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【国債問題への定量的アプローチ】その2:デフレ下とインフレ下での国債負担の差異 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:28:53:

(回答先: 【国債問題への定量的アプローチ】その1:国債発行高と国債償還の推移 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:25:09)

「デフレ不況」を脱却することが国債問題の解消でもあるということ、逆に言えば、「デフレ不況」が続けば国債問題が噴出するということを単純なモデルで考えてみたい。

デフレ・インフレ(GDPデフレータ)というそれぞれのモデルとも、出発点の与件をGDP500兆円・国債発行高30兆円・税収50兆円とする。30兆円の国債は毎年償還と利払いを行い、60年後に全額償還するものとする。(これは、現在の日本国債の償還方法である)
毎年の償還額は0.5兆円で、利払いは元本残高に対して支払うものとする。

GDPに対する税収比率は、インフレ下のほうが高いが、このモデルではともに10%とする。(参考データ添付)
さらに、両モデルで名目金利は異なるが、実質金利は2%で同じである。


[インフレモデル]

名目金利:3%・インフレ率1%・実質GDP成長率0%という条件を設定する。
雑ぱくに言えば、名目GDPは増大するが、実質GDPは成長しないというモデルである。
支払い利息は減少した元本に対し3%である。

     名目  国債
     GDP 残高   税収   利息  利息/税 償還/税 合計/税
===========================================================================
 5年後 526 28   52.6 0.84 1.6 1.0  2.5
10年後 552 25.5 55.2 0.76 1.4 0.9  2.3
20年後 610 20.5 61.0 0.62 1.0 0.8  1.8
30年後 674 15.5 67.4 0.46 0.7 0.7  1.4
40年後 744 10.5 74.4 0.31 0.4 0.7  1.1
50年後 822  5.5 82.2 0.16 0.2 0.6  0.8
60年後 908  0.5 90.8 0.02 0.0 0.6  0.6

[デフレモデル]

名目金利:1%・デフレ率1%・実質GDP成長率0%という条件を設定する。
雑ぱくに言えば、名目GDPは減少するが、実質GDPは変化しないというモデルである。

支払い利息は減少した元本に対し1%とし、償還を毎年0.5兆円ずつ行うものとする。

     名目  国債
     GDP 残高   税収   利息  利息/税 償還/税 合計/税
===========================================================================
 5年後 475 28   47.5 0.28 0.6 1.1  1.6
10年後 452 25.5 45.2 0.26 0.6 1.1  1.7
20年後 409 20.5 40.9 0.21 0.5 1.2  1.7
30年後 370 15.5 37.0 0.15 0.4 1.4  1.8
40年後 334 10.5 33.4 0.11 0.3 1.5  1.8
50年後 303  5.5 30.3 0.06 0.2 1.7  1.8
60年後 273  0.5 27.3 0.01 0.0 1.8  1.8

利息+償還の金額が税収に占める割合を比較すると、


     インフレ デフレ
===================================================
 5年後 2.5  1.6
10年後 2.3  1.7
20年後 1.8  1.7
30年後 1.4  1.8
40年後 1.1  1.8
50年後 0.8  1.8
60年後 0.6  1.8


23年後に、インフレモデルとデフレモデルの対税収負担率が逆転する。
23年間はデフレモデルのほうが負担が軽く、残り37年間はインフレモデルのほうが負担が軽くなるということである。
デフレモデルでは、国債残高が減少しても、税収に対する負担は減るどころか逆に増大することになる。これは、デフレにより、元本の重みが増大するからである。

念のために言えば、このモデルでは、デフレが不況をもたらし対GDPでの税収率減少にむすびつくという要素は加味していない。
さらに言えば、単年度国債発行額である30兆円を考慮しただけで、400兆円という国債残高や今後も「緊縮財政」の名の下で毎年30兆円の新規国債が発行されることはいっさい考慮していない。

デフレ下で400兆円を60年間かけて償還するシミュレーションをすると、毎年の償還額は6.6兆円になる。(400兆円全額の償還期間が60年間まるまる残っているわけではないが、(その1)の発行高推移と経済状況を見れば、400兆円を60年間かけて償還するというモデルは、少なく見積もり過ぎると言える金額である。また、参考データを見てわかるように、過去の発行分が高金利なので金利は1%では済まないがそれも1%とした)


[デフレモデル]

     名目  国債
     GDP 残高   税収   利息 償還+利子 対税収率
===========================================================================
 5年後 475 373 47.5 3.73 10.4 21.9
10年後 452 340 45.2 3.40 10.6 23.5
20年後 409 273 40.9 2.73  9.3 22.7
30年後 370 206 37.0 2.06  8.7 23.5
40年後 334 140 33.4 1.40  8.1 24.3
50年後 303  73 30.3 0.06  6.7 22.1
60年後 273   6 27.3 0.01  6.7 24.5


※ 30兆円を超える新規国債発行は、“まだ”5年しか継続していない。
5/60=1/12である。今後も、30兆円の新規国債発行が続けばどうなるかを考えれば、上記モデルも“極めて軽い”ケースであることがわかると思う。
10兆円未満しか発行していなかった国債の償還が徐々に終わっていき、その代わりに30兆円の新規発行が国債残高に加算されていくのである。


[インフレモデル]

     名目  国債
     GDP 残高   税収   利息  償還+利子 対税収率
===========================================================================
 5年後 526 373 52.6 11.2 17.9  34.0
10年後 552 340 55.2 10.2 16.9  30.6
20年後 610 273 61.0  8.2 14.9  24.4
30年後 674 206 67.4  6.2 12.9  19.1
40年後 744 140 74.4  4.2 10.8  14.5
50年後 822  73 82.2  2.2  8.9  10.8
60年後 908   6 90.8  0.2  6.9   7.6

このようなデータに対しては、そんなにデフレが続くはずはないという経験論的な反論があるかも知れないが、戦後世界では、スラグフレーションに陥った国民経済は数あれど、「デフレ不況」に陥った国民経済は98年以降(94年以降と言ってもいい)の日本が初めてなのである。だから、このままデフレが続くというのもあり得ない話ではない。

デフレが終るとしても、そのために金利が上昇し、不況も終われば、余剰資金(預金)運用の“国債離れ”が生じることになる。
別に考察したいと思っているが、政府債務+地方政府債務+企業債務は、預貯金総額に近づきつつある。そして、政府債務+地方政府債務は、これまで以上の割合で増大していく。


日本の「デフレ不況」が長期に続く可能性として、次の要因を挙げることができる。


● 日本の物価・地価は国際比較でなお高い水準にある

  1.5倍高いとして、1%のデフレが続くことでそれが調整されるのは35年後である。(他の国は中国と米国を除きインフレなのでもっと早く調整されるが、1.5倍としているのでそこそこ妥当性はある)
  日本の物価が、国際比較で低い水準になれば、間違いなくデフレは終わる。


● 課税最低限引き下げや消費税引き上げなど、実物商品の需要を抑制する政策が継続する

 政府は、株価や地価を支えるための税制変更しか考えていないようなので、実物商品に対する需要はさらに減少すると予測できる。


● 誤ったデフレ対策である超低金利政策を継続すると思われるので、企業のコストから見ても価格低下余地がある

 超低金利になって5年経つが、長期借り入れであれば、これからも全体の利子コストの低下に貢献していく。コストが低下すれば、売れ行き不振のなかでの競争に生き残るため、価格引き下げが行われる。


● 企業の首切り=リストラがこれからも続くので、コスト面から価格低下余地がある

これは、コスト低下と需要減少というダブルの影響でデフレを促進する。


● 「IT革命」は、コストの減少をもたらし価格低下余地をもたらす

“中抜き”・人件費削減・最安の原材料調達で価格低下余地を生み、不況であれば、それがデフレ圧力となる。


● 販売不振のなかで中国などコストの低い国からの製品輸入が増大していく

販売不振のなかで、メーカーのみならず流通までが低価格の商品を海外から輸入して販売していくだろう。


● 中国との人件費格差=コスト格差が大きい

人件費については1/20とも言われているが、中国が成長を続け60年代の日本のように設備を更新していけば、家電製品などのコストが日本の1/5になる可能性がある。

さらに言えば、現在日本メーカーの独壇場である商品も、中国がキャッチアップして価格低下圧力に晒されるようになる可能性が高い。


このようなことから、「デフレ不況」はそれほど長くは続かないとは言えないのである。

「世界同時不況」に陥るという予測も、中国の輸出拡大(量的に質的にも)によるデフレ圧力が一因だと考えている。

==================================================================================
[参考データ1]

      税収   名目GDP 税収/GDP デフレータ
============================================================
83年度 32.4  285.5 11.3   2.0
84年度 34.9  304.8 11.5   2.8
85年度 38.2  325.8 11.7   2.3
86年度 41.9  340.9 12.3   1.3
87年度 46.8  355.8 13.2  −0.2
88年度 50.8  381.6 13.3   0.8
89年度 54.9  409.6 13.4   2.5
90年度 60.1  441.9 13.6   2.5
91年度 59.8  469.2 12.7   2.7
92年度 54.4  481.6 11.3   1.4
93年度 54.1  486.5 11.1   0.5 
94年度 51.0  491.8 10.4  −0.1
95年度 51.9  497.7 10.4  −0.5
96年度 52.1  510.8 10.2  −0.8
97年度 53.9  521.8 10.3   0.7
98年度 49.4  515.8  9.6  −0.5
99年度 47.2  512.5  9.2  −1.5
00年度 50.7  513.0  9.8   
01年度 49.8  
02年度 46.8  496.2  9.4

02年度のGDPは政府見通し値


[参考データ2]

国債残高利率構成 2001年3月末

金利年率加重平均 2.68%

7%超       9150億円
6.5%以上  6兆6400億円
6.0%以上  5兆7869億円
5.5%以上 17兆9437億円
5.0%以上  8兆4386億円
4.5%以上 25兆3796億円
4.0%以上 15兆4103億円
3.5%以上 12兆1893億円
3.0%以上 35兆3971億円
2.5%以上 25兆9395億円
2.0%以上 24兆0069億円
1.5%以上 73兆0623億円
1.0%以上 31兆8604億円
0.5%未満 14兆8509億円
表面無利子  34兆9908億円(9.52%)割引国債
========================================
      367兆5547億円


[参考データ3]

一般歳出に占める国債費推移

65年度  0.6%
75年度  4.9%
85年度 19.5%
02年度 20.5%

「参考データ4]

歳出公債依存度推移


75年度 25.3
76年度 29.4
77年度 32.9
78年度 31.3
79年度 34.7
80年度 32.6
81年度 27.5
82年度 29.7
83年度 26.6
84年度 24.8
85年度 23.2
86年度 21.0
87年度 16.3
88年度 11.6
89年度 10.1
90年度 10.6
91年度  9.5
92年度 13.5
93年度 21.5
94年度 22.4
95年度 28.0
96年度 27.6
97年度 23.5
98年度 40.3
99年度 42.1
00年度 36.9
01年度 34.7
02年度 36.9


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