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5月21日付の朝日新聞に「私の視点」が掲載されました。それを再掲します。
「錬金術師」に有利な税制
森永卓郎 経済アナリスト、獨協大学特任教授
04年分の所得税の高額納税者の公示で、投資顧問会社の部長が1位になった
。今回の特徴は、健康食品、パチンコ関連業界、サラリーマン金融といった最近
の常連業種に加えて、投資ファンドの経営者や社員が急速に上位に入ってきたこ
とだ。
60年の「長者番付」には、1位が石橋正二郎ブリヂストン社長、2位が松下
幸之助松下電器会長と、一般庶民も知っている大実業家がずらりと並んでいる。
額に汗して苦労を重ね、新しい商品の発明などで国民生活を改善し、社会に貢献
した人たちが、同時におカネをたくさん稼ぎ、税金をたくさん納めていた。至極
真っ当な社会だったといえる。
それに対し、今回台頭してきたのは、カネを右から左に動かすだけで、庶民の
生活とまったく接点がない。何一つ付加価値を生み出さず、われわれの生活を何
一つ改善しない人たちだ。
そういう人たちが高い所得を得る一方で、伝統的な技術の継承者、中小商店主
、タクシー運転手といった、まじめにこつこつ働いている人たちの処遇がどんど
ん悪くなってきている。そして、社会もそういった傾向に追随しがちだ。雑誌な
どではやっているのも「10万円を元手に株で大もうけ」とか「いきなり2倍に
なる投資テクニック」とかいうものばかりだ。
ただ、今回1位の部長をはじめとして、高額納税者リストに載っているのは、
おカネを右から左に動かす「錬金術師」のなかでは正直な人たちだといえる。「
錬金術師」の多くは節税策を駆使して納税額を抑えており、実質的には相当な額
の所得を得ているのにリストに出てこない人がたくさんいるはずだからだ。
自分で会社をつくって所得を分散させるというのがよくある手口だが、サラリ
ーマンの立場を維持したままでも、節税策はいろいろある。短期雇用が多い外資
では、退職金に対する税制の優遇を悪用し、報酬のかなりの部分を退職金という
名目でもらうことで、所得税を半分以下に抑える手法が多用されている。
そもそも、株価の上昇などで巨大な利益を得ている長者たちは、きっちり課税
される「オモテの所得」はなるべく生みださないようにしている。たとえば孫正
義ソフトバンク社長の04年の納税額は3億円程度で、2兆円ともいわれる所有
株の含み益からみれば微々たるものだ。
そして、何よりも問題なのは、税制の仕組み自体が、額に汗して一生懸命働い
ている人たちが報われず、「錬金術師」だけが栄える社会への変容を後押しして
いることだ。03年の税制改正で、株式投資に関する税金などを劇的に減らす一
方で、発泡酒やワインなどの大衆課税を強化したのがいい例だ。
零細企業に税務調査に入り、ささいな過ちをとがめて追徴課税するより、使い
切れないほどのカネを稼いだ人から高率の税金をとるほうが、徴税効率もはるか
に良いはずだ。退職金の優遇に最低勤続年数などの条件をつけるといった悪用防
止策を急ぐべきだ。
ところが、実際に政府がやっていることといえば、消費税率引き上げの準備を
内々に進める一方で、日本社会のあり方について考えるうえでこれだけ重要な情
報を与えてくれる高額納税者の公示を、「個人情報保護」を理由に、やめること
も含めて検討しているという。なにをかいわんやである。