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共産党を警視庁が癒着しているなどとは、だれも考えないであろう。むしろ、敵対関係にあると思うのが普通だ。ところが実態は多くの国民の予想とは大きく違う。癒着のわかりやすい実例が、”交通違反もみ消し”の慣習である。 鈴木俊一都政時代、私が耳にした共産党都議団控室での会話を再現すると−。 「こちらA(国会議員)事務所のB(地元秘書)ですが、C都議はいますか」 「はいCです」 「○丁目の魚屋さん、違法駐車で免停(免許停止)になって、築地市場に行けずに困っているんです。なんとかなりませんか」 「ああ、大丈夫です。任せてください」 「それではよろしく」 「はい、お疲れさま」 都議はすぐさま、都議会内にある警視庁の詰め所に電話する。 「ああ、Cだが、D警視はいるかね」 「はい、私であります」 「ああ、どうも。いまA事務所の秘書から電話があってね。たった一点オーバーしただけなんだが、免停で市場に行けなくなった魚屋がいる。警察官の点数稼ぎもいいけど、本人にとっては営業権、生活権にかかわる問題だよ。なんとかならんかね」 「わかりました。××署に連絡します。先生、その魚屋さんを署に行かせてください」 「それはわかっている」 「では、その線で」 「よろしく頼む」 これで一件落着である。 2000.5.5-12週刊朝日p.22 |
交通違反もみ消し依頼は、先の国会議員秘書からの電話のほか、都議が直接支持者に頼まれたり、違反した運転手本人が都議団控室に頼みに来たり、とルートはさまざまだが、その先は、いつも都議会に詰めている警視庁警察官に連絡して「解決」(もみ消し)していた。国会議員秘書が都議に頼んでくるのは、できる限り国会議員に違法行為にかかわらせたくないからだ。都議であれば、問題になったときも個人責任にしてしまえばよいわけで、社会的な重みが違うのである。
日本共産党は理論政党である。いかなる政策、いかなる行為においても「社会合理性」「反大企業」「国民福祉優先」「国民生活防衛」の視点がなければならない、とされている。だから、もみ消しの関与にも、国民生活防衛の視点からの理論づけがあった。 民青を卒業し、都議団に配属されたばかりのころ、「こんな違法行為を行っていていいのか」と都議団指導部に問いただした事がある。 指導部の回答は明快だった。 「現行法は資本主義体制を守るために存在するというのが第一点。第二に、『ネズミ捕り』など警察官による点数稼ぎという低次元の行為による免停を考える場合、わずか一点の点数切れで、営業権、生活権、生存権という高次元の人権を侵害していいのか。答えは否である。それを防衛するのが共産党の役割である。国家権力に対する弱者を守るのが共産党だ。第三に各政党も行っている」 「さすが都議団指導部だ」 と感心したことを今でも覚えている。私自身、日常茶飯事のもみ消し仲介を見ているうちに、「これは正義の活動だ」と考えるようになり、感覚が麻痺していったのだ。 美濃部都政で共産党が与党だった時代に培われたこの習慣は、鈴木都政で野党になっても続いた。「人権を守り、弱者を権力から守る」という「高次元」の活動として……。 共産党都議団が、「もみ消し」を正当化し、日常的に行っていたもう一つの大きな理由は選挙だった。
2000.5.5-12週刊朝日p.23 |
控え室に議員が一人もいなかったので、土曜日のことだと思う。受付の女性が交通違反のお客さんだと言うので、警務消防委員会担当の私が応接室に行くと、五十歳前後の男性が青ざめた顔で待っていた。輸入雑貨関係の社長だという。 「実は昨日、スピード違反で捕まり、二点オーバーで免停になってしまった。共産党に行けばなんとかなると聞いてやってまいりました。軽トラックを動かせないと、芝浦の倉庫にある商品を搬送できないのです。なんとかお願いします」 と平身低頭で言う。 「事故そのものは取り消すことはできませんが、オーバーした点数の消去ならできなくはありませんよ」 と告げると、 「それで結構です。やっていただければ、お礼に党にカンパいたします」 ときた。党勢拡大のチャンスだ。私は、 「いえ、わが党は都民の方の相談、陳情ではお金を受け取りません」 と断ったうえで、こう言った。 「次の選挙でご協力願えればいいのですが」 「もちろん協力させていただきます」 その場で警視庁都議会詰め所に電話すると、警視はいなかったが、別の警察官が対応してくれた。 「了解しました。ただちに署に連絡します」 「よろしく」 会話を聞いていた社長は、 「いやー、本当に助かりました。やはり共産党はすごい」 と、何度も何度もアタマを下げて帰っていった。 依頼者に選挙の カンパを頼んだ 共産党の場合、他党と違い、もみ消しを仲介しても、すぐに礼金を求めるようなことはしない。もみ消した違反者の名簿を整理しておいて、選挙時にカンパしていただくのだ。 共産党には「二本足の活動」という方針がある。国民の要求実現と、党勢拡大の結合が重要、というものだ。もみ消しは、二つを両立できる格好の活動でもあった。 「中小企業の営業を守ったうえに、きたる選挙での協力まで取りつけることができた。これこそ党中央が日ごろ言う二本足の有機的結合だ」 と、私は「誇り」にすら思った。都議選のとき、この社長にカンパをお願いしたのは言うまでもない。その後の総選挙、参院選のときもまたしかりである。 当時は、もみ消しが違法行為、犯罪行為であるなどということは、頭の片隅にも浮かばなかった。当たり前のこと、いや、党のため人民のためなのだと本気で思っていたのだ。しかし、交通違反の当事者から、違法なもみ消し仲介者がカンパを集金するシステムは、犯罪者からカネを集めるに等しい。いま考えれば、私の「誇り」は「おごり」だったのだ。 警視庁が、好きでもない共産党のもみ消し依頼を受けるのはなぜか。都議会に常駐している警察官の主要な任務について、ある警視がこう明かしたことがある。 「都議会各派(各党)の監視と、警視庁への質問をできる限り阻止することです。そのためには、各会派の弱点を日常的に把握し、いざというときにそれを突きつけ、議会で質問をさせないようにするのです」 つまり、警視庁にとって違反もみ消しは、いちばん身近で簡単な恩の売り方なのだ。最大の狙いはこれだったのだ。 2000.5.5-12週刊朝日p.24 |
あやまちを認め 政治の王道を歩め 数年前のことだ。居酒屋で常連たちが、警察の「ネズミ捕り」で引っかかった話で盛り上がっていた。そのとき、中小企業の奥さんが、 「共産党がいちばんだって。もみ消してくれるのは」 と言うではないか。私も、 「私もやっていました。必要なら紹介しますよ」 などと自慢げに話したのだった。 党を離れて七年。今でももみ消しできるのだろうか。当時の関係者に尋ねてみると、 「五、六年前からいっさいやっていない」 という話だ。数年前に党内で問題になり、やめたのだという。ただ、個別にはつい最近まで、もみ消しがあったことをにおわせる関係者もいた。 もみ消しは「正 義の活動」であると信じていた私も、警察、国会議員秘書のもみ消し不祥事が明らかになるにつれ、 「なんという違法行為をやっていたのか」 「共産党都議団は違法行為集団だったのか」 と頭を殴られる思いがした。いま冷静に考えれば、「弱者救済」の論理もまったく社会的に通用しないことは明白だ。「一点くらいで生存を侵害するのは不当」という理屈は、点数のみに目を奪われた一面的見解である。「一点」の交通違反に、人命を奪う危険性があることを見ていない。どんな理屈をつけようと、違法行為は違法行為だ。免停になるまでの違法行為の蓄積こそが問題なのであり、その全責任はその運転者にあるのだ。しかも「低次元」とばかにする「ネズミ捕り」などで点数稼ぎしている警視庁にお願いするのだから、話にならない。 都議団でもみ消し仲介が横行していることについて、ある都議が、 「党中央に知れたらまずい」 と、言っていたことがある。党本部は、都議団でこんな不正が行われていたことを知らないのかもしれない。 私は党を除名された人間であり、党が私を信用してくれなかったことを悲しく思っているが、三十年間の党活動は私の血肉であり、いまだに共産主義の信奉者だ。それだけに、共産党には過ちを過ちと認め、権力、大企業と闘うという国民の期待にこたえてほしい。日本共産党都議団は二度と違法行為をせず、政治の王道に戻るべきれある。 私の反省を込めて……。 |
「もみ消し はい、やりました」 元共産党都議、区議らが証言する実態 |
こう明確に答えたのは共産党の元都議K氏。二十年あまりの議員生活のうちほとんどを警察・消防委員会の委員として過ごした。 いつ、どのようなもみ消しを行ったのか覚えておらず、件数もはっきりしないというが、こう語る。 「悪いことをしたというなら、一回だろうと二回だろうと数は関係ないでしょう。ただし、私のもみ消しはよその党と違う。だれでも彼でもやったのではない」 K氏のもみ消しは佐藤氏が言うとおり、「弱者救済」の信念に基づいたものだったと主張する。 2000.5.5-12週刊朝日p.25 |
もみ消してあげた人たちからカンパをもらったことはないか、という点についてはこう語った。 「そういうことも当然あったでしょう」 K氏は「もみ消しは私一人でやった」と言うが、 「(交通違反のことで)頼まれて警察に問い合わせたことがなかったかと聞かれれば、それはねえ……」 と語るのは同じく共産党の元都議T氏である。 「でも、私はわざわざ警察に電話していない。議会で警察関連の法案をかけるとき、あらかじめ警察の人が質問内容を聞きに来る。そのときに『実はこういうことで困っている人がいるんだけど……』と話ました。交通違反のことを頼まれるのは、正直いって嫌いだったけど、相手の窮状を知りながらなんいもしないのもねえ……。私に断られた人がほかの議員のところに行って問題が解決したら立場的にも難しいですし……」 うちの党に限り もみ消しはしない 都議ばかりではない。元教団党文教区議で、後に党を除名された「文教区政新聞」の社主、辻泰介氏(77)は当時をこう振り返る。 「共産党は依頼ごとの処理を熱心にやる。特に交通違反のもみ消しは重要、それをやると必ず票に結びつきますから。私もやりました。先輩区議に教わって都議と一緒に、都議会にある警視庁の出先に行った。依頼の多い共産党はそこのお得意さんになっていました。」 辻氏は共産党人脈の力が及ばないとき、自民党区議に頼んだこともある。 「区議会は党はを超えて家族的つながりもある。共産党も自民党も個人的なつながりのなかで貸し借りしている。言うことをきかないと議会でいじめえられたりするからやってくれるんです」 「匿名」を条件に、現職の共産党区議は、昨年行った自らのもみ消し工作を認めてこう語った。 「私の場合、党員以外はやらない。同僚の区議に頼んだんです。その人が直接処理したのか、都議に頼んだのかはわかりません。でも、これは弱者の生活を守る手段。ほかの党だってやっている。まあ、件数はうちのほうが多いとは思うけど……」 もっとも、もみ消し工作について、現職の都議は全面否定する。共産党都議団の秋田かくお団長は、 「うちの党に限って、もみ消しはない」 都議会に行われていたもみ消しについて、今日共産党広報部も、 「問い合わせされているようなことは一切ない。事実無根である。交通違反のもみ消しなどを許されないことだ」 と全面否定。警視庁の広報も、もみ消しについて、 「そのような事実は確認していない」 という回答だった。 共産党は自民党の白川秘書のもみ消しが発 覚したとき、「政権党と警察の癒着」と批判した。国会でも衆院法務委員会で「過去の同種事件の徹底調査と報告」を警視庁に要求しているが、足下の疑惑について自ら調査する気はないのか。 本誌・木之本敬介、大島辰男、喜多克尚/上杉隆 2000.5.5-12週刊朝日p.26 |