【ワシントン31日=林路郎】
イスラエルによるパレスチナ自治政府議長府制圧で中東情勢が重大局面にさらされている中で、ブッシュ米大統領は30日、テキサス州クロフォードで記者団に対し「イスラエルが自国民を守る必要性を全面的に理解する」と言明、同国のシャロン政権の軍事行動を事実上容認する立場を改めて示した。反テロ原則を最優先、パレスチナ側の暴力停止が事態収拾の前提とする同政権の基本姿勢を反映したものだ。
「世界の指導者、特にアラファト議長はテロに立ち向かわなければならない。100%の(反テロの)戦いをしようとしていない議長に失望している」。ブッシュ大統領は同日、執務室に隔離されたままのアラファト議長に対し、テロ阻止での断固とした措置を取るよう改めて訴えた。一方、イスラエルに対しては、「イスラエルは平和への道筋を残しておくことが肝要だ」と述べただけで、米国としてイスラエルに即時撤退圧力をかけない考えを示した。
大統領のこの立場は、実は、国連安全保障理事会で30日に採択された対イスラエル軍撤退要求決議にも反映されている。同決議は、イスラエル非難を盛り込まず、撤退を「呼びかける」という表現にとどまっているほか、米主導の停戦受け入れと暴力の停止をパレスチナ、イスラエル「双方」に求めた内容。米国はもともと安保理の決議には反対の立場だったが、米国の主張にほぼ沿った形となったため賛成に回ったとみられる。
しかし、パレスチナ自治政府やアラブ諸国が米国の早期介入を強く要求する中で、有効な事態打開策を打ち出さない米国への国際的批判も高まっている。大統領は30日、エジプト、ヨルダン、サウジアラビアの各首脳に加え、アナン国連事務総長、欧州連合(EU)議長国を務めるスペインのアスナール首相と電話で協議したが、「停戦が必要との認識で一致した」(大統領)だけ。ジニ米特使による停戦調停も完全な手詰まり状態で、イスラエルのアラファト議長監禁をこのまま座視すれば、米国が国際社会で孤立することにもなりかねない。
(4月1日01:28)