連載 安倍2代を振り返る 〜国民の幸せのためにどのような貢献をしたのか〜(1) 2021年8月21日 https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/21590 本紙記者を含む下関市内の各界有志で構成する調査チームはこれまでに、下関市長の後援者が下関市立大学に損害を与えながらその弁償について真相が曖昧にされていた「下関市立大学トイレ改修問題」や、下関市議会の議長・副議長が夜な夜な飲み会帰りに公用タクシーチケットを使い放題だった「下関市議会議長・副議長の公用タクシーチケット問題」など、下関の街で起こる不正や疑義について調査し、あるいは情報を持ち寄って整理し、市民の皆様に問題を提起してきた。今回、地元選出の代議士として君臨してきた安倍晋太郎、安倍晋三親子が二代にわたって何をしてきたか、当時を知る人たちの証言も含めて振り返ってみた。副題にあるように、彼らは衆議院議員として国民の幸せのためにどのような貢献をしたのかを検証したい。 T はじめに 総理大臣をはじめ政治家や官僚は公権力を行使するが、公権力は国民を幸せにするために国民から与えられたものである。従って、公権力は国民の幸せ実現のために行使すべきものであって、総理大臣等が自分たちの利益のために使うことは絶対に許されない。 また、公金や公有財産は、国民の税金など国民のお金であり、財産である。公金等の使い道や使い方は政治家や官僚に委ねられているが、国民の幸せのために使うべきであって、決して政治家たちが自分たちのために使ってはならない。国民に対して、公正、公平に使わなければならない。そして、公金を使ったときはどのように使ったかという説明、いわゆる国民に対する説明責任を果たさなければならない。 これが国、地方公共団体を問わず政治、行政の大原則である。政治家や官僚が絶対に守らなければならない基本中の基本である。 権力が強い人ほどこの原則を厳格に遵守することが求められる。この原則を守ることを最も求められるのは最高権力者である総理大臣である。万一、総理大臣が公権力や公金等を自分や自分の支持者、取り巻きのために使う、そして国民に対する説明責任を何一つ果たさないというようなことがあれば、国民の政治不信は増すばかりで、やがては国の破滅である。民主主義国家は成り立たない。 過去これまでに、公権力等を国民のために適正に使わず、自己の利益のために使った政治家は多くいる。いわゆる大物政治家といわれる人たちでは、田中角栄元首相は数々の金脈事件で辞任し、結局、ロッキード事件で逮捕された。竹下登元首相はリクルート事件で引責辞任した。金丸信元幹事長も東京佐川事件、日債銀事件等多くの疑惑事件の常連だったが、結局、逮捕され失脚した。その他多くの政治家、官僚が不正をおこない失脚している。 下関市を選挙地盤としている安倍晋三前首相は、二度にわたる総理大臣就任で、最長の総理大臣となった。最近では三度目の総理就任か、とも一部でいわれている状況である。安倍氏はどのような政治家であり、どのような総理大臣であったのか。安倍氏は先述の原則に照らしてみて、国民にとって良い総理大臣であったのかを考えてみたい。 安倍総理の下での最近の「モリ、カケ、桜、黒川、河井」事件等をみても、公権力や公金等を総理自身あるいは自分の支援者たちのために使ったと疑われる事件が多く、使い方が正しかったのか大きな疑惑が残ったままになっている。国民に対する説明責任もまったく果たしていない。責任も「あるある」いいながら何一つとっていない。 安倍氏はかつて官房副長官時代にテレビで、田中角栄元首相とその長女である田中眞紀子元外相に対して「地元に利益を与えるという原型を作ったのは田中元首相だといわれている。その名声の上に眞紀子さんの現在がある。父親の田中角栄元首相をどう思っているのかを眞紀子さんはいうべきだ」と痛烈に批判している。 安倍氏は「地元下関への利益誘導は、してはいけないのでしなかった。しかし、自分や支持者への利益誘導は、しても良いと考えていたので『モリ、カケ、桜』などでは自分や支持者への利益誘導をした」というのだろうか。 また、安倍氏はリクルート事件等を起こしながら(関与しながら)説明しなかった父親安倍晋太郎元幹事長のことを、どう思っているのだろうか。田中眞紀子氏に父親のことを説明すべきだといった本人が、ほおかぶりして説明しようとしないでは世間の嘲笑をかうことになろう。ぜひ説明を聞きたいものである。 安倍首相は国会で、民主党政権時の政治、行政をあれほど厳しく批判しておきながら、みずからの不祥事、疑惑、疑問に対しては、質問しても肝心な点は何一つ答えようとしなかった。ようやく答えたかと思えば、虚偽答弁ばかりという状況である。「森友学園問題では139回」「桜を見る会問題では118回」。これが安倍首相の虚偽国会答弁の回数である。国権の最高機関である国会での虚偽答弁である。引責辞任に値する虚偽答弁回数である。 安倍氏の一連の言動を見てみると、他人に対しては非常に厳しいが、自分に対しては極めて甘いということがよくわかる。 森友学園問題では、近畿財務局の赤木さんが亡くなられた。国家公務員は全国民のために公正に働くということを信条に、誇りをもって働いてきた赤木さんが、犯罪行為に等しい公文書の改ざんを命じられ、それに抗議したが受け入れられなかったことを苦にしての死去である。その一方で、不正を命じた者や改ざん命令に加担して不正行為をおこなった人たちは、みんな出世している。遺族が真相を究明しようとすると、国家権力で隠蔽し、真相究明を阻止しようとする。こんな理不尽なことがあろうか。 一国民としても絶対に許してはならないという気持ちだが、赤木さんとそのご遺族の無念の心中を思うと断腸の思いである。真面目に正義を貫こうとした人が亡くなり、不正をおこなった人たちが出世する、日本はどうしてこのような国になってしまったのか。このようなおかしな国にしたのは誰の責任なのか。 多くの国民は安倍政権下で日本の政治、行政、社会、文化、人間性等すべてがおかしくなってきたと感じている。下関市民としては、「森友学園問題」では上記のように国民のために真面目に職務に精励された赤木さんが亡くなられたこと、「桜を見る会」では下関市民が優遇され、結果的に不公平な出席をしていたこと、これらのことから故赤木さんとそのご遺族の方々をはじめ全国各地の皆さんに対して、恥ずかしい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいである。 確かに下関市においては、政治、経済、社会等すべての分野において長年にわたって安倍氏の独裁、支配状態が続いている。安倍氏に背いたり批判したために痛めつけられ、不利益を被った政治家、企業、個人は多くいる。従って、今日では残念ながら下関市で安倍氏を批判したり、反安倍を公言する人はほとんど見かけないという状況である。 ただ、下関市民も権力盲従者ばかりではない。表立って安倍批判はしないでも「安倍氏はおかしい。特にこの数年の公権力と公金の使い方、公私混同は目に余る。国民、市民に対して誠意ある謝罪はしていないし、反省もない。責任もとらない」と怒っている市民は多い。正義感を失っていない下関市民は多い。特に、高齢の方たちの間では、批判の声が渦巻いているようである。 このような市民の方々から、下関市民の良識を示すためにも、安倍晋太郎氏の時代からこれまでどのような違法的あるいは不公正な公権力の行使と公金の使用があったのか、それらをまとめて総括すべきだという提案があり、関連する資料や証言、意見が多数寄せられた。そのなかにはこれまでまったく報じられたことのない、しかも限られた関係者しか知らない貴重な証言や意見もあった。ただ、ここでは事実関係が確認できている事件等のみをまとめた。 未確認の事件や問題は、今後、事実関係を確認していきたいと考えている。 U 安倍衆院議員の誕生及び安倍氏の関係した事件等について (1) 安倍晋太郎、安倍晋三衆院議員の誕生 下関市における安倍衆院議員の初当選から現在までの経過を見ると、安倍議員の始まりは昭和33年5月22日投票の衆院選に山口1区(中選挙区、定数4名)に安倍晋太郎氏が出馬し、初当選したことから始まる。 その前の衆院選(昭和30年2月27日投票)では、今澄勇、周東英雄、田中龍夫、細迫兼光が当選し、次点が吉武恵市であった。その後、吉武が参院選に回り、妻・洋子氏の父親である岸信介元首相のテコ入れもあって安倍晋太郎が衆院選出馬となったようである。 その後、3回目の衆院選(昭和38年11月21日投票)で落選(次点)したが、次の衆院選で返り咲き、以後、平成2年2月18日投票の衆院選まで9回連続当選している(通算11期)。この間、内閣にあっては農相、官房長官、通産相、外相等を、自民党では政調会長、総務会長、幹事長等を歴任した。総理大臣を期待されたが平成3年5月15日、67歳で死去。 その後継として二男の安倍晋三氏が平成5年7月18日投票の衆院選に出馬し当選。その後平成29年10月22日投票の衆院選まで連続9回当選している。 (2) 安倍2代が関係した事件等について @リクルート事件 リクルート事件は、求人情報誌規制問題などに関し、(株)リクルートが有利な取り計らいをしてもらおうと、昭和61年9月頃、政財官界に値上がり確実な関連5社の未公開株76万株を79人にばらまいたことから始まった。東京地検は「これは賄賂である」と認定し捜査に着手した。 安倍晋太郎幹事長は1万7000株を安倍幹事長の秘書である清水秘書名義で取得。その後、この売却益は3700万円とされている。10月には清水秘書がリクルートの江副社長から、安倍幹事長の政治活動に関する寄付として、小切手50通、計5000万円を受けとっていたことも判明した。 リクルート事件はマスコミでも連日大きくとりあげられ、リクルート疑惑の追及が国会でも本格化するなかで、平成元年3月にはNTTの真藤前会長や労働省の加藤元事務次官ら12人が逮捕された。 平成元年4月にはリクルートから安倍夫人へ「顧問料」の名目で、昭和63年8月までの2年7カ月間にわたって、月30万円、合計約900万円が支払われ、これを受けとっていたことが判明した。このことについて安倍幹事長は「自分も妻も知らなかったこと」と弁明した。しかし、2年7カ月という長期にわたり、しかも900万円という大金を受けとっていたのに知らなかったということで、国民は納得するだろうか。知らなかったというのなら、そのお金はどう処理していたのだろうか。秘書が詐取していたのなら窃盗である。自分は知らなかったで済まされる問題ではない。 また、安倍幹事長の二男で秘書の晋三氏が夫人とともに住んでいた東京都千代田区麹の超高級マンションはリクルートコスモス社の所有であった。昭和62年の秋ごろから住んでいたが、リクルート疑惑発覚直後にあわてるように退去。安倍幹事長側は「賃貸契約を結んで家賃も払っており問題はない」というが、それならなぜリクルート疑惑発覚直後に、あわてて引っ越したのかと多くの人が疑問を感じた。 政治家は不祥事がばれるたびに「自分は知らなかった。秘書が−−」と秘書の責任にしてしまうことに対して、平成元年3月14日のA紙の社説は「『秘書が−−』はもう通らない」と題して次のように説いている。 「秘書は政治家の分身であり、ふだんの政治家の金銭に対する緩んだ感覚がそこに反映しているのではないか。政治家と秘書は一心同体である。『秘書が−−』は言い訳にならない」。 さらに、同年4月18日の社説では、リクルート疑惑を解明して国民に説明すべきなのに、それをしようとしない自民党と、自身がリクルートから大金をもらいながら説明しない安倍幹事長に対し、「安倍幹事長に問う」と題して次のように説いている。 「安倍幹事長は竹下首相との会談で、中曽根前首相の証人喚問は拒否し、自身のリクルート疑惑についても実態を公表しないことを確認した。これでは解明に真剣に取り組んでいるとはいえない。リクルート社の献金額などを公表しない理由として、自ら決めた『党見解』をあげた。この見解事態がおかしい。 リクルートの献金について国会で説明した竹下首相の場合は、政治資金規正法の抜け穴を利用していたとの疑いが強まった。覆い隠そうとする安倍氏については、さらに疑惑が深まる。首相は国会で説明するが、幹事長は説明しないでよいという理由も説得力を欠く。 リクルート疑惑について国民がやりきれない思いをしているのは、政治家が一企業のいいなりにカネをもらっていたことである。安倍氏もその過ちをおかした。 安倍幹事長は江副前会長とは『長い付き合いがある』という。竹下氏と同様自民党総裁選に臨んだ。この総裁選をめぐって多額のカネが動いた。安倍氏もリクルート社から多額の献金があったことは基本的に認めている。 安倍氏周辺には多額の未公開株も譲渡された。しかも最近になって、リクルート社が『顧問料』の名目で夫人に昨年8月まで2年7カ月にわたって毎月30万円、計900万円を支払っていたことが明るみに出た。この顧問料について『私も家内も知らなかった。秘書がしたこと』と弁明した。またしても『秘書が』である。この顧問料の性格や使途については、はっきりしない点が多い。『秘書がしたこと』ですませていいものではない。 リクルート疑惑の特色の一つは、一企業が中曽根政権の中枢とその後継を狙うニューリーダーに株のバラマキや政治献金の攻勢をかけた点にある。その総汚染の中心に総裁と幹事長が名を連ねているということは尋常なことではない。 安倍幹事長は『竹下後』の政権をねらう一人とみられてきたが、現在のような態度をとり続けるのであれば、今後、政治指導者の地位にある資格はないだろう。 かって安倍氏はリクルート疑惑について『政治家は町を歩けないというが、そんなことはない。私は堂々と歩いている。恥ずかしいことでもないし、法律違反でもない』と断言した。リクルート疑惑の展開はこのような感覚が誤っていることを示した。いまもなお、そう考えているのだろうか」 平成元年5月10日付で、大手通信社の政治部記者から安倍幹事長の秘書となっていた清水秘書が安倍事務所を退職。5月29日、東京地検特捜部は政治資金規正法違反として清水秘書を略式起訴し、罰金20万円を命じた。 清水秘書は、政治資金規正法では同一の者に対する寄付は年間150万円をこえてはならないと定められているにもかかわらず、昭和62年10月8日ごろ、リクルート本社で、安倍幹事長の政治活動に関する寄付として5000万円を受けとった。清水秘書は起訴事実を認め、罰金を納めた。 なお、疑惑の核心となったリクルートコスモス株譲渡は、株譲渡である以上、たとえ値上がり確実なものだったとしても、「政治資金」として金銭を入手する時期が確定しない事などから、政治資金規正法の対象にはならないと結論づけた。 安倍氏はリクルート疑惑でこれほど多くの疑惑を抱え、その説明を求められながら、何一つ説明しようとしなかった。竹下首相は首相退陣で責任をとった形だが、安倍氏の疑惑はまったく解明されないままで、結局、秘書の責任というトカゲのしっぽ切りでヤミから闇へ葬られた。 A2万円で10万円旅行事件 平成元年5月、リクルート事件で政治とカネの問題が大きくとりあげられ、安倍幹事長に対する批判があいついでいるなかで、下関の安倍事務所は、後援会婦人部の地区会長など20人が参加する2泊3日の東京旅行を実施した。この旅行は当初、婦人の後援団体役員を引退した人たち約80人を対象に大規模な接待ツアーを計画していたが、ほとんどの人が高齢のため辞退され、20人となったものである。 接待ツアーは23日から25日にかけておこなわれ、往復新幹線。宿泊は最低で1泊2万円はする都内の一流ホテル。観光バスでの都内観光やNHK大河ドラマ「春日局」のセット見学、安倍氏私邸訪問、帝国劇場で食事付きの観劇などで、旅行費用は1人約10万円かかったようである。 問題となるのは、旅行費用の負担の問題である。 安倍事務所は当初「原則的に自己負担」とあいまいに答えていたが、その後「あとで精算してもらうつもりで、立て替え払いしていた」といい、一行が下関に帰ってきた25日の時点では、交通費しか受けとっていないことを認めた。 安倍事務所の説明は市民が納得できる説明にはなっていない。 安倍事務所は参加者の費用負担額について「原則的に自己負担」というが、金額を示さないといけない時に「原則的に」という言葉を入れるのは、詐欺行為をおこなうとき、あるいは先々の展開に備えてごまかそうとするときである。そのようなとき以外は用いないことばである。この件では次々と事実がバレている。これからも事実がバレることを想定して、その時に言い訳しやすいように「原則的に」といったとしか思えない。事実関係は一つである。その事実関係を曖昧に答えるというのは、やましい点があり、それをごまかそうとするからである。やましい点がないというのなら、最初から事実を堂々と説明すればよい。政治関係者や役人が「原則的に」とか「総合的に」という時は、だいたいごまかすためである。 そもそも人を旅行に誘うとき、旅行日程と費用負担額を示さないで誘うことはあり得ない。旅行後にいくら請求されるか分からないような旅行に行こうという人は、まずいないはずである。日程と費用は、旅行に行くか行かないかを決める二大要件である。 この旅行では自己費用負担額を明確に示していない。ということは、費用負担額は無いという何よりの証拠である。「あとで精算してもらう予定だった」という説明だが、これも真相がバレてからの後付けの理由、言い訳にしか聞こえない。 このようにみてくると、事実は「交通費(金額は不明)だけの負担で10万円旅行」ということではないか。この旅行問題で最重要なことは、「これは公職選挙法違反。即ち同法で禁止されている有権者への寄付にあたる」ということである。また、この旅行は買収行為にあたるのではないかと見られている。本件について評論家立花隆氏は当時、次のように述べている。 「これは形を変えた明白な買収だ。安倍幹事長のところだけではなく、これに類したことはあちこちで行われている。しかし、普通はせいぜい5000円会費で温泉旅行に連れて行ってもらったという程度で、これほどスケールが大きいものは聞いたことがない。こういうばかげたことに大金を使うから、政治資金はいくらあっても足りないということになり、政治家は危ない金に手を出すようになる。リクルート事件を生む土壌はこんなところにある」
Bパチンコ御殿 平成元年12月1日号の写真週刊誌フォーカスで「元幹事長の『パチンコ御殿』」「弱り目に祟り目『安倍晋太郎を襲う新たな“疑惑”』」という記事が報じられるという宣伝があった。多くの市民が興味をもってフォーカスを買おうと思っていたが、通常2〜3日前に書店等の店頭に並ぶのが常だが、12月1日になっても下関市内の書店等の店頭には1冊も出なかった。市民の目に触れないよう安倍事務所が買い占めたのだろうと噂された。 安倍事務所から、入荷したら全冊買うからといわれたと証言する書店主もいた。 フォーカス記事の主な内容は、次のようなものであった。 東大和町の安倍事務所
安倍邸は、市内の閑静な住宅地にあり、約600坪の敷地に立つコンクリート2階建。この立派な屋敷は、福岡市や下関市に六店のパチンコ店を経営する七洋物産(社長・吉本章治氏)の子会社(東洋エンタープライズ)から下関市内の建坪約70坪の事務所とともに借りている。 この自宅と事務所の家賃が「両方合わせて月額20万円〜30万円」というので、安倍氏とパチンコ業界との“密着”ぶりが注目されることになった。市内の不動産業者の話では「下関市でも、事務所の家賃は坪1万円が相場。住宅の借家だと敷地60坪で7〜8万円というところ。敷地600坪なら70〜80万円する」というのだから「タダ同然」といわれても仕方ない。 安倍事務所の地元責任者は「自宅は9年前から借りていて、家賃は据え置きだが安いとは思わない。庭の管理や家の修繕費など全額こちらで負担しているし、事務所も元元倉庫だったものをうちで改造して使っているので普通の事務所の家賃と同じに考えてもらっては困る」 この説明で、市内の閑静な住宅街に立つ600坪の邸宅を月額20万円そこらで借りていることに納得できるだろうか。特別な関係があるからこそ、市中相場より格別に安く借りられたはずだ。 安倍晋太郎氏と七洋物産社長の吉本章治氏との20年にわたる親密な関係は、安倍晋太郎氏が七洋物産創業者の帰化に尽力したことに端を発するといわれている。 安倍氏のこの邸宅の建物は、同氏の有力な後援者であった大洋漁業の中部一族が所有していたものを、東洋エンタープライズが昭和56年に買収し、安倍晋太郎氏に貸していた。 その後、平成2年、安倍晋太郎氏が買いとり、現在は安倍家の所有となっている。 ただ、その売買価格については、適正価格であったのか、贈与みたいなものではなかったのかなどと、これまでのいきさつから市民の間でいろいろと憶測されているが、真実は分からない。 安倍家、即ち安倍晋三と東洋エンタープライズとの関係は、現在も続いている。 平成15年6月、JR下関駅前の超一等地(竹崎町)に東洋エンタープライズが経営するパチンコ店「永楽本店」がオープンした。この駅前の一等地は国鉄清算事業団の所有地であった。東洋エンタープライズは、この土地を平成14年7月に随意契約で、しかも格安で払い下げてもらったようであるが、この土地払い下げについても安倍事務所の関与がいろいろと噂されている。 C東京佐川急便事件 平成4年8月27日、自民党副総裁金丸信が東京佐川急便の渡辺元社長から5億円を受けとったことを認め、副総裁を辞任。この5億円は政治資金規正法に定める寄付金の上限をこえているし、同法に定める収支報告書にも記載されていないヤミ献金であった。 同社は金丸を含め12人の政治家に、総計22億円をヤミ献金していた。 受けとった主たる人としては、元首相・中曽根(2億円)、同竹下登(2億円)、同宇野宗佑(5000万円)、小沢元幹事長(1億円)などで、故安倍元幹事長は3億円という金丸氏に次ぐ多額のヤミ献金を受けとっていた。 東京佐川急便は、許認可事項の多い運輸業界において、ヤミ献金等を通じて有力な国会議員や運輸族議員、運輸省、労働省等に働きかけることによって、有利なとり計らいをしてもらおうとしたものである。 この件について安倍事務所からは、何らの説明もないままとなっている。 Dゼネコン汚職事件 大手総合建設会社(ゼネコン)鹿島が、宮沢前首相、中曽根元首相、故安倍晋太郎元幹事長らに対し、数年間にわたり盆と暮れに各500万円、年間1000万円を献金していたことが判明した。安倍元幹事長には、昭和62年頃から死去(平成3年5月)するまで、鹿島の専務が事務所に持参していた。 大手ゼネコンとして鹿島と並ぶ清水建設作成の献金リストには、安倍元幹事長は亡くなるまで、金丸前副総裁、竹下元首相とともに盆暮れに1000万円の献金と記されている。鹿島建設の清山前副社長や前茨城県知事などが贈収賄で起訴された。 大手ゼネコンが、大規模公共工事の取得や各種工事への口利きを期待して政治家にカネをばらまいたため、国、地方を問わず事件が起こった。ゼネコン汚職事件として、国会でも問題になり、世間を騒がせた。 E東京協和信用組合事件 平成7年乱脈経営で破たんした東京協和信用組合高橋理事長が、大蔵官僚や政治家を接待づけにしていたことが明らかになり、背任容疑で東京地検に告訴された。大蔵官僚や政治家を無料で香港旅行やゴルフで接待していた。政治家や官僚に対するゴルフ接待の名簿が明らかになり、これを見ると平成2年に安倍晋太郎元外相と安倍晋三衆院議員(当時は父の秘書)は、ゴルフ接待を受けている。 高橋と安倍とは関係が深く、高橋は平成2年4月には安倍元外相から「自宅購入資金ねん出のためゴルフ会員権を買ってほしい」と頼まれ、安倍元外相が所有していた静岡県や山梨県などにある4つのゴルフ場の会員権を約1億円で買いとった。安倍元外相はこれを基に、下関市に約1億2000万円で自宅を購入したという。 F下関市長選に絡む火炎ビン事件 平成11年4月の下関市長選に絡んで安倍事務所等に火炎瓶が投げ込まれた事件である。 この市長選には、自民党系からは再選を目指す現職の江島潔、民主党系からは先の衆院選で次点だった古賀敬章、それにカムバックを期す前市長の亀田博が無所属で出馬するものと予想された。激戦が予想され三陣営とも早くから活発に動いていた。 江島氏は前回市長選では自民党推薦の現職亀田に対し、反自民の新進党推薦で初当選したのだが、当選から数日後、新進党県連会長の吹田議員から「江島は新進党にお礼のあいさつもない」と厳しく非難され、新進党とは感情的なしこりがあった。また、古賀氏は平成8年10月の衆院選に新進党から立候補し次点だったが、自民党推薦の安倍晋三氏と激しく争い(下関市での得票は安倍5万6660票、古賀4万5473票)、安倍陣営とも感情的にしこりが残っていた。 反自民で当選したのに、今度は自民党推薦で出る江島氏、安倍氏と激突した経歴を持ち新進党の流れをくむ民主党推薦で出る古賀氏。市長選でのこの両者の争いは、最初から遺恨選挙の様相を呈し、何か起こりそうな不穏な空気の漂う選挙の前哨戦であった。 平成10年秋ごろの状況は、江島市長の1期目の批判の声が強く、その一方、古賀氏の評判が良く、古賀優勢のムードであった。そのような状況下、古賀氏を中傷し陥れようとする怪文書が市中にばら撒かれ、あるいは多くの市民へ郵送された。その怪文書は次のような内容であった。 古賀敬章を絶対に下関市長にしてはいけません。 1 古賀氏は元衆院議員新井将敬氏共に北朝鮮国生まれです。 2 北南朝鮮等の支持を受けて下関市長選へ出馬しています。 3 古賀氏が下関市長選に当選すれば、1〜2期市長を勤め、次の衆院選に出ます。 4 5 6(略) 7 古賀氏が下関市長に当選すれば下関の街は朝鮮支配の町となり、拉致、麻薬、工作船等につながる恐れが十分にあります。現在の南北、特に北朝鮮は、ミサイル、工作船など恐ろしい民族、国です。 8 古賀氏は「日本国民や下関市民のため」など、表面的なだけで、実は金正日朝鮮の命により下関市長を目指しているに過ぎない。 市民の皆様、どうか来る4月25日、古賀氏を絶対に当選させてはなりません。 以下(略) 当時、下関市内でばらまかれた怪文書
平成11年3月25日、古賀氏は名誉棄損で刑事告訴した。古賀氏はこの怪文書が余りにばからしい内容であったため、放っておいたのかもしれないが、刑事告訴が遅かったことが選挙に影響を及ぼしたようである。 平成11年4月25日、投票の結果、江島氏が再選を果たした。 この市長選の選挙報酬に絡んで、福岡の暴力団も介入する事件に発展したが、この事件の経緯については、福岡地裁小倉支部での裁判の検察側冒頭陳述を基に、以下詳述する。 下関市の不動産業「恵友開発」の代表者小山は、かねてから暴力団関係者や安倍晋三議員の秘書佐伯と親交を結んでいた。 小山は、平成11年4月の下関市長選で安倍議員が支援する江島候補が当選したが、それは自分が支援活動をしたことが当選に寄与したのだとして、佐伯秘書に対し、絵画買いとりという名目で500万円の支払いを要求し、同秘書に300万円を工面させ受けとった。 その後も小山は安倍議員に面会して絵画の買いとりという名目で現金の支払いを要求したが、同議員側から拒絶された。これに怒った小山は、要求に応じなければ同議員の政治生命を絶つ旨の電報を送るなどした。 しかし、小山は平成11年8月7日、傷害罪で逮捕、起訴され、また、この傷害事件の捜査の間に佐伯秘書に対する恐喝罪でも逮捕された。小山はこのことで安倍議員に対する恨みを募らせ、親交のある福岡の暴力団幹部と安倍議員から金をとるために安倍議員の自宅等に火炎瓶を投げつけて放火することを計画した。 ○第一事件〜(平成12年6月14日)シーモールパレス火炎ビン投下事件 暴力団員が安倍後援会事務所から北方200bにあるシーモールパレスを安倍後援会の事務所の建物と間違えてガソリンを注入した火炎ビン2本を投げたもので、シーモールパレスのガラスや壁に被害を与えた。シーモールパレスはガラスのとり換えなどに16万6000円の費用を要した。 ○第二事件〜(平成12年6月17日)安倍議員方倉庫棟に対する放火未遂事件 第一事件が安倍事務所とシーモールパレスを間違えての犯行だったことに気づき、次の計画を実行することとした。火炎ビン1本を車庫付き倉庫棟の奥の方に、もう一本を車庫出入口付近に投げつけ発火炎上させた。消防車3台が出動し鎮火した。この火災により、乗用車1台(プジョー)はほぼ全焼。クラウン、アトレーも被害を受けた。車庫付き倉庫棟の修理費用は338万円。車両3台の損害は約398万円にのぼった。 ○第三事件〜(平成12年6月28日)安倍後援会事務所に対する放火未遂事件 小山は第二事件の数日後、秘書兼運転手の男に安倍事務所の様子を見に行かせたが、特に変わった様子はなかったようなので、第三の事件を起こすことを暴力団幹部と相談、計画した。安倍後援会事務所の窓ガラスを叩き破って火炎ビンを差し入れて着火しようとしたが失敗。もう1本は窓ガラスに投げつけたが、網戸に引っかかって外側に落ちて失敗。結局窓ガラス2枚が損壊され、修理費用は2万7440円であった。 ○第四事件〜(平成12年8月14日)安倍後援会事務所に対する再度の放火未遂事件 事務所の窓ガラスめがけて点火した火炎ビンを投げつけたが、網戸があるため窓ガラスは損壊させたが建物内に火炎ビンを投げ入れることが出来ず、建物外側で火炎ビンを炎上させた。被害額は1万6000円余りであった。 ○第五事件〜(平成12年8月14日)安倍議員方車庫付き倉庫棟に対する再度の放火未遂事件 第四事件犯行後、安倍議員方車庫付き倉庫棟に火炎ビンを投げつけたが、車庫内の車両のテールランプを損壊しただけであった。被害額は約9万円余りであった。 なお、この第四、第五事件についてはマスコミ報道はなかった。 安倍事務所への火炎瓶投げ込みの捜査現場(2000年6月28日)
平成15年11月11日、上記の事件で福岡、山口両県警の合同捜査本部は、指定暴力団工藤会高野組組長高野他組員と、下関市の小山など計6人を逮捕した。 このことについて、安倍晋三自民党幹事長は「現在、警察が捜査中であり、コメントを差し控えたい」と話し、安倍事務所の配川秘書は「事件については詳しいことは分からない」と話した。 この事件に絡んだ暴力団員の一人の判決が、平成18年11月10日福岡地裁小倉支部であったが、裁判長は「小山被告は、下関市長選(1998年4月)で、安倍議員の支持する候補の選挙に協力した見返りに金を要求したが断られた。恨みを晴らそうと親交のあった高野被告に犯行を依頼し、組長は組員に犯行を命じた」と指摘し、この事件が下関市長選がらみであったことを認めている。 下関市長選で人権を無視するような怪文書が撒かれ、選挙に関連した利権がらみで暴力団親交者や暴力団が関与するという重大な事件である。 どうして安倍事務所の佐伯秘書は、最初300万円もの大金を支払ったのか。 小山は300万円ではまだ不足だとして再要求しているし、金の支払いを実行させるため、執拗に安倍の自宅と事務所攻撃をくり返している。小山と安倍事務所の佐伯秘書とはどのような約束があったのか。この点について検察の冒頭陳述では何故か上記のように漠然としか述べておらず、怪文書のことは明白にされていない。 しかし、普通の選挙応援で一個人がそのような大金を請求することも、貰うことも考えられない。そこには何か特別な選挙応援があったとしか考えられない。また、小山自身が「怪文書の作成、配布は自分がおこなった。その選挙報酬については、佐伯秘書の上役にあたるK秘書の念書もある」といっていたという複数の人たちの証言もある。 以上の諸点から、小山が佐伯秘書から300万円を受けとり、さらに安倍議員に増額を要求したのは、古賀攻撃の怪文書に対する謝礼の約束履行要求だったのではないかと思われる。 検察も裁判所もこの事件は「下関市長選に絡んだ事件である」「安倍事務所の佐伯秘書が関係した事件である」と認めている。それを「詳しいことは分からない」という安倍事務所の配川秘書の説明では、まさに「臭いものにふた」であり、市民は納得できない。真相を明らかにし、市民に説明すべきである。(つづく) https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/21590 連載 安倍2代を振り返る 〜国民の幸せのためにどのような貢献をしたのか〜(2) 政治経済2021年8月30日 https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/21649 G森友学園問題
この事件は最近の事件であり、現在も進行中なので皆さんもよくご承知のことと思うが、事件の経過と主たる問題点等について記述する。 この事件が如何に権力者の権力乱用であったか。権力者側の身勝手な言動がどれほど政治、行政をゆがめたか。権力者が身勝手な自己保身のために、まじめな公務員に公文書の改ざん等という不正行為を指示した。このために、結局、正義感の強い職員を死にまで追い込んでしまった。その責任は誰が負うのか等、多くの問題点を残したままになっている。
■事件の経過 大阪府豊中市に建設されていた森友学園の小学校予定地(2017年2月)
この事件が明るみに出たのは2017(平成29)年2月。大阪府豊中市内の国有地を、財務省近畿財務局が学校法人・森友学園に随意契約で売却したが、金額を非公表としており、これに疑問をもった地元市議が大阪地裁に提訴。ことの深層を『朝日新聞』をはじめ報道各社が大々的に報じたことにより、以後数年にわたって国会審議の議題となった。 当該国有地(8770平方b)は、昭和49年に伊丹空港に離発着する航空機の騒音対策として大阪航空局(国交省)が住民の移転補償で買いとった土地で、騒音区域が順次解除されるなかでまとまった土地になった。平成25年に大阪航空局が近畿財務局に売却手続きを依頼し、同年9月に森友学園が小学校用地として取得に動いていた。 近畿財務局は平成28年6月、不動産鑑定評価額9億5600万円から、ごみ撤去費として8億1900万円を差し引き、評価額の約15%に当る1億3400万円で森友学園に売却していた。同年3月には、大阪航空局が地下3b以深の埋蔵物撤去工事に係る有益費として1億3176万円を学園側に交付。さらに撤去作業が長引いた事業長期化損失として300万円を値引きしており、近畿財務局の値引き額と合わせると、実質の売却額はわずか149万円程度であった。 土地では、すでに森友学園が「日本で唯一の神道の小学校」とする「瑞穂の國記念小學院」の校舎を建設中であり、平成29年4月に開校を予定していた。森友学園は「教育勅語」の素読や軍歌の斉唱をさせるなどの教育方針で知られ、平成28年に同校の名誉校長に安倍昭恵・総理夫人が就任しており、学園での講演会で昭恵氏が「こちらの教育方針は大変、主人(安倍総理)も素晴らしいと思っている」と称賛する映像も残っていた。 森友学園の小学校建設予定地を訪れた籠池夫妻と安倍昭恵夫人(2014年4月25日)
何度も森友学園を訪れるほど籠池理事長夫妻と懇意だった昭恵氏は、平成26年4月25日、籠池夫妻の案内で小学校建設予定地を見学し、ともに記念写真を撮影。後に公表された改ざん前の財務省公文書によると、同年4月、近畿財務局は籠池氏から「安倍昭恵氏を小学校建設予定地に案内し、『いい土地ですから、前に進めてください』といわれた」と聞かされ、写真を見せられた。ここから「神風が吹いた」と籠池氏は後に語っている。 安倍昭恵氏が名誉校長に就いた平成28年の11月、総理大臣夫人付の内閣事務官・谷査恵子氏が、籠池氏からの要請を受けて、国有地の売買契約や除去工事費の支払いについて財務省に問い合わせ、その回答を籠池氏側にFAX文書で送っていた。 当時の財務省の記録には、昭恵氏付の政府職員から土地の貸付料について「(森友学園側から)優遇を受けられないかと総理夫人に照会」があったと連絡があり、財務省は「現行ルールのなかで最大限の配慮をしている」と回答した――との記載もあった。 近畿財務局からも昭恵氏らの名前が入った文書を受け取った財務省本省は、土地取得資金のメドがつかない森友学園側の要求を呑み、過去に前例のない「売り払いを前提とした10年間の貸し付け」という契約を認めた。その後、学園側と異例の「見積もり合わせ」を含む度重なる価格交渉の末、財務局は「ゼロ円に近い金額までできるだけ評価を努力する」と回答するに至り、前述の異例の値引きとなった。 この問題が国会でとりあげられた平成29年2月17日、安倍総理は森友学園への国有地売買への関与を否定し、「私や妻がこの(森友学園の)認可あるいは国有地払い下げにかかわっていたのであれば、これはもう私は総理大臣を辞める」と明言。それに口裏を合わせるように、麻生財務相や佐川財務省理財局長(当時)は、「法に従い、適切に処理している」「一切、予断を持って先方(森友学園)に内容(売却額)を申し上げることはない」「こちらから提示したこともないし、先方(森友学園)からいくらで買いたいといった希望があったこともない」と正当性を主張した。 だが、その証拠となる森友学園との交渉や面会等の記録や文書は、「売買契約の締結をもって、記録は速やかに廃棄した」(佐川氏)とし、検証資料の提出を拒み続けた。値引きの根拠となる地下ゴミの存在についても、客観資料は何一つ提示されなかった。 むしろ、財務省理財局と学園側の交渉内容を録音した音声データ等が籠池氏らによって公開され、地下から膨大なゴミが出てきたという事実をねつ造して大幅な値引きをするという手順をすり合わせていたことや、財務省側が売買契約締結までのシナリオを示した手引き書まで作って学園側に渡していたことなどの事実が次々と表に出た。 会計検査院は平成29年11月、学園側との土地取引における8億円超の値引き額について「算定方法には十分な根拠が確認できない」とする報告書を国に提出。籠池氏は、「近畿財務局も大阪航空局も(埋設物に関する)資料は持っておらず」「国側の指示に従って森友学園側が撤去費を算出して資料を渡した」と証言した。 同年7月、佐川理財局長は国税庁長官に就任したが、記者会見を開かず雲隠れしたことが批判を集めた。時を同じくして、籠池理事長夫妻は国の補助金をめぐる詐欺容疑で逮捕され、以後300日間にわたって勾留された。 ■公文書改ざんと財務局職員の死 2018(平成30)年3月2日、契約当時の文書にあった「特例」などの文言が、平成29年2月の問題発覚後に国会に提出した文書では消えたり、書き換えられていることを『朝日新聞』が報道。財務省の決裁文書では1ページにわたって記された項目が消えていることが明るみに出る。 公文書の改ざん等は、刑法第155条で「1年以上10年以下の懲役」と定められた犯罪であり、とくに職務上権限をもつ公務員が意図的に公文書を偽造した場合の罪は重い。 亡くなった赤木俊夫さん
同年3月8日、近畿財務局職員の赤木俊夫さん(享年54歳)が自宅で死亡するという悲劇が起きる。公文書の改ざんに関与させられた職員であった。遺書とみられる手記には「今回の問題はすべて財務省理財局が行いました。指示もとは佐川宣寿元理財局長と思います。学園に厚遇したととられかねない部分を本省が修正案を示し、現場として相当抵抗した。事実を知っている者として責任を取ります」と苦しい胸の内が記されていた。 これらを受けて3月9日、佐川氏が国税庁長官を辞任。財務省は決裁文書の改ざんを認め、その後の内部調査で、取引終了後に「廃棄した」として国会に提出しなかった森友学園との交渉記録が存在していることも判明した。廃棄がおこなわれていたのは、改ざんと同時期の平成29年3月下旬以降。安倍総理が国会で「私や妻が関係していたら総理大臣を辞める」と発言し、佐川氏が土地取引について「適正」などという答弁をくり返していたころ、財務省では文書の廃棄や改ざんがおこなわれていたことになる。1年以上にわたる国会審議も、改ざんされた文書をもとにおこなわれていた。 改ざん前の文書(左側)は、改ざん後(右側)にページごと削除されていた。
書き換えられていたのは三つの決裁書を含む14の文書。元の文書にあった「特例的な取引となる」「本件の特殊性」「学園の提案に応じて鑑定評価を行い」「価格提示を行う」など、国の積極関与を裏付ける文言が大幅に削除され、安倍晋三総理、麻生太郎財務相をはじめとする自民党や維新の国会議員10人、さらに昭恵夫人の名前も書き換え後の文書からはすべて消えていた。 ページごと削除された文書には、昭恵氏に関する記述も。
国有地売却をめぐる背任容疑で当時の財務省近畿財務局管財部次長や国土交通省大阪航空局職員ら4人、公文書改ざんをめぐる有印公文書変造・同行使容疑などで佐川氏や近畿財務局管財部長ら6人が刑事告発されたが、大阪地検特捜部は平成30年5月、全員を不起訴とした。検察審査会が「不起訴不当」と議決したが、特捜部は翌年8月に再び不起訴処分とし、一連の捜査を終結させた。 ■森友事件の主な問題点 この事件の主たる問題点は、次の諸点であろう。 A) 国が鑑定依頼した不動産鑑定士が9億5600万円と査定した国有地を、ごみ撤去費8億1900万円などを差し引いたとする1億3400万円で森友学園に売却した。値引き額が大きいが、国は値引きの根拠を立証することができないこと。 安倍総理の昭恵夫人が、この土地売却及び異常に低い価格決定に、結果的に関与していること。 ※この土地は、森友学園が取得を希望した平成25年9月より約2年前の平成23年七月に、別の学校法人が購入を希望した。学校法人はごみ撤去費や汚染土除去費の負担を見込んで約5億8000万円を提示したが折り合わず、購入できなかった。 その同じ土地を森友学園へは、評価額の約86%引きの1億3400万円で売却した。森友学園への大幅値引きの理由は、地中にごみが大量にあるからということだが、どの付近にあったのか、地中のどのぐらいの深さにあったのかについては、確認していないというのだからデタラメである。根拠のない大幅値引きであったことは、この一事をもってしても明白である。 総理夫妻が関与していないといくら主張しても、公文書には関与をうかがわせる記述がある。関与があったことを証明する公文書があったのに、この公文書を廃棄、隠ぺい、改ざん等をしている。このやり方は、民主主義国家ではない。独裁国家のやり方である。 値引きが正当であるという立証責任は国側にあり、立証できないのなら不正価格での売却であり、公務員の背任行為である。 昭恵夫人が、学園で「こちらの教育方針は大変主人も素晴らしいと思っている」などと2度も講演し、名誉校長に就任していたこと。あるいは土地借受け交渉にさいして昭恵氏付きの政府職員が財務省に問い合わせなどをしていることなどが発端となって根拠の乏しい、というよりむしろ根拠のない大幅値引きをすることとなった。本件土地売却等にさいしての各種公文書には、直接的あるいは間接的に昭恵夫人が関与していることが記述されている。 そもそも総理夫人が国有地の借り受け等に関与するなど、行政に口出しすることが許されるのか。総理夫人といえども婦人政治家ではない。時として、総理夫人として公的な立場に立つことはあるが、一般的、通常的には私人である。 したがって、総理夫人みずからが一私人としての行政への関与なら一概に否定はできないが、役所では総理夫人からいわれたら、一国民の発言だとは考えない。強いプレッシャーを受けるはずである。これまでの歴代総理夫人は自分の発言が相手に対して誤解を与える恐れがあるので、極めて抑制的であった。とくに役所に対する要望等については、これまでの総理夫人は発言をしていないのではないか。 本件で昭恵夫人は自分についている政府職員を使って、国有地の借り受け交渉に関与しているが、これは許されない行為である。これこそまさに公私混同の行為である。また、昭恵夫人には日常的に税金で5人もの総理夫人付き政府職員をつけており、うち2人は常駐である。なぜ5人もの政府職員をつける必要があるのか。総理夫人は日常的には私人であるはずで、常駐職員はどう考えてもおかしい。税金の私的な使用である。 歴代総理夫人は何人の秘書がついていたのだろうか。5人もいなかったはずである。 平成28年夏の参院選で、自民、公明両党の選挙応援に昭恵夫人が応援に行ったさい、総理夫人付きの政府職員が、13回以上同行している。無茶苦茶である。 外国では昔から、たとえば、フィリッピンのマルコス大統領のイメルダ夫人のように考え違いをしていた権力者夫人が多くいたようである。しかし、日本では幸いにもこれまで公務や公金がらみの問題に首を突っ込み、あれこれと発言する総理夫人はいなかった。変な名誉会長や顧問に祭り上げられて得意顔の総理夫人はいなかった。利用されて権力乱用につながることを恐れて、謙虚に振舞っていたものと思われる。 今の日本には残念ながら、権力者(権力者まがいを含めて)等をおだてて自分の利益のために利用しようとする人はあふれている。このような人たちは、権力者等をおだてて自尊心をくすぐるなど、口上手である。そして、このおだてに単純に喜んで乗る権力者等がいる。また、とくに最近では権力者の一挙手一投足に過剰反応する役人も多い。 森友学園事件は、籠池氏というおだて上手と、これに単純に乗ってしまった昭恵夫人と、財務省の佐川局長という忖度上手と、3人の役者が揃ったうえでの事件という印象である。権力を悪用した典型的な事件である。日本を普通の国にするためにも、総理夫人はこれらのことを自覚してほしい。 多くの国民は、安倍氏がいくら否定しようと、安倍総理の昭恵夫人の発言が基になって国有地が不当に安く払い下げられたものと思っている。昭恵夫人がどのような認識であったかにかかわらず、また、どのように弁解しようと、本件国有地の不当な値引き売却は、総理夫人の「地位利用(悪用)」だと思っている。 B) 国有地売却に関する公文書等の廃棄、隠ぺい、改ざんをおこなっていること。 ※ 売却に関する公文書に売却の経緯等が書いてあり、これを見ると安倍夫人等の圧力等によって不当な価格で売却したことがバレるので公文書を廃棄、隠ぺい、改ざんをしたものと思われる。公文書の意図的な廃棄、隠ぺい、改ざんは犯罪行為である。 情報公開制度(公文書公開制度)は政治家や役人の密室政治、密室行政に風穴を開けた。このことによって、これまで政治家や役人が、密室内で国民に内緒でおこなっていた悪いことができなくなった。その点では情報公開制度に基づく公文書の公開は、政治、行政の信頼確保のために絶対に必要な制度である。 しかし、安倍総理によって情報公開制度は骨抜きにされた。安倍総理によって議会制民主主義は形骸化され、総理による公権力や公金の私物化が表面化しなくなり、権力者が悪いことをしやすくなった。 公務員は自分の仕事を正当化するため、あるいは説明責任を果たすために絶対に文書を残すようにしている。公権力や公金等をとり扱えば、国会で決算審査もある。会計検査院の検査もある。また、数年後、自分が異動、退職等によってその部署を離れてから問題化することもある。そのときの質問に備えて、必ず公権力や公金支出の正当性を証明するための文書を作成し、残しておく。ましてや、疑問、疑惑をもたれる恐れがある仕事をしたときは、自己防衛本能から、自分には責任はないということを説明できる資料を絶対に作成して残しておく。それが公務員としての常識である。 また、組織内の協議は、重要なこと、あるいは部局間での調整が必要なこと等のためにおこなわれる。このため、協議議事録的な文書は必ず作成し、保存する。組織外との協議は、調整(利害調整、意見調整等)が必要だから協議するものであり、後日、意見対立やいった、いわないの対立が起きないよう必ず議事録を作成し、保存する。
公務員は説明責任が果たせないと、処分されたり損害賠償を求められる。そういう点からも必ず自己正当性を主張できる文書を作成し、残しておく。説明責任は、議会や内部監査機関からも求められる。公務員の頭から説明責任が忘れられることはありえない。
本件で文書がないとか、廃棄したということは、国民に説明できない不正行為あるいは不正行為まがいのことをしたことが、文書に書いてあるからである。文書の廃棄、改ざん、隠ぺい等をおこなうということは、不正等をおこなったことの何よりの証拠である。
本件での公文書の廃棄、隠ぺい、改ざんは、安倍総理が平成29年2月17日、国会で「私や妻が関与していたら首相も国会議員も辞める」と答弁したことから始まったとされている。多くの国民が、安倍総理の国会答弁から公文書の改ざん等がおこなわれ始めたというこの考え方には客観的妥当性があると感じている。安倍総理があのような答弁をせずに、妻が関与していたと事実を認めた答弁をしていたら、公文書を廃棄、隠ぺい、改ざんをすることもなかったし、赤木さんが亡くなるという哀しいことも起こらなかった。
安倍総理夫妻が土地売却と売却価格に関与していることが、今後、順次解明されるものと期待しているが、まず安倍氏自身が説明すべきである。
土地売却にも、公文書の隠ぺい等にも全く関与していない、関与しているように利用されただけだと主張するのなら、総理夫妻の名を利用(悪用)した公務員に対し、何らかの責任を問うべきである。公務員は、国民の利益のために正しい行政をおこなうべきだと、安倍総理が本当に思っているのなら、国会で虚偽答弁をし、文書の改ざん等を指示、命令した佐川局長や、文書改ざん等をした職員の多くをなぜ昇格させたのか。全く理屈に合わない。
国民の利益のために働くより、総理はじめ権力者の利益のために、あるいは自分のいう通りに働く公務員を優遇するという本音が透けて見える。国民も、公務員も平等には扱わない、自分(総理)の利益のために働いてくれる人、自分を支持してくれる人を優遇するという考えは、「モリ・加計・桜・黒川・河井」事件ですでに実証されている。
C) 本件では公文書の廃棄改ざん等を指示・命令したとされる職員をはじめ、権力者の不正行為に加担した職員の多くが昇任し(その後、財務省は公文書の改ざん等が発覚し国民の批判が高まったため局長以下20人の処分をおこなったが)、不正に反対し正義を貫こうとしたまじめな職員が、死にまで追いやられる結果となってしまった。公文書の改ざん等という不正行為を指示・命令し、安倍総理夫妻を身をもって守った佐川局長は、国税庁長官という財務省役人のナンバー2にまで出世した。一方、公文書の改ざん等、不正行為に強く反対した職員は、不正行為を強いられたあげく死に追いやられた。不正を命じた佐川局長に対しては、退職金(約5000万円)の一部返還を求めるべきである。退職後は処分ができないといって、そのままにしていることには国民は納得できない。まじめな職員を死に追い込んだ責任のある人たち、その責任のトップにある財務大臣までもが、この職員の死亡を他人事のようにいっていることに対しては、腹が立つし、見識、常識、人間性のいずれもが次元の低い人だなとつくづく思う。遺族の方の気持ちを考えると、いたたまれない。 この事件はまだ多くの問題点が残されたままになっている。今後も真相究明と安倍夫妻、財務省の責任は問い続けられるだろうし、問い続けなければならない。国民感情としては、安倍氏に次のような発言と行動をしてほしいと願っている。そうすれば多少の汚名挽回になるかもしれない。
「国有地の売却に関しては、自分も妻も本当に関与していません。しかし、国民に対して説明責任を果たせないような値引きがおこなわれたのは事実で、妻が名誉校長に就任していたのも事実です。妻が講演でこの学校を褒めたのも事実です。妻の秘書である谷氏が、森友学園の要望を財務省にとり次いだのも事実です。私が国会で“国有地払い下げに私や妻が関係していたら首相も国会議員も辞める”と答弁したのも事実です。私のこの国会答弁が原因で、財務省が私や妻の名が出ていた公文書の改ざん、隠ぺいをおこなったといわれています。客観的にみれば、そう考えられても仕方ありません。また、この問題が原因で財務省職員が死去されました。この問題を契機に政治、行政に対する国民の信頼は地に落ちました。これら諸般の状況を考えたとき、私も妻も直接的な関与はしていませんが、全く無関係だと断言できる状況でもありません。政治、行政に対する国民の信頼を回復させるためにも、このさいトップとして全責任を負い、辞職することとしました」 https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/21649
連載 安倍2代を振り返る 〜国民の幸せのためにどのような貢献をしたのか〜(3) 政治経済2021年9月9日 https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/21749 H加計学園問題
森友学園問題の疑惑追及の過程で浮上したのが、加計学園問題である。過去52年にわたって認められてこなかった獣医学部の新設をめぐり、「首相案件」「総理のご意向」という力が加わることで、安倍首相(当時)と関係の深い学校法人に有利な行政処理がなされたという疑惑である。 当時「第二の森友問題」ともいわれたが、安倍首相の学生時代からの「腹心の友」が経営し、数々の自民党国会議員や有力者を身内に抱き込み、規制改革までおこなわせるほどの学園と政治との癒着の深さは、森友学園とは比較にならない。安倍政権下で花開いた癒着型ビジネスの先行モデルといえるもので、これも矛盾に満ちたまま認可され、多額の税金が投入されたことへの疑惑は晴らされておらず、現在進行中の問題である。 問題の経緯 1、52年ぶりの獣医学部新設 加計学園グループ(岡山市)は、「加計学園」「順正学園」「英数学館」「吉備高原学園」「ゆうき学園」「広島加計学園」の6つの学校法人に加え、社会福祉法人、医療法人を包括する大規模グループである。岡山理科大、倉敷芸術科学大、千葉科学大など6つの大学、6つの専門学校のほかに、小中高、幼稚園・保育園、特別養護老人ホーム、美術館まで幅広い分野で事業を展開している。 2017(平成29年)年3月、加計学園傘下の岡山理科大学の獣医学部新設をめぐり、今治市(愛媛県)が36億7800万円相当の公有地(16・8f)を無償で譲渡し、校舎建設費192億円のうち96億円を公金で助成することを決めたことが物議を醸した。8、9億円の値引きで揉めていた森友学園どころではない破格の待遇である。 建設中の岡山理科大学獣医学部(2017年11月、愛媛県今治市)
獣医学部の新設について、管轄する文科省は、1966(昭和41)年の北里大学への獣医学部設置以来、獣医師数は総体として足りているとする農林水産省の見解を踏まえ、獣医師の質の確保や獣医師養成課程の粗製乱造を防ぐなどの観点から、既存の16大学以外に新たに設置することを規制してきた。今治市の獣医学部設置申請も過去15年にわたって認められていなかった。 ところが、2013(平成25)年、第二次安倍政府のもとで「国家戦略特区」が制度化されてから急速に事態が動き出していった。国家戦略特区は、従来の特区と違い、総理大臣のトップダウンで指定した地域において大胆な規制緩和を進めることを可能とするもので、アベノミクスの「成長戦略」の目玉とされたものだ。 2015(平成27)年12月、安倍首相を議長とする国家戦略特区諮問会議は、広島県と今治市を国家戦略特区に指定。翌年1月には、「四国に獣医師学部がない」ことを理由に獣医学部新設の特例措置を認め、翌年に唯一の応募者であった加計学園を事業者として認定した。これに対し日本獣医師会は、「これまで関係者が実施してきた国際水準達成に向けた努力と教育改革にまったく逆行するもので不適切」「十分な検証も行わず、本会等関係者が意見を述べる機会もないまま、一方的に獣医学部の新設が決定されたことはきわめて遺憾」(藏内勇夫会長)と反発を強めた。 獣医師養成課程がある国内16大学では、どこも長い歴史と実績を持っているものの施設や教員数の規模が小さく、国際基準に適合していないため、再編統合などによって、社会的な要請に応えられる専門家を養成できる環境・規模にすることを「喫緊の課題」としてきたからだ。 一方、京都府と京都産業大学も、国家戦略特区制度のもとでの獣医学部設置構想を提示していたが、その後、内閣府は当初の応募要件にあった「全国的見地」で募集をおこなうという文言を消し、「広域的に獣医師系学部が存在しない地域に限り」という条件を入れたため、事実上断念に追い込まれていた。同じ地域に獣医学部を持つ大阪府立大学があるからである。 内閣府は「今治市の提案の方が京都府と比べて熟度が高かった」としたが、今治市の提案が2枚だったのに対し、京都府と京都産業大の共同提案は20枚に及び、iPS細胞を使った再生医療など新たな生命科学の分野で活躍できる獣医師を育てることなどが記されていた。 京都府と京産大は、計画の優劣を判断する以前に突然の条件変更によって自動的にふるい落とされる形となり、その選考過程の不公平さ、不透明さが問題となり、「当初から加計学園ありきの出来レースではなかったのか?」という疑念が強まった。 疑いを払拭するためには、政府として選考の正当性を証明しなければならないが、政府は「スピード感を持った規制改革」「岩盤規制を突破するため」(菅官房長官)などというのみで、今治市や加計学園を選んだ合理的な説明はなされないまま、文科省による設置認可に進んでいた。 獣医学部の認可にあたって政府は「近年の獣医師の需給動向」「既存の大学では対応できないもの」「ライフサイエンスなどの新分野の具体的需要」「既存の獣医師養成でない構想」の四条件を閣議決定(2015年6月30日)していたが、所管する農水省は文科省に判断を丸投げし、文科省の大学設置審議会の審査では、過大な定員、実習計画や教員配置の不透明さなど7件の是正意見が出たうえに、8項目もの留意事項を付してスピード認可するという異例の事態となった。上記の四条件を満たしたといえる客観的根拠は何一つ提示されていない。 私立、公立にかかわらず大学の新設には1校あたり年間数〜十数億円単位で国の補助金が注がれる一大公共事業である。そのため設置認可には、社会的な需給動向を慎重に見極めたうえで、公正・公平な審査が必要とされる。「岩盤規制を打ち破る」などというものが基準になること自体が大きな間違いであり、公益性に責任を持つ行政がやるべきことではない。 2、加計学園を取り巻く安倍人脈 加計学園への優遇が疑われる理由のひとつには、学園と当時の政権担当者である安倍氏とのただならぬ親密さがあった【相関図参照】。 加計学園グループの加計孝太郎(本名・晃太郎)理事長は、安倍氏が大学卒業後、米カリフォルニア州立大ロングビーチ校への語学留学中に知り合ってから40年来の「腹心の友」であり、現在まで頻繁に別荘に招いたりゴルフや会食を共にする仲だった。安倍氏本人も代議士に初当選した93年以降に加計学園の監事となり、報酬を得ていた関係である。 また、加計学園が運営する「御影インターナショナルこども園」(神戸市)は、森友の件と同じく、安倍昭恵・総理夫人が名誉園長に就いていた。ここでもまた総理夫人の登場である。 ※ちなみに安倍首相は国会で「妻が名誉校長を務めているところはあまたの数あるわけだが、それそのものが今まで行政等に影響を及ぼしたことはない」(2018年3月28日)と答弁したが、昭恵夫人の「名誉職」は55件あり、そのうち名誉校長、名誉園長は「モリ」「カケ」の2件だけであった。そして、その度外れた公私混同の振る舞いが「行政に影響を及ぼした」ことを実証したのが、この2件である。 また加計学園系列の千葉科学大学(銚子市)では、安倍政権で内閣官房参与を務めていた木曽功氏(文部官僚出身、加計学園理事)が学長であり、萩生田光一前内閣官房副長官(現・文科大臣)も客員教授として在籍していた。安倍総理秘書官だった井上義行参院議員も、2007(平成19)年の安倍氏の辞任後に客員教授として雇われていた。 下関市長を4期務めた江島潔参院議員も、市長をやめて参院山口選挙区のポストが空くまでの間、加計学園が運営する倉敷芸術科学大学に客員教授として雇われるなど、自民党浪人議員の宿り木のような役割を果たしていた。 加計学園本部には「自由民主党岡山県自治振興支部」が置かれ、夫人が加計学園グループの教育審議委員をしていた東京11区選出の下村博文元文科大臣の政治団体からパーティー券を購入したり、献金をする相互依存関係であることも明らかになった。 このような私的な、あるいは自身の政治派閥としての「借り」を返すためなのか、2016年7月、安倍首相は加計学園監事であった木澤克之弁護士を最高裁判事に任命している。これも日弁連の推薦リストから選出する慣例を度外視した特例的な人選であった。 獣医学部誘致を進めた側を見てみると、愛媛県の加戸守行前知事(元文部官僚)は、日本会議愛媛県支部相談役であり、「美しい日本の憲法をつくる愛媛県民の会」実行委員長。今治市の菅良二市長は、日本会議愛媛県本部の地方議員連盟正会員であった。 加計学園の獣医学部設置に対する破格の優遇の裏には、このような政治的利害や、特定のイデオロギーにもとづく関係性が存在している。 個人の思想信条は自由であるが、公職に身を置く行政担当者が公金や公権力を行使するうえで、公私を明確に区別しなければならないというのは民主主義社会の原則である。このような利益相反、利益誘導は、森友学園問題も含め、安倍政権下で浮上した前代未聞の疑惑の数々に共通する問題であり、「私情で公のプロセスをねじ曲げた」といわれる由縁である。 3、「官邸の最高レベルがいっている」 文科省が作成して保存していた「藤原内閣府審議官との打合せ概要(獣医学部新設)」(2016年9月26日付)などの内部文書では、国家戦略特区を担当する内閣府から、加計学園の獣医学部設置について「平成30年4月開学を大前提に逆算して、最短のスケジュールを作成し、共有していただきたい。これは官邸の最高レベルがいっていること」「『できない』という選択肢はなく、事務的にやることを早くやらないと責任をとることになる。早く政治のトップの判断に持って行く必要あり」「これは総理のご意向だ」などといわれていたことが記されていた。 これについて各メディアが報道すると、菅官房長官(当時)は「出所不明な怪文書」として存在を否定したが、文科省の前川喜平・元事務次官が「あったことをなかったことにはできない」「在籍中に共有していた文書で確実に存在していた」と記者会見で明らかにした。 前川氏によれば、当時の和泉洋人首相補佐官からも「総理は自分の口からはいえないから、私がかわりにいう」などという発言とともに、獣医学部新設を急ぐように直接要請され、「獣医学部新設の四つの条件に合致しているかどうかを判断すべき責任がある内閣府は、そこの判断を十分根拠のある形でしていない。極めて薄弱な根拠のもとで規制緩和がおこなわれた。そのことによって、公正公平であるべき行政がゆがめられた」という。認可後に責任を問われる可能性がある文科省にとっては、記録を文書で保存することは自衛措置でもあった。 文科省はこれらの文書の存在を公式に認め、萩生田官房副長官(現文科大臣)が2016(平成28)年10月に「農水省は了解しているのに、文科省だけが怖じ気づいている」「官邸は絶対にやるといっている」「総理は“平成30(2018)年4月開学”とおしりを切っていた」などとのべた面会記録も公表。いずれも国家戦略特区で加計学園の獣医学部新設を認める以前から、同学園を事業者とすることを前提とした内容だった。 さらに2015(平成27)年4月に官邸で、愛媛県や今治市の職員、加計学園幹部が、官邸の柳瀬唯夫首相秘書官(当時)や内閣府の藤原豊地方創生推進室次長(同)と面会したさいの愛媛県の記録文書が明らかになった。文書によれば、藤原次長は「総理官邸から聞いている」「かなりチャンスがあると思っていただいてよい」と太鼓判を押し、柳瀬秘書官は「本件は首相案件となっている」と発言していた。 柳瀬秘書官は「記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはない」と面会の事実を否定したが、愛媛県の中村知事は「愛媛県の信頼にかかわる。一般論として、真実ではないこと、偽りのこと、極論でいえばウソというものは、それは発言した人にとどまることなく、他人を巻き込んでいく」と反論。「県職員は子どもの使いじゃない」「なぜこんなに単純な話がずるずると引きずられていかなければいけないのか。終止符をうちたい」として、面会時に受けとった柳瀬氏の名刺とともに記録文書を公開した。参考人招致を受けた柳瀬氏は一転して面会を認めたが、2カ月後には経産省審議官を退任し、民間企業の非常勤取締役に天下った。 虚偽答弁を重ねたあげくの論理破綻であり、「総理のご意向」として進んだプロセスに安倍氏自身がどのように関与したのか? が焦点となった。 時系列で見ると、2013(平成25)年に安倍政権のもとで国家戦略特区制度が導入され、2015年4月に加計学園幹部と愛媛県、今治市職員らが官邸で面会して獣医学部新設を「首相案件」として約束し、2016年1月に今治市を国家戦略特区に指定。同時期に内閣府は文科省に「官邸の最高レベル」と加計学園の獣医学部認可の圧力をかけ、2017年1月四日に文科省が獣医学部新設を「一校のみ」として認めた。同月20日に内閣府が事業者として加計学園を認定している。 この2013〜16年までの3年間、安倍首相は加計理事長と13回も会食やゴルフを重ねていた。これには後に「総理のご意向」といった柳瀬秘書官や萩生田官房副長官のほか、安倍昭恵夫人や萩生田夫人らも参加していた。 バーベキューを楽しむ安倍首相、加計孝太郎、萩生田光一 (2013年5月、萩生田氏のブログより)
安倍氏は「私がご馳走することもあるし、先方が支払うこともある。友人なので割り勘もある。何か頼まれてご馳走されたことはない」「獣医学部新設について、加計氏から話をされたこともないし、私から話をしたこともない」と釈明したが、そもそも国家公務員や閣僚には「全体の奉仕者」として職務を遂行するための倫理規程がある。 国家公務員倫理法に基づく「国家公務員倫理規程」では、「国家公務員が、許認可等の相手方、補助金等の交付を受ける者など、国家公務員の職務と利害関係を有する者(利害関係者)から金銭・物品の贈与や接待を受けたりすることなどを禁止」し、「割り勘の場合でも利害関係者と共にゴルフや旅行などを行うことを禁止」している。 また「国務大臣、副大臣及び大臣政務官規範」(2001年閣議決定)では、「国務大臣等(内閣総理大臣その他の国務大臣、副大臣)は、国民全体の奉仕者として公共の利益のためにその職務を行い、公私混淆を断ち、職務に関して廉潔性を保持すること」とし、「関係業者との接触に当たっては、供応接待を受けること、職務に関連して贈物や便宜供与を受けること等であって国民の疑惑を招くような行為をしてはならない」としている。 総理大臣が秘書官や官房副長官など官邸スタッフ一同を引き連れて、利害関係者とゴルフや会食に興じることは明らかな規程・規範違反である。 4.首相答弁に始まる虚偽答弁の連鎖 また安倍氏は、加計学園の獣医学部新設については「(加計学園を事業者として認定した)2017年1月20日に初めて知った」と国会でのべた。だが前述のように内閣府が管轄する国家戦略特区諮問会議では、少なくとも2016年から加計学園獣医学部の設置について審議しており、議長の安倍首相が何も知らなかったという説明は成り立たない。 加計学園の獣医学部新設を「総理のご意向」「首相案件」といっていた柳瀬秘書官は2015年2〜6月までに加計学園、愛媛県、今治市職員と3回も面談し、2013年5月に安倍氏の別荘でおこなわれたゴルフやバーベキューを加計理事長とともにするなど公私にわたって関係を深めていた。農水大臣や地方創生大臣も2016年8〜9月に加計理事長と面談しており、首相だけが「知らない」はずはない。 さらに2015年3月の愛媛県の面会記録では、加計学園事務局長が、同年2月に加計理事長が安倍首相と面談して学部新設の目標について説明し、安倍首相が「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」と返したと愛媛県側に報告していた。安倍首相は面会の事実を否定し、加計理事長も「実際には(面会は)なかった」「誤った情報を与えた」と謝罪した。 もし仮に虚偽であるならば、加計学園が認可を得るために首相との架空の面会を捏造して地元自治体を騙す悪質な詐欺行為である。安倍氏がそれを咎めもしないのは、「17年1月まで知らなかった」という自身の国会答弁に照らせば、「なかった」ことにさえできれば自分の体裁を保つのには好都合だからであろう。 この「会った」「会っていない」「記録がある」「やっぱり会っていた」……の問答が国会で1年以上にわたって続いたことによる損失だけでも計り知れないものがある。 しかし、安倍氏がいかにはぐらかそうと、かずかずの公文書に記された動かぬ証拠が示すことは、総理秘書官、内閣官房、国家戦略特区諮問会議、文科省まで巻き込んだ加計学園の獣医学部新設は、文字通り「総理のご意向」として進行していた。 「行政がゆがめられた」という認可プロセスや担当官の虚偽答弁、公文書の廃棄、改ざんなど憲政史上前代未聞の不祥事の連続は、このような首相自身の公私混同の規範違反や、それを隠すためのウソに起因しているといわざるを得ない。 少なくとも罪悪感なりとあれば、人は同じことをくり返さない。だが自身の不品行で疑惑を招くと、その後始末や説明責任は他人に丸投げするという行動原理は、現在に至るまで変化がないようである。 2017年7月のNHK世論調査では、内閣不支持が5割を超え、理由として「首相の人柄が信用できない」が最も多数を占めた。信頼を取り戻すには、ひとつひとつの不祥事について事実関係と責任の所在を明確にし、再発防止策を講じなければならない。だが安倍氏は「謙虚に丁寧に、国民の負託に応えるために全力を尽くす」と釈明しながら、実際の行動では、憲法に基づく野党の臨時国会の召集要求を3カ月たなざらしにした挙げ句、一切の審議もせぬまま衆院を解散した。 「私が目指すこの国のかたちは、活力とチャンスと優しさに満ちあふれ、自律の精神を大事にする、世界に開かれた、“美しい国、日本”であります」――2006年9月、安倍氏の総理大臣就任時の所信表明演説である。「美しい国」とは、「自由な社会を基本とし、規律を知る、凛とした国」「世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのある国」だとものべている。 しかし、安倍氏自身の一連の言動は「規律を知る、凜とした」「美しい国」のリーダーがやることだろうか? どう見ても、国民が見せられたのは「美しい国」とは裏腹な汚れた現実である。 「魚は頭から腐る」といわれるが、不祥事を招いたトップが平気でウソをいい、罪悪感もなく、自分に都合のよいウソだけは認め、その責任も果たさないという組織は誤りの原因を突き止めることも、不祥事の再発を防ぐこともできない。 「四国の獣医師養成を目指す」として国家戦略特区の事業者に認定された加計学園の岡山理科大獣医学部(今治市)は2018年4月に開校した。だが、「開学の目玉」とした四国四県の受験生のために設けた特待枠「四国枠」(定員20人)の志願者は、開学後3年間で募集定員の27%程度にとどまる。合格者は2018年度が4人、19年が1人、そして20年度はゼロである。 これまでに180億円以上の多額の税金が投入されているが、「獣医師の需給動向」「既存の大学では対応できない研究」「ライフサイエンスなどの新分野の具体的需要」「既存の獣医師養成でない構想」の4つの認可条件を満たしたといえる内容はみられず、このことからも「総理のご意向」として進んだ国家戦略特区が、誰のため、何のためのものであったのか、検証される必要がある。何一つ解明されないまま膨らみつづける疑惑をぶら下げてズルズルと今に至っている。 https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/21749
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