http://www.asyura2.com/13/hasan79/msg/549.html
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(回答先: 米で労使連合が退職者の年金減額提案−年金改革 自民は高齢者に目が行き過ぎ アフリカ、資源争奪戦は「時代遅れ」 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 15 日 00:17:24)
対米証券投資売越:2月は中長期が178億ドル売り越し
4月15日(ブルームバーグ):米財務省が発表した2月の対米証券 投資統計によると、外国の政府と投資家の中長期金融資産取引額は外国人からみて178億ドルの売り越しとなった。ブルームバーグがまとめたエコノミスト予想 の中央値は400億ドルの買い越しだった。前月は257億ドルの買い越し。
原題:Foreign Demand for U.S. Financial Assets Plunged inFebruary(抜粋)
記事に関する記者への問い合わせ先:ワシントン Meera Louis mlouis1@bloomberg.net
記事についてのエディターへの問い合わせ先:Chris Wellisz cwellisz@bloomberg.net
更新日時: 2013/04/15 22:07 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MLASCG6TTDUJ01.html
「国によって価値が異なる単一通貨」のナゾ
2013年04月16日(Tue) Financial Times
(2013年4月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
欧州中央銀行(ECB)の調査によれば、欧州北部の世帯の純資産は欧州南部の世帯のそれよりもはるかに少ない。
ドイツでは1世帯が保有する純資産の平均値が20万ユーロを少し下回るが、スペインのそれは30万ユーロで、キプロスのそれは67万ユーロなのだという。これらの数字はタイプミスではない。
貧しいドイツ人が裕福なキプロス人を救済している?
同じユーロのはずなのに・・・〔AFPBB News〕
これを知ったドイツの新聞各紙は、貧しいドイツ人が裕福なキプロス人を救済していると書き立てた。この解釈は間違っているが、直観に反するこうした数字の背後にある真実はそれ以上に不穏だ。
この調査で明らかになったのは、純資産に差があることではなく、ユーロ加盟国間に事実上の為替レートがあるということだ。これらの数字は純資産ではなく、不均衡の度合いを示しているのだ。しかも、この不均衡は非常に大きい。
ユーロ圏が発足して以来、ドイツの賃金と消費者物価は概ね一定だった。一方の欧州南部では、賃金も物価も全般的に毎年上昇してきた。
このようにインフレ率に差のある状態が続いたことにより、資産価格に大きな違いが生じている。不動産価格がドイツで最も高いミュンヘンのマンションよりも、イタリアのミラノにあるマンションの方がはるかに高額であるのはそのためだ。
イタリアのユーロでミラノの物件を買うよりも、ドイツのユーロでミュンヘンの物件を買う方が、不動産をより多く購入できるのである。
世帯純資産の中央値では、ドイツはユーロ圏で最低
ドイツではこの調査結果を巡って議論が沸騰しているが、そこで注目されているのは世帯純資産のメジアン(中央値)だ。すなわち、すべての世帯を純資産の多い順に並べ、ちょうど真ん中の順位に当たる世帯の純資産の値である。
この中央値で見ると、ドイツと欧州南部との差はさらに極端になる。お金持ちとそうでない人との純資産の差が極めて大きな国、例えば一握りの超富裕層が国内の土地や不動産の大部分を所有しているドイツのような国では、中央値が平均値よりも大幅に低い値になる。
ドイツの世帯純資産の中央値はわずか5万1000ユーロで、ユーロ圏では最も少ない。一方、キプロスの世帯純資産の中央値は26万7000ユーロだ。
両者のギャップは、ドイツの持ち家比率が50%を下回っていることで説明できる。つまり、ドイツのちょうど真ん中の世帯は住宅を所有しておらず、キプロスやスペインの真ん中の世帯はこれを所有しているのだ。
ドイツ、スペイン間で必要な「実質為替レートの調整」
従って、典型的なドイツ国民は典型的なスペイン国民よりも貧しいのだと言いたい時には、この中央値が引用すべき統計データになる。だが、そんな主張は無意味だ。なぜなら、それは国内の富の分布に基づいた主張だからだ。
国際比較を行いたいのであれば、中央値ではなく普通の平均値を用いる方がいい。その場合、ドイツと欧州南部との差はここまで劇的なものではなくなるが、まだかなり大きいことは間違いない。
もしドイツの世帯純資産の平均値が20万ユーロでスペインの世帯純資産の平均値が30万ユーロだとしたら、そして、国としてのドイツが国としてのスペインより裕福でないということは実際にはないと見なすのであれば、両国の世帯純資産の差は、ドイツ、スペイン間で最低限必要な実質為替レートの調整の度合いを示していると考えられる。
両国の差は、実際にはもっと大きいだろう。筆者は、ドイツの平均的な世帯の方がスペインの平均的な世帯よりも裕福だと考えている。もし筆者の推測が正しければ、これらの数字で表現されるドイツとスペインの不均衡はもっと大きなものになるだろう。
しかし通貨同盟の内部では、賃金と物価の実質的な変動を通じてしか調整は起こり得ない。ドイツではインフレが進んでおらず、将来も進みそうにないため、長期的に見てもこの調整が進む可能性はないと思われる。
ユーロ圏離脱か並行通貨の導入しかない
従って筆者は、長期的にはこの調整が為替レートの名目的な変動を通じて行われることになると考えている。要するに、どこかの国がユーロ圏を脱退するか、並行通貨の導入という手段に訴えるかしなければならないということだ。
この話は次のように言い換えてもいいだろう。同じ通貨単位を使うとスペインの世帯純資産の方がドイツのそれよりも多くなるのであれば、そしてそんなことは実際にはあり得ないと分かっているのであれば、通貨単位の方に何か問題があるに違いないのだ。
データに問題があるかもしれないという見方もできるだろうが、筆者の見る限り、ECBが用いた統計調査の手法に問題はない。ひょっとしたら、入手した住宅価格のデータが間違っていたのかもしれない。確かに、バブル崩壊後の住宅価格の下落を的確に把握するのは難しい。しかし、その程度のことではここまで大きな差はつかない。
実際、この見方は筆者の個人的な経験とも符合する。1999年時点でもベルリンのレストランやタクシーはブリュッセルやパリのそれより安かったが、その差は今では極端に大きくなっているのだ。不思議なことに、この価格のギャップは貿易財にも影響を及ぼしている。国境をまたいでいる欧州小売り市場は効率的に機能していないのである。
大幅に過小評価されている「ドイツユーロ」
こうしたことから筆者は、ユーロという通貨単位はユーロ圏内のどこにあっても同じというわけではないとの結論に至った。スペインとドイツは異なるユーロを使っているのだ。
また、これゆえに欧州南部の人たちが欧州北部の銀行口座に貯蓄を移すのは合理的だと筆者は考えている。彼らが今保有しているユーロの価値を長期にわたって維持するには、そうするしかないのだ。
もちろん、ECBや欧州のほかの機関が、ドイツにあるユーロとスペインにあるユーロは同じではないと結論づけることはないだろう。それを否定するのが彼らの仕事なのだから。
しかし、キプロスへの資本管理措置の導入は前例を作ってしまった。あの国は今や、新しい通貨を持つに至っている。筆者に言わせれば、あれはキプロスユーロだ。前述したECBの調査によれば、ドイツもまた独自の通貨――ドイツユーロ――を持っており、このドイツユーロはかなり過小評価されていることになる。
By Wolfgang Munchau
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37594
焦点:ドイツで反ユーロ政党が旗揚げ、9月選挙で「台風の目」か
2013年 04月 15日 18:08 JST
[ベルリン 14日 ロイター] ドイツで結成された反ユーロを掲げる新政党「ドイツのための選択肢(AfD)」。既存政治勢力はポピュリスト集団だと意に介さないそぶりを見せるが、14日に開かれた初の党大会には約1500人が出席するなど、結成後わずか数カ月で一定の有権者の共感を呼んでおり、9月の総選挙では台風の目になる可能性もある。
AfDは数カ月前、学者やジャーナリスト、実業家らが中心となって結成。ベルリン中心部にあるインターコンチネンタルホテルでこの日開催された第1回党大会では、指導部を選出し、党の綱領を採択した。同党が最優先課題とするのは、ユーロからの離脱と旧通貨マルクの再導入だ。
同党には経験豊富な政治家はほとんどおらず、初の党大会も、すべてがスムーズに進行するというわけにはいかなかった。党創設者であるハンブルク大学のベルント・ルッケ教授の演説は、ドイツ国旗を振る男性に中断させられるなどハプニングもあった。
ただ、大きな会場は高揚感に包まれ、スーツ姿の中高年が目立つ出席者からは、友人や家族の間で同党への関心がいかに高まっているかに驚かされるとの声も相次いだ。
「非常に大きな可能性がある」。こう語るのは、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)から1カ月前にAfD入りしたアレクサンダー・ゴーランドさん。半世紀にわたってCDU党員だったというゴーランドさんは「過去数週間で明らかになったのは、ユーロ圏救済に関しては特に、大政党は耳を貸してくれないと多くの人が感じているということだ」と述べた。
<数十年来のタブー>
フランスの国民戦線(FN)など欧州で見られる他の反ユーロ政党とAfDが一線を画すのは、国家主義や移民排斥を掲げていないこと。同党は、ユーロ圏の「秩序ある」分解こそがドイツにとって最善の利益であると同時に、景気後退や高失業率にあえぐ南欧諸国を助けることにもなると主張する。
党大会出席者が最も不満を示すのは、ユーロ圏債務危機が3年前に顕在化して以降、ギリシャやポルトガル、アイルランド、スペイン、キプロスなどの救済に数十億ユーロを注ぎ込むことにつながった政策について、国内の大政党間で議論が不足していたということ。
ベルリン郊外でガソリンスタンドを経営するヘンリー・ストラセンさん(47)は、「この政党はドイツにチャンスを与える。過去何十年もタブーだったテーマに切り込んでいる」とし、「AfDが出てくる前は選択肢がなく、非民主的だった」と語る。ストラセンさんは以前は、メルケル首相のCDUが連立を組む自由民主党(FDP)を支持していたという。
不動産業を営むトーマス・ラングさん(62)も、FDPに見切りをつけてAfDに参加する1人。デュッセルドルフから党大会に駆け付けたラングさんは、南欧諸国は「ユーロのわなにはまっている」と同情を示し、「彼らは通貨切り下げができず、ドイツへの怒りを強めている。私は欧州を支持するが、こういう種類の欧州は支持できない」と話した。
結党わずか数カ月で、AfDの党員数は現在7500人以上。同党スポークスマンによると、メルケル首相が連立を組む中道右派政党からの加入者は、中道左派で野党の社会民主党(SPD)と緑の党からに比べ3倍に上るという。
各種の世論調査では、有権者の4人に1人がAfDの支持を検討していることが明らかになっている。しかし、専門家の多くは、9月総選挙で議席獲得の条件となる5%以上の得票は難しいと指摘。ボン大学の政治学者フランク・デッカー氏は「問題は、この政党に共感する有権者が実際に投票するかだ」と語った。
<海賊党の教訓>
AfDが選挙で躍進できるかどうかは、複数の要因に左右されるだろう。新党が選挙に参加するには、各州で賛同者2000人の署名が必要となる。
ナチスの苦い経験があるドイツでは、政治の場で国家主義を振りかざせば冷ややかな目で見られるだけであり、党の主張を曇らせるような過激分子は排除するよう気を付けておかなくてはならない。
党大会の会場となったインターコンチネンタルホテルの前では、極右に人気の週刊紙「ユンゲ・フライハイト(若き自由)」のコピーを配る人もいた。
AfDが9月の選挙でチャンスを得るには、シングルイシュー政党から脱皮しなくてはならないという意見もある。14日採択された党綱領には、教育やエネルギー問題などへの提言も盛り込まれた。
AfDにとって教訓となりそうなのが、昨年の地方選挙で既成政党に対する不満票の受け皿となった新興政党の海賊党だ。海賊党に対する有権者の支持は、内紛や組織内の混乱により、過去数カ月で急速にしぼんだ。
CDUのベテラン議員ウォルフガング・ボスバッハ氏は「この政党は過大評価も過小評価もすべきではない」と指摘。ユーロ圏救済策の支持を拒んで党内で孤立したという同氏だが、AfDへの乗り換えは考えていないとした上で、「5%以上得票できるとは思わない。たった5カ月で全国的に組織するのは非常に難しい。ただ有権者がこの政党に流れれば、CDUにとってかなりの打撃になる可能性がある」と語った。
皮肉なのは、AfDが躍進して中道右派票を奪えば、メルケル首相がSPDとの「大連立」を余儀なくされる可能性も高くなるということだ。大連立政権になれば、ユーロ圏救済をさらに支持するようになるとみられる。
メルケル首相は「もしユーロが失敗すれば、欧州が失敗に終わる」と公言する。AfD創設者のルッケ氏は党大会でそのフレーズを引き合いに出し、「もしユーロが失敗しても、欧州は失敗に終わらない。もしユーロが失敗すれば、アンゲラ・メルケルが失敗に終わるのだ」と聴衆に語りかけた。
(原文:Noah Barkin、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)
G20財務相ら、日本の緩和政策を協議する-シルアノフ露財務相
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4月15日(ブルームバーグ):ワシントンで今週開かれる20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では日本の緩和政策が協議されると、ロシアのシルアノフ財務相がモスクワで記者団に述べた。
G20は日本の行動が為替や債務政策、金利に与える影響について明瞭化を望んでいると同財務相は述べた。米国を含め、他の国の緩和政策についても議論すると語った。
また、キプロス救済の経緯で生じた「深刻な前例」も議題になるとし、ロシアは債務危機の可能性を察知するのに役立つ自動警告メカニズムの構想がG20共同声明に盛り込まれることを望むと述べた。キプロスのような危機の再発を防ぐには「予防措置と監視メカニズム」が必要だとの考えを示した。
原題:G-20 Finance Ministers to Discuss Japan Policy Easing:Siluanov(抜粋)
更新日時: 2013/04/15 22:52 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MLAU4W6TTDY501.html
コラム:10項目の指標でアベノミクス効果を検証
2013年 04月 15日 16:36 JST
By Andy Mukherjee
[シンガポール 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] 安倍晋三首相は日本経済に広がる腐食を食い止めたいと考えている。それも迅速に。首相は就任から4カ月足らずで、世界で最も野心的な財政出動と金融緩和のプログラムを打ち出した。
かつて日本経済にあったダイナミックさを失わせ、15年間で9%も経済規模を縮小させたデフレの根を断ち切ることが目標だ。しかし「アベノミクス」は望むような効果をもたらすのだろうか。
長引くデフレは一朝一夕にインフレへは移行しない。その前に起こるべき現象はたくさんある。賃金や消費が上向き、借り入れ需要や新規投資が拡大し、将来の物価が上がるとの期待がもっと強まらなければならない。株式と債券の投資家は信念を曲げない必要があるだろう。
BREAKINGVIEWSはこうした「アニマルスピリット」の指標10項目を合成した「アベノミクス指数」をまとめ、毎月更新していく。ユーザーはこの指数から有効性が低いと思う項目を除いて、カスタマイズが可能だ。
ではアベノミクス指数はこれまでどのように推移してきたのか。過去1年を見ると、指数の前年比の変化は日本の需給ギャップに密接に連動している。回帰分析における決定係数は約50%となった。
次に初期段階の診断としては、これまでの指数はアベノミクスにとって心強い内容となっている。指数は2月まで3カ月連続で上昇して94.6となった。もちろん、まだまだやらなければならない仕事は多い。日本経済がリーマン・ブラザーズ破綻前の水準に戻るには、指数が96程度まで上がる必要がある。2000年初め以降で失われた分を取り戻すには、指数は100に達することが求められるだろう。
貸出資金がもっと思う存分に流れ出さないと、道のりは険しくなる。2001─06年に当時の小泉純一郎首相は、壊れていた銀行システムを立て直したが、その後回復した融資の伸びは08年の金融危機で失速した。そして民間セクターが借金をしても安心だとの思いを強めるのは、安倍首相の経済政策が次の段階に入って、財政赤字を削減し始めてからになる。アベノミクス指数は、そうした緊縮策が実行される時期が早くても数年先になると示唆している。
*アベノミクスインデックスはこちらから(here)。
http://mediacdn.reuters.com/media/jp/editorial/html/20130415Abenomics2.html
金利乱高下、金融機関と密に意思疎通したい=日銀大阪支店長
2013年 04月 15日 16:16 JST
トップニュース
米GMとフォード、燃費効率改善に向けAT共同開発へ
金融市場に不安定要素、金融機関はリスク管理体制を=日銀総裁
日経平均は続落、円安一服や中国マクロ指標下振れで
ドル98円前半、リスクオフ・ムード広がり神経質な展開
三井造13年3月期は83億円の最終赤字に、黒字予想から一転
3月の中国歳入は前年比6.1%増、歳出は7.2%増
焦点:米企業の業績見通し引き下げ、市場の目線下げ株価上昇誘う
「日本包囲網」警戒し円高・株安、先進国の日銀批判は杞憂か
[東京 15日 ロイター] 日銀の櫛田誠希理事(大阪支店長)は15日、日銀本店で会見し、異次元緩和を受けた金利の乱高下について「緩和策が予想を上回り内容が十分消化されていないため」と指摘。「金利情勢に戸惑いがあるかもしれず、地域金融機関とは密に意思疎通を図りたい」と強調した。
もっとも、日銀の緩和策は「全体的にポジティブに受け止められている」とし、円安・株高の結果「足元の景気は改善していないが、先行き改善への期待は大きい」と語った。
近畿の景況感を引っ張っている電子部品・デバイスの輸出調整は「中国などでの在庫増と企業の海外移転進展、日本企業のプレゼンス低下が主な要因」との見方を示した。
近畿の景気の先行きについては「為替動向やエネルギー・輸入コストの上昇など注視すべき要素少なくない」が、円安による素材産業の採算改善や米国向け建機の改善などにより、同地域の「輸出は4─6月中に下げ止まる」との見通しを示した。
(ロイターニュース 竹本能文:編集 山川薫)
金融市場に不安定要素、金融機関はリスク管理体制を=日銀総裁
2013年 04月 15日 16:2
[東京 15日 ロイター] 黒田東彦日銀総裁は15日、都内で開かれた信託大会であいさつし、国際金融市場は依然として不安定要素を抱えており、金融機関は市場環境の変化に備えたリスク管理体制を整備しておくことが重要と語った。
また、金融緩和の効果を経済成長につなげるには、金融面から企業・家計の活動支援が不可欠だと述べた。
黒田総裁は、日本の金融システムについて「全体として安定性を維持している」と指摘。ただ、「国際金融市場は依然として不安定要素を抱えている」と述べ、金融機関に対して「市場環境の変化に備えたリスク管理体制を、平時から構築しておくことも重要」と語った。
その上で、日銀が新たに打ち出した金融緩和は「従来とは量的・質的に次元の異なる」措置とし、効果を日本の経済成長につなげるには「金融機関が、金融面から企業や家計の活動を支援していくことが不可欠」と金融機関の取り組みに期待感を示した。
黒田総裁は2%の物価上昇率目標について「2年程度を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」とあらためて表明。これを裏打ちする施策が「量的・質的金融緩和」とし、長めの金利や資産価格などを通じた波及ルートに加え、市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待ができる、とした。これらが「実体経済や金融市場に表れ始めた前向きな動きを後押しするとともに、高まりつつある予想物価上昇率を上昇させる」と述べ、「日本経済を、15年近く続いたデフレからの脱却に導く」と語った。
黒田総裁の前にあいさつした麻生太郎財務・金融担当相も、日本の金融システムは「総体として健全であり、極めて安定している」と評価。その上で「内外の経済、市場の動向が日本の金融システムに与えている影響について、引き続き高い関心をもって注意していきたい」と語った。また、デフレ脱却、日本経済再生に向け、金融機関に対して「金融仲介機能の一層の発揮を通じて企業の再生、成長、地域経済の活性化に取り組んでほしい」と要請した。
(ロイターニュース 伊藤純夫:編集 内田慎一、田中志保)
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日銀総裁「金融資本市場は好転」 信託大会で
2013/4/15 16:29
日銀の黒田東彦総裁は15日午後、信託大会であいさつし「グローバルな投資家のリスク回避姿勢の後退や国内の政策期待によって、金融資本市場の状況は好転している」との認識を示した。日本経済は「下げ止まっており、持ち直しに向かう動きもみられる」と指摘した。
日銀支店長会議に臨む黒田総裁(中央)ら(15日午前、日銀本店)
2%の物価安定目標の達成時期は「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」と改めて強調した。4日の金融政策決定会合で決めた「量的・質的金融緩和」によって「長めの金利や資産価格などを通じた波及ルートや、市場や経済主体の期待を抜本的に転換させる効果が期待できる」と説明。そのうえで「実体経済や金融市場に表れ始めた前向きな動きを後押しする」と語った。
さらに金融緩和の効果を国内の経済成長につなげるには「金融機関が、金融面から企業や家計の活動を支援していくことが不可欠」と指摘。貸し出しを通じた積極的な取り組みに期待を示した。
日本の金融システムが安定性を維持している点を挙げながらも国際金融市場は「依然として不安定要素を抱えている」と指摘。「市場環境の変化に備えたリスク管理体制を、平時から構築しておくことが重要」との考えを示した。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
「日本包囲網」警戒し円高・株安、先進国の日銀批判は杞憂か
2013年 04月 15日 15:18 JST
[東京 15日 ロイター] 米国が円安をけん制してきたことで、円高・株安が進んでいる。短期的な過熱感が強まっていたことから適度な調整と受け止められ市場に動揺は広がっていないが、欧州や新興国が批判に加われば「日本包囲網」が敷かれるとの警戒感もある。
ただ、米国を含め先進国は日銀緩和策を批判すれば自分たちの金融緩和策との整合性を問われるため、「杞憂」にすぎないとの声も出ている。
<米国の為替政策報告書>
米財務省は12日に公表した半期に一度の為替政策報告書で、日本の経済政策が競争上の優位性を得るための円相場の引き下げを目的としたものでなかったか注視するとの立場を示した。「われわれは日本に対し、G7、G20の一員としてこのコミットメントを順守し、競争的な通貨引き下げ、競争上の目的に基づく為替相場の目標設定を控えるよう促す」とし、日本の政策が内需の伸びの支援を意図としたものか、緊密に注視するとした。
100円手前で足踏みを続けていたドル/円は、3月小売売上高など米国の経済指標がさえなかったことに加え、円安けん制を嫌気し、日本時間15日未明に97.60円まで急落。押し目買いが入り一時、98円後半まで戻したが、中国の1―3月期GDP(国内総生産)の伸びが予想を下回ると再び円買いが強まった。
国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事など、日銀の緩和策に対して支援の声もあるが、市場では18日からの主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で欧州や新興国に日本批判が広がるのではないかとの懸念が強まっている。「『外圧』が規制緩和や構造改革につながればいいが、内需振興策が不十分と評価されれば最悪、日銀緩和策の見直しにもつながりかねない」(外資系証券)という。
ただ、先進国の間ではそれほど日本批判は強まらないとの見方もある。新興国は先進国の金融緩和で通貨高とインフレに苦しんでおり、日本への批判を強めそうだが、自分たちも「超」が付くほどの金融緩和を行っている米国や欧州は日銀の金融緩和策を面と向かって批判はしにくい。
三菱UFJ信託銀行・資金為替部グループマネージャーの塚田常雅氏は「日本の金融緩和策に制約・制限を求めるようなことをすれば、自国の金融緩和策との整合性が問われることになる。米国の為替政策報告書も従来のスタンスと大きな違いはない」と話す。米国は連邦準備理事会(FRB)の金融緩和が「出口」に向かう際の「ショック・アブソーバー」としての役割を日銀の緩和策に期待するはずであるため、強い批判はしないだろうとも指摘している。
<円安の担い手は>
米商品先物取引委員会(CFTC)が発表したIMM通貨先物の取組(4月9日までの週)によると、投機筋の円ショートポジションは差し引き7万7697枚と474枚減少した。4月4日の日銀緩和策発表で、ドル/円は93円台から4月9日の98円後半まで5円以上円安が進んだが、IMMでは投機筋の円売りポジションはわずかだかむしろ減少したことを示した。実需筋を示す「Commercial」もほとんどポジションに変化はなかった。
市場では「いわゆるミセス・ワタナベが円売りをしたのではないか」(別の外資系証券)との見方もあるが、FXプライム取締役の上田眞理人氏はやはり海外投機筋が円売りの担い手に変わりはないとみている。「シカゴマーカンタイル取引所(CME)のIMM通貨先物は市場全体ではわずかな比率しかない。そこを通さないファンド勢の取引は膨大にある。前週序盤は日本の生保の外債投資が話題になったが、実際の円売りフローは観測されていない。そうしたうわさに機敏に動けるのはやはり投機筋ということになろう。個人の円売りはそれほど増えていない」(上田氏)という。
円安トレンドが変わらないとすれば日本株も底堅い展開が続く見通しだ。日経平均は大幅続落となったが、押し目買いに下げ幅を縮める場面もあった。アストマックス投信投資顧問シニアファンドマネージャーの山田拓也氏は「これだけ過熱感があるなかで下げ渋るのは、やはり日本株を買いたい投資家が依然として存在するということだろう。国内企業業績への市場の期待値は高くないが、それだけにポジティブ・サプライズの余地もある」と話している。
(ロイターニュース 伊賀大記;編集 田中志保)
景気判断、全9地域で引き上げ 日銀地域経済報告
2013/4/15 15:06
日銀支店長会議に臨む黒田総裁(中央)ら(15日午前、日銀本店)
日銀は15日、全国支店長会議でまとめた4月の地域経済報告(さくらリポート)を公表した。全9地域で前回1月から景気判断を引き上げた。全地域の判断を引き上げるのは2012年7月以来、3四半期ぶり。内需の好調さに加え、海外景気の下げ止まりを背景に、多くの地域で「持ち直し」と評価する声が相次いだ。
日銀は各地の経済情勢を分析した報告書を3カ月ごとに公表している。前回の報告では、北海道を除く8地域で景気判断を引き下げていた。4月は5地域で「緩やかに持ち直している」や「回復しつつある」といい、景気が上向いていることを示した。また「横ばい圏内」にある4地域でも、近畿のように一部で「持ち直しに向けた動き」との指摘があがるなど、景気の底入れが鮮明になりつつある結果になった。
項目別でみると、生産は7地域で判断を上方修正した。北陸では「全体として増加している」、東海など3地域からは「持ち直している」や「持ち直しつつある」との声があった。業種別では自動車などの輸送機械や鉄鋼の好調が目立ったが、電子部品・デバイスは多くの地域から「弱めの動きを続けている」との報告があった。
個人消費は6地域で判断を引き上げた。円安・株高の進行で消費者マインドが改善し、高額品を中心に売れ行きが伸びている。東海や九州・沖縄からは「持ち直しの動きがみられている」との報告があったほか、東北など5地域からは「底堅く推移している」や「横ばい圏内」との指摘があった。
設備投資は多くの地域で「増加している」などの評価があった一方、複数の地域から「製造業で弱めの動きがみられる」と企業の慎重な姿勢を示す声もあった。雇用・所得動向は7地域で判断を引き上げ、「再び改善に向かう動きがみられている」と前向きな評価があった。〔日経QUICKニュース(NQN)〕
日銀、さくらリポート、日経QUICKニュース
全9地域の景気判断一覧表 日銀地域経済報告 (2013/4/15 15:06)
東証大引け、大幅続落 円上昇受け主力株売り、押し目買いも (2013/4/15 15:34)
黒田総裁「景気、持ち直しの動き」 支店長会議 (2013/4/15 11:13)
2月の鉱工業生産、確報はプラスに転換 (2013/4/15 14:51)
債券投資家に金融抑圧の「カチカチ山」 (2013/4/15 7:00) [有料会員限定]
黒田総裁へ 元FRB議長の「警告」(FT) (2013/4/15 7:00)
円安・株高が加速 「黒田緩和」から1週間 (2013/4/12 1:06) [有料会員限定]
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インタビュー:利払い負担で資金繰り苦しく、財政不安定化も=池尾教授
2013年 04月 12日 14:59 JST
[東京 12日 ロイター] 池尾和人・慶応大学教授はロイターのインタビューで、今回の日銀の異次元緩和について、実体経済への効果は不確実であり、例えて言えば、飲酒で気分はよくなるものの、金融不均衡の蓄積を招いて二日酔い状態に陥ることが心配されると評した。
最大のリスクとして、国債市場からの離脱者が相次ぐことによる市場のストレスの広がりや、デフレ脱却に伴う金利上昇で利払い負担が税収増を上回って重くなるなど、財政の安定が損なわれる可能性を指摘した。
<財政の奇妙な安定が崩れるリスク>
すでに異次元緩和の影響で、国債市場はこの1週間、乱高下を繰り返す展開となっている。
池尾氏は国債管理政策において不安定な状況が起こるリスクを挙げる。
「日銀が大量の国債を買い取ることで、これまで民間部門が保有していた国債が減るために、国債の需給が引き締まり、長期国債の利回りは低下する要因となるはず。一方で他の資産市場にシフトして国債市場から離脱する市場参加者の方が多ければ、かえって需給が緩み、結局利回りは下がらない。何らかのストレスが市場に発生することで、財政に伝播(でんぱ)してしまうリスクや、金利上昇の際のリスクが大きくなったともいえる」と不安を示す。
ただし「何が起こるかは、民間金融機関の行動次第だ。買えるだけの国債は買った上で買えない部分だけ外債投資に移すのか、あるいは、国債市場から離脱して他の投資先を本格的に求めていくのかによって、生じる結果も変わる。確定的なことはわからない」として、今後の市場の動きを見極める必要性を指摘する。
さらに大きなリスクとみているのは、デフレから脱却して景気が回復すれば、金利が上昇し、利払い負担が膨らむこと。「これまでは、デフレのもとで財政が奇妙な安定を保ってきたが、デフレから脱却して金利が上昇すると、財政の安定が崩れるというリスクがある。その際、成長率上昇による税収増と利払い費の比較になる。税収に比べて利払いが大きくなっているので、成長率が1%上がった場合、金利も1%上がると、税収増より利払い増が大きくなり、資金繰りが苦しくなる」というものだ。
そのうえで、デフレ脱却を目指す以上、財政リスクへの備えが欠かせないと指摘。「これだけの公的債務を抱えている国の首相が、金利上昇方向の政策を推進し、大胆な緩和策をとる以上は、それに見合った財政のコンティンジェンシープランが必要だ」と強調する。
<実体経済への効果は不確実、定量的に見通せず>
アベノミクスが目指すデフレ脱却に向けた異次元緩和が、実体経済に本当にプラスの効果をもたすかどうかも大きな焦点だ。
この点について池尾氏は「影響は不確実としか言いようがない」として、客観的な論拠に乏しい政策との見方を示す。
「ある種の定性的な効果はあるだろうが、(数字や分析で示すことができる)定量的な見通しはない。たとえば金利を25ベーシス下げればこれだけの効果があると、確実に定量的な効果がわかっている金融政策というのはすでに使い果たしている」ためだ。
波及ルートについて、池尾氏も言葉による説明は可能だとする。「ベースマネーを2倍にするために民間銀行から長期国債という資産を取り上げて、その分準備預金を増やすというのは、銀行にとっては、資産の満期構成を短期化させることになり、サヤの稼げる運用に追い込まれ、ポートフォリオリバランスが起こりやすくなる」。ただし、「こうしたルートで、資産価格や為替レートに変化が生じ、輸出企業の収益や輸出数量による生産増、資産効果による民間経済刺激などの効果は期待できそうだというのは、あくまでも定性的にいえることでしかない。これはある種、人類史上初の実験なので、確実にこんな効果が出ると明言できる人は誰もいないはずだ」と釘を刺す。
<バブルが起こるストーリーにはなっていない>
また、今回、黒田東彦総裁がこれほどの大規模な緩和を打ち出したのは、予想インフレ率を上げるため断固とした姿勢を示したかったとの見方が一般的だが、池尾氏は「一体的な因果関係に裏打ちされていない限り、姿勢だけでは長期的にはなかなか(その効果を)信じてもらえないだろう」と厳しい見方を示す。「現実のインフレ率を上げるためには、需給ギャップを改善しなければいけない。2%物価を上昇させるには、GDPギャップが今現在から7%程度改善しなければばならないという分析があるが、円安効果や資産効果だけでGDPギャップが7%も埋まるかというと、そこは定量的に不確かとしか言いようがなく、現実的にも想定しがたい」として、2年で物価2%の実現は無理があるとみている。
一方で、副作用について「いわば、お酒をどんどんあおって気分がよくなるのと似ており、後で金融不均衡が蓄積するような二日酔いにならなければよいがと感じている」とみている。
もっとも一部で資産バブルへの懸念の声が挙がっていることについて「日本はまだバブルに至るストーリーにはなっていない」とみている。「バブルが生じるにはさまざまな条件が必要だと分析されている。金融の緩和的環境だけで起こるものではない。ある程度の人々が、新しいパラダイムがやってきたのだから資産などの値上がりは正当なものだと納得することが必要」だとする。池尾氏は、現在の日本でそこまでの認識の広がりには至っていないとみている。
*インタビューは11日に実施しました。
(ロイターニュース 中川泉 茂木千香子;編集 石田仁志)
焦点:アベノミクスは日本救うか、実体経済への波及に正念場
2013年 04月 13日 12:35 JST
[東京 12日 ロイター] 安倍晋三首相が進める経済政策「アベノミクス」。それがもたらす恩恵に関する議論は、奇跡のダイエット方法や命を救う新薬についての議論に非常によく似ている。本物かどうか懐疑的な人は多いが、その効果に興味がないという人はほとんどいない。
日本経済が強さを取り戻すことは世界の経済成長に寄与し、高齢化や負債膨張など日本が抱える問題の対応にもつながるため、多くの人がアベノミクスを好意的に解釈することに不思議はない。言い換えれば「疑わしきは罰せず」ということだろう。
今のところ、安倍首相が打ち出した「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」という3本の矢は、日経平均株価を約5年ぶりの高値に押し上げ、内閣支持率70%の原動力にもなっている。
ただ、たとえアベノミクスが経済活動に望み通りの効果をもたらすと確信したくても、日本では過去20年間、雇用環境の改善や賃金上昇、持続的成長が実現しなかったのも事実だ。
アベノミクスにとって最初の大きな山場は、政府が6月に成長戦略を発表するときに訪れるだろう。そこで示される改革案が、金融緩和や円安、株高による資産効果などの好循環を持続させることができるかが焦点となる。
企業経営陣や投資家は、安倍政権が既得権益にどこまで切り込めるか、投資や成長への障壁をどこまで切る崩せるかに注目するだろう。
経済同友会の長谷川閑史代表幹事(武田薬品工業社長)は、最近行われた日本外国特派員協会での講演で、「安倍政権の本当の苦しい戦いは今から始まる」と述べた。長谷川氏は、政府の産業競争力会議で民間議員を務める。
<一部には明るい兆し>
安倍首相は先月、環太平洋連携協定(TPP)交渉への参加を表明。TPP参加は輸出促進だけでなく、日本国内の市場開放のきっかけになるともみられている。
また今月に入って政府は、電力小売りの全面自由化や発送電分離などの一連の電力改革を実施するための電気事業法改正案を閣議決定。これは、地域独占の電力会社の分社化や市場の競争促進に向けた最初のステップとなる。
年央にも出される予定の中期財政計画では、安倍政権の財政健全化への本気度が問われ、2014年4月から予定されている消費税率の引き上げが計画通り実施されるのかを占うことになる。
アベノミクスは原則として、投資家や企業、消費者の期待の変化が、実体経済に波及することへの大きな賭けと言える。
期待の変化はすでに景況感調査や金融市場には表れているが、実体経済への波及という点で注目すべき動向の1つは企業の設備投資だ。潤沢な現預金を保有する日本企業に余剰生産能力があることを考えれば、企業がさらなる投資や借り入れに動くまっとうな理由は見当たらない。
実際、3月日銀短観では、大企業の業況判断こそ製造業・非製造業ともに3四半期ぶりに改善したが、大企業・全産業の2013年度の設備投資計画は前年比2.0%減とマイナスだった。
<物価と賃金>
政府にとってもう1つの頭痛の種は、円安とインフレ期待の変化により、賃金が上昇し始める前に物価が上がり、結果として家計を圧迫し、経済成長が阻害されるというシナリオだ。
ある政府当局者はロイターに対し、賃金上昇は円安による物価上昇からは遅れるので、それが大きな社会問題になる可能性に「注意を払う必要がある」と述べている。
株高による資産効果は、すでに高額品を中心に顕在化し始めている。しかし、経済産業省が先に発表した2月の小売業販売額(全店ベース)は前年比2.3%減となり、2カ月連続でマイナスとなった。
ファーストリテイリング(9983.T)は今月、国内ユニクロの3月既存店売上高が前年比23.1%増になったことを明らかにしたが、ユニクロ事業の通期の営業利益予想は据え置いた。 柳井正会長兼社長は会見で、「消費者に購買意欲が以前に比べかなり出てきた」とし、政権交代後に景況感がよくなったとの認識を示したが、「続くかどうかはわからない」と持続性については懸念も示した。
失われた20年を経験した日本では、平均的「サラリーマン」が自分たちの給料が再び上がると確信できるようになるまで、消費者心理の真の改善は訪れないのかもしれない。
日銀が1日発表した3月の「生活意識に関するアンケート調査」では、物価上昇を見込む人の割合が大きく増加し、収入増加を見込む人の割合も増えたが、収入の上昇が物価上昇についていくと考える人は9.5%にとどまった。
来月から本格化する企業の2013年1─3月期決算発表も、輸出産業が円安のメリットをどれだけ享受できているかを計る試金石となる。
安倍首相は業績の回復した企業から賃金を引き上げるよう要請しているが、企業は業績の持続的改善が確認できない限り、それに応じるのは難しい。夏のボーナスが1つの手掛かりとなりそうだが、野村証券金融研究所の木下智夫チーフエコノミストは、給料が上昇し始めるには2年かかる可能性があると指摘する。
大胆な金融緩和に踏み出した黒田日銀が目指すのはデフレ脱却だが、エコノミストの多くや一部の日銀審議委員さえ、2年以内の物価目標2%達成には懐疑的なのが現実だ。
機関投資家向けにリスク管理サービスなどを提供するサンガードAPTのリサーチ部門責任者、ローレンス・ウォーマルド氏は、顧客の多くは、日本が「やるべき実験」をやり抜くまで忍耐強く待つ準備ができているようだと語る。ただ「問題は、アベノミクスが消費拡大や建設業など特定セクターへの恩恵で終わらず、日本経済の競争力強化につながるかどうかだ。競争力の低下、それが心配だ」と述べている。
コラム:異次元緩和の出口で試される「第4の矢」=河野龍太郎氏
2013年 04月 12日 15:26 JST
河野龍太郎 BNPパリバ証券 経済調査本部長(2013年4月12日)
日銀の黒田東彦新総裁は、国債購入量やマネタリーベースを2倍に拡大する政策を打ち出し、レジームチェンジ(体制転換)を印象付けた。2倍の理論的根拠は存在しないが、政治家や国民に従来とは異なる大胆な政策であると、わかりやすく伝えることを狙ったのだろう。
昨夏から米欧の中央銀行関係者の間では、量的緩和は理論的にも実証的にも効果が乏しいとの意見が増えていたが、こうした中で、日本でオールド・タイプのマネタリスト的政策が導入されたことは驚きだ。
黒田総裁は、「現時点では必要にして十分な措置を取った」と述べているが、4日の金融政策決定会合の声明文には「経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う」とあり、目標達成が遠のくようなことがあれば、追加緩和を実施する姿勢を示している。
株価が急上昇する一方で、世界経済の回復ペースは依然として緩慢なままであり、先行きも下振れリスクが拭えない。米連邦準備理事会(FRB)の出口政策が先延ばしされ、再び円高圧力が強まるようなことがあれば、躊躇なく追加緩和に踏み切るということなのだろう。
黒田日銀のアグレッシブなスタンスを考えると、その際、長期国債の買い入れペースは1.5倍の年率75兆円程度まで引き上げられるのだろうか。先の決定会合で決まった2倍に比べれば少ないように見えるが、白川方明前体制の時に比べれば実に3倍である。
選挙に左右される政治同様、金融市場においても近視眼的な視野で政策を評価する性質が組み込まれている。市場が満足するような政策運営を続けていくと、長い目で見た場合、お粗末な結果を招く恐れがある。ちなみに、あまり知られていないが、国債市場は日銀の大量購入によって流動性が著しく枯渇し、機能不全に陥っている。日銀が直接価格をコントロールする官製市場の様相を呈しており、一国の金融システムの根幹である国債金利の体系に大きな歪みが発生していることは、大変懸念される。
<「期待」だけでは動かない賃金>
筆者は引き続き、金融政策のみでデフレから脱却することは困難であると考えている。長期国債の買い入れは、年率で名目GDP(国内総生産)の10%を上回るペースと相当にアグレッシブであるが、こうした量的緩和ですでに極めて低い水準にある長期金利をさらに数十ベーシスポイント引き下げたところで、実体経済を刺激する効果は限られる。
量的緩和論は、マネーが十分増えればインフレ率が上がるという貨幣数量説を前提としている。シンプルな考えだが、貨幣数量説は均衡において物価とマネーが比例関係にあることを示すだけで、どのような経路で物価が均衡に向かうのか全く説明していない。マネーストックと一般物価あるいは名目GDPの関係は、ゼロ金利の下では失われている。
興味深いのは、貨幣数量説の創始者の一人であるアルフレッド・マーシャル卿が、日本のデフレと類似性の高いとされる19世紀後半の英国の大不況期の物価下落について、貨幣的要因ではなく、実物的要因にその原因を求めていた点である。新興国の台頭や輸送コストの低下、資本収益率の低下など、現代の日本でデフレの原因として掲げられる実物的要因が当時の英国でも主張されていた。マーシャル卿は、均衡概念である貨幣数量説を安易に現実経済の分析に適用することを慎んでいたわけだ。
現代版・貨幣数量説の信奉者であるリフレ派は、量的緩和を進め期待に働きかけよと主張するが、「期待」で動くのは株式や不動産、コモディティ、為替レートといった「ストック」の価格であり、最終財・サービスの価格や賃金といった「フロー」の価格は「期待」が変わっても簡単には変化しない。大胆な金融緩和は、実体経済から遊離した資産価格の上昇、つまり、バブルをもたらすだけではないか。
そもそも物価安定が重要なのは、マクロ経済の安定を図るためである。デフレ脱却のために極端な政策を追求し、バブルを引き起こせば、マクロ経済の不安定化は避けられず、本末転倒と言わざるを得ない。行き過ぎた金融緩和策の追求は終わりとし、潜在成長率を高めるべく規制緩和などの成長戦略を政府が進めるべきだ。潜在成長率が上昇すれば、資本収益率が高まり、伝統的な金融政策の有効性も復活する。これが王道だろう。
<マネタイゼーションの回避に必要な第4の矢>
また、アグレッシブな金融政策が決定される一方で、その出口についてほとんど触れられていない点も気がかりだ。手仕舞いの用意のない政策は本来あり得ない。2%のインフレターゲットの存在が出口を示すと言いたいのだろうが、膨大な長期国債を抱えこむ日銀は否応なしに国債管理政策に組み込まれる。将来、インフレが上がり、物価安定の視点から引き締めが必要となっても、利上げや国債売却はかなりの困難を伴うだろう。
これは、長期金利が上昇すると、政府の利払い費が雪だるま式に増え、国の借金が発散を始めるからである。また、国債を大量に保有する金融機関は国債価格が下落すると資本が毀損し、金融システムに影響する。デフレ脱却が進めば、いずれかの段階で物価上昇を織り込んで長期金利は上昇するが、2%インフレが実現する場合、1%の均衡実質金利を前提にすると、長期金利は少なくとも3%まで上昇する。
筆者の試算では、長期金利が3%を超えると、中小企業金融機関などの経営は困難になる。1%のリスクプレミアムが上乗せされて4%となれば、地域金融機関が資本不足に陥り、金融システムの動揺が始まる。目の前の金融システム危機を避けるために、日銀は物価安定を犠牲にせざるを得なくなるだろう。この時、インフレターゲットは機能しない。
また、政府・日銀を統合したベースで考えれば、日銀が長期国債を買い進めていくということは、政府部門の民間部門に対する債務が長期国債から日銀当座預金という超短期の債務へ置き換わっていくことを意味する。つまり、政府部門の債務は短期化していくということであり、その分、国の財政は金利上昇により脆弱になっていく。言い換えると、それゆえに利上げができなくなるということである。
物価安定の観点から必要と判断される時点で、日銀が出口に向かうことができるか、すなわち国債買い入れを停止できるかは、最終的には国家財政への信認が保たれているかどうかに依存する。したがって、信頼に足る財政再建化プランを打ち出す必要がある。アベノミクス流に言えば、金融緩和、財政出動、成長戦略に次ぐ「第4の矢」だ。
その場合、「2015年度プライマリー収支赤字半減」「2020年度プライマリー収支黒字達成」といったスローガンを繰り返すだけではもはや十分ではない。公的債務膨張の最大の要因である医療や年金など社会保障制度の改革案が盛り込まれなければ、財政健全化計画は絵に描いた餅に終わる。
しかし、安倍政権では社会保障制度改革はほとんど手付かずのままだ。負担増や給付減につながる国民に不人気な政策は、なかなか打ち出せないのだろう。第4の矢として財政健全化の道筋を示すことができなければ、アベノミクスは単なるマネタイゼーションに堕(だ)すことになる。
*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。
http://jp.reuters.com/article/jp_Abenomics/idJPTYE93B02N20130412
「仮面社会主義者」の集まりとなった中国共産党
求心力低下でこのままでは崩壊必至
2013年04月16日(Tue) 柯 隆
2012年の世界情勢を振り返れば、名実ともに政治の年だったと言える。世界のほとんどの主要国で選挙などが行われ、政権が交代したからだ。中国も例外ではなく、10年ぶりの政権交代が行われた。胡錦濤政権の10年間は、経済成長こそ維持したが、ほぼすべての改革が先送りされ、中国にとって失われた10年と言っても過言ではない。
専門家の間では、新しく誕生した習近平政権はカリスマ性の弱さゆえに、必要な改革を推し進めることができないだろうと見られている。確かに選挙で選ばれていない習近平国家主席は長老の前では頭が上がらないだろう。長老が改革されるべき利益集団のボスだとすれば、それにメスを入れ改革を進めようとする習近平国家主席に対して、「お前は誰のおかげで国家主席になれたと思うのか」と言うだろう。習近平に、返す言葉はないに違いない。
結局のところ、習近平政権が進める改革は、抵抗の弱い分野に集中し、激しく抵抗してくる分野の改革はこれまで通り先送りすることになるだろう。しかし、これでは、問題の解決にはならない。
忠誠心ではなく損得で結ばれている王様と家臣
一国の文化にとり宗教はプラットフォームのような存在である。一方、一国の政治にとり宗教はそれを性格付けする基礎である。政治体制のあり方について、その国の文化的特性と宗教の性格との相性を考慮しなければならない。
中国という国は4000年ほどの歴史を有している。その文化と宗教の基礎はすべて儒教である。換言すれば、儒教こそが中国の文化であると同時に宗教でもある。
儒教の教えの基本は「仁」「義」「忠」と「孝」である。民主主義ではない家父長型の社会において「忠」と「孝」はその基本である。すなわち、王様に対しては、官僚は忠誠でなければならない。親に対して子供は孝行しなければならない。
しかし、このような儒教の教えをもって社会主義政治を定義するのは十分ではない。毛沢東以来の中国政治は、マルクス・レーニンが定義した社会主義政治ではなかった。結局、毛沢東自身は部下に忠誠心を求める王様だったわけだが、ケ小平以降の中国の指導者、とりわけ江沢民以降の指導者たちは王様ではなくなった。
今の中国社会では、政治指導者に対する忠誠心はなく、親に対する孝行も言われなくなった。現在、政治家と官僚は忠誠心によって結ばれているのではなく、その関係は利益を巡るディールである。そのプロセスにおいて腐敗が横行する。親に対して子は孝行するのではなく、逆に、親のうまみを吸う子が増えている。うまみが失われた老人は誰も面倒を見ない。
総括をすれば、伝統的な中国社会は大家族のような家父長社会だった。その中では、民主主義の多数決で物事が決まるのではなく、最も権威のある長老がバランスよく物事を決めていた。こうした伝統的な中国的な文化と宗教的な土壌の上で欧州の民主主義が根付くことはない。
しかし、社会主義中国が成立してから、中国の伝統的な文化と宗教的な土壌がすべて壊されてしまった。今の中国は、伝統が失われ、一方で欧米のような社会でもない“お化け”のような存在になっている。
イデオロギーなき社会主義の崩壊
1990年代に入り、旧ソ連や東欧諸国など社会主義陣営のほとんどは崩壊した。専門家の間では、社会主義の崩壊は経済運営の失敗によるものと指摘されている。だが実際は、経済運営の失敗というよりも、イデオロギーの崩壊によるところが大きい。
当初、社会主義が人々を引きつけたのは、絶対的な平等を唱えるその魅力的なイデオロギーだった。しかし、ほとんどの社会主義国で実現したのは、「誰もが貧しい」という平等だけだった。社会主義が人々を豊かにすることができなかったため、マルクスとレーニンが提唱したユートピアが完全に崩壊した。
中国は三十余年間にわたる「改革開放」政策により、著しい経済成長を成し遂げた。しかし、こうした奇跡とも称賛されている経済成長は社会主義のおかげではない。市場経済の原理を取り入れたから実現したのである。
問題なのは、中国共産党が生産活動にこそ市場原理を導入したが、所得分配制度の改革が大幅に遅れていることにある。
中国共産党はその権力をもって権威を保とうとしている。しかし、「絶対的な平等」というユートピアが崩壊した現在、共産党への求心力が急速に低下している。否、今の中国共産党はかつての赤い政党でなくなった。国民は共産党に対して正しい経済運営と公平な所得分配を求めているが、共産党はそれに十分に応えていない。
長い間、共産党は国民からの支持を得るため、優秀で模範的な共産党員を、国民が学習する対象として掲げた。こうした学習運動を通じて、共産党が国民のための政党であることを国民に唱えてきた。しかし、「模範的」とされるこれらの共産党員の多くはでっち上げられたものだった。何よりも共産党員自身がこれらの模範を学習しなければならない。多くの共産党幹部は模範的どころか、想像以上に腐敗が横行している。
絶滅してしまった本物の共産主義者
今の中国で悲劇なのは、共産党幹部らが自分たちも今の政治体制と社会が持続するのは不可能と思っていることである。そうでなければ、3分の2の高級幹部が自分の子供を欧米諸国へ留学させ、外国の国籍またはグリーンカード(永住権)を取得したりはしないだろう。重慶市前書記の薄熙来氏は、あれだけ毛沢東時代の素晴らしさを唱え、革命的な歌を歌うキャンペーンを展開していたが、その息子は米ハーバード大に留学している。結局、薄氏本人が汚職などの規律違反で失脚してしまった。
このように考えれば、革命的で模範的な思想は、共産党が人民を教育するための道具に過ぎない。共産党の要人が執務室と住居を構える北京の中南海の新華門の壁に、「為人民服務」(国民のために奉仕する)というスローガンが今も掲げられている。しかし実際のところ、共産党幹部がどれほど人民に奉仕しているのだろうか。共産党幹部の腐敗ぶりを見ていると、人民が共産党幹部の“資本主義的”な生活のために奉仕しているとしか思えない。
現在の中国共産党は、マルクス・レーニンと毛沢東の思想を信奉する政党でなくなった。かといって共産党総書記の習近平は王様にもなれない。カリスマ性がないからである。
結局のところ、共産党は「共産党」という名前がついているだけのご都合主義の政党のようだ。いわば、社会主義の道具を使い、資本主義のベネフィットをエンジョイする「仮面社会主義者」の政党と言えるかもしれない。
共産党指導者は筋金入りの共産党員でなければ、共産党への求心力が弱まることがあっても、強まることはない。かつて毛沢東の時代には、心から共産主義を信じるピカピカの共産党員が存在していたはずだ。だが、今の中国では本物の共産主義者はすでに絶滅してしまった。毛沢東がよく使っていた言葉を援用すれば、今の共産党員のほとんどは「機会主義者」がほとんどである。
中国社会は「改革か革命か」の分水嶺に差しかかっている。改革に取り組まなければ、その先には革命しかない。しかし、革命が起きれば、国民にとって大きな悲劇になる。習近平政権は自らのためではなく、国民を悲劇から救うために、改革に取り組む努力をすべきである。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37559
中国GDP伸び率が7.7%に鈍化:識者はこうみる
2013年 04月 15日 12:14 JST
[北京 15日 ロイター] 中国国家統計局が15日発表した第1・四半期の国内総生産(GDP)伸び率は前年比7.7%と、第4・四半期の7.9%から鈍化した。
市場予想は同8.0%だった。
多くの投資家は第1・四半期の流動性拡大や輸出の伸びを受けて、7四半期連続の景気減速に歯止めが掛かった第4・四半期から再び回復が加速すると予想していた。
2012年のGDP伸び率は7.8%で1999年以来の低水準だった。
GDPと同時に発表された3月の中国鉱工業生産は前年比8.9%増加した。ロイターがまとめた市場予想の10.0%増を下回った。
市場関係者の見方は以下の通り。
●鉱工業生産が予想下回る、市場予想下方修正へ
<ING(シンガポール)のアジア経済リサーチ責任者、ティム・コンドン氏>
第1・四半期に大量の流動性が供給されたのも頷ける。
鉱工業生産が予想以上に弱く、これがGDP低迷の原因となった。
今後、市場予想が下方修正されるだろう。当社も予想を見直す。
●信用の伸びを背景に第2四半期は成長加速へ
<申銀万国証券(上海)のエコノミスト、LI HUIYONG氏>
第1・四半期の成長率が市場予想を下回ったのは、投資と工業の伸び減速が主因だと考えている。政府が最近、宴会や贈答品の過剰な開催・やり取りを削減する方向に乗り出したことも民間部門の消費を抑えた。
われわれは依然として、最近の信用の伸びを背景に第2・四半期の中国経済成長率が一段と加速すると見込んでいる。
●緩和的な政策が維持される見通し
<UBS(香港)のエコノミスト、TAO WANG氏>
国内消費は第1・四半期にかなり弱まった。
これが緩やかな成長の転換点とは思えない。回復は恐らく遅れているものの、なお見込める。
政策が大幅に引き締められることは見込んでいない。また特にこの数値では、政策は引き締められず、極めて緩和的な政策が維持されるだろう。政策は既に極めて緩和的な状態で、(一層の)緩和が行われないことを願う。信用はきつくない状態にあるため、今回の結果は政策を大きく動かすものになるとは思えない。
●緩やかな成長は当局が景気の質に重点置くことに寄与
<ソシエテ・ジェネラル(香港)のエコノミスト、WEI YAO氏>
第1・四半期の中国経済の成長ペースは軟調となった。最大のサプライズは固定資産投資の伸びが予想を大幅に下回ったことだ。
信用の急速な伸びが投資事業に明白な恩恵をもたらしていないことが示された。
これらの指標はすべて中国の景気回復ペースが弱いことを示しているが、中国当局の経済改革という目標を踏まえると、比較的緩やかな成長は長期的には悪いことではない。政策当局者が景気回復のスピードではなく質に、より重点を置くことを後押しする可能性がある。
【第28回】 2013年4月16日 武田 隆 [エイベック研究所 代表取締役]
【岩井克人氏×武田隆氏対談】(後編)
ソーシャル時代の貨幣論
”お金で買えないモノ”が価値になる
「どんどん工場を建てて大量生産すれば利益が出る」という図式も今は昔。ではポスト産業資本主義時代のいま、利潤を生みだす要素は「お金で買える工場」から何へとシフトしているのだろうか?
「私がおもしろいと思うのは、このポスト産業資本主義の中で成功している会社は、お金儲けを最優先にせず、社会への貢献を前提としている非資本主義的な会社であるという逆説です」。
岩井克人先生の指摘どおり、なるほどグーグルやフェイスブックはじめいま注目されている企業はみな「利益第一主義」よりも、よりよい社会を作るためのインフルエンサーであることを標榜している。ポスト資本主義社会の「最大の資本」を解き明かすヒントは、どうやらこれら企業の成功の裡に隠されていそうだ。
貨幣はなぜ貨幣たりえるのか?
武田?私たちが生きる資本主義の世界には、その最も中心に貨幣の存在があります。『二十一世紀の資本主義論』では、貨幣は、いつかどこかで何か別の商品と交換されるために保有される「交換の媒介」と説明されています。なぜ貨幣は、何かと交換できる役割を担えるのでしょうか?
岩井克人(いわい・かつひと)
国際基督教大学客員教授。1947年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。マサチューセッツ工科大学Ph.D.イェール大学助教授、東京大学経済学部教授などを経て、現在は東京大学名誉教授、東京財団上席研究員、武蔵野大学客員教授も務める。”Disequilibrium Dynamics”にて日経経済図書文化賞特賞、『貨幣論』にてサントリー学芸賞、『会社はこれからどうなるのか』にて小林秀雄賞受賞、ほか著書多数。
岩井?その疑問に関しては、2つの代表的な学説があります。ひとつは、貨幣そのものにモノとしての価値が存在しているとする「貨幣商品説」で、もうひとつは、共同体の決まりや政府の命令、国家の法律などでそれが貨幣だと定められているとする「貨幣法制説」です。でも、私はどちらも、間違いだと思っています。
武田?それは、どういった理由からなのですか?
岩井?貨幣の起源は、金や銀など皆が欲しがる貴重なモノであった可能性もあります。また、頭の良い王様があるとき、何かを貨幣にすると命令したことによって始まった可能性もあります。
?事実、昔はさまざまなモノが貨幣として流通していましたし、またコインの場合は、紀元前7世紀ごろに現在ではトルコ領内のリディアという国家の王様が発明したと言われています。ただ、どちらの可能性もあるということは、どちらも半分しか真実ではないということです。
武田?どちらかが、貨幣の始まりということではないんですね。
岩井?そうです。貨幣の起源としてはどちらの可能性もありえます。そして、現在からはどちらが実際の貨幣の起源であるかは、決めることができません。そして、さらに言えば、貨幣論としては、どちらも間違えている。
?たとえば金銀が貨幣として使われていたとします。もし金銀のモノとしての価値、たとえば耳飾りとしての価値が、貨幣としての価値よりも高ければ、どうなると思います?
武田?貨幣としては使いませんね。そのまま恋人にプレゼントするほうが見返りが大きいかもしれません(笑)。
岩井?はい(笑)。だれもがその金銀を手元に置いて、耳飾りにするはずです。貨幣としての価値のほうが低いから、他人に貨幣として引き渡すなどというもったいないことはしません。ということは、それはモノとして使われ、貨幣としては流通しないということなのです。
?逆に言うと、金銀でもなんでも貨幣として使われたとたんに、その貨幣としての価値はモノとしての価値を必ず上回っている。だから、人はそれを自分でモノとして使わずに、他人に他のモノと引き換えに手渡し、その結果、人びとのあいだで流通することになる。
?つまり、貨幣商品説は理論として矛盾しているのです。
物々交換で事足りるなら、貨幣など必要ない
岩井?また、貨幣法制説も間違えている。日本で最初に流通した鋳造貨幣は和同開珎と言われていますが、国が貨幣として使えと命令しても、みんな使わなかった。銅でつくってあって、真ん中に穴が開いていて、読めない漢字が書いてあるから、おまじないに使うものだと思われてしまった(笑)。後世に発掘された和同開珎は、だいたい神社仏閣の下に埋めてあったんですよ。
武田?たしかに、物々交換でことが足りていたら、貨幣という考え方は必要ないですからね。
岩井?それで、日本政府はがんばって、貨幣の流通を促進するために蓄銭叙位令というのを出します。一定量の銭を蓄えた人には、位を上げてあげる。
武田?「貨幣法制説」が優勢のようにみえますね。
岩井?でも、それでも流通しなかった。国家がいくら命令しても、他の人が貨幣として受け入れてくれなければ、貨幣は貨幣として流通してくれません。
?そして、その後11世紀後半から、不思議な展開が起こります。東シナ海を中心に中国、朝鮮半島との貿易がさかんになってきて、資本主義が発展してくる。そうすると交換の手段が必要になる。そこで、中国のお金を日本に輸入して使ったのです。まずは唐のお金ですね。でも唐が滅びて、宋になり、宋が滅びて明へ王朝が移り変わっても、唐銭、宋銭、明銭と、一緒に日本では流通していました。
武田?なくなった王朝のお金を使っていた、というわけですね。
岩井?そうなんです。もう、宋の時代に唐は何の権威もない。宋の人から見たら、自分が滅ぼした国のお金を使い続けているなんて、とんでもないことですよ。明の時代も同じです。すでに滅びてしまった中国政府が出したお金を、日本人が勝手に使っているわけですから、貨幣法制説は当てはまりませんよね。
武田?そうですね。日本政府の力は加わっていないわけですから。
岩井?途中からはもっとひどい状態になって、倭寇という日本の海賊が中国で悪質の偽金を作ったのですが、それも流通していました。こういう粗悪な銭貨は「鐚銭(びたせん)」といわれていました。「びた一文やらない」などというときの「びた」です。
武田?もう明らかに法の力は及んでいませんね(笑)。
予想で成り立っているあやふやな存在、貨幣
武田?モノとしての価値もなく、政府も保証していないとなると……。
岩井?それが貨幣としてみんなが用いるとみんなが予想しているから、貨幣としての価値を持つということなんです。
武田 隆(たけだ・たかし)
エイベック研究所代表取締役。日本大学芸術学部にてメディア美学者武邑光裕氏に師事。1996年、学生ベンチャーとして起業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「企業コミュニティ」の理論と手法を独自開発。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。花王、カゴメ、ベネッセなど業界トップの会社から評価を得て、累計300社のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア(矢野経済研究所調べ)。2011年7月に出版した著書『ソーシャルメディア進化論』は第6刷のロングセラーとなっている。JFN(FM)系列ラジオ番組「マーケの達人」の司会進行役を務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。
武田?500円玉を「500円」という価値として受け入れてくれる人がいると予想できるから、500円の価値として商品と交換することができる。そして、将来においてもその人が、それが500円の価値を持つ貨幣として他の人々が受け入れてくれると予想していると予想できるから、ということですね。
岩井?さらに言うと、その将来の将来においても他の人々が、それが500円の価値を持つ貨幣として受け入れてくれると予想していると予想できるからです。そして……。
武田?予想がマトリョーシカみたいに延々と続いていきますね(笑)。無限に続く予想の連鎖が前提になっている、こんなあやふやな貨幣というものが、資本主義社会の中枢だなんて、なんだか危なっかしいですね。
岩井?基本的に金融のプロがしている投機活動も、同じことが起こっていると思います。債券や株式や外貨などから派生したデリバティブ(金融派生商品)なんかは、無限の予想がその価値を支えています。
?ただ、同時に、デリバティブはものすごく不安定で、サブプライム危機を引き起こす要因になりましたけれど、その不安定さには限度があります。たとえば、変動金利のローンと固定金利のローンを交換する金利スワップというデリバティブがあります。それは、実際のお金のやりとりからはかなり離れていますが、固定金利が欲しい人と変動金利のほうがいいと思っている人とが存在していることは確かです。どこかで現実とつながっているんですね。
武田?実態から離れて予想が進んでいくことはない、ということですね。
岩井?そうです。これに対して、貨幣だけは、どこにも実需がないわけです。たんなる金属のかけらやきれいな紙切れでしかない。
?その一番極端な形態が、電子マネーです。これはたんなる電子信号にすぎない。百円玉ならねじ回しとして使えるかもしれませんし、千円札なら鼻がかめるかもしれませんが、電子信号にはどこにもモノとしての需要はない。他人が貨幣として受けとってくれると予想するから自分も貨幣として受けとる。それだけなんです。その意味で、お金というものは、最も純粋な投機、実需なき投機に他なりません。本当に不思議な存在です。
?でも、脱線しますが、これはお金だけの話ではなく、言語だってそうなんですよ。明日地球が滅びるというときに、外国語を覚えようとはしないでしょう?
武田?子どもに日本語を教えるのは、この先の未来も、日本語が日本の言語の基準として使われるだろうと予想しているからだ、ということですね。
岩井?そうです。言葉がないと人間社会が絶対に成り立たない。けれど、われわれ人間にとって最も本質的な役割を果たす言葉そのものが、貨幣と同じ予想の無限の連鎖で成り立っている。それは、資本主義だけでなく、人間の存在そのものが、あやふやで不安定なものに支えられていることを示しています。貨幣とは何かを考えることは、同時に人間は何かを考えることにもつながります。
ポスト産業資本主義時代における、お金の価値とモノの価値
武田?インターネット上で商品の交換と、貨幣(電子マネー)の流通が起こることによって、資本主義が純粋化していくと先生はおっしゃっています。インターネット社会は今後どのような発展をしていくのでしょうか。
岩井?インターネットというのは、人間の認識と非常にマッチしていると思います。最近の脳科学によると、人間が外界を認識するというのは、基本的にはシミュレーションにすぎない。
?たとえば、われわれが見る世界はどこにも切れ目がありませんが、網膜の中の神経線維が束になっている中心部分は、実際には何も見えていません。しかし人間の脳は、その「盲点」の部分をつねに補正して、本当は何も見えていないのに、どこにも穴がないように、外の世界をシミュレートしている。われわれにとっての現実は、そもそも最初から仮想現実なのですよね。人間はそもそもバーチャルなリアリティの中に生きているんです。
武田?それでも、資本主義の純粋化には不安が残るという声もあります。インターネットが普及して、グローバル経済が発展すると、政府の介入や地理的な距離も関係なく商品が交換される。そして、電子マネーが普及すれば、人々が財布からお金を出す時間さえも必要なくなります。そうなると、貨幣の持つ投機性が際立って外在化してしまうという懸念です。
岩井?そうですね。たしかにインターネット経済市場は、システムの外部にある実体にまったく依存しない、抽象的なコミュニケーション空間といえるでしょう。そうしてたどりつく資本主義の純粋形態は、最高に効率的な市場になる反面、マクロ経済的には非常に不安定になる可能性があります。商売的にも、昨日の成功者が、明日の敗者になる危険性がある。
?しかし、興味深い変化もあるんですよ。それは、お金の価値が下がり始めているということです。
武田?経済学者がお金の価値が下がるといえば、通常、モノの価値が上がるインフレーションの状況を指すのだと思いますが……。
岩井?通常であれば(笑)。しかし、ここでいうお金の価値とは、もっと本質的な価値です。ポスト産業資本主義時代は、産業資本主義と違って、どんどん工場を建てて大量生産すれば利益が出る時代ではありません。利潤は差異性からしか生まれませんから、収入を上げるか、費用を下げるかしなくてはいけない。収入を上げるには商品の差別化が必要です。もしくは新しい市場をつくるか。そして、費用を下げるには技術革新をしなければいけない。どれも、人間にしか生み出せないものです。
武田?以前は、原料を仕入れるのにも、工場を建てるのにも、お金があればよかったけれど……。
岩井?そう。お金で買えないものが、最大の資本になるんです。つまり、人間。人間はお金で買えない。人の頭脳や創造性が利益を出すんです。ポスト産業資本主義時代は、お金で買える工場ではなく、お金で買えない人間、とくに人間の創造性が最大の資本になるので、お金そのものの価値も弱くなっているんです。いま、お金の価値が大きく下がっているという新しい時代が来ているのです。
武田?人間という、お金で買えないものの価値が上がるということですね。まさにルネッサンスですね。以前この連載で、社会学者の宮台真司先生がおっしゃっていた「モノが輝かなくなった」というお話と、情報社会学者の公文俊平先生がおっしゃっていた「人々のあり方が“知民”という姿に変わっていくラストモダン」のお話を想起しました。
岩井?一見すると、お金が活躍しているように見えますが、実は投資先がなかなか見つからないので、右往左往している。だから、その動きが目立つだけなのです。そして、短期的に利益を生み出す一番簡単な方法が泡沫的投機(バブル)ですから、バブルが起きやすく、そしてしょっちゅう崩壊する。
武田?短期的にリターンが大きい投資先にみんなが投資するから、どんどんバブルが起きやすい状態になるということですね。
インターネット経済市場でも、鍵となるのは誠実さ
岩井?私がおもしろいと思うのは、このポスト産業資本主義の中で、資本主義的にものすごく成功している会社は、お金儲けを最優先にせず、社会への貢献を前提としている非資本主義的な会社であるという逆説なのです。
?それはまさにいまお金の価値が落ちていて、人はお金で買えないモノ、いやコトにしか価値を見出さなくなってきたことを示しているのです。グーグルやアップルなどはその代表例ですね。武田さんが経営されているエイベック研究所さんもそうだと思っていますが(笑)。
武田?はい。目指してまいります。
?ビジネスを、利益をつくることと定義した場合、その利益をどのくらいの量、生み出せるのかというのが従来の指標でしたが、いまは、どのように生み出すかという質も問われている気がします。
ポスト産業資本主義社会で成功しているのは、非資本主義的な会社。この逆説の中に大切なヒントが隠されている。
?売上を上げるためにはお客さまから期待してもらう必要がある。期待してもらうには信頼してもらわなければならない。信頼してもらうためには、期待に応えて信頼残高を上げ、その信頼残高を担保に次の期待を得る。まさに“予想の連鎖”という言葉をお借りすると、“期待の連鎖”が売上になるのだと思います。
?それらはつまり、ネットワークの関係の中で起こる現象です。利益にも、クオンティティ(量)だけでなく、クオリティ(質)が求められています。ネットワークに対してどのように貢献し、どのような方法で利益を創るのか、まさに、クオリティ・オブ・ベネフィットが求められてくるのだと思います。
岩井?そう、つまり、ネットワークに誠実であるということが大切なんです。それは前回話した、経営者の公的義務という考え方につがっているはずで。リナックスやウィキペディアなども、インターネットという新しい市場で、信頼性や誠実さのある場を創っていますよね。
武田?最近、エンゲージメント(絆)が大切だという認識が、日本のマーケッターの間でもようやく広がってきました。今回の先生のお話をうかがって、「信頼」を連鎖していける組織や商品が、効率性とともに不安定性も同時に跳ね上がっていくインターネット資本経済の市場において、多くの味方を得るのだと確信いたしました。
※次回は、株式会社SHIFT代表取締役 小田嶋孝司氏との対談を4月30日(火)に配信予定です。
【編集部からのお知らせ】
大好評ロングセラー!?武田隆著『ソーシャルメディア進化論』
定価:1,890円(税込)?四六判・並製・336頁ISBN:978-4-478-01631-2
◆内容紹介
当コラムの筆者、武田隆氏(エイベック研究所 代表取締役)の『ソーシャルメディア進化論』は発売以来ご高評をいただいております。
本書は、花王、ベネッセ、カゴメ、レナウン、ユーキャンはじめ約300社の支援実績を誇るソーシャルメディア・マーケティングの第一人者である武田隆氏が、12年の歳月をかけて確立させた日本発・世界初のマーケティング手法を初公開した話題作です。
「ソーシャルメディアとは何なのか?」
「ソーシャルメディアで本当に消費者との関係は築けるのか?」
「その関係を収益化することはできるのか?」
――これらの疑問を解決し、ソーシャルメディアの現在と未来の姿を描き出した本書に、ぜひご注目ください。
※こちらから、本書の終章「希望ある世界」の一部を試し読みいただけます(クリックするとPDFが開きます)。
絶賛発売中!⇒[Amazon.co.jp] [紀伊國屋BookWeb] [楽天ブックス]
◆内容目次
序?章?冒険に旅立つ前に
第1章?見える人と見えない人
第2章?インターネット・クラシックへの旅
第3章?ソーシャルメディアの地図
第4章?企業コミュニティへの招待
第5章?つながることが価値になる・前編
第6章?つながることが価値になる・後編
終?章?希望ある世界
http://diamond.jp/articles/print/34485
【第121回】 2013年4月16日 小川 たまか [編集・ライター/プレスラボ取締役]
「愛だけで結婚できない」女は薄情?
旧来の“常識”から逃れられない未婚者たち
?成人の多くは「愛情だけでは結婚できない」と考えているが、男性より女性の方がその傾向が強い――。そんな調査結果をリクルートマーケティングパートナーズが運営する恋活・婚活サービス「TwinCue(ツインキュ)」が発表した。この結果についてあなたは、「女性は現実的」と考えるだろうか、「女性は薄情だ」と考えるだろうか。
?調査は2012年12月15日に行い、20〜40代の未婚男女624人(男性312人/女性312人)が対象。そのうち半数ずつが婚活サービスの利用経験者。選択肢を「そう思う」「ややそう思う」「どちらともいえない」「あまりそう思わない」「そう思わない」に分け、「そう思う」と「ややそう思う」を「はい」、「そう思わない」と「あまりそう思わない」を「いいえ」としてカウントしている。
「愛だけで結婚できる」人は
男性が約27%、女性が約17%
?調査によると、(1)「愛情さえあれば結婚できると思いますか?」という問いに「はい」と答えた人は男性が26.9%、女性が16.7%、「いいえ」と答えた人は男性が35.6%、女性が56.1%だった(その他は「どちらともいえない」)。同じように、(2)「本当に愛している人でないと結婚すべきでないと思いますか?」という問いに「いいえ」と答えたのは女性の方が多く、(3)「結婚するには、愛情以外の相手に求める条件が重要だと思いますか?」という問いに「はい」と答えたのは女性の方が多かった。「どちらとも言えない」を選んだ人は、質問順に、(1)32.4%、(2)27.7%、(3)38.0%となった。
?まとめてみると、男性より女性の方が「愛だけでは結婚できない」と思っており、「本当に愛している人以外とも結婚する場合がある」と考えている人が多く、「愛情以外の条件を重視する」傾向がある。女性は結婚に対して現実的とよく言われるが、それが今回も実証されたかたちの調査となった。
?ところで先日、ツイッター上で「女性がフルタイムで働くことのメリットは、好きな男性と恋愛や結婚ができること」という内容のつぶやきを目にした。これは、女性が安定的な職や社会的地位を得ることで、将来の金銭的不安をそれほど悩むことなく結婚相手を選ぶことができるという意味だろう。確かに、年収や社会的地位が安定している男性の場合、相手の年収が自分より低いからといって恋人との結婚を悩むということは考えづらい。言い古された表現だが、自立することは自由を手に入れることだ。
?とはいえ女性の場合、安定した職を得ていれば本当に結婚相手の年収や社会的地位を考慮に入れないかはわからないという言う人もいるだろう。女性がそれなりに社会的スキルを身につければ、結婚相手には自分以上の社会的地位を求めることは容易に推測できる。それがなぜかと言えば、「男性は女性より稼ぐもの」という「常識」、もっと言えば、「男性は外で働き、女性は家を守る」という「常識」に多かれ少なかれとらわれているからだ。
社会進出が遅れる日本人女性は
「甘えている」のか
?これも先日だが、筆者が久しぶりに高校時代の同級生の男性とメールを交わした際に驚いたことがある。彼のメールの内容は、「日本人女性は先進国の中で社会進出が遅れているというが、それは日本人女性が甘えているからだ。女性は『守ってもらいたい』などと言わず、もっと社会に出てもらいたい」というものだった。女性管理職の割合が他国と比べて低いこと(※)は繰り返しニュースで報じられている。それを見て筆者は「産休・育休の後に復帰しにくいなど企業の体制の不備に問題がある」と考えていたが、彼は「女性の甘えに問題がある」と考えていたのだ。思わず反論し、「あなたの周囲にそういった女性しかいないのは、あなたにも問題があるのでは?」と返信しそうになったが、思いとどまった。
?思いとどまった理由は、彼の周囲に「甘えている」ように見える女性がいることは事実なのだろうし、それも日本社会のある一面だと思ったからだ。それに、彼のように「女性は家庭を守れ」ではなく、「もっと社会に出てもらいたい」という男性がいることは、働きたい女性にとっては好都合だ。
?彼は「家族を養う稼ぎを男性だけに期待されていることは重荷だ」とも言っていた。「男性は外で働き、女性は家を守る」という「常識」が現代という時代に合わなくなり、男性にも女性にも足かせとなっているのであれば、早く脱ぎ捨ててしまえばいい。日本人は曖昧だと言われるが、それでもアンケートへの回答に「どちらとも言えない」と答えた人の多さに、現代の結婚観への混乱を感じた。
※ILO(国際労働機関)が2008年に行った調査では、女性の管理職比率の国際平均は30%だったのに対し、日本は9%だった。
(プレスラボ?小川たまか)
http://diamond.jp/articles/print/34697
【第2回】 2013年4月16日 松澤萬紀 [日本コミュニケーションマナー協会・代表]
ミニスカートの女性とタクシーに乗るとき
「さとられない習慣」が試される?
ANA客室乗務員(CA)として12年。500万人のお客様の対応で気づいた、行動・言葉・気づかい・テーブルマナー・習慣とは?テレビ、新聞でも紹介された「100%好かれる1%の習慣」。第2回目は【ミニスカートの女性とタクシーに乗るとき「さとられない習慣」が試される?】です
一瞬で好感をもたらした
小泉純一郎元首相にまつわるエピソード
?私の研修に参加してくださった元CAのSさんから、小泉純一郎さん(元首相)にまつわるエピソードをうかがったことがあります。
?彼女がまだ現役CAだったとき、乗客のなかに、小泉純一郎さんがいらっしゃいました。そして、小泉純一郎さんの「ある振る舞い」を見た彼女は、不思議に思ったそうです。
?小泉純一郎さんは、お食事をされるとき、さりげなく「自分に背を向けて、割り箸を割った」のだとか。
?彼女は「どうして、わざわざ壁を向くのだろう?」と首を傾げましたが、やがてその理由がわかると、小泉元首相に好感を抱くようになりました。
「割る/割れる」という言葉は、「忌み言葉」のひとつとされています。忌み言葉とは、縁起をかついで「使うのを避ける言葉」のことです。
「割る/割れる」は、「別れ」を連想させるため、結婚式などのおめでたい席では、忌み慎んで使わないようにします。
「割る」という行為も、相手に不吉な予感を抱かせることがあります。
善意の押しつけがないので、
相手から好感を持たれる
松澤萬紀(まつざわまき)?
日本コミュニケーションマナー協会・代表。
幼少期よりCA(客室乗務員)に憧れ、8回目の試験で念願のCAに合格。ANA(全日空)のCAとして12年間勤務する。トータルフライトタイムは 8585.8時間(地球370周分)。ANA退社後は、コミュニケーションマナー講師、CS(顧客満足度)向上コンサルタントとして活動。年間登壇回数は 200回以上。 総受講者数は、2万人以上。リピート率は97%に達している。また、読売テレビ「ミヤネ屋」への出演、毎日新聞にも掲載されるなど、メディアでも活躍中。
【オフィシャルHP】
http://www.matsuzawa-maki.com/
?ですから昔は、「相手の見えないところ(テーブルの下など)で割り箸を割る風習があった」のです。
?小泉純一郎さんは、お箸を割るときのマナーを知っていたのでしょう。
「壁を向いて割り箸を割った」のは、まわりに対する思いやりが自然と身についていらっしゃるから。
「不吉なことを慎もう」という気づかいのあらわれだと思います。小泉元首相の「小さなやさしさ」が、Sさんに「大きな感動」を与えたのです。
?傘を(閉じた状態で)持つときは、傘の先を前向きにして持つ(傘の先で後ろにいる人を突くことのないように)。
?ドアを開けたら、後ろの人のために押さえておく。
?タクシーに乗るとき、ミニスカートや着物をお召しの女性がいたら「では、私が先に」とひと声かけて奥につめる(一般的には、運転席の後ろの席が上座なので、女性を奥に座らせます)。
?こうした振る舞いを、さりげなく自然に行うのが「さとられない習慣」です。「やってあげている」という善意の押しつけがないので、相手から好感を持たれます。
「習慣」になるまで続ければ、
意識しないでも自然とできるようになる
『「習慣で買う」のつくり方』(海と月社)の著者、ニール・マーティンは、「人間には、習慣脳が備わっている」と説明しています。
「なにかを日常的に繰り返し行ううちに、それは習慣となり、わざわざ意識しないでも自然にできるようになる」というのです。
?元CAの彼女によると、小泉純一郎さんの行為は「わざとらしくなく、とても自然な振る舞い」だったそうです。
「私はマナーをわきまえた人間ですよ」とか「気づかいのできる人間ですよ」といった、あざといアピールはまったくありませんでした。
?小泉純一郎さんは、「割り箸は、見えないところで割る」という習慣をすでに身につけており、だから、「わざわざ意識しないでも、自然に壁を向いた」のでしょう。
「人前で割り箸を割らない」ことが、気づかいの風習だったことを知る人は少ないかもしれません。あなたが「見えないところで、割り箸を割った」からといって、気がつく人は少ないかもしれません。
?でも、だれも見ていないところでも自然にできる「気づかいの習慣」が、意外なところで、人の心に残るのでしょう。
意識することで、習慣が変わり、人生が変わる
?私がCAになったとき、先輩から「どんな状況でも、笑顔でいなさい」と教えられました。
「笑顔でいないと、お客様が揺れる機内で不安になるから」と意識的に笑顔をつくっていたら、やがて「意識をしなくても、笑顔でいられる」ようになりました。
?無意識レベルでできるようになったとき、それは「習慣になった」といえます。
「日本メンタルヘルス協会」の衛藤信之先生は、
「意識することで、人生が変わる」
とおっしゃっていました。ということは、なにも意識しなければ、
「昨日と変わらない今日の私」
が永遠に続きます。
?あなたは、自分の人生を変えたいですか?このままでいいですか?
「人生を変えたい」と思うなら、はじめは「意識をして」やり続けることです。
?やり続けているうちに、やがてそれが「習慣」となり、「習慣」になれば、「意識しないでも、自然とできる」=「さとられない習慣」が身につくのです。
「さとられない習慣」こそが、実は、もっとも相手の心に届きやすいのだと、私は思っています。
(※次回の掲載は4月17日になります)
【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】
価格:¥ 1,470(税込) 判型/造本:4/6並製 ISBN:978-4-478-01734-0
◆『100%好かれる1%の習慣』
?ANA客室乗務員として12年。500万人のお客様の対応で気づいた、行動・言葉・気づかい・テーブルマナー・習慣とは?テレビ、新聞でも紹介された「100%好かれる1%の習慣」とは?
?ほぼ100%に近い確率で、どんな人からも好かれるためには、「相手がどう思うか」「なにをすれば相手が喜んでくれるのか」を察する「相手を気づかう心」を持ち、それを言葉と行動に込める「習慣」を身に付けることです。ですが、その気づかいの習慣を持っている人は、わずかに「1%」でしょう。そして、やろうと思えばだれでも実行できる、たった「1%の習慣」です。
?本書では、「劇的に人生を好転させた人」たちが身につけている「1%の習慣」を、39個、ご紹介いたします。
http://diamond.jp/articles/print/34665
日本の農業
:改革すれば世界と戦える
2013年04月16日(Tue) The Economist
(英エコノミスト誌 2013年4月13日号)
日本の農業は、農地をまとめて区画面積を増やし、兼業農家を少なくすれば、競争力を獲得できる。
日本の北陸地方の石川県にあるバンバ・ムツオさんの水田は、いくつもの区画に分かれ、その間には他人の所有地が入り込んでいる。専業農家のバンバさんは、稲が育つ時期には毎日田んぼに水をやる。
ほかの農家は水をやらないと、バンバさんは不満げに言い、そういう兼業農家が「エアコンの効いた家の中にいる間に、コメは乾いてひび割れてしまう」と苦言を呈する。バンバさんがこれに腹を立てているのは、地元の農業協同組合(農協)が販売用の作物を集める時に、兼業農家のコメと自分のコメを混ぜてしまうからだ。
TPPに加盟すると、本当に日本の農業は崩壊するのか?〔AFPBB News〕
兼業農家が本業の空いた時間を利用してトラクターを動かしている風景は、日本の風物詩だ。兼業農家は年配の人が多く、勤めに出ていたり、家族から財政的援助を受けていたりする。いずれにしても、農業以外にも収入源があるわけだ。
そういう農家があまりにも多いために、農業部門の生産性は押し下げられる。日本の農業従事者150万人のうち、専業は42万人にすぎない。兼業農家は投資を渋り、耕作の仕方もぞんざいなことが多い。
強大な圧力団体JAを通じて影響力を振るう農家
しかし、農業従事者は、農協の全国組織(JA)を通じて、数の力で政治的影響力を行使する。自民党や農林水産省と強いつながりを持ち、東京をはじめ全国で24万人という驚くべき数の職員を抱えるJAは、恐らく日本で最も力のある圧力団体だろう。
JAは農産物に対する高い輸入関税――コメは777.7%、バターは360%、砂糖は328%だ――を維持するよう働きかけている。それゆえ、3月に安倍晋三首相が、自由貿易圏を目指すTPP(環太平洋経済連携協定)の加盟交渉に日本が参加する意向であると発表したことは、JAに衝撃を与えた。
自民党は反発を予想している。農家はTPP加盟の最大の障壁になるかもしれない。農林水産省も反対の立場を取り、TPPに加盟すれば、日本のコメの生産高は10分の1になり、全体で340万人分の雇用が失われるだろうと主張している。
安い外国産米の流入の容認は、TPP加盟にあたって最も物議を醸している部分だ。最近まで国会でJAの利益を代弁していた渡部恒三氏は、コメは日本の「精神的土台」だと言う。コメを育てるのに必要な地域住民の協力関係が、日本の文化とアイデンティティーを形作ってきた。
さらに、飛行機で種をまく米国型のアグリビジネスと対決したなら、日本の小規模農業は崩壊すると、渡部氏は述べる。
しかし、コメ作りについて言えば、保護の目的は、生産量を制限して国内価格を高く維持することにある。生産量を減らせば補助金がもらえる農家やJAにとってはありがたい話だが、消費者にとってはひどい取り決めだ。
稲作は兼業農家率が最も高い。稲作以外の分野では、コメ以外の穀物、近隣市場向け野菜栽培、畜産など、農業は多様化している。そういう分野では、専業農家が優位に立つ。しかし、畜産を除くと農地の規模は小さく、平均で1.5ヘクタールだ。
田畑の狭さは日本の歴史と山がちの地形から自然に生じた結果だと、農業圧力団体は主張する。1945年以降、抜本的な農地改革により、土地は大地主から小作人に払い下げられ、1区画の平均面積は約3ヘクタールになった。土地を持った小規模農家が手を尽くして耕作したおかげで、農業生産高は急増し、これが成長の決定的な基盤となった。
期待されていたのは、新たな産業が生まれて、小規模農家が近いうちにほかの職に就くことだったと、2007年第1次安倍内閣で農林水産大臣を務めた若林正俊氏は言う。過去には、小規模農家は、規模と効率性を求めるほかの農家に土地を売ると思われていた。
しかし、バブル時代に地価が高騰すると、農家は、自分の土地も開発用に高く売れるのではないかと期待して、手放そうとはしなくなった。現在では、地方の過疎化が進み、耕作地全体の10分の1ほどが耕作放棄されて、雑草がはびこっている。
農家の多くは高齢者だ。2010年、平均年齢は70歳だった。後を継いで農業をしようという子供や孫はほとんどいない。しかし、農地法の厳しい規制により、一般人が地方で農地を買うのは難しい。農林水産省のある高官は、日本の農業は改革か衰退かの岐路に立っていると話す。
「TPP加盟はクスリ」
TPPに加盟して関税を下げるのは薬のようなものだと、バンバさんは話す。56歳のバンバさんは、かつて農業経営で政府から表彰されたことがある。「力のある農家はTPPを怖れていない」とも言う。TPPに加盟すれば、バンバさんのような専業の農家は農地を増やせるだろう。
彼の言い分には一理ある。小さな農地を3区画持つ74歳の隣人は、日本がTPPに加盟して安い米国のコメが入ってきたら、農業をやめてバンバ氏に土地を貸すという。バンバさんは、漁業会社と提携して、冷凍寿司をカリフォルニアへ輸出する計画を立てている。
もし日本がTPPに加盟するとしても、農家、特にコメのような主要作物の農家への保護を廃止するのに数年間の猶予を主張する可能性が高い。
しかし、それより前に農業改革に向けた根本的な手だてを講じる必要があると、東京大学大学院の経済学者、本間正義教授は主張する。交渉参加により、そういう施策が早く進むかもしれないと、本間教授は言う。
日本は有能な農家に農地を集中させる政策を必要としている。企業を含む新規参入者が、土地を単に借りるだけでなく、購入できるようにすべきだ。
障害を乗り越え、農業改革なるか
安倍首相のチームは現在、農業改革の進め方を検討しており、年内に発表する予定だ。TPPへの参加交渉と幅広い農業改革を同時に実施しようとすることは、政治的には難しい。しかし、競争力を高めないまま関税を下げると、悲惨な結果になりかねない。
TPPと幅広い改革のどちらに関しても、最大の障害はJAだろう。JAの影響力と収益は、会員数の多さによってもたらされている。したがって、JAは現在のような農地配分を維持する方が得になる。
しかし、バンバさんのような専業農家の要求と、選択肢が増えて競争が激しくなることを望む都会の消費者の要求に応える新しいタイプの農協も生まれようとしている。その間にも、JAの会員は年老いていく。日本の強力な圧力団体は、会員の高齢化とともに勢力を失いつつあるのだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37587
農業団体と距離を取り始めた自民党
TPP交渉の底流を読み解く
2013年04月16日(Tue) 川島 博之
人口扶養能力が高いコメを作ってきたために、アジアの農村部は人口密度が高い。そのアジアで経済発展が始まると、農村と都市との間に急速に経済格差が広がる。
この現象は世界中で観察されるが、農村人口が多いアジアでは大きな問題になる。中国農村の貧困も、タイのタクシン元首相を巡る政争(注:タクシン元首相は2006年の軍事クーデターで政権の座を追われ国外に亡命した)も、農工間格差問題として捉えることができる。
農工間格差を効果的に是正してきた自民党
日本は農工間格差を最も効果的に是正することに成功した国である。自民党というシステムがそれを可能にしたと言える。多くの自民党議員の地盤は農村にあるが、彼らの使命は地元へ公共事業や補助金を持ってくることである。その見返りに票をもらう。
マスコミや識者はこのような利益誘導政治を攻撃してきたが、利益誘導政治が有効に機能したおかげで、日本は中国のように都市と農村の間に大きな格差がある社会にならずにすんだ。また、タイのように経済が発展した段階でクーデター騒ぎを起こすこともなかった。
日本の都市で経済活動を行っている人々(経団連など)は、自分たちの稼いだ富の一部が公共事業や補助金として地方に流れることを容認する代わりに、左翼運動が活発だった昭和において、農民票によって自民党という親米保守政権を維持することに成功した。そして、政治の安定を得て、世界第2位の経済大国を作り上げた。
しかし、平成に入るとそのシステムの変革を迫られた。バブルが崩壊したために都市部の経済が低迷して、富を農村部に回す余裕がなくなってしまったのだ。そしてソ連が崩壊すると、都市に住む人々にとっても、社会主義を掲げる政党は魅力あるものではなくなった。「社会党」は「社民党」へと党名の変更を余儀なくされた。
農村へ富を回すことによって親米保守政権を維持する必要はなくなった。それが、小泉純一郎政権による政治改革へとつながった。
極めてザックリとした記述であるが、昭和から平成にかけての自民党と農村の関係は以上のように要約できる。
自民党の心は農民から離れ始めている
現在のTPPを巡る論議の底流を理解するには、自民党が昭和の時代ほど農村保護に熱心でなくなったという事実に注目する必要があろう。より端的に言えば、もはや自民党は農工間の格差是正に強い関心を有する政党ではなくなっている。
現行の日本の選挙制度には欠陥があり、農村の1票が重い。そのために、農村を押さえることは、多数を得る上で極めて有利に働く。参議院選挙では、地方の1人区の勝敗が選挙結果に大きく影響する。
だから、自民党も農民の支持獲得に懸命であり、TPPへの参加表明する際にも、安倍晋三首相が訪米してオバマ大統領から「聖域を認める」との言質を取るなど、細心の注意を払っている。TPPに反対する自民党議員も200名を超えており、党の中で大きな勢力を有している。
だが、表面上、昭和の時代となにも変わらないように見えても、本音の部分で、自民党の心は農業団体から離れ始めている。
党内外の情勢は大きく変化している。まず、農民の数が激減している。1985(昭和60)年に1560万人もいた農民は、2010(平成22)年には650万人に減った。そして、現在、その多くが兼業化しており、専業農家は数えるほどでしかない。兼業農家の本音は都市のサラリーマンと同様と考えてよい。もはや、地方の票の主体は農民ではなくなっている。
また、貿易と経済に関する利害も変わった。日本の工業製品を米国に売り込む代わりに、米国から農産物を買う。これが、昭和の貿易交渉であった。しかし、平成になった現在、TPPに参加しても、日本が米国に売る工業製品がそれほど増えるわけではない。米国の国内政治を考えれば、日本製自動車をこれ以上輸出することは難しいだろう。
TPP参加で日本が得るものとは
それではTPPに参加することによって、日本は何を得ようとしているのであろうか。
その第1は、日本の金融施策に対する米国の支持だろう。TPPはオバマ政権が米国内の雇用を増やす手段として強調している。日本政府は、TPPに参加して、オバマ政権に恩を売ることによって、大幅な円安を米国に黙認してもらいたいのだ。これは、金融政策が実体経済に与える影響が極めて大きくなっている現在、当然のことであろう。
第2には、尖閣列島を巡り中国と対立を深める中で、なにかのときに米国に後ろ盾になってもらいたい。安保条約があると言っても、米国の機嫌を損ねれば、日中間に重大な問題が起こった時、米国が親身になって援護してくれない事態も想定される。日本がTPPに参加して得ようとしているものは、貿易上の利益というよりも、金融政策や政治上の利益になっている。
そして、米国が日本の農民に向ける眼差しも大きく変化した。昭和の時代には、日本に社会主義政権が出現することを防ぐために、米国が日本の農村に対して、それほど強硬な態度を取ることはなかった。しかし、日本が社会主義化する危険がなくなった現在、米国は保守の牙城としての日本農村に対して融和的な態度に出る必要がなくなっている。
しかしながら、農業団体はこのように昭和の時代と比べて大きく変化した情勢を理解していないように見える。そのような状況の中で、自民党は農業団体を持て余し気味になっている。ただ、昭和からの関係もあるから無碍にはできない。そして、弱くなったとはいえども、いまだに選挙ではあなどれない力を持っている。
農産物の関税は小さな国益に過ぎない
ただ、現在、安倍政権が政策を遂行する上で、米国との協調関係は絶対に必要である。米国の機嫌を損ねれば、円安政策も中国に対して強硬な姿勢を取ることも難しい。農業団体も少しは日本全体の国益を考えてほしいというのが、自民党、特に安倍政権の本音であろう。
1993年にコメの関税化を図った際には、政府は6兆円もの補助金を支払って、農業団体をなだめた。今度もそれと同様のことが繰り返されることになると思うが、あまり財政規律をゆがめると、今回は長期金利が高騰しかねない。前回ほどの無責任な大盤振る舞いは難しいのだ。安倍政権は、農業団体にこのような事情を分かってほしいと思っている。
自民党が農業団体を見つめる目は、かつてないほどに厳しいものになっている。それは自民党だけではない。多くの国民は、国益を無視して自己の利害のみを主張する農業団体を疎ましく思うようになった。
現在、TPPに真っ向から反対を表明している政党は「社民党」「共産党」、それに小沢一郎氏が率いる「国民の生活が第一」だけである。この事実は、農業団体が置かれた立場を端的に物語っていよう。
アベノミクスや黒田サプライズは、米国の了解なしには実行できない。安倍政権はその成功を大きな国益と思っているから、農産物の関税という小さな国益は、どこかで切り捨てなければならないと考えている。
TPPに関する議論は、昭和の時代から続いてきた自民党と農業団体の蜜月関係が変わる分岐点になってしまったようだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37537
地獄への道は、善意で敷き詰められている
田坂広志氏と伊勢谷友介氏が語る
新しい民主主義の形・その2
2013年4月16日(火) 田坂 広志 、 伊勢谷 友介
今、民主主義が問われている。昨年12月の衆院選では自民党が大勝し、絶対安定多数を握ったものの、エネルギーや国防、通商など国の将来を左右する問題は山積しており、いずれも国論を二分する事態に陥っている。
民意はなかなか反映されず、世の中は一向に良くならない。そんな民主主義の限界を打ち破るため、昨年12月に発足したのがデモクラシー2.0イニシアティブだ。様々な組織や団体が参加し、現状の民主主義を新しい参加型民主主義に変革していくことを目指す。
今、なぜ民主主義の変革なのか。デモクラシー2.0イニシアティブの発起人の一人で、日経ビジネスオンラインではコラム「エネルギーと民主主義」の執筆者としてもおなじみの田坂広志氏と、俳優・映画監督で、自ら代表を務める株式会社リバースプロジェクトにおいて、新しい政治参加の方法を考え提案する「クラウドガバメントラボ」などの活動にも力を入れる伊勢谷友介氏が対談した。今回はその後編。
前回は、民意が反映されているとは言い難い現在の民主主義を「新たな参加型民主主義」に変えなければならないという話から始まり、その参加型民主主義を実現するためには様々な問題に対して「同時に」働きかけなければならず、そのためにデモクラシー2.0イニシアティブを立ち上げたという話をお伺いしました。なかでも「英雄を必要とする国が不幸なのだ」という劇作家ベルトルト・ブレヒトの言葉が印象的でした。
田坂:20世紀は、ある意味で「悪人」がいた時代でした。第二次世界大戦におけるヒトラーやスターウォーズにおけるダースベイダーのような「悪人」がいた。そして、これらの「悪人」を打ち倒せば、世界に平和が訪れ、宇宙に平和が訪れるという素朴な物語が語れた時代でした。
しかし、21世紀は、その意味での「悪人」がいない時代です。世界全体で様々な問題が起こっているにもかかわらず、「あいつが問題の元凶だ」「あいつが問題を引き起こした犯人だ」と呼べるような「悪人」がいない。「悪人」が見当たらない。しかし、それにもかかわらず、世界全体の問題は深刻化し、解決策の見えない状況が続いていく。その理由は、誰か特定の「悪人」が問題を起こしているのではなく、社会という「システム」全体が病んでいるからです。社会という「システム」が、あたかも意志を持っているかのように、国民の願いを無視して、それに反する方向に変わっていく。
例えば、日本の行政組織が、国民の願いに反し、税金を無駄遣いする組織へと肥大化していく。それは、誰か特定の「悪人」や「犯人」が企んでいることではありません。行政組織そのものが、その肥大化を加速させるように自己運動していく。まさに「行政システム」が病んでいるのです。
この「あたかも意志を持つかのように自己運動していく社会システム」に、どう処していくのか、どう変えていくのか。それこそが、21世紀において我々が直面する最も困難な課題です。もとより、この変革に、安易な「特効薬」はありませんが、もし、我々に戦いの拠り所とするものがあるとすれば、それがまさに「クラウド」だと思います。
すなわち、あたかも意志を持つかのように自己運動する「社会システム」を変えるには、ただ「強力なリーダー」が生まれることだけでは不可能です。むしろ、「ウィズダム・オブ・クラウズ」、すなわち無数の市民が集まったとき、そこに生まれてくる英知、「市民の英知」を活用することです。
この「市民の英知」は、インターネット革命によって、その影響力を急速に増しています。この力を最大限に生かして、この社会システムの変革に取り組んでいくべきでしょう。
田坂 広志(たさか・ひろし)氏
多摩大学大学院教授。1974年東京大学卒業、81年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。1987年米国シンクタンク・バテル記念研究所およびパシフィックノースウェスト国立研究所の客員研究員を経て、1990年日本総合研究所の設立に参画。取締役・創発戦略センター所長を務める。2000年多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立、代表に就任。2003年社会起業家フォーラムを設立、代表に就任。2008年世界経済フォーラム(ダボス会議)GACメンバーに就任。2010年世界賢人会議ブダペストクラブ・日本代表に就任。2011年3〜9月、東日本大震災に伴い内閣官房参与に就任。原発事故への対策、原子力行政の改革、原子力政策の転換に取り組む。2012年民主主義の進化をめざすデモクラシー2.0イニシアティブの運動を開始。著書は60冊余。近著に『官邸から見た原発事故の真実』『田坂教授、教えてください。これから原発は、どうなるのですか』(写真:竹井 俊晴、以下同)
現在の日本の政治は、なぜおかしくなっているのか。その原因は様々にありますが、一つの要因は、「二項対立的な討論」にあります。これは、デモクラシー2.0イニシアティブが掲げる「14のパラダイム転換」の中にも「二項対立的な討論から、弁証法的な対話へ」という言葉で取り上げていますが、この「二項対立的な討論」の文化を変えていく必要があります。
例えば、原発問題もそうですし、消費税や軍備についてもそうです。テレビ番組などのメディアは、問題を「原発維持か、脱原発か」「消費税増税、賛成か反対か」という形で二項対立的に単純化し、意見の違う識者の議論の対立を際立たせ、あたかも闘犬を戦わせるように煽ります。そして、過激に相手を批判し、否定する人が注目を集めるという状況を、メディアは好みます。これは、前回お話しした「英雄」と「悪玉」(悪人)の対立構図と根は同じです。
しかし、まさにこの「二項対立」の発想こそが、我々の思考を浅くしてしまっています。国家や社会において重要な問題を議論するときに大切なのは、こうした「二項対立的な討論」のスタイルではなく、むしろ、対立を超えて相互理解を進め、互いの認識を深めていくという「弁証法的な対話」のスタイルです。それにもかかわらず、現在のメディアは、選択肢を「Aか、反Aか」という形で設定し、「あなたはどちらか、早く結論を出すべきだ」という形で迫り、結果として、性急で底の浅い議論に陥ってしまっています。
一方、政治家は言葉では「熟議」と言いますが、本当に「熟議」をしている例はほとんどありません。現実には、政局的な思惑や党利党略で議論を進めざるを得ないことが大半です。もともと、この「弁証法的な対話」や「熟議」というものは、本来、特定組織の利益代表や、党利党略で動く政治家には、できないことです。「ポジショントーク」という言葉がありますが、例えば、原発問題を議論するときに、電力業界を代表する立場で話をすると、そもそも、住民の立場を理解するわけにはいかなくなってしまうのです。そういう「ポジショントーク」と「二項対立的な討議」の状況が、現在の政治やメディアには溢れています。
本来、「熟議」というものは、互いが全く異なる考え方からスタートしたとしても、一方的に自己の主張を述べ、押しつけるのではなく、相手の主張に耳を傾け、その中の正当な部分には理解を示し、それに合わせて柔軟に自己の主張を修正するという「弁証法的な対話」のスタイルが前提になっています。
もとより、それでも互いの主張の溝が埋まらず、最後は「多数決」という方法になることもあるかもしれませんが、何よりも大切なことは、一度、相手の主張に虚心に耳を傾け、相手の立場や考えを理解しようとすることです。そして、ある意味で、民主主義において大切なのは、「結論」ではなく、むしろその「プロセス」であることを、我々は理解すべきでしょう。そのことを忘れ、「ただ、正しい結論さえ出せばよい」と考えてしまうと、民主主義というものが、深みの無い浅薄なものになってしまいます。
「地獄への道は、善意で敷き詰められている」
伊勢谷:二項対立と対話の話は田坂さんのおっしゃる通りだと思います。つまり、宇宙人としての目線を持つことが必要であるということなのでしょう。人類としてベストの方法を選んでいけばいいのです。
これは人類にとって非常に大きな進化なのではないでしょうか。昔の人は地球というものを宇宙から見たことがありませんでした。私たちは写真や映像を通して地球を見ていて、そこに70億人が住み、問題だらけであるということを知っています。その人類がこれからも地球で共存していくということは共通なはずです。この共通項をしっかりと理解すれば、対話ができるはずです。
それが立場で話をすると対話になりません。特に日本人は立場の意識が強いと思います。ですから、それぞれの立場を形成している関係図が壊れていくことが大事だと思います。
旅行をすると本当によく分かります。旅行に行くと「ここが日本と違う」と言う人もいますが、むしろ共通項の方がたくさん見つけられます。困っていることなどもだいたい同じです。行けばすぐに分かることなのに、内にこもって相手を誹謗中傷する方が楽なのでしょう。
立場を超えて話せば、違うものが見えてくるということですね。
伊勢谷 友介(いせや・ゆうすけ)氏
俳優、映画監督、株式会社リバースプロジェクト代表。1976年生まれ。東京藝術大学美術学部修士課程修了。大学在学中の1998年、ニューヨーク大学映画コース(サマーセミスター)に短期留学、映画制作を学ぶ。1999年映画『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督)で俳優デビュー。2003年、初監督作品『カクト』が公開。2008年、地球環境や社会環境を見つめ直し、未来における生活の新たなビジネスモデルを創造するプロジェクト『リバースプロジェクト』をスタートさせる。2012年に「おまかせ民主主義から参加型民主主義へ」を掲げクラウドガバメントラボを設立。主な出演作に『金髪の草原』(犬童一心監督)、『ブラインドネス』(フェルナンド・メイレレス監督)、『CASSHERN』(紀里谷和明監督)、『嫌われ松子の一生』(中島哲也監督)、『十三人の刺客』(三池崇史監督)、『あしたのジョー』(曽利文彦監督)、「白洲次郎」(NHK)、「龍馬伝」(NHK)などがある
伊勢谷:組織に所属して立場で話をするからややこしくなるのだと思います。そうではなくて、人として話をすればいいのです。
田坂:「地獄への道は、善意で敷き詰められている」というカール・マルクスの言葉がありますが、例えば、電力会社にも、「個人」としては、原発の安全対策の問題や核廃棄物の問題を懸念している人はいるのです。ところが、それが「組織」になると、そのメンバーには、ある種の自己規制が働いたり、立場を考えて発言するようになり、本音と建前が分離するといった状況が起きてきます。
すなわち、どこかに「悪人」がいて、社会に対して害を為そうとしているわけではないのです。もし、そうであるならば、問題の解決は簡単です。その「悪人」を見つけ、排除すればよいだけです。そうではない。一人ひとりは誰もが「善意」で動いている。けれども、社会全体もしくは組織全体は、「地獄」への道を盲目的に進んでいく。まさに「地獄への道は、善意で敷き詰められている」。これが21世紀の社会の怖さだと思います。
ただ、正確に言えば、誰もが「善意」ではあるのですが、誰もが少しずつ「無責任」なのです。そして、その「小さな無責任」が集まると、「巨大な無責任」が生まれてくるのです。
こんな寓話があります。あるフランスの片田舎で、永く務めていた牧師さんが遠くの村に転任することになりました。貧しい村でしたが、村人たちは相談して、この牧師さんに白ワインを一樽、贈ることしました。そこで、村人がそれぞれグラス一杯のワインを持ち寄り、樽に注ぎ、満杯になった樽を牧師さんに渡し、見送りました。しかし、牧師さんが新たな任地に着き、この樽を開け、ワインを飲んでみると、何と中身は水だったのです。
なぜこのようなことが起こったのか。村人は全員、誰もが牧師さんに感謝していたのです。しかし、やはり貧しい村であり、誰にとってもワインは貴重でした。そこで、誰もが、「自分の家ぐらい水を入れても分からないだろう」と思い、みんなが水を入れてしまったのです。その結果、樽の中は、水だけになってしまったのです。
これが、「小さな無責任が集まると、巨大な無責任になる」ということの一つの例です。もとより、話がワインであれば、まだ笑って済ませられますが、現在の社会には、笑えない深刻な問題が、この「小さな無責任」によって起こっています。「年金記録の紛失問題」などは、まさにその象徴でしょう。
「強力な指導者」ではなく、「賢明な国民」を
そして、この「小さな無責任」の問題が、政治における国民の意識にも起こっています。
国民一人ひとりは、「政治を良くしたい」「政治が良くなって欲しい」と思っている。しかし、ひとたび選挙となると「自分一人ぐらい投票しても、何も変わらない」と思い、「自分一人ぐらい棄権しても、何も影響はないだろう」と思う。しかし、その結果、選挙の結果は、勝利した政党も驚くほど、国民の民意から離れたものになってしまう。
すなわち、これも「小さな無責任が集まると、巨大な無責任になる」ということの現れです。そうであるならば、これからこの国の政治を変革するために真に必要なのは、「強力な指導者」ではなく、むしろ「賢明な国民」なのです。
国民一人ひとりが「政治に責任を持つ」という意識へと成熟していかなければ、社会の変革そのものが、この「白ワインの樽」の寓話のごとく、根本のところで壁に突き当たってしまうでしょう。
では、どうすれば、国民一人ひとりの意識が成熟していくのか、その問いに安易な解決策はありませんが、一つ申し上げておきたいことは、民主主義とは、「社会の意識決定」のプロセスであると同時に、「国民の学びと成長」のプロセスでもあるということです。特に、これからの時代は、その視点から民主主義を見つめておくことが、極めて重要です。
例えば、「国民投票」は、社会全体の意思決定の方法であると同時に、国民投票を行うことによって、国民一人ひとりが、情報を手に入れ、議論し、深く考えて投票に行くことになります。民主主義においては、その「国民の学びと成長」のプロセスこそが大切なのです。そのプロセスを尊重しなければ、民主主義は、必ず、ある種の「衆愚政治」になってしまうからです。
ここまでの話を聞いていると、昔の人の方が賢かったと思えてきますが。
伊勢谷:そんなことはないと思います。人間は少しずつではあるかもしれませんが、成長はしているのです。例えば、戦国時代に「デモクラシー2.0」と言っても「それは何?」という反応でしょう。直接民主主義という話をしても伝わりません。
「昔はよかった」とよく言いますが、昔の方が悪かったことはいくらでもあります。昔は直接民主主義的なやり方ができていたというのも、昔の人が賢かったからではなく、今ほど仕組みが複雑ではなかったからできていたということではないでしょうか。
間違いなく言えることは、先ほど田坂さんもおっしゃっていたように、無責任な人が増えても問題ないという状態が、大問題なのだと思います。皆が自由と責任をきちんと持つ。成長した大人であれば、本来なら法律もいらないのかもしれません。そうでない人がいるから政治家がルールを決め、そのルールの中で生きていけば私たちは幸せでいられるという状況になっています。その結果、何も考えなくなって、言い方は下品ですがバカになってしまっているのだと思います。
自分たちで法律も変えられる、憲法も変えられる、ということを認識しないといけません。そういう事を意識出来るような社会になれば、考える事が当たり前の国民につながるのだと思っています。大きな責任を持つということはもちろん疲れる部分もあると思います。しかし、それにも慣れるのではないでしょうか。
田坂:たしかに、伊勢谷さんが言われる通りかと思います。過去の方々への尊敬の念を持った上で、敢えて申し上げると、過去の国民と現在の国民とでは、やはり教育水準が違います。その教育水準の違いは、民主主義を「国民の学びと成長」のプロセスとして捉えるならば、本来、極めて良い条件であるはずなのです。
そもそも、「民主主義」という概念が生まれたとき、それは「未来における理想形」として語られたのだと思います。つまり、国民一人ひとりが賢い人間であり、その国民たちが議論をしながら、社会のあり方を決めていくという理想形です。そうであるならば、民主主義というものは、現在は不十分、不完全なものであっても、その理想形に向かって、国民が賢くなっていくプロセスであると考えるべきでしょう。
その一つの例が、ブータンです。ブータンはずっと王制を敷いていました。そして、国王に対する国民の支持は極めて高かったのです。しかし、その国王自らが、選挙制度を導入して民主主義に移行すると宣言しました。多くの国民からは「国王は良い政治をしてくれているのだから、現在のままでいい」という声も出ましたが、国王は「もし、未来において悪しき国王が生まれたらどうするのか。そのためにも、いま、民主主義という制度を導入しなければならない」と言って実行したのです。これは見事なリーダーの姿と言えます。
伊勢谷:かっこいいですね。ブータンには何度も行ったことがあって大好きなんですが、知りませんでした。日本の政治家は学ばないと。
田坂:この国王が実行したことは、説教をして国民を成長させるということではなく、制度を導入することによって国民の意識の成熟を促すということです。このブータン国王の民主主義の捉え方は、民主主義というものが「国民の学びと成長のプロセス」であるということを深く理解しており、その意味において、極めて先進的で、本質的な捉え方です。
一方、これまでの我が国の民主主義は、政治家の意識や情報共有の在り方の点では、この「国民の学びと成長のプロセス」を促すものにはなっていなかった。むしろ、政治家にも「民主主義とは、選挙によって民意を問うことだ」といったレベルの理解しかなく、情報共有も、先進国では当然になっているネット選挙一つを取っても、政治家の都合で実施が見送られてきたわけです。その結果、国民の意識は、「民主主義とは、選挙に行って投票することだ」というレベルに抑えられ、選挙においては、「ポピュリズム」と呼ばれる大衆迎合的政策が競われる状況が続いてきたわけです。
従って、これから我々は、「民主主義」という制度を、「国民の学びと成長のプロセス」として位置付け、国民が「社会の意思決定」に参加するという次元を超え、「社会の変革」に参加するという次元へと高めていかなければならないでしょう。
「民主主義は最悪の形態」を超えられるか
民主主義は今まさに進化の途上にあるということですね。
田坂:イギリスの首相だったウィンストン・チャーチルはこう言っています。「民主主義は最悪の政治形態であると言える。ただし、これまで試されてきたいかなる政治制度を除けば」と。この「最悪の形態」を超えていくのが、現在の大きなテーマなのです。
では、これから民主主義は、どのようなものになっていくのか。そのビジョンを、デモクラシー2.0イニシアティブは、「民主主義 14のパラダイム転換」として掲げています。しかし、その具体的な制度や組織や文化は、まさにこれから我々が運動を広げていくなかから生まれてくるのかと思います。「パーソナル・コンピュータの父」と言われるアラン・ケイは、「未来を予測する最良の方法は、それを発明することである」と言っていますが、こうした運動の中から、かつて想像もしていなかったものが生まれてくるでしょう。
例えば、この「民主主義 14のパラダイム転換」のビジョンの一つに、「現在の世代の利益から、未来の世代の利益へ」というものを掲げています。現在の民主主義は、「現在の世代」の間での利害調整の仕組みにとどまっており、「未来の世代」の利益を考えるものにはなっていません。これに対して、ハンガリーでは、「ゼロ歳児にも投票権を与える」という制度が議論されています。これが実現すると、その投票権を代理行使する両親は、生まれたばかりの子供の将来を深く考えて、選挙に行き、政治に関わっていくでしょう。
すなわち、民主主義の成熟とは、究極、「議論のテーブルに着くことのできない人のことも考え、意思決定し、行動する」というレベルにまで高まっていくことを意味していますが、その一番明確な例が「未来の世代」です。地球環境問題や核廃棄物問題を例に挙げるまでもなく、「未来の世代」の利益を考えて、「現在の世代」が意思決定をする。それが、これからの民主主義の成熟していくべき方向でしょう。
また、考慮すべきは「未来の世代」だけではない。例えば、アフリカなどの「発展途上国」の人々のことを考えて、意思決定をする。それも「テーブルに着けない人々」のことを考えた民主主義です。しかし、現在の民主主義は、「自分に有利だからこの政策に賛成、不利だから反対」という利害調整の次元でしか機能していません。真に成熟した国民は、「自分にとって有利であっても、相手の立場に立てば、こうするべきだ」という相手に対する想像力や共感力に基づいて、考え、意思決定し、行動するのでしょう。
伊勢谷:子供のことを愛していると言いながら、子供のことを本当に考えたら、様々な問題に対して無責任ではいられないはずです。原発の問題や食料の問題をぼんやりとは考えていても、お金がない、時間がないということで行動しない。しかし、単純化すれば、個人でもできることはたくさん見えてきます。複雑化してしまった社会の中で、諦めてしまっている自分から抜け出す。その単純化作業を私が立ち上げたリバースプロジェクトでやっていきたいですし、デモクラシー2.0イニシアティブでも共有していきたいと思っています。
ネット革命が変える「無力感」と「無責任」
一人ひとりが少しずつ無責任になってしまうという状況を変えることは簡単なことではなさそうです。
田坂:なぜ、一人ひとりが少しずつ無責任になるのか。実は、この「無責任さ」の背景には、「無力感」があります。誰も好んで無責任になっているわけではありません。しかし、牢固として変わらない社会や組織の中で、「自分一人が行動しても、世の中は変わらない」「私一人が何か言っても、この組織は変わらない」という「無力感」が、一人ひとりの「少しずつの無責任さ」を生み出しているのです。
では、我々の中にある、この「少しずつの無責任さ」は、どのようにすれば変わるのか。
この「無責任さ」が「無力感」から芽生えてきたものであるならば、人々の心の奥にある「無力感」を払拭していくことが、本来の道です。アメリカのオバマ大統領が、4年前に大統領に当選したとき、語り続けた言葉が「We Can Change! Yes! We Can!」だったことを想い起すべきでしょう。彼もまた、国民の中にある「どうせ我々は、この国を変えることができない」という無力感を払拭するところから始めたのです。
そして、現実に我々国民は、素晴らしい「力」を獲得し始めているのです。それは、インターネットがもたらした革命です。かつてアルビン・トフラーが『パワー・シフト』という本を書いていますが、インターネット革命の本質は、正にこのパワー・シフトです。我々は、「ネット革命」や「情報革命」という言葉を、好んで使いますが、そもそも「革命」とは、何か新しいことが起こることをもって「革命」と呼ぶのではありません。「革命」とは、昔から、ただ一つの定義しかない。それは「権力の移行」です。すなわち、ネット革命や情報革命は、それまで社会や市場や組織において「情報の主導権」を持っていなかった人々へ、その主導権が移る革命であり、文字通り「パワー・シフト」なのです。
そして、いま、ネット革命によって、この「パワー・シフト」が起こっているということを、一人ひとりの国民が深く理解したとき、我々の中の「無力感」は消えていくでしょう。そうであるならば、「無力感」を背景とする「無責任さ」を変えていくためには、まず、インターネットを使った「パワー・シフト」の事例を、数多く作っていくべきなのです。
伊勢谷:つくづく思うのは、日本は省庁ごとにまとまっていて、横のつながりが少ないということです。そのために物事の進行が遅いのです。東日本大震災の復興にかかわって、そのことを実感しました。つまり、個人の先にシステムがあって、その先に実行者がいる。プロセスが複雑なのです。
「シー・クリック・フィックス」もそうですが、社会の複雑なプロセスを分かりやすいものにして、「できないことを想像するのが簡単」という社会から、「できることを想像するのが簡単」という社会にしていかなければなりません。そうなれば、人は様々な問題を、「他人事」ではなく「自分事」として考えるようになります。
田坂:「自分事」という意味では、社会を変革する上で、もう一つ重要な役割を果たすのが「社会起業家」です。政府や自治体に対して「ああして欲しい、こうして欲しいい」と声を挙げることも大切ですが、「自分たちでやる」という人々が、東日本大震災を契機として増えました。
これまでも「社会起業家」と呼ばれる方々は、熱心に社会貢献の事業に取り組んできましたが、被災地のあの「凄まじい現実」「目を背けたくなる現実」と格闘するなかで、彼らは本当にたくましくなったと感じています。昔から「最近の若者は」という否定的な言葉使いがありますが、私には「最近の若者は」という気持ちは全くありません。
伊勢谷:今の若者が置かれている状況は非常に厳しいものです。その中で頑張っている人ももちろんいますが、多くの若者にとっては今の社会は複雑すぎます。単純化してくれば見えてくるものもあると思うのですが、これまでは大人が「それは難しいからな」と言ってしまう社会だったのです。「それは必要悪だから」と言われるものもあって、そうしたものが社会をより複雑化させてきたと思います。
そういう大人たちを見て、若者は何を学べばいいのでしょうか。このような状況の中で10代、20代の若者たちが動き出しているのは素晴らしいことです。団塊世代などの大人たちはそういう若者たちをぜひ助けてあげてほしいと思います。
学生時代は「社会変革」を目指していた団塊世代
田坂:私も団塊世代のすぐ後の世代ですが、学生時代には70年安保闘争や全国大学闘争が盛んでした。あの当時の大学には「若者が革命をめざし、社会変革をめざすのは、当たり前だ」という雰囲気が溢れていました。ただ、そのエネルギーが、大学のバリケードストライキや機動隊との衝突など、形だけの「過激さ」に流されていったのも事実です。
当時、クラス討論の場で、ある学友が、こう述べたことを憶えています。「いま、言葉で革命を叫び、大学にバリケードを築き、機動隊に石を投げることは、決して難しいことではない。本当に困難な闘いは、これから30年の闘いではないか。実社会の荒波の中でも、この社会変革への思いを決して失わないことではないか」。若い学生らしい青臭い言葉と思われるかもしれませんが、40年を経たいまも、この言葉が心に残っています。
いま振り返って、あの当時、革命や社会変革を語っていた団塊世代の若者の中で、数十年の歳月、その志を失わず歩んだ方は、どれほどいるのでしょうか。その問いが心に浮かびます。
そして、あの学生運動を行った世代、団塊世代が現役を終えつつある現在、我々が通り過ぎた後のこの日本の姿を見つめるとき、私もその世代のすぐ後にいた人間として、強い責任を感じます。もし、若い世代の方々に、「あれほど社会変革を叫んだあなた方が、なぜ、この日本を、このような社会にしたのか」と問われたとき、返す言葉が見つからないのです。私が、10年前に社会起業家フォーラムを立ち上げ、昨年、デモクラシー2.0イニシアティブという運動を始め、若い世代の方々と一緒に、ささやかながらも、社会変革の仕事に取り組んでいるのは、そうした責任感からでしょうか。原発事故が起きたとき、敢えて内閣官房参与を引き受けたのも、同じ思いからです。
団塊世代は、社会起業家をめざせ
伊勢谷:田坂さんと同世代で、同じ思いを持ち続けている人にはぜひ出てきてもらいたいと思います。そして、若者と団塊の世代が組んで、何か一緒に取り組んでいく。田坂さんと私がその一例かもしれません。団塊世代の中には社会的に力を持っている人たちがたくさんいます。そのような人たちと組んで、有意義な活動ができればいいと思います。
田坂:それは大賛成です。例えば、いま若者たちが中心となって広がっている社会起業家のムーブメントに、団塊世代にも参加して頂きたい。いまの若者たち中心の社会起業家のムーブメントの問題は、深い志や熱い思いはあるのですが、ビジネススキルがついていかない点です。しかし、社会起業家は、社会を変えようとしているのですから、やはりプロフェッショナルとして、ある程度の腕を持っていないと、志や思いだけが空回りすることになってしまいます。プロジェクトマネジメントのノウハウ一つでも、若い社会起業家にとっては、とても大切な学びの課題です。こうした点を、それなりのプロフェッショナルスキルを持った団塊世代がサポートしてあげることができれば、素晴らしい連携になっていくでしょう。
欧米の社会起業家は、すでにそうしたプロフェッショナルスキルを身につけた人が多いので、大きなスケールの社会的事業を立ち上げられるのです。私の知人でアキュメン・ファンドを創設したジャクリーン・ノボグラッツ氏は、スタンフォード大学でMBAを取得した後、ウォールストリートでバイスプレジデントまで務めた人物です。こうしたプロフェッショナルが社会起業家を志すところが、欧米の素晴らしいところです。
しかし、日本でも、いずれ、大企業においてプロフェッショナルスキルを身につけた団塊世代が、定年を迎え、第二の人生に向かいます。こうした方々には、ぜひ、何十年か前の社会変革の志を思い起こして頂きたい。そして、若い社会起業家の方々と手を携え、社会貢献の活動に取り組んで頂きたいのです。
伊勢谷:私は団塊ジュニアの世代ですが、私たちの世代と団塊の世代が組めば、数の観点からも大きな影響力があると思います。
田坂:加えて重要なのが「ソーシャル・アライアンス」です。すなわち、大企業が自らの事業分野で活動する社会起業家と連携し、「本業を通じた社会貢献」に取り組む活動です。こうしたアライアンスが、CSR(企業の社会的貢献)の新たなスタイルになっていくでしょう。
日本の資本主義は、欧米の資本主義と違い、その始まりから社会貢献を重視してきました。そのことを象徴するのが、渋沢栄一の「右手に算盤、左手に論語」であり、松下幸之助の「企業は、本業を通じて社会に貢献する」という言葉です。だからこそ、日本の企業は、社会起業家と手を結んで社会を変革する活動に取り組むことができるはずです。
日本が持つ「中途半端」というポテンシャル
また、社会起業家の方々には「政治の変革」にも向かって頂きたいと思います。社会起業家の方々の中には、「政治がやってくれなから、自分たちがやる」という気持ちがあり、どこか「政治には期待していない」という思いがあります。しかし、これからの時代は、「社会起業家が、政治も変える」という時代になっていきます。
デモクラシー2.0イニシアティブでは、こうした動きをさらに加速するために、新たな人材ビジョンとして、社会起業家の中でも政治を変えていく人たちを「政治起業家」と呼び、彼らを支援する活動を開始します。その最初は、11月30日に開催されるイベント、「政治起業家グランプリ」です。
なるほど、「政治起業家」とは、面白いコンセプトですね。これは、デモクラシー2.0イニシアティブの運動の中から生まれてきた、日本独自の新しい人材ビジョンかと思いますが、民主主義の在り方についても、この運動の中から、日本独自の制度や組織や文化が生まれてくるのでしょうか?
伊勢谷:この日本という国には、独特のポテンシャルがあるんですね。日本はずっと、最先端だけどアジアというある意味で中途半端な位置であり続けてきました。中途半端は私の中ではほめ言葉です。この「中途半端」がポテンシャルであり、希望なのです。デモクラシー2.0の運動も、一番うまくいく可能性がある国だと思っています。
田坂:日本という国の素晴らしさは、東洋文明の深い思想、精神、文化の土壌を持ちながら、西洋文明の最先端の科学技術と資本主義を開花させているという点です。そして、日本という国は、「和魂洋才」という言葉に象徴されるように、西洋が生み出した「才」に、東洋の「魂」を入れていくことができる、器の大きな国です。そのことを我々が深く理解するならば、この日本において、資本主義というものも、民主主義というものも、深い思想、精神、文化に支えられた、「新たな資本主義」、「新たな民主主義」の在り方が生まれてくるでしょう。我々は、そうした道をこそ、求めていくべきなのです。
田坂 広志(たさか・ひろし)
多摩大学大学院教授
1974年東京大学卒業、81年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。1987年米国シンクタンク・バテル記念研究所およびパシフィックノースウェスト国立研究所の客員研究員を経て、1990年日本総合研究所の設立に参画。取締役・創発戦略センター所長を務める。2000年多摩大学大学院教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンクを設立、代表に就任。2003年社会起業家フォーラムを設立、代表に就任。2008年世界経済フォーラム(ダボス会議)GACメンバーに就任。2010年世界賢人会議ブダペストクラブ・日本代表に就任。2011年3〜9月、東日本大震災に伴い内閣官房参与に就任。原発事故への対策、原子力行政の改革、原子力政策の転換に取り組む。2012年民主主義の進化をめざすデモクラシー2.0イニシアティブの運動を開始。著書は60冊余。近著に『官邸から見た原発事故の真実』『田坂教授、教えてください。これから原発は、どうなるのですか』
伊勢谷 友介(いせや ゆうすけ)
俳優
映画監督
株式会社リバースプロジェクト代表
1976年生まれ。東京藝術大学美術学部修士課程修了。大学在学中の1998年、ニューヨーク大学映画コース(サマーセミスター)に短期留学、映画制作を学ぶ。1999年映画『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督)で俳優デビュー。2003年、初監督作品『カクト』が公開。2008年、地球環境や社会環境を見つめ直し、未来における生活を新たなビジネスモデルを創造するプロジェクト『リバースプロジェクト』をスタートさせる。2012年に「おまかせ民主主義から参加型民主主義へ」を掲げクラウドガバメントラボを設立。主な出演作に『金髪の草原』(犬童一心監督)、『ブラインドネス』(フェルナンド・メイレレス監督)、『CASSHERN』(紀里谷和明監督)、『嫌われ松子の一生』(中島哲也監督)、『十三人の刺客』(三池崇史監督)、『あしたのジョー』(曽利文彦監督)、「白洲次郎」(NHK)、「龍馬伝」(NHK)などがある(写真:c繰上和美)
デモクラシー2.0の時代
「民主主義は最悪の政治形態であると言える。ただし、これまで試されてきたいかなる政治制度を除けば」(ウィンストン・チャーチル)。今、民主主義が問われている。政治は国の将来を左右する難問を解決できず、民意が十分に反映されているとは言い難い。デモクラシー2.0イニシアティブはこうした状況を打破し、これまでの民主主義を新しい参加型民主主義へと進化させようというソーシャルムーブメントである。このコラムではデモクラシー2.0イニシアティブの参加メンバーが、新しい参加型民主主義の姿を提示する。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130415/246631/?ST=print
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