サンスイ SP-505J(組合せ) Posted by audio sharing on 1972年11月15日 岩崎千明 スイングジャーナル臨時増刊モダン・ジャズ読本 ’73(1972年秋発行) 「理想のジャズ・サウンドを追求するベスト・コンポ・ステレオ28選」より ●組合せ意図及び試聴感
LE8Tを愛用するハードなジャズ・ファンであるキミのため岩崎千明の名にかけて決定的な組合せをまとめた。 これだ!! スピーカーにSP505J、つまりサンスイ−JBLが6年ぶりに発表する野心作、SP−LE8Tのハイグレード版がこれだ。 中味は30センチ・フルレンジD123、つまりLE8Tの大口径ハイ・パワー型のユニットだ。同時に発表した、、おなじみD130のバック・ロードホーン入りの方に、よりなじみと魅力とを感じるが、これは家庭用というには、やや大げさすぎ、よほどのマニアでなければ、というところ。むろん、キミにスペースとふところのゆとりさえあれば、このSP7070Jも推めておく。 LE8Tを一度、手元において愛用するとジャズを聴くかぎり、もうこれ以外のスピーカーには、ちょっと手を出しにくくなる。そうかといってグレード・アップする場合に、さんざん困っていたはずだ。しかし、もうこれからは解消したのだ。 スピーカーについて、いろいろ述べることはなかろう。中味はJBLの大口径フルレンジ型で、箱はサンスイの手になりJBLが認めたチューンド・ダクト型だ。 アンプは、当然このJBLスピーカー・システムを、もっともよく鳴らすべき製品、ということでサンスイの新シリーズAU7500だ。万事控え目のサンスイにふさわしく、あまり目立たぬ存在といわれるが、黒く引き緊ったやや小柄の外形からは想像つかぬほどのハイ・パワーとハイ・パフォーマンスだ。0・1%歪率という値は、実用範囲でおそらくひとけた上の、つまり数倍の価格の海外製にもひけをとらぬ高性能のデータも、使用するうちにうなずけよう。単純にいえば、ずっしりとこのアンプの重いことからも中味の充実ぶりは誰にでも判るのではないか。 この7500の上にもうひとつ9500が登場するが、一般用と考えれば、JBLシステムの高能率で7500で十分。 さて、この豪華にしてぜいたくなシステムを、より豊かにするため、4チャンネル・システムを想定した。 もしLE8Tを持っているのなら、そのままリア用スピーカーとして流用でき、アンプはサンスイ・デコーダーQS100が最適。リア用パワーアンプが内蔵されAU7500のテープ・モニター端子に接ぐだけのことで、完全な4チャンネル・コンポーネント・システムとなる。 カートリッジはオルトフォンM15スーパーをスペアに、チューナーにはAU7500と同じデザインのTU7500。 http://audiosharing.com/review/?p=4947 サンスイ SP-707J, SP-505J Posted by audio sharing on 1973年3月20日 No comments 岩崎千明
スイングジャーナル 4月号(1974年3月発行) 「AUDIO IN ACTION SP-505J、707Jのシステム・アップ」より SJ試聴室に、山水JBLのシステムSP707J、505Jそれに新しいJBLのシステムL88プラスがずらりと勢揃いする。その様はまさにJBL艦隊ともいうべきか、戦艦707J、巡洋艦505J、駆逐艦L88プラスと威風堂々と他の居並ぶシステムを圧倒し去る。この山水JBLのシステムが高音ユニットを加えることによって、どれほどグレード・アップするかを確かめ試聴する目的で一堂に会したわけだ。 これらのシステムSP505J、707Jは、発売された状態では、それぞれ30cmと38cmのフルレンジが箱に収まった形だが、トゥイーターを加えることにより数段高いグレードに向上し、名実ともに世界最高のシステムと成長し得る。 こうした大いなる可能性こそ、これらのシステムの大きな魅力と源となっているのだが、そのためこのシステムの愛用者や購入予定を願う多くのファンから、いかなる道が最もよいのかという質問がSJ編集部へ発売以来あとをたたずに来ている。そこで今月は、これを読者に代って試みよう。 まず、SP505J、価格88、000円。JBL・D123、30cmフルレンジが中型のフロアータイプのチューンド・ダクト型エンクロージュアに収められている。 D123はJBLサウンドの発足以来ごく初期から戦列にあり帯域の広いことでは定評のあるフルレンジだ。低い低音限界周波数とアルミ・ダイアフラムから輻射される鮮麗な高音域はJBL特有の高能率のもとに迫力にみちたスムースな再生を可能にする。 SP505Jは、高音用ユニットとしてLE20、075、175DLHの3つの中から選べるが、組み合わせるべきネットワークはそれぞれちがってLE20はLX2、075はN2400、175DLHはLX10と組み合わせることが考えられる。 価格は、それぞれの組合せで大きく違いLE20(20、100円)+LX2(14、000円)、075(38、200円)+N2400(15、600円)、175DLH(82、000円)+LX10(10、200)となるからどれを選ぶかフトコロと相談をして可能性の近いものをねらうことになるが音の方もかなりの違いを見せ、結論からいうと刺激的な音をさけるのなら、LE20、ハードなジャズ・サウンドをねらうなら無理をしてでもLE175DLHをねらうべきだろう。つまり、本誌の読者なら少々がまんをしてでも将来175DLHを加えることを、ぜひ薦める。 ●LE20とLX2を組み合わせる場合
JBLの山雨度は実に不思議で使うものの好みの音を「自由」に出してくれる。LE20との組合せの場合、ソフトな品のよい迫力が、その特徴だ。繊細感に満ちたクリアーな再生ぶりはまさに万能なシステムというべきで、クラシックのチェンバロのタッチからコーラスのウォームなハーモニーまでニュアンス豊かに再現する。しかも、ジャズの力強いソロにも際立った鮮麗さでみごとにこなしてくれる。ロリンズ・オン・インパルスのシンバルが少々薄い感じとなるが、タッチの鮮かさはやはりJBL以外の何ものでもない。全体にバランスよく、完成された2ウェイ・システムが得られる。 ●075とN2400を組み合わせる場合
これは075の高能率な高音が、ちょっとD123のサウンドと遊離してしまう感じがあって、鮮烈なタッチのシンバルだけが浮いてしまう。D123のバスレフレックスの組合せから得られる深々とした低音がLE20の場合みごとに引き立て合うのに、075では、その特徴が075のよさを相殺してしまう感じなのだ。ピアノの高音のタッチがキラキラしすぎるし、ミッキー・ロッカーのシンバルワークだけが、ややきつくなる感じ。075はかなりレベルをおさえて用いるべきだが、そうなるとLE20とかわりばえがしなくなる。 ●175DLHとLX10を組み合わせる場合
なにしろ、ロリンズのテナーの音までが力強くなって、輝き方が違ってくる感じだ。本田のタッチのすさまじさも175DLHとの組み合わせで俄然、迫力を加えてくるし、何とベースのタッチの立ち上りまで変ってしまう。 まあ結論として、やっぱり175DLHを加えないとジャズ・サウンドの迫力は完全ではないのだ。拡がりと余韻の豊かさが加わるのは、175DLHの指向性のよいためか。 175DLHの場合、高音用とはいってもクロスオーバーが1200hz付近だから、中音まで変ってくるのは、あたり前だが、それにしてもテナーやピアノなど中音はおろかベースからタムタムなど低音のアタックまでがすっかり変わり、D123が見ちがえるように迫力を加えてくる。やはり、ハードなジャズ・ファンだった175DLHをねらうべきだろう。 SP707JはおなじみD130の38cmフルレンジでJBL精神むき出しの強力型ユニットを、これまたJBLならではの大型バック・ロードホーンのエンクロージュアに収めたシステム。元来、C40ハークネスとしてJBLオリジナル製品があったが、72年度よりC40はカタログから姿を消してしまったので、SP707Jの存在意義は大きい。C40のシステムとしてはD130単体と、D130+075の2ウェイ、D130A+175DLHの2ウェイの3通りが選べたが、日本のファンの間では後者がよく知られている。価格176、000円は決して安くはないがJBLオリジナル製品から比べれば安いものだ。 組み合わせるべき高音用ユニットとしては、075、LE175DLH、LE85ユニット・プラスHL91ホーン・レンズの3通りがある。さらに、それぞれユニットをダブらせて用い、クロスオーバーをかえて3ウェイにすることをメーカーでは言っているが、まずその必要はないと結論してもよかろう。つまり、JBLはよほどの音響エネルギーを必要とする場合でない限り、ホールや劇場などを除いては3ウェイの必要性はないと言ってよかろう。 さて、それぞれのユニットの試聴結果は、投ずる費用に応じてハッキリとグレードの高さを知らされ、どれもがD130単体の場合に比べて、格段と向上する。一段とではなく、格段とだ、つまり、SP707Jはこのままの状態ではなく、上記の3種のユニットのどれかを選んだ2ウェイとして初めて完全なシステムとなると言いきってもよい。それも世界最高級のシステムに。フトコロと相談して、075との2ウェイにするのもよい。ゆとりがあれば是非ともLE85+HL91をねらうべきであるのは当然だ。 075とN7000が38、200円+16、700円。LE175DLH+N1200は82、000円+26、800円。LE85+HL91とLえっ苦5は83、000円+23、200円+41、500と価格は段階的に大きくステップ・アップするが、その差が音の上にもハッキリと表われてくるのだから言うべきところがない。 ●075とN7000を組み合わせた場合 これが意外にいい。SP505Jでは何かどぎつくさえ感じられた075が、707Jとの組合せでは俄然生き返ったように鮮明な再生をかってくれる。さわやかささえ感じる。のびっきった高音はアウト・バックのエルビンのシンバルのさえたタッチを、軽やかに鳴らす。707Jの音の深さが一段と加わり、力強い低音がアタックでとぎすまされてくる。特に音場感の音の拡がりが部屋の大きさをふたまわりも拡げてしまうのには驚かされる。 JBLの怖じナル003システムはD130と同じ075をN2400と組み合わせされているが、この組合せを試みたところ、中域の厚さが確かに増し、ロリンズのテナーは豪快さを加えるが、シンバルの澄んだ感じがやや失われるのを知った。どちらをとるかは聴き手の好みによるが、オリジナルの003システムの場合のN2400ではなく、7000HzのクロスオーバーのN7000を指定したメーカー側の配慮も、また充分うなずけるものであるのは興味深い事実だ。 175DLHこそ、D130とならぶJBLの最高傑作であると20年前から信じ続けているのを、ここでもやはり裏付けされたようだ。175DLHはD130の中音から低音まですっかりと生き返らせ、現代的なパーカッシブなジャズ・サウンドにみなぎらせ、鮮烈華麗にして品位の高い迫力をもってあらゆる楽器を再生してくれる。 アウト・バックのエアート・モレイラのたたき出す複雑なパーカッションは大きなスケールで試聴室の空気をふるわせる。特に、バスター・ウイリアムスのベースのプレゼンスある響きは、大型の楽器を目前にほうふつさせ、エルビンのドラムスとの織りなすサウンドをみごとに展開してくれる。 ●LE85+HL91をLX5と組み合わせた場合 175DLHの場合に比べて音の密度が格段と濃くなり、音のひとつひとつの粒立ちがくっきりと増してくるのはさすが。175DLHに比べ、価格のうえで50%アップになるが、その差は歴然とサウンドに出る。 もし、ゆとりさえあればLE85といいたいが、175DLHとして世界最高のシステムとなり得るのだからLE85は音のぜいたく三昧というところだ。なお、LE85の場合はホーンとデュフューザーが大きく、バックロード・ホーン型エンクロージュアのうえにのせるかたちになる。この場合、ぜひ注意したいのはHL91のホーン・レンズの後方には、、必ず厚板で音が後に逃げるのをふさがなければ完全とはいえない。つまり、ホーンを板につけ、板の前にデュフューザーをつけるべきで、板の大きさはデュフューザーよりひとまわり大きいのが望ましい。メーカーでこの板を作ってくれることを望むところだ。 最後に、JBLオリジナル・システムL88プラスについて、ちょっとふれておこう。好評のL88のグリルを変えた新型であるL88プラスは、M12と呼ばれるキット34、300円を買いたして、3ウェイに改造出来得る。このキットの内容はLE5相当の12cm中音用ユニットと、ネットワークのコンビである。接続はコネクターひとつだけで、88プラスの箱のアダプターをはずしてつけることにより誰にでも出来るが、このエクスパンダー・キットを加えると、音域はまさに拡張された感じで中音のスムースさを加え、バランスが格段と向上して豊麗さをプラスしてくれる。 JBLというブランドのシステムに対する、ジャズ・ファンの期待と信頼は、他のオーディオ・システムに例がないほどである。それを製品の上で、はっきりとこたえたのが、D130であり、D123である。D130のみでアンプの高音を強めた用い方により、D130のシステムは、ジャズ・サウンドのもつ醍醐味を満喫するのにいささかも不満を感じさせない。ましてD123のシステムにおいておやである。アンプの高音を3ステップ上げた状態で、我が家においてただ1本のD130と見破った者は、メーカーのエンジニアを含めまだひとりたりもいない。 それを、さらにオリジナルJBLのサウンドに向上させるのが、この2ウェイ化だ。ひとつ気になるとすれば、D130をベースとしたオリジナル・システムは003と名付けた075を加えたものだけである。 あくまで、オリジナルJBLに忠実ならんとする者にとってはD130うウーファーに使うことを将来ためらう向きもあるかも知れない。あえてというなら、130Aを買い換えなければなるまいが、ジャズの楽器の再現を主力にするならば、D130によりリアルなプレゼンスを認めることは容易であろう。 http://audiosharing.com/review/?p=4939 サンスイ SP-707J, SP-505J Posted by audio sharing on 1973年10月15日 岩崎千明
スイングジャーナル別冊「モダン・ジャズ読本 ’74」(1973年10月発行) 「SP707J/SP505J SYSTEM-UP教室」より ジェイムス・B・ランシングが1947年米国でハイファイ・スピーカーの専門メーカーとして独立し、いわゆるJBLジェイムス・B・ランシング・サウンド会社としてスタートした時、その主力製品としてデビューしたのが38センチ・フルレンジスピーカーの最高傑作といわれるD130です。 さらに、D130を基に低音専用(ウーファー)としたのが130Aで、これと組合せるべく作った高音専用ユニットがLE175DLHです。 つまり、D130こそJBLのスピーカーの基本となった、いうなればオリジナル中のオリジナル製品なのです。 こうして20有余年経った今日でも、なおこのD130のけたはずれの優れた性能は多くのスピーカーの中でひときわ光に輝いて、ますます高い評価を得ています。今日のように電子技術が音楽演奏にまで参加することが定着してきて、その範囲が純音楽からジャズ、ポピュラーの広い領域にまたがるほどになりました。マイクや電子信号の組合せで創られる波形が音に変換されるとき、必ず、といってよいほどこのJBLのスピーカー、とくにD130が指定されます。つまり、他の楽器に互して演奏する時のスピーカーとしてこのD130を中心としたJBLスピーカーに優るものはないのです。 それというのは、JBLのあらゆるスピーカーが、音楽を創り出す楽器のサウンドを、よく知り抜いて作られているからにほかなりません。JBLのクラフトマンシップは、長い年月の音響技術の積み重ねから生み出され、「音」を追究するために決して妥協を許さないのです。それは、非能率といわれるかもしれませんし、ぜいたく過ぎるのも確かです。しかし、本当に優れた「音」で音楽を再現するために、さらに優れた品質を得るためには、良いと確信したことを頑固に守り続ける現れでしよう。 5.4kgのマグネット回路、アルミリボンによる10.2cm径のボイスコイルなど、その端的なあらわれがD130だといえます。 あらゆるスピーカーユニットがそうですが、このD130もその優秀な真価を発揮するには十分に検討された箱、エンクロージャーが必要です。とくに重低音を、それも歯切れよく鳴らそうというとホーン・ロードのものが最高です。(72年まではJBLに、こうした38cmスピーカーのためのバックロード・ホーン型の箱が、非常に高価でしたが用意されていました。) そこで、JBL日本総代理店である山水がJBLに代ってバックロード・ホーンの箱を作り、D130を組込んでSP707Jが出来上ったのです。 つまり、SP707JはD130の優れた力強い低音を、より以上の迫力で歯切れよく再生するための理想のシステムと断言できるのです。 あらゆる音楽の、豊かな低域の厚さに加えて、中域音のこの上なく充実した再生ぶりが魅力です。 刺激のない高音域はおとなしく、打楽器などの生々しい迫力を求めるときはアンプで高音を補うのがコツです。 SP505JはJBLのスピーカー・ユニットとして、日本では有名なLE8T 20センチフルレンジ型の兄貴分であり先輩として存在するD123 30センチフルレンジを用いたシステムです。 D123は30センチ型ですが、38センチ級に劣らぬ豊かな低音と、20センチ級にも優る高音の輝きがなによりも魅力です。つまり、D130よりもひとまわり小さいが、それにも負けないゆったりした低音、さらにD130以上に伸びた高域の優れたバランスで、単一スピーカーとして完成度の一段と高い製品なのです。 D123のこうした優れた広帯域再生ぶりを十分生かして、家庭用高級スピーカー・システムとしてバスレフレックス型の箱に収め、完成したのがSP505Jです。 ブックシェルフ型よりも大きいが、比較的小さなフロア型のこの箱はD123の最も優れた低音を十分に鳴らすように厳密に設計されて作られており、この大きさを信じられないぐらいにスケールの大きな低域を再生します。 このSP505Jも、SP707Jも箱は北欧製樺桜材合板による手作りで、手を抜かない精密工作など、あらゆる意味で完全なエンクロージャーといえます。 JBLスピーカー・ユニットの中で、フルレンジ用として最も優秀な性能と限りない音楽性とを併せ備えた名作がこのLE8T 20センチ・フルレンジ型です。 この名作スピーカーを、理想的なブックシェルフ型の箱に収めたものがSP−LE8Tです。かって、米国においてJBLのオリジナルとして、ランサー33(現在廃止)という製品がありましたが、そのサランネットを組格子に変えた豪華型こそSP−LE8Tです。 シングルスピーカーのためステレオの定位は他に類のないほど明確です。高級家庭用として、また小型モニター用として、これ以上手軽で優れたシステムはありません。 個性あるSP707J・505Jへのグレードアップ より完璧なHi-Fiの世界を創るチャート例
075の追加
D130と075の組合せはJBLの030システムとして指定されており、オリジナル2ウェイが出来上ります。ただオリジナルではN2400ネットワークにより、2500Hzをクロスオーバーとしますが、実際に試聴してみると、N7000による7000Hzクロスの方がバランスもよく、楽器の生々しいサウンドが得られます。シンバルの響きは、鮮明さを増すとともに、高域の指向性が抜群で、定位と音像の大きさも明確になります。さらに、高域の改善はそのまま中域から低域までも音の深みを加える好結果を生みます。 LE175DLHの追加
D130と並びJBLの最高傑作であるこのLE175DLHの優秀性を組合せた2ウェイは、D130の中音から低音までをすっかり生き返らせて、現代的なパーカッシブ・サウンドをみなぎらせます。鮮烈、華麗にして、しかも品位の高い迫力をもって、あらゆる楽器のサウンドを再現します。 オーケストラの楽器もガラスをちりばめたように、楽器のひとつひとつをくっきりと浮び出させるのです。空気のかすかなふるえから床の鳴りひびきまで、音楽の現場をそのまま再現する理想のシステムといえます。 LE85+HL91 LE175DLHにくらべ、さらに音の緻密さが増し、音の粒のひとつひとつがよりくっきりと明確さを加えて浮んでくるようです。LE175DLHにくらべて価格の上で20%も上るのですがそれでも差は、音の上でも歴然です。 もし、ゆとりさえあれば、ぜひこのLE85を狙うことを推めたいのです。LE175DLHでももはや理想に達するので、LE85となるとぜいたくの部類です。しかし、それでもなおこの高級な組合せのよさはオーディオの限りない可能性を知らされ、さらにそれを拡げたくなります。魅力の塊りです。 HL91
D130単体のSP707Jはこのままではなく、最終的にぜひ以上のような高音ユニット3種のうちのどれかひとつを加えた2ウェイとして使うことを推めたいのです。2ウェイにグレードアップしてSP707Jの魅力の真価がわかる、といってよいでしよう。 D130だけにくらべ、そのサウンドは一段と向上いたします。いや、一段とではなく、格段と、です。 2ウェイになることによってSP707Jはまぎれもなく「世界最高のシステム」として完成するのです。 LE20を加える場合 D123のみにくらべ俄然繊細感が加わり、クリアーな再生ぶりは2ウェイへの向上をはっきりと知らせてくれます。ソフトな品の良い迫力は、クラシックのチェンバロのタッチから弦のハーモニーまで、ニュアンス豊かに再現 します しかも、JBLサウンドの結集で、使う者の好みの音を自由に出して、ジャズの力強いソロも際立つ新鮮さで、みごとに再生します。全体によくバランスがとれ、改善された超高域の指向性特は音像の自然感をより生々しく伝えるのに大きくプラスしているのを知らされます。 075を加える場合 LE20にくらべてはるかに高能率の075はネットワークのレベル調整を十分にしぼっておきませんと、高音だけ遊離して響き過ぎてしまいます。D123の深々とした低音にバランスするには高音は控え目に鳴らすべきです。 ピアノとかシンバルなどの楽器のサウンドを真近かに聴くような再生は得意でも、弦のニュアンスに富んだ気品の高い響きは少々鳴りすぎるようです。 LE175DLHを加える LE175DLHも075も同じホーン型だが、指向性のより優れたLE175DLHの方がはるかに好ましい結果が得られ中音域の全てがくっきりと引き締って冴えた迫力を加えます。楽器のハーモニーの豊かさも一段と加わり、中音の厚さを増し、しかもさわやかに響きます。 075のときよりもシンバルのプレゼンスはぐんと良くなって、余韻の響きまで、生々しさをプラスします。 クロスオーバーが1500Hzだから、中音まで変るのは当り前だが、中音の立ち上りの良さとともにぐんと密度が充実して見違えるほどです。 D123をLE14Aに 高音用を加えて2ウェイにしたあとさらに高級化を狙って、D123フルレンジを低音専用に換えるというのが、このシステムです。LE14Aはひとまわり大きく、低音の豊かな迫力は一段と増し、小型ながら数倍のパワーフルなシステムをて完成します。 プロ用の厳しい性能を居間に響かせる 新しい音響芸術の再生をめざすマニアへ プロフェッショナル・シリーズについて
いよいよJBLのプロ用シリーズが一般に山水から発売されます。プロ用は本来の業務用としてギャランティされる性能が厳しく定められており、コンシューマー用製品と相当製品を選んで使えば、超高級品として、とくに優れたシステムになります。 例えばD130と2135、130Aと2220A、075と2405、LE175DLHと2410ユニット+2305ホーンで、それぞれ互換性があります。 しかし、一般用としてではなくプロ用シリーズのみにあるユニットもありそれを用いることは、まさにプロ用製品の特長と優秀性を最大に発揮することになります。 高音用ラジアル・ホーン2345と2350 ラジアル・ホーンは音響レンズや拡散器を使うことなしに、指向性の優れた高音輻射が得られるように設計され、ずばぬけた高能率を狙ったJBL最新の高音用です。 ホーンとプレッシュア・ユニットとを組合せて高音用ユニットとして用います。プレッシュア・ユニットにはLE175相当の2410、LE85相当の2420があり、さらに加えて一般用として有名な中音ユニット375に相当するプロ用として2440が存在します。 2410または2420をユニットとしラジアル・ホーン2345を組合せた高音用は、従来のいかなるものよりも強力な迫力が得られ、とくに大きい音響エネルギーを狙う場合、例えばジャズやロックなどを力いっぱい再現しようという時に、その優れた能力は驚異的ですらあります。 ラジアル・ホーン2350は、2390と同様に500Hz以上の音域に使用すべきホーンで、音響レンズつきの2390に匹敵する優れた指向特性と、より以上の高能率を誇ります。 本来、中音用ですが、2327、2328アダプターを付加すれば、高音用ホーンとして使えます。 この場合は、LE85相当の2420と組合せてカットオフ500Hz以上に使えるのです。拡がりの良い、優れた中音域を充実したパワーフルな響きで再現でき、従来のJBLサウンドにも優る再生を2ウェイで実現できるのです。 2350または2390+2327(2328)アダプター+2420ユニットというこの組合せの高音用はJBLプロ用システムの中に、小ホール用として実際に存在しています。 この場合の低音用はSP707Jと全く同じ構造のバックロード・ホーンに130Aウーファー相当の2220Aが使用されネットワークはN500相当の3152です。 2205ウーファーに換える場合 プロ用シリーズ特有のパワーフルな低音用ユニットが、この2205で、一般用にLE15Aの低音から中音域を改良したこのウーファーは150W入力と強力型です。 プロ用ユニットを中高音用として用いた場合の低音専用ユニットとして2205は注目すべきです。SP707JのユニットD130を2205に換えたいという欲望はオーディオマニアなら誰しも持つのも無理ありません。 2205によって低音はより深々とした豊かさを増し、中域の素直さは格別です。とくに気品のある再生は、現代JBLサウンドの結晶たる面目を十分に果しましよう 2220と2215ウーファー SP707JのD130はフルレンジですが、プロ用シリーズの38センチウーファーとして2220があり、130A相当です。100Wの入力に耐える強力型で、130Aに換えるのなら、ぜひこの2220を見逃すわけにはいきません。またLE15Aのプロ用として2215があります。 以上2205と2220ウーファーは、末尾のAは8Ω、Bは16Ω、Cは32Ωのインピーやンスを表します。2215Aは8Ω、Bは16Ωです。 プロ用の高音ユニットは全て16Ωなのでもし正確を期すのでしたら、ウーファーも16Ωを指定し、プロ用の16Ω用ネットワークを使うべきです。 http://audiosharing.com/review/?p=4615 オーディオ彷徨(岩崎千明)
JBLが変わったのか、私自身が変わったのか、近頃はJBLの新しい製品(プロダクツ)に接しても、昔ほどの感激はなくなってしまった。 JBLでも私でもなく、変わったのは世間かも知れない。世の中が物質的に豊かになり、めぐまれたこの頃だ。私自身もその中にあって忙しくなり、音楽に対する接し方が、かつてとは違ってきたのかも知れない。いや、確かに自分は変わった。若かったあの頃とはすべて違う。 昔は、買いたくても、それに憧れても、容易には自分のもにはならなかった。いまは、欲しければ、すぐにでも手元における。いや、欲しいとまでいかなくても、単に「あれば良い」という程度でも買い込んでしまう。欲しくて欲しくて、それでも買えなくて毎日、毎日、そのスピーカーをウインド越しに眺め、恋いこがれてそれでも容易には買えなかった。だから手に入れたときは、感激も強く、その感激にひたりながら聴いた音は生涯忘れられっこない。 今は、そういう環境が欲しいけれど、すぎし過去は現実の問題としても不可能だ。来てしまった道はもう戻れっこないし、昔、苦労して辿り、足を引きずって歩いた道が、やたらなつかしい。 「あれを鳴らしたら、いいかも」と熱の上ったところで入手しても、堅いボール紙の包装さえとかずに部屋の隅に転がし、忙しさにまぎれて幾日か経ってしまう、というのが常だ。封を切るのももどかしく、箱の底に顔を出したユニットをなでまわした頃がなつかしい。 若かったあの頃が、うらやましくさえある。物質的な豊かさは、精神を貧しくしてしまうというのは、たぶん真理だろう。 しかし、それにしても、JBLも変わった。L−26ディケイドが猛烈に売れ、世界的にすごい人気となると、L−26をシリーズ化し、L−16普及型からL−36高級品を加えるという。 この三種が従来のランサー・シリーズにとって替って、ブックシェルフ型の主力となろう。スタジオ・モニターとして従来からの4320もまたシリーズ化されてクロスオーヴァーを変えた。スタジオ・モニターも新たに大型の4350が新たなるJBLのブランド・イメージ的背景を担って登場した。ひとたび引っ込めたアクエリアス・シリーズが再び、角柱型のアクエリアスを大型化した形でアクエリアスQとして登場した。たぶんH・K(ハーマンカードン)製だろうが片側三〇〇Wの大出力アンプがプロ用のアンプの戦列に加わった。こうした一連の動きをみると、最近のJBLもまた変りつつあるし昔とは変わったと思う。 現代は、古き良きものがそのままの形で保たれたままでいることを拒否しつくすのか。 D130が名ばかりのジュウタンを敷いた8畳の洋間、というより板張りの部屋で鳴り始めたのは57年の11月末だった。
ひと晩中、ウェストミンスター・レーベルの「幻想」を鳴らし続け、初冬のおそい朝が白みがかって、寒くて、毛布を引張り出した。 D130は、プレーン・バッフルの、たった一メートルたらずの角板にとりつけられたままだったが、自作の6L6GPPの、30Wのアンプで床を響かせた低音は、這い上ってくる感じで体を振るわせた。 D130がこうして手元にあるのは、僥倖みたいなものだった。 池田山の奥の接収家屋にいた、アメリカ空軍高級将校の居間の本箱に取り付けられていたD130の音は、最初その広い洋間に足をふみ入れたときに、本物のグランドピアノの姿を探しまわった視線の記憶と共に生々しい。 ステレオに改造してくれないか、と人づてに依頼され、スピーカーをパイオニアの15インチ二本にとりかえて、余ったD130。大きくうなずきながらオーディオフィデリティのレコードのステレオの音に満足した老軍人が「ウォンチュー? OK、プレゼント!」と上きげんの気前良さがあったからこそ、名前と姿の良さとに惹かれていた願いにも近い憧れが満たされたのだった。重くて、五反田の駅のまだせまい階段の途中で、手を持ちかえ、持ちかえ、自慢気にむき出しのままのD130は、そうでなくても人の目を惹いたが、自分の部屋で音を出すまでのもどかしく、長かった帰路の道すがら。 このD130のおかげで、プリ・アンプは再三、作り変え、12SL7から12AX7に、それもやっと手に入れたフィリップス製ECC83にたどりつき、トーン回路なしのイコライザーだけに、ヴォリュームとローカット・フィルターと、12AU7のカソードフロアーつきになった。一番の難点は、今までのグッドマンでは何の気にもしなかったモーターゴロが、どうにもならぬくらい目立ったことで、それはまさにコーン紙の大ゆれという形で眼についた。ストラヴィンスキーの「春の祭典」からさらに「兵士の物語」に、それからファリャの「三角帽子」にと、D130になってから、聴く音楽も、不思議なことに小編成の器楽曲に移ってきた。 もっとも、それは、その頃、昭和30年前後に、そうしたレコードに新しい録音の優れた、いわゆる楽器の音の分離のよいのが多かったためかも知れない。 そう、そのD130が一番力を発揮したのはピアノであった。多分、今日の標準では高音がずい分足りなかったはずなのに、ピアノのタッチのきわ立った音、フルコンサートの床を圧するような低弦の響き。それは、今までのスピーカーには到底なかったパワフルなエネルギーを、直接体に感じさせた。 それに、もうひとつ、その頃、すでにハイファイ録音を実現していた、リヴァーサイドや、ブルーノートのデキシーランドが、無類に力強く鳴った。もっともデキシーランドでは、グッドタイム・ジャズのボブ・スコービーのフリスコ・ジャズ・バンドや、ファイアハウス・プラス・ツーの方が、音はずっとクリアーで輝かんばかりの高音や、低音の豊かで圧倒的な響きはただ音だけでさえそれに酔いしれるほどだった。 D130は、そのころやっと這いまわっていた長男が、センターのアルミ・ダイアフラムを指先でつついて大きく凹ませてしまってその時ばかりは声も出なかった。苦労して、セロテープの接着力によってなんとか元に戻したが、凹んだ跡には泣くに泣けず箱に入れることを思い立ったが、これがまたひとすじ縄ではいかなかった。2・5cm厚の堅いラワン板を見つけてきて、昔、家具を作る手伝いをしたというトーキー屋仲間に頼んで作ってもらった箱は、50×90×120とかなり大きく、カタログからみつけたC−34風の密閉箱であった。しかしこのぶ厚い箱をもってしても、D130の高能率、高エネルギーが補強でガンジガラメの箱をビリつかせた。後蓋の補強板をよけてあけた2cm径のいくつかの穴が20個ぐらいになったら、やっとビリつきがおさまり、バスレフ的なゆたかな低音の響きと変わってくれた。 しかし、この時すでにはっきりと悟ったのは、ピアノの力強さは、貧弱な平面バッフルにかなわないという事実だった。 だから今でも、JBLにおいては、バスレフに入れたハイエフェシェンシー系を私はかたくなに拒む。4320も含め。 D130は、手元にはむろん一本しかない。パイオニアをやめたときに手元に残った38cmのPAX−15BというD130的外観上のフィーリングを持ったスピーカーをステレオ用として使おうと試みたが、形は似ても、音はまるで違って、とうていステレオとはいかず苦心の末終ってしまった。 D130が一本だったためと、例えばグッドマン・アキシオム80やワーフデル・スーパー12の当時手元にあった他のいかなるスピーカー二本によるステレオとをくらべても、D130の格段に大きいエネルギーと、リアルな楽器の再現性には及びもつかないのに、ステレオはあきらめてしまった。62年、昭和37年になるまで、ステレオはおあずけになってしまった。 62年に入手した、AR−2とADCポイント4によって、やっとステレオを実現するまでJBL・D130はそれ一本で充分だった。いかなる音楽を楽しむのにも自作の箱に入ったD130一本の方が、はるかに魅力ある音を、響かせていた。 この原稿を書くのに、古い自作の箱を思い出し、物おきから引っぱり出してみたが、前縁がホンの心持ち、上にそっているだけで、昔と少しも変わらず、陽の光の中に懐しい姿を露わした。湿気とカビで白木の板は昔の悪戦苦闘のあとが所々、色濃く変色していたが、何もかも昔のままで、スピーカーのない大きな取付け穴だけが懐かしくも虚しかった。このD130はその後、アルバイトが高じて半年ほど没頭したフェンダー・アンプの故障修理の際に、断線していたD130Fと、乞われるまま交換して貸して、そのままにまぎれてしまった。手元には断線したD130Fが、一本残っただけであった。 そのフェンダー・アンプを使う当時のロック・サウンドの有名グループのミュージシャンの所に何度も足を運んだが、そのD130は遂に二度と戻ってこなかったし、そこでJBLと私は中断した。 175DLHを加えて、2ウェイにしようかなという夢もまったくはかない夢でしかなくなった。 当時、家庭も、子供も捨ててしまった自分自身の、その日暮しの人生の、明日も定かではない生活の底で、それはあるいは幻の自覚の上だけかも知れぬたったひとつのささえ。それを断たれてしまったのであった。 オーディオは、JBLのなくなったのと共に我が身から崩れ去ってしまったのかと運命をはかなんだ。 D130が私に残してくれたものは、ジャズを聴く心の窓を開いてくれたことであった。特にそれも、歌とソロとを楽しめるようになったことだ。
もともと、アルテック・ランシングとして44年から4年間、アルテックにあってスピーカーを設計したジェイムズ・B・ランシングは、映画音響の基本的な目的たる「会話」つまり「声」の再現性を重視したに違いないし、その特長は、目的は変わっても自ら始めた家庭用高級システムとハイファイ・スピーカーの根本に確立されていたのだろう。 JBLの、特にD130や130Aのサウンドはバランス的にいって200Hzから900Hzにいたるなだらかな盛り上がりによって象徴され予測されるように、特に声の再現性という点では抜群で、充実していた。 ビリー・ホリディの最初のアルバムを中心とした「レディ・ディ」はSP特有の極端なナロウ・レンジだが、その歌の間近に迫る点で、JBL以外では例え英国製品でもまったく歌にならなかったといえる。 JBLによって、ビリー・ホリディは、私の、ただ一枚のレコードとなり得た、そして、そのあとの、自分自身の空白な一期間において、折にふれビリー・ホリディは、というより「レディ・ディ」は、私の深く果てしなく落ち込む心を、ほんのひとときでも引き戻してくれたのだった。 AR−2は、確かに、小さい箱からは想像できないほどに低音を響かせたし、二つの10cmの高音用は輝かしく、現在のAR−2から考えられぬくらいに力強いが、歌は奥に引込んで前には出てこず、もどかしく、「レディ・ディ」のビリーは雑音にうずもれてしまった。JBLを失なってその翌々年、幸運にも山水がJBLを売り出した。 D130ではなく、ずっと安いこともあって、LE8Tを、二本買い入れた。 それで、AR−2と並べて、歌はLE8Tでないと、どうにもならないのを改めて知らされた。 聴くのは、もうジャズが主体となり、時折、プロコフィエフとフォーレであり、ファリャであった。ただ、ストラヴィンスキーは、なぜかジャズとのすぐあとに聴いても違和感なしに接し得た。 夫の戻るのを願いつつ家を建てて、それも狭いながらわがままきわまる間取りで、二階には十二畳強の洋室ひとつという家が出き上った時に、妻は二人の子をつれて去った。 その時には、本当にビリー・ホリディを知っていてよかったと心底思った。そして、D130でなくてもよいけれどもそれはJBLでなければならなかった。 C53に入ったしE8Tは、歌において、充分満足できたし、レンジも広く気に入ったに違いないが、D130とくらべてJBLサウンドというには、あまりに違った形でしか私に迫ってこないのが物足りない、というより、どうにも我慢できないのであった。 D130のサウンドでなければ、あのパワフルなエネルギーでなければ、私のオーディオは元に戻ったという気が全然しないのだった。 たまたま家にきたN君が断線したまま置きざりのD130をみつけて修理をすすめ、それを新品に変えてもう一本のD130と共に、つまり二本の新しいD130をクルマにつんで翌々日にはきてくれた。彼が神様のようにさえ思えた。 片方は平面バッフル、片方は箱という変則的な形であったがD130がこうしてステレオで鳴り始めた。 67年の暮だった。 D130が再び我が家で鳴り出した。 それも、別れた妻の最後の亭主孝行ともいえる十二畳の多分誰にでもいばれるくらいのリスニング・ルーム風の作りの部屋で、私の手で鳴り始めた。乗り始めたクルマとD130のジャズとで、この頃のひとりボッチの私の二十四時間はそれなりに結構楽しく過ごせたと思う。が、なにか生活にポッカリと空いてしまった穴はバッフルからD130を外した穴のようでもあったが、D130は私の心のうちに夢を育ててくれたのだ、もう一度、オーディオヘの熱い息吹きとやる気を起させた。 D130という15インチ・フルレンジ・スピーカーは、J・B・ランシングが独立した時の主力製品であった。本来フルレンジなのだから当然、一本のみで、そのまま音楽再生用として充分使用できるわけだが、それがデビューした50年代直前の頃の、つまりLP初期での条件としては充分でも、今日のというよりも、50年代後半以後のレコードに対しては、やはり高音域では物足りない。 D130自体五千Hz以上ではかなり急激に出力が低下し、八千Hz以上ではさらに急激に減衰してしまう。だから今日の録音水準を考えるとそのまま一本でフルレンジ用とするには物足りず、高音調節(トーンコントロール)で相当のハイ・ブーストをしなければならない。しかしそういう状態で使うなら、フルレンジ用としてセンター・ダイアフラムを持った単一の振動板による音響輻射のため、マルチ・スピーカーよりも音像の定位がシャープではっきりと確立している点が他にかけがえのない大きな利点となる。 これは音源として周波数対位相特性のよいためだし、そういう良さをそなえた16cmなど小口径フルレンジと少しも変わらない。その上、大型コーンのため音響変換器(アコースティックトランスデューサー)としての能率の高さ、エネルギーの絶対的な大きさという点では格段の良さを発揮する。つまりジャズやロックの再生のような、間近な楽器の再現性の上では、同じ音像定位がいいといっても小口径スピーカーの比ではない。ジャズにおいて優秀な理由である。 ところでこうしたD130の本来の良さは何にあるかというと、大きくいってそれまでのスピーカーに比べ、アルテックを通して得たに違いない映画のサウンドの基本たる「人声の帯域の充実」という点と「入力に対応する音響出力のリニアリティの良さ」の二点にしぼられ、これはそれ以後のJBLの圧倒的良さの伝統ともなる。その技術は、強大なるマグネットと、4cmという大口径ヴォイスコイルによる強力なる駆動力と、それを実現するためヴォイスコイルが磁気回路のヨーク幅の半分しか巻いてないので、過大入力に対してもクリップがごくなだらかで、大音量時の直線性が抜群にいいためだ。そうしたD130の本来の良さを充分に認めようとせず、 「高音が出ないから高音用(トゥイーター)を加える」 というのは、音像定位の優秀性を捨て去るようなものである。私自身、D130をただ一本で再生していた期間が十年近くと長いが、その問、トーンコントロールで高音を補正したままだ。高音用をつけたいという気が起きなかったのは入手し難い理由もあるが、特に日本の家屋のように間近で聴く場合、それ以上に音像の定位の良さが欲しかったからだ。D130はできれば2ウェイでなくて一本での良さをもっとよく知るべきだと痛感しているから、よく人にすすめるのだ。 とはいうものの自分自身はユニットの魅力にとらわれた。 山水がJBLを扱うようになって、JBLの優れたユニットが割に容易に入手できるようになって、まっさきに狙いをつけたのは、高音用の175DLHだった。
175DLHは、まるで、出来損いのタケノコみたいだった。遠い宇宙のどこかの星に生えているかもしれない金属性のタケノコだ。 この妙な恰好は、ホーンの前に付加された音響レンズのためだ。 音響レンズとはJBLのつけた呼び名だが、それはまさに凹レンズのように、その後からの高音エネルギーを、このレンズの前方に90度の範囲に拡大し、その時の仮想音源はまるでレンズの前面の中心にあるかのようだ。 175DLHの音響レンズ以前に、こうした着想はなかった。デュフェザー拡散器と呼ばれるものは、スピーカー前面にハの字型に開いた縦長の細い板をおいて、音波をその板に反射させ回折することによって音波を左右に拡散する方法は昔からあったが、パンチング・メタルをホーン開口の前面に重ねて、その小孔群による拡散作用を利用したのは175が初めてである。 175以前は、ホーンで指向性を拡散しようとする場合、マルチセルラ・ホーンという方式を採用していたが、これは拡散性と寸法とが比例して、形が寸法的に大型になる。パイオニア入社以前に、映画館の音響設備の仕事をしていた関係で、映画館のスクリーンの裏に設置する大型システムの高音用として使われるマルチセルラ・ホーンを以前から持っていて、アダプターをつけ、アルテック802Dユニットを装着して使った時期がある。 ウーファーは当然シアター用の標準機としての515BをつけたA7のそれを用いたが、そのマルチセルラ・ホーンは、たしかに指向性が拡がるものの、その拡散された音波の仮想音源は、マルチセルラ・ホーンの開口からかなり奥まった点になり、ウーファーの振動板位置にくらべて、聴取距離がホーンの方が遠くなる。そのため、楽器の再現性において、音程により、高音ほど奥に引き込んでしまう欠点が気になった。それを補うには、マルチセルラはウーファー箱よりずっと突出して配置しなければならない。A7においてもウーファーの前ショート・ホーンは、ホーンとしての効果よりも、ウーファー振動板が、高音用のホーンの仮想音源点たるホーンネックと、聴き手から等距離に配置する必要があったからである。その点、マルチセルラはA7の箱をもってしても、ホーンを前方に約70cmは突出して配置することが要求されるし、そうなればホーンは天井から吊るす以外にこの十四畳の部屋で使う道はない。 それにマルチセルラ・ホーンは300Hzカットオフの大型のため、中低域での音が良く、クロスオーヴァー以下の音がよく鳴るが、音像が大きくなり勝ちで、再生レヴェルをよほど下げないと、不自然なくらいに大型の音像を結び、ピアノなどではスケール感がよく出るが、アルト・サックスやトランペットなども、楽器が大型化したように感じられるのだった。特に歌はひどく、歌が大きく響き、50cmほどの大きな唇(くち)になって困った。 175DLHを気に入った最大の長所は、何よりもこの点にあった。つまり175DLHによる音像の大きさが、今までのマルチセルラのようにふやけずに、小さく焦点を結ぶという感じであった。 低音用のスピーカーとの配置にしても、175DLHはそれ自体の最前端の位置に音源を感じさせるので、ごく普通の、箱に組込んだユニットの上に高音用を乗せるだけでよい。振動板位置を等距離に合わせるというための努力を意識せずにすむ。 こうしてマルチセルラが175DLHに変わったことによってそれまでよりマイナスになったのは、ピアノのコンサート・グランドのスケールのある響きと音像が得られなくなったことだ。また175DLHの方は、ステージの奥行と広さの感じが出るが、オーケストラの大編成の和音がゆったりした感じに欠けるのも気になった点だ。 しかし、他のあらゆる点で、175DLHははっきりと家庭用としての良さを発揮した。例えば、高音域のレンジの広さ、高音の立上りの良さは、ほぼ同一サイズのアルテックの802Dの時よりも数段の差をみせた。 特にジャズを聴こうとするとき、どうしても間近に鳴るソロ楽器の音をクリアーに出したいと願うと、アルテックのマルチセルラ・ホーン+802DよりもJBL・175DLHの良さがぴったりだった。 175DLHによって、音像の鮮明な焦点と、音のひとつひとつの立上りの良さを実感として体験したのだった。 175DLHの特徴のあるパンチング・メタルを重ね合わせた音響レンズは、たしかに指向性を拡散するのに大きな力を発揮した。このパンチング・メタルの間隔をたもち、かつ、音波がホーン内部に反射するのを防ぎ、しかも、ホーンの開口以後に適当な音響抵抗として作用させて、不完全ながらホーン延長として動作させる、という一石三鳥以上の働きをこの音響レンズに受けもたせているのだ。 ところがこのドーナツ型のフェルトはパンチング・メタルの周辺だけでなく、かなり全面的にホーン開口に蓋をするような形でフェルトが入ることになった結果、ホーン前面へ出てくる音波を、開口付近で吸音減衰させることになり、そのまま能率を低下させながら、ホーンの高音のどぎつさを家庭用としてやわらげているといえる。この音響レンズはこのようにJBL独特の技術で長所に満ちているが、問題点もないわけではない。 音響レンズをつけたもうひとつの有名なホーンは中音用ユニット375に組合せるべき537−500と呼ばれる中音ホーンと、その音響レンズで、この場合、175DLHと構造的に同一で寸法のみ四倍ぐらい大きくなっている。 375+537−500も従って、175DLHとほぼ同じ特長と問題点があるということができるのだが、それにしても原形の175DLHがJBLのオリジナル2ウェイの高音ユニットとして果した役割は大きいし、そのままJBLの以後の成功に直接結びついていることは確かだ。 ところでこうした175の良さは、私自身初めから知っていたわけではなく、初めは形の変わった高音用ユニットなので、その外観的なデザインから受けた迫力に惹かれて手元で鳴らすうちに判ったわけである。何よりも先に、その外観の特徴的な風格が、つまりデザインに期待を持てたし、サウンドはその期待にそむかなかったのだ。何よりも象徴的なのは175DLHが、JBLのマークである!印の形そのままだということ、いや逆かな、175DLHの横顔をそのままJBLのマークとして用いていることが、175DLHのJBLユニットの中の位置というか価値を示しているということである。JBLのサウンドが好きになったら必ずマーク!が気に入るし、そうすると175DLHが欲しくなる、というルートが自然に拓けるのであろう。 175DLHがN1200ネットワークによって鳴り出してくれると、こんどはいよいよ、ウーファーの箱が気になってくる。JBLにはC35という縦型のバスレフ型、これはワク型の足がついたものでサランは黒っぽい落着いた風格のものと、それに当時改めたばかりのアルミの引抜きの脚をつけたバスレフ、C37があった。
両方とも同じ寸法の内容積をもっているが、すでに述べたように、バスレフ型の過渡特性の悪さ、つまりスピーカーの基本共振以下に選ばれた箱自体の共振によって周波数特性を半オクターブ低域に拡げるというバスレフ型は、そのまま箱の共振が立上りで時間的な遅れや、立下りにおいて尾を引くという傾向がつきまとう、という点から気に喰わない。楽器の間近な再現ではドラムやメロディ楽器に対してかなりはっきりした立上りのよい響きを要求することになる。 そのため、バスレフ型では不満足なのだ。D130の二本目の支払いが終わり、175DLHの二本の支払いのめどがついた時点で、山水/JBLにこんどは箱を依頼した。 家庭用の箱として手頃の大きさのバックロード・ホーンのC40である。 大きさはC37とほとんど同じ大きさで奥行きのみ少し深く、とうていバックロード・ホーンとは思えぬ小ぶりのC40。 平面バッフルに次いで、バックロード・ホーンは、立上りや立下りは優秀な特性だ。C40はしかし、山水もまだ注文したことがないとの由で、それではどんなものか判らないが、ともかく注文してとりましょうということであった。四十一年の暮だった。 四カ月ほどでC40が我が家にやってきた。まだみたことも触れたこともないからといって山水のJBLセクションのメンバーがぞろりと揃ってやってきて、箱の中をあけて構造をみたり、寸法をはかったりして、楽しみながらC40の中にD130を取りつけた。 C40に入れたD130の低音は、力が強いけれど妙に低音にくせがあって、一定の音程でどすんどすんと響いた。たしかに低域のエネルギー感は満ちているが、低音限界はあまり低くない感じであった。 高級品ほど鳴らし難いのは常だ。あまりに期待と違う結果に、かえってファイトを駆り立てられることになった。 どうあってもD130でいい低音を出してやるぞ。 そこでまずオーソドックスに考えて、低音をいろいろ変えられるように、N1200をやめてマルチ・アンプ駆動を試みた。 これなら低音アンプそのものの定数を変えて、例えばダンピング・ファクターを選んでみるとか、低音のブーストを図るとか、その周波数を変えたり、ブーストの上昇を変えたりと試せるわけで、それによって高音域まで影響されることはないよう、チャンネル・デヴァイダーでアンプ入力で分けてしまおう。 C40は開口の周囲の長さと、ホーンのカーブから計算して90Hz以上にしかホーンとしては効かない。そこでホーン型として高能率を期待できるのはその少し下、80Hzぐらいなもので、それ以下は単なるバッフルとしてしか作用しないのだから、もともと低域レンジとしては大きな箱にしてはあまり低域まで出ず、大型バスレフの方が低音まで少なくともオクターヴ下まで出るだろう。 だからアンプでブーストしてみようというわけだ。苦心して自作のデヴァイダー・アンプとトランジスターのハイパワー・アンプとでやっと鳴り始めた低音は、明らかに箱全体が共振して出てくる超低域ではほぼ50Hzまでは楽に鳴ってくれる。箱自体の共振が65Hzほどで、それはハイパワー・アンプで無理やり鳴らすと、轟くように出てくれる。 JBLのプリSG520のワイドレンジの周波数特性はこうして低域から高域まで、つまりC40と175DLHによって活かされてきた。 しかしN1200にすると40/40WのJBL・SE400ではどうしても低域はたよりなくなってしまう。そこでパワー・アンプをなんとか良質のものでハイパワーを物色し、当時すでに100W/100Wを実現していたおそらく唯一のアンプ、マランツのモデル16を選んだ。マランツは球のプリ、モデル7のみが手元にあったが。パワー・アンプはモデル16が初めてであった。しかしすでに米軍人のあちこちでよく聴いていたので、ためらうことはなかった。 ところでマランツ16を用い出してから、試しにということでN1200をLX5にしてみると、なんとウーファーの鳴り方にかなりの差がでてきてLX5の方がD130の輝きある中城がより鮮かになる。オリジナル001システムは175DLHとN1200と130Aウーファーだが、それはD130とりもずっとおとなしい響きだ。LX5にするとD130がより広い帯域において大きなエネルギーを輻射しているのが気に入って、この時からN1200からLX5に替えてしまった。 さて、175DLHは前述の通り、高域において音響レンズのため、音色的におとなしくされているが、それは音響レンズそのものを外してみるとよく判る。以前の175DLHは音響レンズをとり外せたので試しやすい。ところがレンズを外すと当然のことながら指向性が鋭くなる。鋭くなるのはまあ、いいとして、なによりも困るものはホーンの穴の奥から音が出てくるという感じで、ウーファーの音源と距離的にずれて気になる。 特にシンバルを聴くと、ドラムは前で鳴り、シンバルは奥に引込んだ感じが強く、ドラマーの定位が変になって困る。トランペットやトロンボーンは、金管でホーンそのものと似て気にならないのだが、サックスのユニゾンなどと、特に女性の歌は響きが奥からやってくるという感じでどうにも我慢ならない。 それでHL91というホーン・レンズをマークした。このホーンはDLHとほとんど同じだが、レンズはこれまた新しい構造だ。 スラント・プレートと名付けられた斜めに傾斜した板が並び、正面はホーン開口まで切込んでいるが、その切込みの奥、つまりホーン開口にぴたりと仮想音源が焦点を結んだ感じは175DLHの音響レンズよりも鮮明だ。しかも175DLHのホーンそのものの音、つまり音響レンズによる音のうすまりが全然ないままで指向性が拡散されるという感じだ。そこではっきりと知らされたのは音響レンズがいかにホーン型の高音をソフトに衣がえさせてしまっていたか、という点であった。 これは、ある意味では「家庭用」という大前提のため、特に昔のオフ・マイク録音のソースの側を考えれば当然かも知れないが、今日のオン・マイク録音のソース側を考えれば、175の音をソフトに仕立て上げる必要性はないといってよかろう。そこで試しに使ったHL91からひとつのステップを企てた、つまり175をHL91プラスLE85と変えよう。 LE85は、かつて175DLHの強力型として存在した275のマイナー・チェンジ型で、275が指定カットオフ周波数が800Hzであったのに対してLE85は500Hzと使いやすくなっている。 175は1200HzだからLX5と組合せるのは間違いといわれるかも知れないが、家庭用としてあまり大音量でなければ、ユニット自体の許容範囲が500Hzなので使用は差支えない。 175DLHにくらべLE85プラスHL91は、それこそ高域の力強さ、輝き、繊密さという点で価格差以上の開きがあり、少なくとも楽器の音を間近に再生することを目的とするならLE85でなければならないと断言した。 C40の豊麗な低域はLE85で見事にバランスが実感されるという感じであった。 昭和43年にジャズ・オーディオと名付けたジャズ喫茶を始めたが、このメイン・システムとして、C40をそのままそっくり自作したバックロード・ホーンに入れたD130とLE85プラスHL91で鳴らした。プリはSG520、パワー・アンプはティアックのAS−200のパワー部を流用した。SE400よりハイパワーで、低域にこの60W/60Wのティアックの方が力強かったからだった。
東京のジャズ喫茶は当時、まだ音がひどく、私の考えるまともなサウンドでジャズを聴かせてやろうと気おって始めたファンと自分自身のための溜り場だった。 LE85は二年をたたずしてまた手を加えることになる。別に不満があったわけでもないが、常に未知なる音を追いかけたくなるのがオーディオファンなのだ。 HL91ホーンを375用のスラント・プレート型拡散器のホーン537−509に替えようというわけだ。LE85のスロートは1インチだから、375用2インチヘのアダプターをなんとか作ると、それを介して375用のホーンをLE85で鳴らすわけだ。 これは思いがけず大成功であった。中音域から中低域にいたる音域がぐっと充実してはっきりと中域の厚みが加わった。 この改造は今は、2427という2インチ−1インチ・アダプターで容易に実現できる。 この場合もLE85は500Hzクロスオーヴァーの状態だが、音色的にはまるでクロスオーヴァーを下げて300Hzにしたくらいに差が出たし、明らかに良い方に音を向上でき得た自信がある。 この自信がそれ以後のホーンをいろいろと変えて音の向上へ結びつける方向を開いたものであった。 ただLE85のダイアフラムは二度破損した。チャンネル・アンプとして300Hzクロスオーヴァーで試した時期が一時あり、この時にオーヴァー・ドライブしたためだ。ジャズ喫茶ではいつもフル・ヴォリュームでがんがんと音を出していたのと、クロスオーヴァーが低くて、ユニットに音響負荷が加わらなかったための過大振幅でエッジに相当するタンジェンシャルがばらばらになったのだった。 LE85は何回かの破損を経て、プロ用が発表になった際LE85プロ用としての2420と交換した。2420はLE85よりハイエンドで明らかに高域を強調した音で、ジャズ・サウンド向きといえようか。 さらにそのプロ用の良さというか違いをもっと追いかけたくなって、375のプロ用2440をついに買い入れた。ついに! 375は2ウェイとしては無理だったが、2440はハイエンドで明らかにかなり強められて2ウェイでも充分聴けるという見込みのもとに2440への道を踏み切った。 2ウェイ構成ができるという点を見こして375のプロ版2440を用い出したこと。これを537−509によって鳴らしていたが、さらに飛躍的向上を目指して指向性のよい2350ホーンを考慮したのだが、たまたま見付けた木製ホーンの2397ホーンの寸法図を頼りに同じ構造のホーンを自作実験したことはすでに「ステレオ」誌(一九七三年十月)に記した。 しかし、自作ホーンということでなにか自信がなくて、2440との2ウェイ・システムそのものを正当評価できなかった。 むろん、いち早く2397を注文したが、入荷待ちのその折、2350を使ってみようかなと莫然と考えていることに気付いた。他人ごとみたいで変な話だが、2350は安くはないし大体あまりに大きすぎるのと、それ以上に気になるのはこの種の扇形(セクトラル)ホーンは仮想音源の位置がセクトラルのかなめに来るので、ウーファーを同一面(聴取位置に対し)に配置しようとすると、ウーファーの箱をアルテックA7みたいに箱の前面からかなり後退させる必要が生じる。 家庭用として、スピーカー・システムの位置が聴き手から遠くない場合こうした高音用の振動板位置をどうしても等距離におかなければならないのだ。家庭用として「巨大」といえるほどの中高音ホーン2350は、ハークネスと組合せるにはあまりに不適当なのだ。しかし、その電気特性の示す優秀性は、私にとって魅力的でありすぎた。あとのことはなんとかなるだろうと、2350を購入してしまった。 2350はスロート・アダプター2328と組合せなければならないが、このアダプターのせいか2350と組合せた2440はハイエンドが激減してしまう。2350の広指向性を得るためにか、ユニット自体のマグネット回路を貫通した形のショート・ホーンをスタガーするためにか、2328アダプターは内側が球状となっている。ここで音響エネルギーが四方八方に乱反射するのが理由なのかも知れぬ、2350は2440の本来の高域の輝かしさをすっかり失ってしまった。 たしかに中低域での豊かさという魅力は惜しいのだが、2350はたから家庭用における2ウェイ用のホーンとしては不適当だ。 そこで、ふたたび537−509の音響レンズを外した形で、指向性の拡散をなんとか得られないかと試してみた。パラゴンの例を試験的にいろいろとやってみたが、反射のためのゆるい大きな球面さえあれば、中高音ホーンを左右に離して内側に向けて配置させる方法はいろいろとおもしろい資料(データ)を蓄積できる。 ただ、あまりに多角的なファクターが多すぎて、どの程度離すべきか、どの程度の球面に反射させるべきか定かではなく、自信を持てる鳴らし方はおそらく数ケ月いや半年ぐらいの試聴を経なければ結論が出まい。 しかし、パラゴンを参考にぜひ永く試みたい方法で、興味を惹く。 ところで、そんなことをくり返している時やっと待ちに待った2397が手元にきた。本物を見て、これを模して自作したホーンがいかに不完全であるかを思い知った。2397は内側を五分割しているついたてが飛行機の翼の断面のように流線形でエキスポーネンシャル・ホーンを形成していたのである。予想していたアルテック511Bホーンのような単なるついたてではなくて、精密なるマルチセルラ・ホーンとなった完壁なJBL製品だった。 511Bよりひとまわり大きくペッタンコなホーン2397と組合せた2440は繊細な、鮮明な高音ユニットとなった。今までのいかなるホーンよりも2440はハークネスとのいかにもバランスもよく、木製ホーンらしく鮮かさの中に品の良いやわらかさをたたえているのである。 LX5相当といわれる3115ネットワークとの組合せで鳴るこのユニットは、少々品が良すぎるくらいだが、それはプロ用ネットワーク特有の、高音用のレヴェルをかなりおさえられているせいかもしれない。 2397は当然のことながら、ハークネスとの組合せに際してはセクトラルの部分を前方につき出すような形で配置するが、2440の重量が木製ホーンにはるかに優るので設置しやすく、いかにも機能的で、見た眼も非常にシャープで音もすがたも2350の比ではない。 なんといっても嬉しいのは2397ホーンになって、スクラッチがきわだって目立たなくなった点だ。スクラッチだけではない。一番好きなレコードであるビリー・ホリディの「レディ・ディ」が本来持っているSPのシャーシャー・ノイズまでも、低くおさえられて聴ける点だ。ビリーの若々しい生(うぶ)でひたむきな声が、いっそう可憐さを増したことには何にもましてたまらなく嬉しい。今までいかなるテクニックでも達せられなかったレディが若返ったのである。 とはいっても2397、こんなに気に入っているのだが、これが決して最終的な形とはなるまい。マランツ16、ケンソニックP−300、ダィナコ400と大出力アンプを鳴らすたびに、その低音の迫力と、加えて高音の良さも微妙に変わるし、最近加えられたテクニクスのSU−6600によって、また、高域の微密さを加えた。そうなればなるで高音ユニットに2405を加える以前に何かを替えることになるだろう。何かはまだ私にも判らない。それが何か定かになるまでがまた限りない楽しみだ (一九七四年) http://www.audiosharing.com/people/iwasaki/houkou/hou_23_1.htm 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その1) ブランド名としてのJBLときいて、思い浮べるモノは人によって異る。 現在のフラッグシップのDD66000をあげる人もいるだろうし、 1970年代のスタジオモニター、そのなかでも4343をあげる人、 オリンパス、ハークネス、パラゴン、ハーツフィールドといった、 コンシューマー用スピーカーシステムを代表するこれらをあげる人、 最初に手にしたJBLのスピーカー、ブックシェルフ型の4311だったり、20cm口径のLE8Tだったり、 ほかにもランサー101、075、375、537-500など、いくつもあるはず。 けれどJBLといっても、ブランドのJBLではなく、James Bullough Lansing ということになると、多くの人が共通してあげるモノは、やはりD130ではないだろうか。
私だって、そうだ。James Bullough Lansing = D130 のイメージがある。 D130を自分で鳴らしたことはない。実のところ欲しい、と思ったこともなかった。 そんな私でも、James Bullough Lansing = D130 なのである。 D130は、James Bullough Lansing がJBLを興したときの最初のユニットではない。 最初に彼がつくったのは、 アルテックの515のセンターキャップをアルミドームにした、といえるD101フルレンジユニットである。 このユニットに対してのアルテックからのクレームにより、James Bullough Lansing はD101と、細部に至るまで正反対ともいえるD130をつくりあげる。 そしてここからJBLの歴史がはじまっていく。 D130はJBLの原点ではあっても、いまこのユニットを鳴らすとなると、意外に使いにくい面もある。 まず15インチ口径という大きさがある。 D130は高能率ユニットとしてつくられている。JBLはその高感度ぶりを、0.00008Wで動作する、とうたっていた。 カタログに発表されている値は、103dB/W/mとなっている。 これだけ高能率だと、マルチウェイにしようとすれば、中高域には必然的にホーン型ユニットを持ってくるしかない。 もっともLCネットワークでなく、マルチアンプドライヴであれば、低能率のトゥイーターも使えるが……。 当然、このようなユニットは口径は大きくても低域を広くカヴァーすることはできない。 さらに振動板中央のアルミドームの存在も、いまとなっては、ときとしてやっかいな存在となることもある。 これ以上、細かいことをあれこれ書きはしないが、D130をベースにしてマルチウェイにしていくというのは、 思っている以上に大変なこととなるはずだ。 D130の音を活かしながら、ということになれば、D130のウーファー販である130Aを使った方がうまくいくだろう。 http://audiosharing.com/blog/?p=5424 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その2) タイムマシーンが世の中に存在するのであれば、オーディオに関することで幾つか、その時代に遡って確かめたいことがいくつもある。 そのひとつが、JBLのD101とD130の音を聴いてみることである。 D101はすでに書いてように、アルテックの同口径のウーファーをフルレンジにつくり直したように見える。 古ぼけた写真でみるかぎり、センターのアルミドーム以外にはっきりとした違いは見つけられない。 だから、アルテックからのクレームがきたのではないだろうか。 このへんのことはいまとなっては正確なことは誰も知りようがないことだろうが、 ただランシングに対する、いわば嫌がらせだけでクレームをつけてきたようには思えない。 ここまで自社のウーファーとそっくりな──それがフルレンジ型とはいえ──ユニットをつくられ売られたら、まして自社で、そのユニットの開発に携わった者がやっているとなると、なおさらの、アルテック側の感情、それに行動として当然のことといえよう。 しかもランシングは、ICONIC(アイコニック)というアルテックの商標も使っている。 だからランシングは、D130では、D101と実に正反対をやってユニットをつくりあげた。 まずコーンの頂角が異る。アルテック515の頂角は深い。D101も写真で見ると同じように深い。 それにストレート・コーンである。 D130の頂角は、この時代のユニットのしては驚くほど浅い。 コーンの性質上、まったく同じ紙を使用していたら、頂角を深くした方が剛性的には有利だ。 D130ほど頂角が浅くなってしまうと、コーン紙そのものを新たにつくらなければならない。 それにD130のコーン紙はわずかにカーヴしている。 このことと関係しているのか、ボイスコイル径も3インチから4インチにアップしている。 フレームも変更されている。 アルテック515とD101では、フレームの脚と呼ぶ、コーン紙に沿って延びる部分が4本に対し、 D130では8本に増え、この部分に補強のためにいれている凸型のリブも、 アルテック515、JBLのD101ではコーンの反対側、つまりユニットの裏側から目で確かめられるのに対し、 D130ではコーン側、つまり裏側を覗き込まないと視覚的には確認できない。 これは写真では確認できないことだし、なぜかD101をとりあげている雑誌でも触れられていないので、 断言はできないけれど、おそらくD101は正相ユニットではないだろうか。 JBLのユニットが逆相なのはよく知られていることだが、それはD101からではなくD130から始まったことではないのだろうか。 http://audiosharing.com/blog/?p=5431 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その3) D101とD130の違いは、写真をみるだけでもまだいくつかある。 もし実物を比較できたら、もっといくつもの違いに気がつくことだろう。 何も知らず、D101とD130を見せられたら、同じ会社がつくったスピーカーユニットとは思えないかもしれない。 D101が正相ユニットだとしたら、D130とはずいぶん異る音を表現していた、と推察できる。 アルテックとJBLは、アメリカ西海岸を代表する音といわれてきた。 けれど、この表現は正しいのだろうか、と思う。 たしかに東海岸のスピーカーメーカーの共通する音の傾向と、アルテックとJBLとでは、このふたつのブランドのあいだの違いは存在するものの、西海岸の音とひとくくりにしたくなるところはある。 けれど……、といいたい。 アルテックは、もともとウェスターン・エレクトリックの流れをくむ会社であることは知られている。アルテックの源流となったウェスターンエレクトリックは、ニューヨークに本社を置いていた。アルテックの本社も最初のうちはニューヨークだった。あえて述べることでもないけれど、ニューヨークは東海岸に位置する。 アルテックが西海岸のハリウッドに移転したのは、1943年のことだ。 1950年にカリフォルニア州ビヴァリーヒルズにまた移転、 アナハイムへの工場建設が1956年、移転が1957年となっている。 1974年にはオクラホマにエンクロージュア工場を建設している。 アルテックの歴史の大半は西海岸にあったとはいうものの、もともとは東海岸のメーカーである。 つまりわれわれがアメリカ西海岸の音と呼んでいる音は、アメリカ東海岸のトーキーから派生した音であり、アメリカ東海岸の音は、最初から家庭用として生れてきた音なのだ。 http://audiosharing.com/blog/?p=5433 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その4) 一方のJBL(そしてランシング)はどうだろうか。 ランシングは1902年1月14日にイリノイ州に生れている。 1925年、彼はユタ州ソルトレーク・シティに移っている。西へ向ったわけだ。 ここでコーン型スピーカーの実験・自作をおこない、この年の秋、ケネス・デッカーと出逢っている。 1927年、さらに西、ロサンジェルスにデッカーとともに移り、サンタバーバラに仕事場を借り、3月9日、Lansing Manufacturing Company はカリフォルニア州法人として登録される。 この直前に彼は、ジェームズ・マーティニから、ジェームズ・バロー・ランシングへと法的にも改名している。 このあとのことについて詳しくしりたい方は、2006年秋にステレオサウンドから発行された「JBL 60th Anniversary」を参照していただきたい。 この本の価値は、ドナルド・マクリッチーとスティーヴ・シェル、ふたりによる「JBLの歴史と遺産」、それに年表にこそある、といってもいい。 それに較べると、前半のアーノルド・ウォルフ氏へのインタヴュー記事は、読みごたえということで(とくに期待していただけに)がっかりした。 同じ本の中でカラーページを使った前半と、そうではない後半でこれほど密度の違っているのもめずらしい、といえよう。 1939年,飛行機事故で共同経営者のデッカーを失ったこともあって、1941年、ランシング・マニファクチェアリングは、アルテック・サーヴィスに買収され、Altec Lansing(アルテック・ランシング)社が誕生することとなる。 ランシングは技術担当副社長に就任。 そして契約の5年間をおえたランシングは、1946年にアルテック・ランシング社からはなれ、ふたたびロサンジェルスにもどり、サウススプリングに会社を設立する。 これが、JBLの始まり、となるわけだ。 (ひとつ前に書いているように、1943年にはアルテックもハリウッドに移転している。) とにかく、ランシングは、つねに西に向っていることがわかる。 http://audiosharing.com/blog/?p=5447 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その5) D101は資料によると”General Purpose”と謳われている。 PAとして使うことも考慮されているフルレンジユニットであった。 よくランシングがアルテックを離れたのは劇場用の武骨なスピーカーではなく、家庭用の優秀な、そして家庭用としてふさわしい仕上げのスピーカーシステムをつくりたかったため、と以前は言われていた。 その後、わかってきたのは最初からアルテックとの契約は5年間だったこと。 だから契約期間が終了しての独立であったわけだ。 アルテックのとの契約の詳細までは知らないから、ランシングがアルテックに残りたければ残れたのか、それとも残れなかったのかははっきりとしない。 ただアルテックから離れて最初につくったユニットがD101であり、ランシングがアルテック在籍時に手がけた515のフルレンジ的性格をもち、 写真でみるかぎり515とそっくりであったこと、そしてGeneral Purposeだったことから判断すると、 必ずしも家庭用の美しいスピーカーをつくりたかった、ということには疑問がある。 D101ではなく最初のスピーカーユニットがD130であったなら、その逸話にも素直に頷ける。けれどD101がD130の前に存在している。 ランシングは自分が納得できるスピーカーを、自分の手で、自分の名をブランドにした会社でつくりたかったのではないのか。 だからこそ、D101とD130を聴いてみたい、と思うし、もしD101に対してのアルテック側からのクレームがなく、そのままD101をつくり続け、このユニットをベースにしてユニット開発を進めていっていたら、おそらくD130は誕生しなかった、ともいえよう。 http://audiosharing.com/blog/?p=5500 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その6) JBLのD130というフルレンジユニットとは、いったいどういうスピーカーユニットなのか。 JBLにD130という15インチ口径のフルレンジユニットがあるということは早い時期から知っていた。 それだけ有名なユニットであったし、JBLの代名詞的なユニットでもあったわけだが、じつのところ、さしたる興味はなかった。 当時は、まだオーディオに関心をもち始めたばかり若造ということもあって、D130はジャズ専用のユニットだから、私には関係ないや、と思っていた。 1979年にステレオサウンド別冊としてHIGH-TECHNIC SERIES 4が出た。 フルレンジユニットだけ一冊だった。 ここに当然のことながらD130は登場する。 試聴は岡俊雄、菅野沖彦、瀬川冬樹の三氏によって、1辺2.1mの米松合板による平面バッフルにとりつけられて行われている。 フルレンジの比較試聴としては、日本で行われたものとしてここまで規模の大きいものはないと思う。おそらく世界でも例がないのではなかろうか。 この試聴で使われた平面バッフルとフルレンジの音は、当時西新宿にあったサンスイのショールームでも披露されているので実際に聴かれた方もおいでだろう。 このときほと東京に住んでいる人をうらやましく思ったことはない。 HIGH-TECHNIC SERIESでのD130の評価はどうだったのか。
岡先生、菅野先生とも、エネルギー感のものすごさについて語られている。 瀬川先生は、そのエネルギー感の凄さを、もっと具体的に語られている。 引用してみよう。 * ジャズになって、とにかくパワーの出るスピーカーという定評があったものですから、どんどん音量を上げていったのです。すると、目の前のコーヒーカップのスプーンがカチャカチャ音を立て始め、それでもまだ上げていったらあるフレーズで一瞬われわれの鼓膜が何か異様な音を立てたんです。それで怖くなって音量を絞ったんですけど、こんな体験はこのスピーカー以外にはあまりしたことがありませんね。菅野さんもいわれたように、ネルギー感が出るという点では希有なスピーカーだろうと思います。 * このときのD130と同じ音圧を出せるスピーカーは他にもある。 でもこのときのD130に匹敵するエネルギー感を出せるスピーカーはあるのだろうか。 http://audiosharing.com/blog/?p=5502 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その7) 凄まじいユニット、というのが、私のD130に対する第一印象だった。 HIGH-TECHNIC SERIES 4には37機種のフルレンジが登場している。 10cm口径から38cm口径まで、ダブルコーンもあれば同軸型も含まれている。 これらの中には、出力音圧レベル的にはD130に匹敵するユニットがある。 アルテックの604-8Gである。 カタログ発表値はD130が103dB/W/m、604-8Gが102dB/W/m。 HIGH-TECHNIC SERIES 4には実測データがグラフで載っていて、これを比較すると、D130と604-8Gのどちらが能率が高いとはいえない。 さらに残響室内における能率(これも実測値)があって、D130が104dB/W/m、604-8Gが105dB/W/mと、こちらは604のほうがほんのわずか高くなっている。 だから、どちらが能率が高いとは決められない。 どちらも高い変換効率をもっている、ということが言えるだけだ。 だが、アルテック604-8Gの試聴のところには、D130を印象づけた「エネルギー感」という表現は、三氏の言葉の中には出てこない。 もちろん記事は編集部によってまとめられたものだから、 実際に発言されていても活字にはなっていない可能性はある。 だが三氏の発言を読むかぎり、おそらく「エネルギー感」が出ていたとしても、D130のそれとは違うニュアンスで語られたように思える。 ここでも瀬川先生の発言を引用しよう。 * ジャズの場合には、この朗々とした鳴り方が気持よくパワーを上げてもやかましくならず、どこまでも音量が自然な感じで伸びてきて、楽器の音像のイメージを少しも変えない。そういう点ではやはり物すごいスピーカーだということを再認識しました。 * おそらく604-Gのときにも、D130と同じくらいの音量は出されていた、と思う。 なのにここではコーヒーカップのスプーンは音を立てていない。 http://audiosharing.com/blog/?p=5504 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その8) D101では、コーヒーカップのスプーンは、音を立てただろうか。 おそらく立てない、と思う。 アルテックの604シリーズの原形はランシングの設計だし、604のウーファーは、やはりランシング設計の515相当ともいわれている。 その604ではスプーンが音を立てなかったということは、同じく515をベースにフルレンジ化したD101も、スプーンは音を立てない、とみている。 以前、山中先生が、ウェスターン・エレクトリックの594を中心としたシステムのウーファーに使われていたアルテックの515を探したことがあった。 山中先生からHiVi編集長のOさんのところへこ話が来て、そらに私のところにOさんから指示があったわけだ。 いまでこそ初期の515といってもわりとすぐに話が通じるようになっているが、当時はこの時代のスピーカーユニットを取り扱っている販売店に問い合わせても、まず515と515Bの違いについて説明しなければならなかった。 それこそステレオサウンドに広告をだしている販売店に片っ端から電話をかけた。 そしてようやく515と515Bの違いについて説明しなくても、515がどういうユニットなのかわかっている販売店にたどりつけた。 すぐ入荷できる、ということでさっそく編集部あてに送ってもらった。 届いた515は、私にとってはじめてみる515でもあったわけで、箱から取り出したその515は、数十年前に製造されたものと思えないほど状態のいいモノだった。 それでHiViのOさんとふたりで、とにかくどんな音が出るんだろうということで、トランジスターアンプのイヤフォン端子に515をつないだ。 このとき515から鳴ってきた音は、実に澄んでいた。 大型ウーファーからでる音ではなく、大型フルレンジから素直に音が細やかに出てくる感じで、正直、515って、こんなにいいユニット(ウーファーではなくて)と思ったほどだった。 もしD130で同じことをしたら、音が出た瞬間に、たとえ小音量ではあってもそのエネルギー感に驚くのかもしれない。 http://audiosharing.com/blog/?p=5510 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その9)
D130は、凄まじいユニットだと、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだときに、そう思った。
そしてHIGH-TECHNIC SERIES 4のあとに、私は「オーディオ彷徨」を読んだ。 「オーディオ彷徨」1977年暮に第一版が出ているが、私が手にして読んだのは翌年春以降に出た第二版だった。 「オーディオ彷徨」を読み進んでいくうちに、D130の印象はますます強くはっきりとしたものになってきた。 岩崎先生の文章を読みながら、こういうユニットだからこそ、コーヒーカップのスプーンが音が立てるのか、とすっかり納得していた。 D130よりも出来のいい、優秀なスピーカーユニットはいくつもある。 けれど「凄まじい」と呼べるスピーカーユニットはD130以外にあるだろうか。 おそらくユニット単体としてだけみたとき、D130とD101では、後者のほうが優秀だろうと思う。 けれど、音を聴いていないから、515や604-8Gを聴いた印象からの想像でしかないが、D101には、D130の凄まじさは微塵もなかったのではないだろうか。 どうしてもそんな気がしてしまう。 D130の生み出すにあたって、ランシングはありとあらゆることをアルテック時代にやってきたことと正反対のことをやったうえで、それは、しかし理論的に正しいことというよりも、ランシングの意地の結晶といえるはずだ。 素直な音の印象の515(それにD101)と正反対のことをやっている。 515は、アルテック時代にランシングがいい音を求めて、優秀なユニットをつくりるためにやってきたことの正反対のことをあえてやるということ──、 このことがもつ意味、そして結果を考えれば、D130は贔屓目に見ても、優秀なスピーカーユニットとは呼びにくい、どころか呼べない。 だからD130は人を選ぶし、その凄まじさゆえ強烈に人を惹きつける。 1 Comment 坂野博行 8月 13th, 2011REPLY)) 私は高校生の頃604-8Gの魅力を知り、これこそが自分にとってのベストSPではないか!と思いながらも、大学時代、偶然目の前に来た中古のD130に手を出してしまいました。 D130は、乗りこなせたら素晴らしだろうな、と感じさせることにかけては1番のユニットでしょう。しかしこのことは、もうこれで、と思えるほど御せた状態に並大抵では、ほぼ到達できないことの裏返しとも言えそうです。 当時はともかく、現在では欠陥品と呼ぶ人がいてもおかしくありません。 自分でも使い続けていることが不思議なくらいですが、『次に聴く時はもしかしたら・・』と期待させる強さを持っていることは確かです。そう、モノが持つ意志の強さ、みたいなものです。 http://audiosharing.com/blog/?p=5513 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その10) 私は、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだあと、そう経たないうちに「オーディオ彷徨」を読んだことで、D130を誤解することなく受けとることができた。 もちろん、このときD130の音は聴いたことがなかったし、実物を見たこともなかった。 HIGH-TECHNIC SERIES 4の記事をだけを読んで(素直に読めばD130の凄さは伝わってくるけれども)、一緒に掲載されている実測データを見て、D130の設計の古さを指摘して、コーヒーカップのスプーンが音を立てたのは、歪の多さからだろう、と安易な判断を下す人がいておかしくない。 昨日書いたこの項の(その9)に坂野さんがコメントをくださった。 そこに「現在では欠陥品と呼ぶ人がいておかしくありません」とある。 たしかにそうだと思う。現在に限らず、HIGH-TECHNIC SERIES 4が出たころでも、そう思う人がいてもおかしくない。 D130は優秀なスピーカーユニットではない、欠点も多々あるけれども、欠陥スピーカーでは、断じてない。 むしろ私はいま現行製品のスピーカーシステムの中にこそ、欠陥スピーカーが隠れている、と感じている。このことについて別項でふれているので、ここではこれ以上くわしくは書かないが、第2次、第3次高調波歪率の多さにしても、その測定条件をわかっていれば、必ずしも多いわけではないことは理解できるはずだ。 HIGH-TECHNIC SERIES 4での歪率はどのスピーカーユニットに対しても入力1Wを加えて測定している。 つまり測定対象スピーカーの音圧をすべて揃えて測定しているわけではない。 同じJBLのLE8Tも掲載されている。 LE8Tの歪率はパッと見ると、圧倒的にD130よりも優秀で低い。 けれどD130の出力音圧レベルは103dB/W/m、LE8Tは89dB/W/mしかない。14dBもの差がある。 いうまでもなくLE8TでD130の1W入力時と同じ音圧まであげれば、それだけ歪率は増える。 それがどの程度増えるかは設計にもよるため一概にいえないけれど、単純にふたつのグラフを見較べて、こっちのほうが歪率が低い、あっちは多すぎる、といえるものではないということだ。 D130と同じ音圧の高さを誇る604-8Gの歪率も、だからグラフ上では多くなっている。 http://audiosharing.com/blog/?p=5537 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その11) 空気をビリビリと振るわせる。ときには空気そのものをビリつかせる。
「オーディオ彷徨」とHIGH-TECHNIC SERIES 4を読んだ後、私の裡にできあがったD130像が、そうだ。 なぜD130には、そんなことが可能だったのか。 空気をビリつかせ、コーヒーカップのスプーンが音を立てるのか。 正確なところはよくわからない。 ただ感覚的にいえば、D130から出てくる、というよりも打ち出される、といったほうがより的確な、そういう音の出方、つまり一瞬一瞬に放出されるエネルギーの鋭さが、そうさせるのかもしれない。 D130の周波数特性は広くない。むしろ狭いユニットといえる。 D130よりも広帯域のフルレンジユニットは、他にある。 エネルギー量を周波数軸、時間軸それぞれに見た場合、D130同等、もしくはそれ以上もユニットもある。 だが、ただ一音、ただ一瞬の音、それに附随するエネルギーに対して、D130がもっとも忠実なユニットなのかもしれない。だからこそ、なのだと思っている。 そしてD130がそういうユニットだったからこそ、岩崎先生は惚れ込まれた。 スイングジャーナル1970年2月号のサンスイの広告の中で、こう書かれている。 * アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。 * JBL・D130の本質を誰よりも深く捉え惚れ込んでいた岩崎先生だからこその表現だと思う。 こんな表現は、ジャズを他のスピーカーで聴いていたのでは出てこないのではなかろうか。 D130でジャズで聴かれていたからこその表現であり、この表現そのものが、D130そのものといえる。 http://audiosharing.com/blog/?p=5542 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その12) JBLのD130の息の長いスピーカーユニットだったから、初期のD130と後期のD130とでは、いくつかのこまかな変更が加えられ、音の変っていることは岩崎先生自身も語られている。 とはいえ、基本的な性格はおそらくずっと同じのはず。 ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4(1979年)で試聴対象となったD130は、いわば後期モデルと呼んでもいいだけの時間が、D130の登場から経っているものの、試聴記を読めば、D130はD130のままであることは伝わってくる。 同程度のコンディションの、製造時期が大きく異るD130を直接比較試聴したら、おそらくこれが同じD130なのかという違いは聴きとれるのかもしれない。 でも、D130を他のメーカーのスピーカーユニット、もしくはスピーカーシステムと比較試聴してしまえば、D130の個性は強烈なものであり、いかなるほかのスピーカーユニット、スピーカーシステムとは違うこと、そして同じJBLの他のコーン型ユニットと比較しても、D130はD130であることはいうまでもない。 そのD130は何度か書いているようにランシングがJBLを興したときの最初のスピーカーユニットではない。 D101という、アルテックのウーファー、515のフルレンジ版といえるのが最初であり、これに対するアルテックにクレームがあったからこそ、D130は生れている。 ということは、もしD101にアルテックのクレームがなかったら、D130は登場してこなかったはず。 となれば、その後のJBLの歴史は、いまとはかなり異っていた可能性が大きい。 かりにそうなっていたら、つまりD130がこの世に存在してなかったら、岩崎先生のオーディオ人生はどうなっていたのか、いったいD130のかわり、どのスピーカーユニット、スピーカーシステムを選択されていたのか、そしてスイングジャーナル1970年2月号のサンスイの広告で書かれた次の文章──、 この項の(その11)で引用した文章をもう一度引用しておく。 * アドリブを重視するジャズにおいては、一瞬一瞬の情報量という点で、ジャズほど情報量の多いものはない。一瞬の波形そのものが音楽性を意味し、その一瞬をくまなく再現することこそが、ジャズの再生の決め手となってくる。 * この文章(表現)は生れてきただろうか──、そんなことを考えてしまう。 おそらくD101では、D130のようにコーヒーカップのスプーンのように音は立てない、はずだからだ。 そう考えたとき、ランシングのD101へのアルテックのクレームがD130を生み、そのD130との出逢いが……、ここから先は書かなくてもいいはず。 http://audiosharing.com/blog/?p=6917 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その13)
D130は厳密にはJBLの出発点とは呼びにくい。 実質的にはD130が出発点ともいえるわけだが、事実としてはD101が先にあるのだから、D130はJBLの特異点なのかもしれない。 そのD130の実測データは、ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4に出ている。 無響室での周波数特性(0度、30度、60度の指向特性を併せて)と、残響室でのピンクノイズとアナライザーによるトータル・エネルギー・レスポンスがある。 このどちらの特性もお世辞にもワイドレンジとはいえない。 D130はアルミ製のセンターキャップの鳴りを利用しているため、無響室での周波数特性では0度では1kHz以上ではそれ以下の帯域よりも数dB高い音圧となっている。 といってもそれほど高い周波数まで伸びているわけではなく、3kHzでディップがあり、その直後にピークがあり、5kHz以上では急激にレスポンスが低下していく。 これは共振を利用して高域のレスポンスを伸ばしていることを表している。 周波数特性的には0度の特性よりも30度の特性のほうが、まだフラットと呼べるし、グラフの形も素直だ。 低域の特性も、38cm口径だがそれほど低いところまで伸びているわけではない。 100dBという高い音圧を実現しているのは200Hzあたりまでで、そこから下はゆるやかに減衰していく。 100Hzでは200Hzにくらべて約-4dB落ち、50Hzでの音圧は91dB程度になっている。 トータル・エネルギー・レスポンスでも5kHz以上では急激にレスポンスが低下し、フラットな帯域はごくわずかなことがわかる。 周波数特性的にはD130よりもずっと優秀なフルレンジユニットが、HIGH-TECHNIC SERIES 4には載っている。 HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するフルレンジユニットの中には、アルテックの604-8GやタンノイのHPDシリーズのように、 同軸型2ウェイ(ウーファーとトゥイーターの2ボイスコイル)のものも含まれている。 それらを除くと、ボイスコイルがひとつだけのフルレンジユニットとしてはD130は非常に高価もモノである。 HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場するボイスコイルひとつのユニットで最も高価なのは、平面振動板の朋、SKW200の72000円であり、D130はそれに次ぐ45000円。このときLE8Tは30000円だった。 http://audiosharing.com/blog/?p=6920 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その14) スピーカーユニット、それもコーン型ユニットの測定はスピーカーユニットだけでは行なえない。 なんらかの平面バッフルもしくはエンクロージュアにとりつけての測定となる。
IECでは平面バッフルを推奨していた(1970年代のことで現在については調べていない)。 縦1650mm、横1350mmでそれぞれの中心線の交点から横に150mm、上に225mm移動したところを中心として、スピーカーユニットを取りつけるように指定されている。 日本ではJIS箱と呼ばれている密閉型エンクロージュアが用いられる。 このJIS箱は厚さ20mmのベニア板を用い、縦1240mm、横940mm、奥行540mm、内容積600リットルのかなり大型のものである。 ステレオサウンド別冊HIGH-TRCHNIC SERIES 4で、後者のJIS箱にて測定されている。 IEC標準バッフルにしても、JIS箱にしても、測定上理想とされている無限大バッフルと比較すると、バッフル効果の、低域の十分に低いところまで作用しない点、 エンクロージュアやバッフルが有限であるために、ディフラクション(回折)による影響で、周波数(振幅)特性にわずかとはいえ乱れ(うねり)が生じる。 無限大バッフルに取りつけた状態の理想的な特性、つまりフラットな特性と比べると、JIS箱では200Hzあたりにゆるやかな山ができ、500Hzあたりにこんどはゆるやかで小さな谷がてきる。 この山と谷は、範囲が小さくなり振幅も小さくなり、周期も短くなっていく。 IEC標準バッフルでは100Hzあたりにゆるやかな山ができ、400Hzあたりにごくちいさな谷と、JIS箱にくらべると周期がやや長いのは、バッフルの面積が大きいためであろう。 どんなに大きくても有限のバッフルなりエンクロージュアにとりつけるかぎりは、 特性にもバッフル、エンクロージュアの影響が多少とはいえ出てくることになる。 ゆえに実測データの読み方として、複数の実測データに共通して出てくる傾向は、 いま述べたことに関係している可能性が高い、ということになる。 http://audiosharing.com/blog/?p=6928 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その15) HIGH-TECHNIC SERIES 4に登場しているJBLのユニットは、 LE8T(30000円)、D123-3(32000円)、2115A(36000円)、D130(45000円)、2145(65000円)の5機種で、 2145は30cmコーン型ウーファーと5cmコーン型トゥイーターの組合せによる同軸型ユニットで、いわゆる純粋なシングルボイスコイルのフルレンジユニットはLE8T、D123-3、2115A、D130であり、これらすべてセンターキャップにアルミドームを採用している(価格はいずれも1979年当時のもの)。 LE8Tは20cm口径の白いコーン紙、 D123-3は30cm口径でコルゲーション入りのコーン紙、 2115Aは20cm口径で黒いコーン紙、D130は38cm口径。 2115AはLE8Tのプロフェッショナル・ヴァージョンと呼べるもので、コーン紙の色こそ異るものの、磁気回路、フレームの形状、それにカタログ上のスペックのいくつかなど、 共通点がいくつもある中で、能率はLE8Tが89dB/W/mなのに対し2115Aは92dB/W/mと、3dB高くなっている。 この3dBの違いの理由はコーン紙の色、つまりLE8Tのコーン氏に塗布されているダンピング材によるものといって間違いない。 LE8Tはこのことかが表しているように、全体に適度にダンピングを効かしている。 このことはHIGH-TECHNIC SERIES 4に掲載されている周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率からも伺える。 周波数・指向特性もLE8Tのほうがあきらかにうねりが少ないし、 高調波歪率もLE8Tはかなり優秀なユニットといえる。 高調波歪率のグラフをみていると、基本的な設計が同じスピーカーユニットとは思えないほど、LE8Tと2115Aは、その分布が大きく異っている。 2115AにもD130と同じように5kHzあたりにアルミドームの共振によるピークががある。 D123-3にもやはり、そのピークは見られる。 さらにこのピークとともに、第2次高調波歪が急激に増しているところも、D130と共通している。 ところがLE8Tこの高調波歪も見事に抑えられている。 LE8Tのこういう特徴は、試聴記にもはっきりと出ている。 http://audiosharing.com/blog/?p=6939 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その16) ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4で、菅野先生は2115Aについて、こう語られている。 * オーケストラのトゥッティの分解能とか弦のしなやかさという点では、LE8Tに一歩譲らざるを得ないという感じです。ところがジャズを聴きますと、LE8Tのところでいった不満は解消されて、むしろコクのある脂の乗った、たくましいテナーサックスの響きが出てきます。ベースも少し重いけれど積極的によくうなる。そういう点で、この2115はLE8Tの美しさというものを少し殺しても、音のバイタリティに富んだ音を指向しているような感じです。 * 瀬川先生は、こんなふうに、2115AとLE8Tの違いについて語られている。 * 2115の方がいろいろな意味でダンピングがかかっていないので、それだけ能率も高くなり、いま菅野さんがいわれたような音の違いが出てきているんだと思うんです確かに。2115は緻密さは後退していますが、そのかわり無理に抑え込まない明るさ、あるいはきわどさすれすれのような音がしますね。どちらが好きかといわれれば、ぼくはやはりLE8Tの方が好ましいと思います。 (中略)そもそもJBLのLEシリーズというのは、能率はある程度抑えても特性をフラットにコントロールしようという発想から出てきたわけですから、よくいえば理知的ですがやや冷たい音なんです。ですからあまりエキサイトしないんですね。 * LE8Tは優秀なフルレンジユニットだということは実測データからも読みとれるし、試聴記からも伝わってくる。 D130はマキシマム・エフィシェンシー・シリーズで、LE8Tはリニア・エフィシェンシー・シリーズを、それぞれ代表する存在である。 だからD130はとにかく変換効率の高さ、高感度ぶりを誇る。そのためその他の特性はやや犠牲にされている──、 おそらくこんな印象でD130はずっとみてこられたにちがいない。 たしかにそれを裏付けるかのようなHIGH-TECHNIC SERIES 4での実測データではあるが、私が注目してほしいと思い、これから書こうとしているのは、周波数・指向特性、高調波歪率ではなくトータル・エネルギー・レスポンスである。 http://audiosharing.com/blog/?p=6941 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その17) ステレオサウンドは44号で、サインウェーヴではなくピンクノイズを使い、無響室ではなく残響室での周波数特性を測定している。
44号での測定に関する長島先生の「測定の方法とその見方・読み方」によると、 36号、37号でもピンクノイズとスペクトラムアナライザーによる測定を行なっている、とある。 ただし36号、37号では無響室での測定である。 それを44号から残響室に変えている。 その理由について、長島先生が触れられている * (残響室内での能率、リアル・エフィシェンシーについて)今回はなぜ残響室で測ったのか、そのことを少し説明しておきましょう。スピーカーシステムの音はユニットからだけ出ていると思われがちですが、実はそれだけではないのです。ユニットが振動すれば当然エンクロージュアも振動して、エンクロージュア全体から音が出ているわけです。そして実際にリスナーが聴いているスピーカーシステムの音は、スピーカーからダイレクトに放射された音、エンクロージュアから放射された音、場合によっては部屋の壁などが振動して、その壁から反射された音を聴いているわけです。 ところが一般的に能率というと、スピーカー正面、つまりフロントバッフルから放射される音しか測っていないわけです。これは無響室の性質からいっても当然のことなのですが、能率というからには、本来はスピーカーがだしているトータルエナジー──全体のエネルギーを測定した方が実情に近いだろうという考え方から、今回は残響室内で能率を測定して、リアル・エフィシェンシーとして表示しました。 (残響室内での周波数特性、トータル・エネルギー・レスポンスについて)今回のように残響室内で周波数特性を測定したのは本誌では初めての試みです。従来の無響室内でのサインウェーブを音源にした周波数特性よりも、実際にスピーカーをリスニングルーム内で聴いたのに近い特性が得られるため、スピーカー本来の性格を知る上で非常に参考になると思います。 (中略)この項目も先ほどの能率と同様に残響室を使っているため、スピーカーシステムの持っているトータルエナジーがどのようなレスポンスになっているかが読み取れます。 * ステレオサウンドでの測定に使われた残響室は日本ビクター音響研究所のもので、 当時国内最大規模の残響室で、内容積280㎥、表面積198u、残響時間・約10秒というもので、壁同士はだけでなく床と天井も平行面とならない形状をもっている。 ただ、これだけの広さをもっていても、波長の長い200hz以下の周波数では部屋の影響が出はじめ、 測定精度が低下してしまうため、掲載されているデータ(スペクトラムアナライザーの画面を撮った写真)は、200Hz以下にはアミがかけられている。 http://audiosharing.com/blog/?p=6943 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その18)
ステレオサウンド 44号は、41号から読みはじめた私にはやっと1年が経った号。 いまと違い、3ヵ月かけてじっくりステレオサウンドをすみずみ(それこそ広告を含めて)読んでいた。
実測データも、もっと大きな写真にしてくれれば細部までよく見えるのに……、 と思いながらも、じーっと眺めていた。 同じスピーカーシステムの周波数特性なのに、サインウェーヴで無響室での特性と、ピンクノイズで残響室でスペクトラムアナライザーで測定した特性では、 こんな違うのか、と思うものがいくつかあった。 どちらも特性も似ているスピーカーシステムもあるが、それでも細部を比較すると違う傾向が見えてくる。 とはいうものも、このころはまだオーディオの知識もデータの読み方も未熟で、データの違いは見ることで気がつくものの、それが意味するところを、どれほど読み取れていたのか……。 それでも、このトータル・エネルギー・レスポンスは面白い測定だ、とは感じていた。 このトータル・エネルギー・レスポンスについては、 瀬川先生もステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES-3(トゥイーター特集号)で触れられている。 * (トゥイーターの指向周波数特性についてふれながら)残響室を使ってトゥイーターのトータルの周波数対音響出力(パワーエナージィ・レスポンス)が測定できれば、トゥイーターの性格をいっそう細かく読みとることもできる。だが今回はいろいろな事情で、パワーエナージィは測定することができなかったのは少々残念だった。 ただし、指向周波数特性の30度のカーブは、パワーエナージィ・レスポンスに近似することが多いといわれる。 * サインウェーヴ・無響室での周波数特性よりも、私がトータル・エネルギー・レスポンスのほうをさらに重視するきっかけとなった実測データが、ステレオサウンド 52号、53号で行われたアンプの測定データのなかにある。 http://audiosharing.com/blog/?p=6948 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その19)
ステレオサウンド 52号、53号でのアンプの測定で注目すべきは、負荷条件を変えて行っている点である。
測定項目は混変調歪率、高調波歪率(20kHzの定格出力時)、それに周波数特性と項目としては少ないが、パワーアンプの負荷として、通常の測定で用いられるダミー抵抗の他に、ダミースピーカーとJBLの4343を用いている。 歪が、純抵抗を負荷としたときとダミースピーカーを負荷にしたときで、どう変化するのかしないのか。 大半のパワーアンプはダミースピーカー接続時よりも純抵抗接続時のほうが歪率は低い。 けれど中にはダミースピーカー接続時も変らないものもあるし、ダミースピーカー接続時のほうが低いアンプもある。 歪率のカーヴも純抵抗とダミースピーカーとで比較してみると興味深い。 このことについて書き始めると、本題から大きく外れてしまうのがわかっているからこのへんにしておくが、52号、53号に掲載されている測定データが、この項と関連することで興味深いのは、JBLの4343を負荷としたときの周波数特性である。 4343のインピーダンス特性はステレオサウンドのバックナンバーに何度か掲載されている。 f0で30Ω近くまで上昇した後200Hzあたりでゆるやかに盛り上り(とはいっても10Ωどまり)、その羽化ではややインピーダンスは低下して1kHzで最低値となり、こんどは一点上昇していく。 2kHzあたりで20Ωになり3kHzあたりまでこの値を保ち、また低くなっていくが、8kHzから上はほほ横ばい。 ようするにかなりうねったインピーダンス・カーヴである。 ステレオサウンド 52号、53号は1979年発売だから、このころのアンプの大半はトランジスター式でNFB量も多いほうといえる。 そのおかげでパワーアンプの出力インピーダンスはかなり低い値となっているものばかりといえよう。 つまりダンピングファクターは、NFB量の多い帯域ではかなり高い値となる。 ダンピングファクターをどう捉えるかについても、ここでは詳しくは述べない。 ここで書きたいのは、52号、53号に登場しているパワーアンプの中にダンピングファクターの低いものがあり、これらのアンプの周波数特性は、抵抗負荷時と4343負荷時では周波数特性が大きく変化する、ということである。 http://audiosharing.com/blog/?p=6958 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その20) ステレオサウンド 52号では53機種、53号では28機種のアンプがテストされている。 この81機種のうち3機種だけが、負荷を抵抗からJBLの4343にしたさいに周波数特性が、4343のインピータンス・カーヴをそのままなぞるようなカーヴになる。 具体的な機種名を挙げると、マッキントッシュのMCMC2205、オーディオリサーチのD79、マイケルソン&オースチンのTVA1である。 D79とTVA1は管球式パワーアンプ、MC2205はソリッドステート式だが、この3機種には出力トランス(オートフォーマーを含む)を搭載しているという共通点がある。 これら以外の出力トランスを搭載していないその他のパワーアンプでは、ごく僅か高域が上昇しているものがいくつか見受けられるし、逆に高域が減衰しているものもあるが、MC2205、D79、TVA1の4343負荷時のカーヴと比較すると変化なし、といいたくなる範囲でしかない。 MC2205もD79、TVA1も、出力インピーダンスが高いことは、この実測データからすぐにわかる。 ちなみにMC2205のダンピングファクターは8Ω負荷時で16、となっている。 他のアンプでは100とか200という数値が、ダンピングファクターの値としてカタログに表記されているから、トランジスター式とはいえ、MC2205の値は低い(出力インピーダンスが高い)。 MC2205の4343接続時の周波数特性のカーヴは、60Hzあたりに谷があり400Hzあたりにも小さな谷がある。 1kHzより上で上昇し+0.7dBあたりまでいき、10kHzあたりまでこの状態がつづき、少し下降して+0.4dB程度になる。 D79はもっともカーヴのうねりが多い機種で、ほぼ4343のインピーダンス・カーヴそのものといえる。 4343のf0あたりに-1.7dB程度の山がしり急激に0dBあたりまで下りうねりながら1kHzで急激に上昇する。 ほぼ+2dBほどあがり、MC2205と同じようにこの状態が続き、10kHzで少し落ち、また上昇する。 1kHzでは0dbを少し切るので、周波数特性の下限と上限の差は2dB強となる。 TVA1はD79と基本的に同じカーヴを描くが、レベル変動幅はD79の約半分程度である。 こんなふうに書いていくと、MC2205、D79、TVA1が聴かせる音は、周波数特性的にどこかおかしなところのある音と受けとられるかもしれないが、これらのアンプの試聴は、岡俊雄、上杉佳郎、菅野沖彦の三氏によるが、そんな指摘は出てこない。 http://audiosharing.com/blog/?p=6962 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その21) ステレオサウンド 52号、53号で行われた4343負荷時の周波数特性の測定は、いうまでもないことだが、4343を無響室にいれて、4343の音をマイクロフォンで拾って、という測定方法ではない。 4343の入力端子にかかる電圧を測定して、パワーアンプの周波数特性として表示している。 パワーアンプの出力インピーダンスは、考え方としてはパワーアンプの出力に直列にはいるものとなる。 そしてスピーカーが、これに並列に接続されるわけで、パワーアンプからみれば、自身の出力インピーダンスとスピーカーのインピーダンスの合せたものが負荷となり、その形は、抵抗を2本使った減衰器(分割器)そのものとなる。 パワーアンプの出力インピーダンスが1Ωを切って、0.1Ωとかもっと低い値であれば、この値が直列に入っていたとしても、スピーカーのインピーダンスが8Ωと十分に大きければ、スピーカーにかかる電圧はほぼ一定となる。つまり周波数特性はフラットということだ。 ところが出力インピーダンスが、仮に8Ωでスピーカーのインピーダンスと同じだったとする。 こうなるとスピーカーにかかる電圧は半分になってしまう。 スピーカーのインピーダンスは周波数によって変化する。 スピーカーのインピーダンスが8Ωよりも低くなると、スピーカーにかかる電圧はさらに低くなり、8Ωよりも高くなるとかかる電圧は高くなるわけだ。 しかもパワーアンプの出力インピーダンスも周波数によって変化する。 可聴帯域内ではフラットなものもあるし、 低域では低い値のソリッドステート式のパワーアンプでも、中高域では出力インピーダンスが上昇するものも多い。 おおまかな説明だが、こういう理由により出力インピーダンスが高いパワーアンプだと、スピーカーのインピーダンスの変化と相似形の周波数特性となりがちだ。 TVA1では1kHz以上の帯域が約1dBほど、D79では2dBほど高くなっている。 たとえばスクロスオーバー周波数が1kHzのあたりにある2ウェイのスピーカーシステムで、レベルコントロールでトゥイーターを1dBなり2dBあげたら、はっきりと音のバランスは変化することが聴きとれる。 だからステレオサウンド 52号、53号の測定結果をみて、不思議に思った。 そうなることは頭で理解していても、このことがどう音に影響するのか、そのことを不思議に思った。 この測定で使われている信号は、いうまでもなくサインウェーヴである。 http://audiosharing.com/blog/?p=6968 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その22) マッキントッシュのMC2205はステレオサウンド 52号に、オーディオリサーチD79とマイケルソン&オースチンのTVA1は53号に載っている。 つづく54号は、スピーカーシステムの特集号で、この号に掲載されている実測データは、周波数・志向特性、インピーダンス特性、トータル・エネルギー・レスポンス、 残響室における平均音量(86dB)と最大音量レベル(112dB)に必要な出力、 残響室での能率とリアル・インピーダンスである。 サインウェーヴによる周波数特性とピンクノイズによるトータル・エネルギー・レスポンスの比較をやっていくと、44号、45号よりも、差が大きいものが増えたように感じた。 44号、45号は1977年、54号は1980年、約2年半のあいだにスピーカーシステムの特性、つまり周波数特性は向上している、といえる。 ピークやディップが目立つものが、特に国産スピーカーにおいては減ってきている。 しかし、国産スピーカーに共通する傾向として、中高域の張り出しが指摘されることがある。 けれど周波数特性をみても、中高域の帯域がレベル的に高いということはない。 中高域の張り出しは聴感的なものでもあろうし、単に周波数特性(振幅特性)ではなく歪や位相との兼ね合いもあってものだと、54号のトータル・エネルギー・レスポンスを見るまでは、なんとなくそう考えていた。 けれど54号のトータル・エネルギー・レスポンスは、中高域の張り出しを視覚的に表示している。 サインウェーヴで計測した周波数特性はかなりフラットであっても、ピンクノイズで計測したトータル・エネルギー・レスポンスでは、まったく違うカーヴを描くスピーカーシステムが少なくない。 しかも国産スピーカーシステムのほうが、まなじ周波数特性がいいものだから、その差が気になる。 中高域のある帯域(これはスピーカーシステムによって多少ずれている)のレベルが高い。 しかもそういう傾向をもつスピーカーシステムの多くは、その近くにディップがある。 これではよけいにピーク(張り出し)が耳につくことになるはずだ。 ステレオサウンド 52、53、54と3号続けて読むことで、周波数特性とはいったいなんなのだろうか、考えることになった。 http://audiosharing.com/blog/?p=6980 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その23)
ステレオサウンド 54号のころには私も高校生になっていた。 高校生なりに考えた当時の結論は、電気には電圧・電流があって、電圧と電流の積が電力になる。 ということはスピーカーの周波数特性は音圧、これは電圧に相当するもので、電流に相当するもの、たとえば音流というものが実はあるのかもしれない。 もし電流ならぬ音流があれば、音圧と音流の積が電力ならぬ音力ということになるのかもしれない。 そう考えると、52号、53号でのMC2205、D79、TVA1の4343負荷時の周波数特性は、 この項の(その21)に書いたように、4343のスピーカー端子にかかる電圧である。 一方、トータル・エネルギー・レスポンスは、エネルギーがつくわけだから、エネルギー=力であり、音力と呼べるものなのかもしれない。 そしてスピーカーシステムの音としてわれわれが感じとっているものは、音圧ではなく、音力なのかもしれない──、こんなことを17歳の私の頭は考えていた。 では音流はどんなものなのか、音力とはどういうものなのか、について、これらの正体を具体的に掴んでいたわけではない。 単なる思いつきといわれれば、たしかにそうであることは認めるものの、 音力と呼べるものはある、といまでも思っている。 音力を表したものがトータル・エネルギー・レスポンス、とは断言できないものの、音力の一部を捉えたものである、と考えているし、この考えにたって、D130のトータル・エネルギー・レスポンスをみてみると、(その6)に書いた、コーヒーカップのスプーンがカチャカチャと音を立てはじめたことも納得がいく。 http://audiosharing.com/blog/?p=6982 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その24)
ステレオサウンド別冊HIGH-TECHNIC SERIES 4には、37機種のフルレンジユニットが取り上げられている。 国内メーカー17ブランド、海外メーカー8ブランドで、うち10機種が同軸型ユニットとなっている。 HIGH-TECHNIC SERIES 4には、周波数・指向特性、第2次・第3次高調波歪率、インピーダンス特性、トータル・エネルギー・レスポンスと残響室内における能率、リアル・インピーダンスが載っている。 測定に使われた信号は、周波数・指向特性、高調波歪率、インピーダンス特性がサインウェーヴ、トータル・エネルギー・レスポンス、残響室内における能率、リアル・インピーダンスがピンクノイズとなっている。 HIGH-TECHNIC SERIES 4をいま見直しても際立つのが、D130のトータル・エネルギー・レスポンスの良さだ。 D130よりもトータル・エネルギー・レスポンスで優秀な特性を示すのは、タンノイのHPD315Aぐらいである。 あとは同じくタンノイのHPD385Aも優れているが、このふたつは同軸型ユニットであることを考えると、D130のトータル・エネルギー・レスポンスは、帯域は狭いながらも(100Hzあたりから4kHzあたりまで)、ピーク・ディップはなくなめらかなすこし弓なりのカーヴだ。 この狭い帯域に限ってみても、ほかのフルレンジユニットはピーク・ディップが存在し、フラットではないし、なめらかなカーヴともいえない、それぞれ個性的な形を示している。 D130と同じJBLのLE8Tでも、トータル・エネルギー・レスポンスにおいては、800Hzあたりにディップが、その上の1.5kHz付近にピークがあるし、全体的な形としてもなめらかなカーヴとは言い難い。 サインウェーヴでの周波数特性ではD130よりもはっきりと優秀な特性のLE8Tにも関わらず、トータル・エネルギー・レスポンスとなると逆転してしまう。 その理由は測定に使われる信号がサインウェーヴかピンクノイズか、ということに深く関係してくるし、このことはスピーカーユニットを並列に2本使用したときに音圧が何dB上昇するか、ということとも関係してくる。 ただ、これについて書いていくと、この項はいつまでたっても終らないので、項を改めて書くことになるだろう。 とにかく周波数特性はサインウェーヴによる音圧であるから、トータル・エネルギー・レスポンスを音力のある一部・側面を表していると仮定するなら、 周波数特性とトータル・エネルギー・レスポンスの違いを生じさせる要素が、音流ということになる。 http://audiosharing.com/blog/?p=6984 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その25) JBL・D130のトータル・エネルギー・レスポンスをみていると、ほぼフラットな帯域が、偶然なのかそれとも意図したものかはわからないが、ほぼ40万の法則に添うものとなっている。 100Hzから4kHzまでがほぼフラットなエネルギーを放出できる帯域となっている。 とにかくこの帯域において、もう一度書くがピークもディップもみられない。 このことが、コーヒーカップのスプーンが音を立てていくことに関係している、と確信できる。 D130と同等の高能率のユニット、アルテックの604-8G。 残響室内の能率はD130が104dB/W、604-8Gが105dB/Wと同等。 なのに604-8Gの試聴感想のところに、コーヒーカップのスプーンについての発言はない。 D130も604-8Gも同じレベルの音圧を取り出せるにも関わらず、この違いが生じているのは、トータル・エネルギー・レスポンスのカーヴの違いになんらかの関係があるように考えている。 604-8Gのトータル・エネルギー・レスポンスは1kから2kHzあたりにディップがあり、100Hzから4kHzまでの帯域に限っても、D130のほうがきれいなカーヴを描く。 ならばタンノイのHPD315はどうかというと、100Hzから4kHzのトータル・エネルギー・レスポンスはほぼフラットだが、 残響室内の能率が95.5dB/Wと約10dB低い。 それにHPD315は1kHzにクロスオーバー周波数をもつ同軸型2ウェイ・ユニットである。 コーヒーカップのスプーンに音を立てさせるのは、いわば音のエネルギーであるはず。音力である。 この音力が、D130とHPD3145とではいくぶん開きがあるのと、ここには音流(指向特性や位相と関係しているはず)も重要なパラメーターとして関わっているような気がする。 (試聴音圧レベルも、試聴記を読むと、D130のときはそうとうに高くされたことがわかる。) 20Hzから20kHzという帯域幅においては、マルチウェイに分があることも生じるが、 100Hzから4kHzという狭い帯域内では、マルチウェイよりもシングルコーンのフルレンジユニットのほうが、 音流に関しては、帯域内での息が合っている、とでもいおうか、流れに乱れが少ない、とでもいおうか、 結局のところ、D130のところでスプーンが音を立てたのは音力と音流という要因、それらがきっと関係しているであろう一瞬一瞬の音のエネルギーのピークの再現性ではなかろうか。 このD130の「特性」が、岩崎先生のジャズの聴き方にどう影響・関係していったのか──。 (私にとって、James Bullough Lansing = D130であり、岩崎千明 = D130である。 そしてD130 = 岩崎千明でもあり、D130 = Jazz Audioなのだから。) http://audiosharing.com/blog/?p=7169 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その26)
D130の特性は、ステレオサウンド別冊 HIGH-TECHNIC SERIES 4 に載っている。 D130の前にランシングによるJBLブランド発のユニットD101の特性は、どうなっているのか。 (これは、アルテックのウーファー515とそっくりの外観から、なんとなくではあるが想像はつく。) 1925年、世界初のスピーカーとして、スピーカーの教科書、オーディオの教科書的な書籍では必ずといっていいほど紹介されているアメリカGE社の、C. W. RiceとE. W. Kelloggの共同開発によるスピーカーの特性は、どうなっているのか。 このスピーカーの振動板の直径は6インチ。フルレンジ型と捉えていいだろう。 エジソンが1877年に発明・公開した録音・再生機フォノグラフの特性は、どうなっているのか。 おそらく、どれも再生帯域幅の広さには違いはあっても、 人の声を中心とした帯域をカバーしていた、と思う。 エジソンは「メリーさんの羊」をうたい吹き込んで実験に成功している、ということは、 低域、もしくは高域に寄った周波数特性ではなかった、といえる。 これは偶然なのだろうか、と考える。 エジソンのフォノグラフは錫箔をはりつけた円柱に音溝を刻む。 この材質の選択にはそうとうな実験がなされた結果であろうと思うし、もしかすると最初から錫箔で、偶然にもうまくいった可能性もあるのかもしれない、とも思う。 どちらにしろ、人の声の録音・再生にエジソンは成功したわけだ。 GEの6インチのスピーカーユニットは、どうだったのか。 エジソンがフォノグラフの公開実験を成功させた1877年に、スピーカーの特許がアメリカとドイツで申請されている。 どちらもムービングコイル型の構造で、つまり現在のコーン型ユニットの原型ともいえるものだが、この時代にはスピーカーを鳴らすために必要なアンプがまだ存在しておらず、 世界で初めて音を出したスピーカーは、それから約50年後のGEの6インチということになる。 このスピーカーユニットの音を聴きたい、とは特に思わないが、 周波数特性がどの程度の広さ、ということよりも、どの帯域をカヴァーしていたのかは気になる。 なぜRiceとKelloggは、振動板の大きさを6インチにしたのかも、気になる。 振動板の大きさはいくつか実験したのか、それとも最初から6インチだったのか。 最初から6インチだったとしたら、このサイズはどうやって決ったのか。 http://audiosharing.com/blog/?p=7187 40万の法則が導くスピーカーの在り方(D130と岩崎千明氏・その27) RiceとKelloggによるコーン型スピーカーユニットがどういうものであったのか、 少しでも、その詳細を知りたいと思っていたら、ステレオサウンド別冊[窮極の愉しみ]スピーカーユニットにこだわる-1に、高津修氏が書かれているのを見つけた。 高津氏の文章を読みまず驚くのは、アンプの凄さである。 1920年代に出力250Wのハイパワーアンプを実現させている。 この時代であれば25Wでもけっこうな大出力であったはずなのに、一桁多い250Wである。 高津氏も書かれているように、おそらく送信管を使った回路構成だろう。 このアンプでライスとケロッグのふたりは、当時入手できるあらゆるスピーカーを試した、とある。 3ウェイのオール・ホーン型、コンデンサー型、アルミ平面ダイアフラムのインダクション型、 振動板のないトーキング・アーク(一種のイオン型とのこと)などである。 これらのスピーカーを250Wのハイパワーアンプで駆動しての実験で、ライスとケロッグが解決すべき問題としてはっきりしてきたことは、どの発音原理によるスピーカーでも低音が不足していることであり、その不足を解決するにはそうとうに大規模になってしまうということ。 どういう実験が行われたのか、その詳細については省かれているが、ライスとケロッグが到達した結論として、こう書かれている。 「振動系の共振を動作帯域の下限に設定し、音を直接放射するホーンレス・ムーヴィングコイル型スピーカー」 ライスとケロッグによるコーン型スピーカーの口径(6インチ)は、 高域特性から決定された値、とある。エッジにはゴムが使われている。 しかも実験の早い段階でバッフルに取り付けることが低音再生に関して有効なことをライスが発見していた、らしい。 磁気回路は励磁型。 再生周波数帯域は100Hzから5kHzほどであったらしい。 実用化された世界初の、このコーン型スピーカーはよく知られるように、GE社から発売されるだけでなく、ブラウンズウィックの世界初の電気蓄音器パナトロープに搭載されている。 以上のことを高津氏の文章によって知ることができた。 高津氏はもっと細かいところまで調べられていると思うけれど、これだけの情報が得られれば充分である。 Rice & Kelloggの6インチのスピーカーの周波数特性が、やはり40万の法則に近いことがわかったのだから。 http://audiosharing.com/blog/?p=7991 なぜ逆相にしたのか(その1) ジェームズ・バロー・ランシングが、アルテックとの契約の5年間を終え、1946年10月1日に創立した会社はランシング・サウンド・インコーポレッドインコーポレイテッド(Lansing Sound Incorporated)。 最初の製品は、15インチ口径のD101で、ランシングがアルテック時代に設計した515ウーファーと写真で見るかぎり、コーン中央のセンターキャップがアルミドームであるぐらいの違いである。 見えないところでは、ボイスコイルが、515は銅線、D101は軽量化のためアルミニウム線を採用している違いはあるものの、D101は515をベースとしたフルレンジユニットであろう。 D101につけられていたアイコニック(Iconic)という名称と、 会社名に「ランシング」がつけられていることに、アルテック・ランシングからクレームが入り、アイコニックの名称の使用はとりやめ、 会社名もジェームズ・B・ランシング・サウンド・インク(James B. Lansing Sound Inc.)へと変更。 そして47年から48年にかけて、D130を発表する。 D101とD130の外観は、大きく違う。515のフルレンジ版のイメージは、そこにはまったくなくなっている。 http://audiosharing.com/blog/?p=1386 なぜ逆相にしたのか(その2)
D101はアルテック・ランシングの515をベースにしているから、おそらくユニットとしての極性は正相だったのではなかろうか。 いちど実物をみてきいて確かめたいところだが、いまのところその機会はないし、これから先も難しいだろう。 それでも、写真を見るかぎり、あれほど515とそっくりのフルレンジとしてD101を設計しているのであるから、 磁気回路はアルニコマグネットを使っているが外磁型、ボイスコイル径は515と同じ3インチ仕様。 D130はアルニコマグネットを使っているのは515、D101と同じだが、こちらは内磁型。 ボイスコイル径4インチへと変更されている。 さらにコーンの頂角にも大きな変更が加えられている。 515は深い頂角だった。D101も深い。ところがD130では頂角が開き、これにともないユニット全体の厚みも515、D101よりもずっと薄くスマートに仕上げられている。 コーンの頂角は、その強度と直接関係があるため、頂角が深いほど振動板全体の強度は確保できる。 頂角を開いていけば、それだけ強度は落ちていく。 にもかかわらずD130では浅い頂角ながら、コーン紙を指で弾いてみると強度に不安を感じるどころか、十分すぎる強度を確保している。しかもわずかにカーヴがつけられている。 515(おそらくD101も)は、ストレートコーンである。 515(D101)とD130のあいだには、コーン紙の漉き方・製法に大きなちがいがあるといってもいいだろう。 これからの変更にともない、フレームもD101とD130とでは異ってくる。 D101のフレームは515のそれを受け継ぐもので脚の数は4本、D130では倍の8本になっている。 http://audiosharing.com/blog/?p=1387 なぜ逆相にしたのか(その3) D101からD130への変更点のいくつかは正反対のことを行っている、といえる。 そしてボイスコイルの巻き方が逆になっている。 つまり逆相ユニットに仕上がっている。 スピーカーユニットが逆相ということの説明は不要とも思っていたが、最近ではスピーカーの極性についての知識を持たない人もいるときいている。 簡単に説明しておくと、スピーカーユニットの+(プラス)端子にプラスの電圧をかけたときに、コーン紙(振動板)が前に出るのであれば、そのスピーカーユニットは正相ということになる。 逆にコーン紙(振動板)が後に引っ込むスピーカーユニットは逆相である。 JBLのスピーカーユニットは、ごくわずかな例外を除き、ほぼすべてが逆相ユニットであり、これは1989年に登場した Project K2 で正相になるまでつづいてきた。 この逆相の歴史のスタートは、D101からではなく、D130から、だと思う。 D130と同時期に出てきたD175(コンプレッションドライバー)も逆相ユニットである。 D175以降JBLのドライバーは、D130と同じように、反アルテックといいたくなるぐらい、ダイアフラムのタンジェンシャルエッジの切り方が逆、ボイスコイルの引き出し方も、アルテックでは後側に、JBLでは前側に出している。 なぜ、ここまで反アルテック的な仕様にしたのか。 アルテックからのクレームへの、ランシングの意地から生まれたものだというひともいる。 たしかにそうだろう。でも、それだけとは思えない。 http://audiosharing.com/blog/?p=1389 なぜ逆相にしたのか(その4)
ウェスターン・エレクトリックの、ふたつの有名なドライバーである555と594A。
555が登場したのが1926年、594Aは10年後の1936年。 このあいだ、1930年にボストウィックトゥイーターと呼ばれる596A/597Aが登場。 そして594Aの前年に、ランシング・マニファクチャリングから284が登場している。 2.84インチのボイスコイル径をもつこの284ドライバーは555とは大きく構造が異り、594Aとほぼ同じ構造をもつ。 555も596A/597Aも、ドーム状の振動板はホーンに近い、つまりドライバーの開口部側についている。 昔のスピーカーに関する技術書に出てくるコンプレッションドライバーの構造と、ほぼ同じだ。 それが284、594Aになると、現在のコンプレッションドライバーと同じように後ろ向きになる。 いわゆるバックプレッシャー型で、磁気回路をくり抜くことでホーンスロートとして、振動板を後側から取りつけている。 この構造になり、振動板の交換が容易になっただけでなく、フェイズプラグの配置、全体の強度の確保など、設計上の大きなメリットを生み出し、現在でも、ほぼそのままの形で生き残っている。 この構造を考えだしたのは、おそらくランシングであろう。 ステレオサウンドから出ていた「世界のオーディオ ALTEC」号で、池田圭、伊藤喜多男、住吉舛一の三氏による座談会「アルテック昔話」のなかでは、この構造の特許はウェスターン・エレクトリックが取っているが、考えたのはランシングであろう、となっている。 この構造がなかったら、アルテックの同軸型スピーカーの601(604の原型)も生れなかったはずだ。 もし登場していたとしても、異る構造になっていただろう。 http://audiosharing.com/blog/?p=1391 なぜ逆相にしたのか(その5)
ウェスターン・エレクトリックの一部門であるERPI(Electrical Research Products Inc.)は、ランシング・マニファクチャリングに対して、284と594Aが酷似していること訴え、ウェスターン・エレクトリックは、ランシングが284に同心円状スリットのフェイズプラグを採用したのを問題とし、同社のドライバーに関する特許を侵害しているとして通告している。 フェイズプラグの問題は、ランシング・マニファクチャリングのジョン・ブラックバーン博士の開発による、同心円状のフェイズプラグと同じ効果が得られる放射状スリットのフェイズプラグを採用し、型番を285と改めていることで解決している。 ただ、この問題は、同種のフェイズプラグがすでにアクースティック蓄音機の時代にすでにあったことがわかり、1938年にランシング・マニファクチャリングは、同心円状のフェイズプラグをふたたび採用。 284は284Bとなり、これと並行して801を開発している。 801は1.75インチのボイスコイル径をもつフィールド型のドライバーで、フェイズプラグは同心円状スリット。 801の磁気回路をアルニコVに置換えたのがアルテックの802であり、そのJBL版がD175である。 フェイズプラグに関しては、わずかのあいだとはいえゴタゴタがあったのに対して、バックプレッシャー型のドライバーに関しては、理由ははっきりしないが、結局のところ特許関係の問題は起こらなかった、とある。 やはりランシングの発明だったからなのか……。 http://audiosharing.com/blog/?p=1392 なぜ逆相にしたのか(その6)
バックプレッシャーの構造を考えだしたのは、やはりランシングだと私は確信している。 だから、あくまでもそのことを前提に、この項については話を進めていく。 ウェスターン・エレクトリックの555とランシング・マニュファクチャリングの284以降のバックプレッシャー型と、その構造を比較していくと、その構造の理に適った見事さと、大胆な発想に、ランシングの天才的な才能を感じることができる。 あの時代、どうして、こういう逆転の発想ができたのだろうか。 そして、ランシングはこの逆転の発想、ときにはややアマノジャク的な発想を得意としていたようにも思えてくる。 しかも完成度の高い製品に仕上げている。 D101とD130の違いにしても、そうだ。 D130で開発で行ったことの源泉に近いものは、すでに284開発時にもあったのでは……。 だからユニットの極性を逆相にした、とは正直思っていない。 あえて逆にした明確な理由があるような気がしてならない。 それを解く鍵となるのが、振動板の形状と、そのことに関係してくる振動板の動きやすさの方向性ではないだろうか。 http://audiosharing.com/blog/?p=1393 なぜ逆相にしたのか(その7)
コーン紙は、その名が示すように円錐(cone)状だ。 こういう形状のものが前後に動く場合、どちらの方向に動きやすいかといえば、頂角のほうである。 つまりコーン型スピーカーでいえば、コーン紙が前面に動くよりも、後へのほうが抵抗が少なくすっと動く。 コーン紙の動きに関して、前後の対称性はすこし崩れていることになる。 ただ実際にはエンクロージュアにスピーカーユニットを取りつけた場合には、後への動きにはエンクロージュア内の空気圧の影響を受けるために、前後どちらの方へが動きやすいかは一概にはいえなくなるが、振動板の形状(向き)が、動きやすさに関係していることは事実である。 コンプレッションドライバーの振動板は、ほとんどがドーム型である。 バックプレッシャー型であれば、振動板の頂点は、コーン型スピーカーと同じく後を向いている。 単純に考えれば、後への方が動きやすい。 ここにコンプレッションドライバーの構造が、要素として加わる。 コンプレッションドライバーの場合、振動板の直径よりもスロートの径のほうが小さい。 しかも振動板とフェイジングプラグとがごく接近して配置されている。 振動板とフェイジングプラグとのあいだに存在する空気の量は、ごく少ない。 これにホーンがつくわけだ。 http://audiosharing.com/blog/?p=1394 なぜ逆相にしたのか(その8) 昔ながらのホーンがコンプレッションドライバーの前につくことで、スロート近辺の空気圧はひじょうに高いものになっているといわれる。 つまり、この圧力分だけ振動板が前に動くためにエネルギーが、まず必要になってくる。 圧力をこえるエネルギーに達するまで振動板は動かないのではないだろうか。 たとえば指をはじくとき、人さし指を親指でおさえる。 そして人さし指に十分な力を加えていって解放することで、人さし指は勢いよく動く。 親指での抑えがなければ、人さし指はすぐに動くものの、そのスピードは遅くなる。 いわば親指によって人さし指にエネルギーが溜められていた。 この「溜め」こそが、ホーン型スピーカーの魅力のひとつになっているように、 以前から感じていたし、そんなふうに考えていた。 溜めがあるからこそ、次の動作(つまり振動板が前に動くの)は早くなる。立上りにすぐれる。 これが逆相になっていたらどうなるだろうか。 http://audiosharing.com/blog/?p=1420 なぜ逆相にしたのか(その9)
バックプレッシャー型のコンプレッションドライバーの構造図を頭に思い浮べていただきたい。 ダイアフラムが前(ホーンに向って)に動くのと、後ろに動くのとではどちらが反応がはやく動くであろうか。 ドーム状のダイアフラムの頂点は後ろを向いている。 それにホーンがついている分だけの空気圧がある、などを考えると、ダイアフラムが後ろに動くことが、前に動くよりもスムーズに素早く動くように思う。 つまり位相は逆相になってしまうが、入力信号の最初の部分(半波)に関しては、 バックプレッシャー型のコンプレッションドライバーは後ろに動いた方が自然な動作のようにも感じる。 後ろに下ったダイアフラムは入力信号の次の半波によって前に出てくる。 この前に出てくるときの移動距離(振幅量)は、正相と逆相では違ってくる。 正相になっていれば入力信号の半波分(+側の信号)の振幅だけに前に動く。 逆相だと最初の半波の分だけ後ろに下っていて、前に出るときは次の半波分の振幅がそこに加わり、このときのダイアフラムの正相よりも前に移動する距離(振幅量)は長くなる。 それだけ前に出てくる空気の量にも違いが出てくる。 正相であればまずダイアフラムが前に出て後ろに下る、この距離が逆相よりも長くなる。 すこしわかりにくい説明になっていると思っているが、正相でも逆相でも入力信号が同じだからダイアフラムの振幅量に変化はないわけだが、その向きに違いが出てくる、ということをいいたいわけだ。 もちろん入力信号1波で動く空気の量そのものに、正相でも逆相でも違いはないけれど、その方向に注意を払ってこまかくみていくと、疎密波の密の部分と疎の部分の空気量に違いが出てくる。 つまりダイアフラムが前に出ることで密の波がうまれ、後ろに下ることで疎の波ができる。 入力信号が0から+側にふれてマイナス側にふれて0にもどるとき、正相だとまず0から+側のピークまでの密の波が出て、+側のピークから−側のピークまでの疎の波が出て、−側のピークから0までの密の波が出てくる。 逆相では0から+側のピークまで疎の波が出て、+側のピークから−側のピークまでの密の波が出て、−側のピークから0までの疎の波が出てくる。 ダイアフラムの向きは正相だと前・後・前、逆相では後・前・後。 疎密波で表せば、正相だと密・疎・密になり、逆相だと疎・密・疎となる。 http://audiosharing.com/blog/?p=6456 なぜ逆相にしたのか(その10) この項を書き始めたとき、JBLが逆相なのは、ボイスコイルを捲く人が間違って逆にしてしまったから、それがそのまま採用されたんだよ、と、いかにもその時代を見てきたかのようなことを言ってくれた人がいる。 本人は親切心からであろうが、いかにも自信たっぷりでおそらくこの人はどこから、誰かから聞いた話をそのまましてくれたのであろうが、すくなくとも自分の頭で、なぜ逆相にしたのか、ということを考えたことのない人なのだろう。 私はJBLの最初のユニットD101は正相だと考えている。 逆相になったのはD130から、であると。 これが正しいとすれば、最初にボイスコイルを逆に捲いてしまったということはあり得ない説になる。 ほんとうにそうであるならば、D101も逆相ユニットでなければならない。 私は、こんなくだらない話をしてくれた人は、D130の前にD101が存在していたことを知らなかったのかもしれない。 また、こんなことをいってくれた人もいた。 振動板が最初前に出ようが(正相)、後に引っ込もうが(逆相)、音を1波で考えれば出て引っ込むか、引っ込んで前に出るかの違いだけで、なんら変りはないよ、と。 これもまたおかしな話である。 振動板の動きだけをみればそんなことも通用するかもしれないけれど、スピーカーを音を出すメカニズムであり、振動板が動くことで空気が動いている、ということを、これを話してくれた人の頭の中には、なかったのだろう。 そして、すくなくともこの人は、ユニットを正相接続・逆相接続したときの音の違いを聴いていないか、 聴いていたとしても、その音の違いを判別できなかったのかもしれない。 スピーカーを正相で鳴らすか逆相で鳴らすか、 音の違いが発生しなければ、この項を書くこともない。 けれど正相で鳴らすか逆相で鳴らすかによって、同じスピーカーの音の提示の仕方ははっきりと変化する。 一般的にいって、正相接続のほうが音場感情報がよく再現され、 逆相接続にすることで音場感情報の再現はやや後退するけれど、かわりに音像がぐっと前に出てくる印象へとあきらかに変化する。 これは誰の耳にもあきらかなことであるはず。 正相接続と逆相接続で音は変化する。 変化する以上は、そこにはなんらかの理由が存在しているはずであり、そのことを自分の頭で考えもせず、 誰かから聞いたことを検証もせずに鵜呑みにしてしまっては、そこで止ってしまう。 http://audiosharing.com/blog/?p=8974 なぜ逆相にしたのか(その11)
正相接続・逆相接続による音の違いはどこから生れてくるのだろうか。
いくつかの要素が考えつく。 まずフレームの鳴き。 何度かほかの項で書いているように、ボイスコイルにパワーアンプからの信号が加わりボイスコイルが前に動こうとする際に、その反動をフレームが受けとめ、とくにウーファーにおいては振動板の質量が大きいこと、それに振動板(紙)の内部音速が比較的遅いこともあって、コーン紙が動いて音を出すよりも前にフレームから音が放射される。 逆相接続にすればフレームが受ける反動も大きく変わってくる、 そうすればフレームからの放射音にも違いが生じるはず。 反動によるフレームの振動はエンクロージュアにも伝わる。 エンクロージュアの振動モードも変化しているであろう。 こういうことも正相接続・逆相接続の音の違いに少なからず関係しているはず。 これを書いていてひとつ思い出したことがある。 アクースタットのコンデンサー型スピーカーが登場したとき、どうしても背の高い、この手のスピーカーはしっかりと固定できない。 ならば天井から支え棒をするのはどうなんだろう、と思い、井上先生にきいてみたことがある。 「天井と床がつねに同位相で振動している、と思うな」 そう井上先生はいわれた。 同位相で振動していれば支え棒は、つねに一定の力でアクースタットの天板(そう呼ぶには狭い)を押えてくれる。 しかし実際には同位相瞬間もあれば逆位相の瞬間もあり、90度だけ位相がずれている瞬間もありだろうから、 支え棒が押える力は常に変動することになる。 この力の変動はわずかかもしれない。 でも、こういった変動要素は確実に音に影響をおよぼす。 それに支え棒そのものも振動しているのだから、支え棒の位相がスピーカー本体や天井に対してどうなのか。 井上先生は、さまざまな視点からものごとをとらえることの重要さを教えてくれた。 http://audiosharing.com/blog/?p=8977 なぜ逆相にしたのか(余談) ジェームズ・バロー・ランシングがアルテック・ランシングを辞めたのは、 「家庭用の美しいスピーカーをつくりたい」からという理由だということに、以前はなっていた。 ただこれについての真偽はのほどはさだかでなく、ランシング本人の言葉とは断言できないし、アルテック・ランシングとは、最初から5年契約だったことは、はっきりとした事実である。 となると「家庭用の美しいスピーカーをつくりたい」からというのは、なにかあとづけのことのようにも思えてくる。 D130が最初のユニットであれば、「家庭用の美しいスピーカー」という理由も、確たる証拠がなくてもすなおに信じられる。 だが事実はD130の前にD101が存在する。 その最初のフルレンジユニットD101とアルテック515は、写真でみる限り、ほぼそっくりであることはすでに書いたとおりである。 となると「家庭用の美しいスピーカー」というのがランシングが本当に語っていたとすれば、おそらくD101に対してアルテック・ランシングからのクレームがきたからではないのだろうか。 もしもアルテックがD101を黙認していたら、JBLの歴史はどう変っていたのだろうか。 もしかするとJBLというブランドは、これほど長く続かなかったかもしれない。 アルテック・ランシングに対するジェームズ・バロー・ランシングの意地があったからこそのJBLなのかもしれない。 http://audiosharing.com/blog/?p=1419
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