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☆ おなじことを繰り返してるなあ
斎藤教授のホンネの景気論
第16回「インフレ目標策の『危険な誘惑』」
(立教大学 教授 斎藤 精一郎氏)
最終更新日時: 2003/01/17
3月19日の速水優日銀総裁の任期終了を控えて、次期総裁の人事をめぐって自薦他薦の動きが活発だ。焦点は小泉首相が一般論として示した「デフレ脱却に積極的な人」が具体的に誰かである。この基準との関連で目下最大の論議は「インフレターゲッティング(インフレ目標策)」の是非論だ。デフレ脱却には日銀が年率2〜3%のインフレ目標を設定し、その実現に向けて金融政策を遂行すべきだという議論である。だが、もともとインフレ目標策とはインフレを抑制するために一部先進諸国で採用された金融政策であって、デフレ脱却に用いられたことはないものだ。第二次大戦終結以来、60年近く世界は全くデフレを経験していない。
だから、デフレ脱却を照準に定めるインフレ目標策とはよくいえばウルトラ金融政策、悪く言えば奇策であるが、10年を越える長期デフレに閉じ込められている日本経済としては一部に起死回生の突破策としてインフレ目標策を主張する人達が出てきている。その有力な日銀総裁候補が中原伸之前日銀審議委員だ。
インフレ目標策を主張する人達は一般に二つのグループに別れる。一つは純粋経済学派とよぶべきグループで米国のニューケインジアンやマネタリストの一部でクルーグマン(プリンストン大学教授)やバーナンキ(FRB理事)さらに日本の5人組(浜田宏一氏、深尾光洋氏、伊藤隆敏氏、伊藤元重氏、岩田規久男氏)を中心とする米国系経済学者たちだ。もう一つは政治家や官僚などからなる、政治的先送り派というべきグループである。
経済理論的にいえば、期待インフレ率を高めることによって実質金利(=名目金利−期待インフレ率)をマイナス化させるインフレ目標策はロジカルである。だが、これは世界的にも未経験な政策であるだけでなく、机上の空論の域をでず、現実経済学からみれば、投機ゲームに国民や企業を誘い込む噴飯物の、危険で実効性のない暴論だ。
経済学者たちが真空の中で純粋論理を展開するのは自由だから、大いに論議を展開してもらいたいし、筆者もこの点で経済学的議論を開陳している。しかし、現実のポリティックスでは机上派の論理などと関係なく、インフレ目標策は政治経済学上の磁力を持つ。というのはインフレ目標策は政治経済学的に大きな魅力があるからだ。
インフレ目標策は三つの点で政治家や官僚たちに「たまらない魅力」を持つ。第一にそれはデフレ圧力を一時的にせよ、心理的には緩和させる効果があるからだ。竹中式不良債権処理加速策の中途半端な産業再生機構では不良債権処理に伴うデフレ圧力を抑制することは基本的に不可能だ。だから、竹中シナリオでは日本経済のデフレ深化は避けがたい。このデフレ圧力を心理的に緩和させるためにはインフレ目標策は格好な政策だ。日銀にデフレ脱却という大命題を「丸投げ」するだけでいいからだ。これが「デフレとは金融現象」だから日銀の専管事項とする竹中発言の真意だが、これではまさに「丸逃げ」だ。
第二は財務省の意向だ。このほど財務事務次官に就任した林正和氏は記者会見で「デフレ克服にあたって、日銀にはより実効性のある金融緩和措置を期待したい」と発言している。また、林氏は「財政で景気を引っ張る力はない」とこれ以上の財政出動に消極的である。たしかに、日本の財政は破綻寸前でこれ以上の財政出動は日本経済を破滅に追いやると財務省が深刻に考えるのは当然だ。デフレ脱却のためにこれ以上の財政負担はもはや限界だとすれば、残るは日銀に異常金融政策を求めるほかない。日銀が輪転機を回し、紙幣をばらまいたとしても財政負担は皆無だ。財政規律を守り抜くには日銀の金融規律など「屁のカッパ」ということだ。
ところが、財務省は財政政策からウルトラ金融政策(インフレ目標策)にデフレ脱却の主役を転化させ、財政規律を守るかのように装いながら、実は自ら財政規律を切り崩す「密かな目論み」を持っていることに注意しなければならい。これが三番目のインフレ目標策の「たまらない魅力」だ。これまでの財政出動によって日本の公的債務残高(政府・自治体)は700兆円を越えるに至っている。こんな巨額な借金を返すのは不可能に近い。
だが、巨額債務の返済には決定的な方法が一つある。国民や企業に返済苦痛を全く与えずに巨額借金をパーとする政策だ。いうまでもなく、インフレ策の採用である。これは政府や財務省は「口が裂けても言ってはならない媚薬」ではある。だから財務省は密かにインフレ期待を抱き続けている。日銀がインフレ達成のために紙幣を印刷し続けても国民も企業も痛みを感じないし、何の弊害もないとなれば、財務省だけでなく政治家にとってもこれほど素晴らしい政策はない。これがインフレ目標策の至高の魅力だ。だが、これはまさに国民規律の喪失であり、日本社会を「静かな衰退」に導く「危険な誘惑」が一杯なのである。
■第15回「2003年 日本経済は戦後初の真性デフレか」
■第14回「濃くなる『世界デフレ』の影」
■第13回「日本経済は静かに深く『真性デフレの海』に」
■第12回「『竹中デフレ』か『長期衰退症候群』か」
■第11回「小手先デフレ策を繰り返す『懲りない面々』」
■第10回「グリーンスパン神話が消えるとき」
■第9回「薄氷の日本経済を襲うか『米国の傲慢』のツケ」
■第8回「不良債権はデフレの『原因』であって『結果』ではない」
■第7回「日本の景気回復は“小春日和”で終わる?」
■第6回「信じていいのか『米国経済の回復』と『日本経済の危機回避』」
■第5回「オーバーカンパニー状態の解消なくして真のデフレ対策はない」
■第4回「大失業時代の到来か? 『失業率5.6%』は序章に過ぎない!」
■第3回「2002年どうなる日本経済?! 円安戦略の危うさ」
■第2回「”小泉補正”を斬る! 危機脱出へ『小泉国債』発行を」
■第1回「米景気”来年秋回復”に待った!」
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