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シティとウォール街、つまりイギリスとアメリカの巨大金融資本はウクライナが自立することを許さない。2004年11月の大統領選挙で勝利したビクトル・ヤヌコビッチは東部と南部を地盤とする政治家で、ロシアとの関係を重視していた。つまり米英支配層にとって好ましくない人物だ。そうした人物を当選させた選挙を彼らは「不正」だと宣告する。
そこで2004年から05年にかけて社会混乱が引き起こされ、アメリカに好かれていたビクトル・ヤヌコビッチにすげ替えられる。これが「オレンジ革命」だ。実際は「クーデター」だが、ある種の人を操るためには「革命」というタグは有効である。
その「革命」が進行中、ユシチェンコの顔に異常が現れ、原因はダイオキシンによるという話が広まる。ユシチェンコ側は毒を盛られたと主張、5日後にウィーンの民間病院で治療を受けたという。イギリスやオランダの医師がダイオキシンが原因だと主張していたのだが、実際に治療したウィーンの病院で主任医療部長だったロタール・ビッケはそうした説を否定している。2度診察したが、毒を盛られた証拠は見つからなかったという。
ビッケによると、その後、病院の監督委員会から文書で主張を撤回するように要求され、英語なまりの人物から電話があり、「おまえの命は危険にさらされている」と脅迫されたと語っている。その後、ビッケは病院を解雇された。
ユシチェンコは1993年から国立ウクライナ銀行の会長を務めているが、98年にカテリーナ・チュマチェンコなる女性と再婚した。この女性の両親は1956年にアメリカへ移住、本人は61年にシカゴで生まれた。大学を卒業してから国務省へ入り、次官補の特別アシスタントを経験、ロナルド・レーガン政権ではホワイトハウス、ジョージ・H・W・ブッシュ政権では財務省で勤務。ウクライナが独立を宣言した後、米国ウクライナ基金の代表としてウクライナへ渡った。カテリーナがウクライナ国籍を取得したのは2005年だ。
ユシチェンコ政権は新自由主義的な政策を推進、富が国外の巨大資本へ流れ、その手先は「オリガルヒ」と呼ばれる富豪になり、貧富の差が拡大する。そこでウクライナの有権者は2010年の大統領選挙で再びヤヌコビッチを選ぶ。そしてアメリカ政府は2014年にクーデターを仕掛けたわけだ。
クーデター後、アメリカとその手先は南部の都市オデッサで住民を虐殺、東部へ戦車部隊を突入させて住民を殺す。東部や南部ではロシア語を話す住民が多く、そうした住民がネオ・ナチを恐れてロシアへ難民として逃げてくれれば、そこへ自分たちにとって都合のいい人びとを移住させるつもりだったのだろう。パレスチナ/イスラエル方式だ。
しかし、南部のクリミア半島では住民の動きが素早かったことに加え、大陸とつながっている部分が細く、防衛しやすい地形だった。しかもクリミアのセバストポリはロシア海軍の拠点。ロシアとウクライナが1997年に結んだ分割協定によって、ロシア軍は基地を使用し、2万5000名までの兵士を駐留させることが認められていた。2014年のクーデター当時、この条約に基づいて1万6000名のロシア軍が実際に駐留していた。
西側の政府やメディアは当初、この部隊をロシア軍が侵略した証拠だと宣伝していたが、嘘が知られると軍服を脱いだロシア兵が入ったと主張し出した。勿論、証拠は示されていない。そうした部隊が入っただけで穏やかにクリミア全体を制圧することなどできるはずはないが、どうしてもアメリカを善玉にしたい人びとは「アメリカ様」の「御告げ」を信じる。この時、ウクライナ軍も動かなかった。
クーデターがあった2014年から19年にかけて大統領を務めたペトロ・ポロシェンコはユシチェンコの仲間。国立キエフ大学を卒業しているが、そこで親しくなったミハイル・サーカシビリは2004年から13年にかけてジョージアの大統領を務めた。
ポロシェンコも米英資本の傀儡にすぎず、ウクライナは破綻国家になる。そうした不満を集めて大統領に選ばれたのがボロディミル・ゼレンスキーだが、現在、軍や治安機関を掌握できていないように見える。実際に指揮しているのはNATOだという話もある。
NATOは1949年4月に創設された軍事同盟。ソ連軍に対抗することが目的だとされているが、当時のソ連には西ヨーロッパへ攻め込む能力はなかった。何しろドイツとの戦闘でソ連の国民は2000万人以上が殺され、工業地帯の3分の2を含む全国土の3分の1が破壊され、惨憺たる状態だったのだ。アメリカやイギリスはソ連を核ミサイルで攻撃する計画を立てている。
第2次世界大戦中、西ヨーロッパでドイツ軍と戦っていたのは事実上レジスタンスだけ。そのレジスタンスの主力はコミュニストだった。大戦後、フランスやイタリアでコミュニストが人気だった理由はここにあると言えるだろう。
そのレジスタンス対策として大戦の終盤にアメリカやイギリスの情報機関はゲリラ部隊「ジェドバラ」を編成、戦争が終わると、アメリカはその人脈を利用して特殊部隊や破壊工作組織OPCを作った。OPCは後にCIAの破壊工作部門になる。
ジェドバラの人脈はNATOへも入り込み、1951年からはCPC(秘密計画委員会)の下で活動するようになった。その下部機関がACC(連合軍秘密委員会)。各国の情報機関はこの委員会で情報の交換を行っているとされている。
全てのNATO加盟国には情報機関と結びついた秘密部隊が存在、中でもイタリアのグラディオは有名だ。秘密部隊のネットワークは各国政府を監視、場合によっては転覆させることもある。イタリアの場合は「極左」を装って爆弾テロを繰り返し、クーデターも計画している。
秘密部隊は西ヨーロッパ諸国を支配する道具として機能しているわけだが、NATO自体も支配の道具だ。NATOの拡大はアメリカの支配地が拡大することでもあった。最終的にはロシアを支配地にしようと目論んでいるが、その前にロシアとEUの関係が緊密になるとEUは自立、アメリカは支配地を一気に失う可能性もある。それを米英は恐れているだろう。
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