05. 2013年4月12日 00:53:34
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周囲から嫌われても朝ごはんはおいしく食べる自分の道を進むのはその覚悟から始まる 2013年4月12日(金) 遙 洋子 (ご相談をメールでお寄せください。アドレスはこちら) ご相談 出産して復帰すると、職場の空気が微妙に冷たくなりました。開き直る度胸もなく、出社するのが苦痛です。(30代女性) 遙から なんとも言い難い違和感について語ろうと思う。先日見たNHKでの討論会がきっかけだ。 出産を機にその女性に降りかかる困難。待機児童問題、職場での肩たたき、職場復帰の困難など。テーマはずっと過去から引きずるいまだ解決しないものだ。 番組構成は、子と仕事をもつ母たちと雇用側の声として経営者たち。その分野の有識者たち。ついでに、これから職業人となり母となろうとする若者。 こんなもんだろう。おそらく正しい配分だろう。 なのに、だ。いつもこういった、底辺に男女平等問題が絡むテーマにつきものの違和感がこの会にもあった。自分が番組に登場するときにはそれどころではないが、傍観者として眺めていると、そこにある違和感を分析したくなる。 異なる周波数で交信しても会話はできない 子と職業を持つ女性たちの声はあくまで当事者経験としての不満だ。これは100人の声を聴いても、おそらく、同じ。何人集めようが一個一個の経験は聞き飽きたものだ。 そこに経営者としての声もまた、それが女性経営者なら必ず登場する“自己責任”。「がんばればできる」「工夫が足らない」。そして“経営不振”。「育休の次は時短。と思ったらまた2人目ができました。企業に余裕などない」的、経営者としての困窮。これも昔からある主張。 そして、保守が言う「せめて3歳までは母が子についていてやらないと」的な“3歳児神話”。つまり「子ができたら専業主婦でいいじゃないか」論。 子を持った途端、詐欺にあったかのような八方ふさがり感は、自己責任と、経営不振と、3歳児神話、が、壁となって立ちはだかる。 これもずーっと過去からなんら変わらない。発見はない。 そこでNHKは、番組に未来を持たせるために、工夫をしている企業を紹介する。まずは残業を強制的になくす企業。父親は早い帰宅を余儀なくされ、子育てに参加し、母親の負荷を減らせる。女性が出産後働き続けたら日本のGDPは4%アップするなど、希望を持たせる。そうしないと、番組が成立しない。 だが、最後にデーブスペクター氏が言った。 「専業主婦もすばらしい」 この発言で終わる番組の主旨を思うと、椅子から転がり落ちた。 発言は主観からだからどんな発言でも自由だ。だが、この種の相まみえなさを見るたびに不毛を超えて、虚脱感に近い絶望を感じる。 周波数の違う多チャンネルで交流しようとする違和感だ。その代表例がこの会話に表れている。 経営者が言う。 「3歳までは子とともに」 青年が言う。 「それは3歳児神話。そもそも両立って、無理ゲーなんですよ」 この時の憮然とした年配経営者男性と、腰をずらし両足を大きく広げて「無理ゲー」を連発する青年との交流は、その交流不能さの象徴的シーンにも見えた。 討論のたびに残る絶望感 まず、経営者には、礼儀正しく着席する年配者に対し、大股開きの若者が、“神話”だの“無理ゲー”だの、理解不能な日本語で向かってくる姿は無礼にしか映らなかっただろう。宇宙人に見えたかもしれない。 育児と仕事の両立は現実的に無理なゲーム(芸?)である。3歳まで母親がついていてやらないと子はまともに育たないというのは脅迫に近い神話である。といった、男女平等的基礎知識が流布しきれていないのが、世間、だ。 その世間と格闘するときに、「無理ゲー」と叫んでも通じない。また、「辛い」と涙ぐんでも動じない。では有識者はどう機能するか。 彼らの武器はデータだ。いかに両立している国がGDPをあげているか、いかに日本が立ち遅れているか、いかに専業主婦という選択肢が非現実的か、等々。 だが、こういうデータを見てもなお、デーブスペクター氏が最後に締めた、「専業主婦もすばらしい」という発言を見る限り、なーんも価値観を揺るがす効果はなし、と、見ていい。 データなど、何十年も前からその筋の専門家が発信してきて、今がある。データは、すでに問題意識を持つ人には利用価値があっても、経験値と過去の実感に依拠する普通の人の価値観を揺るがすほどの威力はない。 新体制に取り組む企業の例もまた、「いーなー」という憧憬で、終わる。 女性学で最初に習う、「個人的なことは政治的なこと」。一人の女性が被る困難は、一人の頑張りで解決できるようなものではなく、その国の政治、政策、が絡む。国のありようが絡むということだ。 しかし仮に、この番組に少子化対策大臣を呼んだとしよう。「国も前向きにがんばっている」という希望的発言で終わる。実際、その種の番組で私自身がそう答えられた経験がある。 男女平等が底辺に絡むこれらテーマの討論に常になんらかの違和感があるのは、討論するたびに残す、絶望感、だ。無理やり希望に着地してもなお拭い消せない絶望。 みんな好きに生きている 私の結論は、ひとつだ。 世間の価値観も、好かれようとする思いも、いっさいかなぐり捨て、好きに生きる。 企業に認められ子を産もうとするから絶望がある。良き妻、良き母であろうとするから苦労がある。 データ、データといい、多くの男女が結婚を希望しながらできない、と評論するが、本当にそうか。 したければしている。結婚生活に憧れつつ、現実は「この男と結婚しても未来が見えない」と女性は(男性も)冷静に見ているから、その瞬間、その男性を(女性を)選ばなかった。 つまりもう好きに生きている。 「結婚したい」が本音か「したくない」が本音か。その行動を見る限り、「したくない」から、しないのだ。 「子供を2人ほしい」というデータが仮にあっても、では、実際その時に、産むか産まないかは別だ。産みたきゃ産んでる。「やっぱ産みたくない」が勝つと産まない。 少子化は、「産みたくない」結果の現実だ。 その現実に、なんとかせねばとばかり政策は後から追いついてくる。 みな、好きに生きればいいし、すでに生きている。そのことをデータを基に「問題だ」とし、「討論を」とする世間やメディアがおかしい。 周りが敵ばかりでも、好きに生きる 「この会社、おかしい」と思ったら訴訟すればいい。法律はあくまで男女共同参画社会側だ。 社会や国家を嘆いているうちに、あっという間に人生は過ぎる。結婚も仕事も子育ても、私は個人戦だと思っている。社会的合意を得た上で、仕事も子供も、と、思うから、結婚も、となる。 番組が醸し出したものは、皮肉にも、社会的合意など永遠に得られないから覚悟しろ、という痛烈なメッセージだ。 これは自己責任とは違う。人生の可否の責任は自分にある、というのではない。あくまで社会が未熟だ。悪いのは社会だ。明確だ。 何かが叶わなかった時に、自分のせいだ、と思うのではなく、この時代、この社会で生まれてしまった現実を受け入れ、そんな社会に迎合されようなどと期待せず、選択を繰り返す。 誰かに承認されようとせず、周りが敵ばかりでも、好きに生きることを応援したい。 まずは嫌われても朝ごはんがおいしく食べられるトレーニングから始めよう。 【第5回】 2013年4月12日 オバタカズユキ[監修] 「後悔しないための大学選び、 基本のき【就職問題/後編】」 前回に引き続き、複数の大学にてキャリア形成支援に携わる『大学キャリアセンターのぶっちゃけ話』で話題の著者、沢田健太さんに大学の就職事情についてインタビュー。今回は、大学が行っている「キャリア教育」について、その実態について鋭く突っ込んでみた。 大学のキャリア教育って どんなことをやっているの? ―― まず最初に、大学のキャリア教育は、どんなことを行っているのでしょうか? 沢田 企業人のあるべき姿論、自己分析の方法、ビジネスマナーなど、講師によって教えていることはいろいろです。でも、多くは就職マニュアル本やビジネス自己啓発本を読めば済むようなお話ですね。それを大規模授業で講義する。当初は受けたい学生だけが受ける選択授業だったのが、いまや下位校を中心に必修科目化しています。初年次教育と融合し、どんどん科目数が増え、卒業単位の中に占めるキャリア教育がすごく増えているのです。 教えているのは、就職業者から派遣されてきた、元人事マンなどの企業社会経験者が多い。現役の人事の講師もいますね。アカデミックに就職問題を研究しているのは少々。ほか、地域活動に取り組むNPOの人など。 問題なのは、圧倒的に非常勤講師の比率が高いことです。結局は寄せ集めなので、ひとつの大学の中に多彩なキャリア教育の授業があっても、それに連携がなかったり、内容が重複していたり、場当たり的な就職支援の前倒しみたいなことになっています。 本当のキャリア教育を行っている 大学をどう選ぶか? ―― あまり大学にキャリア教育を期待しても意味がないということですか? 沢田 いや、大学のキャリア教育はもっと変われるはずです。わたしは、企業社会と大学教育の橋渡しになることが、キャリア教育の進む道だと考えています。 企業は、新卒採用で学生に、対人スキルなどのコミュニケーション能力や課題解決能力を求めています。ならば、キャリア教育の授業の中で、グループワークなどを実施し、コミュニケーション能力を養ってもらえばいいではないですか。 あるいは、学生自身に現実世界の中にある課題を見つけさせ、それを調べ、解決法を考えてもらうのでもいい。つまり、課題解決能力の育成です。 学生個々の意識や能力を教員が見定めながらアドバイスする必要があるので、教える手間はかかります。でも、そこで身についた力は、大学教育の本丸である「研究」でも確実に活きるのです。 ―― そういった教育をしている大学をどう探せばいいですか? 沢田 大学公式ホームページにあるシラバス(講義要目)で、どんなキャリア教育の授業があるのかを調べてください。ほとんどの場合、学外の人でも自由にアクセスできます。シラバスには、担当教員名も出ていますから、気になる名前があったら検索をかけて、もっと詳しく調べるのもおすすめします。 活きたキャリア教育で見える ブラック企業の実態! ―― 若者の労働問題として「ブラック企業」が注目されています。あとで後悔しないために、その見極め方を教えるということは? 沢田 大学のキャリア教育はそもそも、学生を就職させるためのものでした。適応教育や適応支援というんですが、企業社会が求める人材像を説明し、だからあなた方もそうなりなさい、と。いまだにその手の授業が主流です。 けれど、「ブラック企業」の問題が大きくなり、適応だけではなく、抵抗や変革の側面も併せ持たなければならない、という声が高まっています。ただし、そういった授業をやる教育は企業社会の負の側面を強調しがちで、真剣に教えるほど、肝心の学生が下を向く。「働くのって嫌っすね」「自信がないっす」と思わせてしまう。いわゆる労働教育は、教え方がとても難しいんです。 わたしは授業で、とある物流会社の人事担当者にブラックトークをしてもらったことがあります。「僕は採用のときに勤務時間は9時から17時と説明していますが、実態は朝8時前に出社、帰りは平均で23時か24時ぐらい」「ちゃんと払ったら大変な額になるので、残業代は申請してもらわないようにしています。申請があっても、その数字を改ざんします」といった話。 学生にはリアルブラックを体感してもらいたかったんです。どんな仕事でも大変なことはあるし、それを乗り越えないと成長できない。それは大切なことだ。しかし、どこかで線引きしなければ自分が潰れてしまう。この会社は一線を越えた例だろうね(笑)と。 活きたキャリア教育をどう実践するか。これはわたしにとっても大きな課題です。 (本コラムは、「大学図鑑!2014」からの抜粋です)
【第429回】 2013年4月12日 宮崎智之 [プレスラボ/ライター] グローバル企業で働くことは本当に幸せか? 若者を食いつぶす悪徳企業の正しい見分け方 これからは、グローバル人材にならなければ生き残っていけない――。就活中の若者たちの間にこうした価値観が広がるなか、積極的な海外展開を行なうグローバル企業の就職人気は、相変わらず高い。しかし足もとでは、小売業、外食業などにおいて、社員が過酷な労働条件に陥っているグローバル企業の経営に異議を唱える風潮が、メディアで盛り上がっている。その批判は一面の真実ではあるが、グローバル企業で働くことは本来、厳しいもの。本当に問題視すべきは、はじめから社員を使い捨てる目的で「グローバル」を吹聴し、人集めをする企業が増えていることだろう。一部の悪徳グローバル企業に引っかからないために、就職活動中の若者はどんなポイントに気を付けるべきか。また、そもそもグローバル企業で働くことに、私たちはどんな「覚悟」を持つべきだろうか。(取材・文/宮崎智之、協力/プレスラボ)
学生の中に広がる「グローバル意識」 国内市場だけではサバイバルできない? グローバル展開する企業が増えている昨今、日本国内の人口減による市場縮小などを背景に、グローバル化の要請はより一層強まりつつある。その意識は企業を選ぶ側の学生にも浸透している。 人事総合ソリューション企業のレジェンダ・コーポレーションが2012年4月入社の大学生・大学院生に対して行った調査では、約8割の学生が「将来、グローバル人材になりたい」と回答した。 また、同社による別の調査(対象は2013年4月入社の新卒学生)によると、「日本市場が縮小していて国際的に活躍できる人材が求められているから」(男性/理系/院)や「将来海外で仕事をしたいと考えているため、海外で外国人とのビジネス感覚を養いたいから」(男性/文系/大学)などを理由にして、36.6%の学生が海外での新入社員研修を希望しており、そのうちの7割が「海外赴任を命じられたら積極的に受け入れる」という結果が出た。 一般的に、日本の若者は「内向き志向」と言われているが、今後の経済状況やキャリア形成を考えれば、「積極的に海外に打って出たい」と思っている若者も多いということだろう。今後、数十年間、ビジネスの第一線で働くことを考えると、国内市場に目を向けているだけではサバイバルできないという危機感の表れなのかもしれない。 ある大学生はこう語る。 「大学でも『これからはグローバル人材にならなければ生き残っていけない』と学内セミナーで叫ばれていました。就職難ということもあり、周囲でTOEICの勉強をしたり、短期留学をしたりする学生は多いです」 そんな若者に狙いを定めているのか、採用段階で「グローバル企業」を標榜する企業が増え、学生の人気も上々だという。しかし一方で、そうした企業の一部には、外から見た先進的なイメージとは裏腹に、社員に低賃金で重労働を行わせる労働条件の悪い企業も少なくないのが現実のようだ。 なかには、うつ病社員が続出し、若手社員の離職率が異常に高いという、前近代的な課題を抱えるケースもあるという。 足もとでは、小売業、外食業などにおいて、社員が過酷な労働条件に陥っているグローバル企業の経営方針に異議を唱える風潮が、メディアで盛り上がっている。名前を挙げられる有名企業の中には、事業構造に課題を抱え、結果として社員にしわ寄せが行っているケースが多いように思われる。 さらに問題視すべきは、はじめから社員を使い捨てる目的で「グローバル」を吹聴し、人集めをする企業が増えていることだ。「期待に胸を膨らませて入社してみたら、イメージと全然違った」と嘆かないためにも、就活時の綿密な企業分析は必要だ。 そこで今回は、そうした一部の悪徳グローバル企業に引っかからないために、就職活動中の若者がどんなポイントに気を付けるべきかを分析しよう。 海外赴任をさせず、長時間労働で選別 若者を食いつぶす「悪徳グローバル企業」 本当の意味での「グローバルで活躍できる人材」がどういう人かはさておき、若者がそうしたビジネスマン像を目指して努力することは、日本経済を活性化させる上でも、好ましいことである。しかし、いざ憧れのグローバル企業に就職したとしても、思い描いていた実態とかけ離れた業務を強いられるケースもある。 年間数百件の労働相談を受けるというNPO法人POSSEの代表で、『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)の著者である今野晴貴氏は、グローバル企業について「英語を使ってカッコいいだとか、大々的にグローバル化を謳っているなどのイメージに振り回されては危ない」と警鐘を鳴らす。 「国内で社員に長時間のサービス残業を強いて、体を壊すまで酷使させて得た利益をもとに、海外進出を狙う企業もあります。日本の人材を食いつぶして国内の経済に還元しない企業は、日本を海外進出するための『発射台』としか思っていません。若者は、華々しい企業イメージだけで判断するのではなく、その企業がどういう体質なのか見極める必要があるでしょう」(今野氏) 低賃金、長時間労働が常態化し、人材を使い捨てにする企業と言えば、まず「ブラック企業」という言葉が思い起こされる。実は、ブラックなイメージとはほど遠いグローバル企業のなかにも、それに近い体質を持つ企業がある。 今野氏によると、グローバル企業と謳っていても、すぐには海外赴任をさせず、国内で過酷な労働によるふるいにかけるため、その過程で多くの社員が退職するケースもあるという。グローバル企業が持つ先進的で合理的なイメージとは裏腹に、体育会系のマニュアル主義を徹底させ、過剰な競争によって従業員を酷使しているのである。 うつ病になっても辞められない? 「労災隠し」を行う企業の言い分 あるグローバル企業では、「プレッシャーによって若手社員の間でうつ病患者が増え、診断書を持っていっても労災隠しのため『一度休職して、治ってからでないと辞めてはいけない』と言われることもある」(今野氏)。 「グローバル」という華やかなイメージで学生を集め、人材を使い捨てようという企業がある可能性には、留意しておいた方がいい。 また、ブラック企業かそうでないかにかかわらず、グローバル企業の現状は甘くない。前出した学生の声からもわかるとおり、グローバル人材に必要な要素として「語学力」を第一に思い浮かべる人も多いと思う。しかしそれに加えて、実際に海外に赴任し、ライフスタイルが変化しても耐え得るだけの「順応能力」が求められることも忘れてはならない。 「海外展開する商社に二世の帰国子女や外交官の子どもが多いのは、そのためでしょう。外国語を喋れるだけではなく、海外生活にどれだけ違和感を覚えず順応できるかどうかも非常に重要です。その部分でミスマッチを起こしてしまう若者も多い」(今野氏) さらに、会社の体質とは関係なく、そもそも海外赴任には危険が付きまとうことも忘れてはならない。日揮の社員が巻き込まれ、10人の犠牲者を出してしまったアルジェリアの人質事件は記憶に新しい。 特に海外に工場を持つ製造業では、今後、現地従業員によるストライキなどのトラブルに巻き込まれる可能性も増えるかもしれない。すでに、インドのスズキ、ベトナムのキヤノンなどでストライキが起きている。 2012年1月に在中国日本大使館経済部がまとめた『中国の日系企業におけるストライキの発生状況』(回答総数180件)についての調査結果によると、2010年は13社、2011年は6社が「自社でストライキが発生した」と回答した。 なかには、「日本企業が外からきて安い賃金でこき使っている」「日本人社員との給料と比べて格差がある」「資源を奪っている」などと感じる現地従業員もいるかもしれない。 文化や商環境が違うなかで、現地との軋轢の最前線に立つ。政情や治安が不安定な国に赴任する際は、休日の行動も制限せざるを得ない場合もあるだろう。そんな覚悟がなければ勤まらない仕事もあるということだ。 「ブラック企業」と思われないために 企業がグローバル人材を活用する方法 それでは、グローバル人材を採用する企業の側には、「ブラック企業だ」と思われないために、どんな配慮が必要なのだろうか。今野氏は「厳しい現実や入社後の海外赴任の可能性などを、採用段階でしっかり明示することが重要」と話す。 「しっかりした企業なら、そういった説明はしているはずですが、一部のブラック企業でグローバル企業を標榜している会社は、それを隠している。『グローバル』という甘い言葉を隠れ蓑にして若者に夢を見させ、人材を食いつぶしている会社がある状況に対して、まともな会社はもっと異を唱えるべきです」(今野氏) そもそも、「グローバル企業」を標榜しなくても、日本の多くの企業はすでにグローバル展開している。グローバルに対応できる語学力などの能力があり、海外のライフスタイルに耐えられる人材は希少価値があるため、喉から手が出るほど欲しいはずだ。 そういった人材がブラック企業によって潰されているとしたら、日本経済にとって由々しき自体である。今野氏は、貴重な人材を潰さず、適材適所の配置を行うため、能力がある学生を対象に「グローバル枠採用」をもっと増やす必要があると指摘する。 「企業はグローバル人材の枠をつくって採用し、アピールしていけば良いと思います。そうすれば、『グローバル』の名のもとに若者を大量採用して、選抜した社員以外は退職に追い込んでいくような、一部の悪質なグローバル企業に人材を食いつぶされることはないでしょう」(今野氏) もう一度問い直してみたい、 グローバル企業で働くことは幸せか? 現在、自民党の雇用問題調査会は、ブラック企業の名前を公表することを検討しているという。線引きをどこにするかなどの問題も指摘されているが、悪質な企業を撲滅する一歩になることは間違いない。 これから就職や転職を考える人は、その企業が謳う「グローバル」が本当に中身のあるものなのかどうか、よくよく見極めてから採用試験を受けることをお勧めしたい。 もう1つ心得たいのは、就職を考える人たち自身も、グローバル企業で働くことへの「覚悟」を持つことである。かつてない苦境に立たされている家電各社を見てもわかる通り、日本企業が熾烈なグローバル競争で生き残るのは並大抵のことではない。すさまじい企業努力が必要となり、当然、社員にも業務効率の向上やコストの合理化が厳しく求められることになる。 そうしたグローバル企業の本質を見ずして、就職してから厳しい労働環境に不満を抱き、頭ごなしに「ブラック企業だ」と批判する人がいるとしたら、それは本末転倒と言わざるを得ないだろう。 グローバル企業で働くことは本当に幸せなのか――。まずはそのことから問い直してみる必要があるかもしれない。
【第1回】 2013年4月12日 田島弓子 [ブラマンテ株式会社代表取締役],竹川美奈子 [ファイナンシャル・ジャーナリスト] 「仕事」と「お金」の両方とも 目先のソントクではなく ちょっと長い目で考えよう 4月は「仕事」や「将来」を考える絶好の機会。この1月に『はじめての「投資信託」入門』を上梓したファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子さんと、『プレイングマネージャーの教科書』の著者で、人材マネジメント、キャリアアドバイスなどで有名な田島弓子さん特別対談が実現。それぞれの専門家であるおふたりに「キャリア」と「お金」について語ってもらった。 「投資」はギャンブルとは違うので 今からでは遅い…ということはない! 田島 今まで講演会などでお会いしたことはあったけど、対談は初めてですね。 竹川 田島さんは「キャリア」、私は「お金」というように分野が違うからでしょうね。どちらも「育てていく」という意味では似ている部分も多いと思いますが…。今日はそのあたりについてお話できるといいですね。 田島弓子(たじま・ゆみこ) ブラマンテ株式会社代表取締役。 成蹊大学文学部卒。日本人材マネジメント協会会員。IT業界専門の展示会主催会社などにてマーケティングマネジャーを務めた後、1999年にマイクロソフト日本法人に転職。約8年間の在籍中、Windowsの営業およびマーケティングに一貫して従事。当時、営業・マーケティング部門では数少ない女性の営業部長を務める。在籍中、個人および自身が部長を務めた営業グループでプレジデント・アワードを2回受賞。2007年キャリアおよびコミュニケーション支援に関する事業を行うブラマンテ株式会社を設立。キャリアアドバイザーとして「若年層向け働き方論」「中間管理職向けビジネス・コミュニケーション」「女性活用支援〜女性の中間管理職を増やす」の3つを軸に、コンサルティング、社員研修、セミナー、大学講義、執筆などの活動を行っている。著書に『プレイングマネジャーの教科書』『女子社員マネジメントの教科書』(ダイヤモンド社)、『働く女性28歳からの仕事のルール』(すばる舎)などがある。ブラマンテ株式会社 http://bramante.biz/ 田島 よろしくおねがいします。昨年末からアベノミクスなどお金に関するトピックが盛り上がっているので、竹川さんはセミナーなどで忙しいんじゃないですか?
竹川 そうですね。セミナーは活況ですし、取材依頼なども増えています。ただ、気になるのは「今買うなら何がいいですか」「これから何が上がりますか」といった質問が多いこと。それって、「何が」「いつ」上がるのかを当てて、大きく儲けたいということですよね(笑)。 たしかに「当てにいく投資」は大きな利益が得られることもありますが、仕事をしながら、個人が当て続けるのは現実的にはむずかしい…。当たったり外れたりであまりお金を増やすことできなかったり、夢中になりすぎて仕事に支障がでてしまうことも…。 田島 積極的に「儲けるぞ!」というのとは違う? 竹川 そうですね。著書でも触れていますが、私の提案しているのは、国際分散投資をして長期的にお金を育てていこうという考え方です。一発当てて儲けるぞ、ではなく(笑)。 田島 年齢層はどんな感じなんですか? 竹川 若い人の受講が増えていますね。公的年金不安もあったり、早めに始めておこうという人が多いようです。 田島 投資は今から始めても大丈夫なんですか? もう遅いんじゃないかと… 竹川 始めるタイミングは始めるタイミングはあまり気にしなくてもいいと思います。投資というと、相場の先を読んで、特定の地域や銘柄を選んで、売り買いのタイミングをはかるというイメージが強いと思います。でも、長期でじっくり資産形成をしていくという方法もあるよ、ということを知ってほしいんです。具体的には、投資する地域や対象、時間などを分散して、世界経済が拡大していく恩恵をじっくり受けるという方法です。 それに、若い方はそれほどまとまったお金もないと思うので、少額でもいいから毎月コツコツ積み立て投資を始めてみるのもいいと思いますよ。たとえば、給与天引きで財形貯蓄をしていたり、銀行口座から自動引き落としで積立預金をしていたりする人は多いですよね。そこに積立投資も加えてみてはどうでしょう。ちょっと投資を加えることで、株式や為替など、日々の経済ニュースにも敏感になります。投資はギャンブルといった発想を変えていくことが大事です。 田島 確かに投資って危険なイメージがありますね。あとはちょっと面倒そうな感じ(笑)でも積み立てだったらできるかも…。 竹川 普通の人はそうですよね(笑)投資が大好きで、株の研究をしたり、データを分析したりすることが楽しくて、趣味のひとつのようになっている方は自由に自分のスタイルで投資を楽しめばいいと思います。 一方、私が情報をお伝えしたいのは投資が仕事でも趣味でもない方、普通のビジネスマンやビジネスウーマンです。日々仕事をしたり、趣味を楽んだりしながら、資産形成をしていける方法もあるよ、と。 仕事が一番、投資はその次! これが長い目でみれば一番有効 田島 バブルの頃は、仕事そっちのけで株価の上り下がりをチェックしている人がいましたからね(笑) 竹川美奈子(たけかわ・みなこ) LIFE MAP,LLC代表/ファイナンシャル・ジャーナリスト。明治大学卒業後、出版社や新聞社勤務などを経て独立。2000年フィナンシャル・プランナー資格を取得。新聞や雑誌などを中心に執筆活動を行なう一方、投資信託やETF(上場投信)、マネープランなどの講師も務める。著書に『投資信託にだまされるな!2010年最新投信対応版』、『あなたのお金を「見える化」しなさい!』(ともにダイヤモンド社)『金融機関がぜったい教えたくない 年利15%でふやす資産運用術』(かんき出版)他多数。 著者ウェブ http://www.m-takekawa.jp/ https://www.facebook.com/lifemapllc 竹川 携帯やスマホで株価を四六時中チェックしている人もいるようですが、ビジネスパーソンにとって本業はあくまで「仕事」です。きちんとキャリアを積み重ねながら、それほど時間や手間をかけなくても投資を継続できる方法を実践する。長い目でみたら、それが長期的にお金をふやす道だと思います。
田島 たしかに。本業を疎かにせず、それ以外にも投資でお金が増えるというイメージですね。 竹川 そうですね。ただ、若い人の中には投資はお金持ちがやるものだから、自分たちは関係ないと思っている人も少なくありません。たしかに、例えば、株式投資だと1つの会社に投資するのに最低でも数十万円かかるものもあります。けれど、投資信託というツールを使うと、少額からでも投資が始められます。一般に1万円程度から購入できますし、「積み立て」という機能を使えば、月々1000円や500円から始められるものもあります。 田島 へえ〜!1コインからですか。 竹川 例えば、月々3000円で、日本の株式、先進国の株式、新興国の株式というように、世界の株に投資するということができてしまう。これってすごいことだと思いませんか?まとめてどーんと大金を投じてイチかバチかを賭ける…ということでなく、少額で勉強しながら、資産形成をしていくことができるんです。 田島 なるほど。少しずつお金が増えていくって理想ですね。 マイクロソフトでは 女性ながら営業部長に! 竹川 田島さんは『プレイングマネジャーの教科書』に引き続き、『女子社員マネジメントの教科書』も上梓されましたが、人材マネジメントに強かったんですか?そもそもマイクロソフトからの独立するきっかけは何だったのですか? 田島 私の場合、独立したのは実は家庭の事情で。主人が日本とハワイの両方で生活をしたいという願いから、そのためには会社に縛られないほうがいいだろうな、と。そのデュアル生活へのオファーを受けてから2年ほど準備してからやめました。 竹川 2年!結構長くかけましたね。 田島 ずっとWindowsの担当だったので、次の新しいバージョンのwindowsが出るまで見届けたかったんです。その間に少しずつ周囲に根回しをしたりして(笑)。いい辞め方をできるよう頑張りました。 竹川 営業部長って、いくつでなったんですか? 田島 38歳のときです。 竹川 若いですね! 田島 実は、マイクロソフトは社員全体の平均年齢も低いですし、IT業界的にはそんなに若いという感じではないです。私のようなおとなしい人間がなぜ営業部長になったのか……。 竹川 おとなしいかどうかはわかりませんが(笑) 田島 ええ〜?(笑) 私は、自分自身はリーダーシップやカリスマ性がないなあと思っているんです。多分、あまりマイクロソフトにいないタイプだったから部長になったんじゃないですかね。 マイクロソフトには、ヴィジョンが明確で、アイデアや意見もしっかりしている人、つまり、自分の仕事にプライドを持って仕事をしている人が多くいたんです。そんな中で「そういう人達をうまくまとめてくれる人」が欲しかったんだと思います。 竹川 猛獣使い的な(笑) 田島 そんな、共に働いた人々のことを猛獣だなんて言えません(笑) 竹川 『プレイングマネジャーの教科書』にはかなり実践的なことが書いてありました。こう伝えた方が部下は動くとか。仕事をしっかりやってきた方が書いた本だな、と。 田島 そう言ってもらえてうれしいです。18年間のサラリーマン時代の経験を通じて、現場で機能した実践的なものを伝えたかったんですね。リアルな話ができるのが自分の強みだと思うので、それで喜んでもらえたならうれしいです! 組織の約半数が女子社員。 女性を動かすのは必須のスキル! 田島 結局、マネジメントとはいいつつも、コミュニケーションが土台にあるんですよね。『プレイングマネジャー…』の次に出した『女子社員マネジメントの教科書』は、組織の約半数が女性になってきているので、これからは管理職の人にとって、女性を育てることは特別なことじゃなくてマスト、ということを伝えたかったんです。 自分は女子社員は苦手…といった得意不得意ではなく、チームとして結果を出すためには女子社員は必要だし、彼女たちを活かしていくマネジメントのスキルは、もう必須になってきているのが現状なんです。 竹川 確かに、働き続ける女性は確実に増えていますよね。 田島 クライアント様からは具体的なニーズとして、実際に本当の「戦力」として育てていかなきゃダメだよねって話になっています。今はわかりやすい指標として、女性の活躍を管理職比率で見がちですが、大事なのはそれだけでなく、現在のポジションでもっと活躍する人材を増やすこと。1人1人のパワーの底上げが大事ですね。 女性の営業職を増やしていかなければならない業種は特に大切です。営業職は、長時間労働、残業は当たり前といった男性社会のところが多く、そういった状況の中で頑張っている若い女性も多いですが、たとえやる気があっても、結婚や出産を考えると二の足を踏んでしまうのもよくわかります。 でも、だんだん、そういった気質、風土みたいなものを少しずつ変えていこう、そして女性にも頑張ってもらおう。そうやって歩み寄ろうとしている企業も増えてきていますね。せっかく育ってきた女性の営業職が「このままでは続けられない」と結婚や出産を機に辞めてしまう。それは会社にとっても損失ですから。かといって、女性だけに頑張れというのもおかしなことなので。 今後女性社員が増えていくのは確実。 上司と女子社員の共通認識が重要に! 田島 でも「働き続ける」という意識的なものが育てば、ワーキングマザーになって会社に戻ってきた時にもっと戦力になるんですね。 育児休暇、出産休暇を経て会社に戻ってきた人たちの中には、悪気はなくとも、子どもがいることを既得権のように振る舞ってしまうケースが見受けられたりします。 だけれども、早い段階で、ビジネスパーソンとしての自覚、例えば「働くということはどういうことか?」「チームで働く」「結果を出す」ということを理解し、チームにとって欠かせない戦力に育っていれば、ワーキングマザーとなって会社に戻ってきた時も、歓迎される人になり、会社側も助かると。自分から言わなくても周囲が手を差し伸べてくれる、そんなワーキングマザーになれると思うんです。 竹川 最初のところでしっかり共通認識を持って、長い目で見るということですよね。それは投資と一緒かもしれません。 田島 そう、上司の方が少し頑張って、女性だから…と怯まず、覚悟を持って男女分け隔てなく育成して欲しいんですね。そういう上司の皆さまにぜひ、この『女子社員マネジメントの教科書』を読んでほしいですね! 竹川 そうですね!10年、20年後には、確実に女性社員もワーキングマザーも増えていますから。 (取材・文 永野久美)
【第33回】 2013年4月12日 原英次郎 エステー・鈴木喬会長【下】 経営者を育成するには勉強よりも勝負事 すずき・たかし 1935年生まれ。59年一橋大学商学部卒、日本生命入社。85年エステーに出向。企画部長、営業本部首都圏営業統括部長などを経て、経営が不振に陥った98年に社長就任。07年に会長に就任したが、リーマンショック後の危機を打開するために、09年社長に復帰。12年から再び会長に。 エステーは、「消臭力(しょうしゅうりき)」など、家庭用の芳香剤や防虫剤のトップメーカーである。いよいよ「独裁経営」を標榜して、同社を引っ張る鈴木喬会長ロングインタビューの最終回。第1回目はヒット商品を生む発想法、第2回目は開発のポリシーを中心に訊いた。今回はいかに経営者を育てるかを軸にインタビューを進める。会長は経営は総合格闘技、だからこそ勉強より勝負事と説く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長 原英次郎) モノなんかつくったら 会社は潰れちゃう ――著書の中で、エステーは「メーカーではない、感動創造企業だ」と述べておられますね。そのココロは? 15年前に社長になった時はですね、うちは「ものづくり、ものづくり」していて、江戸時代の士農工商じゃないけども、製造と技術がいちばんえらくて、「俺達が作ったものをみんな売って来い」と。だから売れやせんのです。それで、工場のラインが余っていたんですよ。全部専用ラインで、何億円もかけたオートメーションでしょ。えらいことになっていたんです。 「これはだめだ」と5工場から3工場に一挙に集約して「こういうオートマチックなラインがあるからあかんのや」とて言って、みんな捨てちゃったんです。それでもっと小回りがきき、ニーズに応えられるものを作れるラインに全部変えちゃったんですよ。 その当時は全員が「モノづくりに徹する」と言っていたので、「お前、今みんなはモノなんかな欲しくて買ってるんじゃねーよ、モノなんか溢れてるんだよ。モノなんかつくってら、会社潰れちゃうぜ」って言ってね。「だから何か考えなきゃ、しょうがない」っていうことで、「俺のところで作ってるモノは、あれはモノじゃないんだよ。ワクワク感とかドキドキ感っていうものを、容器の中に詰めて売ってるんだよ。だからお前ら心して作ってくれ」って、そんな感じだったんですよ。 そしたらみんなア然としてね。まあ今でも当然のことなんでしょうけど、工場行くとモノづくりが「どうした、こうした」とか、ちょっと会社が調子悪くなると「モノづくりの原点に帰る」って言うから、僕が「うるさい、余計なこと言うな」なんて言ってね。その方向に持ってきたんです。 ――確かに、調子が悪くなって来ると、どこのメーカーも「モノづくりの原点に帰る」と、よく言いますね。 モノづくりの原点に帰って、モノづくりの原点から出られなくなってしまった結果が、今の電機メーカーだと思うんです。世の中の人、例えば家庭の主婦は、「技術なんて買ってねーんだ。何が悲しくてダイソンを買うんだよ」ということです。僕が気に入ってるのは自動掃除機ルンバです。あれ今5万円くらいする。1年ちょっと前にある電器メーカーが10万円くらいで売り出したでしょ。それには「おはようございます」とか「元気です」とか、いろんな声が出ますよね。でも余計なことなんですよね、あれは。 私にとっちゃね、ひっそりと本を読んだり、音楽を聞きたい思っているのに、変なことを言われちゃ困るわけですよね。「大きなお世話だ」って。その点では、お客さんのこと考えてない。 それともう一つ、家電メーカーで言うとダイソンの扇風機。あれは感動ものですね。扇風機を3万5000円以上の価格で売ってるわけでしょ。値崩れも一切しないですね。ダイソンの扇風機の隣では、メイド・イン・チャイナの扇風機が3500円で売られている。でもダイソンのやつは、夏のシーズンには品切れですからね。なぜかというと感動を売ってるからですよ。ああいうことやりたいんです。 ――感動っていうのは、ある意味で値段はいかようにでもなりますからね。 そうですね。掃除機だって重たくて馬鹿馬鹿しいですよね、ダイソンのは。日本の女性なんか持ち歩けないと思いますけど。機能もゴミ袋がいらないというくらいでもって、あんなバカ高い値段で売っている。でもあの吸い込み方を見てると、大真面目に吸い込んでいる。「あーこれはすごい」と思いましたね。 ――真面目な吸い込みっぷりに感動するということですね。 感動しますね。しかもあんな馬鹿高いものを世に出してくるという馬鹿馬鹿しさにね、僕は経営者として「すっごいことだなー、こいつは」と思います。 トップになるには 勉強は体に悪い ――失礼ながら、鈴木さんもいつまでも、エステーのトップを続けているわけにはいきません。後継者の育成については、どうお考えですか。 よく次代の経営者を育成する「なんとかゼミ」ってやっているけど、あれみんな嘘みたいなもんですね。勉強で経営者が育つもんかって。トップの仕事って総合格闘技みたいなもんですよ。今の社長が手塩にかけて育てようとしても、そんな人はものになりませんわ。 そんなことよりも、「お前に飲み代3000万円やるから1年間で使ってこい」ってね。日本で一番いい料亭行って、芸者呼んでどんちゃん騒ぎやった方が、ずっと金の使い方が分かるし、度胸もつくし、一緒に酒を飲む相手も選ぶようになる。お酒の席というのは、一番、人を見る目ができますしね。そのくらいやった方がいいですよ。 知識がなんぼあっても、経営者にはなれませんわ。知識があればいいんだったら、MBA(経営学修士)出たやつが、みんなうまくいってるはずだけど、そんなことありませんよ。MBAはいい役員になるのには、向いていると思いますけれど。 ただ、トップになるには勉強は体に悪い。それだったら丁半博打でもやった方がいいですわ。だって日本海軍の山本五十六以下のリーダーは、どうせ戦争のない時はやることないですからね、年中ブリッジ(トランプゲーム)をやっていた。ケ小平だってね、ブリッジをやっていたわけですよ。 ブリッジと言うと格好いいけど、要はみんな博打をやってるんですよ。博打に何があるかって言うと、博打が一番、自分の五感を研ぎすますしね。経営は相手のあることなので、この瞬間に何をやるかを決めなくてはいけない。勉強は相手のないところでやっているシャドウボクシングみたいなもんです。あんまり役に立たんのですわ。 そうかと言ってね、真剣を抜いて勝負するっちゅうわけにもいかないでしょ。だからそれに一番近いのはね、丁半博打ですわ。競馬、競輪はね、自分が相対する相手がいないですからね。宝くじもだめですね。カジノも相手のいないゲームはだめです。一番時間効率いいのは、丁半博打だと思いますよ。清水次郎長じゃないけど、あれをもっと推奨すべきじゃないかな(笑)。 ――えー、丁半博打ですか!? だいたい経営トップのやることには、「やるか、やらないか」。もうひとつ撤退するか。この3つだけなんですよ。 だってあれは瞬間的な判断力でしょう。丁(偶数)か半(奇数)か、だけでしょ。だいたい経営トップのやることには、「やるか、やらないか」。もうひとつ撤退するか。この3つだけなんですよ。それを優れて追いつめられた状況で、決断しなきゃいけない。その際に、だいたいいい情報はないですわ。手下がみんないい情報を持っていて、少しずつ小出しにするので、親分には全部は届かない。それで自分の存在価値を高めているわけですからね。経営スタッフとか経営企画って、だいたいそういう連中が多い。
持っている情報の99%は出すけれども、最後のエキスの1%は自分がとっているんですよ。ですからそれがなくて、経営トップは未来を判断するわけでしょ。未来は誰も教えてくれない。だから経営学とかナントカ後継者塾というのは、あんまりあてにならないと思うんですが、どうでしょうか。 ――うーん、それはどうでしょうね(笑)。 経営には独裁が必要でも チームワークは欠かせない そうかと言ってね、ワントップじゃまずいと思っていましてね、いまエステー・リフォーメーションっていうのをやっているんですよ。現代サッカーのような全員守備、全員防御ができる組織を目指している。やっぱり私みたいに独裁であっても、チームワークは必要なんですよ。ただ、最後は会社というのは、独裁でないと動かんのですよ。そうでないとスピードが違う。 学校とか、政治というのは理路整然としてればいいわけでしょ。ところが会社っていうのは、とろとろやってると敵がいますからね。敵に食べられちゃうんですよ。スピード競争をやってる。だから決断力のあるトップがいないといけないんです。で、そのトップは、生まれ備わった博才があるとか、運が強いとか、勘がいいとか、度胸がいいやつとか。こういうやつがね、やっぱりトップとして出てきます。 だから、僕なら僕が死んじまっても、何とかなりますよ。そうじゃなかったら、代が替わるたびに会社は潰れてしまう。ですから何とかなるんですよ。ただ、その場合も、トップを支える強烈な軍団がいないといけない。 今やってるエステー・リフォーメーションは略してSTR。営業・スタッフ・役員と、大きく3つのSTRに区分けしましてね、それぞれのSTRが1日中ディスカッションやるんです、テーマを出してね。今解決すべき問題は何かっていうことを各部署の責任者が本音で議論するんです。これによって、すごくコミュニケーション良くなってきています。 とくに、いわゆる内勤というやつは、だいたい蛸壺に閉じこもっている。飯食いに行くのもパソコンで連絡を取り合う、なんて話があるくらいでね。部と部の壁とか、課と課の壁があって、わざわざ別の部署に行ってフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションをしないんですよ。よその部門に行くとね、敵の陣営に殴り込みに行く感じがしているらしい。どうもねコミュニケーションが悪いんですよ。最大の問題はコミュニケーション、横断的なコミュニケーションなんです。 例えば、役員会やってるとは言えね、朝から晩までテーマをもうけて徹底的に議論することなんてないですよ。それでSTRで、もっと儲かるようにするにはどうしたらいいんだとかいう話を、徹底的にやる。「ここにいる役員は3人ほどいなくなったら、すっきりすんじゃねーか」ってまず脅かす、挑発するわけですよ。 で、そういうことをやったら必ず夜飲みに行くんです。飲みニケーションやってるんですよ。私それを本社だけじゃなくて、地方の支店でもやってるんです。私も大変。アル中になっちゃいますよ。だけど会社が変わってきましたから。 社長は男性がいいという会社は この世の中にはほとんどない ――後継者という点では、スカウトしてこられた米田幸正さんが1年で社長をお辞めになり、この4月1日から鈴木貴子取締役が社長に就任されましたね。いくら独裁といっても、1年で社長が変わるというのは、外から見るとフツーではありません。 本人から辞表が出ましたから。僕のところの文化とちょっと合わなかったのかな。ご本人は商社の出身ですから、商社は卸という流通業ですよね。われわれメーカーっていうのは、要するにブランド命のところがある。一方、流通業はいいものであればどこのものを持ってきてもいい。僕のところのは、僕のところのブランドしかない。そのブランドに命をかける。ここら辺の発想というか、風土がちょっと合わなかった。ご本人もずいぶんご苦労されたようですけどね。 ――鈴木さんにはついていけないということではなかった? どうでしょうね。そこはわかりませんね。 ――新しい社長は一族ということになりますね。 そうです。ただ一族と言ってもね、上智大学を出て、日産に長く勤めて、それから要するに外資に移って、ブランド渡り歩き人間のブランドマネジャーで、最後のほうではルイ・ヴィトンのマネジャーやってますからね。要するに僕らもブランドを作りたかったんです。エステーというブランド、消臭力というブランド。要するにブランドさえ確立していれば、そこへ何を持ってきたってビジネスになる。だからブランド作りのプロを持ってきたくて、「ちょっとうちに来いや」と言って連れてきて、彼女が一番適任かなって、そういうことです。まあいろいろあると、ファミリーを社長に持って来る方が、収まりがいいわけですね。 それと隣の韓国では女性の朴大統領が出たでしょ。日本がどうだというと、女性進出度とかでは、世界でもずっと下の方という評価でしょ。一部上場企業だと、女性の社長はテンプスタッフの社長さんくらいじゃないの。とっても少ないですよね。 この評価はやっぱり日本の価値を不当に卑しめている。だって、家に帰ったらカミさんが全部財布のひもを握っていて、好き放題やっててね、僕は必要なお金をカミさんからもらってくるんですよ。日本の女性は強いのに、なんだ、韓国よりも女性の進出度は下かって。日本のためにイメージアップに、じゃあちょっと誘い水になってやるかって。女性を社長にしたのは、そういう思いがなかったとは言えませんね。 それともうひとつはね、日用品業界の会社なのに、社長はなんで男でなくてはいけないのかよ、ということです。不思議ですわ。世界的な某化粧品メーカーの社長さんは歴代男でしょ。執行役員にも女性はほとんどもいない。日本の社長はどうして男だらけなんだろうって。僕がトップは男がいいと思うのは「鉄の男」、新日鐵さんとか、それからゼネコン、建設機械のコマツさんなんかも男の方がいいかもしれない。そう考えると、男が社長の方がいい企業って、上場企業全体の5%くらいしかないんじゃないかって、思えるんです。 私のところは元々ね、社外役員含めて3人女性なんですよ。だから女性がえらいんですよ。いつも言ってるんです。「同じ能力だったら女性にする」って。これが僕の人事方針。「悔しかったらお前ら、男から女になればいいだけの話だ。簡単なんだ。そんなもん5分でできるはずだ」って。「そんなことぐらいできないで、お前なエステーの役員が務まるか」ってね。 私の最大のイノベーションは 女性社長を誕生させたこと ――それくらい大胆で柔軟な発想がないと、エステーの幹部は務まらない(笑)。 姿形から入らないと。ある意味、中身なんてどうでもいいんですよ。社長を演じなきゃ。リーダーを演じなきゃ。男ではもう演じられません。今回の社長人事は、会社が変わったっていうことを、猛烈に社会に発する僕のところのメッセージなんです。私のやった最大のイノベーションは、女性を社長にしたことですよ。 大胆にして緻密。鈴木会長は数字にも強い。勝負師のように見えて、会社が傾くようなリスクはとらない。その一線をわきまえている。そして明確な方向性を示し、挑発的な言動で社員の能力を引き出していく。その「漫談的独裁経営」は鈴木会長ならではのものだ。その意味で、これまでは鈴木会長がエステーの「時」を刻んできた。これからはエステーそのものが時を刻めるか。鈴木会長は今その仕掛けづくりに挑んでいる。
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