとなっている。財政の持続可能性と金融の安定性に関連する課題を含め、中期的な課題もまた、多くの国において存在している。

我々は、進展は見られるものの、成長を強固で持続的かつ均衡あるものとするには更なる措置が必要であることに合意している。我々が前回会合して以降、いくつかの国は経済活動を刺激するための措置を取っている。とりわけ、日本の最近の政策措置は、デフレを止め、内需を支えることを意図したものである。加えて、韓国は積極的なマクロ経済政策パッケージを発表した。しかし、進行中の世界経済の弱さに対応するとの我々のコミットメントを達成するには、一層多くの措置が必要とされる。主要な優先政策課題は概ね以前と同様のものである。ユーロ圏においては、銀行同盟に向けた速やかな動き、金融市場の分断の更なる縮小、および銀行のバランスシートの継続的な強化を通じて、経済通貨同盟の基礎が強化されるべきである。米国では著しい赤字削減が既に達成されたが、バランスのとれた中期的な財政健全化計画に向けた更なる進展が必要である。日本は、信頼に足る中期財政計画を策定すべきである。大幅な黒字国は、国内の成長源を強化するための更なる措置の実施を検討すべきである。我々は、潜在的な成長を引き上げ雇用を創出するため、引き続き野心的な構造改革を実施する。

先進国における財政の持続可能性の維持は、引き続き極めて重要である。先進国は、ロスカボスで我々の首脳が行ったコミットメントに沿って、中期的な財政戦略をサンクトペテルブルグ・サミットまでに策定する。我々は、次の会合で我々の戦略を提示し、検証する。

我々は、根底にあるファンダメンタルズを反映するため、より市場で決定される為替レートシステムと為替の柔軟性に一層迅速に移行し、為替レートの継続したファンダメンタルズからの乖離を避けるとの我々のコミットメントを再確認する。我々は、通貨の競争的な切り下げを回避し、競争力のために為替レートを目的とはしない。そして我々は、あらゆる形態の保護主義に対抗し、我々の開かれた市場を維持する。我々は、資金フローの過度の変動及び為替レートの無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与えることを再確認する。金融政策は、中央銀行の各々のマンデートに従って、国内の物価安定に向けられるとともに、経済の回復を引き続き支援するべきである。我々は、長期間の金融緩和から生じる意図せざる負の副作用に留意する。

国際金融アーキテクチャー
進行中のIMFのガバナンス改革を完了させることは、IMFの信頼性、正当性、及び有効性を高めるために不可欠である。このため、2010年のIMFクォータ・ガバナンス改革の批准が緊急に必要である。我々は、新たなクォータ計算式に係る最終的な合意に到達するプロセスを第15 次クォータ一般見直しに統合するとの、IMF 理事会の決定を支持する。我々は、ソウル・サミットで合意され、カンヌおよびロスカボスでも再確認された通り、クォータ計算式に合意し、2014年1月までに第15次クォータ一般見直しを完了させることに、IMFの全加盟国とともに引き続きコミットしている。我々は、9 月のサンクトペテルブルグ・サミット、及びそれに続く2013年10 月のG20 大臣会合とIMFC 会合において、主要な要素に関するものも含め、これらの目標に向けた継続的な進歩を確保することを非常に重視している。我々は、計算式に基づくクォータ配分が、ダイナミックな新興国及び途上国のGDPの力強い成長によって大きく変化している、世界経済に占めるIMF 加盟国の相対的な重みをより良く反映すべきとの、我々の従来のコミットメントを再確認する。我々は、このクォータ一般見直しの一部として、IMF に加盟している最貧国の声及び代表性を守る必要性を再確認する。

公的債務管理の現在の慣行を強化するという我々の目的を追求するにあたり、我々は、IMFと世界銀行に対して、「公的債務管理のためのガイドライン」の実施と見直しの可能性について、加盟国と協議することを要請する。このことは、とりわけ債務の発行環境の変化、並びに公的債務管理と金融・財政政策が複雑な相互作用を見せ始めていることを考慮に入れるために、ガイドラインの修正が必要か否かを確認することに役立つだろう。我々は、7月の会合までにこの作業のアップデート、そして9月のサミットに進捗報告書を期待している。我々はまた、公的債務の発行、管理、返済についての先導的なプラクティスを見直すというOECDの進行中の作業に留意する。我々はまた、市場アクセスを有する国々を対象としたIMFによる公的債務の持続可能性に係る分析の枠組みを強化するという現下の取り組みを歓迎する。この枠組みは、重い債務負担およびその構成内容、マクロ経済と財政の相互連関の動向、および偶発債務に由来する主要なリスクに着目している。我々は、これが中期財政戦略に関する我々の作業を補完することを期待する。

我々は、地域金融取極(RFAs)がグローバルな金融セーフティ・ネットにおいて果たす重要な役割を再確認する。RFAs相互の対話を更に促進し、各々の仕組みの独立性を守りつつIMFとRFAsとの間の協力を強化し相互補完性を高めることは、金融の安定性を支え成長の促進を助け得る。我々は、IMFのRFAsへの関与に関する現状理解についてのIMFの作業、及びRFAsの発展をレビューし、IMFとRFAsとの協力を強化するための選択肢を検討した最近のG20/IMFセミナーに留意する。これらの基礎から出発し、またカンヌにおいて我々が合意したIMFとRFAsの間の協力のための原則に基づきながら、我々は、サンクトペテルブルグの首脳会議までに更なる政策提言のための選択肢の可能性を評価するために、我々の次回会合において協力を更に強化するために可能な方法を議論する。

我々は、成功裏のIDA17次増資とAfDF13次増資に貢献する。

長期投資のためのファイナンス
我々は、経済成長と雇用の創出を促進するにあたり、インフラ投資を含む投資のための長期ファイナンスの重要性を強調する。我々は、新たなG20スタディ・グループのToR(付託事項)の採択を通じたものを含め、この課題についての作業を前進させている。この作業においては、世銀グループ、OECD、FSB、IMF、国連、UNCTADからのインプット、および、長期投資ファイナンスの動員や良好な投資環境の整備のための必要条件を形成する上での自己の経験やグッド・プラクティスに係る参加国からのインプットが期待されている。我々は、作業計画と追加的な政策提言を本年後半に承認することを期待する。我々は、機関投資家による長期投資ファイナンスに関するハイレベル原則について、OECDの進捗を歓迎するとともに、次回会合までに報告書を期待する。

金融規制
G20加盟国のうち、半数の国・地域がバーゼルVの実施のための最終規制を公表しており、また残りの国は2013年中の可能な限り早期に最終化することにコミットする。我々は、これら各国の規制とバーゼルV枠組みとの間の整合性についてのバーゼル銀行監督委員会(BCBS)による評価、幾つかのケースは初期または進行中の段階であるが、を歓迎するとともに、規制とバーゼルVテキストとの適合性の確保について更なる進捗を期待する。我々は、リスク調整資産の比較可能性についての7月の報告を期待する。我々は、クロスボーダーでの協力・協調のための法的根拠の付与も含む、FSB(金融安定理事会)が策定した「実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」と整合的な破綻処理権限及び手段を実施するための必要な法的措置を取る。我々の目的は、当局による金融機関の秩序ある処理を可能とすることである。FSBは、「大きくて潰せない」問題の終結に向けた取組みの進捗についてサンクトペテルブルク・サミットにおいて報告する。我々は、OTCデリバティブ改革の実施に係る進捗に留意するとともに、これらの改革のための残された法規制上の枠組みを完成させることにコミットしている。我々は、OTCデリバティブ規制改革に関する、現在作業中のマクロ経済影響調査を歓迎する。我々は、主要当局に対し、クロスボーダーのデリバティブの問題に対処するための取組みを強化し、クロスボーダー規制の抵触、不整合、ギャップ及び重複といった残された問題をサンクトペテルブルク・サミットまでに解決するために、我々の7月の会合までに具体的かつ実践的な提言を報告することを要請する。また、我々は、金融の安定性に対するリスクの包括的監視を可能とするために、取引情報蓄積機関からの情報の集計及び当局間の共有方法についての実現可能性調査を行うことを要請する。各国・地域は、取引相手の情報の報告及び当局による情報へのアクセスに関する障壁の除去に特に注意しつつ、市場参加者による取引報告に関する障壁を除去すべきである。我々は、首脳サミットまでの、シャドーバンキングセクターに対する監視及び規制のための更なる政策提言を期待する。我々は、取引主体識別子(LEI)イニチアチブに係る規制監視委員会(ROC)がグローバルLEI財団を可能な限り早期に設立しようとする取組みを支持する。我々は、国際会計基準審議会(IASB)及び米国財務会計基準審議会(FASB)に対し、質の高い単一の基準を達成するための主要な未決着のプロジェクトに関する作業を2013年末までに最終化することの要請を再確認する。

我々は、BIS(国際決済銀行)及びIOSCO(証券監督者国際機構)による、金融指標の監視及びガバナンスの枠組みを改善するための取組みを歓迎するとともに、FSBに対し、短期の金利指標に関する必要な改革のための取組みを調整し先導すること、また、サミットでの検討に向けて、金融指標改革のための監視及びガバナンスの枠組みについての進捗を7月に報告することを要請する。我々は、FSBによる、信用格付機関の格付への依存を低減するための各国当局の取組みに係るピアレビューの立ち上げを支持するとともに、サンクトペテルブルク・サミットで首脳に対して、基準設定主体による作業を含む状況報告を行うことを要請する。我々は、信用格付機関の透明性と競争に関するIOSCOの報告書に留意する。我々は、FSBに対し、現在の国内及び地域の規制イニシアチブを考慮しつつ、この分野での更なる取組みの必要性について検討することを要請する。

特にタックスヘイブンや非協力的な国・地域を通じたものを含め、国際的な租税回避及び脱税の問題に対応するために一層行動する必要性がある。我々は、情報交換の実効性に関するグローバル・フォーラムの報告を歓迎する。我々は多くの国・地域による進捗を称賛する一方、特に法制が未だ基準を遵守できていない14か国・地域をはじめ、全ての国・地域に対して、受けた勧告を迅速に実施するよう強く促す。さらに我々は、情報交換の実効的な実践についての審査を受けた国・地域に対し、年末までに総合評価が付与されること、及び継続的に監視が行われることを期待する。我々はまた、全ての国・地域に対し、多国間税務行政執行共助条約に署名すること又は署名する関心を示すことを強く奨励し、OECDがその進捗を報告することを要請する。我々は、基準であることが期待される自動的な情報交換に向けた進捗を歓迎し、全ての国・地域に対し、適切に条約相手国と自動的に情報を交換する方向に向かうことを強く促す。我々は、OECDが、G20諸国とともに、各国独自の特徴を考慮に入れつつ、新たな自動的情報交換に関する多国間の基準を作成する進捗について報告をすることを期待する。グローバル・フォーラムは監視を担うであろう。我々は、OECDによる税源浸食と利益移転に関する行動計画の作成の進捗を歓迎し、次回7月の我々の会合において包括的な提案と重要な議論が行われることを期待する。

我々は、金融活動作業部会(FATF)による作業、とりわけ、戦略的なマネーロンダリング・テロ資金供与対策(AML/CFT)上の問題を有する高リスク国・地域の特定及び監視への支持を再確認する。我々は、法人及び法的取極めの不透明さがもたらすリスクに対処すべきであり、全ての国に、法人、その他事業体、信託の真の受益者の特定に係るFATF勧告の遵守を確保する措置をとること、これは租税目的にも関連する、を奨励する。

金融包摂
我々は、金融包摂の支援枠組みの立ち上げを歓迎する。我々は、SMEファイナンス・フォーラムがホストする、来る「女性とファイナンス」に関するセミナーと、女性のファイナンスに関するハブの立ち上げを歓迎する。これらは、ベスト・プラクティスと知識の共有に資するであろう。我々は、金融包摂に関するグローバル・パートナーシップに対し、中小企業ファイナンスを取り巻くグローバルな環境におけるギャップと課題、並びに、潜在的な政策対応について、7月の会合までに報告することを求める。我々は、革新的な金融包摂が可能となるような規制環境の創出に向けての重要な一歩として、金融活動作業部会による金融包摂に関する指針の改訂を歓迎する。
http://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g20/20130419.htm

 

CHINA REAL TIME REPORT2013年 4月 19日 14:52 JST
中国富裕層の新たな移民先 米国・カナダは人気に陰り 
By JASON CHOW

 「米国には触手が動かないし、カナダからは承認が下りなかった。オーストラリアについては十分な資金がない。キプロスには驚かされた」――そういった中国本土の富裕層は、これまであり得なかった移民先を探している。その中にはポルトガルやカリブ海の小国セントクリストファー・ネービスがある。
 

 ドバイを拠点とするレンジ・デベロップメンツは最近、セントクリストファーで進めている同社のパーク・ハイアット開発計画への投資家を求めて、中国と香港で売り込みキャンペーンを行った。一口40万ドル(約3900万円)のこの投資の最も魅力的なリターンは、追加費用を払わずに取得できる旅券だ。この旅券で、欧州や旧英国植民地のほとんどの国に査証なしで入国できる。

 さらに、投資家は6カ月以内にセントクリストファーの市民権を獲得出来る。しかも、セントクリストファーに行ったり、英語の試験を受けたりする必要はない。

 香港で活動する移民問題専門の弁護士で、レンジ・デベロップメンツの代理店を経営しているジャン=フランソワ・ハーベイ氏は、「中国本土で約200口を売った。飛ぶように売れている」とうれしい悲鳴をあげ、「査証なしで旅行できるのは、中国人にとって大変魅力的な話だ」と説明する。

 不動産投資が、セントクリストファーの市民権を取るただ一つの方法ではない。同国の政府系投資ファンド(SWF)である砂糖産業多様化基金に25万ドル寄付すれば市民権を獲得できる。

確かに、中国人投資家のセントクリストファー政府への移民申請は推定で1万件とわずかで、移民先としては米国とカナダが伝統的にトップを占めている。だが、米加の魅力は最近後退している。

 米国の投資永住権(EB-5)プログラムを取得するには、認定された事業に50万ドルを投資し、少なくとも10人を雇用しなければならない。税法も厳しく、中国の超富裕層は対米投資に二の足を踏むようになっている。

 カナダの投資家向け移民プログラムでは、移民希望者は州政府のうちの一つに80万カナダドルを金利なしで5年間貸し付けることが義務付けられている。ただ、これは昨年一時停止となった。

 一方、英国とオーストラリアの制度は費用が高く実現が難しいとされる。英国の制度では、居住査証を取得するために100万ポンド(約1億4700万円)を投資する必要がある。また、投資家が市民権取得の資格を得るためには、5年間のうち少なくとも75%の時間、英国に住まなくてはならない。

 豪州の制度は最も高価で、居住ビザの資格を得るためには、条件を満たした事業に500万豪ドル(約5億1000万円)投資する必要がある。しかし、投資家が永住権を得るために同国に居住する必要がある期間は、4年間で160日だ。

 中国の移民希望者がそのほかの場所に目を向けるにつれ、これまで考えられなかった目的地も出てきた。移民問題専門家によると、昨年はキプロスが人気だった。キプロスの期間3年の査証を取得するためには、少なくとも30万ユーロ(約3800万円)の不動産を購入する必要があるが、この査証があれば欧州連合(EU)の加盟国全てを訪問できるようになる。

 中国本土の顧客を持ち、香港を拠点に活動する弁護士、デニー・コー氏は、「キプロスは中国で大々的に宣伝されたために、多くの人々が動いた」と話した。

 しかし、キプロスへの関心は、同国の経済問題を理由に薄れた。そのため、一部の業者は関心を呼び起こすために新たな戦略を試している。国営新華社通信によると、北京で不動産の展示会を行ったキプロスの不動産開発会社は、30万ユーロでアパート物件を購入しようとしている中国の投資家に、1棟の価格でもう1棟購入できるという条件を提示した。

 移民専門家は、欧州ではポルトガルが次の人気の移民先になりそうだと話している。北京に本拠を置く移民コンサルティング会社、ウェル・トレンドのラリー・ワン社長によると、ポルトガル政府は最近のキプロスの成功をまねて、6年間で市民権に変更できるような居住査証を発行したいと考えているという。価格は50万ユーロだ。

 同社長は「不動産は中国人に常に好まれるため、こういった制度は魅力的だ」と話し、条件もそれほど厳しくないと付け加えた。投資家は査証維持のために年7日ポルトガルに住む必要があるが、語学力の試験を受けなくても市民権を取得できる。

 キプロスと同様、中米のセントクリストファー・ネービスも制度を設けて近隣諸国の手本となっており、アンティグア・バーブーダも近く同じような移民制度を施行するとみられている。前出のコー氏は「わたしの顧客の99%はセントクリストファー・ネービスの名前を聞いたことがない。しかし、人々は自由な旅行や資産計画、中国本土企業の海外上場を目指す場合の市民権の確保といったことを念頭に、査証の獲得を目指す」と話す。

 欧州の富裕層とつきあう夢を持つ大富豪はスイスやモナコを目指す。これらの国々では資産がより安全に管理できると考えられている。投資家がこれらの国々で居住権を得るためには、地元政府と定額税について交渉をする必要があり、これは安くない。居住権を維持するのに、少なくとも年間100万ユーロ支払わなければならないとみられる。コー氏は「ものすごく高額の資産を持つ人向けの特別な目的地だ」と語る。
wsj.com

 

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コメント
 
01. 2013年5月14日 16:22:58 : niiL5nr8dQ

金利上昇は株式への資金シフトが要因=麻生財務相
2013年 05月 14日 10:25 JST
[東京 14日 ロイター] 麻生太郎財務相は14日朝の閣議後会見で、最近の長期金利上昇は、騰勢を強める株式市場への資金シフトが背景にあると指摘し、市場参加者の判断として「当然の流れ」だと述べた。

<円高進行なら資金シフトは起こらず>

財務相は金利上昇の要因を「債券を売って株に買い替えている人が増えてくれば、という流れが一番大きい」と分析。市場動向には「こちらがどうのこうの言う筋の話ではないし、誘導する話でもない」としながら、「(長期)金利が0.7%とか、そういう前後で動いているのであれば、資金を運用しようとする人なら、株式配当のほうが(利益確保が)固いとか、株式の上昇傾向が強いとかいうなら、そちらにお金がシフトするのは運用する人には当然の流れ」だと述べた。

財務相は市場関係者の将来予想にも言及。「インフレ率2%(が実現する)なら、そういくのはむしろ自然だと思う。ただ、危ないと思えばまた国債で、という人もいるだろうし、円が高くなると思えば、じっと持っていれば、金利がつかなくても円が高くなるからいいと思う人もいるだろう。それはマーケットの判断。こちらから言う話ではない」とした。

金利上昇に伴う金融機関への影響を記者から問われた財務相は「貸出金利を上げるなら、預金金利も上げてもらわないと、それは何となく、という話になる」と応じたが、「貸出金利が上がるほど資金需要が出てくれば、ちょっとしたもの。まだそこまでいっていない。今の段階では何とも言えない」と話した。

<円安効果、功罪両面が付きまとう>

円相場については「為替についてのコメントはしない」と前置きしたうえで、前週末の主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で「円が言われた事実はない」と述べ、円安への批判はなかったと重ねて強調。同時に「円は安くなればいいこともあれば、そうではない面もあるのは当たり前。必ず両方つきまとう、避けがたいものだ」としながら、円安による輸入物価上昇には「一定の対応は当然していく」との考えをあらためて示した。

(ロイターニュース 基太村真司;編集 田中志保)


4月国内企業物価指数、円安で1年1カ月ぶりマイナス脱却
2013年 05月 14日 09:47 JST
[東京 14日 ロイター] 日銀が14日発表した4月の国内企業物価指数(速報値、2010年=100.0)は前年比0.0%の101.4となり1年1カ月ぶりにマイナス圏から脱却した。円安を背景とした電力料金や飼料、木材、鉄鋼のの値上げなどが理由。前月比では0.3%上昇し5カ月連続のプラスとなった。

ロイター集計の民間予測中央値は前年比マイナス0.2%、前月比プラス0.1%だった。

5カ月連続で前月比プラスとなったのは米量的緩和第2弾(QE2)の影響で商品市況が上昇していた2010年12月─11年4月以来。

主な上昇品目は、電力・都市ガス・水道(前年比6.4%上昇)、食料品・飼料(同0.6%上昇)、製材・木製品(同6.0%上昇)など。米国の住宅市場回復による輸入原木価格の上昇に円安が拍車をかけているという。

一方、鉄鋼(前年比5.0%下落)、情報通信機器(同6.2%)などは下落した。

4月の輸出物価はドル建てなど契約通貨ベースで前年比2.9%下落した。円安を背景に北米向けに自動車や関連部品の価格が下落した。輸入物価は円ベースで前年比9.5%上昇と5カ月連続で上昇した。

(ロイターニュース 竹本能文:編集 内田慎一)



輸出企業は円安利益の還元を、金利上昇は財政再建に影響=経済再生相
2013年 05月 14日 09:05 JST
[東京 14日 ロイター]  甘利明経済再生担当相は14日午前の閣議後会見で、為替市場で円安が進行していることについて、相場は乱高下しないことが大事とし、円安で利益が上がっている輸出企業に対して社会への還元を要請した。

また、長期金利の上昇は財政再建に影響すると懸念を示した。

甘利担当相は、一時1ドル=102円台を付けるなど為替市場で円安が急速に進行していることについて「為替の水準には言及しないが、基本的に乱高下しないことが大事だ」との認識を示し、「各種政策を通じて(為替が)落ち着いて推移するよう、政府として常日頃努めることは当然」と語った。その上で、円安が日本経済に与える影響に関し、「プラス面が社会に還元されることが大事」と指摘。特に、円安によって利益が上がっている輸出企業に対し、「利益が経済全体に回るような還元の仕方を考えてもらいたい。引き続きそれを要請していきたい」と述べた。

また、円安・株高の進行を背景に国債市場では金利が上昇。13日には長期金利が一時0.800%を付けた。これについて甘利担当相は「金利が上昇すれば、国債の利払いに跳ね返る。財政再建への影響も当然ある」と懸念を表明。政府・日銀として「市場との対話をしっかりやり、国債管理政策をしっかり行うことを通じてボラティリティを下げていくことに引き続き努力する」と語った。

(ロイターニュース 伊藤純夫:編集 内田慎一)

為替は基本的に乱高下しないことが大事=甘利経済再生相 2013年5月14日
為替水準についてはコメントしない=円安で菅官房長官 2013年5月13日
米経済回復の兆しの強まりがドル買いの要因=甘利経済再生相 2013年5月10日
株価の堅調推移は歓迎、アベノミクス効果が実体経済に反映=再生相 2013年5月7日

ECB専務理事、銀行同盟設立に向けた独財務相の提案に反論
2013年 05月 14日 02:52 JST
[フランクフルト 13日 ロイター] 欧州中央銀行(ECB)のアスムセン専務理事は、欧州の銀行同盟の実現に向けショイブレ独財務相が提案した2段階アプローチについて、銀行清算機関の設立と銀行監督一元化は同時に実現する必要があるとし、反対する立場を示した。

ショイブレ財務相は英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)への寄稿で、現行の条約は銀行監督の一元化に向けた基礎になるものの、破たん行の再編や清算のための集権的な機関の基礎にはならないと指摘。

条約の改正なしに「木造の」限定的な同盟を立ち上げることで、将来的に「鉄骨の」同盟を実現する時間を稼げるとし、実現に向け2段階のアプローチを取るよう提案した。

これについてアスムセン専務理事は独ウェルト紙に対し、銀行同盟の目的は、欧州の銀行システムの危機対応力を高めることでなくてはならないとし、「この目的を最も確実に達成できるのは、一元化された清算体制、銀行による出資でまかなわれる単一の清算基金、および一元化された清算権限だ」と指摘。

これらすべてが銀行同盟発足時に利用可能となっている必要があるとの立場を示した。

欧州連合(EU)首脳は前年6月、銀行同盟の設立で合意。設立に向け第1段階となるECBによる銀行監督一元化は2014年半ばには実現される見通しだが、その次の重要な段階となる清算機関、および清算基金の設立、さらに第3段階となる預金保険機構の設立については、実現の見通しは不透明となっている。


スペインとポルトガル、完全なかたちでの銀行同盟実現を支持
2013年 05月 14日 10:18 JST
[ブリュッセル/マドリード 13日 ロイター] スペインとポルトガルは13日、ユーロ圏が銀行同盟を実現させるよう求めた。ドイツは一方、破綻行の対応という中核的な要素について、条約改正の必要性を指摘している。

スペインのラホイ首相は記者団に対し、「銀行同盟について計画された日程を守り、世帯や小規模企業に信用が供給されるような措置を講じることが必須」と述べた。

ラホイ首相はポルトガルのコエリョ首相との会談後に、「銀行同盟は欧州連合(EU)の信頼性を試すものだ」と述べた。コエリョ首相も、ラホイ首相の呼びかけを支持している。

一方、ドイツのショイブレ財務相は英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のオピニオン欄への寄稿で、新たな銀行清算の仕組みの裏付けとなるよう、条約改正が必要との見解を再度示した。

条約改正を回避して銀行同盟のようなものを導入するため、現時点ではEUレベルでの新たな清算機関より、国レベルでの関係機関の協調したネットワークに注力するよう提案している。これが「鉄骨ではなく、木造の銀行同盟」になるとしている。

欧州中央銀行(ECB)の下での銀行監督の一元化は計画通り実施される見通しだが、銀行閉鎖を担う単一の機関設立は、ドイツ側の指摘により、すぐに実現しそうにない。

ユーログループ(ユーロ圏財務相会合)のダイセルブルーム議長(オランダ財務相)は記者団に対し、「銀行同盟の多くの要素は実現可能。条約改正については、今後対応できる」と述べたうえで、ドイツ側は理解できる疑問を掲げており、対応しなければならないが、銀行同盟実現に向けた取り組みがそれで阻害されるとは思えない、としている。

イタリア、国際支援要請に踏み切るべき=スマギ前ECB専務理事
2013年 05月 14日 06:17 JST
[ミラノ 13日 ロイター] ビーニ・スマギ前欧州中央銀行(ECB)専務理事は、長期的な経済・銀行改革を実行に移すため、イタリア新政権は国際金融支援の要請に踏み切るべきとの考えを示した。

前年、任期満了を待たずにECB専務理事を退任したビーニ・スマギ氏はミラノで開催された会合に出席した際インタビューに応え、イタリアの国債利回りは2011年11月時点と比べると約半分の水準になったものの経済情勢は依然として厳しいと指摘。

「国の運営、経済の機能の仕方を根本的に変えることを目的とした非標準的な措置がイタリアには必要だ」と述べ、ショック療法が必要との考えを示した。

ユーロ圏第3位の経済規模を持つイタリアでは、若年層の10人に約4人が失業し、企業の資金調達も厳しい状況が続くなか、政治的な不透明性により投資も滞っている。

ビーニ・スマギ氏はこうしたなか、イタリア政府は予防的な支援プログラムを申請するべきとの考えを表明。「新政権が国際支援の要請に踏み切れば、大胆な改革策について協議する必要が出てくる。これにより中期的な先行き不透明性が大幅に解消される」と述べた。

そのうえで、拘束力のある改革策がなければ、基盤がぜい弱な連立政権の下で、改革実施は市場の力で強制的に緊縮策を実施せざるを得なくなるまで先延ばしにされる可能性があると警告した。


レッタ伊首相、閣内の政治対立回避に腐心
2013年 05月 14日 01:25 JST
[サルテアーノ(イタリア) 13日 ロイター] イタリアのレッタ首相は13日、閣内の政治対立を避け政策立案に集中するため、各閣僚に対し公の場で見解の相違を鮮明にしないよう要請した。各閣僚は内閣発足後100日間は直接管轄外の分野に関するインタビューも受けない。

レッタ首相は「政治対立が焦点になると、直ちに壁に突き当たるため、われわれは政策立案に集中する必要がある」と述べた。

発足後間もないレッタ内閣は、税制や移民制度、さらにベルルスコーニ元首相が抱える法的問題など、さまざまな意見の対立で揺れている。

レッタ首相は閣僚の間のチームワークを醸成するため、トスカーナ州のサルテアーノで2日間にわたり会合を開催。同会合を通して、若年失業率、景気後退からの脱却、選挙法改正、税制改革など、内閣発足後100日間で対処する問題に関する基本的な方針を確認したと述べた。

同首相によると、各閣僚はこの期間は、近く行われる市長選挙に関わる政治活動に参加せず、直接管轄する分野以外についてのインタビューも受けない。

レッタ伊首相、ベルルスコーニ氏の中道右派に警告
2013年 05月 13日 11:51 JST
[サルテアーノ(イタリア) 12日 ロイター] ベルルスコーニ元首相の脱税事件をめぐる支持者らの抗議デモを受け、イタリアのレッタ首相は12日、連立相手であるベルルスコーニ氏の中道右派勢力に対し、論争が政府の今後をリスクにさらしたと警告した。

北部のブレシアで週末に行われたデモには、ベルルスコーニ氏の自由国民(PDL)から閣僚が参加しており、長年の政敵である右派と左派を内部に抱えるレッタ政権内の緊張関係が露呈した。

ベルルスコーニ氏が脱税に問われている事件では、禁固4年とする判決が先週に控訴審でも支持されているが、同氏は司法当局が政治的に自身を排除しようとしていると批判した。

レッタ首相の報道官は12日遅くに記者団に対し、「ブレシアでのような出来事は受け入れがたく、繰り返されてはならない。悪影響が政府の結束力を上回るからだ」と述べた。

オランド仏大統領、結果出せない閣僚は交代と約束 2013年5月8日
中国首相、人民元の完全な兌換性実現に向けた詳細な計画策定を要請 2013年5月6日


ロイター調査:ECB預金金利マイナス、短期市場で予想されず
2013年 05月 14日 00:50 JST
[バンガロール 13日 ロイター] ロイターが実施したエコノミスト調査によると、欧州中央銀行(ECB)は中銀預金金利を現在のゼロ%からマイナス圏に引き下げることはないとの予想が短期金融市場関係者の間で大勢となっている。

ただ、実際に引き下げた場合の影響については意見が分かれている。

ECBは2日の理事会で、主要政策金利であるリファイナンス金利を0.25%ポイント引き下げ0.5%に、上限金利の限界貸出金利を1.50%から1%に引き下げたが、下限金利の中銀預金金利は0.0%に据え置いた。

ドラギECB総裁は理事会後の会見で、中銀預金金利をマイナス圏に引き下げる可能性について、「技術的には用意が整っている」と発言。

さらに、ECBメンバーのビスコ・イタリア中銀総裁は13日、CNBCのウェブサイトに掲載されたインタビューで、ユーロ圏経済を支援するため、ECBは預金金利をマイナスに引き下げる可能性があるとの見解を示した。

ビスコ総裁のインタビュー内容が伝わった後にロイターが実施した調査によると、ユーロ圏の短期金融市場トレーダー25人のうち、22人がECBは預金金利をマイナス圏に引き下げないとの見方を示した。

ロイターが前週エコノミストを対象に実施した調査でも同様の結果が出ている。

ECBが実際に預金金利をマイナス圏に引き下げた場合、市中銀行が資金をECBにオーバーナイトで預け入れる際に、ECBに対し利子を支払うことになる。

短期金融市場トレーダーの間ではこうした措置の影響に対する見方は分かれており、回答した23人のうち12人が、無担保市場の取引は現時点ですでに低調となっているため、こうした取引が経済的な合理性を欠くようになったとしても、大きな影響は出ないとの見方を示す一方、残りの11人は影響が出るとの見方を示した。


イスラエル中銀利下げ決定、シェケル高抑制に向け外貨買い入れへ
2013年 05月 14日 02:37 JST
[テルアビブ 13日 ロイター] イスラエル銀行(中央銀行)は13日、主要政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き下げ1.50%とすることを決定した。適用は5月17日。

また、天然ガス生産の影響を相殺するために外貨の買い入れを行うことも決定した。

中銀はシェケルの上昇が続くなか、臨時の政策決定会合を開催。沖合いのタマル・ガス田の生産開始に伴う影響、および世界の主要中銀の金融緩和策や世界的な経済成長率の下方修正などを踏まえ、こうした決定を行った。

中銀は声明で、「イスラエル中銀は、天然ガス生産が国際収支に及ぼす影響に関する中銀の判断に沿い、年内に外貨の買い入れを開始する」と発表。年内の買い入れは約21億ドルになるとの見方を示した。

イスラエルでは2018年に政府系ファンドの立ち上げが予定されており、中銀は同ファンドの設立に伴いこうした買い入れを見直すとしている。

シェケルは過去3カ月間で約5.4%上昇。中銀はシェケルの対ドルと対ユーロでの上昇は他の通貨の動きと比べて際立っているとしている。

中銀のこの日の決定を受け、シェケルは対ドルで1%以上下落した。

イスラエル中銀の次回政策決定会合は5月27日。


4月インド貿易赤字は金の輸入急増で大幅拡大、CPIは鈍化
2013年 05月 13日 19:37 JST
[ニューデリー 13日 ロイター] インド政府によると、4月の貿易赤字は金の輸入急増を受けて大幅に拡大した。一方、消費者物価指数(CPI)の伸びは鈍化した。

4月の貿易赤字は、前月比72%以上増加し178億ドル。世界的な価格下落で個人が金購入に走ったことが響いた。

4月の金・銀の輸入は、前年同月比138%増の75億ドルだった。

インド中銀は今月、政策金利の25ベーシスポイント(bp)引き下げを決定。高水準の経常赤字はインド経済にとって最大のリスクとの認識を示した。

また、経常赤字とインフレ高進リスクにより、追加の金融緩和の余地はほとんどないとの見解を明らかにしている。

インドの2012年10─12月期経常赤字の対国内総生産(GDP)比率は、過去最高の6.7%に上昇した。

一方、4月のCPI上昇率は前年同月比9.39%で、2012年2月以来の低水準となった。伸びの鈍化は2カ月連続。

食品価格の上昇率は前年比10.61%。3月は12.42%だった。

14日発表の卸売物価指数(WPI)は、ロイター調査では前年比5.50%上昇と2009年11月以来最も低い伸びが予想されている。

ノムラの13日のリサーチノートは「CPIとWPIの伸び鈍化に加え、成長率も依然として低迷していることから、今年はこれから合計で50bpの利下げがあると予想する」としている。



http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20130508/349871/
NYダウが最高値を更新 米景気の回復はホンモノか?
2013年5月10日

「黒田ショック」がもたらす「最善のシナリオ」と「最悪のシナリオ」
2013/5/7
新聞やニュースなどで、大手小売りの業績が回復してきたと報道されています。アベノミクスによる株価上昇から、消費心理が改善してきたということです。この回復基調は本物なのでしょうか。

本当に小売の業績は回復基調にあるのか?

 この回復基調は本物なのか、まずは「小売業販売額」の推移を見てみましょう。


 2013年1月、2月と、前年比マイナスが続いています。つまり、指標には、改善の様子が現れていないのです。これは、なぜなのでしょうか。

 注目すべきポイントは、いくつかあります。一つは、報道では「大手小売りの業績が改善」と言っている部分です。大手だけの業績を見れば、確かに改善しているのかもしれませんが、中小を含めた小売業全体の業績がいいのかどうかには触れられていません。中小規模の小売業には、まだ好影響が及んでいないと考えられます。3月以降のこの数字の動きに注意が必要です。全国百貨店売上高は、3月は前年比プラス3.9%となっています。それまで、ほぼゼロ近辺で推移していたのと比べて大きなアップです。これは、株高の影響もあり、百貨店では高額品の伸びが大きいとのことです。

 もう一つは、なぜ大手小売りが伸びているのかという理由が、しっかりと分析されていないという点です。実際に需要が拡大していて、利益が増えているのか。それとも、仕入れ価格を叩いて、利ざやを稼いでいるのか。この部分をしっかり見極めなければなりません。

 ここを分析しておかないと、来年4月に消費税増税が行われた時に、中小の仕入れ業者が大変な苦労をする可能性があるのです。

 公正取引委員会は、「消費税増税の際には、大手業者が強い立場を利用して、仕入れ業者に圧力をかけ、値下げをさせてはいけません。消費税還元セールを行うことも禁じます」と呼びかけています。しかし、仕入れ業者が自ら努力することは禁止されていないのです。

 消費が伸びず、デフレ傾向が脱却できない中で、消費税が上がってしまったら、中小の仕入れ業者が大変な「自社努力」を強いられる恐れがあるのです。当然、景気そのものも失速するでしょう。

 こうした事態に注意するためにも、2013年2月決算において、なぜ大手小売りの業績が回復基調にあるのかという分析が必要です。売上高原価率を下げているのか。それとも、売上高そのものが増えているのか。この点をしっかり検証していかなければなりません。

>> マクロの数字から、現在の景気を見極める

マクロの数字から、現在の景気を見極める


 小売業の指標以外にも、気になる数字の動きがいくつかあります。一つは、「広告扱い高」です。

 この推移を見ますと、2013年2月、3月と前年比マイナスが続いています。この指標は名目GDPとパラレルに動きますから、多くの人が思っているほど名目GDPが改善されていない可能性があるのです。景気が一本調子に上がっているような論調が出ていますが、この数字を見る限り、そうとは限らないのではないかと感じます。

 雇用の数字も、改善しているとは言えません。

 2013年2月の「有効求人倍率」は0.85倍で止まったまま。また、「完全失業率」は4.3%と若干悪化しています。

 おそらく、大手小売業やグローバル企業の業績、株価など、一部だけをとらえれば、明るい兆しが出ているということなのでしょう。しかし、指標を全体的に見ますと、まだ上向いているとは言えません。3月以降の指標の動きを注視する必要があります。


>> 活況取り戻す株式市場

活況取り戻す株式市場

 ただ、確かに、株式市場だけは活況を取り戻しています。

 「東証一部」の「上場株時価総額」を見ますと、政権交代の機運が高まっていた昨年11月は274兆円だったのが、今年3月には363兆円まで上昇しています。表にはまだ載っていませんが、4月はさらに上昇しています。400兆円まで回復しています。(4月22日現在)


 このように、5カ月の間に約100兆円以上も時価総額が上がっているのです。これは非常に大きな額です。例えば、100兆円を日本の人口1億2700万人で割れば、約80万円。つまり、一人あたり80万円ほど株主資産が増えたことになります(もちろん、国民全員が多くの株式を保有しているわけではなく、実際には投資家や公的年金などが大量に持っているわけですが、単純計算でこれだけ増えているということです)。先ほども百貨店で高額品が売れていると書きましたが、個人でも株式を多く保有する富裕層に、いわゆる「資産効果」が表れはじめていると言えます。

 「一日平均売買代金」も急速に増えています。昨年11月は1兆2000億円程度だったのが、今年3月には2兆5000億円まで増えていますね。4月には、3兆円を超える水準が続きました。以上の点から、金融市場が活況を取り戻していることは間違いありません。

 この好影響が、金融市場だけで終わってしまうのか。それとも、これから実体経済まで回ってくるのか。ここを見極めなければなりません。

>> 最悪シナリオと最善シナリオ

最悪シナリオと最善シナリオ

 もし、こうした金融市場の活況がミニバブルで終わってしまったら、大変なことになります。今後、どんなシナリオが考えられるのでしょうか。

 まずは、最悪のシナリオについてお話しします。今年3月末に、中小企業を救済する目的で実施されていた金融円滑化法が終了しました。その後、政府は中小企業に何をしようとしているのでしょうか。企業再生支援機構がJAL株を売却して得た利益3000億円を使って、金融円滑化法を利用していた中小企業に対して支援を行おうとしているのです。

 具体的に、どんな支援なのか。同円滑化法を利用していた30万社もの企業に対し、弁護士や会計士などの専門家によるアドバイスをしていこうというのです。ただ、この「アドバイス」は、一部の経営改善が進まなかった企業に対しては、破綻処理のアドバイスを行うと言われています。

 言い換えますと、一部の企業にとっては、これから半年間ほどかけて、会計士と弁護士と銀行で破綻処理について協議しましょうという話でしかない可能性があるのです。

 30万社のうち、破綻処理する会社が1割だったとしても、3万社。これらが破綻していく可能性があることを考えますと、半年後くらいから倒産件数がじりじりと増えてくる可能性があります。


 「企業倒産件数」を見ますと、金融円滑化法が施行された2009年末以降、2013年3月まで、月1000件前後という非常に低い水準が続いています。年間1万2000件くらいのペースということを考えますと、3万件という数のインパクトの大きさがお分かりになるでしょう。一気に3万社が潰れるということはないでしょうが、何年かに渡って倒産させていくにしても、大変な話です。

 さらに、来年の4月には高い確率で消費税が現行の5%から8%に上昇します。以前もお話ししましたが、そこで景気が失速することは間違いありません。ただ、より最悪なのは、その前後にミニバブルが破裂して、市場のマインドが冷え込んでしまうことです。マインドが冷え込んで消費税が上がると、ますます消費が減少してしまいます。

 こうした事態に陥っても、政府ができる対策は何もありません。金融緩和はこれ以上できませんし、財政出動も、ここまで財政が悪化しているわけですから、大規模なことはできないでしょう。もう手立てはないのです。

 このように、倒産件数がじわじわ増える中でミニバブルが崩壊し、その前後で消費税が上がるという3重苦に見舞われるというのが最悪シナリオです。この中で、欧州危機が再燃でもしたら、日本経済は目も当てられません。

 一方、最善シナリオは、どのようなものでしょうか。日銀がマネタリーベースを増やし、株価が上がっている間に、企業や国民が納得できるような経済対策が発表されることです。

 ここで「日本の産業の将来は明るい」という期待が生まれますと、企業は投資を増やしますから、ミニバブルの間に企業業績が改善し、実体経済まで回復してきます。税収も、今年は43兆円になると言われていますが、結果的にそれ以上を得ることができるようになる。こうして、日本のプライマリーバランス(基礎的財政収支)をバランスさせられる兆しが少し見えてくる。これが最善シナリオです。

 しかし、それはなかなか難しいでしょう。鍵となるのは、6月に発表される予定の成長戦略が、日本企業の心をつかむのかどうかに懸かっているのです。

>> 米国とのTPP参加交渉には大失望

米国とのTPP参加交渉には大失望

 成長戦略に関連して、私が強く懸念しているのが、環太平洋経済連携協定(TPP)参加交渉です。4月12日、TPP交渉参加に向けた日米の事前協議が終わりました。私は、はっきり言ってその内容には失望しました。大失望です。

 まず、米国への自動車の輸出関税撤廃について「可能な限り後ろ倒しする」という結論になったことです。これは、「やらない」ということと同義です。現在、米国へ自動車を輸出する際、自動車2.5%、トラック25%の関税がかかっています。これが撤廃されれば、米国という世界最大の自動車市場に関税なしで輸出することができます。

 日本の自動車業界は、それに強い期待を抱いていました。ベトナムやシンガポールなどの国々ではなく、巨大市場の米国に売りたかったのです。米国とその他の参加国とでは、市場の規模が桁違いですからね。

 しかし、今回のような結論になった以上、今後は日米間でその議論を持ち出すことは当面は難しくなってしまいました。

 自動車だけでなく、農産物に関しても、「センシティブな品目として」という表現が使われていました。結局は、農産物も現状と変わらないという話です。このままでは、強い農業になるきっかけをつかめないまま、現在60歳代後半の農家の平均年齢が今後も上がっていくだけになってしまいます。

 確かに、日本がTPP参加交渉に向けて動き出したことは評価します。しかし、日本の産業を強くするために交渉を進めなければ意味がありません。

 TPPというのは、参加が目的じゃないはずです。それによって、日本の産業が活性化されるかどうかが大事なのです。しかし、政府にとっては、参加が目的になってしまっている。

 政治的に考えれば、理解できないわけではありません。現状の北朝鮮や中国との関係を考えれば、日本は、米国の安全保障の傘の中にいないとまずいのですから。TPPはオバマ大統領が強力に押し進めているものですし、それに対して日本が「交渉にも参加しませんよ」という態度をとれば、日米同盟に亀裂が入ってしまいます。

 ですから、安全保障の面から考えますと、日本がTPP交渉に参加さえすれば、米国としても文句は言えません。逆に言いますと、政府の本音は、参加の格好を示すということが今回の目的だったということです。

 しかし、我々経済人から見れば、とてもがっかりした交渉内容でした。結局は、経済という面からは骨抜きにされたということです。これでは、TPPに加盟したとしても、日本経済が恩恵を受けることはほとんどないでしょう。今までと変わらない状況が続くと思います。

 6月に発表される成長戦略も、このような本質の伴わない内容では困ります。

>> 奇抜な金融政策より、本気の成長戦略を

奇抜な金融政策より、本気の成長戦略を

 これから、政府はどのような成長戦略を打ち出せばよいのか。結論から言いますと、日本でしかできない産業を伸ばすことを考えなければいけません。

 例えば、鉄道事業です。日本の鉄道は、運行システムを含め、世界に冠たる技術を持っています。博多から東京まで1179.3キロ。これを15秒の誤差で動かしているのです。世界中の鉄道を探しても、ここまで正確かつ高速に、そして安全に運行できる鉄道はありません。

 それから、航空宇宙産業も優位性のある産業です。ロケットは、開発初期の頃は発射に失敗していましたが、現在の成功率ほぼ100%です。これとあわせて、航空宇宙産業を支える部品や素材産業も、非常に有望な分野です。

 農業も、強い農業を育てる政策を行えば成長産業にできますし、輸出産業にすることも可能です。日本の農産物の評価は世界でも非常に高いのです。ただし、以前も述べたように、今までのような「農家を守る政策」を進めるだけでは、強い農業をつくることはできません。

 その他、精密機械やアニメ、自動車や部品などの分野も優位性があると言えます。

 しかし、こうした多くの有望産業は、高い法人税や労働規制、貿易の自由化の遅れ、電力不足などに押さえつけられているのが現状です。特に、優秀な企業であるほど利益を上げ、法人税が高くなることが、成長の大きな妨げとなっています。高額な法人税を払ってしまうと、再投資ができませんし、優秀な人を雇うことも難しくなります。ここを改善しなければ、海外進出(=空洞化)が続くこととなります。

 ですから、成長戦略では、有望分野を伸ばすことと併せて、そのキャッシュフローや経営環境を改善させる政策も打ち出すべきだと思います。

 6月の成長戦略の内容に、私は強く期待しています。逆に言いますと、4月に打ち出した「異次元金融緩和」には、マネタリーベースを増やすことで企業の資金需要を喚起させ、M3(マネーサプライ)を増やすという大きな目標がありますから、企業が期待するような成長戦略が出なかった場合の失望感は大きいでしょう。

 金融政策は、今回のようにあまりに大胆な内容だとリスクも大きいですから、失敗したときには目も当てられないことになるでしょう。しかし、成長戦略は、ぜひとも大胆なものを発表してほしいですね。日本経済を根本から強くするような、そして企業や国民をあっと言わせるようなものを出していただきたいと願います。そうであれば、大胆な金融政策が生きてきますし、逆にそうでなければ、大胆な金融政策はバブル崩壊へと続くことになりかねません。

(つづく)
>> 本連載は、BizCOLLEGEのコンテンツを転載したものです

◇   ◇   ◇

小宮一慶(こみや・かずよし)


経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』(日経BP社)――絶賛発売中!

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http://bizacademy.nikkei.co.jp/column/2052-keikoku/article.aspx?id=MMAC0l000009052013&waad=fAS3oiky
第3回 次なる40年の未来予測『2052』に対する質問に答えよう(上)
ヨルゲン・ランダース(BIノルウェービジネススクール教授)
2013/5/13
 世界が資源枯渇や持続可能性について考えるきっかけになった世界的シンクタンク、ローマ・クラブによる世界予測『成長の限界』(1972年)。その著者の一人、ヨルゲン・ランダースが40年の時を経て発表した新たな未来予測『2052 今後40年のグローバル予測』を読み解いていく。今回からは、よく聞かれる16の質問にランダース自身が答えた著者自身による解説を3回にわたってお届けする。

◇   ◇   ◇


 1.あなたは1972年に発表された『成長の限界』の研究メンバーの一人で、その後も研究結果をフォローアップしてきました。なぜ、『2052』で新しい予測を行おうと考えたのですか?

 私は1972年から40年にわたって、世界を持続不可能な状態から守るために活動してきたが、成果は限定的であり、次の40年間に起きることが非常に心配になった。それが新たな予測をしようと思った理由だ。『2052』の中に予測結果を盛り込んだ。

 成長の限界とそのフォローアップ研究は、異なる複数の未来を描いたシナリオ分析だった。どのシナリオが私たちにとってメリットがあり、持続不可能性を少しでも減らすことができる政策は何なのかをあぶり出そうとした。

 『2052』はシナリオ分析とはまったく異なるアプローチを取った。現在から2052年までという長い期間のうちに、最も起きそうなことはいったい何なのかをシンプルに記述した。予測に際しては、最新のコンピューターモデルを使っただけでなく、人間の意思決定がこの先どのように行われるのか、私には確信に近い予想があり、それを反映させた。

 私は数十年もの間、未来について心配し続け、自分の心の平安を取り戻すためにこの本を書いた。『2052』で予測した未来は、私が望んでいる未来ではない。しかし、この先に何が起きるのかを知ったことで心を落ち着けることができた。

 私自身もそうだが、人々は2つの理由から未来を覗いてみたいと思う。もちろん第一の理由は、未来を変えるためである。人類はおろかな過ちを犯しがちなので、未来を知ればその過ちを避けられるかもしれない。2つ目の理由は、私たちを待ち受けているであろう世界の中で、どのように生きていくか準備するためである。そこで、私は『2052』の最終章に、未来の世界であなたやあなたの子ども、孫の生活をより良いものにするための個人的なアドバイスを載せた。

>> 最大の脅威は自己増強し始める気候変動

 2.未来に関して、あなたは楽観的なのか、それとも悲観的なのか? 人類にとって最大の脅威は何だと思うか? 人類にとっての希望は何だと思うか?


ノルウェービジネススクールのヨルゲン・ランダース教授
 私は心配している。人類は、合理的な政策で世界を動かす決断を下せば実現できたはずの未来よりも、ずいぶん魅力が劣った未来を自らの判断で作るのではないかと。しかし、悲観的というのは、私の感情を表す表現としてはベストではない。

 ベストの説明は「悲しみ」だ。私は悲しい。なぜなら、地球社会はこの先数十年の間、間違った判断や決断を下そうとするからだ。その結果として、まったく魅力のない未来が形づくられてしまうだろう。

 私たちにとっての最大の脅威は、自己増強をし始める気候変動だ。未来において最大の損失は、2052年までに温暖化が進むことが原因でもたらされる。そして、21世紀後半、気候変動に歯止めが利かなくなる。

 しかし、私が楽観的か悲観的か、あるいは楽しいか悲しいかは、実のところ関係ない。重要なのは、次のことだ。『2052』予測で描かれた結論は単純明快である。私たちはより良い未来を実現するために、今後も行動しなければならない。もし、未来が暗いなら、前向きな人々の献身的な努力は暗さを減らしてくれるだろう。何もしないでなすがままに未来を迎えるよりも、行動することに大きな価値がある。

 3.『2052』では多くの科学者やエコノミスト、持続可能性の指導者たちが(彼らはあまりそういうことをしたがらないのだが)、未来に起きるべきことではなく、彼らが実際に起きると考えていることを予測している。これは勇気ある行動である。何があなたと彼らにそういうことをさせたのか?

 多くの専門家は、特定の時期に関する予測を行うことを普通はあまり好まない。しかし、私は多くの識者に2052年の生活を予測するメンバーに加わってほしいと声をかけ、未来に対する非常に優れた見識を得ることができた。2052年の世界に関して個人的な見解を寄せてくれた40人の寄稿者は、世界経済や資源など未来のかぎを握る分野の一流の専門家たちだ。これによって、最も詳しい専門家が何に関して将来を心配しているのか示されたのではないかと思う。

>> 地球全体では温暖化ペースは速まっている

 持続可能性について活動している私たちの多くは、将来本当に起こりそうな危機について、口にするのをはばかる傾向にある。未来に関する予測結果をそのまま公表したら、みんなの改善に向けた行動や希望を潰すことになりかねない、と危惧するからだ。

 私たちは実現可能であること(起こりそうなことではない)に意識が行きがちである。しかし、ときには、みんなの目を覚まさせるためのベルも必要である。

 4.温室効果ガス削減に向けて行動しようとしている国はあるか。どのような対策が、地球の温暖化を食い止めるのに役立つのか。

 はい。いくつかの国、特にEU圏の国々では、京都議定書にしたがって、温室効果ガスの排出量を減らそうとしている。京都議定書は、2008年から2012年の間に1990年の時点と比べて温室効果ガスを8%削減するよう求めている。EU諸国は京都議定書を順守できそうだが、他の多くの国は遠く及ばないか、何もやっていない国もある。例えば米国では、1990年から2010年の間に排出量を16%も増やしている。

 また、気候変動についての話し合いが持たれているにもかかわらず、地球全体では、90年代よりも2000年から2010年の間のほうが、温室効果ガスの排出ペースは速まっている。

 国際的な温室効果ガス削減の取り決めが地球全体の削減につながることは明らかであるが、次のような悲しい現実がある。いくつかの責任感のある国が行動を起こしても、その他の国が排出し続ける限り、地球全体では十分な量を削減することはできない。実際、EU諸国は温室効果ガスの排出を8%カットしたが、2010年の地球全体の排出量は1990年に比べて45%も増加している。

>> 地球社会は行動を起こす決断を下せないでいる

 5.技術の進歩は(クリーンなエネルギー源の開発を含む)温室効果ガスの排出削減と化石燃料への依存抑制につながるのか。もしそうなら、それらが効果を発揮するには、どの程度の進歩が必要なのか。

 原則的には気候問題を解決するのは簡単である。気温上昇を止めるために、私たちは人為的に発生する温室効果ガスを2050年までに半分にする必要がある。この削減は、既存の技術と驚くほど低いコストで実現可能だ。気候問題の解決にかかるコストはGDPのわずか2〜3%である。

 問題は、地球社会が行動を起こすための決断を下せないことだ。

 では、なぜ決断できないのか。

 問題解決ための行動は、現在の使い慣れた安い方法(例えば、石炭を原料とする火力発電やガソリンで動く自動車)から、もっとお金がかかる方法(風力、太陽光、炭素貯留施設を併設した石炭や天然ガス施設など)へのシフトを意味しているからだ。

 有権者も政治家も資本市場も、安いところからあえてコストのかかる方法に移行することを好まない。それゆえ、そうした手段を選択することはほとんどないだろうし、少なくともシフトはすぐには起きない。しかし、起こさなければないことである。

 私たちは、より高価な(少なくとも新技術が進化して時間とともにより安くなるまでは一時的に高い)解決策を導入することに対して賛同し、すべての人間活動においてエネルギー効率を高め、化石燃料を再生可能エネルギーに切り替えていく必要がある。

 さらに、熱帯や寒冷地帯の森林伐採を食い止めなければならない。これらの森林はCO2を吸収し、大気中への発散を押さえてくれるからだ。

>> 食物システムへの影響 予測難しく

 6.気候変動は私たちの食物供給システムにどのような影響をもたらすのか。地球規模の気候変動によって食物のシステムが最も影響を受けるのは世界のどの地域か。

 大気中の二酸化炭素濃度が上がることによって植物の成長は促進される。それは、二酸化炭素によって光合成が促進されるからだ。これが唯一の影響であるならば、二酸化炭素排出はポジティブと言える。しかし、二酸化炭素排出が増えることで気温が上昇し、多くの場所では農作物の収穫量が減る(ただし、私が住んでいる北ヨーロッパでは、寒さが植物と木にとっての成長阻害要因なので、温暖化で成長が速くなる)。

 二酸化炭素排出が世界の農業生産量に及ぼす影響は次の30年間はほとんどないが、それ以降は気温上昇が二酸化炭素濃度上昇の効果を上回るので、生産高は減少し始める。

 その影響は地域によって大きく異なる。ただし、現在の科学において、各地域がどんな影響を受けるのか正確に予測することはできない。米国のコーンとインドの小麦が最も大きな影響を受けるという予測は存在する。しかし、農民は状況に応じて栽培する作物を代え、消費者はある農作物が売り場からなくなれば、別の農作物の味に慣れようとするので予測するのは難しい。

 端的に言えば、2052年までは食糧が不足することない。食糧に関して問題なのは、今と同じで、多くの人々が食べ物を買えずに飢えていることである。その原因は、農地や水や肥料が足りないといったことではなく、貧困である。2052年においても数十億人が貧しいままで、たとえ食糧を育てる土地があったとしても、そのうちの多く人々は、十分な食糧にありつけない。

◇   ◇   ◇

ヨルゲン・ランダース 

BIノルウェービジネススクール教授。気候問題への戦略や対策、持続可能な発展、シナリオ分析が専門。WWFインターナショナル(世界自然保護基金)副事務局長、BIノルウェービジネススクール校長などを歴任。多くの企業で取締役会の非常勤メンバーとして、持続可能性についてのアドバイスを行う。ブリティッシュテレコム、ダウ・ケミカルの「持続可能性に関する評議会」委員。2006年、ノルウェー温室効果ガス排出対策委員会の議長を務め、2050年までに国内の温室効果ガスの排出量を現在の3分の2に削減するための対策をまとめ、政府に報告した。著書に「成長の限界」「限界を超えて」「成長の限界 人類の選択」がある。


02. 2013年5月16日 09:14:42 : xEBOc6ttRg
ユーロ/ドルが下落、ECBの追加金融緩和観測高まる
2013年 05月 16日 00:43

トップニュース
4月の米鉱工業生産指数は‐0.5%、製造業幅広く落ち込む
2013年度予算が成立、次は成長戦略
米国株式市場・序盤=小反落、予想下回る経済指標を嫌気
第1四半期ユーロ圏GDPは0.2%減、6四半期連続マイナス
[ニューヨーク 15日 ロイター] 15日序盤のニューヨーク外国為替市場で、ユーロがドルに対して下落、一時先月4日以来の安値となる1.2842ドルをつけた。

第1・四半期のユーロ圏域内総生産(GDP)速報値が6四半期連続のマイナス成長で、統計が始まった1995年以降で最長となったことで、欧州中央銀行(ECB)が追加金融緩和に踏み切る可能性が高まったとの見方が広がり、ユーロが売られた。直近では0.3%安の1.2878ドル。

ロイターのトレーディング・プラットフォームによると、ドル/円も一時、2008年10月以来の高値となる102.76円をつけた。米景気回復の兆しから、連邦準備理事会(FRB)が資産買い入れプログラムを年末までに縮小させるとの期待が広がり、米国債利回りが上昇、ドル/円も値を上げた。

ただ、5月のニューヨーク州製造業業況指数が4カ月ぶりのマイナスとなったほか、4月の米卸売物価指数も3年ぶりの大幅な下げ幅を記録、今度はFRBが超金融緩和を続けるとの見方が広がった。直近は0.2%安の102.20円。

関連ニュース

ドル、対円で4日続伸し102円台前半=NY外為市場 2013年5月15日
ユーロが対ドル・円で上昇、好調な独指標で利下げ観測後退=NY市場 2013年5月9日
ユーロが対ドル・円で上昇、好調な独指標で目先の利下げ観測後退 2013年5月8日
ドルが対円で3営業日続伸、強い米雇用統計後の買い続く=NY市場 2013年5月7日
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJE94E00X20130515

【第67回】 2013年5月16日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
長期金利上昇懸念の「から騒ぎ」
?最近の長期金利(10年国債の利回り)上昇について懸念する声が出ている。さらには、黒田緩和は円安、株高には成功したが、長期金利上昇を招き景気に悪影響が出かねない、財政にも支障が出かねない、ひいては財政破綻まであるのでは、という論調まで一部には出ているようだ。

長期金利上昇に伴う3つの懸念

?まず事実を整理しておこう。過去10年間の大きな流れを見ると、小泉時代の量的緩和はそれなりに景気の上向きに貢献したので、2006年3月の量的緩和解除まで、景気の上昇とともに、長期金利も上昇し、0.5%程度から2%程度へと上昇している。その後、金融引き締めで景気も後退し、それとともに長期金利も低下し0.5%程度になっている。

?最近1年間を見ると、長期金利は0.8%程度であったが、今年初めころからアベノミクスで日銀が大量に買い入れたことによって債券価格が上昇(長期金利が低下)したが、4月の黒田緩和で打ち止め感が出て、15日、0.9%台までに上昇した。長期金利の動向については、日本相互証券のデータを参照。
http://www.bb.jbts.co.jp/marketdata/marketdata01.html

?長期金利は、長い目で見れば、かなり名目GDP成長率と似たような数字になることが知られている。同時に今後の短期金利の将来にわたる平均値になるので、将来の動向にも左右される。さらに、市場の需給関係にも短期的な動きが左右される。現在の長期金利は史上最低水準なので、将来の景気好転などの見通しや需給関係により、いつなんどき反発しても不思議でなかった。

?なお、長期金利は変動するもので、日本の過去1年間を見ると0.4%から0.9%程度までと変動幅は0.5%ポイントであるが、アメリカでは10年国債の利回りは1.3%から2.1%程度までと変動幅は0.8%ポイントである。日本が転換期であることを考えれば、変動幅がとくに大きいというわけでない。

?こうした長期金利の動き、特に上昇について、債券部門関係者、旧日銀関係者、財政関係者から懸念が出る。債券部門関係者は、長期金利が上昇することは債券価格の下落であるので、その意味で痛いのは当然だ。そして、デフレ下では、金利低下を受け債券部門は金融機関の稼ぎ頭であった。その稼ぎ頭が危うくなるので、金融機関全体も危ないという論法で、金利上昇の懸念をいう【金融機関問題】。

?そのような経営問題とともに、長期金利の上昇が実体経済に悪影響も与えるという人もいる【実体経済問題】。

?さらに、金利上昇で利払い費が増えるので、財政再建にも支障が出てくるし、ひいては財政破綻も心配になるという人もいる【財政問題】。

3つの懸念はいずれも論拠薄弱

?まず、【金融機関問題】は取るに足らない話だ。債券部門関係者だけが騒いでいるだけだ。

?金融機関の債券部門は、デフレで債券価格が上がれば(金利が低下)利益が出る。逆にデフレ脱却で債券部門の利益が減少しても、やがて(タイムラグはあるが)貸出が伸びてくるので問題にならない。言い方を変えれば、今まで債券部門が儲けていた代わりに、貸出部門はお茶を挽いていたのである。金融機関全体で見れば両者はヘッジの関係にあるので、どちらが儲かっていても構わない。

?金融機関にはALM(資産負債総合管理)という部門が中枢にあって、債券部門が儲からないときには、貸出や株式で儲けられるように、その部門に資源を投入する。もし債券部門がこけて銀行全体が危なくなるようなら、その銀行はまともでない。金融庁もリスク管理は頻繁にチェックしている。

?次に【実体経済問題】。これは名目金利と実質金利を混同している人で、特にマスコミに多い。たしかに、名目金利は一時に比べて上がっただろう。と言っても、1年前の水準くらいでたいしたことはない。

?また、実体経済に影響を与えるのは、名目金利ではなく実質金利(=名目金利−予想インフレ率)である。これは、アベノミクスのキモといえる部分であるが、アベノミクスがスタートした今年初めから、予想インフレ率が急上昇したこともあり実質金利は急速に低下している。1年前と比べると、0%程度だった実質金利は、現在では▲1.4%程度になっている。日本相互証券のこの表の実質イールドのところを見ればいい。
http://www.bb.jbts.co.jp/marketdata/marketdata05.html

?ということは、名目金利が上昇し、実質金利が低下しているという、実体経済に好影響を与えるいい環境だということだ。不思議なのは、実体経済に悪影響という批判をする人に限って、貸出が伸びないので黒田緩和はだめだという。長期金利の上昇になって国債から貸出・株式に投資先を変えるのに、長期金利上昇がけしからんとなると、支離滅裂である。

【財政問題】になると、言いがかりのレベルだ。実質金利が下がり、実体経済に好影響が出るとなるのに、なぜ財政破綻なのか理解できない。しかも、名目GDP成長率が高くなるので税収が増え、財政収支はよくなるから財政問題の解決は容易なはずだ。プライマリー収支は1年前の名目GDP成長率でほとんど決まる(第41回参照)。だから、名目長期金利が高くなっても、名目GDP成長率が高くなれば、全く問題ないのだ。
http://diamond.jp/articles/-/20026

http://diamond.jp/articles/print/35978

アベノミクスを警戒するアジア諸国
溢れかえるマネーが金融の安定を脅かす恐れ
2013年05月16日(Thu) Financial Times
(2013年5月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 過去の量的緩和による資金が溢れかえっているアジア諸国が、新たな資金流入の波に身構えている。「アベノミクス」を受け、日本の投資家や銀行が海外に目を向けざるを得なくなるからだ。

 潜在的な資金流出の規模は推定しづらいが、黒田東彦新総裁率いる日銀は、長年物価下落に苦しめられてきた日本で2%のインフレを生み出すために、来年末までにマネタリーベースを1兆4000億ドル増加させると誓っている。

 「現時点では、こうした流動性はすべて、株式や日本国債など国内で吸収されている」。シティ・プライベート・バンクのアジア担当チーフストラテジスト、ジョン・ウッズ氏はこう話す。「だが、(黒田氏が)実際に2%に近いインフレを達成できれば、流動性は海外に向かい始めるだろう」

 日銀によって国内債券市場から追い払われた日本の投資家は、高利回りと力強い成長見通しを求めてアジアの株式、債券市場に次第に目を向ける可能性がある。一方、日本の銀行はタイやインドネシアなどで、インフラ事業への低利融資で積極攻勢をかけると見られている。

アジア全域に見て取れる「小さな泡」の兆し

 それが起きていることを示す早期の兆候が既に見られる。10日に発表されたデータによると、日本の投資家は国内債券を好む従来のトレンドを覆し、5月4日までの2週間で外債を買い越した。

 だが、株式相場の上昇や借り入れコストの低下、通貨上昇の見通しをすべての国が大歓迎する可能性は低い。多くのアジア諸国では、インフレは概ね抑制されているものの、長年にわたる国内の緩和政策や西側諸国の金融緩和のせいで、競争力の低下や資産価格の急騰、融資の急増に苦しんでいる。

 アジア開発銀行(ADB)は最近、国際通貨基金(IMF)や世界銀行に追随する形で、日本経済の浮揚を図る日銀の取り組みがバブルを生むリスクに警鐘を鳴らした。ADBのラジャト・ナグ事務総長はニューデリーで開催された年次総会で、聴衆に向かって次のように述べた。

 「日本やその他の経済国の量的緩和がもたらすプラス材料は、これらの国が成長し始めることだが、我々は資産バブルを生んでしまうことを警戒しなければならない」

 潜在的な小さなバブルの兆しは、アジア全域ではっきり見て取れる。香港の不動産価格は過去4年間で2倍以上に高騰しており、フィリピンの株価はPER(株価収益)で見て世界一割高になっている。

 シティグループのアジア担当チーフエコノミスト、ジョアンナ・チュア氏は、特に急速な信用拡大が見られた国では、金融の安定に対するリスクが次第に大きな懸念材料になる可能性があると指摘し、「この状況が続けば、マクロプルデンシャルな措置を求める圧力が高まるだろう」と語っている。

 一部の政策立案者は既に対策を講じている。韓国とオーストラリアは先週、通貨高への懸念もあって利下げに踏み切った。一方、ニュージーランドの中央銀行は、ニュージーランドドルを安値誘導するために為替市場に介入した。

 だが、その他のアジア諸国では、消費者による借り入れ急増への不安から、政策立案者が窮地に陥っている。さらに利下げすれば、国内の信用拡大という火に油を注ぐことになりかねない。一方、何もしなければ、通貨上昇とさらなる資金流入はほぼ避けられない。一部の国は資本規制を検討する可能性もあるだろう。

急成長する日本が「裏庭」にいるハロー効果も

 バークレイズのエコノミスト、プラクリティ・ソファット氏は、フィリピン当局は香港、シンガポールに続き、不動産融資を制限する可能性があると言う。フィリピンでは、不動産融資が2010年末から2倍以上に膨らんでおり、建設業界の過熱を招いたと懸念されているからだ。タイも債券投資に対する課税を検討していると噂されている。

 野村証券で日本を除くアジア担当のチーフエコノミストを務めるロブ・スバラマン氏は、アベノミクスは問題もはらんでいるが、もし政策が成功すれば、多くの国は輸入品価格の低下や対日輸出の需要増加など、世界で最も急速に成長する先進国が「自国の裏庭」に存在することのハロー効果を感じることになると話している。

By Josh Noble
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37794

 

ユーロの恩恵を受けたドイツとアベノミクスの類似点
経済成長優先で格差を拡大させた経験も学ぶべし
2013年05月16日(Thu) 川口マーン 惠美
 今回、日本に帰ってきてひどくびっくりしたのは、デパートの盛況だ。この前までデパートはガラガラで、お客よりも店員の数のほうが多かった。

 婦人服のフロアに足を踏み入れても、手持無沙汰にしている店員の視線に追われ、しかも、「いらっしゃいませ、いかがでしょうか」と次々と声が掛かるのでリラックスできず、かえって長居はできないという悪循環になっていた。

 客のいないデパートは、ガラガラのレストランと同じで居心地が悪い。それが今ではどの売り場も混雑し、しかも、高いハンドバッグやら腕時計のところまで人が群がっているのだからスゴイ!


日本銀行の大胆な金融緩和策発表後、円安が進んだ〔AFPBB News〕

 聞いてみると、賑わっているのはデパートだけではないらしい。ある人は、「ここ数年、新幹線のグリーン車の隣の席に人が来ることは少なかったが、今日は満席に近かった」と言ったし、老舗デパートでは外商の売り上げが伸びているという。

 そういえば、私がデパートを覗いてびっくりした後で訪れたレストランは、6時半から大入り満員だった。それも平日の話だ。

 消費が伸びるのは結構なことだ。それにしても、この賑わいがすべてアベノミクスの効用?

 まだ前宣伝だけなのに、すでに人々の表情が明るく、お金を使っている。心理的効果というのはこういうものかと、つくづく思う。私たちはそれほど円高に苦しんでいたのだろう。

ユーロ導入は強い旧西独マルクをやっかんだフランスの策略?

 1980年代、マルク高に悩んでいたのは、実はドイツであった。他の通貨が弱すぎたということもあるが、マルクが上がると、ヨーロッパだけでなく、米国への輸出も滞った。輸出大国としては由々しき事態であったが、しかし西ドイツは金融緩和はしなかった。

 1920年代にハイパーインフレで苦しんだドイツは、インフレに対するトラウマがある。恐怖感と嫌悪感の入り混じったような感情だ。連邦銀行も、インフレを防ぐことを自らの天命のように思っている。

 というわけで、当時の西ドイツマルクは常に強かったが、ただ、西ドイツ製品はそれでも売れた。企業が海外へ逃避する時代でもなかった。他の国が、通貨切り下げなどで対処してくれたこともあっただろうが、いずれにしてもドイツ人は、メイド・イン・ジャーマニーに絶大な自信を持っていた。

 しかしそれは、慢性のインフレで苦しんでいた南欧にしてみれば、自国の経済の首根っこをドイツの連邦銀行に押さえられていたようなものだった。

 特にプライドの高いフランスは、我慢できなかった。たいした政治力も持たない(とフランスが思っていた)ドイツが、高級ブランド通貨をかざして、自分たちを振り回していることが許せなかったのだ。

 そうするうちに、ミッテラン大統領の被害妄想は、マルクこそドイツの原爆と思うほどに高まっていった。ドイツからマルクを取り上げなければいけない! 当時、ユーロ導入の話がミッテラン大統領の主導で進められたのは、決して偶然ではない。


東西分断の象徴であったベルリンの壁の一部が住宅地開発計画により撤去された(2013年2月28日撮影)〔AFPBB News〕

 ヨーロッパの共通通貨、ユーロのアイデアは、ベルリンの壁が1989年に唐突に崩れると、急速に具体化した。ドイツは、一気に東西ドイツの統一を推し進めたかった。しかし、当時のヨーロッパには、ドイツの統一を望む国は、ただの1カ国もなかった。

 そこで、フランスのミッテラン大統領は、フランスがドイツ統一に反対しないことの交換条件として、迅速なユーロ導入を持ち出したのではないかというのが、今では定説になっているドイツ統一の裏事情だ。

 いずれにしても、ドイツは、自国の通貨が弱くなることを承知で、ユーロ導入に突入した。実際にユーロ決算が始まったのは、ドイツ統一の8年10カ月後の1999年1月。そんなものは百年先の話だと思っていた連銀の幹部たちの予測は、見事に外れたのであった。

ユーロはドイツに恩恵をもたらしたが・・・

 しかし、ドイツにしてみても、ユーロの効用がなかったわけではない。いや、大いにあった。為替の変動で、輸出が滞ったり、利益率が大幅に変わったりという面倒を解消してくれたのは実に有難かったし、換金の手数料が消えたのもよかった。

 何よりも、強いマルクを手放したので輸出は確実にしやすくなり、ヨーロッパで圧倒的な競争力を手にした。以来ドイツは、常に自国の通貨安を享受してきたようなものだ。

 統一後、長く続いていた不景気を、その後どうにか乗り切れたのも、ユーロのおかげだ。当時、ドイツは、東独のもたらした様々な困難で、失業は増え、景気は最低のところまで落ち込み、人々は絶望していた。

 そこで当時のシュレーダー政権が2000年代前半、徹底的な構造改革を実施し、ある程度の成功を見たのだが、しかし、それとてユーロという共通通貨に支えられたものだった。

 一方、南欧の国々の経済状態は、ユーロを手にしても一向によくならなかったどころか、もっと悪くなった。ユーロという通貨は、彼らの経済力にとって常に、少し強すぎた。


ドイツは損な役回り?(写真はアンゲラ・メルケル独首相)〔AFPBB News〕

 ドイツが景気を回復し、輸出を伸ばし始めても、もう通貨切り下げで抵抗することはできなかった。そうするうちに国債の金利は上がり、それに群がる投資家によって、不毛な投機が始まった。

 そして、大金を稼いだ人々がいる傍らで、国家の経済は傾いた。ただ、それでも彼らはドイツのような構造改革をしなかった。そして今では、それを強制するドイツが悪いという論法が大手を振っている。

 ドイツは今やお助けマンで、自分の財布から他人が勝手にお金を取り出していくのを、手足を縛られたまま眺めているような状態だ。感謝はされないし、意見をしても悪しざまに言われるだけで、どうしようもない。おまけに、ドイツの独り勝ちと責められる。

 ただ、ドイツに住む人間として、ドイツの独り勝ち説はそのまま受け入れられないところがある。そもそも、経済力の違う国が同じ通貨を使ったなら、こういう差が出るのは当然だ。

 しかも、しつこいようだが、ユーロ導入はドイツのアイデアではなかったのだ。だから、ドイツの独り勝ちばかりを責めたてるのは理不尽な気がする。

アベノミクスはドイツ経済再生の裏で進んだ格差拡大を反面教師に!

 さらに言えば、シュレーダー政権の行った大々的な構造改革プランは、それなりの成功をもたらし、ドイツ経済は立ち直ったが、ただ、国民としてはかなりの血を流した。

 たとえば、労働市場だけを取ってみても、企業は労働者の解雇がしやすくなったので、雇用は増えたものの、労働者は絶えず解雇に怯えるようになった。また、以前よりも悪い労働条件をも受け入れなければならなくなった。

 そして、社会保障の面では、以前が手厚すぎたということもあるが、確実に切り捨ての方向に動いたのである。

 早い話、それらは企業寄りの政策であったが、まずは失業を減らし、国が力を取り戻すためにということで、国民はそれを受け入れた。そして、たしかにドイツは力を取り戻したのだが、しかし、それによってもたらされた利益が国民に分配されたという感触は、当時も少なかったし、今でも少ない。

 だから、ドイツの独り勝ちと言われても、あまり実感がない。しっかりと儲けたのは、おそらく一部の人間であったのだろう。それ以来、貧富の差は確実に広がってきていると、私は感じている。

 3月末にドイツ政府が発表した調査結果では、上位10%の所帯が、ドイツの私的財産の58%を所有しているという。

 今年の秋の選挙で、SPD(ドイツ社民党)が“格差のない社会”というのをスローガンにしているのは、そういう背景がある(もっとも、そのSPDが構造改革でこの状況を作り出したとも言えるのだが)。そして、栄光のユーロが泥沼に落ち込んでいる。

 そんなとき、海の向こうで霞んでいたはずの日本が、お札を刷り始めた。途端に、株価は上がり、輸出業は息を吹き返す。面白くない。

 だからだろう、去年の暮れから今年の2月ごろまで、ドイツのメディアは、日本がまるで為替操作をしているように、悪口雑言を並べた。今ではその濡れ衣は晴れかけているようだが、ドイツでその報道はない。


2日に開かれた参院予算委員会の2013年度予算案公聴会でも、アベノミクスには賛否両論〔AFPBB News〕

 ただ、アベノミクス自体については、日本の国内でも賛否両論が飛び交っている。私など、こちらを読めば、「ああ、そうなのか」と感動し、あちらを読めば、「ああ、そうなのか」と分かったような気になる。

 それは、私に知識がないからだけでなく、アベノミクスの、特効薬にも毒薬にもなり得るという本質によるところもあるのだろう。

 いずれにしても、これから日本に起こるのは、ユーロ導入による自国の通貨安を利用して経済の活性化を達成したドイツの事情と似たようなことではないかと思う。しかし、前述のように、ドイツの場合、その利益は一般国民の生活をあまり潤すことはなかった。

 もしも、アベノミクスが成功して、日本に好景気が訪れるなら、ドイツの轍を踏まず、利益が大企業や金融関係者だけでなく、国民一般にまんべんなく行き渡るような政治をしてほしい。そのために、政治家の良心と実行力を心から望むばかりだ。

 日本に、格差社会は合わない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37713


インドの怒れる若者:壮大な無駄
2013年05月16日(Thu) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年5月11日号)

インドはいかにして世界最大の経済的なチャンスを無駄にしようとしているのか。

 過去35年間というもの、何億人もの中国人が成長を続ける都市部で、重労働が多いとはいえ生産的な仕事を見つけてきた。この目を見張るような労働力の動員は過去半世紀で最大の経済的事象だった。世界はこれほどの規模の出来事を見たことがなかった。


インドは人口が多いだけではなく、若い〔AFPBB News〕

 では、世界が再び、このような一大現象を目にすることはあるだろうか? その答えは、ヒマラヤ山脈を越えたインドにある。

 インドは古代文明の1つだが、若い国でもある。中国では昨年、生産年齢人口が300万人減少したが、インドでは年間で約1200万人ずつ増えている。インドは向こう10年以内に世界最大の潜在労働力を抱える国になる。

 楽観的な向きは、被扶養者に対する労働者の割合が高まり、所得に対する貯蓄額が増えることにより、大きな「人口ボーナス」が得られることを期待している。この組み合わせは恐らく、東アジアの奇跡の3分の1程度を担った。著名な政治家のカマル・ナート氏は2008年刊行の著作『インドの世紀』で、「インドは文字通り、時間を味方につけている」と書いた。

悲観的になる理由

 しかし、インドの夢想家は若者を信じているが、インドの若者にしてみると、国に不信感を抱く理由が大きくなっている。インド経済は国民の願望を高めながら、その後、願望を満たせずに終わっている。2005年から2007年にかけて、インド経済は年間約9%ずつ成長した。2010年には、中国をも凌ぐ急成長を遂げた(両国経済が同じ方法で測定された場合)。

 だが、それ以降、成長率は半減した。もう一方の「人口ボーナス」であるインドの驚くべき貯蓄率も落ち込んでいる。気がかりなことに、次第に多くの家計貯蓄が金融システムを完全に迂回し、インフレの難を避けるために、金その他の現物資産に逃げ込んでいる。

 国民会議派が率いるインド政府が前回、真剣に経済を自由化させた1991年には、今のインド国民の4割以上がまだ生まれていなかった。彼らの抱える不安は、インドの老いた政治家にとっては無縁に思えるに違いない。閣僚の平均年齢は65歳だ。インドが独立してから生まれた首相は今までにいない。

 このトレンドを覆す可能性があるラフル・ガンジー氏は、父親、祖母、曽祖父がインドの首相を務めた人物だ。インドは高齢の指導者とその子孫、つまり白髪頭(grey hair)と跡取り(groomed heir)によって統治されているのだ。

 特に若い女性の扱われ方について警察が見るからに無関心なことは、新しいインドを守れない古いインドのあり方を浮き彫りにした。

 必要な改革のリストは、お馴染みのものだ。意思決定の合理化と汚職防止に関する施策、中央銀行にインフレ抑制の自由を与える財政規律、現在、金融システムが失っている貯蓄を取り戻すための銀行改革などだ。政府は投資を促すために、土地取得に対する取り組みを見直す必要がある(土地取得については現在、欠陥のある法案が審理中だ)。

 また、政府はエネルギー産業の障害を取り除く必要もある。インドの新しい発電所も、燃料となる石炭とガスが国内に十分ないと、あまり価値がない。

 こうした改革は、すべてのインド国民とインド経済の全分野に恩恵をもたらすだろう。しかし、特に重視すべき産業転換がある。世界銀行の元チーフエコノミストで、現在は北京大学に籍を置くジャスティン・リン氏によれば、中国で労働人口が減少し、賃金が上昇するにつれ、最大8500万人分の製造業の雇用が他国へ流れる可能性があるという。

 ここに、職にありつけないインドの若者のチャンスがあるに違いない。そうした仕事がインドに来てはならない理由などあるだろうか?

 その答えは、急速に台頭する他のアジア諸国と比べると、インドには適切な企業や労働者があまりに少なく、不適切な規則があまりにも多いということだ。確かにインドには、特に自動車生産にかけては素晴らしいメーカーが何社かある。だが、バーラト・フォージやマヒンドラ・マヒンドラのようなメーカーは、あり余っている労働者よりも高性能な機械を採用することを好む。

「ミッシングミドル」という問題

 こうしたメーカーの対極には、一握りの従業員が昔ながらの手法で作業している粗末な町工場が数えきれないほど存在する。インドに欠けているのは、多くの労働力を必要とする中規模の「ミッテルシュタント」だ。

 インドは好況期でさえ、製造業よりも建設業でずっと多くの雇用を生み出していた。煉瓦を頭に載せて運んでいる時に、インドの若者が目標を高く持つのは難しい。

 中規模の企業が存在しないこの「ミッシングミドル」を埋めるために、政府は現在インドの起業家の頭を押さえつけている官僚組織という煉瓦を取り除くべきだ。そうした煉瓦の1つは、名目上は工場が政府の許可なしで人員を解雇することを防ぐ悪評高い労働法だ。

 インドの雇用主が第三者機関に所属する労働者を雇うことによって、同法の効力を鈍らせているのは事実だ。だが、その際、企業は労働者を訓練するインセンティブも弱めてしまい、それがさらなる乱用を招いている。

 そして労働者には多くの訓練が必要だ。インドの若者の多くは学校を出る時点で、初歩的な仕事にさえ対応できる準備ができていない。学力の標準は停滞し、悪化しているところさえある。

 年次教育報告書によると、農村部では、5年生までに「43から24を引く」というような計算ができる児童が半分しかいない。「What is the time?」というような英語の文章が読めるのは、辛うじて25%程度だという。

苦汁をなめる若者への賛歌

 中国から流出する製造業の雇用を獲得することに焦点を合わせることは、産業政策の理由にはならないし、もちろん、ひいきの工場を選別するライセンスラジへの回帰でもない。

 若い工場労働者を支援する改革の大半は、インド経済全般を助けることにもなる。官僚主義を抑制し、学校の改善を図り、まともな電力供給を確保すれば、インドのサービス業を盛り上げ、中高年労働者を後押しすることにもなる。だが現時点では、インドの高齢者の慢心が招く悪影響をもろに被っているのは若者だ。

 若きガンジー氏は今年に入ってから、「なぜ若者は怒っているのか?」と尋ねた。本当に不思議なのは、なぜもっと怒っていないのか、だ。農村部では、政府は公共事業と食料への補助金で社会的な平和を買っている。都市部では若者がデモを行うこともあるが、散発的なものに過ぎない。


昨年12月には、残虐な集団暴行事件に抗議する大規模なデモが起きた〔AFPBB News〕

 2011年にはエキセントリックな活動家の汚職撲滅の旗印の下に若者が結集した。昨年12月には、自分たちと同じような希望を抱いていた若い女性の残虐な集団レイプ事件に対し、若者が怒りを露わにした。

 インドでは、多くの場合、非常に辛い困難が静かに耐え忍ばれる。どんなに悪い状況に陥っても、近くにいる誰かがもっとひどい状態に耐えており、貧困層でさえ、失うものがどれだけあるか痛感しているからだ。

 社会的な平和は悪いことではない。しかし、インドには、雇用を生み出し、政治を若返らせるために不可欠な改革について、緊迫感があった方がいい。「インドの世紀」は必然的に訪れるものではない。それはむしろ、インドが無駄にしてしまう恐れがある大きなチャンスなのだ。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37791


 


30年の調査が世相を映す、昔インフレ、今麻薬
サンパウロ市住民の心配事は?
2013年05月16日(Thu) ニッケイ新聞
ニッケイ新聞 2013年5月3日

 ダッタフォーリャが1日、聖市住民の懸念事項について、1983年5月1日発表の調査結果と今年の調査結果を比較した記事を掲載した。

 1983年5月1日発表のデータは同年創設のダッタフォーリャの初仕事で、聖市の住民1千人に「あなたが一番心配している事は?」と質問した結果だ。

 1983年は年間のインフレ率が200%を超えており、当時の聖市には、インフレが最も心配という人が26%いた。以下、家族の誰かが麻薬に手を出す23%、家が強盗に襲われる(押し込み強盗)22%、失業18%、路上で強盗に襲われる9%、心配事はない2%だった。

 ところが今は、インフレを第1の懸念事項としたのはわずか7%で、市民の専らの関心事は家族の誰かが麻薬に手を出すの45%だった。

 この質問文は抽象的で、家族が麻薬を使っているまたは使ってないかと恐れているだけなのか、麻薬売買に手を染める事、麻薬密売者らとかかわって各種の犯罪に巻き込まれる事も含む心配なのかは見当が付かない。

 ただ、この30年間に聖市には複数のクラコランジアが出現、麻薬に手を出して失踪した息子や娘を捜す親の姿が新聞で報道されたり、州都第1コマンド(PCC)誕生後の警察と密売者との抗争事件多発、麻薬やアルコールに手を出す年齢が下がっている事などを考えると、いくら心配してもしすぎる事がないテーマともいえる。

 また、押し込み強盗への懸念が26%、路上で強盗に襲われる事への懸念も16%に増えた事も目を引く。83年の場合もこの二つを合わせると31%でインフレ以上の懸念事項だった事を考えれば、殺人や強盗殺人も含む暴力事件が心配事の上位を占める状態は余り変わっていない。

 一方、インフレが一番心配という人が7%、失業を心配する人も5%に減ったのは、レアルプラン導入やインフレ目標の設定といった政策が奏功し雇用も安定している事を反映している。心配事はないは1%だった。

 ダッタフォーリャは、選挙前の支持率調査やDNAパウリスタのような市民生活の実態調査など多岐にわたり、ジウマ大統領が世論の動きに細心の注意を払っているのは周知の事実だ。

 議会と最高裁の対立など、民主主義の根幹である3権分立を脅かすような動きもあった後だが、創設20周年記念の調査では民主主義が最善と考える人が57%居たのに現在は53%に減り、軍政支持が16%から19%に増加、どちらでも良いは20%でほぼ不変との記述もあった。

注:ダッタフォーリャ=調査会社
注:聖市=サンパウロ市

(ニッケイ新聞 )
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37786

 

中央ユーラシアを引き受ける米国
「文明の十字路」を離れる人々
2013年05月16日(Thu) 前田 弘毅
 米国・ボストンでマラソン大会中に発生したテロ事件はチェチェン系の兄弟タメルラン・ツァルナエフとジョハル・ツァルナエフによる犯行と報じられている。

 弟のジョハルは1993年6月生まれで、その名前は当時事実上ロシアから独立していたチェチェン(イチュケリア)共和国のジョハル・ドゥダエフ大統領の名前を想起させる。1994年12月にロシア軍が軍事侵攻を開始してからの悲劇的経緯はよく知られているところである。


飛行機内からコーカサスの山々をのぞむ
 もっとも、報道の限りでは兄弟の父親は中央アジアのキルギス(クルグズスタン)出身で、兄弟の母親(北コーカサスのダゲスタン出身、アヴァール人)と出会ったのも、シベリアのノヴォシビルスクという。

 タメルランはカスピ海北岸の仏教共和国カルムキアのエリスタで生まれ、ジョハルはキルギスで誕生し成長した。

 短期間母親の故郷ダゲスタンに滞在した後、2002年に父母とジョハルが米国に入国し(タメルランは2年後)、難民申請が認められて2007年には永住権も取得している。

 タメルランの急進的イスラームへの傾倒や家族の抱えた様々な問題については様々な報道がなされている。ホームグロウンテロリズム(自国育ちのテロリズム)や、アイデンティティクライシスへの言及も多い。

 第2次世界大戦中に起こった全民族の中央アジア強制追放の結果生じたチェチェン・ディアスポラの複雑さを垣間見る事件である。ホスト国米国の民族・宗教・アイデンティティの多様さについて異論はないだろう。

 もっとも、当然ながらディアスポラの心性やコーカサスの紛争、あるいはアイデンティティクライシス問題と、今回の凄惨な事件を直結させることにも慎重であるべきだろう。

 戦争や暴力と結びつけられることが多い文明の交差点・十字路コーカサスであるが、中央アジアも含めた中央ユーラシア圏は「人の移動」について様々なことを考えさせる場所である。今回は筆者の身近な経験から、この問題を少し考えてみたい。

米国を行き来する人たち

 2000年代に入り、筆者がグルジアに行くたびに驚いたのは、インターネットの普及であった。スカイプ通話が社会生活でいち早く必要不可欠となったのはもちろん家族の誰かが海外に出ているからである。

 筆者はトビリシの下町の一ウバニ(街区)でかつてホームステイしたが、近所の若者の多くは米国東海岸に渡り、グループでビジネスをしていた。帰国するのは嫁をめとるときと子供が生まれるときの里帰りで、一部はトビリシに戻ったが多くは現在も米国にとどまって仕事をしていると思う。

 国際結婚も頻繁である。筆者が1995年にグルジア語を習った教師はその後、英国人と再婚した。また、グルジア人の先夫との間に儲けた娘は1990年代後半に15歳で渡米し、奨学金で勉強を続けた後に米国人と結婚して現在はテネシーで暮らしている。

 教師は孫の世話のためにトビリシと米国を頻繁に行き来している。教師の姉も夫と死別後、子供を成人させた後に米国人と再婚してやはり米国に住んでいる。グルジアでのホームステイ先の親族には、1990年代初頭の内戦時に夫を殺害された女性がいた。この女性はインターネットで知り合ったフランス人と先頃結婚したという。


低地は沃野が広がるが国を離れる人々も多い
 当然、こうした国際結婚には様々な社会的要因も絡んでいるが、興味深いのはこの10年ほどでコミュニケーションが著しく容易になったことであろう。

 グルジアではフェイスブックなどソーシャルメディアも非常に早くから普及したが、これも海外に散らばる親戚との連絡を容易にしている。筆者も時にはこうした移動の波の「恩恵」を受けたこともある。

 かつて米国バークレーやスタンフォードに滞在した折には、現地のグルジア人移住者に大いに歓待していただいた。ワシントンDCやチューリッヒなどでも同様の経験をした。一方、こうした人の移動の緊張感を垣間見た瞬間もある。

嘔吐する少年

 1990年代、まだグルジアに行き来する際のフライトには空港も含めて様々な困難が存在した。この点は稿を改めて書いてみたいと思うが、飛行中にこれまでで最も印象に残ったことの1つはある少年の嘔吐であった。

 いささか記憶が曖昧であるが、2000年頃にロンドンに向かう英国航空(BA)機内であったと思う。当時、トビリシからロンドンに向かう飛行機はもともとウズベキスタンのタシュケント発でトビリシ経由のフライトであった。

 当時は座席に別の人が座っている(座席の番号が守られない)こともよくあったが(いつ頃からみな行儀よくなったのだろうか)、そんなこんなで横に座った人物はタシュケントから家族で乗っていたおそらく30代くらいの男性であった。

 最初は身振り手振り、その後、実はアフガニスタン出身で、ペルシア語を話す以上、お手数おかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。筆者のペルシア語は会話はかなり怪しいのだが、簡単な話を交わすことができた。

 アフガニスタンの内戦でウズベキスタンに逃れた男性とその家族はキャンプでの暮らしぶりなど苦労話の後、どのような経緯か移住の許可をついに手にして、家族と米国に渡るところであると話した。米国到着後は数カ月間、英語などの訓練を受けるという。

 機内食などをともに食べてしばらくすると飛行機は高度を下げ始めた。到着まであまり時間がないところで、おそらく機内食など初めて食べたであろう、一家の長男の少年が派手にもどしてしまい、あたり一辺に胃液のにおいが蔓延した。

 鼻につく強烈なにおいと少年と父親のとても不安そうな瞳が印象に残っている。また、家族丸ごとで引き受ける米国の姿勢もこのとき強く印象に残った。

シリアに「戻る」グルジア人

 「文明の十字路」からは現在も人々の流出は続いているし、現地に赴くたびに様々な「人の移動」の実例を目にし、耳にする。

 昨年秋にグルジアを訪れた際、以前お世話になったある老学者の元にお邪魔した。ちょうど十数年ぶりに、その親戚とたまたま出くわしたのだが、彼女はもう10年近くシリアの首都ダマスカスでグルジア人数十人とともに出稼ぎ生活をしており、たまたま夫と一時帰国中であった。

 日本人女性ジャーナリストが殺害された事件も起こった後で、すでにその頃シリアは日本の感覚ではとても普通に人が行き来する国ではない。

 彼女もグルジアに戻る際、反政府勢力にバスに乗り込まれ、携帯電話3台などを奪われたという。地方からダマスカスに焼け出された現地の国内難民の話なども聞いた。

 もっとも、驚くことに、来週にはダマスカスに戻ると話していた。グルジアでは働く場所がなく、田舎に残していた10代の息子は麻薬使用で逮捕され、刑務所に入っていてまさに希望もない。

 ちなみにその田舎では両隣もイタリアとギリシアに壮年夫婦が出稼ぎに行っているとかで、残された少年たちは親の言では金目当ての警察の「陰謀」で麻薬などの罪で投獄されているとのことであった。

 ソ連解体後の混乱の余波を今も引きずる中央ユーラシア圏の厳しい現実を改めて認識させられた。

グローバル社会の現実

 エピソードの羅列でまとまりがなくなったが、こうした「移動する人々」の人生は、最終的にはすべて個人に帰せられるとはいえ、社会情勢や国家の対応にも大きく依存している点は言うまでもない。

 JBpressでも様々な海外在住者の経験談などに触れることができる点が貴重であるが、世界の現実はおそらく「国際化」などという生やさしい現実をはるかに凌駕しており、日本も自らの社会の内実の精査と、世界の現実との折り合いについて深い考えが今後求められていくに違いない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37783


03. 2013年5月17日 23:20:10 : e9xeV93vFQ
このままでは2020年代に「双子の赤字」に

「3本目の矢」をねらい通り的に当てるには

2013年5月17日(金)  坪内 浩

 日本経済の再生に向けて、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「3本の矢」からなる「アベノミクス」が本格的に動き出した。金融政策については、日銀の新体制が発足し、消費者物価上昇率で2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭において、できるだけ早期に実現することが決定された。

 財政政策については、公共投資の上積みを含む総額で10.3兆円の財政支出を行うための補正予算が成立した。これらを受けて日本経済の先行きと物価上昇に対する期待が高まり、足元で円高が修正され、株価が上昇している。

 しかし、大胆な金融政策と機動的な財政政策はデフレからの脱却に必要な政策ではあるが、日本経済が再生するためには十分ではない。経済が再生するためには「3本目の矢」である成長戦略をねらい通り的に当てて民間投資を喚起する必要がある。

 本稿では、日本経済研究センターの中期経済予測をベースに、日本経済を再生させるためにはなぜ金融政策と財政政策だけでは十分ではないのか、どのような成長戦略が効果的か、について見ていく。

なぜ金融政策と財政政策だけでは十分ではないのか?

 金融政策と財政政策だけでは十分ではない理由は、金融政策と財政政策だけでは今後日本経済が直面する「成長率の低下」や「双子の赤字」などの問題を解決できないからである。

 まず、中期的に成長率が低下する2つのメカニズムについて説明しよう。

(1)高齢化による就業(産業)構造の変化

 中期的な成長率は労働力人口の増加率と一人当たりの生産性上昇率の合計として決まってくる。そして、一人当たりの生産性上昇率は各産業の生産性上昇率と就業構造によって決まってくる。今後、わが国の就業構造はどうなっていくだろうか?

 図1をご覧いただきたい。わが国の人口は急速に高齢化しつつあり、2010年に6600万人であった労働力人口は2025年には6100万人まで減少することが見込まれる。一方、高齢化率(65歳以上人口比率)は23.0%から30.4%まで上昇するため、高齢者に現在と同じサービスを提供し続けるためには2010年に700万人だった医療・介護等従業者数が1000万人まで増加しなければならず、6人に1人が医療・介護分野に従事することになる(図2参照)。

 労働力人口が減少する中で医療・介護等従業者数が増加するため、他の産業の従業者数は減少せざるをえない。例えば、製造業の従業者数は900万人から700万人まで減少することが見込まれる。

図1
2010年代 2020年代前半
人口 12,806万人(2010年) 12,012万人(2025年)
高齢化率(65歳以上
人口比率) 23.0%(2010年) 30.4%(2025年)
労働力人口 6,630万人(2010年) 6,116万人(2025年)
医療介護等従業者数 705万人(2010年) 1,011万人(2025年)
製造業従業者数 921万人(2010年) 725万人(2025年)
潜在成長率(平均) 0.6% 0.3%
経常収支
(名目GDP比) 3.5%(2010年) -3.0%(2025年)
国・地方の
基礎的財政収支
(名目GDP比) -6.6%(2010年) -4.9%(2025年)
(注)
労働力人口は労働力調査の概念に基づき、15歳以上の人口のうち、「就業者」と「完全失業者」を合わせたもの。
従業者数は産業連関表の概念に基づき、1人で2つ以上の職業を持つものは各々の部門でカウントされる。
図2

(2)就業構造の変化に伴う成長率の低下(ボーモル効果)

 こうした就業構造の変化はわが国が生み出す付加価値に影響を与える。医療・介護分野で従業者一人当たりが生み出す付加価値は約500万円で、製造業やその他の非製造業の3分の2程度にすぎない。このため、全体に占める医療・介護等従業者の割合が上昇すると経済全体で生み出す付加価値が減少することになる。こうした影響はボーモル効果と呼ばれている。

 これまで全体に占める製造業比率の低下につれて経済全体の生産性上昇率は低下してきた。今後も製造業や医療・介護分野以外の非製造業に従事する人の割合が低下するにつれて経済成長率は次第に低下し、2020年代前半に0%台前半になることが予測される。

 大胆な金融政策と機動的な財政政策によって輸出、高額商品の消費、公的投資などの需要が喚起され、その結果物価が押し上げられてデフレからの脱却が進むことが期待されている。デフレは実質金利の高止まりを通じて成長を阻害するため、そこから脱却することは成長するために必要である。しかし、基本的にはどちらも需要を喚起する政策であり、就業構造の変化に伴う中期的な「成長率の低下」の問題を解決するものではない。

2020年代には「双子の赤字」に

さらに問題なのが、忍び寄る「双子の赤字」だ。

(1)高齢化がもたらす経常収支の悪化

 2011年、2012年と貿易・サービス収支の赤字が続いている。また、2013年2月には季節調整済みの経常収支が1億円の赤字となった。どうして貿易・サービス収支や経常収支の赤字が発生するようになったのだろうか?

 これは、直接的には為替レートが円高になって輸出が減少し製造業の海外生産シフトが進んだこと、化石燃料価格の上昇や原子力発電の火力代替によって化石燃料輸入が増加したことなどが原因となっている。しかし、その背後には近年高齢化に伴って家計貯蓄率が低下傾向にあり、貿易・サービス収支や経常収支が赤字になりやすくなってきていることが影響している。

 経済全体として財やサービスの需給は一致するので、消費と投資と輸出の合計額は、生産と輸入の合計額に等しい。したがって、大まかに見て輸出額から輸入額を差し引いたものである経常収支は、国内で生産した額から消費や投資を差し引いた額である貯蓄(厳密には貯蓄投資差額)に見合っている。

 経済を構成する各個人は働き盛りのうちに貯蓄をし、老後にそれを取り崩して消費に回す。その結果、経済全体としてみると人口構成が若い間は貯蓄が増加し、高齢化に伴って貯蓄が減少することになる。すなわち、人口構成が若い国は経常収支が黒字になり、高齢化に伴って赤字化する(国際収支発展段階説)。このままだとわが国は2020年代には経常収支の赤字が常態化することが予測される。

(2)経常収支の赤字化と財政赤字の関係

 経常収支の赤字化は経済にどのような影響を与えるだろうか?

 財政を見ると、国・地方の基礎的財政収支の赤字が続いている。消費税率を10%まで引き上げることが予定されているが、それだけでは赤字を解消することはできない。このため、2020年代には財政と経常収支が共に赤字となる「双子の赤字」に陥る公算が大きい(図3参照)。

図3

 財政の赤字が続く中で経常収支が赤字になると、国債消化を海外の投資家に頼る傾向が強くなる。そして、海外投資家が財政状況に警戒感を強めて高い財政リスクプレミアムを要求すれば金利が上昇し、財政危機に陥る危険性がある。税率の引き上げや社会保障費を含めた歳出歳入両面についてさらなる見直しと改革が急務である。

 「アベノミクス」の大胆な金融政策に伴って円高の是正が進み、輸出が回復することが期待されるが、景気が刺激されて輸入が増加したり、円高の是正に伴って輸入価格が上昇したりするため、経常収支が一段と悪化する危険性がある。また、「シェール革命」で化石燃料価格の上昇が抑えられることが期待されるが、上昇が緩やかになっただけでは経常収支の赤字化そのものが回避できるわけではない。

 以上見てきたように、大胆な金融政策と機動的な財政政策だけでは「成長率の低下」や「双子の赤字」などの問題を解決することはできない。ここで「3本目の矢」である成長戦略が重要になってくる。成長戦略によって供給力を高めることができれば持続的に所得が増加する。また、経常収支の赤字化が先延ばしされることで、財政破綻のリスクを回避するための時間的な余裕が生まれる。

どのような成長戦略が効果的か?

 まず、稼ぎ頭である製造業が海外に生産をシフトしないでも競争できるようにするための環境整備が重要であり、そのためには環太平洋経済連携協定(TPP)への参加が不可欠である。4月20日のTPP閣僚会合において日本の交渉参加が正式に承認された。今後、積極的にルールづくりに参加することが期待される。

 また、安倍政権は単なる成長戦略ではなく「民間投資を喚起するような成長戦略」を掲げており、この点に注目すべきである。この時重要なのが、以下に述べるように、プロダクト・イノベーションと女性と高齢者の活用だ。

プロダクト・イノベーション(新製品の創造)の重要性

 イノベーションは大きく見てプロセス・イノベーションとプロダクト・イノベーションに分けられる。デフレから脱却しながら持続的に成長するためにはプロダクト・イノベーションが重要である。

 プロセス・イノベーションは投入資源を節約し生産性を上昇させることによって供給力を拡大させるものである。供給力の拡大に伴う価格の下落を通じて需要が拡大し所得も増加することになるが、短期的には価格が下落してしまう。また、合理化によって人員が削減されると失業率が上昇し、その結果賃金が低下して消費が抑えられてしまう。一方、各企業が競争して合理化を進める(レッド・オーシャン)ためコスト面での優位性は長続きしない。

 これに対して、プロダクト・イノベーションは新製品を創造することによって供給力を拡大するものである。その際、供給力を拡大するだけでなく新製品を製造するための投資や消費も同時に喚起する。このため、物価の低下をもたらすことなく所得が増加することが可能になる。

 また、新たに市場を創り出す(ブルー・オーシャン)ので、先行した企業は他の企業が参入するまでの間独占的に利益を得ることができ、またブランド力をつければその後も利益を獲得し続けることができる。携帯型デジタル音楽プレーヤー、スマートフォン、ロボット掃除機、高機能ハイエンド扇風機などはその代表例といえる。

 このプロダクト・イノベーションを進めるにあたっては現存する規制が邪魔になってくることが多いため、規制改革が不可欠である。TPPへの参加など経済統合の推進も、規制改革を通じて新しい市場を創り出す有力な契機になる。

 今後新市場を創り出す可能がある分野としては、医療機器と節電市場が考えられる。

(1)医療機器

 これまで日本のリーディング産業であった家電や自動車産業は、人口が増加し需要が増加する中で成長してきた。しかし、高齢化に伴って医療機器の需要が増加しており、わが国には技術力もあるはずなのに、医療機器産業はそれほど成長していない。特定分野を除けば医療機器の約5割を輸入品が占めており、貿易面でも赤字の状態にある。医療機器産業はどこが異なっているのだろうか?

 家電や自動車産業は新製品を開発し消費者に使ってもらう中で改良を重ねながら成長してきた。医療機器産業の場合には、開発した製品が使われる前に審査を受けて承認されなければならない。

 現在、わが国においては医療機器について医薬品と同じような審査プロセスが義務づけられており、他の国と比較して時間とコストがかかってしまう原因となっている。米国では審査体制を充実させることによって審査期間の短期化を図っている。欧州では危険度の特に高い製品を除いて自己認証にまかせ、医療従事者に使ってもらう中で改良を重ね、より良い製品にしていく道をとっている。

 その背後には、医療機器は専門家である医療従事者によって使用されるものなので、仮に不具合や故障などが発生してもリカバリーする体制が整備されている、という考え方がある。韓国も同様の改革を進めており、日本でも大胆な改革が求められる。

 また、新興国への輸出には製造国の承認が必要な場合が多い。審査期間が長いことは海外の市場を目指す日本の医療機器メーカーにとってハンディとなっている。

(2)節電市場

 2012年9月14日にエネルギー・環境会議で決定された「革新的エネルギー・環境戦略」においては、2010年比で2030年までに電力使用量を10%削減することが目標とされていた。2012年度に既に6.0%の節電を実現しており、ぜひ10%の節電を目指すべきである。

 では、どうやって達成するのか? ここで注目されるのが消費電力を減らす余地が大きい家庭やオフィスである。家庭やオフィスにおいて、いつどこでどれだけ電力が使われているかをリアルタイムに把握できるスマートメーターを導入して電力使用の「見える化」を進めれば、節電意欲が湧き経済全体で節電を進めることにつながる。

 加えて、時間帯別の「変動料金」が導入されると、電力使用の「自動化」が進むことが期待される。自動化に対応した家電機器の需要も高まると考えられ、多くの企業にビジネスチャンスを生む。化石燃料の輸入を減少させることを通じて経常収支の赤字化を遅らせることにもつながる。

女性と高齢者の活用

 成長率が低下する要因の一つは労働力人口の減少にあるが、人口を増やそうとしてもすぐに実現できるわけではない。しかし、女性や高齢者の労働参加を高めることは制度を変えたり工夫したりすることで可能である。

 家庭や職場において出産や子育てが本人や周囲の負担にならないようにすることによって女性の社会進出が進むことが期待される。子供がいてもいなくても同じように暮らせるようにできないか。また、出産や子育ての間に他の人にしわ寄せがいかないような方策を講じることはできないか。

 高齢者についても65歳を超えて働ける人は増加している。65歳を超えても体力や能力に応じて働き続けることができるようにすれば、労働力と社会保障の双方の問題解決につながることが期待できる。

 高齢化も化石燃料への依存体質も日本の弱さと考えられてきた。しかしこれらを逆手に取り、逆風を成長につなげる発想で乗り越えることができるはずだ。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20130510/247839/?ST=print

【第33回】 2013年5月17日 安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
「異次元緩和」時代の銀行の運用戦略とは
 黒田日銀が「異次元緩和」とも言われる量的緩和を発表してから2ヵ月半が経過した。公式には認めていないものの、政府日銀の当初の狙い通りに円安が進み、それにつれて株式も大幅高となっている。そして、当初大混乱していた国債市場もやや落ち着きを取り戻しつつある。
 しかし、この「異次元緩和」は、銀行のALM(資産負債総合管理)の「Asset」、つまり資産運用戦略に大きな影響を与えることになる。なぜならば、後述するように、銀行の預貸率(預金に占める貸出の割合)は大幅に低下しており、常に「Liability」、つまり負債(預金)超過の状態にあり、その運用こそが経営課題だからだ。
量的緩和の狙いは銀行のリスクテーク
 今般の日銀の「異次元緩和」の大きな狙いの一つは、銀行がよりリスクを取って融資を増加させるなど、銀行の資産運用戦略を積極化させることであった。銀行は、これまで余資の大半を国債購入に振り向けてきた。
 しかし、長期国債の利回りが一旦大幅低下し、預金保険料や人件費等の経費を織り込んだ実効資金調達コストを割り込んでしまう「逆ザヤ」の状況になったかと思えば、その後、一時は0.3%台まで低下した10年物国債利回りが0.8%(5月13日現在)程度まで反発するなど、今度は予期せぬ金利上昇(国債価格下落)リスクも高まっており、いずれも銀行にとっては国債保有をためらわせる要因になっている。
 無論、20年国債を買えば、まだ利回りは1.6%程度あり、当面の利ザヤは安定的に取れるが、これから2%ものインフレを実現させようという政策が継続することを考えれば、おいそれと将来の価格下落(金利上昇)リスクは取れない。購入する国債の期間が長いほど、将来金利が上昇に転じた場合の価格下落リスクが一層大きくなるからだ。
 したがって、今回の日銀の量的緩和は、こういう国債価格の乱高下を予期していたかどうかは別にして、結果的には、銀行に国債保有を縮小させ、他の資産、特に融資増大という形での運用を促すという所期の目的を達していることになる。
 しかし、事はそれほど単純ではない。図1の通り、銀行の預貸率は、メガバンク、地銀、信金のいずれの業態でも、過去10年以上、ほぼ一貫して低下している。特に、中小零細企業を主な融資先にしている信金業界の預貸率は、過去1年でも大きく低下し、50%を割り込む勢いだ。そして、それが今回の異次元緩和で一気に回復するかと言えば、かなり困難と考えざるを得ない。
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国内融資が増えない3つの理由
 なぜ日銀の意図に従って銀行が融資を増やせないのか。大きく分けて3つの理由がある。
 第1に、国内企業の資金需要が盛り上がっていないことだ。円高傾向が是正されたとはいえ、まだ需給ギャップは大きく、企業が国内設備を増強する環境にはない。仮に信用力が高い企業に資金ニーズがあったとしても、社債市場で調達できる。一方で、信用力に劣る企業に対する融資には、次に述べる貸し倒れ引当の問題がある。
 第2に、現在の銀行業は、金融庁が定めた資産査定基準に基づいて、厳格に融資先の格付けを行なわなければならないということだ。この資産査定においては、赤字が継続していたり、債務超過の恐れがあるなど信用力に問題がある企業については、原則として「要注意先」以下に格付けされる。要注意先の中でも信用力が劣る企業の場合は「要管理先」となり、さらにそれより信用力が低い先は「破綻懸念先」「実質破綻先」となる。
 要注意先企業向け融資の中で、担保でカバーされていない部分には、4〜7%、それより低いの格付けの場合には、40%〜100%もの個別の貸し倒れ引当を積まなければならない。もちろん、低格付け先への融資であっても、十分なスプレッド(利ザヤ)が取れれば銀行は損しないはずなのだが、残念ながら銀行の数が多すぎる過当競争の弊害で、今現在はそのようなスプレッドが取れる状況にない。
 第3に、国際的な自己資本規制(バーゼル規制)において、まだ国債が安全資産と見なされ、リスクウエイトが0%に据え置かれていることである。リスクウエイトというのは、銀行の自己資本比率を算出する際に、分母となる資産量を測る際に乗じる掛け目のことである。銀行にとって、国債で運用している限り、掛け目がゼロだからバーゼル規制上の資産は増えず、自己資本比率は向上する一方、他の資産で運用すると、20%〜400%程度のリスクウエイトが課されてしまうために分母が増えて、自己資本比率が低下するので、銀行の国債離れが進まないのだ。
 さらに、日銀が今後も金利を低下させていく意図を持っているとすれば、市場金利につられて銀行の貸出金利も低下し、スプレッドも低下する可能性が高いため、銀行は、ますます融資には慎重にならざるを得ない。
一朝一夕とはいかない海外融資増額
 そこで、メガバンクはもちろん、一部地銀や信金には、海外での融資を収益の柱にしようという動きがある。しかし、これは一朝一夕に出来るものではない。
 図2は、邦銀の海外拠点数の推移と、現在の主要銀行の海外拠点の融資状況を見たものである。90年代、邦銀は大きなバランスシートを武器に、海外のシンジケートローンで大きな存在感を示していた。ピーク時には、邦銀の海外拠点は約400ヵ所、海外での融資額は約80兆円にも達していた。しかし、2010年時点で、海外拠点数は100ヵ所を割り込み、融資額は約30兆円にまで減少している。しかも、これら拠点と融資の大半がメガバンクによるものである。
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 海外での融資には、ソブリン(海外政府)向けを除くと、現地に進出した日本企業を対象にする「日系」、現地企業を対象にする「非日系」、そして、資源やインフラなどの事業単位で融資を行なう「プロジェクトファイナンス」がある。まず日系については、現地決済の問題等があり、古くから進出しているメガバンクに集中しがちであり、地銀がこれに取り組むのは容易ではない。
 非日系については、現地に密着した高い審査力が求められる。よって、普通の邦銀が対応できるのは大企業を対象としたものだけだが、その場合、それら大企業は「コアバンク」と呼ばれる特定の銀行団を定期的に指名し、取引を集中させることが多いため、単に融資余力があるというだけではなく、国際的かつ総合的なファイナンス助言が出来ない限り、銀行団に食い込むことすらできない。
 また、プロジェクトファイナンスには、日系・非日系のインフラ関連企業との緊密な関係や、キャッシュフローから融資の是非を判断する独特の審査能力が求められるため、おいそれと参入できる世界ではない。したがって、メガバンク以外の銀行で海外に活路を求めるとすると、せいぜいメガバンクの取りまとめるシンジケートローンに一般参加する程度のことになり、地銀や信金にとって、国債投資残高減少を埋めるのに十分な融資残高を積み上げることは困難であろう。メガバンクも、非日系企業取引の裾野を広げるために現地化を進めているが、本部を抜本的に国際化し、役員にも外国人を迎えるくらいの覚悟がない限り、決して平たんな道のりではない。
 しかも、仮に邦銀が海外での融資に活路を見出したとしても、それは、国内企業の活性化を狙う日銀の政策意図を実現するものとは言えない。資金調達も現地で行うので、円安の要因になるわけでもない。
代替資産への投資が王道
 残された方策は、国債でも融資でもなく、株式・外債・REIT(不動産投資信託)・証券化商品などのリスク性商品への投資を増やすことだ。しかも、それは、日銀の政策意図をある程度反映したものと言えるだろう。
 ただし、銀行による上場株式の保有について言えば、かねてから筆者が指摘しているように、複合的な問題がある。すなわち、短期的には、高いボラティリティー(変動率)を持つ上場株式への投資は、商業銀行としての経営の安定性の阻害要因になりかねず、また、長期的には、銀行による株式保有が銀行による産業支配の復活に繋がり、日本企業のコーポレートガバナンスを後退させる懸念がある。
 銀行のみならず、年金や生保でも同じことだが、結局のところ、異次元緩和下での資産運用は、世界標準に従い、バランスの取れた分散投資を行なっていくしかないのではないだろうか。そもそも、日本の機関投資家が、これまで国債に偏った運用をし、産業界へのリスクマネーの供給という役割を果たしてこなかったことが、日本企業の活性化を妨げてきたのであるから、分散投資を行なうことによって、本来の役割に回帰することは、これら機関投資家の重要な使命である。
 米国などの世界標準によれば、国債と株式を除外すれば、機関投資家が不動産・インフラ・PE(プライベートエクイティ)・VC(ベンチャーキャピタル)等、いわゆる代替(オルタナティブ)資産への分散投資を行なうは当然のことであり、それが産業界へのリスクマネー供給の役割を果たし、産業の新陳代謝を促してきたのである(連載第22・23回)。
 しかも、それらへの分散投資を行なえば、国債100%への投資よりもリスクが低く、リターンが高い資産運用が可能なのである(連載第5回)。さらに、副次的な効果として、民間独立系のPE(企業再生)ファンドに資金が流入し、要注意先以下の企業にリスクマネーが投下されるようになれば、企業の格付けが向上し、銀行は本業である融資を伸ばすこともできるのだ。
 5月10日に公表された自民党の日本経済再生本部の中間提言においても、産業の新陳代謝を進めることや、公的年金の分散投資の推進などは、しっかりと主要提言として盛り込まれている。銀行、特に地銀や信金は、無理な海外展開、長期国債の購入、上場株式への投資などは控え、国際標準の分散投資に徹することが現時点での最適行動であり、それこそが、日本経済全体の活性化のためにも求められていることなのではないだろうか。
http://diamond.jp/articles/print/36074


成長戦略の要となるエネルギー政策

日本の危機対応能力を高めることが成長につながる

2013年5月17日(金)  柏木 孝夫

 政府は「2013年度夏季の電力需給対策について」を4月26日に取りまとめた。経済産業省の総合資源エネルギー調査会総合部会の下に設置された電力需給検証小委員会が、3月22日から4月23日まで4回にわたり検討し、取りまとめた報告書を踏まえて決定された。

数値目標なしの節電要請

 今夏の対策では、「具体的な数値目標を設けない節電要請」が、沖縄電力を除く全国9電力会社に対して行われることとなった。期間は7月1日から9月30日までの平日で、9時から20時までの時間帯。数値目標を設けないということは、目標を達成できない場合のペナルティもないということである。各電力会社による対策、産業界や家庭などでの節電の定着、万が一の需給逼迫時の備えなどが十分であることを見込んでのことだ。

 最も厳しいと考えられる8月の関西電力管内でも、最低限必要な予備率3%を確保できる。また、周波数60ヘルツの中部および西日本の5電力(関西、北陸、中国、四国、九州)では予備率5.9%を確保でき、万が一の需給逼迫時には地域間融通で対応できる。

 ただし、発電所の事故などによる電源脱落で、過去5年間に起こった最大級のものは644万キロワットである。これと同規模の電源脱落が発生した場合は、随時調整契約の発動による需要抑制や、周波数変換装置(FC)を通じた東日本からの融通などの対策が必要になる。これらを実施しても、中部および西日本の予備率は2.1%にまで低下してしまう。こうした緊急時には、さらに踏み込んだ対策を実施しなくてはならない。

 今夏の対策については、昨夏の前政権による対策よりも3週間以上早く決定された。これは、産業界からの要請に応えたという面がある。政府の方針が決まらないと、産業界も具体的な対策を決められないからだ。昨夏は、関西電力の大飯原発3、4号機の再稼働もあり、7月にも政府による対策の改定があった。これが、特に西日本で、産業界による対策に大きく影響した。

 前回の本コラムで、「節電要請の議論は慎重にすべき」と述べた。私が委員長を務めた電力需給検証小委員会では、事務局の準備した精緻なデータと、委員のみなさんによる的確な議論によって、慎重かつ迅速に報告書を取りまとめられたものと自負している。議論のベースとしたデータは、十分に安全をみて推計した。徹底した調査に基づき、供給力や節電の定着率などは低めに、需要量や万が一の電源脱落などは高めに、慎重に見積もった。景気回復による需要増も考慮している。

危機対応力を高めるエネルギー政策とは

 エネルギー政策が産業競争力に大きく影響することは、ご案内のとおりだ。安倍晋三首相が、このゴールデンウイーク中にロシア、サウジアラビア、UAE(アラブ首長国連邦)、トルコを立て続けに訪問したことも、そのことを十二分に考慮されてのことと拝察する。

 前回も述べたように、国の成長戦略には、「ナショナル・レジリエンス(国家危機対応力)」の強化が不可欠であると、私は考えている。そして、エネルギーは最も重視すべき分野の1つであり、ナショナル・レジリエンスの根幹である。

 通信、物流、金融、食料など、多くの分野がエネルギー供給の確保に大きく依存している。例えばフィンランドでは、エネルギー供給網を、国民生活、経済活動、国防にとって最も重要なインフラと位置付けているという。

 エネルギー・レジリエンスを考える上で、まずは安価で多様な資源調達先の確保による安定調達が重要になる。ロシアのガス、サウジアラビアやUAEの石油など、今回の安倍首相の歴訪の意味は極めて大きい。

 また、石油、ガス、電力など各エネルギーに関して、避けるべきリスクを議論し、それらへの対策を検討・実施することが必要だ。特に、一昨年の東日本大震災の際に露呈した脆弱性などへの対策を着実に進めなくてはならない。

 例えば、石油に関しては、「次世代レジリエント・コンビナート」を構築すべきだ。東日本大震災では、6カ所の製油所が停止し、津波でタンクローリーも被災した。油槽所のある港湾も封鎖された。液状化対策への官民一体となった集中投資や、設備老朽化を随時、定量的に把握するためのセンシング技術などの研究開発が必要だ。非常時にはタンクローリーの通行規制など物流規制をなくす特例措置なども準備すべきだろう。

 ガスに関しては、各供給地域をつなぐ広域パイプライン網の整備が必要だ。東日本大震災では、仙台市ガス局のLNG(液化天然ガス)基地が被災したが、新潟−仙台パイプラインの存在により、わずか1カ月での復旧が可能となった。しかし、現状では三大都市圏を含めて、こうした広域パイプラインは十分に整備されていない。国としての整備方針を早期に策定すべきである。

 併せて、調達費の高騰を抑制するために、調達先の多様化、メタンハイドレートなど非在来型の国内資源開発なども必要だ。将来的な日韓や日露の国際パイプライン構想なども検討すべきだろう。

成長戦略につながる地域のエネルギー自立性向上

 電力に関しては、広域融通のボトルネックとなる周波数変換装置および連系線の増強が急務である。東日本大震災のような大規模災害時はもとより、猛暑の時期の需給逼迫時のためにも、早急に整備しなくてはならない。

 コージェネレーション(熱電併給)システムや自然エネルギーなどの分散型電源の活用と、需要家サイドのデジタル化によるスマートコミュニティの構築の推進により、大規模集中型電源への過度の依存を解消することも、レジリエンスの向上につながる。これらの対策には、電力システム改革の推進も不可欠である。

 スマートコミュニティの構築は、地域のエネルギー自立性を向上させ、地域経済の活性化につながる。ライフサポート情報のネットワークも構築することで、安全、医療健康、食などの分野とバリューチェーンを形成できる。

 トヨタ自動車グループが宮城県大衡村の工業団地で推進する「F-グリッド構想」は良い先行事例といえる。域内の電力供給に用いる7800キロワットのガスエンジンコジェネからの排熱を、植物工場にも活用する。パプリカなどを栽培する農商工連携プロジェクト「ベジ・ドリーム栗原」の新農場による実証実験が4月に始まった。

 我が国が「海洋国家」であることも忘れてはならない。排他的経済水域と領海を合わせれば、世界第6位の膨大な面積となる。そこで私は、「海洋エネルギー・資源開発用プラットフォーム」を提案している。

 例えば1キロメートル四方の移動式の海上プラットフォームにメガソーラーや風力発電などの設備を搭載して電力を陸地へ供給するとともに、海洋バイオマスでエネルギー資源や医薬品原料などを併産するコプロダクション、海洋牧場などにも使い、さらにはメタンハイドレートや熱水鉱床といった海洋資源の開発にも活用する。エネルギー開発と同時に、新たな産業の創出も期待できる。

 安倍政権による「アベノミクス」の第1、第2の矢である金融政策、財政出動を、第3の矢である成長戦略につなげるためにも、こうした新たなバリューチェーンを生み出すエネルギー関連施策を積極的に推進しなくてはならない。


エネルギー革命の深層
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20130513/248005/?ST=print



「円安=製造業復活」は幻想 米国事情が教示するイノベーション力
2013年5月17日(金)  太田 智之


 円の対ドル相場がついに1ドル=100円の大台に突入した。
 1ドルが100円を超えるのは、2009年4月以来およそ4年ぶりのことである。つい半年前まで、80円前後で推移していたことを考えると、隔世の感を禁じ得ない。
 円安の恩恵は、トヨタ自動車やソニーなど日本を代表する輸出企業の決算に如実に現れている。また、今年度は、価格競争力の向上を通じて、日本経済全体の輸出増加にも寄与する公算だ。最高値だった頃に比べると2割を超える大幅な円安であるだけに、一部では、海外に移転した生産ラインを国内に戻す動きもでてくるとの期待が高まっている 。
米国でも高まる製造業復活への期待
 ここ米国でも、製造業の国内回帰を巡る議論が盛り上がっている。
 中国など新興国における人件費上昇に加え、シェールガス革命によって安価なエネルギーが入手可能となったため、製造拠点として米国の魅力が増していることが背景にある。
 実際、ここ数年、米国では、フォード・モーターやゼネラル・モーターズ、ダウ・ケミカルといった大手企業による生産拠点拡充の動きが相次いでいる。計画ベースも含めると、その数は過去3年で50社以上に達する。自動車や化学メーカーのほか、電子部品、鉄鋼、航空機、建設機械などその業種は多岐にわたる。
 昨年3月に発表され、議論の火付け役となったボストンコンサルティンググループのレポートによると、米国では、製造業の国内回帰などによって、2020年までに200万〜300万人の雇用が生まれ、失業率を2%程度押し下げるとみられている。
 オバマ大統領もこうした流れを後押しすべく 、製造業の法人税率引き下げや研究開発投資に対する税控除拡大などに取り組む方針だ。
エコノミストは過度な期待に警鐘
 一方、経済のプロであるエコノミストはこうした議論に対し、総じて懐疑的だ。
 ゴールドマン・サックスは、3月の顧客向けリポートで、世界輸出に占める米国のシェアがほとんど変わっていない(=他国から市場シェアを奪っていない)として、「現時点で、生産性向上やエネルギーコストの下落が米国の競争力を高めたとは言えない」と結論づけている。
 また、モルガン・スタンレーは、製造業に占める人件費ならびにエネルギーコストの割合が1割程度に過ぎないことから、製造拠点を選択する際の決め手にはならないと指摘。アンケート調査の結果、「企業は市場の成長性や税制をより重視している」と、安易な製造業復活論に疑問を投げかけている。
 輸出の伸び悩みや生産活動の減速も相まって、足元ではエコノミストの見方に与する意見が増えつつあるようだ。
噛み合わない議論が続く
 製造業復活を巡って対立する格好だが、どちらの主張が正しいのだろうか。
 結論からいうと、どちらも完全には間違っていないというのが筆者の評価である。というのも、双方の論点には、最初からズレがあるからだ。
 まずは評価の時間軸である。肯定派は、環境変化に伴う中長期的な影響を指摘している一方、懐疑派は現時点での評価が中心だ。
 肯定派自身、米国回帰の動きは一部の大企業にとどまっており、マクロ的な影響が確認できないことは認めている。一方で懐疑派も、製造業復活と称するかどうかは別として、先行き米製造業の競争力が向上する可能性を完全に否定しているわけではない。市場の成長性をはじめ、税制や規制、また為替動向によって状況が変わりうることは十分認識している。あくまでも、現時点での可能性の多寡を論じているに過ぎない。
 何を基準に製造業復活と評価するのか、その定義の曖昧さも議論を複雑にしている。
 上述したボストンコンサルティングのリポートでは、製造業で60万〜100万人の雇用が創出されると予想している。決して小さい数字ではないが、過去10年に製造業の雇用がおよそ260万人減少したことを考えると、復活と表現できるどうかは疑問が残る。実際、米国では年間200万〜300万人の雇用が増えており、年 10万人程度の雇用増では、雇用者全体に占める製造業の割合は低下し続けることになる。
米製造業は「衰退」というよりも「進化」
 そもそも、雇用の減少を製造業の衰退とみるのは間違っているのかもしれない。なぜなら、過去10年間で製造業の雇用者数は減少したが、付加価値でみた算出額はむしろ増えているからだ(下グラフ)。つまり、労働集約的な生産ラインを人件費の安い新興国に移す一方、米国ではそれに代わる新たな製品が生産されていることを意味している。具体的には、半導体や航空機、医療機器など、より付加価値の高い製品がこれに該当する。
米製造業の実質生産額と雇用者数

出所:米労働省、米商務省
 また、雇用の減少は、設備更新などにより、同じ製品をより少ない人数で生産できるようになった場合でも生じる。雇用が減るからと言って、これを製造業の「衰退」と評価するのは誤りだろう。雇用を確保するために、生産性を犠牲にするのは、豊かさの追求という点で本末転倒である。雇用が増えたとしても、賃金が抑制され、所得の伸びが相殺されては元も子もない。
重要なのは「取り戻す」ではなく「創り出す」
 そう考えると、国内回帰だけで、製造業を復活させるというのはやや無理がありそうだ。製造業復活には、 より付加価値の高いものを継続的に創り出すこと、いわゆるイノベーションが重要となる。
 米製造業における問題の本質は、こうした製品を創り出す努力を怠ってきた結果、本来の強みであるイノベーション力に陰りが見られるようになった点ではないだろうか。他国とパイを奪い合っても持続的な発展は見込めない。米製造業の復活には、消費者があっと驚くような製品の開発がカギを握るのである。
 これは技術立国を自負する日本にとっても重要なポイントだ。円安で一息ついた格好の日本の製造業だが、手放しで喜ぶにはまだ早い。円安を追い風に、どれだけ製品開発力を高められるのか、今しばらく経営者の手腕を見極める必要がありそうだ。



Money Globe- from NY
変わりゆく米国の姿を、ニューヨークから見た経済の現状と、ワシントンの政策・政治動向の両面をおさえながら描き出していく
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村上尚己「エコノミックレポート」

チーフ・エコノミスト 村上尚己が、ファンダメンタルズ分析を中心に内外経済・金融市場に鋭く切込みま

来週の重要経済指標、主要企業決算についてPDF版のレポートで解説しています

5月に入っても日本株の大幅高は続き、更に米国株も最高値を更新し、先進国の株高が顕著になっている。株高を支えているのは、各国中央銀行による金融緩和で、世界的な景気回復が続くという見通しが強まっていることだ。大規模な金融緩和を主導していた米FRBに加えて、2013年の日本銀行の政策の大転換で、2012年まで世界経済のお荷物だった日本経済が復調、これが世界経済全体の正常化を早めるというシナリオである。

ただ、先進国では株高が続いている一方、株式市場と同様に、経済状況を反映する国際商品市場の価格は、ほとんど上昇していない。代表的な国際商品市況のインデックスである、CRB指数は年初水準を下回っており、米国株と商品市況との乖離はかなり広がっている(グラフ参照)。


国際商品相場の価格停滞の一因は、原油価格の抑制が続いていることである。シェールガス革命によりエネルギー供給が拡大するとの思惑が、エネルギー価格全般の抑制要因になっている。そして、原油価格の落ち着きは、ガソリン価格を安定にし、米国の個人消費底上げをサポートしている。更に、このインフレ状況が続けば、中央銀行は金融緩和のアクセルを踏み続けることができるので、株式市場にとってフェーバーである。

ただ、筆者はエネルギー分野について知識に乏しいため、話題になっているシェールガス開発という技術革新が、「革命」と呼べるほどエネルギー供給量を劇的に変える影響を持つのか、正直判断がつかない。この点については、今後知識を増やしたいと考えている。

一方、原油価格の停滞が、エネルギー分野の技術革新とは関係なく起こっている可能性もある。エネルギー分野における供給増ではなく、エネルギー需要の減少である。特に、中国など新興国の成長率減速、景気回復の遅れによって、エネルギーなどの資源需要が盛り上がらず、この結果資源価格が抑制されているということである。

つまり、供給側、需要側の双方の要因が、最近の国際商品相場の価格低下をもたらしている可能性がある。現状、筆者は、第2の要因、つまりエネルギー需要の停滞が、価格上昇を抑制している面が強いと考えている。

というのも、原油などのエネルギー価格よりも、銅、アルミニウム、ニッケルなど、製造業の生産活動の連動性が高い産業用金属資源においても価格下落が目立つからである(グラフ参照)。これを踏まえると、2013年に起きているエネルギー価格低下は、エネルギーや資源分野における需要停滞が主たる要因になっている面が大きい、といえる。


先に説明したとおり、インフレ率低下は、株式市場にとっては好材料である。ただ、需要停滞によって資源価格下落がこれ以上続くなら、要注意のシグナルとみた方がよいだろう。今月の「マーケットの歩き方」「相場変動の主因は、日銀からFRBへ」での解説、そして5月16日のレポート「米製造業景気はやや減速の兆し」 〜NY連銀指数は4ヶ月ぶりのマイナス〜の通り、春先から、日本以外の海外経済は減速気味である。

5月15日のレポート「日本株はどこまで上昇するか〜欧州株は射程圏〜」で説明したが、過去4年停滞していた日本株が米欧株に追いつく動きは、消費増税先送りが実現すれば、2014年まで続く大きな流れである。ただ、これはやや長い目で、日本株の動きを考えた議論である。当面については、海外の経済指標や国際商品市況など、海外発のシグナルに冷静に目を配りたい。

村上尚己著「『円安大転換』後の日本経済 為替は予想インフレ率の差で動く」光文社より発売中!

印刷用PDF   2013年5月17日 広木 隆「ストラテジーレポート」
相場を予想するということ
実に面白い

5月8日付け日本経済新聞のコラム「春秋」はこういう書き出しで始まる。<SF作家にして生化学者のアイザック・アシモフが言ったそうだ。科学で耳にするもっとも胸躍る言葉、それは「私は発見した!」ではなく「へんだぞ……」である、と。科学の発見にたやすいものなどない。第一歩はつねに「へんだぞ」に始まる、ということだろう。>

月9ドラマ(フジテレビの月曜9時に放映されるテレビドラマ)『ガリレオ』で、僕の永遠のライバル・福山雅治が演じる天才物理学者・湯川学は、事件で奇っ怪な謎に遭遇すると必ずこの決まり文句を口にする - 「実に面白い」。とても科学者らしい台詞である。科学者は、変なこと、奇妙なこと、一見すると説明のつかないこと、そういうものに興味をもつところから真理の探求を始めるものである。

相場に限らず、世の中は不確実性に満ち溢れている。従って、予想というものは当たったり外れたりするものだ。だから単に予想の当たり外れを云々するのではなく、その結論に至るまでの思考の道筋、すなわちロジック(論理)の立て方が重要になってくる。因果関係を捉えることといってもよい。

ところが、その因果関係というやつが厄介だ。投資理論というものは、突き詰めれば不確実性のもとでいかに意思決定を行うかということの研究である。その分野の第一人者であるHEC経営大学院教授のイツァーク・ギルボアは著書『合理的選択』のなかで、マクロ経済学、金融、政治学、社会学等では多くの因果関係がいまだ特定できていないと述べている。『ガリレオ』の湯川先生は「現象には必ず理由がある」というが、それはあくまで物理学とテレビドラマの世界の話で、現実の経済は違うのだ。そこが、「実に面白い」ところでもある。

どこで間違えたのか

昨日(16日)のテレビ東京ニュースモーニングサテライトは、日経平均が1万5000円を突破したことから、この先の相場見通しの特集を放映した。スタジオ解説は僕である。

池谷キャスター: 「ちょうど1カ月前に広木さんにご登場いただいたときは、まだ1万3000円台半ば。その時、広木さんはそろそろ一服するのではないか、とおっしゃっていましたが...お見立てが外れてしまったのはなぜですか?」

広木: 「あの、池谷さんね、これだけはお断りしておきたいんですけど、僕は去年、相場がどん底にあった時から強気を述べていた人間で、この先もまだ上値余地は大きいと思ってるんです。そうした上昇局面のなかで目先は短期的に一服となってもおかしくない、と言ったわけですが...言い訳ですね、はい、外れてしまいました。」

予想というものは当たったり外れたりするものだから単に予想の当たり外れを云々するのではなく、その結論に至るまでの思考の道筋が重要であると述べた。池谷キャスターは、この点をちゃんと理解していて、どうして予想に反して相場が上値追いとなったのか、どこで何を間違えたのかをきちんと分析することが大切ですよね、という。

そりゃそうなんだけど、大勢の視聴者がいるテレビ番組で、自分が間違ったことを自分で解説するというのは、「実に面白くない」ものである。実に面白くはないが、仕方がないので僕は渋々こういう説明をした。
「米国の景気を弱く見過ぎた、というのが間違った要因です。」

前回のレポートでも述べた通り、日本株はグローバル景気敏感株である。そして米国金利はグローバル景気の体温計だ。世界経済が順調に成長すれば米国金利は上昇し、グローバル景気拡大の恩恵で日本企業の利益が伸びる。両者の相関は極めて高い。

米国の景気指標にはここ数年、春から初夏にかけて弱含むという季節性がある。今年も例年のパターン通りに、やはり指標が弱含んでいた。それを受けて、3月には2%にまで上昇していた米国金利が再び低下傾向にあった。しかし、日本株もドル円も強烈に上昇した。それは言うまでもなく4月初旬にあった日銀の「異次元緩和」の効果である。だから「異次元緩和」が市場に織り込まれ、その効果が剥落してくれば(すなわち市場が落ち着いてくれば)、米国景気の弱さ(すなわち米国金利の低下)のほうに引っ張られて、株価上昇のピッチも鈍ると考えたのである。事実、ドル円は100円の大台を前に足踏みを続けていた。


ところが日本のGW中に発表された4月の雇用統計で状況が一変する。弱いと見られていた非農業部門の雇用者数が予想対比上ぶれして、さらに過去2カ月分も上方改定された。これを受けてNYダウ平均は取引時間中に1万5000ドル台をつけ、ほどなくして終値でも1万5000ドル台を突破、史上最高値更新が続いている。こうしたことから日本株もGW明けは大幅高となった。一旦、弾みがついた相場は止められない。日経平均が1万4000円台に乗せてから、次の大台替り、1万5000円まではわずか6営業日だった。結局、米国の長期金利は再び2%を目指して上昇に転じた(グラフ1)。株と為替のほうが正しく、米国債のほうが米国景気を過度に悲観的にとらえていたことになる。そして、僕も米国金利に引きずられたのだった。

米国景気は強いのか

しかし、である。米国景気は本当に強いのか?雇用統計は確かに上ぶれた。しかし、雇用統計はもともとブレの大きな統計である。その他の統計を見てみると、小売売上高が良かったぐらいで企業の景況感などは軒並み悪化している(表1)。


端的に言って、経済指標にあらわれている米国景気は強くない。それにもかかわらず、株が上がっているのはどういうわけか。これもイツァーク・ギルボアが指摘したように因果関係が特定できない事象のひとつであるのか。

強過ぎないのがいい - おそらく、そういうことなのだろう。ひところ流行ったゴルディロックス経済である。強過ぎもせず、弱過ぎもしない、ちょうどいい塩梅。強弱入り交じっているのがポイントなのだろう。これが完全に強い経済指標がそろってきたら、FRBの出口戦略が明確に意識される。現在のように、強いものと弱いものが混在している状況では、FRBによる金融緩和がまだ継続されるとの期待も温存される。つまり、相場に都合の良いような解釈がいくらでも成り立つのだ。悪ければ悪いなりに、明るい面、ポジティブな面を見ようと市場が前向きになっているとも言える。投資家心理の改善 - それが強い地合いの背景。そう言ってしまえば身も蓋もない議論だが。

それでもピッチに立つ

相場の見通しを外すと、いろいろなことを言われる。文句、苦情、批判、非難、誹謗、中傷、もろもろである。
「こんなに予想を外して、それでもプロか!」
「責任をとって辞職しろ!」
「お前が下がるというから、売ってしまったじゃないか、どうしてくれるんだ、この野郎!」
「お前が下がるというから、買わないで待っていたら買い場を逃してしまったじゃないか、どうしてくれるんだ、馬鹿野郎!」

罵詈雑言の嵐に耐えながら、僕はサッカーのワールドカップ1994年アメリカ大会の決勝戦を思い出していた。決勝はイタリア対ブラジル。炎天下のデー・ゲーム、両チームとも死力を尽くした激闘の末、延長戦でも0-0のまま決着は決勝としては史上初のPK戦へともつれ込む。一人目のキッカーはイタリア、ブラジルともに失敗。二人目、三人目はともに成功。ところがイタリア四人目のマッサーロが外したのに対してブラジルはドゥンガが決め、この時点で3-2とブラジルが優勢に。イタリア最後のキッカーは稀代のファンタジスタ、ロベルト・バッジョ。バッジョが外せば、その時点でブラジルの優勝が決まる。

バッジョが蹴ったボールはゴールポストを遥かに越えて外れた。この年、世を去ったブラジルの英雄、F1ドライバーのアイルトン・セナが導いたのだとも言われた。優勝したブラジル・チームはこの勝利をセナに捧げるとコメントした。
アイルトン・セナは生前、こんな言葉を残している。
[ 折りたたむ ]
理想を語ることは簡単だが、自ら実践するのはすごく難しい。
だからこそ、とにかく、どんな時でも、ベストを尽くして生きなければいけない。
その結果、うまくいく時もあれば、そうでない時もある。間違いを犯すこともあるだろう。
でも、少なくとも、自分自身に対しては誠実に、そして、自らの描いた夢に向かって、精いっぱい生きていくことだ。
僕は辞められない。
進むしかないんだ。

自分が感じていることは、正しくないかもしれない。
もしかしたら、自分の五感すべてが間違っているのかもしれない。

だから、常に自分をオープンにしておくんだ。あらゆる情報や、たくさんの知識を、受け入れられるように。耳を傾けて、新しい情報を、聞き逃さないように。
そうすれば人間も、マシンも、徐々に限界を超えていけると、僕は信じているんだ。
(アイルトン・セナ)

相場は難しい。予想は当たることもあれば外れることもある。相場を当てても誰にも褒められもしないし感謝もされない。予想を外すと非難轟々。それでも僕は株式相場というピッチに立ち続ける。

満身創痍のロベルト・バッジョが、決勝のPKを外した後、腰に手を当て、うなだれながらも毅然と述べた言葉を支えにしながら。

「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気がある者だけだ。」
(ロベルト・バッジョ)
http://www.monex.co.jp/Etc/00000000/guest/G903/strategy/index.htm


04. 2013年5月18日 02:02:50 : e9xeV93vFQ
米ミシガン大学消費者マインド指数:5月速報83.7に上昇

  5月17日(ブルームバーグ):5月の米トムソン・ロイター/ミシガン大学消費者マインド指数(速報値)は83.7と、前月の76.4から上昇した。ブルームバーグ・ニュースがまとめたエコノミスト予想の中央値は77.9だった。
原題:Consumer Sentiment Index in U.S. Rose to 83.7 in May from76.4(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ワシントン Lorraine Woellert lwoellert@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Chris Wellisz cwellisz@bloomberg.net
更新日時: 2013/05/17 23:03 JST

NY外為(午前):ドル上昇、対円103円台−08年10月以来初

  5月17日(ブルームバーグ):17日午前のニューヨーク外国為替市場ではドル指数 がほぼ3年ぶりの高値に上昇。米金融当局が資産購入プログラムの終了に近づきつつあるとの観測が強まった。
主要6通貨に対するインターコンチネンタル取引所(ICE)のドル指数 は一時前日比0.9%高の84.371。ニューヨーク時間午前10時25分現在は0.8%上昇の84.279で推移している。
ドルは対ユーロで0.5%高の1ユーロ=1.2818ドル。ドルは対円で0.8%高の1ドル=103円08銭。一時103円13銭と2008年10月以来の高値水準をつけた。円は対ユーロで0.2%高の1ユーロ=132円01銭。
原題:Dollar Index Reaches Highest Since 2010 on Fed Bets; RandDrops(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ニューヨーク Liz Capo McCormick emccormick7@bloomberg.net;ロンドン Anchalee Worrachate aworrachate@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Dave Liedtka dliedtka@bloomberg.net
更新日時: 2013/05/17 23:53 JST


メルシュECB理事:資産の質審査、銀行監督の責務開始前に必要
アスムセンECB理事:長期にわたる低金利維持にはリスクが伴う
米景気先行指数:4月は前月比0.6%上昇、市場予想は0.2%上昇
米ミシガン大学消費者マインド指数:5月速報83.7に上昇−予想上回る
デンマーク、ユーロ導入は無期延期へ−ペッグ制が国を守ると首相強調

人民元上昇容認は改革の前触れ、10月に発表との観測
2013年 05月 17日 19:15 JST
[上海 17日 ロイター] - ここ6週間、人民元が対ドルで大幅に上昇している。市場関係者の多くは、当局の容認姿勢を不可解に思っているが、国内外為市場のトレーダーからは、あらたな人民元改革の波の前触れとの見方が聞かれる。

先進国が大規模な金融緩和を続ける中、元はインフレ調整後の貿易加重平均ベースで4月まで7カ月間上昇、輸出競争力を低下させているにもかかわらず、当局は元上昇を阻止しようとしない。

元上昇は、中国の貿易データを歪めているとされる投機資金も呼び込んでいる。

中国人民銀行(中央銀行)は市場介入や基準値で直接、間接的に元の上昇を抑えられる。その人民銀行が動かないことに、トレーダーは首をかしげる。

しかし人民銀行は、元がおおよそ均衡水準に到達したという見解を繰り返すばかり。このため、市場ウォッチャーの間では、中国当局は外国企業に人民元建て決済を促そうとしているとか、人民元改革のおぜん立てという見方が出始めた。

ロイターが取材したトレーダーは後者の説に傾いている。

大手商業銀行(上海)のディーラーは「今回の元高は違う」と述べ「新たな上昇局面というより、一段と柔軟な為替相場制度に向けた地ならしだと思う」と述べた。

すでに市場参加者の間では、10月に開かれる共産党の全体会議で、経済改革の一つとして人民元制度の改革も発表されるとの観測が出ている。

予想される改革は、現在基準値の上下1%となっている変動幅の拡大、基準値をより需給を反映したものにする措置。人民元の国外への出入りに関する規制も緩和されると予想されている。

<経済環境が後押し>

このような予想の理由としてトレーダーが挙げるのは、商務省が3月以降、元相場について沈黙していることだ。トレーダーの間では、商務省が元相場の「安定性」に言及するのが、規制維持のサインと解釈されてきた。

国有銀行(北京)のシニアトレーダーは「商務省など、輸出企業を声を代弁するような機関に元相場安定の必要性に言及させないようにできるのは、指導部のコンセンサスしかない」と指摘。

野村(香港)のチーフ中国エコノミスト、Zhang Zhiwei氏も、自由化の政治的障壁は減ったとみており「あとは適切なタイミングを見極めるだけ」と述べた。

元相場を安く抑え、資本勘定を厳しく規制することにより、中国は数十年にわたり高成長を続けてきた。

しかし、世界金融危機によって、中国が外需にいつまでも依存できないことが明らかになった。危機対応として打ち出した景気刺激策は、不良債権の山を作った。

アジア系銀行のディーラーは「長い間、中国の金融政策は柔軟性のない為替相場に乗っ取られていた」と指摘する。

元相場を抑えるため、人民銀行は市場で外貨を買い上げ、元に交換。その元は国内に供給され、インフレの加速や、さまざまな歪みを経済にもたらした。また、外貨準備も膨張し、世界最大となった。しかし、元が対ドルで上昇している今、外貨準備の価値は目減りしている。

(Lu Jianxin、Pete Sweeney記者;翻訳 武藤邦子;編集 佐々木美和)


来週の外為はドル高基調の持続性を見極め、FRB議長発言など注視
2013年 05月 17日 18:20 JST
[東京 17日 ロイター] 来週の外為市場では、ドル高基調の持続性を見極める展開となりそうだ。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長などFRB高官の発言が相次ぎ、QE(量的緩和)が早期に縮小に向かうとの観測がどう影響を受けるかが最大のポイント。

早い段階で資産購入が縮小されるとの見方が強まれば、ドル/円は103円を突破して一段高になるとみられている。

予想レンジはドル/円が100.00─105.00円、ユーロ/ドルが1.2700─1.2900ドル。

今週は主要通貨に対してドル高が進んだ。ドル/円は15日に102.77円まで上昇して2008年10月以来の高値をつける一方、豪ドル/ドルは下げが加速し、17日に11カ月ぶりの安値をつけた。ドル/円の場合、前週末のG7(主要7カ国)財務相・中央銀行総裁会議で円安批判がなされなかったことで、週初めは「円安」が強まって高値を目指したが、米長期金利の大幅上昇でドル/円上昇のけん引役は「ドル高」にシフトした。

18日のバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の講演に続き、来週はFRB高官の発言が相次ぐ。16日には、米サンフランシスコ地区連銀のウィリアムズ総裁が、雇用市場の見通し改善を踏まえ、FRBは資産買い入れを夏に縮小し、年内に停止する可能性があるとの認識を示したことで、ドル/円のサポート要因となった。

三井住友銀行の岡川聡シニアグローバルマーケッツアナリストは、FRBのQE(量的緩和)縮小観測が高まって米金利が上昇すれば、ドル/円は103円台をトライする可能性があるとみている。

市場では、足元で渦巻く米国が早期に金融緩和の出口に向かい始めるとの見方があくまで憶測で、「バーナンキFRB議長らは、一致してそうした観測の『火消し』に回る」(欧州系銀行)との見方も出ている。

ただ、その場合でも「タイミングは別として、日米欧、そしてオセアニアも含めて、米国が一番緩和を止めるのが早いのではないかという見方はしばらく変わらないと思う。ドル/円が下がっても、良い買い場になって、もう一度上値を試す展開になってゆくだろう」(大手信託銀行)との見方が出ている。

来週は22日に重要イベントが集中する。米国ではバーナンキFRB議長の議会証言のほか、米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録(4月30日―5月1日開催分)が公表される。日本では日銀の金融政策決定会合が終了し、黒田東彦日銀総裁の会見が行われる。

日銀の金融政策決定会合をめぐっては、追加緩和は見込まれておらず、会合後の円安進行は見込みにくいとされている。ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミストの上野剛志氏は「日銀が4月に大胆な金融緩和策を打ち出したことで、日銀の緩和姿勢は明確だというところは続いているので、日本サイドの要因による円安進行はなかなか難しいだろう」と話す。

上野氏は、23日に発表される中国の5月HSBC製造業PMI速報値に注目する。同指数が50を下回れば、ドルの上値を抑えそうだという。

各国の経済指標では、週間の米新規失業保険申請件数など米国の経済指標への注目度が引き続き高いほか、24日発表の5月独IFO業況指数が弱い結果になれば、ユーロに下げ圧力が掛かるとみられている。

(為替マーケットチーム)



ブログ:被害抑止へ「金融教育」に再び光
2013年 05月 17日 18:40 JST
平田 紀之

「操縦する知識も技術もないまま、クルマを運転するようなものだ」──。ある投資ファンドの関係者は、年明け以降、潜在顧客から相談を受ける機会が増えてきたと話す。中には投資知識や経験に乏しい人々もいて「危なっかしい」と肩をすくめる。

AIJ投資顧問やMRIインターナショナルが顧客資産を消失する事案が相次いだ。個人投資家が、金融に対する知識や理解を高めて自衛する必要性は、従来より高まっている。足元で活気づく市場環境では「それに乗じる悪徳業者にも警戒する必要がある」(金融庁幹部)という。

AIJやMRIインターナショナルの不正発覚と並行して見えてきたのは、政府の人員不足による監視の限界だ。金融庁や証券取引等監視委員会が受け持つ業者数は規制緩和で増え、足元では7000社程度になっている。

とはいえ、急激な人員増は期待薄だ。このため、当局は人員配置や、検査対象の抽出方法を改良することで「監視の質を落とさず効率を上げる」(金融庁幹部)方策を模索している。ただ、全ての業者をきめ細やかに点検する「ウルトラC」は簡単には見当たらない。

いきおい、規制強化論も浮上する。確かに手段の一つだろうが、過度な規制は健全な市場取引や金融技術の進化を阻害する恐れもある。しかも、規制を強化することで、より状況を悪化させかねない側面もある。ネットワークのグローバル化が進んでいるためだ。

日本国内で規制・監視が強化された分野では、海外に拠点を移してネットを通じたサービスを提供する業者も出ている。こうした業者が不正をした場合、投資家が被る被害の回復はより困難になる。

そこで政府は、監視体制を見直す一方で、あらためて「金融経済教育」にも光を当て始めている。従来は「貯蓄から投資へ」を前面に掲げ、市場の活性化に軸足を置いていたが、足元では個人の将来資産の形成や、金融サービスの利用者保護の側面により重点を置いている。

座学だけでなく相談先のアドバイスなど実践面を重視する点も、従来とは異なる。学校教育のほか、社会人や高齢者など、年齢別・分野別に焦点を当てて、最低限、身に付けるべき事項の普及を体系的に進めるという。

投資経験の乏しい人が、低金利局面で極端に高い利回りをうたう商品などを前に「自分の投資判断は本当に正しいのか」と立ち止まって考える「健全な猜疑(さいぎ)心」を身に付ける機会になれば良いと思う。

しかし一般の社会人は、日々の生活に追われてなかなか行動に移せないのも人情で、その動機付けは難しい。地道な取り組みが求められる分野なだけに、機運が衰えないことを期待したい。

(東京 17日 ロイター)


コラム:株式の強気相場で判断ミスを避ける4つの処方せん
2013年 05月 16日 14:20 JST
John Wasik

[シカゴ 15日 ロイター] 先週の米株式市場でダウ工業株30種.DJIが1万5000ドルの大台を突破したことや、S&P総合500種.SPXの最高値更新は、買いのシグナルなのだろうか。あるいはそれらは何も意味しないかもしれない。

ただ、ほとんどの市場関係者は、こうした値上がりには不思議な力が備わっていると信じている。

最近の株高は魅力的とはいえ、投資結果に一定のパターンは存在しないことがしばしばだ。われわれは非合理的な行動を避けるためには、本能や直感にとらわれない考えをする必要がある。

例えば「マーケット・タイミング」(安い価格で買って高値で売り抜けることを狙った投資戦略)でのトレーディングを避けるやり方は、損失を回避できる場合が多い。以下に挙げるのは、間違った決断を防ぐそうしたいくつかの方法や考えだ。

(1)頃合いを見計らった買いと売りで稼ごうとするのは避けるべし

トレーディングを行うことは割高につく傾向があり、投資リターンが蝕まれる。ガースタイン・フィッシャーが昨年終盤に公表した研究結果では、1996年初めから2010年末の期間、S&P総合500種の年間リターンは6.66%だったが、物価変動やファンド費用、税金などを調整した後ではわずか1%になってしまう。投資家は、マーケットタイミングに対する大きな代償を支払った。

(2)長期保有が有効

われわれは、将来の予測に関して自己の能力を過信しがちだ。

例えば1993年から昨年まで、中小企業の株式のバスケットを持ち続けていたとしよう。Ibbotson Associatesによると、その場合の年間合成リターンは11%になっていた。ボストンの金融調査会社ダルバーの計算では、大型株を20年ずっと保有したなら、年平均リターンは約8%だ。

だがほとんどの投資家はじっとしていられない。その結果、S&P総合500種よりも4%ポイント以上もリターンが低くなった。この期間には、2回以上の景気後退と2回の大きな株安局面が含まれていることに留意する必要がある。

もしあなたが自分は慎重にふるまっていると考えていても、トレーディングは割高になる。特にボラティリティが高かった2011年に目を向けると、ダルバーの調べでは問題の兆候をみて換金売りに動いた投資家は5.73%の損失を被ったが、S&P総合500種をじっと持ち続けていれば小幅の利益を得られた。

(3)足元の値上がりは明日のリターンを保証せず

株価が高値をつけると、投資家はエコノミストが「後知恵バイアス」と呼ぶ心理の犠牲になる。われわれは、直近のパフォーマンスが続くと考えがちで、結果として相場が最も高いところで市場になだれ込み、その後値下がりに見舞われる。

疲弊した投資家は不適切な方向に進む傾向がある。2010年と11年の強気相場を振り返ると、もし急落前の記録的な上昇局面の序盤で市場に参加していれば、投資家にとっては素晴らしい時間になっていただろう。

もちろん、値上がりや値下がりがどれぐらい続くかを予想する方法はない。だからこそ、大きな市場の転換点ではなく、自分自身で立てた目標を頼りに判断をするのが最適なのだ。

(4)損切りをためらうな

感情的な面で最も実行が難しいのは、損切りをして先に進むことだ。

カリフォルニア大バークレー校のテレンス・オーディーン教授による有名な論文によると、値下がりしている銘柄の投げ売りに対する嫌悪感は投資家に広く共有され、コストも大きいことが証明されている。教授の研究では、投資家が損が出ている銘柄を売り、値上がりしている銘柄はそのまま保有していれば、リターンは4.4%高まる可能性があることが判明した。

われわれはしばしば、感情移入もしくは他の多くの人々が買っているからとの理由で株式やファンドを購入する。何百万人もが好ましく思っているならそれは良い投資であるはずだと考えるとすれば、それは誤りだ。今後も適切な投資になることを意味しない。

それゆえに、購入価格や株式の方向感に注意を払うことが重要だ。株価収益率を同種類の銘柄と比べ、過大評価されていないか、あるいは当該企業と競争相手の行く末はどうなるかを検討しなければならない。

最も大切なのは、ノーベル経済学賞受賞者で「シンキング・ファースト&スロー」の著者であるダニエル・カーネマン氏が「コントロールの錯覚」と呼ぶ、多くの投資家が市場を見据える際に抱く思い込みを克服することだ。あなたの手で自由になるのは、投資額と投資頻度、貯蓄額だけにすぎない。



コラム:海外景気回復は円安と批判招く「両刃の剣」=亀岡裕次氏
2013年 05月 16日 19:27

亀岡裕次 大和証券 チーフ為替ストラテジスト(2013年5月16日)

デフレ脱却を目的とする日銀の金融緩和は日米欧7カ国(G7)や20カ国・地域(G20)などで一定の理解をえられたが、円安に対する諸外国の懸念はくすぶっている。世界各国が市場への影響や経済効果を注視するなかで、量的緩和を強化するのは難しいだろう。

しかし、それでも円安はさらに進行していくと考えられる。なぜなら、日本の通貨供給ペースが諸外国よりも大きく、かつ名目金利や実質金利が相対的に低下するとみられるからだ。

まず、量的緩和が為替に与える効果について考えてみよう。以前、福井俊彦総裁の下で日銀が初の量的緩和を行った際、いくら資金供給を増やして日銀当座預金(民間金融機関の日銀預け金)の超過準備(所要準備を上回る額)を積み上げても、市中に流通する通貨が増えない限り円安効果がないとも言われたが、そうなのだろうか。

日銀は2001年3月に量的緩和を開始し、日銀当座預金の残高目標を段階的に引き上げ、04年1月には30―35兆円程度としたが、円安が進んだのは02年1月までだった。その後、円は対ドルで上昇し、02年1月の135円程度から04年12月には102円程度まで円高が進んだ。ところが、05年になると円安が進み、06年3月に日銀が量的緩和を終了し日銀当座預金を所要準備額に向けて削減し始めたものの、07年6月まで円安が続いた。

すなわち、この間、日銀の量的緩和と為替相場の連動性は認められない。00―06年の日米マネタリーベース(=流通現金+民間金融機関の中銀預け金)比率とドル円の相関係数はわずか0.05と無相関に等しいのだ(正の相関係数は0から1の値をとり、1に近いほど相関が強い)。

では、市中に流通する通貨量と為替相場は連動していたのだろうか。

02年6月以降、日本の「超過準備を除くマネタリーベース(=流通現金+民間金融機関の所要準備額)」の対米国比率は低下した。日銀の資金供給によって超過準備が増えても、市中に流通する現金が増えなかったので円高になったと、02―04年については言える。しかし、そうしたなかで、05―06年には円安となった。結局、00―06年の「超過準備を除く日米マネタリーベース比率」とドル円の相関係数は0.15と無相関に近い。これは、通貨量以外の要因が為替を左右したからだ。

第一の要因は、米国金利の大きな変化である。ITバブル崩壊による雇用減少を背景に米国金利は01―03年に低下した後、04―06年に上昇した。第二の要因は、「双子の赤字」が拡大した米国が、不均衡是正のためにドル安志向にあったことだ。第三の要因は、「米本国投資法」の影響である。05年を中心に米国への資金還流が平年より大きく増え、その直前には資金還流が手控えられた。こうしたことでドル円の動きは説明できる。つまり、福井日銀の量的緩和が円安効果(量的緩和解除が円高効果)を持たなかったのではなく、それらを相殺して余りある米国要因があったということだ。

<近年は日銀緩和が円安を招きやすい状況に>

しかし、今回の量的緩和局面では状況が一変している。07年以降の「超過準備を含む日米マネタリーベース比率」とドル円の相関係数は0.82(超過準備を除くと0.66)と、強い連動性を示しているのだ。これは、日米一方の量的緩和効果が、もう一方の名目金利や実質金利の低下効果によって相殺されることなく、通貨安に働いてきたことを反映している。

07年から11年にかけては、米国の名目金利低下が日本の名目金利低下を大きく上回るペースで進行したうえに、米国の量的緩和によるマネタリーベースの拡大が日本を上回り、ドル安・円高が進んだ。そして12年以降は、米国の名目金利や実質金利の低下がほぼ限界に達するなか、日本の量的緩和によるマネタリーベースの拡大ペースが米国を上回るとともに、日本の名目金利や実質金利が低下し、円安・ドル高が進むようになった。

このように、一国の金融政策が為替相場に与える影響は他国の金融政策や金利動向にも依存するが、近年は日銀の金融緩和効果が他国の金融緩和効果によって打ち消されにくく、円安を招きやすい状況となっている。

現状、米連邦準備理事会(FRB)は量的緩和第3弾(QE3)として月間850億ドル(年間1兆200億ドル)ペースで証券買い入れを行っているのに対し、日銀は国債買い入れなどにより年間約70兆円ペースでマネタリーベースを増やすことを目標としている。両者の比率は68.6円/ドルであり、13年4月現在で48.6円/ドルの日米マネタリーベース比率は明確に上昇していくはずだ。

しかも、日本では銀行貸出やマネーストックM1、M2、M3の伸び率が高まっている。日銀の資金供給によりマネタリーベースが増えているだけでなく、民間金融機関の信用創造もあって広範なマネーストックも増えているのだ。08年以降、低下を続けてきた日米M1比率(日本が相対的に減少)などが上昇に転じることで円安効果が増すことも考えられる。

ただし、これまで円安の主因であった日本のインフレ期待の高まりと実質金利の低下は進みにくくなるだろう。01―06年には消費者物価(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が「安定的にゼロ%以上」となるまで量的緩和を継続するとしていた日銀は、今や消費者物価の前年比上昇率「2%目標」を「2年程度」を念頭にできるだけ早期に実現するとしている。

04―06年には10年物で1%程度までしか上昇しなかった日本のブレークイーブン・インフレ率(BEI)が、足元では5年物で1.8%程度の水準まで上昇している。今後、円安による現実のインフレ率上昇が期待インフレ率を押し上げる働きをするにしても、上昇余地はあまり大きくない。しかも、最近はインフレや景気回復に対する期待の高まりや、債券から株式への資金シフトなどを反映し、日本の名目金利が上昇し始めているので、実質金利は下がりにくくなっている。

<米国の実質金利上昇による円安余地は大きい>

しかし、日本の実質金利低下に代わって、今後は米国などの実質金利上昇が円安に作用することになろう。米国では、雇用増が月平均20万人を超え始めているうえ、資産価格上昇(資産効果)が強まっているので、増税効果を吸収して景気回復が強まる可能性が高い。それが世界景気にプラスに働き、国際商品市況やインフレ見通しが上向くようになると、FRBはQE3の減額を始めるだろう。

米国が金融緩和解除に動くことで、日本のマネタリーベースの相対的な増加が加速するだけでなく、米国の名目金利や実質金利の相対的な上昇も加速する。日本の追加緩和がなくても、円安が進む余地は大きいだろう。

となると、その先には、海外の日本批判があるかもしれない。自国が量的緩和をしているなかでは日本の量的緩和を批判できなかった米国も、自国が緩和解除するなかで円安が進めば、日本の緩和に批判的になる可能性もある。円安効果で日本の貿易収支が改善したり、米国の貿易収支が悪化したりすれば、なおさらだ。海外景気の回復は、通貨量と金利の両面で円安要因になる一方で、海外の日本批判にもつながる「両(もろ)刃の剣」となるだろう。

*亀岡裕次氏は、大和証券の投資戦略部担当部長・チーフ為替ストラテジスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。

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