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食卓の向こう側・第4部 輸入・加工知らない世界<13>選食力 意識高め産業育てる
2004/11/05付 朝刊掲載
http://www.nishinippon.co.jp/news/2004/shoku/shoku5/13.html
試験紙を使った、ハムの発色剤検出実験。反応すれば桃色になる
通りかかった精肉店で、野本健司(42)=川崎市=は足を止めた。
「あれ?」
以前は「無添加」という札が目立っていたハムの量り売りコーナーの様子が違う。「着色料は無添加。発色剤、酸化防止剤、調味料は使っています」。表示が細かくなっていた。「学習会の効果かな」
野本は食品の学習会を開いている市民団体「食の安全を考える会」代表。その精肉店がある地域では、ほとんどの小学校PTAと子育てサークルの会合に出向き、ハムの発色剤の検出実験をやっていた。
リトマス試験紙のようなテスターをハムに当て、発色剤(亜硝酸塩)に反応すれば桃色になるという実験。冒頭のハムはいつも“桃色”。「『無添加』と書いてあるのに、発色剤が入っている」。決まって、参加者は驚きの声を上げていた。
「その誰かに指摘されて、店が表示を正確にしたのかもしれない」。野本は、小さな手ごたえを感じた。
× ×
「いい物を選ぶ消費者を育てて、メーカーを引っ張ろう」。野本たちが、活動方針を転換したのは、約十年前。
それまでは、行政やメーカーを相手に、食品添加物の表示の厳格化や、使用規制の強化を訴えていた。しかし、多大な時間と労力を費やして“前進回答”を勝ち取っても、環境ホルモン、遺伝子組み換え食品、食物アレルギー…と、問題は次々に出てくる。「まるでいたちごっこだった」
いま、市民のための勉強会を、年に十五―三十回のペースで続けている。最近は、スーパーや食品加工業者からも、講演依頼が来るようになった。作り手、売り手との間に芽ばえた、歩み寄り。
今こそ、消費者の意識が大切だと、野本は思う。メーカーがやっとの思いでいい食品を作っても、消費者が安さや便利さだけに目を奪われ、評価しなければ、一円でも安い類似品に淘汰(とうた)される。「消費者ニーズは、まじめなメーカーの壁にもなり得る」(野本)
× ×
こんなタイプいませんか。 「黒豆が体にいい」と、黒豆ゼリーばかり買うが、日ごろは偏食している人。「赤いめんたいこは危険」と無着色を選ぶが、発色剤、酸化防止剤、保存料などは、意識の外の人。
「偏った情報で『あれはいい』『これは悪い』と騒ぐ消費者ほど、まじめなメーカーにとって怖いものはない」。食品産業に詳しい熊本県立大学教授の有薗幸司(50)は、作り手側の思いを代弁する。
そうかといって、食の安全性を突き詰めれば、まじめなメーカーと共感し合えるというものでもない。
消費者「酸化防止剤(亜硫酸塩)入りワインは体に毒だ」
メーカー「ほかの発酵防止法は難しい。低濃度にした努力を認めてほしい」
消費者「しょうゆも、原料の大豆は100%国産でないとだめ」
メーカー「大豆の自給率は5%しかないのに…」
厳格にこだわっていけば、メーカーは製造コストや食材調達の面で行き詰まり、さじを投げてしまいかねない。それより、消費者とメーカーが歩み寄り、できることから食品産業を底上げする方が意味は大きいと、有薗は考える。
手始めに、昨年は熊本県と、携帯電話からアクセスできるホームページ「食品表示ミニミニ百科」を開設。若い世代にも、食品への興味を持たせるのが狙いだ。一方で、消費者がメーカーを信用できるよう、食品添加物の使用基準を見直す研究もしている。
完ぺきな安全性を求めても、日本の食材を取り巻く環境は厳しい。「ゼロリスク」でなくとも、より低リスクの物を選べる人を増やす。「選食力」の育成こそ、有薗が考える「健康日本」復活の鍵だ。 (敬称略)
× ×
▼亜硝酸塩 肉の赤い色素が酸化して黒ずむのを防ぐ食品添加物。魚などに含まれる物質と反応すると、発がん性物質ニトロソアミンを生成するが、国は「使用基準を守れば健康に問題はない」と認可している。欧州では、食中毒を起こすボツリヌス菌の増殖防止のために、ハムやソーセージに古くから使っている。