★阿修羅♪
 ★阿修羅♪
 次へ  前へ
【国債問題への定量的アプローチ】その5:「構造改革」的税制変更は税収増大をもたらすか? 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:36:00:

(回答先: 【国債問題への定量的アプローチ】その4:「国債原資」である預貯金・保険料の残高見通し 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:33:35)

小泉政権は、向こう10年ほどで財政のプライマリーバランス均衡(利払い費と償還費を除く歳出が借金以外の歳入でまかなわれる状態)を実現するといい、政府税調は、財政再建に向け、消費税引き上げ・所得税制変更(課税最低限引き下げや各種控除軽減)で税収の拡大を計ろうとしている。

財政の継続性そのものに疑念が深まっているのだから財政再建の道筋を早期に付けなければ当然だが、政府税調が考えている税制変更が税収の増大をもたらすものかどうかは冷静に検討しなければならない問題である。

“100%課税論理”を持ち出すまでもなく、「税率アップ=税収アップ」ではないことは自明である。
国民の痛みという問題はひとまずおくとしても、「税率アップが税収を減少させる」という裏腹の現実を考慮しない税制変更論議は危険極まりないものである。

消費税は、物品やサービスを購入しなければ課税されないものであり、所得税は、所得がなければ(低ければ)課税されないものである。法人税は、所得(利益)がなければ課税されないものである。

所得税・消費税・法人税という基本3税には相互に密接な関連がある。

まず、家計部門で見れば、所得税を多く徴収されることになれば可処分所得が減少するため、物やサービスの購入額が減り、支払う消費税も減少する。また、可処分所得が変わらないまま支払う消費税が多くなれば、物やサービスの購入に向けられる金額が減少することになる。可処分所得が少なく貯蓄や投資に回す余裕がない家計は、増税分に対する消費額減少の割合が非常に高いものである。(年収700万円以下の家計が63.3%、500万円以下が54,4%、300万円以下が31.7%)

企業部門で見れば、可処分所得総額が一定という条件で消費税税率がアップすれば、供給する物品やサービスの購入額(売上)が減少するため、売上減少を防ぐために値引きしたりして利益が減少するので、法人税の支払額が減少する可能性がある。そして、経営状況の悪化は、企業部門の購入活動を抑制するので、消費税の支払いが減少する。さらには、売上不振が人員削減や人件費削減にむすびつき、所得税の徴収額が減少する事態にまで広がる可能性がある。

法人税と所得税の関係で言えば、法人が納入法人税額を抑制したいと考えて人件費をアップしても、所得税の税収が増えるのでほとんど問題ない。逆に、法人税であれば赤字を5年間繰り延べたりもできるので、人件費を増やしてもらうほうが税収面から見たときは有利である。


GDPや付加価値分配が一定だという条件でこの関係をまとめると、

● 所得税アップ→消費税税収ダウン・・・→法人税に影響

● 消費税税率アップ→法人税税収ダウン・・・→所得税に影響

( 法人税アップ・・・→企業の海外逃避による減収の可能性 )


このような因果関係は、将来を予測するという手法に頼らなくても、これまでの歴史的現実で確認することができる。

下記の表は(その1)でも添付したものだが、消費税3%&高額所得者減税が実施された89年と消費税5%が実施された98年に注目して見て欲しい。


     新規国債  歳出   税収  名目GDP 税収/GDP
================================================================
83年度 13.5 50.6 32.4 285.5 11.3
84年度 12.8 51.5 34.9 304.8 11.5
85年度 12.3 53.0 38.2 325.8 11.7
86年度 11.3 53.6 41.9 340.9 12.3
87年度  9.4 57.7 46.8 355.8 13.1
88年度  7.2 61.5 50.8 381.6 13.3
89年度  6.6 65.9 54.9 409.6 13.4 *
90年度  7.3 69.3 60.1 441.9 13.6
91年度  6.7 70.5 59.8 469.2 12.7
92年度  9.5 70.5 54.4 481.6 11.3
93年度 16.2 75.1 54.1 486.5 11.1
94年度 16.5 73.6 51.0 491.8 10.4
95年度 21.2 75.9 51.9 497.7 10.4
96年度 21.7 78.8 52.1 510.8 10.2
97年度 18.5 78.5 53.9 521.8 10.3
98年度 34.0 84.4 49.4 515.8  9.6 *
99年度 37.5 89.0 47.2 512.5  9.2
00年度 33.0 89.3 50.7 513.0  9.9
01年度 30.0 86.4 49.8 
02年度 30.0 81.2 46.8 496.2  9.4

※ 02年度のGDPは政府見通しで、税収は予算を下回る可能性が高い


89年の税制変更は税収面で貢献しているように見えるが、「バブル形成末期」であることから、不動産関連諸税や金融取引諸税の状況を勘案して考える必要がある。
と穏当に言いいたいところだが、「株式バブル崩壊」は、株価指数ベースでは89年11月に始まり、日経平均ベースでは90年1月に始まっているのだから、税制変更が「株式バブル崩壊」に与えた影響をきちんと再検討する必要があると考えている。
日本の株式取引は法人主体で行われているのだから、法人の余剰資金が縮小すれば株価の上昇エネルギーは減退することになる。(「株式バブル崩壊」は、仕掛けられたものだと考えているが、その仕掛けが巧く働くためにはそれなりの条件が必要である)

「デフレ不況」が色濃くなった98年に実施された税制変更は、先ほど説明した因果関係があたかも働いたかのような結果を示している。(消費税以外にも社会保険料の引き上げや医療費自己負担率引き上げがあり、それらを少しは打ち消すための“特別減税”が実施された)

消費税率を引き上げたにも関わらず、税収の絶対額と税収のGDP比がともに下がっているのである。 GDPも、実質でマイナス1.1%、名目でマイナス1.2%を記録している。
そして、98年以降、本格的な「デフレ不況」が続いているのである。

97年に財政再建・税収増大という名目で「消費税率引き上げ」や「社会保険料引き上げ」を決定した政治家(橋本政権及び賛成した国会議員)は責任をとらねばならないし、そのような政策を立案した大蔵省の官僚も職を辞すべき“失政”である。

(痛みを与えたことではなく、掲げた目的を実現できなかったどころか、逆に、目的に反する結果をもたらしたからである)

そのような非難に対して、「景気の循環的な変動のせいだ」とか「予測できないことだ」といった類の言い訳をするのであれば、日本は救いが期待できない国家だとあきらめるしかない。

98年は、94年以降とほぼ変わらない経済条件にあったと考えていいだろう。
循環的な面で言えば、97年の金融危機である意味の灰汁抜きがなされた後である。
97年夏から起きた「アジア通貨危機」により、98年は「アジア不況」であったが、98年以降ずっと税収が対GDPで10%を下回っているのだから言い訳には使えない。


89年の消費税導入で「バブル崩壊」を引き起こし、98年の消費税引き上げで「デフレスパイラル」に引き込んだとも言えるのである。(「バブル崩壊」は遠からず起きるものではあったが...)


歴史的な反省もきちんと行わずに、再び、「低中所得者増税」や「消費税引き上げ」を志向している政府は、“自国破壊者”であり、その結果として、国債問題=ハイパーインフレの現出を避けることもできないだろう。


 次へ  前へ



フォローアップ:



 

 

 

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。