(回答先: 「銀行よ、さようなら」時代 投稿者 あぼーん3世 日時 2002 年 3 月 06 日 15:46:57)
1962年から1964年前半までは、企業の業績は悪いものの、経済成長率は10%を超えています。
証券業界だけが、深刻な苦境に立っていたのです。
株が下がり、投資信託は、額面割れになります。投信人気が離散すると、解約が殺到します。現金を捻出するために、投信会社は、株を換金せざるを得ません。
池で鯨が苦しむと、ますます株価が下がる。悪循環が続きます。
投信にとって、増資(当時は額面増資)も悩みの種でした。持ち株の増資の払込資金を捻出するために、手持ち株を売らなければなりません。
証券会社は、解約された投信の公社債を採算割れで引き取ったことから、資金繰りも悪化します。市中銀行は、公社債担保融資を行い、証券会社を助けます。出来高も、1億株を割り、証券会社の赤字が膨らみます。
1963年11月、ケネディ大統領が暗殺されると、株価は暴落します。
年末には、マジノラインといわれた、東証ダウ1200円割れが現実味をおびてきます。
1964年1月10日、株式買い上げ機関「日本共同証券」の設立構想が発表されます。
大蔵省の加治木財務官、中山興銀頭取、宇佐美三菱銀行頭取、岩佐富士銀行頭取が極秘に会談して決定したと言われています。銀行主導で生まれたこの機関は、株式市場から株を買い上げて、市場の崩壊を防ごうとしたのです。
市場はこれを歓迎して値上がりしますが、3月6日の第一回の買い上げ規模が20億円だと分かると、失望売りが出ます。
その後も、株価が1200円を割りそうになると、日本共同証券は、買い出動します。
しかし、株価回復の道筋は見えてきません。
東京オリンピックも終わり、年末になると実体経済も悪化して、サンウェーブ、日本特殊鋼が倒産します。
さらなる株価対策が必要なことは、誰の目からも明らかでした。
1965年1月5日、新買い上げ機関の設立構想が発表されます。
同月12日、証券会社が中心となって、日本証券保有組合が設立されます。日銀の資金で投信や証券会社の持ち株を直接買い上げることが決まります。
1月21日、同組合は投信保有株の一律10%を買い上げます。
そして、翌月、同組合は証券会社から500億円分の株式を買い上げます。
同じく2月、増資の禁止措置もとられます。
◆◆「やれやれ、これで一安心」と誰もが思いました。◆◆
◆◆ ところが、最大のヤマ場が、この3ヵ月後に訪れます。◆◆
1964年9月期の山一証券の赤字額は34億円でした。ところが、実際の赤字は、300億円で、深刻な経営危機に直面していたのです。大手新聞各社もこの事実を知っていましたが、報道管制によって記事になりませんでした。
1965年5月21日、報道協定を結んでいない西日本新聞が、朝刊で山一證券の危機をスクープします。
直ぐに全国紙も、山一証券の信用不安を記事にします。
22日から、山一証券の各支店には顧客が殺到し、預かり資産の引出しと投信の解約のために、長蛇の列をつくります。 28日、東証ダウは、1089円まで暴落します。山一証券は、午後の資金繰りがつきません・・・
同日、田中角栄蔵相は、関係者を一喝。
日銀法25条を発動して、無担保、無制限の特別融資を山一証券に実施します。このまま放置したら、
信用不安が銀行へ波及して、外国の短期資金が逃避する、と見抜き決断したのです。
現実の特融は上限が決められ、市中銀行が少し担保を出したようです。
しかし、田中蔵相のアイディアで「無担保、無制限の特別融資」と発表されたことが、絶大な効力を発揮したのです。 29日(土)は、半日の立会いですが、相場は反発して1109円となります。
共同証券と証券保有組合は、2年間で4236億円購入しました。これは、株式時価総額(6兆6000億円)の6.4%に相当します。株価は下支えされますが、上昇しません。
7月12日、東証ダウは、1020円49銭の最安値をつけます。
「ダウの1000円割れは必至」と多くの経済評論家が、
過激な予測を発表します。
しかし、この瞬間が大底だったのです。
7月27日、総合景気対策が発表されます。
その中で、戦後初めて赤字国債を発行して、景気浮揚を行うことが明言されます。
翌日から株価のV字型の回復が始まります。
そして、11月、いざなぎ景気が始まり、日本は繁栄を取り戻します。
その後、共同証券と証券保有組合は、購入した株式を放出して、市場の疫病神となります。また、影響を緩和するため、かなりの株式が、関係の深い法人にはめ込まれます。日本の株式市場の特徴である株式持合いは、このときに進んだのです。
共同証券と証券保有組合は、株価の上昇に助けられ、黒字で解散することが出来ました。
◆◆また、山一證券は、その後立ち直り、この時の日銀特融はすべて返済します。◆◆
◆◆ ところで、せっかく調べたのに、◆◆
◆◆平成の株式買い上げ機関構想は、延期されたのですね。◆◆
◆◆昔の人の仕事振りと比較すると、感じるものがありますね。◆◆