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(回答先: 【国債問題への定量的アプローチ】その2:デフレ下とインフレ下での国債負担の差異 投稿者 あっしら 日時 2002 年 6 月 07 日 23:28:53)
今回はあまり定量的なアプローチにならないが、国債問題を考えるとき重要な要素だと考えているので取り上げる。
日本国債は、外国投資家に依存せず、内国(投資家)に依存する引き受け・借換・償還という「国債サイクル」で消化されてきた。
より具体的に言えば、銀行・郵便局(資金運用部)・生保といったヒトのお金を預かる金融経済主体に依存した「国債サイクル」である。
そして、現在は異なっているが銀行・生保は大蔵省の監督下にあり、資金運用部も長らく大蔵省が動かしていた。
さらに言えば、日本銀行券の発券・管理主体である日銀も、つい最近(97年)まで大蔵省の管理下にあった。
日本の「国債サイクル」は、国家財政を預かる大蔵省が、発行から引き受けそして借換までを包括的に管理できる体制として構築されてきたのである。
これは、国債にまつわる引き受け不足・借換不能と言った“不測の事態”を防止できる大きな防御構造と言える。
引き受け不足が予想されたら、日銀が銀行に日銀券を供給し、それで国債を引き受けさせ、銀行が日銀券を必要としていたら国債を買い取ったり担保にして貸し付けるという対応で乗り切る、(かたちとしては日銀の国債直接引き受けではない)
より重要なのは、これまでの「国債体制」は借換をスムーズに行えるということである。
書いてきたように、国債は60年間で償還する計画で財政運営が行われている。債券には5年や10年などの償還年限があるが、債務そのものは、その表示期間で返済(償還)するとは初めから計画されていないのである。(表面金利だけが有効な債券と考えればいい)
10年国債の償還時期が到来したときには、1/6しか償還していないというのが正常な姿である。6兆円の10年国債であれば、償還時期にはまだ5兆円が返済されていないという状況なのである。
これを乗り切るためには、10年後に5兆円の借換債を発行しなければならない。
このとき国債を不特定多数が保有しているという事態を考えてみて欲しい。
20%は借換債に転換することを認めても、他の80%は現金化を望むかもしれない。そうなれば、4兆円は現金で返済しなければならなくなる。(個別に借換債でいいかどうかを確認するのも面倒な作業である)
借換債への転換を認めない保有者がいれば、60年間償還という「国債サイクル」に狂いが生じることになる。(デフォルトしないためには、新規発行を増やして償還するしかない)
有名な日露戦争遂行のためのポンド建て日本国債は、借換債を発行しながら1986年にようやく完済した。借換債は、前よりも良い条件で借入をして負担を軽減するという目的で発行される場合もあるが、資金繰りの関係から否応なしに借換債を発行しなければならないこともある。このようなときは条件は悪くなる可能性が高く、引き受け状況が芳しくなければ、日本政府が引き受けるというようなとんちんかんなことも行うことになる。
(外貨建てで公的借入を行わざるを得ない国は、このように、債務増大に外的な規定が及ぶので、それなりの安全性が確保されるとも言える)
しかし、「大蔵省→銀行・資金運用部・生保」という関係性であれば、国債を差し替えることで借換をスムーズに行うことができる。これは、60年償還という国債システムにとってなによりの安定剤である。
このような「国債サイクル」の安定性が、非金融経済主体以外の国債保有額が増加していることで、徐々にではあるが崩れつつある。
今年4月現在で、非金融経済主体(事業会社・個人)が保有している国債は、79兆円に達し、1年間で28兆円も増加している。
これは、率として21.5%の国債が、財務省の“統制”から外れた経済主体によって保有されていることを意味する。
このような動きが生じた要因は、“金融システム”の不安定性である。一部銀行は、資本準備金まで取り崩すかたちで財務状況の悪化に対応している。
それを支える原資は、“含み益”を持つ資産でなければならず、株式の評価損が出ている現状では、保有している過去の高金利国債になる。表面利率が高く償還までの残存期間が短ければ、その国債は高く売却できる。
一方の買い手のほうは、「ペイオフ解禁」対策であり、「余剰資金運用難」の反映である。(表面金利6%の国債を買っても利回りは1.5%前後であり、買い手は得をするわけではない)
「不良債権」が増大している経済状況なので、このような国債の“分散化”は今後も進むと予測できる。
参考データ:[国債残高利率構成] 2001年3月末
金利年率加重平均 2.68%
7%超 9150億円( 0.2%)
6.5%以上 6兆6400億円( 1.7%)
6.0%以上 5兆7869億円( 1.6%)
5.5%以上 17兆9437億円( 4.9%)
5.0%以上 8兆4386億円( 2.3%)
4.5%以上 25兆3796億円( 6.9%)
4.0%以上 15兆4103億円( 4.2%)
3.5%以上 12兆1893億円( 3.3%)
3.0%以上 35兆3971億円( 9.6%)
2.5%以上 25兆9395億円( 7.1%)
2.0%以上 24兆0069億円( 6.5%)
1.5%以上 73兆0623億円(19.8%)
1.0%以上 31兆8604億円( 8.7%)
0.5%未満 14兆8509億円( 4.0%)
表面無利子 34兆9908億円(9.52%)割引国債
========================================
367兆5547億円
表面金利が5%以上の既発国債は39兆7千億円(10.8%)で、4%以上であれば80兆5千億円(21.9%)である。
※ 表面金利4%以上の国債を1.5%の借換債で差し替えれば、財政負担は大きく軽減する。
また、政府・与党は、国債発行高の増大対策として、少額券面の国債発行など個人向けの販売を拡大しようと計画している。
さらに、国債を相続税の非課税資産としてまで国債を個人向けに拡販しようとも考えている。
このような考えが根源的には愚かなものでしかないことは、これまでの説明でご理解いただけると思う。
● 実質的な国債引き受けの拡大にはつながらない
タンス預金をしている経済主体が国債を購入するのなら、それなりの意味があるが、預貯金を降ろして国債を購入しても、不安定要因を増大させるだけで実質的な国債引き受け能力の拡大にはならない。
預貯金者本人は国債を買うつもりはなくても、銀行や資金運用部が既に代わりに買っているからである。
国債を買うために銀行や郵便局から預金引き出しが行われることになれば、金融システムのみならず「国債サイクル」にも深刻なダメージを与えるのである。
(預貯金の払い戻しに応じるために、国債を売却せざるを得ない状況に金融経済主体を追い詰めることにもなりかねない)
● 相続税の国債非課税は税収を減少させる
国債の償還は、究極的には税収で行うしかない。
タンス預金を除けば、個人が直接購入しようが、金融経済主体が間接的に購入しようが、国債の引き受け能力は変わらないのだから、国債を相続税の非課税資産とすれば、国債償還の原資でもある税収をわざわざ減少させるだけである。
(資産家優遇策と割り切っているのなら救いはあるが、真顔で国債対策と考えているのなら、そのような政治家や官僚は即刻辞職すべきである)
● 「国債サイクル」を狂わせる
不特定多数がより多く国債を保有するようになれば、60年償還という「国債サイクル」を狂わせる可能性が高くなる。
“統制”の効かない経済主体は、状況の変化で国債を現金化する動きに出る。
日銀に売るわけにはいかないので市中で売ることになる。償還期限が来ても、借換債で満足するとは限らない。
相続した人も、国債利息に期待するよりも、現金に換えて消費したいと考えたり、より有利なものに乗り換えたいと考えることは特異なことではない。
現在、「大蔵省→銀行・資金運用部・生保」という関係性のなかで築かれてきた「国債サイクル」の安定性が弱体化する方向に動いていると言える。