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池田信夫氏の言説について
投稿者 あっしら 日時 2003 年 1 月 18 日 00:21:16:

(回答先: 構造改革は無効? 投稿者   日時 2003 年 1 月 17 日 21:47:07)


池田信夫氏に対しては、「論議・雑談」ボードに以前書いたが、大鉈を振るうように批判を展開する人だという印象を持っている。今回も、それに類するものがあるので簡単に論評をしたい。
(池田氏と価値観を共有している人には簡潔にズバリと言い切る説明が心地よいものかもしれないが...)

池田氏が批判対象としている山家氏の論説を擁護するものではないことをお断りしておく。


>しかし財政政策によって景気がよくなるという理論的根拠はないし、財政によって景
>気対策を行っている先進国もない。

赤字財政支出の拡大を求めるものではないが、赤字財政支出の持続的な増加が、経済成長を押し上げていくことは論理的に明白である。
(増税による財政支出拡大は、金を使う主体が違うだけの話なので、景気変動にどう作用するかは状況次第であり、どのよう目的に財政支出を振り向けるかという問題もある)

戦後欧米先進諸国が、赤字財政支出で景気変動を調整してきた(いる)ことも明白である。
米国の軍事活動のための赤字財政支出も経済論理的には同じ機能である。
日本が突出しているのは、日本ほどの赤字財政支出ができる金融状況にあった先進国は他にはなかっただけとも言える。


>彼らの批判する橋本内閣の財政改革も、景気にほぼ中立だったというのが実証的な結
>論だ。国債の減額によって金利が下がって円安になり、輸出の増加が内需の減少を相
>殺したからである。これは標準的なマクロ経済学の常識であり、この程度の専門知識
>もない素人が「エコノミスト」を自称しているのは日本だけだ。

日本経済が97年に決定した橋本財政改革を契機にデフレ・スパイラルに陥ったことは、マクロデータを見れば一目瞭然である。

池田氏は「国債の減額によって金利が下がって円安になり、輸出の増加が内需の減少を相殺した」という“実証的な説明”をしているが、国債発行高の減額によって金利が下がったわけではなく、それにより円安になったわけでもない。


     新規国債 コールレート  長期国債10年  円レート   名目GDP
     (兆円)  (%)    利回り(%)  (円)    伸び率(%)
=============================================================================
95年度 21.2  0.46   3.190   102.91  2.5
96年度 21.7  0.38   2.760   115.98  2.5
97年度 18.5  0.44   1.910   120.92  0.9
98年度 34.0  0.34   1.970   115.20 −1.3
99年度 37.5  0.01   1.646   102.08 −0.7
00年度 33.0  0.22   1.640   114.90  1.1
01年度 30.0  0.001  1.365   131.47 −2.5


橋本改革で97年度の国債発行高は減少しているが、それによって金利が下がったとは言えない。
なぜなら、小渕政権に替わって国債発行高が増加したからといって、金利が上がったわけではないからである。
(公定歩合は95年以降0.5%で継続し、01年から0.1%)

95年度以降の金利変動は、日銀の量的金融緩和を通じた短期金利誘導策次第であり、国債発行高の増減で動いたわけではない。
(国債の買い手は金融機関である。そして、資金運用難に喘ぐなかで利益確保をめざしている銀行に日銀券を供給すれば、短長期とも金利が下落する経済状況であり続けている。税収難から国債発行が増大している現在も、長期金利は低下している。民間部門に資金需要がある経済状況であれば、池田氏の説明もそれなりに妥当性はある)

97年に円レートが安くなったのは事実であり、円建ての輸出額も増加している。
しかし、金利変動が外国為替レート変動に直結しているわけではないのは、金利が低落した99年の円高を見ればわかる。

そして、GDPへの純輸出寄与率はたかがしれているので、景気は減速し、国民負担増加が実施された98年以降デフレ・スパイラルに陥った。


このような推移をもって、池田氏のように、「景気にほぼ中立だったというのが実証的な結論だ」ということはできない。

98年に財政出動をしてもマイナス成長になり、その後デフレ・スパイラルに陥った要因を明らかにすることがポイントである。
赤字財政支出の拡大がGDPを下支えしたことは間違いないから、それを超えてマイナス成長になったというのは大きな需要減少が生じたことを意味する。


「これは標準的なマクロ経済学の常識であり、この程度の専門知識もない素人が「エコノミスト」を自称しているのは日本だけだ」という大鉈の振るいかたは、虚仮脅かしの夜郎自大的な言い様だと言わざるを得ない。


>これは一時的には大規模な不況や失業をともなうかもしれないが、恐れるには当たら
>ない。日本人は歴史上、何度も大戦乱を経験してきたが、その廃墟から立ち直るとき
>には驚異的なエネルギーを発揮した。第2次世界大戦で半減したGDPを戦前の水準に戻
>すのに、たった6年しかかからなかったのである。好むと好まざるとにかかわらず、
>日本経済がいったん「焼け跡」になることは避けられそうにないが、それは日本が再
>生する出発点となるかもしれない。

池田氏は敗戦後の経済復興を持ち出して「焼け跡」からの再生に期待を抱いているが、米国が世界の通貨的富を独占した戦後と現在を結びつけることはできない。

米国は戦争を通じて世界の70%を超える通貨的富を保有していたが故に、日本の戦後復興を支援した。
日本に資金の供与や貸し出しを行い、その資金で資本財や原材料を輸出し、日本が生産した財を輸入するという構造をつくることで自国の持続的な経済成長を達成したのである。(そして、そのために、産業国家としての米国は力も失っていった)

世界最大の対外債権国家であり厖大な経常収支黒字を計上している日本が「焼け跡」になるとしたら愚策の責任であり、そのような国家が「焼け跡」になっても、戦後の米国のように手を差し延べる外国はない。
(日本の没落を好機として、日本を踏み越えていく国家ばかりだろう)


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