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(回答先: 害もないのでしょうか? 投稿者 baka 日時 2003 年 1 月 07 日 21:37:17)
日銀は宣言は行っていないとしても実質的には「インフレ目標政策」を実施していると考えるべきです。
日銀が「インフレ目標政策」の実施をためらうのは、実効性のない政策を行って日銀の無能や金融政策の無力性をさらすことになるのを避けたいからでしょう。
日銀が「インフレ目標政策」を行う手段としては、利子率が実質0%まで低下しているので、通貨発行量(マネタリーベース)の増加に限定されます。
(通貨流通量(マネーサプライ)は商業銀行の貸し出しに依存するので、日銀そのものが増加させることはできません。準備率は通貨流通量を抑制する政策としては効果がありますが、日銀当座預金が20兆円にもなっている現状では増加とは無関係です)
そうなると、金融調節機能としては、「手形又は債券の売買その他の方法」に頼るしかなく、オーソドックスな手法としては銀行が保有する国債などの債券買い上げになります。
銀行は資金の運用に窮しているので、日銀が大量に債券を買うと言っても優良な債券はなかなか売らないはずです。それにも関わらず政治的手法で無理に買い上げると、資金運用難に陥っている銀行は、それ自体収益(利子)を生むことがない日銀券を大量に抱えることになり、“不良債権”の処理原資をさらに減らしてしまうことになります。(50兆円分の国債を買い上げると1兆円ほど利子収入が減少します)
銀行に資金がないから通貨流通量が増加しないという現状ではないので、銀行が保有している債券類を日銀が買い上げて日銀券に転換しても、通貨発行量が増加するだけで通貨流通量(=貸し出し)は増加しません。
インフレやデフレという経済事象は、通貨流通量(流通速度を含む)と財・用役の供給量の関係で生じるものですから、日銀→商業銀行に関わる通貨発行量が増加しても物価変動が生じるわけではありません。
金融調整政策は、通貨流通量の増減に結びついてはじめて意味があるものになります。
非正統的な手法としては、外国通貨建て債券の購入や株式・土地の購入も考えることができますが、それらも「デフレ不況」を克服するわけではありません。
(以降の説明では、日銀のバランスシート悪化問題を無視します)
● 円安政策と物価の関係
米国債などドル建て債券を日銀が直接買えば、通貨発行量が増加し、円安傾向をもたらすことになります。
通貨発行量が増加したからといって通貨流通量が増加するわけではないのはこの場合もまったく同じですから、円安になったら物価が上昇するのかという問題に絞って説明します。
円安は輸入物価を上昇させることは確かですが、消費者物価を上昇させるとは限りません。
家計の収入は円安とは無関係ですから、消費に回せる金額は従来通りです。
平均的家計の消費金額が月平均30万円で、消費に占める輸入品(原材料を含む)の割合が30%だとします。(輸入品に9万円支払っている)
消費可能金額は30万円のままで、輸入品価格が10%上昇すると、従来通りに財を手に入れるためには輸入品に9万9千円支払わなければならなくなります。
これが実際に実行されると、用役を含む国内品に支払われる金額は、21万円から20万1千円に減少します。
輸入品か国内品なのかで消費行動が決まるわけではなく生活上の優先度で決められるはずですが、輸入品が食糧などの必需財で占められていれば、このようなかたちになる可能性が高くなります。
高くなった輸入品に消費が向かえば、国内品に向かう消費金額が減少することになるので、国内品についてはデフレ圧力が加わることになります。
もちろん、10%の価格差により国内品が価格競争力を回復すれば、その商品に対するデフレ圧力は解消されます。
また、輸入品の価格上昇に対応して多くの家計が貯蓄の取り崩しを行えば、デフレ圧力を緩和することになります。(先行き不安感が満ちている現状に照らせば、そのような貯蓄取り崩し行動は限られると予測します)
輸入品に需要がありその価格が上昇する一方で家計・企業・政府の消費金額が従来通りであれば、通常、総体としての財の販売数量は減少することになります。
これは、同じ量を販売するためには、価格を下げなければならなくなることを意味します。
輸入物価が上昇したことで企業が給与を増額すれば、デフレを緩和することになりますが、輸入物価が上がり財の販売数量が減少するという「利益減少状況」では、企業がそのような行動をとるとは到底考えられません。
(輸入物価上昇に対応して財政支出が増加することはないと考えるのが現状ではまともな判断でしょう)
円安政策は、輸出企業の利益を増加させるとしても、国内向け企業の収益を悪化させ、国内品の物価下落(デフレ)圧力をもたらすものです。
(1兆円もの利益を計上したトヨタがベースアップを行わないのですから、円安で利益を増大させた輸出企業が給与を増加させるというのも期待できません)
円安政策がデフレを解消すると考えている経済学者は、経済論理がわかっていないと言えます。
「ない袖は振れない」(家計収入が増加しないで物価が上がったら、これまで通りの消費は出来ない)という簡単なことさえ理解できていないことになります。
● 日銀による株式・土地の購入
もう一つの方式である日銀が株式や土地を購入して通貨流通量を増加させるという手法を考えてみます。
(日銀が投資家や不動産業者になってしまうという野暮な(まっとうな)非難はしないでおきます)
この手法は、株価や不動産価格を押し上げることになります。(日銀券は印刷すれば済むものですから、論理的には無制限に買うことができますから)
日銀に売った株式や土地を保有していた人は、まず損失を減少させ、次には利益を得ることになります。(もっと高くなると見込んで、現金に困っている人以外に売る人があまりいないはずです)
株式や土地を日銀券に換えた人たちが消費に励めば物価上昇をもたらすことになりますが、あくまでも一時所得ですから、そのお金を使い切った時点で反動のデフレ圧力が加わることになります。
土地と株式の買い上げで銀行の不良債権処理は確実に進みます。
売る人がちゃんといて買い上げがうまくいけば、日銀は、大量の株式と土地を抱えることになります。(買い上げる土地は基本的に不良資産か遊休地のはずですが、日銀に高く売るために地上げも行われるかもしれません。株式も、日銀に高く売るために買う人が出てきます)
そして、日銀が上場株式すべてと遊休地すべてを買い上げた時点でこの政策は終焉を迎えます。
これは、企業が全て国有企業になったことを意味します。
日銀が保有している株式や土地を売ろうとしてもほとんど買う人はいないはずです。
なぜなら、日銀は経済論理を無視して高値で株式や土地を買ったわけですから、経済論理に規定されているる企業や個人はとてもじゃないが買う気にはなりません。
日銀は、損失を出したくないのなら、保有する株式と土地をそのまま塩漬けにするしかありません。
株式と土地を持ち続けているわけにはいかないというということで売却に走れば、株価と地価は大暴落します。(短期で売却を行えば、元の木阿弥どころではない大暴落になるでしょう)
持続的なフロー(所得)の増加に裏付けられていないストック(資産)価格の上昇は長続きしません。
同様に、フロー(所得)の増加がないままでの財や用役の価格上昇も無理な願望でしかありません。
最後に...
論理で考えられない経済学者も少なからずいるようですから、日銀があらゆる手段を駆使して「インフレ目標政策」を実行してみるのも悪くないかもしれません。
上記のような弊害はありますが、目にもの見せないと理解できない政治家や経済学者がいるのですから、そのような考えを払拭するための授業料だと割り切ってやってみるという手もあります。(国民経済という現実で授業を行うのは愚の骨頂ですが...)