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From : ビル・トッテン
Subject : 誰のためのインフレ待望論
Number : OW561
Date : 2003年2月17日
長引くデフレのために相変わらずきかれる「インフレ・ターゲット論」。しかし日銀が期待インフレ率を自由にコントロールできるのであれば、バブルも起こらなかっただろうし、バブル崩壊も避けられ、またこれだけ長期にわたる景気低迷にもなりえなかったはずだ。では、なぜいま、インフレターゲットか。その理由を考えてみたい。
(ビル・トッテン)
誰のためのインフレ待望論
高インフレを抑えることを目的とするのではなく、物価下落の続く日本で、物価上昇率の目標値を定めるインフレターゲットの導入を検討する声が相変わらず政府から出されている。
製品やサービスの価格が持続して下落している現在の日本で、ある程度インフレになるまで日銀が紙幣を増やし続ければ、世の中に多くの紙幣が出回り、人々がモノを買うようになり物価が上昇しインフレになる、という理屈である。これについて、私はいくつかのことを指摘したい。
ハゲタカファンド
まず、なぜ製品やサービスの値段が下がり続けているかといえば、技術の進歩によって日本人が消費するペースを上回る速さで製品やサービスが供給されるようになり、価格を下げないと売れなくなってきていることが一つの原因である。つまり日本は慢性的な供給過剰な状態にあるということだ。
そんな中、今年四月にはサラリーマン医療費の自己負担が二割から三割に上がる。健康保険料および厚生年金保険料も、月収ベースから年収ベースの計算となり、多くの人が負担増となる。
また厚生年金の支給額は物価スライド制により1%減となる。五月には雇用保険の失業手当の上限が引き下げられ、一部酒税が増税、七月にはタバコ税も増税される。そして財界からは、根強く消費税増税が提案されている。
日本国内のほとんどの勤労世帯が、ますます財布のヒモを固くせざるをえない状況の中、一体誰がインフレを待ち望むのだろうか。それとも政府は「特定の人々」のためにインフレを起こそうとしているのだろうか。特定の人を富ませることが目的だとすれば、インフレ待望論は納得がいく。
現在、日本では金融機関や銀行の抱える資産価値が取得時よりも大幅に下落している。政府はこの不良債権をハゲタカファンドに安く売却させ、損失分は日本国民に負担させようとしている。経営破たんして一時国有化され、四兆円もの公的資金が投入された資産十兆円の銀行が、千二百億円で外資に譲渡された例を忘れてはいないだろうか。
資産価値引き上げ策
一般国民には「自己責任」と「ハイリスク・ハイリターン」をうたう政府や金融機関は、ハイリターンを求めて生じたハイリスクがもたらした損失の責任をとってはいない。そしてインフレ待望論は、人工的にインフレを起こさせ、下落したその資産価値を上げようとしているにすぎないのである。
金融機関などが高値で取得した資産の価値が暴落したのは、もともと政府がとった最悪の政策による。しかし政府はその責任をとるどころか、今それをハゲタカに大安売りをするように圧力をかけている。人工的に価格をインフレさせることで、ハゲタカたちは早くリターンが得られる。
また不良債権を抱える側にとっても、人工的に価格が上がれば今ほど過小評価された価格でハゲタカに売却しなくても済むという、実に都合のよい政策が「インフレターゲット」の導入なのである。
先に述べた、日本が抱える大きな問題である真のデフレは、まったくここでは無視されている。過剰な生産能力と過剰供給によって、製品やサービスの価格は下落を続けている。
これらの価格がどうやったら人工的につり上げられるのか私にはまったく分からない。今の値段より高くなって消費者が喜んで買うとは思えないし、また生産者が値上げをして生産量を削減するとも思えないからだ。
結論として、デフレ対策として人工的に物価を上昇させることを提唱している政府自民党または官僚は、何も考えていない国民をだまして、デフレが倒産や失業増加の原因だから製品やサービスの価格を上げる方法が、デフレを解決する方法だと信じ込ませようとしているにすぎない。
政府の国民だまし
日々の新聞を飾る数々の企業倒産やリストラ関連の記事で、多くの国民は痛みや恐怖を感じている。だからデフレ策と聞くとぜひ実行してほしいと思ってしまうのかもしれない。またはインフレで自分の住む家の資産価値が上がるなどとぬか喜びしてはいけない。
人工的にインフレを起こしてもうかるのは、保有する資産価値を大幅に引き上げることができる金融機関や、またはそれらの資産を底値の状態で買いあさり、資産価値上昇後に利益を得るウォール街のハゲタカだけなのだ。
「負債デフレ」などの専門用語を使って混乱させれば、国民を簡単にだませると政府は思っているのかもしれない。負債デフレとは、物価の下落で売り上げが減り、名目の所得が減少して負債への返済負担が重くなる、つまり実質的に負債が増大した結果、支出が減少するということである。
これは別の言い方をすると製品やサービスをつくっている実体経済でもたらされた利益が人々の給料に支払われるのではなく、利子の支払いに回るということである。
資産価値が下落した問題と、慢性的な過剰生産能力によって製品やサービスの価格が下がるデフレとはまったく別問題だ。政府の説明に惑わされずに、そこのところをしっかり理解しておかなければいけない。