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(回答先: 【国債問題への定量的アプローチ】その3:“非金融経済主体”の国債保有増加がもたらす「国債サイクル」の歪み 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:31:16)
「国債サイクル」は、新規国債引き受け・借換国債引き受け・償還という流れであり、引き受け主体は、銀行・資金運用部・生保などの金融経済主体である。
国債発行残高が400兆円を超え、単年度の国債(新規+借換)発行が100兆円を超え、償還の原資となる税収が落ち込んでいるなかで、「国債サイクル」がこれまでどおりのかたちで維持できるのかというのがこの連載のテーマである。(国債問題は、明示的なデフォルトではなく、ハイパーインフレによる価値の大幅低下だと考えている)
これまでは「デフレ不況」と税収の関係を中心に見てきたが、今回は、国債引き受けの原資である預貯金と保険料が今後どういう推移になるのかを考えてみたい。
まず、国債の保有状況を確認しておく。
参考データ1:「主体別国債保有状況」(2001年3月末)
保有額 保有比率
===================================================
日本銀行 48.8 11.7
郵便貯金 27.5 6.6
簡易保険 29.6 7.1
資金運用部 77.3 18.6
銀行等 92.3 22.2
保険年金基金 53.0 12.7
(金融機関) 360.6 86.7
非金融法人企業 1.1 0.3
一般政府 11.2 2.7
家計 10.6 2.5
民間非営利団体 8.5 2.0
海外 24.1 5.8
----------------------------------------------------
416.1 100.0
※ この連載の(その3)で書いたが、今年4月現在で、非金融経済主体(事業会社・家計)が保有している国債は、79兆円になり、率として21.5%に達している。(01年3月末は4.8%)
金融機関のなかの日本銀行は、国債を直接引き受けしないことになっているので、引き受けは銀行など他の金融機関が行ったものを後で買い取ったものと考えられる。
金融機関以外も、郵便局窓口販売などは極めて少額(3000億円程度)しか行われていないので、国債の市中取引で入手したものがほとんどだと思われる。
上記保有状況からわかることは、引き受けレベルだけではなく保有レベルでも、金融機関が国債の87%近くを支えているということである。
「国債サイクル」を正常に維持するためには、金融機関が、借換債増加分(1年ごとにおよそ17兆円増加)+新規発行分(1年に30兆円)の国債を引き受ける余剰資金を持っていなければならないことになる。(増加分ではない借換債は、既発国債とのたんなる差し替えと考えるので、新たな余剰資金は不要)
借換債は新たに財政支出されるものではないが、1年に17兆円近く増えていく予測だから、「国債サイクル」が正常に維持できるかどうかを考えるときには重要なファクターとなる。(国債償還が60年で計画されていることから、過去を上回る水準で新規発行国債が続くと借換債が増大していくことになる)
2002年度は100兆円、2003年は117兆円、2004年は134兆円、2005年は151兆円と国債発行額は増大していく。
金融機関が保有する国債で償還時期が到来した分は、そのまま新しい国債に差し替えるとしても、増額した借換債は、新しい原資(余剰資金)で引き受けられなければならない。
このような意味で、上記「金融機関」の余剰資金が増大しなければ、「国債サイクル」が破綻しないとしても歪みを生じたり、他(民間)の資金需要に多大な影響を与えることになる。
主力国債保有金融機関の資金(預貯金・保険料)が今後予測される国債発行高の増大に比例して増大していけばそれほど問題がないが、果たしてそうなる経済状況に日本はあるのだろうか。それを金融機関ごとに見ていきたい。
● 郵便貯金
郵便貯金残高
==============================================
96年 224兆8872億円
97年 240兆5460億円
98年 252兆5867億円
99年 259兆9702億円
00年 249兆9336億円
01年(234兆円)
02年(230兆円)
03年(228兆円)
国債保有額:27.5兆円 対貯金残高:11.0%
01年以降のデータは、総務省の予測に基づく。
これは、高金利時代の郵便貯金が満期を迎えることを主たる理由として予測されたものである。
さらに注目しなければならないのは、株式市場で運用している部分が大きな評価損を出していることである。昨年9月現在で、1兆8千6百億円の評価損を出している。評価損が実際の売却で確定すれば、払い戻しのために、新規の貯金を暫定的に使うか国債を売るかなどして穴埋めしなければならない。
郵便貯金は、国債発行高の増大に見合うかたちで残高を増やすどころか、減少していくのである。
03年として予測されている郵便貯金残高228兆円は、新規国債発行が20兆円程度であった96年に近い金額である。
● 簡易保険
簡易保険は、契約件数及び契約保険料とも、96年と99年をピークにして下降気味である。
積立金総額
==============================================
96年 82兆6174億円
97年 92兆4271億円
98年 98兆7972億円
99年 105兆7482億円
00年 111兆7388億円
件数は、96年の8994万件をピークに下降を続け、02年度は8000万件に近づいている。
金額は、00年の111兆円をピークに伸び悩んでいる。
簡易保険も、郵便貯金と同じように、1990年代前半の高金利時代に契約された簡易保険の満期保険金額が2002年度から2005年度にかけて約40兆円になるという条件から、増大することは期待できない。(2002年度に8兆1千億円、03年度に11兆円、04年度に8兆9千億円、05年度に11兆5千億円が満期を迎える)
郵政事業庁も、再契約がどれくらいできるか見極められない状況である。
株式投資についても、郵便貯金以上の評価損を抱えている。昨年9月末現在の評価損は、4兆6千7百億円である。(残高が111兆円だから、損失率はなんと4.2%にも及ぶ)
簡易保険も、増大する国債発行とは逆に残高を減らすことになりそうである。
● 資金運用部
これは、郵便貯金や簡易保険が自主運用されるようになる前に引き受けた国債だと思われるので、郵便貯金と簡易保険の項をそのまま参照して欲しいが、残高と国債保有額をまとめておく。
資金運用部+郵便貯金+簡易保険の国債保有額:134.4兆円
郵便貯金+簡易保険の残高合計:361.7兆円
国債/残高: 37.1%
郵便貯金と簡易保険が、財政投融資の原資になっていることとそれらが赤字化している現状(財政投融資が返済されない可能性)を大きな問題点として指摘できる。
郵便貯金や簡易保険の解約が求められ払い戻ししなければならなくなったときは、政府が何らかの手段を構じて損失分を補填しなければならないからである。
● 銀行
預金残高
==============================================
96年 477兆5810億円
97年 481兆6540億円
98年 483兆3760億円
99年 490兆0340億円
00年 486兆1910億円
01年 476兆9290億円
「第一次ペイオフ解禁」で地方銀行や信金・信組からメガバンクへの預金流出が取り沙汰されたが、「国債サイクル」という観点に絞れば、預金が集中しているほうが“管理”しやすいのでそれ自体は問題ない。
問題は、預金総量が減少していることである。
預貯金は、大局的な流れとして、インフレによる名目収入の増加と実質収入の増加で膨らんできた。
老後や失業という先行き不安で貯蓄が増えたとも言われているが、それは一時的なもので、「デフレ不況」であれば、失業者の増加・名目収入の減少などの要因から、預金総額は長期的に減少せざるを得ない。いくら将来に不安を感じていても、収入が減少していけば、現在を生きるためにお金を使わなければならないからである。
また、企業も、2002年3月期上場企業総体として考えたときに“赤字”に陥ったことから、借入金を増やすとしても、預金を増大する可能性は低い。(借入金を強制的に積ませることを考慮しても)
銀行自体が資金運用難に陥っていることから、銀行が預金拡大を積極的に計る行動に出ることも考えられない。
銀行も、増大する国債発行額に見合う預金増加を果たせないと判断していいだろう。
※ 2003年4月に本格的な「ペイオフ解禁」が実施されると、預金がさらに減少する可能性が高い。(「ペイオフ」そのものが実施されたら、否応なしにその分の預金残高が減る)
昨年から動きが顕著になっているが、銀行・郵便局・生保に対する信認が揺らげば、金など価値保全性が高いものに資金が向くことになる。
ちなみに、金への投資が続いていけば、「国債原資」が減少する。国内金販売会社が得る利益を全額預金したとしても、金の輸入というかたちで国外に流出する金額のほうがずっと大きいからである。
● 生命保険
これは、新聞記事などでも話題になっているので、残高が減少していることは衆知であろう。
契約金額 純増加額
========================================================
95年 2139兆5315億円 54兆8463億円
98年 1909兆2754億円 −59兆5563億円
99年 1859兆8821億円 −49兆3933億円
02年 1145兆6610億円−714兆2211億円(対99年)
時系列データは抜けているが、「生命保険大手・中堅10社の2002年3月期決算が、4日出そろった。消費者の「生保離れ」を背景に、個人保険と個人年金保険の保有契約高は10社合計で、前期比3.9%減の1145兆6610億円と5期連続で減少した。超低金利で高水準の逆ザヤが続いた上、株価下落の直撃を受けて、健全性を示すソルベンシーマージン比率(保険金支払い余力)は、7社で悪化。経営体力をすり減らす生保各社の姿が浮き彫りになった」(時事通信:6/4)という状況である。
生命保険会社は、存続自体が危機的な会社が多く、増大する国債引き受けに貢献するとはとても考えられない。
外資が生命保険事業でのウエイトを高めていきそうだが、外資生保が、格付け評価が低い日本国債を積極的に引き受けることはないだろう。
● 保険・年金基金
ここは、データを示すまでもなく、高齢化と失業者増加のために、保険料収入は減少する一方で支出(給付)は増えるという金融セクターである。
また、この基金も、株式買い支えに出動していることで多額の評価損を抱えている。
ここは税金をさらに投入しなければ国民生活が守れないと言ったほうが的確な金融セクターだから、増大する国債の引き受け手として考えることはできない。
これらを見てもわかるように、国債の主要引き受け手である金融機関は、増大していく国債をこれまでにように引き受け続けられる状況にはないのである。
それどころか、事業会社や家計が保有する国債比率が飛躍的に高まっているように、銀行や生保は、高金利の国債を換金して財務改善に努めている。(事業会社や家計が、預貯金を降ろして国債を買ったとすれば、個人や会社が国債を保有してくれても、「国債サイクル」の条件が悪くなるだけで、救いにはならない)
ムーディーズも含め、高い貯蓄率を国債が安全である根拠としている人が多くいるが、それは、せいぜい、「ここまでは高い貯蓄率と貯蓄額のおかげであれだけの国債を発行しながらもなんとかしのいでこられた」と言えるだけである。
ここでは、見てきたような条件のなかで、「国債サイクル」を維持することのみを考えて余剰資金をやりくりしていけば、国債自体は何とかなるとしても、企業や家計などが必要とする資金が調達できない状況に陥ることになるとだけ指摘しておく。
うまくいって、「国守れて、民なし」という結果を迎えることになる。