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【国債問題への定量的アプローチ】その7:ムーディーズの“思考停止”コメントに沿って 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:39:46:

(回答先: 【国債問題への定量的アプローチ】その6:財務省の国債償還プラン 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:37:39)

もっとも著名と言っていい格付け会社であるムーディーズ・インベスターズ・サービスは、日本政府発行及び保証の円建て国内債券の格付けをA2に2ノッチ引き下げ、見通しを安定的と発表したとき、2ノッチ引き下げの根拠と安定的という見通しの根拠を次のように示した。

[2ノッチ引き下げ]

「日本政府の現在及び今後予想される経済政策では、国内債務状況の持続的な悪化に対して十分に歯止めをかけることができない」

「日本の一般政府債務は、どの指標でみても戦後の先進諸国に例をみない水準に近づくと予想されるため、「未踏の領域」に入りつつある」


[見通し「安定的」]

「A2の格付けは、向こう数年間で債務問題が、一般政府債務の対GDP比率および対経常収支比率でも、さらに着実に悪化するとの予測を織り込んでおり、中期的に問題の悪化が予想の範囲内にとどまれば格付けが影響を受けることはない」


ムーディーズは、危機的状況に直面する可能性が低い根拠として次の3つを上げている。

1)家計部門の貯蓄額の多さが政府債務のファイナンスを維持する
2)1)に関連して、銀行システムが高水準の政府債務を吸収する能力がある
3)国債の外国保有率が低い


ムーディーズが上げた最初の二つは不可分のものであり、これについては、これまでの政府債務増大を支えてきた力ではあっても、今後の政府債務増大を支えるものとはならないことを書いてきた。
政府債務が増大していくのに対し、現実の貯蓄額が減少傾向にあるからである。
名目GDPや名目可処分所得が減少していくなかで、貯蓄額(名目)が増大していくことは、不安感から一時的にあり得ても、長期的にはあり得ないからである。
また、可処分所得が一定だとして貯蓄に回る金額が増えるということは、総需要減少を意味するので、GDPを押し下げる要因となり、政府の税収を減少させることで政府債務の返済能力を低下させることになるからである。

さらに言えば、貯蓄額が増大しないなかで貯蓄が政府債務のファイナンスに回されることになればなるほど、民間債務のファイナンスに回せるお金が減少することになる。
端的に言えば、「富を生産しない政府債務をこなすために、富を生産する民間経済を塩漬けにする」という状況が続くということである。
これは、「デフレ不況」をさらに悪化させ、政府の税収もさらに減少することを意味する。
(2002年度の国債市中発行額は104兆円で、わずか5年前の97年度当初計画の33兆円の3倍以上である)


3番目の「国債の外国保有率が低い」という根拠は、借換債の発行(既保有国債との差し替え)がスムーズに行えるという点では認められるものであるが、借換債の発行は年々17兆円ほど増大すると予測でき、その分は新たにファイナンスしなければならない。
外国保有率が今後上がっていくという予測であれば、根菜の安定性に結びつくものだが、経常収支が黒字で4100億ドルもの外貨準備高を誇っている日本にとって外国保有率が低いということは、それほどの安定剤になるわけではない。
(ムーディーズなどが日本国債の格付けを低下させたことで、外国からの積極的な日本国債投資は期待できないだろう)


ムーディーズは、日本政府は、国債問題に適切な政策を検討する猶予があるとみている。
これに対しては同意する。(猶予がないと考えていたら、書き込むだけ無駄である)

そして、その政策として、「金融緩和策」から「富裕税」までの幅があるとしている。
「富裕税」導入については政治的リスクの発生が不可避としているが、国債問題が大きくなればなるほど解決に要する規模も大きくなると説明し、政府は、危機が起きる前に対処するだろうとみている。(これは、暗に「富裕税」の導入を促進しているとものと解釈できるだろう。しかし、日本政府は、相続税の税率引き下げや贈与税の実質無税化を考えているほどだから、逆行していると言えるだろう)


これらのことから、ムーディーズは、デフォルトに陥る可能性は低く、2000年代後半(2005年から2009年?)には効果的な政策が打ち出されると予想している。
(ムーディーズは、ご丁寧に、A2格付けの発行体が5年以内にデフォルトに陥いる確率はわずか200分の1だったと説明を付加している)

日本国債の“破綻”は、デフォルトではなく実質価値の大幅な低下というかたちで起きると考えているので、その点でムーディーズとは大きく見方が異なる。

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