「ついに検察幹部まで」――。現職の大阪高検公安部長、三井環容疑者の逮捕は、スキャンダルが相次ぐ政界を追及する立場の検察幹部の不祥事だけに、司法関係者だけでなく国民にも大きな衝撃を与えた。しかも、事件の共謀や不明朗な金銭の授受など暴力団関係者との黒い癒着も指摘されている。最強のはずの捜査機関である検察庁の不祥事に、「誰を信じたらいいのか」。不信が渦巻いている。
◆大阪地検
大阪地検(大阪市福島区)では午前11時50分ごろ、小林敬・次席検事が、三井容疑者の逮捕を発表した。検察幹部の逮捕について「国民の検察に対する信頼を失墜させる行為。今後徹底して捜査し、真実を究明していきたい」と紅潮した面持ちで話した。暴力団関係者と癒着していたことには、「暴力団組員から金と接待を受けていたが、現時点でどういう趣旨のものか申し上げられない」と、最後まで厳しい表情を崩さなかった。
合同庁舎は、地上25階、地下3階建て。総工費310億円をかけて建設され、昨年11月、大阪地・高検は、移転したばかり。移転後、最も注目される事件が、皮肉にも身内の不祥事となった。
◆事件真相は?
三井容疑者は「検察が捜査費用(調査活動費)を飲食費などに流用している」と一部週刊誌で報道された問題で、「記事の情報源ではないか」と検察内部でうわさされていた。また、一部マスコミの取材に応じたことについても、検察首脳から「問題だ」と批判する声が起きていた。
三井容疑者をよく知る法務・検察関係者は「少なくとも世間は、調査活動費問題をリークしたことに対する検察の報復と思うんじゃないか」と心配顔だった。
別の検察幹部は「週刊誌への内部告発者として有名な人物だが、彼が知る調査活動費問題は過去の話。現在は流用などありえない。そういう意味では心配ない」と話した。
検察の調査活動費にからんで大阪地検検事正らを告発している高松市の川上道大(みちひろ)・四国タイムズ社長は「私が告発した検事正らの調査活動費などに関する事実関係を明らかにしようとした三井さんを黙らせるため、こじつけて逮捕したのだと思う。検察の保身体質を感じる」と話している。
また、関西の検察関係者によると、三井容疑者は数年前から個人的に不動産関係の取引を手広く手掛けていたという。
◆神戸市の自宅
神戸市灘区の三井容疑者の自宅前には、報道陣約20人が集まり、六甲山すそ野の静かな住宅街は、ものものしい雰囲気に。家宅捜索が続いているとみられ、2階建ての自宅の窓はカーテンで閉ざされ、ひっそりとした様子だった。
信用はガタ落ち
元東京地検特捜部長の弁護士、河上和雄さんの話 十分な給料をもらっているのに、暴力団とつるんで金もうけをする検察官がいたなんて、信じられない。ひどすぎる。驚いているとしか言いようがない。厳重に処罰するしかない。検察庁の信用はガタ落ちで、これを立て直すのは大変だ。
徹底的に解明を
司法問題に詳しい作家の佐木隆三さんの話 福岡高検次席検事の捜査情報漏えいなど近年、検察不祥事が相次いだが、今回の逮捕はそれらとは全く異質だ。高検の公安部長という要職にある者が、こともあろうに暴力団関係者と一緒に逮捕されるとは驚きで、過去の不祥事の中でも際立って突出している。個人の資質なのか、構造的な問題なのか、検察庁は事件の背後にあるものを徹底的に解明する必要がある。外務省などが自浄能力を発揮できない中で、検察に自浄能力があるかどうか問われている。
明治以来初では
板倉宏・日大教授(刑法)の話 まさか、信じられないという驚きでいっぱいだ。法治国家でこんなことがありうるのかと絶句する。捜査中に参考人に暴行を加えるなど突発的な事案で現職検事が立件されることはあったが、今回のような事案で立件されるのは明治以来初めてではないか。恐るべき犯罪だ。厳しく刑事責任を追及すべきだ。
重大な癒着構造
元最高検検事の土本武司・筑波大名誉教授の話 捜査上、暴力団関係者と接触することがあっても、民事上の取引をするなど異例中の異例だ。財産的に不正な利益を得る目的で虚偽の住民登録や競売物件の買い戻し交渉などをしたのだろうが、検察運営に支障をきたすような重大な癒着構造が水面下にあるはずだ。
◇最近の主な検察官の不祥事◇
1993年11月 ゼネコン汚職事件の捜査で、静岡地検浜松支部の検事が参考人に暴行したとして懲戒免職。処分後、特別公務員暴行陵虐致傷罪で起訴され、有罪に
94年3月 秋田地検次席検事が女性記者に性的嫌がらせをしたとして停職1カ月の処分を受け、辞職
6月 東京地検検事が参考人に暴行したとして停職3カ月の処分を受け、辞職
10月 東京地検検事が汚職事件で取り調べ中の茨城県つくば市議に暴行し、停職3カ月の処分。辞職
98年6月 新潟地検検事正が親族の税務調査をめぐり税務署長に抗議文を出し、戒告処分に。辞職
99年4月 東京高検検事長が女性問題を月刊誌に取り上げられ、検事総長から厳重注意を受けて、辞任
00年5月 法務総合研究所の検事が電車内で痴漢行為をしたとして現行犯逮捕され、懲戒免職
6月 名古屋高検総務部長が書店などで万引きしたとして減給10分の1(1カ月)の処分を受け、辞職
01年3月 福岡地検次席検事が、福岡高裁判事の妻に対する捜査情報漏えい疑惑で6カ月の停職処分。辞職(毎日新聞)
[4月22日14時31分更新]