>>7 STAX 静電型スピーカーシステムに追記 甦れ STAX ELS-8X コンデンサースピーカー https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-04-05
かつて、日本のオーディオ業界が盛んであった時代、世界に類を見ない精緻な作りの、大型コンデンサースピーカーがありました。
STAX社のELS-8Xです。 ダメになった発音ユニットの3ミクロン厚の振動膜の張替え・修復に成功したELS-8Xから、思いも寄らない音響空間が出現しました。 眼前にぱあっと広がるリアルな音場。 あそこで鳴ってる、こちらで歌う、そこにいる。今まで経験したことがない明確な定位。 低音のさらに低域の、震える空気の粗密波が頬に触れ体を包む。 なによりも「そこで演(や)ってる感」がすばらしい。 おそらく世界最高の精緻な発音ユニットと音質を備えた STAX ELS-8X を中心に、コンデンサースピーカーについて綴ります。 https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-04-05 ▲△▽▼ 甦れ(1回)STAX ELS-8X コンデンサースピーカー [甦れSTAX ELS-8X コンデンサースピーカ] https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-17 甦った8X ■序 8Xふたたび 眼前にぱあっと広がるリアルな音場。 あそこで鳴ってる、こちらで歌う、そこにいる。 今まで経験したことがない明確な定位。 低音のさらに低域の、震える空気の粗密波が頬に触れ体を包む。 なによりも「そこで演(や)ってる感」がすばらしい。 修復成ったSTAX ELS-8Xから、思いも寄らない音響空間が出現した。 オーディオルームの8X https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-17
<写真1:修復がほぼ終わったSTAX ELS-8Xを、オーディオ部屋に運んで試聴>
**8Xの後ろの黒い箱は、8Xがダメになっていた期間の代替機として使っていたALTECのMODEL 19。 これはこれで大した器である。 右端の真空管アンプは、当ブログの別テーマ『原器を目指した「最終アンプ」』の主人公** ELS-8Xとは
かつて、日本のオーディオ業界が盛んであった時代、世界に類を見ない精緻な作りの、コンデンサースピーカーがあった。 STAX社のコンデンサースピーカー ELS-8Xである。 ELSすなわち「Electrostatic Loud Speaker」。 英国QUADなど海外では、この方式のものをESL「ElectroStatic Loudspeaker」と呼んでいる。 8Xは左右それぞれのスピーカーに8つの発音ユニットが付いているので「8」、 そしてほぼ改良し尽くした最終・最高のモデルなので(これは勝手な推測)「X」。 スタックス工業株式会社のフラグシップ機であり、コンデンサー型の各種オーディオ製品に最後までこだわり続けた同社の誇りと象徴、ELS-8X。 思い切り人手をかけた「熱意」が伝わってくる作り。 音響の基盤となる物量投入の分厚い木製バッフルと、よき時代の「ものづくり日本」でしかできない精緻かつ堅牢な発音ユニット。 8Xはその無比・無上の再生音とともに、日本のオーディオ界の文化財的な「宝」に値するだろう。 この8Xをバラし、発音ユニットを分解し、洗いざらい調べ尽くした私は、「こんなものを作っていては事業は成り立たない」と呆れたものだ。 昔のスタックス工業株式会社が今もあって、世界第1級のELS(ESL)を作り続けてほしかった、という願望の裏返しである。 私の感覚では、当時、たとえ2倍の価格で同数の売り上げがあったとしても採算はおぼつかない。 それほど入念な作りである。 8Xの発音ユニットを分解した結果、海外のESLのそれと、大きな相違点があることに気が付いた。 ダイアフラム(振動膜)と固定電極とのギャップ(距離)、それと成極電圧(数千ボルトのバイアス電圧)との配分関係が大きく違うのである。 ギャップが狭い!。 この相違点には、なにかとても重要な意味があるに違いない。 なぜなら、8Xが選択した配分関係の発音ユニットを製造するには、大幅なコストアップが不可避だからである。 つまり必然的に精緻・精密な作りをせざるを得ない構造となる。 なにか特別にいいことがないかぎり、そのような選択をする筈はない。 推測であるが、8Xの発音ユニットの比類ない音質は、この相違点に一つの秘密があるのではないだろうか。 8Xはこのような素性の、今や誰も作れない(事業性がない)スピーカーである。 もし、今も健全で完動している8Xのオーナーがおられたら、いい環境の中で大切に大切に使い続けていただきたいと切にお願いしたい。 ちなみに私の8Xより数年古く、30年近く使われていた8Xでも、いい環境の中にあれば、まったく健全で音質の劣化も認められない状態を保つことが実証された。 そのことについては当ブログ内の別テーマ、「i氏山荘訪遊記(第2話)」で触れているので、よろしければ訪ねていただきたい。 この見事な加工のパンチングメタルを見よ_全域ユニット https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-17 <写真2:全域ユニットの固定電極のパンチングメタル。低域ユニットとも共通>
**この精緻な加工を見てほしい。孔の細かさ、開孔率の高さ、孔のエッジの丸め加工(裏・表とも)など、これを見ただけで8Xが内外ともに突き抜けた存在であることが分かる。高域ユニットのものはさらに細かい。 この見事な加工のパンチングメタルを見よ_全域ユニット
**固定電極の表面電界は、均一で平らで滑らかであることが求められる。そのためには、パンチングメタルの孔を可能な限り小さくする必要がある。また、音が抵抗なく通るよう、開孔率はできるだけ高くしなければならない。それらを満たしてなおかつ、機械的強度や、振動対策を考えねばならない。これらのことから、パンチングメタルとその周辺構造は、ESL製品のクオリティーを知る上での重要なチェックポイントになる** 瀕死の8X
8Xが我が家に来たのは1987年であった。 それから10数年愛聴してきた8Xを、私は知らず知らずの間にダメにしていた。 周囲の環境に問題があった。 左右で都合16個ある発音ユニットの半数以上が、能率の低下で鳴らなくなった。 不調に気づいた時、すでに製造元のスタックス工業株式会社はなく、別の組織に様変わりして、8X修復の望みは完全に失われていた。 問題の箇所が発音ユニットにあることは見当がついた。 しかし8Xの発音ユニットは、もともと修理ができる構造ではない。 組み立てにネジなどは使われておらず、接着剤で完全に一体化され、分解できるようにはなっていない。 故障すればユニットをまるごとそっくり交換する。 その当時、荒技でも裏技でも、なんとか修復の手立てはないかと足掻いてみたが、結局どうにもならないことが、はっきりしただけであった。 それでも「いつの日にか」と、一種のライフワーク的な思いで納戸に押し込んだ。 瀕死の8Xは古シーツに包まれ、いつ覚めるともしれない眠りに就いたのである。 放電によりフィルムに空いた穴
<写真4:固定電極と振動膜との間で高圧がスパークして開いた穴。その周囲が損傷している> **フォーカスが外れているが、ついでにパンチングメタルの加工のアップも見ていただきたい。高い電圧は尖った先に電界が集中して放電を引き起こす。だから打ち抜いた孔のバリなどはあってはならず、さらに角も丸く磨くかなければならない** 緊急決起ボタン
瀕死の8Xは納戸の隅で、10年近くの長い年月を過ごした。 ところが2013年の早春、「いつの日にか」は突然やってきた。 あるきっかけで、私の心の中の「緊急決起ボタン」が押されたのだ。 8Xは狭い納戸から明るい部屋に運ばれ、裏蓋を外された。 高圧プローブで電圧が測られ、2現象オシロスコープでオーディオ信号を観測され、試料として1つのユニットが取り外された。 高域発音ユニットの成極電圧1.8KV正常、全域および低域の成極電圧3.5KV正常。 発音ユニットへのオーディオ入力信号は、高域入力正常、全域入力正常、低域入力正常。 まず最初の行動は、不具合が確かに発音ユニットにあることの再確認だった。 それからが五里霧中、暗中模索。 蘇生へ向けての下準備を開始した。 インターネットに張り付いて「ElectroStatic Loudspeaker」、「Repair」などを検索キーワードに、内外の関連情報を収集する日々が続いた。 いろいろ試みて、やはり修理は不可能な場合、同形、同寸法の発音ユニットを自分で作ることも検討し、部材の見積もりも取った。 目の前に現物見本があるので、選択肢として「あり」だろう。 修復に必要な振動膜や導電コート材等の主要な材料は海外に求めた。 日本は優秀な材料を多種生産しているが、残念ながら個人が僅かばかりの量を入手することができない。 クーロン力
さて、基本中の基本であるが、コンデンサースピーカーの振動膜を駆動する力はクーロン力である。 電荷の+と−が引き合い、+と+、−と−が反発し合う電気の根元的な力である。 電極板の面積、間隙の距離、印加する成極電圧。 それらと、振動膜を駆動する力との関係は?(前出の話と関係する) まずそのあたりの基本原理のお勉強から必要となった。 早稲田大学では古くから、研究室やクラブ活動などにおいて、コンデンサースピーカーの研究を伝統的に行っており、その論文を何本もインターネットで公開していた。 早稲田大学大学院平成15年度修士論文「スイッチングアンプ駆動コンデンサスピーカに関する研究」など、コンデンサースピーカーを語る上で極めて重要かつ貴重な情報が満載である。 なおこの論文は、初歩的な基本原理のお勉強から書き出しているので、興味のある方はぜひとも検索されたい。 ちなみに、薄いフィルムの平面を全面駆動するコンデンサースピーカーといえど、振動膜はピストン運動をしていない。 「コーン型スピーカーは分割振動するが、コンデンサースピーカーはピストン運動であるため平面波が出る」、というのは誤りである。 レーザーでドップラー効果を利用したスキャニング振動計を使って、各種のモデルを実測した写真を見ることができる。 そして春も浅くまだ寒い日が続く頃から、初夏の暑さが感じられる頃まで、なにかに憑かれたようにがんばった。 その結果、驚くことが起こった。 甦った8X
瀕死の白鳥が奇跡的に甦った。 軽くしなやかな新しい羽にはえかわり、大空に舞い上がったような感動。 このようなことが自分の手で、これほどうまくいくとは思ってもいなかった。 発音ユニットの振動膜を、極薄・極軽、元の半分の厚みの3ミクロン・ポリエステルフルムで張り替えることに成功した。 その結果が冒頭の音響空間の出現である。 なんという幸運か。 優れた基本設計と入念な工作、長年にわたる改良の積み重ねにより到達した、STAXの頂点であり最終モデルであった8X。 それを一人のSTAXファンのアマチュアが、なんの裏付けもないまま「3ミクロンの修復」を試み、一発で成功してしまった。 世の中全般、普通はそれほど甘くはないので、多分、コンデンサースピーカーのダイアフラムには、「けっこういいかげん」なところがあるに違いない。 振動膜の張力や、導電コートの電気伝導に関する各種パラメータの値(つまり導電コート剤の種類やその塗布のしかた)などには、ある程度の許容範囲があるように思える。 薄いフィルムの張力を測る計器も、導電コーティングの非常に高い抵抗を測るメグオーム計や絶縁抵抗計もなく(普通のテスターでは測定不可能)、すべて素人の手作業による「勘」を頼りにフィルムを張り、導電剤を塗布している。 もちろん失敗してやり直したユニットもあったが、うまくいったユニットは、それぞれのユニット間の音の違いは聞き分けられない。 だからたぶん、限定された誤差範囲内で、ある程度の「ファジーさ」があるのだろう。 甦った音響は、8Xの新たな頂が、まだ先に聳えている可能性を示唆しているように思える。 スタックス工業株式会社が今にあれば、きっとさらなる高峰に到達しているに違いない。 外枠ヘフィルムを張る手順の最初の工程
<写真5:発音ユニットの振動膜を張る手順の最初の工程> **まず、発音ユニットより大きなフレームに、3ミクロン厚のポリエステルフルムを、破断一二歩手前ほどの強い張力で張り締めていく。この作業が終わった後、おもて面に導電コーティングを施す**
高域ユニットのフィルムを2つを同時に張る
<写真6:発音ユニットの外枠に導電コーティング済のフィルムを接着する作業> **いくつかのユニットの張り替えに成功していたので、調子に乗って高域ユニットを2つ並べて同時に作業してみた。これもうまくいった。接着剤が乾いたら、周囲のフィルムを切り落とせば振動膜を張る作業は終了** この「甦れSTAX ELS-8X」では、8X修復の顛末を中心に、それらにまつわる話などを綴ろうと思います。
なお当ブログ内の別テーマ、 「i氏山荘訪遊記(第2話)」 https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-14-1 で、この8Xとi氏のスピーカーシステムとの関連についての記事が少しあります。 そちらもお訪ねください。
厳重注意!
コンデンサースピーカーの修理は、生命の危険が伴います。 8Xでは4000V(4KV)、他の機種では6000Vを超えるものもあり、通電中の内部にはそのような電圧が「そこら中に」かかっています。 電流は微小ですが、触れた場合の電撃ショックは大きく、どのような結果を引き起こすか分かりません。 また電源を切っても、数日間は完全に放電しきらない場合もあります。 身の安全を守るため、家電製品の注意書きにある「サービスマン以外は裏ぶたを開けたり、分解したりしないでください」、のお約束をよろしくお願いいたします。 (第1話 おわり) https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-17 ▲△▽▼ i氏山荘オーディオ訪遊記(第2話) [i氏山荘オーディオ訪遊記] https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-14-1 平面バッフルの音空間とSTAX ELS-8Xの音空間
■竹集成材平面バッフル i氏山荘の現状のスピーカーシステムの基本構成は「竹集成材の平面バッフル3Way+大容量密閉箱ウーハー」である。 氏の描く基本形は、この平面バッフルを主放射源とするものである。 低域を補完するウーハーの最終形態は今後の課題としている。 これらは氏のオリジナルな自作であり、特に平面バッフルに竹集成材を採用したことや、その工作の巧みさは、今まで他に製作例がないと思われる。 またそのセッティングには、日常の家庭生活を考慮する必要のない山荘の「自分だけスペース」ならではの豪快さがある。 スピーカーの背壁は、急勾配の2階屋根に沿って傾斜した板張り。 その最奥に大容量密閉箱型ウーハが置かれ、その1mほど手前に平面バッフル型3Wayスピーカーシステムが、床と天井の梁との間に設けた強固な支柱に取り付けられている (第1話の写真1) https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-14 この「1mほど手前」の間隔が問題を起こしているのであるが、その解決はのちほど。
上下が固定された丈夫な太い支柱に、バッフルをがっちりと取り付けた構造が、このスピーカーシステム全体の音響を左右する大きな要素の一つになっているのだろう。 いずれにしてもこのスピーカーシステムが感動的な音場を形成する要因は、音の主放射源の平面バッフル方式にあると思われる。 平面バッフル方式のよさを評価する先達は大勢おられるが、ここの場合はそれが顕著に現れた好例だろう。 この平面バッフルスピーカーにはつぎの特徴がある。
・バッフルの材料に竹の集成材を採用た3Way方式。構成はツイーター1、16cmフルレンジ1、16cmウーハー2。 ・スピーカー開口部のエッジに滑らかなR付け加工。 ・表側全面のニス塗装。 穴あけ加工等、すべて自作である。 木工の腕は本職跣(はだし)であり、プロの指物師(さしものし)や大工の見習いとして即決採用かもしれない。 オーディオ道楽だけでなく、年中次々と発生する山荘の補修等の大工仕事を、各種の電動工具を揃えてやっているらしい。
i氏山荘SP平面バッフルのアップ
<写真1:竹集成材平面バッフル3Wayシステム> https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-14-1 **構成は上からツイーター1、16cmフルレンジ1、16cmウーハー2。この写真の16cmフルレンジはDS-16Fが付いている。SPの穴の周囲のみごとなR加工**
■「箱」では得難いこの感動はなにか
山荘訪問初日、ああだのこうだの、CDをとっかえひっかえしながら配置を工夫した。 どうも位相的な微妙な違和感が付きまとうように聞こえる。 ウーハーと平面バッフルとの前後の間隔が1m強ある。 どうやらウーハーの直接音が、平面バッフルの背面放射と干渉しているのではないかと見当をつけ、とりあえずの荒仕事で位置を変える。 平面バッフルを上下逆さまにして、ウーハーの箱の天板の高さに持ち上げる。 そしてウーハーを平面バッフルと同じ面まで前に出す。 フルレンジユニットはDS-16Fから三菱ダイヤトーンP-610DBに取り替えた。 さて、この取って付けの仮配置で音を出す。 この時の感激は、当訪遊記(第1話)の冒頭「序」のとおりである。 このような音の空間に入った時が、音楽好きオーディオファイルの至福の瞬間である。 聴き慣れた音源から発見される新たな音響的感動、それによって初めて感じ取ることができた音楽的感動が次々と出現し、涙腺を刺激する。 ああ、このステージはこうだったのか。 この演奏はこういう響きだったのか。 この楽器はそこで鳴っていたのか。 この歌手は、この演奏家は、ここまで微妙・精妙な表現をしていたのか。 その時、氏もこの境地にいたと思う。 あれはどうか、これはどうだろうと、次々とCDを取り替えては聴いている。
いやー、すばらしい。 これほどの音場感が出るシステムは本当に稀である。 お金を掛ければ実現できるものでもない。 この音響はどこから、どういう理屈で出てくるのだろう。 やはり平面バッフルに何らかの要因があるのだろう。 i氏山荘SP全景 after
<写真2:第1話の写真1の配置では微妙な違和感があったので、このような応急処置をして音を出してみる> **さてbefore→afterの結果は・・。竹集成材平面バッフルのフルレンジユニットは、三菱ダイヤトーンP-610DBに取り替えてある** ■STAX ELS-8Xとの共通点
今回の山荘訪問は、都合で氏に送り迎えしてもらった。 山荘に向かう前に、拙宅の修復成ったSTAXの大型コンデンサースピーカーELS-8Xの試聴をしてもらう目的もあった。 20数年ほど前から、氏はこの8Xを何度か聴いているのであるが、オーディオ道楽に染まってからは聴いていない。 8Xは片側に8個の発音ユニットがあるが(写真2)、ここ10年来、その半数近くの能率が下がり、使用できなくなった。 いつの日にか、なんとかしようと、納戸の小部屋に押し込めてあった。 8Xの代替機はALTECのMODEL 19を選んだ。 大型であるが、家庭に設置するタイプとして音響的に最高の器の一つだろう。 8Xとの音の質感の違いは当然ながら大きいが、これはこれで「大したものだ」と思う。 8Xを製造したSTAX工業株式会社はその後会社の形態が変わり、今後とも8Xが修理を受けられる可能性は完全に断たれている。 でもいつの日か、耳の聞こえるうちに、目がなんとか利くうちに、手先が自由に動くうちに、そして気力があるうちに修復したいと思っていた。 そうこうしているうちに自適生活に入り、怠惰な日々を2年も送っていたが、今年になってあるスピーカーを聴くにおよび、8X修復への「緊急決起ボタン」が押された。 この話は当ブログの別テーマ、「甦れSTAX ELS-8X」で綴ろうと思うが、かなりオーバーに言えば4・5ヶ月の寝食を忘れた苦楽の結果、3ミクロン厚のポリエステルフィルムを使った振動膜の張り替えに成功した。 オリジナル8Xは、ツイータ4ミクロン厚、フルレンジとウーハーは6ミクロン厚である。 それをすべて3ミクロン厚で張替えた。 その3ミクロン厚の超軽量振動膜の威力だと思うが、長年の8Xオーナーである自分が腰を抜かすほどの音響空間が再現されるようになった。 これを氏に聴いてもらった。 さて、氏は8Xの前に立つや、「これ平面バッフルですよね」、と一言。 「あっ!」。 迂闊であった。 発音原理や形がまったく異なるため、コーン型SPユニットを取り付けた平面バッフルと同一であることの意識が希薄であった。 氏の言うとおりである。 8Xは畳1畳ほどの木材の分厚いバッフルに、8個のSPを取り付けた平面バッフル型スピーカーそのものだ。 私は修復成った8Xから、今まで体験したことがないすばらしい音場の広がりと明確な定位が再現されることを知ったが、氏の山荘の音場も、これと類似の効果なのだと思っている。 「逆相になるが背面からも前面と同じ音が放射される」。 「背圧がかからないため、ダイアフラム(振動板)がもっとも自由に動く形態」。 事実としてこの平面バッフルの効果を、どのように理論づければいいのか分からないが、音場の再現や音響の品質に極めて有効に働いているに違いない。
余談であるが修復成った8Xを聴いた「蛙の子」の息子が、その音に驚いて、すぐさま同じ8Xを手に入れた。 ちょうどその時期、奇跡的タイミングで売りに出たらしく、二度とない幸運にめぐり合ったといえる。 片側の音が小さいという不具合がある出物だったが、私の8Xと比べられないほどの美品であり、不具合の原因だった高電圧発生部を修理して完動している。 よほど環境のよい部屋で、大切に使われていたのであろう。 この8Xも氏に聴いてもらった。 すべての発音ユニットが、これもまた奇跡的に健全な状態を保っており、オリジナル8Xの音が聴ける。 氏は一言、「これはこれでアリですね。少し力強いかな」。 部屋も置き方もアンプも異なるが、確かに3ミクロン厚の音と少し違う。 新旧2組の8XDSC_6847
<写真3:修復作業がほぼ終わった8Xの裏側と(左寄り)、息子が入手した同じ8X(右寄り)> **左右それぞれ8個の発音ユニットから成る平面バッフル型であることが分かる。上下シンメトリー。内側から外側に向かって高域ユニット×2、全域ユニット×2、低域ユニット×4の3Way構成** 8X振動膜張りDSC_6769
<写真4:8Xの発音ユニットの振動膜の張替え作業> **3ミクロン厚のポリエステルフィルムを、かなり強い張力をかけた状態で、ユニットのフレームに貼り付ける工程** ■山荘SPシステムの次のステ―ジ余談が長くなったが、山荘2日目の朝は早起きし、朝食も早々に音を出した。
昨日と同じく、本当にすばらしい音響と音場感である。 音楽に深く入り込める至福の再生音だと思う。 しかし少し気になる。 ウーハーの箱の天板が音を反射し、どうもその悪影響があるような感じがする。 天板の上に布団などを重ねて置くと、かなり改善されるので多分そうだろう。 ほんの僅かな違和感であるが、これがなくなれば良い方向の相乗効果で、格段の向上があるかもしれない。 とりあえずの実験としてウーハーの箱を分解し、前面パネルだけの平面バッフルの形で音を出してみよう、ということになった。 電動ドライバーを片手に、氏は箱と格闘を始めた。 しかし「大工見習いもどき」の氏の手に成る箱は、頑丈に作りすぎて簡単には分解できないことが分かった。 薄手の長袖の上着が必要な山荘の朝であるが、30分ほど汗をかいて、とりあえずの実験は諦めた。 さてこの課題を氏はどう解決するだろうか。 来年の春頃かな。 冬の氷点下で冷凍庫と化した山荘でも厭わない。 そのときは次のステージにグレードアップされた、さらにすばらしい音響空間に浸ることができるだろう。 (第2話 おわり)u https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-14-1 ▲△▽▼ 甦れ(2回)8X コンデンサースピーカー(2)SR-1との出会い [甦れSTAX ELS-8X コンデンサースピーカ] 今日の日記は、瀕死の8Xを「いつの日にか」、と思い続けたこだわりの源泉と、今後綴っていく修復日記の伏線になるようなエピソードについて記します。
■SR-1との出会い
若者の足なら、STAX本社の館、現在の東京都有形文化財「雑司が谷旧宣教師館」まで歩くのは、わけもない距離である。 JR池袋駅から南東に、徒歩で10分もかからない。 しかし微かな記憶には、国電池袋駅から路面電車に乗ったような情景が浮かぶ。 多分そうだったのだろう。 田舎から出てきて日も浅く、地理に不案内な学生である。 都電(路面電車)で行けば迷わない、と誰かに言われてそうしたのかもしれない。 STAX本社を訪問した目的は、イヤースピーカーSR-1と、イヤースピーカー用アダプターSRD-3の購入であった。
自分が請うたのか、あるいはご好意だったのか覚えていないが、そのとき試聴ルームに案内され、フルレンジ・コンデンサースピーカーESS-6A(であったはず)を聞かせていただいた。 これが当ブログ表紙冒頭の「私はこの館で音の洗礼を受けた・・・」のシーンである。 ESS-6Aが奏でる音楽。
その未体験の音響は、一生忘れることのない感動を残した。 そしてそのとき購入したSR-1。 これがその後、私の耳に「オーディオを聴く際の音の基準」を形づくることになる。 つまり私が歩いてきた「オーディオの道」を遡れば、源流は池袋の雑司が谷にある旧宣教師館に行き着く。 学生時代のオーディオシステム
<写真1:これ1枚しかない学生時代のオーディオ装置> **古くなれば本当にセピア色になるんですね**
写真は、機器の揃い具合から、学生時代の終わり頃のものだろう。 STAX SR-1はスネかじりであったが、レコードプレーヤーなどは自前である。 (SR-1はトリオのアンプ類の下の戸棚の中に見える)。 当時、春休みや夏休みなどに帰省して、浜松の日本楽器(YAMAHA)で高額報酬のバイトをやらせていただいた。 あの頃、浜松の日本楽器は、オーディオ評論などで高名な青木周三氏を招いて、レコードコンサートなどを定期的に催し、地方のオーディオ文化の発展や啓蒙に貢献していた。 浜松城公園に近い公会堂(?)で催された夜のレコードコンサートに、担当の綺麗なお姉さんに誘われてついて行ったことなど、とてもリアルに甦ってくる。 大通りの四つ角に面した店舗には、高級オーディオのフロアもあり、写真のレコードプレーヤーはそこで調達した。 アームはSTAX UA-7、ターンテーブルはSONY TTS-3000、カートリッジはFidelity-ResearchのFR-1とそのヘッドアンプFTR-2。 スピーカーは三菱ダイヤトーンP-610xx(続くサフィックスは覚えていない)を、その標準箱もどきに入れている。 ツイーターは当時のボクらの大定番、大ベストセラー、驚異の価格/性能比、Technics 5HH17。 この1枚の写真だけで、一冊の物語になるほどの思い出が湧いてくる。 バイトに通っていた時、浜松駅近くの新幹線ガード下あたりに「ナルダン」という喫茶店があり、そこのご主人に、いろいろとお世話になった。 ありがとうございました。 様々な思い出が甦る「これ1枚だけ」の写真である。 SR-1をめぐる高城重躬先生とSTAX社員との逸話
イヤースピーカーSR-1にはいろいろなエピソードがある。 ある日、高城重躬先生宅にSTAXの技術者ら数人が訪れた。 先生は悪戯に、氏のマルチチャンネル・システムの各帯域のアッテネータを少しズラして、「君たち、これを調整してバランスのいい音にしてごらん」と促した。 結局彼らは悪戦苦闘の末、僅かの違いを残して、元に近い状態に戻してしまった。 先生はこのことの講評に、「普段、イヤースピーカーを聴いている彼らの耳が、よく訓練されているからだろう」とおっしゃったという。 古いオーディオファイル諸兄の間では、伝説の逸話である。 私のオーディオは、形あるものも、ないものも、すべてにこの話のエッセンスが溶け込んでいるように思う。 さて、私のイヤースピーカーSR-1と、イヤースピーカー用アダプターSRD-3は、今どこにあるのだろう。 私自身が育て親を捨てることなどあり得ないので、屋根裏のダンボール箱のどこかに眠っているはずである。 発見できたら、その音を聴いてみたい。 耳パッドは元々ダメになっていたが、たぶん鳴ると思う。 「私の基準」を育んだ音をもう一度聴きたい。 ■STAXもう一つの傑作はSR-001
SR-1はその後、改良された新モデルが次々と出て今日に至っている。 私もその間、Lambda Nova Signatureなど2種類ほどのイヤースピーカーを買い替え、ドライバーユニットSRM-T1とともに所持している。 SR-1を原型として、現在の最新鋭モデルまでの変遷は、時代とともに進化を重ねてきたものであり、当然の流れである。 しかしSR-001は、その流れとちょっと違う。 コンセプトが全然違う、と言ってもいい。 従来のAC電源が必要なイヤースピーカー用アダプターを、乾電池で動作するポータブルにした。 従来のイヤースピーカーを何十分の一程度に小型化した。 STAX工業株式会社から今日の有限会社STAXに至るまで、世に送り出した製品で、他社が追従できない画期的な傑作が3つある。 他にも評価すべき意欲作はいくつかあるが、代表すればこの3つだろう。 1.コンデンサー型イヤースピーカー 2.フルレンジ・コンデンサースピーカー 3.コンデンサー型の超小型イン・ザ・イヤースピーカー・システム 私はこの「3.」の初代機SR-001を手にしたとき、本当に凄いものを開発したと感嘆した。
これ、嘘ではなく本当にコンデンサー型ですよ。 その当時私は、ウォークマンのたぐいのヘッドフォン・ステレオに、SONYのNT-1とNT-2を使っていた。 iPodが出現する前の話である。 NT-1/2は、切手大のデジタル・マイクロカセットを記録メディアとするデジタルレコーダーである。 サンプリング周波数32KHz、量子化ビット数 12bit折線(17bit相当)、圧縮方式 ADPCMのデジタル信号を、幅僅か2.5mmのテープにヘリカルスキャンで記録・再生する。 もっともSONYらしい、宝石のような、輝けるSONY製品の一つである。 当時、このNT-1やNT-2のすばらしい音質に応えられるヘッドフォンは皆無であった。 SR-001を使ってみた。 感激!。 音全体はイヤースピーカーを踏襲しているが、まず低音に驚かされる。 SR-001の低音は、他社の如何なるヘッドフォンより深くて生々しい。 この音を外に持っていける!。 私は写真2の「お出かけセット」を、通勤や出張、旅行などに離さず持ち歩いた。 そしてウォークマン型の終焉。 本来ならばSONYが出して然るべき、また出せる可能性があったにもかかわらず、iPodは門外漢のAppleから出た。 それから通常タイプのイヤフォンの高音質化競争が始まった。 私の「お出かけセット」もiPodになった。 しかしSR-001を原型とする、携帯できるイン・ザ・イヤースピーカー・システムは、イヤースピーカーとともに、世界に誇る傑作であると確信している。 (アダプターの側面に付いているライン入力ジャックは、その取り付け場所が悪く、じゃまになって使いにくい。しょうがないので、その脇に穴を開け、ラインケーブルを直付けした) SR-001DSC_7091 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/SR-001EFBC88E7B8AEE5B08FEFBC89DSC_7091.jpg
<写真2:SR-001とNT-2。iPod出現前の私の携帯オーディオシステム>
■8X修復の手掛かりなし さて8X修復の話であるが、情報はまったくない。 英国QUADのESLやESL-63系に関するrepair記事は、具体的かつ詳細なものが山ほど出てくる。 しかしSTAXのコンデンサースピーカーの内部構造や、修理に関する情報はネット上のどこを探しても出てこない。 ただ1つ、8Xの高圧電源部の修理を、絶縁ワックスをドライヤーで融かして行ったという国内記事があった。 高電圧発生回路は、4段のコッククロフト回路、とある。 具体的記述はそれのみであるが、確かにそのとおりであった。 当ブログの「i氏山荘訪遊記(第2話)」の「かえるの息子」が入手した8Xの修理の際、目視できるダイオードの結線状況から推測し、彼が回路図を書き起こした。 この話は次の日記で綴りたい。 新8X高圧電源部全景 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E696B08XE9AB98E59CA7E99BBBE6BA90E983A8E585A8E699AFEFBC88E6B888EFBC89.jpg
<写真3:「かえるの息子」の8Xの高圧電源部(修理前)>
**電源トランスと4個のコンデンサーが入った小部屋が、絶縁ワックスで充填されている。それらの一部が透けて見える。不良コンデンサーを交換するには、この大量の蝋をかき出さねばならない。さてどうすれば・・。左上の基板上の抵抗素子のアレイは、私の8Xより一つほど古いバージョンの仕様を示す** STAXカタログ内部構造 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/STAXE382ABE382BFE383ADE382B0E58685E983A8E6A78BE980A0EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89.jpg <写真4:STAXのコンデンサースピーカーのカタログの一部分> **発音ユニットの基本構造が描かれている**
発音ユニットの構造はカタログの模式図のみ
発音ユニットを分解する前に、その構造を知る必要がある。 構造が分からないまま、手荒なことはできない。 致命的なダメージを与えたら、はいそれまでよ、になる。 しかし、喉から手が出るほど欲しかった発音ユニットに関する具体的情報は皆無であった。 唯一、STAXのコンデンサースピーカーのカタログに、発音ユニットの内部構造の簡略スケッチがあった。 基本構造は正しく描かれているが、修復工作に最も重要な部分が省略されている。 でもこの図が、構造を推理するための大きな手掛かりとなった。 これらは次回以降の日記に順次綴っていこうと思います。 (第2話 おわり) https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-10-25 ▲△▽▼
甦れ(3回)8X コンデンサースピーカーもう一つの8X電源修復 [甦れSTAX ELS-8X コンデンサースピーカ] https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-11-09 序
今日の日記は、私の8Xの修復ではなく、もう一つの8X、「かえるの8X」の高圧発生電源部の修理について綴ってみます。 「かえるの8X」を修理してみて、同時期のロット(同じ時期に作られた8X)には、高圧発生電源部のコンデンサーの不具合が発生する恐れがあったのでは、と心配になったからです。 また、8Xとは直接関係のない、わき道にもけっこう深く迷いこみますが、すみません。 おやじの耳はいい?
芸術作品などに向かい合う際の審美感覚。 「鑑賞眼」とはちょっと違う気もするが、「心に沁み込む度合い」のようなもの。 映画、演劇、音楽、文学、絵画・・、といったものを味わう能力のようなものは、年を重ねるに従い、深まるのではないかと思う。 オーディオの音を聴く力も然りである。 聴力はどんどん衰えるのに、「コクや妙味を味わう」能力は向上するように感じられる。 8Xの健康管理
「かえるの息子」が入手したELS-8X(委細は「i氏山荘」第2話)。 自分のアパートに収容するスペースがないので、我が家に置いてある。 その8Xの健康維持のため、ときどき聴いている。 置いてある部屋は防音施工ではないが、家中に響く大音量も出してやる。 GECのKT88が挿してあるAIR TIGHTのATM-2は、太くてずっしりした音が出る。 大編成のオーケストラなど、床の振動が体に伝わって、実に豪快に楽しめる。 8Xから、ALTECの416-8B 38cmウーハー(「いとし子」第3回の写真1)を凌ぐほどの、床が震える低音が出る。 これって、プッシュプル方式独特の音なのだろうか。 今まで経験したP-Pの音は、どうも雰囲気が似ている。 新8X全景 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E696B08XE585A8E699AFEFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_7442.jpg
<写真1:「かえるの8X」は別室に置いてある>
**私の8Xとは比較にならないほどきれい。どのような環境で使われていたのか不思議である。左右合計16個の発音ユニットがすべて健全なのも信じがたい。購入して間もない頃の私の8Xが帰ってきたような錯覚に陥る** 新8Xアンプ類 <写真2:「かえるの8X」を鳴らすために急きょ集めた機器類> **木の穴から顔を出しているリスだか、モモンガだかの後ろがAIR TIGHT ATM-2** わき道談 AIR TIGHT ATM-2
余談であるが、このATM-2は、AIR TIGHTブランドのA&M社が創立間もない頃に購入した。 取り扱い説明書らしいものはなく、案内状は手書きであり、回路図も手書きであった。 内部のはんだ付けも下手で、重い本体を送り返すのも面倒なので自分で何箇所も補修した。 そのことを電話で伝えると、社長さんが「職人がまだ熟練してなくて・・」と、えらく恐縮しておられた。 しかしこの器の作りと、基本コンセプトは、とても共感できる。 回路はP-P増幅器の基本中の基本形、教科書どおりであり、妙な細工は一切なし。 あとはシャシー、トランス、各種の電子部品、それらの配置などなど、部品の品質・性能と、全体設計の良否で勝負、である。 私の「最終アンプ」のコンセプトと通じている。 このATM-2は、GECのKT88のゲッターがほとんどなくなるまで愛用し、今のGEC KT88は2代目である。 驚くべきことに、ゲッターがほとんどなくなったGECのKT88のip(プレート電流)は、新品のものと大きな差はなかった。 つまり交換の必要はなかったことになる。
そんな状況のATM-2、面白いことがいっぱいあった。 それらの話は別のタイトルで綴った方がいいとは思うが、楽しい思い出がいっぱいで、筆が止まらない。 初段の12AX7と、位相反転の12AU7、ドライバーの12BH7Aの銘柄やロットの違いで、出てくる音や、音の性質がコロコロ変わる。 NF(ネガティブフィードバック)も外した。 その話をしたら、「そんなことされたら音になりませんがな」とAIR TIGHTの方に言われた(本社は大阪)。 NFを外し、初段の12AX7を12AU7に替え、元のX7周りの定数をU7に合わせて少し変更することにより、明らかに、明確に「音が活きる」。 それによる他の聴感上の問題は特に出ない。 (こんなこと、やってはいけません。もはや時効の昔の話ですし、これは私が所持するATM-2だけに限ったことですから。P-PのNFを外すなど、もってのほかの愚行はおやめください。私、今は元通りにしてますから・・(~_~;) ) ごく初期に作られた私のATM-2。
バイアス・チェックメータのロータリーSWのガリには、ずーと悩まされ続けてはいるが、この器、全体的にはとても信頼できる、すこぶる良品だと思っている。 オリジナル8Xの音
すみません、話を元にもどします。 この8X、すべての発音ユニットが、完璧に良好な状態を保っている。 半数以上がダメになった私の8Xとは雲泥の差であるが、前オーナーはどのような環境で使っておられたのだろう。 本当にありがたいことである。 鳴らしてみる。 はて、こんなによかったのかな、と首をかしげる。 ハッとする。 またハッとする。 100%オリジナルのSTAX ELS-8Xの音が、これほど聴く人の心を、音楽の中に引き込むとは。 私の8Xが健全であった10年ほど前の状況と、今、鳴らしている環境に大きな違いはないはずである。 部屋は違うが、あの頃の私の8Xも、このように鳴っていたのだろうか。 ハッとだらけの、体が緊張するほどの臨場感を聴いていたのだろうか。 あの頃の音を忘れているだけなのか。 私の8Xの製造シリアルナンバーは400番台、かえるの8Xはそれより50番ほど古い。 見た目では、発音ユニットもバッフルも同一であり違いはない。 ただ、裏ぶたの内側に、へんな吸音材がしっかりと貼り付けてあった(それが正規仕様)。 誰かに指摘されてそうしたのか、それとも自分たちが考えたのか、背面放射を少しでも減らそうとしたためと思うが、音響抵抗になるようなものは、百害あって一利なし。 一苦労して完全撤去した。 私の8Xの頃には、吸音材の愚行は「改善」されていて付いていない。 つまり2つの8Xは、まったく同一である。 間違いなく私の8Xからも、同じ音が出ていたはずである。 とすると、当時の私の聴く力が浅かったことになる。 やはり、私が年をとったおかげで、音楽オーディオを味わう力が深くなったせいだろう。 そうに違いない。 「コンデンサースピーカー」の呼称は?
わが国ではこの方式のスピーカーを、一般的に「コンデンサースピーカー」と呼んでいる。 この方式による全帯域スピーカーの製品化は、1957年、英国Quad社の「Quad ESL」が最初である。 優美な曲面を描く「あれ」である。 すばらしい造形、私の「永遠のあこがれ」である。 これらはESL、すなわち「ElectroStatic Loudspeaker」。 「コンデンサー型」ではなく「静電型スピーカー」と呼ばれている。 昔、STAX社の製品に、コンデンサー型カートリッジがあった。 ご年配のターンテーブル愛好家諸兄には、そのカートリッジに特別の思いを持っておられる方も多い。 針先の動きをコンデンサーの容量の変化として取り出し、FM変調、検波の処理を経て、オーディオ信号を作り出す仕掛けである。 エンコーダー/デコーダーを含め、現代の技術で再開発すれば、どのような音が出るのだろうか。 さて、このカートリッジは、「コンデンサー型」と呼ぶに相応しい。 そのものズバリ、「コンデンサーの容量の変化」がキーポイントだからである。 しかしQuad ESLやSTAX ELS-8Xなどのスピーカーは、「静電型スピーカー」と呼ぶ方が実態を表している。 発音の原理にコンデンサー、つまり「蓄電」の有意性はない。 あくまで「静電」によるクーロン力こそが、音を出す源であり、この方式のスピーカーの本質である。 まあ呼び方など、この発音ユニットから飛び散る比類ない音を浴びればどうでもよくなるが・・。 かえるの8Xの高圧発生電源の修理
重要なご注意 STAX ELS-8Xの高圧発生電源部は、4000V近くの電圧が発生します。 感電した場合、人命にかかわります。 発音ユニットに供給される高圧は、高抵抗を介するため電流は微小ですが、感電した場合の電撃(ショック)は大きく、やはり人命にかかわります。 高圧発生電源部は、その供給元であるため、感電した場合はかなりの電流が流れると思われます。 それには生命の危険があります。 この高圧発生電源部を修理・修復・稼動させるには、4〜5000Vの高電圧と、その取り扱いに関する知識と経験が必要です。 この点のご配慮を、くれぐれもよろしくお願いいたします。 なおこの日記の、修理についての記述は、あくまで「かえるの8X」単体に関するものであり、他の8Xが同一の作りや仕様であるか否かは分かりません。
また、ここの記述や写真や図も、修理の「参考の一つ」や「ヒントの一つ」にしていただくためのものです。 修理に際しては、あくまで、それぞれの修理対象の現物を実地に調査・解明して、その上で適切な対応を検討されるようお願いいたします。 訳あり
承知の上であったが、かえるの8Xは、右側完動、左側音圧低下、の「訳あり」として彼が手に入れた。 訳あり側の発音ユニット各部の電圧を測ると、すべての発音ユニットの成極電圧(バイアス電圧)が、正規の1/3以下であることが分かった。 このことから、不具合箇所は高圧発生電源部だろう、と推測できる。 左右の高圧発生電源部のボックスを引き出し、裏ぶたを外すと、意外なことが分かった。 完動している右側の高圧発生電源部に、メーカーで(多分)修理を受けた形跡がある。 充填されている蝋に、手を加えた跡があり、コンデンサーが取り替えられている。 左側とはメーカーが異なるものに交換されていた。 要するに、右側にもコンデンサーのトラブルがあったことになる。 左側の高圧発生電源部は、工場出荷時のままであることは見れば分かる。 つまり、このシリアル番号の近辺のものは、高圧発生電源部の、たぶんコンデンサーが「弱い」ことが推測できる。 不具合の左側の高圧発生電源部も、右側と同様に、いずれかのコンデンサーがダメになっているのだろう。 整流用ダイオードは蝋漬けになっていないので、テスターで良否をチェックした。 すべて健全であった。 高圧発生電源部修理前 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E9AB98E59CA7E799BAE7949FE99BBBE6BA90E983A8E4BFAEE79086E5898DEFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_6875.jpg
<写真3:修理を受ける前の高圧発生電源部>
**電源トランスと4つのコンデンサーが入っている小部屋は、蝋で充填されている** 高圧発生電源部ダイオード側 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E9AB98E59CA7E799BAE7949FE99BBBE6BA90E983A8E38380E382A4E382AAE383BCE38389E581B4EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_6866.jpg
<写真4:蝋の小部屋の壁裏のダイオード類>
**写真上部に蝋の小部屋とコンデンサーが見える。見えているコンデンサーの下にも、さらに3つのコンデンサーが埋められているとして、このダイオード類の配置などを、よーく観察していると、回路図が見えてくるようになる、かな** 高圧発生電源部の回路推測
充填されている蝋の中に、電源トランスとコンデンサーが複数個、漬けられているとする。 その上で、写真4:のダイオードなどの結線状況から推理して、4段のコッククロフト・ウォルトン回路と仮定した。 かえるの息子が予想回路図を描いてみた。 多分正解だろう。 使われていたコンデンサーは、チューブラー型(リード型)の0.01μF、耐圧3000Vが4個。 ここでは手持ちの都合で、0.047μF、耐圧2000Vのものを使った(耐圧は3000Vが安心)。 高圧発生電源部回路図 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E9AB98E59CA7E799BAE7949FE99BBBE6BA90E983A8E59B9EE8B7AFE59BB3EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89.jpg
<写真5:高圧発生電源部の整流&昇圧回路の推測回路図>
**雑な絵ですみません。かえるの彼が、その場にあった紙に描いたスケッチ。4段のコッククロフト・ウォルトン回路と推定された。赤字の電圧が修理後の数値。ただし成極電圧調整VRが最小のときの電圧であり、VR最大時は、これの約140%に上昇する。通常はVR最大で使う> 大量の蝋を取り除く 缶ビールを輪切りにして蝋の容器を作る。 ドライヤーで充填されている蝋を熱し、柔らかくして小さなスプーン状のものでかき出す。 その前に、ダイオードを熱風から守るために、何らかの工夫をしておく必要がある。 熱してはかき出し、また熱してはかき出す。 いやというほど繰り返す。 この作業はコンデンサーの周りだけでよい。 トランス周りはそのままでかまわない。 コンデンサーの交換
底につくまで蝋をかき出すと、4つのコンデンサーが現れる。 それを全点、交換する。 狭い空間の中、順にコンデンサーを取り外して、新しいものを順に取り付ける。 かなりアクロバット的な技が要求される。 この作業、よほど器用な方でないと難しいかもしれない。 交換が終わった段階で十分な目視チェックをして、誤りなしを確認する。 高圧電源コンデンサー交換 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E9AB98E59CA7E99BBBE6BA90E382B3E383B3E38387E383B3E382B5E383BCE4BAA4E68F9BEFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_6887.jpg
<写真6:コンデンサーの周りの蝋を取り除き、全部のコンデンサーを交換する> **手持ちの0.047μF、耐圧2000Vのコンデンサーの寸法は少し大きすぎた。最上部のコンデンサーは裏ぶたに接触する恐れがあるため、絶縁チューブを被せた** 電源を投入して動作試験 発音ユニットへの接続はつながったままであり、外さないでおく。 各部、要所要所の電圧をチェックする。 かえるの8Xの修理後の場合、発音ユニットの成極電圧端子(高域)1.9KV、全域および低域3.7KVであった。 いずれも高圧発生電源部の成極電圧調整VR最大時。 この状態で音を出してみたり、電源のON/OFFを繰り返したり、電圧可変VRを回したりして実働試験を行い、確信が得られれば再び蝋で充填する。 再び蝋で充填
缶ビールの蝋を電熱器などで温める。 蝋って、断熱材のように熱が伝わりにくく、なかなか融けてくれない。 アルミホイルで覆うなどの工夫をして、完全に融けたら(融けると透明になる)、空気を排除しながら完全に充填されるように、少しずつ慎重に注入していく。 完了したら、十分に冷えるまで待って実働試験を行い、問題がなければ元通り本体に収め、めでたく修理完了となる。 高圧電源蝋充填 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E9AB98E59CA7E99BBBE6BA90E89D8BE58585E5A1ABEFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_6890.jpg <写真7:ひととおりの動作確認後、「小部屋」を融かした蝋で再び充填する> **蝋が茶色の部分は、まだ冷えていない半透明の状態。冷えるとクリーム色になる** かえるの息子が帰ってきたときは、夜通し8Xを聴いている。 8Xの前のソファーで横になって朝まで聴いている、たぶん寝ている。 自分のアパートにも「けっこうそこそこ」のシステムがあるが、音の出方が根本的に違って聞こえるらしい。 この違い、おおまかには、一般的なヘッドフォンやイヤフォンと、STAXのイヤースピーカーとの違い、と思っていただければ近いと思います。 オリジナル8Xの音。
昔は気付かなかった深い味わい。 8X本来の素晴らしさを、「もう一つの8X」が教え示してくれた。 この歳になってようやく気付く、なさけない感性である。 (甦れ8X(第3話)もう一つの8X電源修復 おわり)� https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-11-09 ▲△▽▼ 甦れ(4回)8X コンデンサースピーカー成功!発音ユニットの分解 [甦れSTAX ELS-8X コンデンサースピーカ] https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-11-20 今日の日記は、8Xの発音ユニットの構造を、文字通り「開」「示」します。
STAX ELS-8X 修復の基礎データーとなる核心部分です。 魚ではあるまいし、ですが、本当に「二枚おろし」に開いてしまいました。 発音ユニットの修復作業には、さらに「三枚おろし」にしなければなりません。 三枚の話は後日として、私、釣りはやらないし、魚、もちろんさばけないです・・。 すみません、またちょっと脇道・迷い道ですが、8Xに関連ありなので・・・
射程70m、8Xで那須与一が今に甦る 吉祥寺駅前の大道芸 10年ほど前の吉祥寺の駅前。 買い物をしての帰り道であった。 人だかりの輪の中から、ペンペン、ジャランジャランと三味線のような音が聞こえてきた。 けっこう激しく演っている。 輪の隙間から潜り込んで少し近づく。 芸人風の三味線弾きが、津軽三味線ぽい演奏を演っている。 ちょうど佳境に入ったのか、強烈な音と激しいリズムが盛り上がり、そして万華鏡のような音色の変化に続く。 足がすくんで動けない。 一挺の三味線の、大オーケストラを凌ぐダイナミズム。 まさに圧巻の「音」と「音楽」であった。 「道端の芸」でさえ、これほどまでに人を感動させる。 最初に「音」ありき。 まず「音」。
そしてその「音色」や「響き」があり、「拍子」、「旋律」、「和声」などは、そのあとの話。 昨今、音楽とは、どうやらそういうものではないかと思うようになった。 続く話は今日の日記の後半で・・。 左右裏アップ https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E5B7A6E58FB3E8A38FE382A2E38383E38397EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89.jpg <写真1:向かって右側の本体から高域発音ユニットを取り外したところ> **不完全ながら、鳴らしながら修復作業を行ったので、ダミーの板をはめてある。修復したユニットが、一つ、また一つと増えるごとに、加速度的に音がよくなっていった** 8Xの発音ユニットの取り外し
8Xの発音ユニットを本体から取り外そう。 それぞれの発音ユニットは、その両脇をアルミチャンネルの棒で押さえられている。 アルミチャンネルとは、断面が「コ」の字形のアルミの棒であり、8Xに使われているものは、「コ」の字の中にピッタリと木材の角棒が埋め込まれている。 発音ユニットを取り外すには、該当するアルミチャンネルを固定している木ネジを外すだけでよい。 STAXカタログ原理 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/STAXE382ABE382BFE383ADE382B0E58E9FE79086EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89.jpg
<写真2:STAXのカタログに載っている発音ユニットの電極端子の状況> **3つの小丸が端子。甦れ8X(2)で紹介したカタログの絵を拡大したもの。** 元ユニット電極部 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E58583E383A6E3838BE38383E38388E99BBBE6A5B5E983A8EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_6067.jpg <写真3:高域発音ユニットの電極端子部分>
**中央上のポリカーボネイト製のビスで留めてある端子と、その真裏の同端子が固定極の端子。ユニット右端の上に突き出た端子が振動膜の端子** 発音ユニットの電極端子
再三お知らせしていますが、STAX ELS-8Xは、電源ケーブルを外しても、場合によっては数日間、高電圧がチャージされている場合があります。 4000V(4KV)近くの高い電圧ですので、感電した場合は人命にかかわります。 この方面の知識と経験がない方は、けっして裏ぶたを開けないよう、お願いいたします。 さて、アルミチャンネルを外したら、発音ユニットの電極端子にハンダ付けされている3本のリード線を取り外す(2本は、アルミチャンネルを外す前に取り外しておくほうがよい)。 各端子の状況は写真1、2、のとおり。 ハンダの融けた雫が、発音ユニットにかからないよう、細心の注意で作業する。 3つの端子のリード線を外せば、発音ユニットを本体外に取り出すことができる。 発音ユニットの側面全部(四面)は、軟らかな蝋でコーティングされているが、この蝋は後で取り除くことになる。 実はこの蝋、極めて重要な役目を果たしている。 その話は最重要事項の一つでもあり、後日の日記に改めて綴りたい。 発音ユニットの構造を推理する
STAX ELS-8Xは受注生産品であり、同じ形の各部品を、何千・何万個と作って組み立てたものではない。 なので、ロットにより時期により、構造や寸法が少々異なるかもしれない。 まずこのことが前提であることをご理解いただきたい。 STAXカタログのユニット内部構造 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/STAXE382ABE382BFE383ADE382B0E381AEE383A6E3838BE38383E38388E58685E983A8E6A78BE980A0EFBC88E38388E6B888EFBC89.jpg
<写真4:STAXのカタログに載っている発音ユニットの構造>
**甦れ8X(2)で紹介したカタログの絵を拡大したもの。** カタログのこの絵、概略図としては分かりやすく描けている。 私もこの絵から、発音ユニットを分解するための重要なヒントを得た。
まずはこの絵をよーくご覧いただき、基本的な構造の成り立ちを頭に入れておく。 そして続く写真を詳細に観察すると、まあだいたい「こんなことだろう」というイメージが湧いてくると思う。 元ユニット端側面 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E58583E383A6E3838BE38383E38388E7ABAFE581B4E99DA2EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_6671W.jpg
<写真:5高域発音ユニットの上部の側面>
この側面をよく観察すると、全部で6層あるように見える。 茶色のベークライトが2層+白い塩ビ(実は透明)が2層+茶色のベークライトが2層である。 右手に見える、貼り付けてあるようなチップは、たぶん各層が剥がれないように補強するためのものか。 このチップは側面の数個所に接着されている。 側面の蝋のコーティングを除去すれば分かりやすくなるのだが、残念ながらその写真を撮ってない。 元ユニット角の2面 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E58583E383A6E3838BE38383E38388E8A792E381AEEFBC92E99DA2EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_6102T.jpg
<写真6:高域発音ユニットの下部の角付近> **この写真は、各層が鮮明ではないが、全体の状況を観察していただきたい** 発音ユニットを魚のごとく「二枚おろし」にする さて、発音ユニットの基本構造がおぼろげに見えてきたとしよう。 真ん中から2つに割っても大丈夫そうだ。 次の目標は、このユニットを「二枚おろし」のように、真半分に割りたい。 見た目では、各層がしっかり接着されていて、いずれの層も分割できそうにない。 いろいろと苦慮した。 真ん中の透明な層(白く見えるが)は、アクリルか何かだろう。 そこを「発泡スチロール・カッター」のような電熱線で、鋸を挽くように融かしていったらどうだろう。 ベークライトは熱に強いから、透明層だけ融けるはずだ。 最悪、電動工具で切断か。 などなど1・2日悩んだ。 元ユニット二枚おろし https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E58583E383A6E3838BE38383E38388E4BA8CE69E9AE3818AE3828DE38197EFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_6533.jpg
<写真7:真半分に「二枚おろし」した発音ユニット>
**上側に元の振動膜が付いている** あっけないほど簡単だった「二枚おろし」
「二枚おろし」は超簡単だった。 まず、「補強チップ」は削り取っておく。 透明の層は、ベークライトとの接着面も、透明同士の接着面も、カッターナイフの刃をうまく入れると、パリパリと接着面に沿ってきれいに剥がれた。 魚をおろすのにコツがいるのと同様、カッターナイフの刃をうまく入れるのもコツがいる。 また、刃を深く入れすぎると、パンチングメタルを傷つけるので注意が必要である。 この思ってもいなかった「幸運」は、たぶん、20数年経たことによる接着剤の劣化ではないかと思う。 接着剤は、見た目や、硬さの感じから推測すると、おそらくエポキシ系だろう。 そして透明の部分は、硬さからアクリルではなく塩ビ(塩化ビニール)だろう。 ベークライトと塩ビとの、接着剤の親和性があまりよくなかったのかもしれない。 その一方、ベークライトのベースと、同じベークライトのバーとは、完全に一体になったように強固に接着されており、カッターの刃など、まったく受け付けない。 たぶん同じ接着剤であるが、材質によって接着力に大きな違いがあるようだ。 いずれにしろ発音ユニットは、みごとに、本当にみごとに「二枚おろし」になった。 やった、ヤッター!。 この時点で、この先も「やれそうだ!」と明るい目標が定まった気がした。 人の人生に、そう多くはないであろう「大きな喜び」の一つに数えてもいいほどのうれしさであった(他愛もないものに・・であるが)。 元ユニット内面フィルム付 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E58583E383A6E3838BE38383E38388E58685E99DA2E38395E382A3E383ABE383A0E4BB98EFBC88E7B8AEE5B08FEFBC89DSC_6546.jpg
<写真8:高域発音ユニットを「二枚におろした」片側の内面>
元の振動膜が残っている側。透明なのでよく判別できないが、ななめのに走る反射光でかろうじてフィルムの存在が分かる。
ベークライトの基盤(ベース)、ベークライトのバー、塩ビのバー、パンチングメタルなどの位置と相互の関係をよーく観察していただきたい。 外枠の上下の穴は、分解前にあけたもの。 この穴は再組み立て時に必要となるが、今回は触れない。 核心!発音ユニットの基本構造
写真3〜6をよく観察すれば、おおよその構造は推測できる。 実際の発音ユニットの基本構造と、各部の「アバウトな寸法」は、図1のようになっていた。 図のイメージは、全域および低域の発音ユニットのものであるが、高域ユニットも基本は同じである。 ただし高域ユニットのパンチングメタルは、両端の形が半円ではなく、角を丸めた「角」である(ベースの開口部は半円形)。 なお、パンチングメタルの厚さは、U字アームを持ったマイクロメーターのようなものを持っていないので測定できていない。 が、甦れ8Xの初回で指摘した、「ギャップが狭いという他のESLとの大きな違い」が、この図で分かると思う。 発音ユニット図面 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E799BAE99FB3E383A6E3838BE38383E38388E59BB3E99DA2EFBC88B5jpegEFBC89.jpg
<図1:発音ユニットの基本構造図> さてさて構造が判明したまでは、うますぎる展開でした。 あとは工夫次第、アイデア次第、やる気次第ですが、この後のアイデアを搾り出すには、かなりの体力を消耗することになりました。
本通りから、再び脇道に入りますが、お付き合い願えれば幸甚です。
那須与一CD <写真9:CD「琵琶 中村鶴城 平家物語をうたふ」> **私の愛聴盤50選(があるとすれば)のなかの一枚** 和楽器の再生も大得意の8X 8Xで聴く平家物語。 那須与一の緊迫のシーンが、目の前でリアルに展開される。 終わった後、しばらく動けない。 こんなもの、爺様しか聴かない、と思っていたが、とんでもなく現代的であった。 この演奏家の琵琶、超現代的だと思う。 CD、「琵琶 中村鶴城 平家物語をうたふ」。 地下鉄神谷町駅から虎ノ門へ向かって、大通りを少し行って右に折れたあたりに、琵琶の製作工房がある。 そう、和楽器の本物の琵琶、非常にめずらしいが都心にある。 以前、会社の別館が近くにあったので、ときどき覗いて見学した。 理由は聞かなかったが、その工房に中村鶴城のCDが何種類か置いてあった。 売り物だというので、数枚求めた。 10数年前のことである。 那須与一の扇までの射程距離70m このCDの中の「那須与一」、だれもが知っている物語。 源平合戦のさなか、一艘の小船の上に、うら若き乙女が扇をかざした竿を持って立つ。 この扇、みごと射てみよ、という挑発というか、誘いである。 周りの者から射手に推薦された「下野国の住人、那須太郎資高が子にて、那須与一宗高」が、義経の命を受け、命を懸けて挑む感動の物語である。 馬上、距離を縮めるために海に入っても、扇までの距離が「7段」(約77m)あるように見えたという。 物語の脚色を勘案して50mとしても、揺れる船、自分は海中で足掻く駒の上、風もあったというから、どだい無茶な話である。 オリンピックのメダリスト、「中年の星」といわれた山本博選手の現代の弓矢でも、100に1つもダメなのでは、と思う。 琵琶の強音でスピーカーのボイスコイルが飛ぶ
この物語を、薩摩琵琶の名手、中村鶴城が演じている。 圧巻である。 それまでは平家物語の琵琶、総じて私には聴いていられなかった。 ひどくつまらない。 それを中村鶴城の演奏が、琵琶という楽器の印象を180度ひっくり返してしまった。 この楽器から出る音の、あらゆる可能性を「使い倒す」ような奏法である。 この楽器、凄まじくダイナミックな楽器である。 撥弦楽器でこれに匹敵するものはおそらくないだろう。 弦を撥(ばち)で強打するフルパワーの一撃は、スピーカーのボイスコイルが飛び(焼け切れること)、コンデンサースピーカーの振動膜が裂ける。 その恐怖が伴うほどの衝撃音が鼓膜を刺す。 この楽器、出せる音の幅(音程のことではない)がとても広く多彩である。 演奏法も「多芸」である。 こういったパルス的な大衝撃音も、8Xは易々と平気でこなす。 ついでにいえば、8Xによる篠笛もたまらなくいい。 篠笛の、歌口を切る空気流の雑音を伴った音色の魅力など、苦もなく再現する。 篠笛は日本独自の「庶民の笛」であり、何の付属物もない竹筒1本の簡素な横笛である。 そこに篠笛の、単純のようで深みのある音色の妙があるのだろう。 修復した8Xで繰り広げられる源平絵巻。
与一が、騒ぐ海が、足掻く駒が、折れんばかりに引き絞られた弓弦(ゆんづる)が<このシーン、琵琶の弦を撥で強くしごいてその効果音を出す>、唸りを曳いて扇に吸い込まれる鏑矢(かぶらや)が、超現実映像のように目の前に広がる。 8Xはそういう世界に連れて行ってくれる音のリプロデューサなのです。 (甦れ8X(第4話)成功!発音ユニット「二枚おろし」 おわり)が
コメント 5
升金 勲
貴ブログ拝見しました。8Xという私には初めての情報。分からないながら最後まで読みましたが、全然わからない。凄いことをやっているんですね。音が録音され、それがCDになり、再生プロセスを経て耳に入る。「生」の音が諸々のキカイを通してニンゲンの耳に入るのに、絶対に「生」は再現されないものだと、以前から信じていました。だから、よく言われる「CDを10枚買うなら1回でもライブに行きなさい」という言葉に同調していました。8Xというのは、それほどに再現性がいいんですね。 話は変わりますが、15,6年前、タイガーウッズが鹿児島に来て「カシオワールド」に出場した際、大枚1万円を払って見に行ったことがありました。彼のドライバーショットの「音」のすごさに強いインパクトを受けました。あの音はテレビ中継などでは絶対に再現できませんね。なんというか、空気を切り裂くような「ソニックフォーン」とでもいうのでしょうか。「ピシュッ」というか、とても文字では表現できません。勿論中継のマイクでは集音できないし、諸々のキカイを通り、電波に乗せて家庭まで届けることなど不可能です。それほど彼のドライバーの「初速」は桁外れだったのだと感じました。1万円で体験できたことはまさに僥倖でした。 貴兄の音に対する博学で解説して教えてください。 by 升金 勲 (2013-11-21 10:59) AudioSpatial 升金さま。ご訪問ありがとうございます。 すみません。内容が今流にいう「コアなもの」なので(マニアックすぎるものなので)、申し訳ないです。
「8X」というのは、過去、スタックス工業株式会社(同名の株式会社は今はない)が製作販売したESL-8Xという「コンデンサー型」のスピーカーです。 今現在、オーディオ愛好家が使っているスピーカーの、音を発生させる原理の違いによる種類には、つぎのようなものがあります。 @ボイスコイルによるフレミング右手の法則型(一般的なSPがこれ。コーン型とホーン型がある) Aリボンによるフレミング右手の法則型(RCAのマイク、美空ひばり伝説の「77DX」の逆の原理です) Bマグネプレーナー型(フレミング右手の法則型ではあるが、振動板は平面フィルムです) Cコンデンサー型(磁石の力を使わない。文具の下敷きなどをこすると、ちぎった紙片がくっつく、あの静電気の力の応用です)
Dイオン型(こんなのも実際にあります。空気をイオン化して、そのイオンをクーロン力で直接駆動します) とまあ、代表的にはこんなところです。 8XはCに当たります。 CとDは、空気を動かす仕掛けの重さが飛びぬけて軽い、ところがミソです。 Dなどはその極端な例で、「動かす物」がなく、空気を直接動かします。 CDの力はクーロン力なので、@〜Bの磁石の力に比べて段違いに小さい、という問題があります。 8Xなどは、そこをいろいろ工夫して、「琵琶の強音」も再生できるようになっています。 Dは高音専用のツイターしか実用機はありません。 どの世界にも、目的のためには、いろんな仕掛けを考え出しますね。 ゴルフのクラブの作りなど、スピーカーの比ではないですよね。たぶん。 by AudioSpatial (2013-11-22 03:17) AudioSpatial 升金さま。先ほどの私の返信、ちょっと訂正です。
総体的な意味で「フレミング右手の法則」と書きましたが、より正確には、「左手」の法則、の方が適切です。 「右手」:導体が動いて、電気が発生する。 「左手」:導体に電気が流れて、力が発生する。 といった違いです。 by AudioSpatial (2013-11-22 09:45) 人形町
張り替え成功だけではなく できれば測定をしていただきたいです。 STAXが認めてくれる性能が確保されているか。 by 人形町 (2014-06-30 13:13) AudioSpatial 人形町さん、ご訪問ありがとうございます。
申し訳ありませんが、おっしゃっておられる趣旨が、よく理解できません。この8Xを製造した「STAX工業株式会社」は、すでにこの世になく、残念ながら聴いてもらいたくても、その望みは叶いません。できることなら、ぜひとも当時お世話になったSTAXの方々に聴いていただきたいところです。 また、メーカーが認める/認めないは、私の道楽には何の関係もありません。蛇足ですが、8X完全オリジナルの完動品が、隣の部屋で鳴っております(ブログにその記事あり)。 さらに測定の件ですが、その必要性を私は感じておりません。訓練された耳は、測定器以上の性能を持っていると思っております。音響のハイエンド付近の領域に、一般的な測定器は役に立たないとも思っています。あくまで、ただのオーディオ道楽のことですから、そこのご理解を、よろしくお願いいたします。 by AudioSpatial (2014-06-30 14:40) https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-11-20 ▲△▽▼ 甦れ(5回)8X コンデンサースピーカー構造の詳細と修復手順 [甦れSTAX ELS-8X コンデンサースピーカ] https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-12-11
比類ない再生音が2つ STAX ELS-8Xの比類のない再生音。 その秘密は、世界に類のない精緻な作りの発音ユニットと、分厚い木材でがっしりと作られた、広い面積の平面バッフルとの組み合わせにあります。 当時の経営者の、コンデンサースピーカーに懸けた情熱を一身に受けて成長した、本当にすばらしい、まるで嘘のような「作品」です。 当時から8Xは、そのような稀有な存在であったのではないかと思います。 その8Xが2式。
このような事態になろうとは、昨年の今頃は夢にも思わなかったことでした。 製造から30年近く経た今も、まったく健全そのものの姿で朗々と鳴り響く1台と、ほとんどの発音ユニットがダメになり、当ブログに綴っている修復を受けて甦り、オリジナルを凌ぐほどの音を響かせるようになった1台。 それが我が家にあるなど、本当に何が起こったのか不思議な気持ちです。 家内の認可を受けた唯一の機器8X
今年も、はや師走。 昨年の今頃、「瀕死の8X」は狭い納戸に捨て置かれたまま、その存在すら忘れられていました。 家内と一緒に、池袋のサンシャイン60ビルの向かいのマンションの一室にあった、STAXのショールームに出向き、8Xその他を試聴させてもらった思い出のスピーカーです。 後にも先にもオーディオ機器の中で、家内の認可を受けたものは、この時の8Xただ一つです。 そんな思い入れの8Xであり、「いつかは修理して・・」と思いつつも、現実的には無理だろうな、と、ほとんど諦めていました。 それがどうなって、いま現在のような「8Xが2台」の奇跡が起こったのか、私自身も理解できないほどの急展開の1年でした。 02)オ部屋の8X_DSC_7855 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/02EFBC89E382AAE983A8E5B18BE381AEEFBC98X_DSC_7855EFBC88E7B8AEEFBC89.jpg
<写真1:私の8Xの対ニャン子ディフェンス網>
**家庭の諸般の事情により、だいたい19時から24時頃にかけて、重要機器類が収められている我がオーディオ部屋のセキュリティーは、5匹のニャン子の侵入を阻止できない状況にある。とりわけニャン子の攻撃に弱いのは、トーンアーム系とスピーカー系である。これらがやられては国家の存亡にかかわる。 そこで8Xは、少しゆるいが、多少の効果はあるディフェンス「網」を構築した。写真のように、下半分を「虫除けアミ戸」用の、目の粗いネットで、うまく覆った。いくらかは音に影響があると思うが、やむなし** 今日の日記
さて、今日の日記は前回に続き、分解して明らかになった8Xの発音ユニットの構造に、もう一歩迫ります。 さらにはその構造を基礎にして、発音ユニットを修復する工程の大筋を、図面と写真で公開します。 内外の各種のESL(コンデンサースピーカー)の修復や、ESLの研究、また、興味を持たれている方などに、何かの参考の一つにでもなれば幸いです。 8Xを超えるには
8Xの発音ユニットを分解すると、その「作り」が、他のESL(コンデンサースピーカー)と比べて突出して精巧・精密・入念であることが見て取れる。 この「入念な作り」は、かつてのスタックス工業株式会社が、長年にわたってコンデンサースピーカーの音を研究し尽くした「結果」が、形になったものだと思う。 発音ユニットは「こうしなければいい音は出ない」。 材質、形、構造、パンチングメタルの形状と加工、成極電圧、絶縁材と絶縁法、ダイアフラムの材質と導電剤の処理、その他諸々。 私は当時の経営者が「コンデンサー型」製品に懸けた情熱の「結論」を信じたい。 8Xを超えるものを作るには、その人以上の「情熱と年月」が必要である。 そうあるべきだと思う。 戻れない
久し振りに2台の8Xが同時に鳴った。 週末に帰った「かえる息子」が、バッハの教会カンタータなどを聴いている。 その全集のCD Boxの中古を安く買ってきたらしい。 めずらしくボリュームを上げているので、非防音のドアの外に、透き通ったテノールの響きが伝わってくる。 その声に誘われ部屋の中に入ると、そこには豊かな響きの教会の大きな空間が広がっていた。 思わず「いいな」、と声をかける。 「これ聴いたらもう戻れないよ」、と返す。 余談であるが、私がバッハの教会カンタータの魅力に目覚めたきっかけは、今もよく覚えている。 第199番、BWV199「わが心は血の海に泳ぐ」をFM放送で聴いたときである。 まだ学生の頃かもしれない。 ソプラノもオーボエも、旋律が美しい。 まるでオーボエ協奏曲のような部分もある。 それ以降、このジャンルでどれか一つ、といわれれば、今も即答でBWV199をあげる。 8X_ https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/01EFBC89E3818BE383BBE381AEEFBC98X_DSC_7449EFBC88E7B8AEEFBC89.jpg
<写真2:もう1台の8X>
**「甦れSTAX ELS-8X」でしばしば登場する別の8X。「かえるの息子」が入手した完璧な状態のオリジナル8X。母親は「じゃまだから早く持っていけ」というが、彼のアパートには、もはや置けるスペースはない** 1週間ぶりの私の8X 鳴っていたもう一台は私の8Xである。 PCオーディオ用のパソコンを、新マシン、新OS(といってもWindows7)に移行作業中であったため、ここしばらく、機器に灯が入らなかった。 それがこの週末、まだ不安定ながらも、ようやくPCのライブラリーや、ブルーレイ・ドライブによるCDが再生できるようになった。 Windowsは、VistaやWindows7以降、PCオーディオには問題が多かった従来のMME(オーディオやサウンドのカーネルミキサー)部分に変更が加えられたようである。 しかし周辺の諸々が、その変更に追いついてくるまで、今しばらく時間が必要であり、私の場合、従来のXPでのやり方を、7でも取り敢えず踏襲せざるを得なかった。 私のPCオーディオについては当ブログ「オーディオルームのコンポーネントたち」第2回の「私のPCオーディオと・・」をご訪問いただきたい。 8X修復の留意点 STAX ELS-8Xの発音ユニットは、そもそも修理できるようには作られていない。 その構造を知れば、故障したら修理するなどの考えが、設計当初からまったくなかったことがよく分かる。 なので他社のESLのように、ネジを外して分解し、不具合箇所を修理して、再び組み立てネジ止めして修理完了、といったことができない。 つまり8Xの発音ユニットに「修理マニュアル」は存在しない。 あるとすれば「修理」ではなく「製造マニュアル」であるが、それもないだろう。 製造には手工業的な部分が多く、それを文字にしたマニュアルの記述は困難であり、おそらく職人の口伝・直伝の世界に近かったのではなかったかと思われる。 といった状況なので、もし修復を試みる方がおられたら、まず手始めに1つの発音ユニットを分解し、それの各部の採寸から始めて、詳細な構造を徹底的に調べ上げることからスタートする必要がある。
とにかく、まずは分解だけを目的に、あれこれ試みることである。 修復の各工程には、それぞれ各自が工夫して解決しなければならない問題点が次々と出てくる。 ある問題をクリアするのに、何日も悩むことが何度もあった。 修理不可能なものを強引に修理するのであるから、とにかく一にも二にも「工夫」するしか手はない。 発音ユニットの構造の詳細
さて前回(第4回)の続きとして、発音ユニットの構造図を公開したい。 前回の図を含めてこれらの図から、発音ユニットの基本構造をよく読みとっていただきたい。 完璧二枚おろし https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/02_1EFBC89E5AE8CE792A7E4BA8CE69E9AE3818AE3828DE38197DSC_6712EFBC88E7B8AEE38388EFBC89.jpg
<写真3:「二枚おろし」にした発音ユニット(写真は全域・低域ユニット)> **この写真は、たまたま完璧に半分に分割できた例**
この例では、運良く写真左側のように振動膜が破れずそのまま残った。
フィルムを指先で押してみると、想像を超えた大変強い張力で張られていることが分かった。 周辺のフレームにあけられた穴(2.5mmφ)は、表裏の位置がズレないように分割前にあけておく。 パンチングメタルの放電の痕に黒いサビ等が発生している。 振動膜の電極(銅箔)が左端手前に見える。 また、写真11・12・13で見られる「導通ガイドライン(黒い線)」のオリジナル(フレーム上の白い線)を確認することができる。 背面側1/2分解図 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/03EFBC89E8838CE99DA2E581B4EFBC91EFBC8FEFBC92E58886E8A7A3E59BB3B5.jpg
<図1:背面側1/2の分解図>
**前回(第4回)の「二枚おろし」の片側。振動膜の面で真半分に分割した背面側。写真3の右側にあたる。私の場合、水色のバー(1mm厚の塩ビ。色は透明)のみ、図のように剥離できた。これは使い回しせず、塩ビ板から切り出して新しいバーを作る。私は数が多かったので業者に作ってもらった** 前面側1/2分解図 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/04EFBC89E5898DE99DA2E581B4EFBC91EFBC8FEFBC92E58886E8A7A3E59BB3B5.jpg <図2:前面側1/2の分解図> **写真3の左側にあたる。**
表裏合わせた状態 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/05EFBC89E8A1A8E8A38FE59088E3828FE3819BE3819FE78AB6E6858BB5.jpg
<図3:表裏両面を合わせた状態。> **元のユニットは、このような状態で各層が接着され、一体になっている。接着剤はたぶんエポキシ系**
表裏合わせて固定する要領 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/06EFBC89E8A1A8E8A38FE59088E3828FE3819BE381A6E59BBAE5AE9AE38199E3828BE8A681E9A098B5.jpg
<図4:発音ユニットの修復が完了した後の完成ユニット>
**元のユニットのように接着剤で固定すると、やり直しができないため、図のようにビス止めをする。表裏にあらかじめ2.5mmmの穴をあけてあるので、図のようにそれぞれバカ穴とタッピングを施す。金属のビスは厳禁。ポリカ・ネジを使う。** さて、これらの図から、発音ユニットの基本構造を読み取ることができたとして、次はユニット修復の作業工程の話に移りたい。 使用した材料や消耗品、使い方、入手法などは、後日の日記で綴ろうと思う。 なお、ユニットの穴あけにはボール盤が必要である。 私はホビー・模型用の卓上ボール盤を使って、すべての作業を行った。 精度不足であるが、そこは技(?)で補い、まあ十分役に立った。 作業工程(大工程) 工程1:二枚おろし ユニット側面の蝋は除去。 分割前に図4の位置に2.5mmのガイド穴をあけておく。 透明な塩ビのバーの面での剥離を試みて、写真3の状態に分割する。 塩ビのバーは再使用しないので破損してもよい。 パンチングメタルは、その後の作業の前に、マスキングテープで養生しておく。 接着剤等の残留物は、ていねいに取り除き、接着面に凸凹がないように処理をする。 工程2:新しい塩ビ・バーの接着 分割されたユニットはソリが出るので、写真10・12・13にあるような治具(私の場合はアルミチャンネルを利用 )を用意しておく(ユニット両端を治具にビス止めしてソリを防ぐ)。 そのあと、あらかじめ寸法に合わせて作っておいた塩ビ・バーを元のように接着する。
工程3:枠にあけた穴の処理 ユニットの分割前にあけた穴を、片側は3.2mmのバカ穴をあけてサグリ。 もう一方はM3のタップを切る。
ザグリ https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-12-11
<写真4:3.2mmのバカ穴とザグリ> **本体の表側に当たる1/2ユニットの穴の処理。パンチングメタルやその周囲の蝋コーティングを保護するために、マスキングテープでしっかり養生しておく(重要)。高電圧がかかるので、ゴミ、埃、異物などの混入はあってはならない** タッピング
<写真5:裏側ユニットのM3タッピング> **穴の数が多く、大変しんどい作業になるが、がんばるしかない** 工程4:ダイアフラムを大枠に張る
私の場合は3ミクロン厚のポリエステルフィルムを使った。 写真のように木枠を作り、布テープでコーティングしておく(フィルムとの馴染みがよい)。 適当にフィルムを張った後、張力が全方向に均等にかかるよう、セロハンテープで徐々に張り締めていく。 この張り締めを十分な張力に達するまで数回繰り返す。 振動膜フレーム準備
<写真6:大きめの木枠の準備> **しっかりした木材で、がっちりとしたフレームを作る。角は金具で補強する。フレームは布テープでコーティングしておくと、フィルム張りの作業に都合がよい** 振動膜ロール置始
<写真7:あまりシワが寄らないようにフィルムをそーっと置いていく> **写真のように、マスキングテープをうまく活用する** 振動膜張始 <写真8:フィルムを張り締めていく最初の状態> **まだ張力はかかっていない** 振動膜張完 <写真9:フィルム張り締め完了> **全方向均等に張り締めていく。数cmに切ったセロハンテープで、マスキングテープ上を次々と引っ張って張り締めていく。感覚としては、破断1.5歩手前でよい。最初に一度、破断するまで実地検証することをお勧めします** 工程5:フィルムへの導電剤コーティング
この工程がもっとも神経を使う緊張の場面となる。 すばやく、ていねいに、むらなく、確実に作業しなければならない。 極力埃の少ない部屋での作業が望まれる。 本来はクリーンルームで行う作業である。 私は風呂場で行った。 写真の撮影どころではないので写真なし。 すみません。 材料や手順の詳細は後日の日記で。 工程6:木枠フィルムをユニット枠へ接着 ユニット側をかさ上げして、木枠が「宙ぶらりん」になるように準備をしておいてから接着する。 鋭利な突起物でもないかぎり、木枠の重みでフィルムが破れることはない。 切り離しはカッターナイフか半田ごてで行う。 振動膜貼付全景
<写真10:ユニットの枠に木枠のフィルムを接着> **不織布ワイパーをたたみ、接着面を押さえて確実に接着させる。その後は木枠の重みで自然に圧着させておき、乾燥を待つ。不織布ワイパーは、入手が容易な写真6にある「BEMCOT M-3U」を使った(フィルムへの導電剤コーティングの作業にも、これを使う)** 振動膜貼付接写
<写真11:ユニットの枠に木枠のフィルムを接着のアップ> **フィルム全面の電荷が均等になるように、導電塗料で導通ガイドラインをフレームに描いた(黒い線)。セロハンテープで張り締めの様子も見える** 工程7:導通ガイドラインをフレームに描き、端子を接着
フィルム全面の電荷が均等になるように、導電塗料を枠の四辺に「井桁」状に書き、振動膜の端子を付ける(習字の筆を使った)。 端子は導通性粘着剤の銅箔テープを使った。 膜切り取り
<写真12:振動膜フィルムの貼り付け作業完了> **フィルムで塞がれたフレームの穴の部分は、半田ごての先端であけておく** 振動膜の電極
<写真13:振動膜の端子を付ける> **このユニットを本体のどこに取り付けるか決めてなかったので、端子を両端に出したが、無駄な放電可能性の存在は好ましくない。片側のみに設けるべきである。** 工程8:表裏1/2のユニットを合わせ、ポリカ・ビスで固定
ユニット表面にビスの突起があると、本体への固定の際の障害になる(短辺のビスとナットは問題ない)。 組み立て後、防塵用のネット(洗剤で洗った後、使いまわし)を接着する。 元と修後のユニット https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/17EFBC89E58583E381A8E4BFAEE5BE8CE381AEE383A6E3838BE38383E38388DSC_6805EFBC88E7B8AEEFBC89.jpg <写真14:組み立て終わったユニット(上)と、次に修復を受けるユニット(下)> **修復後の外観はこのようになる** 工程9:四辺の側面に絶縁テープを巻く
オリジナルのユニットのその部分は、蝋でコーティングされている。 最終的には蝋で処理したいが、当面は絶縁テープで代用して、しばらく(1年間ほどか)様子をみる。 調べてみたが、蝋の種類やその入手法が分からない。 このあとは本体に取り付けて、音出しテストとなる。 手作業品の修復は、一にも二にも「工夫」あるのみ これらの写真を見るだけでも、8Xの元の発音ユニットが、いかに手工業的に作られていたかが分かると思います。
さらに修復には、新品の組み立て作業にはないような、厄介な問題があちこちに発生します。 それらを「工夫」によって一つひとつ解決していかねばなりません。 でもまあ、ユニットの修復も、3つ目か4つ目になると、工程や手順もいろいろ修正され、あとはもう「その道の職人」になったような調子で作業できるようになるものです。 そこまで行けば、手間と、やたらと時間のかかる作業を、ルーチンワーク的にやるだけになりますが、それほど根気が続くものでもありません。 そしてやってみて分かった大事なことを一つ。
たとえば10個ほどのユニットを修復するには、マスキングテープ(幅は各種)、セロハンテープ、不織布ワイパー、絶縁テープ(布製、ゴム系各種)、接着剤、アルコール(無水エタノール)、ティッシュペーパーなどを、大量に消費します。 これらを惜しみなく、湯水のごとく使わなければ、いい仕上がりになりません。 またこれらを含めて、一切の材料や消耗品は、必ず一流メーカー品を使うことをお勧めします。 接着剤を使うために時間に追われ、また息を止めて一発勝負でやる作業もあり、粗悪品でモタモタしている場合ではありません。 オーディオ道楽だから、また深い想い入れのある8Xだからこそやれた、そうでなければやってられない、面倒この上もない、しんどくも楽しい作業でした。
次回の日記は、振動膜への導電剤の塗布を中心に綴ろうかと思います。 ドキドキしてスリル満点の作業です。 (甦れ8X(5)構造と修復の核心部公開 おわり)
コメント 4 kroyagi 始めましてkroyagiと申します。
私も永年8xの前身であるELS-6Aを愛用してまいりましたがご他聞に漏れずユニットの能率低下のため使用できなくなってしまいました、どうしたものかと途方にくれていたところこちらのブログに出会い勇気づけられました記事を参考に再生に取り組みたいと思います、 よろしければ使用したフィルム、塗料、接着剤などが知りたいので続きをupしていただけないでしょうか、1台でも多くstaxのスピーカーを生きながらえせるために。 宜しくお願いします。 by kroyagi (2014-07-29 20:25) AudioSpatial kroyagiさん、ご訪問ありがとうございます。返信が遅くなって申し訳ございません。
ELS-6Aですか。あの時代に、ここまで精緻なコンデンサースピーカーを作った日本のメーカーがあったことが、まず、日本の誇りであり、日本のオーディオ史の金字塔ですね。8Xを分解し、レストアしてみて、初めて、あまたの海外製コンデンサースピーカーとは一線を画した精密・精緻、そして、こうでなければならない、という作りの素晴らしさを発見することができました。 kroyagiさんご指摘の、フィルムや、それに塗布する導電剤その他について、できるだけ早く、ブログを更新したいと思います。フィルムと塗布する導電剤は、スウェーデン在住のコンデンサースピーカー・ファンで、ボランティア的に、小分け通販をしてくれている方から取り寄せました。今もまだ、材料があるのかどうか、ちょっと、問い合わせをしてみます。 by AudioSpatial (2014-08-02 13:39) AudioSpatial kroyagiさん、先日おたずねのフィルム等の入手先について、別の方からも問い合わせがありました。
そこで、入手先のURL等を取り急ぎ、お知らせいたします。 私が、発音ユニットのフィルムと、導電剤、およびフィルムの接着剤を取り寄せたMT Audio Design のホームページのURLです。 ESLのリペアについて、とても参考になりますのでご覧ください。 http://user.tninet.se/~vhw129w/mt_audio_design/ 上のMT Audio Designのホームページの「Quad ESL-63 Element Repair」のページの本文冒頭部に、「MT Audio Design ESL Repair Shop」のタグがありますので、それをクリックするとESL Repair Shopのページ(下記URL)が開きます。このショップに、フィルムと導電剤およびフィルムの接着剤の在庫を問い合わせてみてください。
http://user.tninet.se/~wea635n/mt_audio_design/mt_audio_archives/esl_repair_shop.htm ではよろしくお願いいたします。 by AudioSpatial (2014-08-15 02:49) kroyagi お返事有難うございます、まさか私と同じ6Aを所有の方がいらっしゃり再生に取り組もうとしているとは、また私もサブとしてJBL S-101改を使用しているので偶然とはいえ縁を感じます。 早速MT Audio Designに問い合わせてみますありがとうございました。 今後も問い合わせる事が有るかもしれませんが宜しくお願いします。 by kroyagi (2014-08-17 17:37)
https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2013-12-11
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