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(回答先: 複雑な現代社会で簡潔さが解決方法となるとき 投稿者 eco 日時 2013 年 4 月 02 日 18:25:47)
【第149回】 2013年4月4日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
「日本病」に気付き始めた日本人
それが復活の始まりを告げる
白物家電の領域では世界の王者となった中国最大の家電メーカー・ハイアールの本社には、会社の歩みを紹介する展示ホールがある。ハイアールの前身は、山東省青島市の国有企業、青島冷蔵庫総廠で、当時の従業員は400名ほどだった。
経営効率の悪い中国国有企業の例に漏れず、経営不振に陥った同社は1984年には1年間で3回も工場長を代えるなどして再起を図ったものの、いずれも失敗に終わり、負債額は約147万元に膨らみ、給料も支給できないほどの窮地に追い込まれていた。そこでその年4人目に送り込まれた工場長が、今のCEOである張瑞敏氏だった。
しかし、張氏の目に映った工場の姿は、目を覆いたくなるほど惨めなものだった。工場は労働規律がないも同然の無法地帯と化していた。そのため張氏は、労働規律に関する13の「べからず」を設けた。その中の一つは、なんと工場内で大小便をするべからずという信じられない内容だった。
今や深夜のオフィスビルの明かりは
日本の生産性の低さの象徴
1990年半ば頃まで、日本を訪れた多くの中国人が、夜になっても煌々と照明がついているオフィスビルを仰ぎ見て、感嘆する。「勤勉な日本人には、私たちはとても追いつけそうにない」と。日本に視察に来た中国の政府関係者や企業関係者もそうだったが、日本社会に根を下ろしはじめた中国人留学生も同じく感嘆・感心していた。
だが、今やその夜のオフィスの照明を褒める中国人はいない。むしろ、その深夜になっても消さないオフィスの照明を、日本企業の生産効率の悪さの象徴として見ている。
数年前に、東京・汐留の高層ビルにあるホテルのバーで、会社を経営する新華僑の友人と久しぶり飲んだことがある。彼は「莫さんと同じように、おれも一番、尊敬しているのは、戦後の廃墟から日本を世界2位の経済大国にまで復興した世代の日本人だ」と主張する。
しかし、今の日本人に対してはあまり評価しない。「見た目では、今の日本人も昔と同じように一生懸命働いているようだが、実際は『扭秧歌』(読み:ニウヤンコー)と同じだ。まったく前進はしない」
「扭秧歌」とは、中国の北方で親しまれる踊りの一種で、激しく体を動かすが、移動することはほとんどない。彼のその表現に、私はむしろ言い得て妙だと感じ入った。いつの間にか、日本社会の隅々まで、リスクも責任も負わない日本人が氾濫しているという現象が見られるようになった。
実は、日本での生活年数が長い中国人同士が集まると、こうした現象がいつも嘆く定番の話題の一つとなった。生活の基盤を日本に置いているだけに、その嘆きは傍観者としての感想ではなく、ある種の切実さを持っている。
日本にはびこる「責任を逃れ」を
自覚し始めた日本人たち
近年、こうした日本社会の風潮に一部の日本人も気付いたらしい。日本の大手出版社に勤める近藤大介さんという方が、江蘇文芸出版社という中国の出版社で『中国に欠けるものと日本に欠けるもの』という本を出版した。その中に、「怖い『日本病』」という章がある。
その中で日本社会や企業にはびこる「責任を逃れる」ための現象に容赦なくメスを入れた。この責任を逃れようとする安全志向は、新しい分野を開拓しようとする意欲や動きを初期段階で殺してしまう。それはまた日本社会や企業の停滞、老化を招いてしまう。
日本社会に長く暮らしている外国人の私でさえ、こうした現象をすでにいやというほど見てきたから、今さら問題にしようともしなくなった。しかし、日本人の近藤氏が実例を挙げながら、こうした問題を「日本病」として取り上げ、厳しく批判しているのを見て、改めてその病根の深さを認識した。
インターネットではすでに公開されている「怖い『日本病』」という章を中国版SNS微博にアップし、とくに日系企業に就職しているフォロワーたちに勧めた。あっという間に多くのフォロワーにシェアされ、近藤氏のこの指摘が広く読まれた。多くの感想も書き込まれた。
これらの感想のほとんどが近藤氏の意見に賛同しているのを見ると、日本企業や日本社会に見られるこうした現象が、すでに大衆にとっては体感できるほどのものになっているということを意味している。もちろん、この「怖い『日本病』」にある「日本」の2文字を「中国」に取り換えてもそのまま通用できるという指摘もある。それはそれで面白い見方だと思う。
しかし、日本人自身が日本病という病気に気付いたことは、私から見れば、非常に喜ばしいことだ。その問題点に気付けば、やがてその問題をどうやってなくすべきかを考える。そしてその解決方法にたどり着く。
たしかに日本は1970年代、80年代ほどの輝きを失ってしまい、苦戦するケースも増えている。その分、意気消沈しているところもある。しかし、危機意識が強い日本人がこうした危機感を共有すれば、きっと問題の解決に動き出す。日本社会、そして日本企業がもう一度輝き出すことができる。私はそう信じている。
http://diamond.jp/articles/print/34195
【第11回】 2013年4月4日 山口揚平 [ブルーマーリンパートナーズ 代表取締役]
アイドルと同じで手が届かないからこそ思いが募る
お金がもたらす“無限の可能性”という錯覚
ゲスト:小幡績・慶応義塾大学ビジネススクール准教授[後編]
巷に出回るお金の量を増やせば物価が上昇してデフレを退治できる――。アベノミクスのリフレ政策は本当に有効なのか?お金が有する力とその限界、さらにリフレ政策の危うさについて、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』の著者・山口揚平さんと慶應義塾大学ビジネススクール准教授の小幡績さんが独特の視点から議論を交わした。
男子はカネ、女、権力という3つの欲望に取り憑かれている
山口揚平(以下、山口) 「お金が究極のマスターベーション」とは、いったいどういう意味なんですか?
小幡績(以下、小幡) とかく男子は太古の昔から、カネ、女、権力という3つの欲望に取り憑かれている。もちろん、女子の発想はまったく違うかもしれないけど、有り余るほどのカネがあれば権力や好みの異性も手に入れられると男子は錯覚しがちだ。どんなに強大な権力を握っても、下々の者が必ず言いなりになるとは限らない。カネをちらつかせて親しくなったところで、その女性が喜んでいなければ虚しいだけなんだけどね。
山口 錯覚したままお金を追い求めて、自己完結してしまっているという意味ですか?
小幡 完結していない魅力。魔力。お金があれば無限に可能性が拡がるように思い込んでしまうという錯覚。見たこともない金額のお金を手にすれば、自分の人生が今とは変わってくるのではないかと期待してしまう。だから、庶民は「もしも6億円が当たったらどうしよう?」と夢を膨らませながら宝くじを買う。もしも最高賞金が100万円程度なら、その金額ではさほど興奮しないだろう。アイドルと同じで、実際には手が届かないからこそ、思いが募るわけだ。
山口 お金は人間に錯覚をもたらす一方で、自らの限界も抱えていますよね。実はそのことについては、『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』の後半でも触れています。たとえば、野球にはバットとボールが不可欠であるように、経済学者はお金というツールを使うことを大前提として話を展開します。だけど、現実の経済では、お金を介さずとも価値の交換によって成り立つケースがあります。
小幡 いわゆる「贈与経済」だね。
山口 そして、僕が考えるお金の限界とは、文脈を伝えられないことなんです。たとえば、同じく1000円の値段がついた本であっても、それぞれの本質的な価値には違いがあるはずです。それは、金額だけでは伝わらない。もっとも、それでいてお金はビジネスの偏差値となってきましたし、これまでは社会全体のKPIでもあったと僕は考えています。
小幡 そのKPIっていうのは、いったい何の略なの?
山口 ビジネス用語で、キー・パフォーマンス・インディケーター(重要業績評価指標)の略称です。ビジネスにおける目標達成の度合いを計るときなどに用います。
小幡 つまり、お金で達成度を計っていたということ?本当にそうかな?
山口 以前はそうだったけど、最近はちょっとズレてきているのではないかと思っているんです。これまでは、信用を毀損することで儲けている金融業者はあちこちにいました。信用を担保にお金を集めるわけです。たとえば、「1億円儲かる!」という本を書けば、それがベストセラーになって、本当に1億円儲けられるかもしれない。実際、かつてはそのような類の本がいっぱいありました。けれど、お金がKPIではなくなりつつある今は、それも通用しなくなってきた気がします。
小幡 要するに、それは信用の希薄化ということ?でも 本当はカネが指標であったことはなくて、指標であると言う現在の状態も錯覚じゃないかな。
フリードマンは矛盾している!? リフレ政策は先食いにすぎない
山口 小幡先生の著書『リフレはヤバい』を読んで痛感しましたが、アベノミクスに対する僕のスタンスは先生と同じなんです。基本的に僕は紳士的な人間なんですが、先日の深夜、ついつい気持ちを抑えられなくてフェイスブックに「アベノミクスのク○ッ○レ!」と書き込み、大論争になっちゃいました(笑)。
小幡績(おばた・せき)プロフィル 慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶応義塾大学ビジネススクール)准教授。1967年生まれ。92年東京大学経済学部卒、大蔵省(現財務省)入省、99年退職。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。2003年より現職。『すべての経済はバブルに通じる』(光文社)、近著『リフレはヤバい』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。
小幡 ちっとも紳士的じゃないよ(笑)。
山口 社会にとって、価値と信用を創り出すことが何よりも重要であるにもかかわらず、今は、ただ価値と信用を希薄化しているだけだからです。
小幡 それで、具体的にどういった観点について僕の考えに同意しているの?
山口 円安が進むことは輸出企業など一部の事業者には有利に働くものの、多くの人々にとって通貨価値の低下はむしろ不利益となるというポイントです。それに小幡先生が本に書かれていたように、こうした政策によって経済の実体が変わったことは過去にありませんから。
小幡 今は先食いしているから気づいていないが、円安というのは円の価値と信用を堕としているだけなんだよね。自滅だ。
山口 アベノミクスから連想するのがかつての“株式分割バブル”です。僕はM&Aの専門家なので、かつてライブドアをはじめとする新興企業が繰り広げた派手な株式分割をネガティブに評価していました。株式を分割して発行済み株式数が増えれば、その分だけ1株当りの価値は希薄化することになります。
スケールの違いこそあれ、アベノミクスがやろうとしていることはそれと似た部分があります。お金をどんどん刷れば、その価値と信用は希薄化されていくわけですから。(実態価値に基づいて判断する)ファンダメンタリストの僕としてはなかなか認められない。小幡先生も本に書かれていたように、株価は上がったとしても、実体経済のガソリンにはなっていません。
小幡 そうそう、ファンダメンタリストといえば、非常に皮肉な話があるよ。シカゴ学派のエコノミストたちは実体経済主義者で、「政府が何をやってもムダだ!」と介入政策を批判してきた。ところが、シカゴ学派で最も著名な存在なフリードマンはマネタリズムの構築者で、貨幣の供給量によって経済をコントロールできると考えたんだよね。お金は最も無色透明で単なる価値基準にすぎず、マネーサプライが実体経済に影響を与えてはいけないんだよ。政府の介入もマネーも同じで、実体は動かせない、効かない、とシカゴ学派は考えてきたのに、フリードマンはお金が世の中を動かすと説いているわけだ。シカゴ学派として有名だけど、実は邪道なんだよね。
山口 巨大な金塊は何の役にも立たないけど、砕いて小口化すれば流動性が生じて価値が出てくるのは当たり前のことで、その点においてフリードマンの考えは正しい。だけど、あくまで交換価値が高まるだけにすぎず、もともとの金塊全体の本質的な価値は変わりません。
小幡 本来、シカゴ学派は短期的にもお金の操作を否定しているから、フリードマンは派閥の中では堕落した存在だったとも言えるかもしれないけど。
山口 僕が危惧しているのは、信用と価値の希薄化を続けると瞬間的にバブルが発生することです。メディアや一般の投資家がそれをもてはやして追いかけ、いっそう過熱感が高まり、やがては弾け散る。そういったパターンが過去に何度となく繰り返されてきたにもかかわらず、社会全体が手放しでアベノミクスを賞賛しているのが奇妙です。
小幡 金塊を小分けする話で思い出したんだけど、2006年頃の不動産バブル期だと、都心の一等地は切り売りするよりも、まとめて売ったほうが高く売れた。300坪の一等地が24億とかね。「1000万円が60人に!」よりも「6億円が1人に!」の宝くじのほうが人はそそられるし、足したり割ったりして価値観が変わるって、お金が絡むものは面白いね。もっとも、それも単なる錯覚にすぎないのかもしれないが……。
山口 本当に、お金をテーマにすると話が尽きませんね。今日はどうもありがとうございました。
次回は4月5日更新予定です。
<小幡 績氏 書籍のご案内>
本書が、リフレ政策による目先の円安、株高に浮かれる人々に対する警鐘となり、そして、安倍首相が、名目金利上昇のリスクに気づき、リフレ政策を修正することを望む。
そして、本書の予言が実現せず、小幡の言うことは当たらなかったと、私が批判を受けるというシナリオ。そちらのほうのシナリオが実現すること。
それを強く願って、本書を、安倍首相とかれの愛する日本に捧げたい。(著者からのメッセージ)
『リフレはヤバい』
(ディスカバー・トゥエンティワン 発行 1000円税別)発売中
<新刊書籍のご案内>
なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?
これからを幸せに生き抜くための新・資本論
人は、経験を通して世界を創造する。
お金は、その創造の一要素でしかない。
将来の“正解”が見通せない今、誰もが、ぼんやりとした不安を抱えて生きています。その大きな原因は「変化が重なり、先がよめないこと」。なかでも、グローバル化やIT化によって最も大きく変化したもののひとつが、金融、「お金」のあり方でしょう。「お金」の変化を整理し、どうすれば幸せをつかめるのか、経済的に生き抜いていけるのか、考え方や行動様式をまとめた、未来を考えるための土台を固めてくれる新「資本論」です。
http://diamond.jp/articles/print/34117
【第3回】 2013年4月4日 鈴木博毅
今こそ幕末に学ぶ!
転換期に必要な3つの武器
転換期の現代日本は、大きく社会が変わった幕末・明治期と重なることが多い。約300年間続いた江戸幕府の崩壊と同時に始まった近代化への未曾有の大変革。激動の時代をサバイブするために必要なこともまた、今日と共通している。時代の転換期に書かれた当時の大ベストセラー『学問のすすめ』から、混迷する現代を生き抜く3つの武器を紹介。
諭吉が教える、
時代の変化に生き残るための「3つの武器」
意外なことかもしれませんが、福沢諭吉の『学問のすすめ』は単に勉強することを勧める箇所はそれほど多くありません。むしろ、時代遅れの古い学問は実際の生活や人生に役立たないから固執するなというメッセージが何度も出てくる書籍です。
では、なぜ『学問のすすめ』なのでしょうか?それは本書が「本当に有効な学問の定義」を論じている書籍だからでしょう。
本書は、300年間続いた江戸幕府が消滅し、たった4年後には廃藩置県で特権を持っていた武士階級が日本からいなくなったほどの大変革期に書かれており、海外情勢を含めた未曽有の社会変化を日本人が体験していた時代に向けて書かれた書です。
幕末明治初期は、サバイバルのため古い時代から脱却し、誰もが新しい時代に飛び込む必要がありました(必要に迫られたと言うべきかもしれませんが)。だからこそ「学習自体の再定義・再考」が何より求められたのです。そして時代遅れになった、もはや使えない学習の定義はきれいさっぱり捨て去ることになりました。
福沢諭吉は「有効な学問」を「実学」としていますが、ここでは「実学」を学ぶ前の前提となる「3つの武器」をご紹介しましょう。
(1) 直面する問題への当事者意識を持つ
(2) 2つの疑う能力と判断力を磨く
(3) 「怨望」を避け逆の行動指針を持つ
この3つの武器を身に付けることで、ごく自然に「有効な学問」に近づくことが可能になります。なにより、現時点で私たちが本当に求めている問題解決力を養うことができるのです。『学問のすすめ』は、単純に本を読むことだけが学問ではないと述べていますが、3つの武器をまず身に付けることは、「学問のための学問」ではなく、私たちの人生を確実に向上させてくれる、本当に役立つ学問の実行へと導いてくれるポイントとなるのです。
(1)まず必要な当事者意識を持つべし。
持たない者の末路は憐れである
あらゆるときに、時代が変化しつつあるサイン、予兆は多くのところで示されています。もっとあからさまなケースでは、社会制度自体ががらりと変わることもあります。明治維新後は、平民も苗字を持つことができ、過去武士しか乗れなかった馬に乗ることができるようになりました。また、国際法により海外と交易し、日本国内では自由独立という方針が国民に示されました。
社会情勢や時代の変化にも関わらず、自分には関係ないと考えて意識も行動もまったく変えない人たちが存在します。しかし、当事者意識を持たないと(当たり前ですが)自分が問題に突き当たっていることに気づきません。すると問題解決への行動もうまれず、結果としてこのような人は最後に予想もしない現実に衝突し、泣くことになるのです。
大抵の場合、変化の予兆は多くの場所で目撃されており、何度も指摘されたことです。しかし当事者意識を持たない人にとっては、現実の変化で手痛い失敗を自己体験するまで「自分には関係のないこと」になっているだけなのです。
例えば、平成24年度の大学卒業生内定率が文部科学省から、このように発表されています。リーマンショック以降低下を続けた内定率は、数値としては持ち直しているのですが、実際に就活をしている大学生からは悲惨な声が聞こえているそうです。
大学全入時代(入学定員より希望者が少ない)と言われてきた現在、大学生であるという資格の価値が大幅に低下していること、同時に企業がグローバル世界でビジネスに勝つ必要性から、人材ニーズを変化させていることはすでに何度も指摘されています。
実際、大企業は留学生を含めた外国人採用枠を広げています。逆に以前と同じような大学生活を送り、最新の企業ニーズにマッチしていない学生には、関心を抱くことがなくなったことが、学生が数値を超える就職氷河期を感じている理由ではないでしょうか。
一方で、筆者が昨年ニューヨークで出会った21歳の日本人男子学生は、大手商社志望のため1年生から単位を早く取得し、英語留学を終えたあと、ポルトガル語をマスターするために、ブラジルへの留学を計画しているところでした。なぜブラジル留学が必要かと聞けば、英語しか話せないと入社後の赴任希望を出す際に低成長の先進国しか書けないから選択肢が狭くなるので、と言っていました(ご存じの方も多いと思いますが、ポルトガル語は世界第7位の話者数を持ちます)。
この男子学生は一つのケースに過ぎませんが、今起こっている変化の当事者意識を持つならば、このような行動の必要性を自然に感じることができるのではないでしょうか。一方で度々企業の採用ニーズに関するニュースやビジネス誌の記事を目にしながら、なんら関心を持たず、変化の当事者意識がゼロの学生は、大学3年生で就職活動を始めると自分が早くも時代遅れであり、企業の欲しがる人材から外れていることに唖然とすることになるのです。
当事者意識がない集団は、
危機を乗り越えられない
明治維新後、四民平等の社会になったにも関わらず、多くの日本人からは旧来の身分制度による卑屈さのままでした。
庶民の精神状態を知った福沢諭吉は、日本国民こそが国家の主人公である新時代に、当事者意識をあまりに持たない人たちを叱咤激励する意味も込めて『学問のすすめ』を執筆したのでしょう。
当事者意識がないことで現実の壁に衝突してしまうことは、単に個人の問題だけではなく、企業などの集団あるいは国家としての日本でも同様です。
『学問のすすめ』では、織田信長に敗れた今川義元の軍勢が、大将の首を取られた途端に蜘蛛の子のように四散してしまい、あっけなく滅亡した一方で、フランスが普仏戦争でナポレオン3世を人質に取られたのに、さらに勇猛果敢に戦って国家を保ったことが書かれています。
当事者意識を持たないことで、現実に直面している問題が消え去るわけではありません。むしろ何の備えもないままに変化が進行してしまい、気がつく頃には大失敗が確定していることさえあるでしょう。
社会の変化、ビジネスの変化、海外情勢の変化、個人生活の変化。すべて私たちは当事者のはずです。そして、正しい当事者意識を持つことは、問題解決のための最初の一歩であり、新たに適切な学習を始める重要なきっかけとなることも『学問のすすめ』から学べる点なのです。
(2)生き残り新時代の成功者になるには
「疑う能力」を徹底して磨け
変革期とは、多数派が必ずしも正しくない時代でもあります。昨日と同じ今日が続いてくれる平穏な時期は、多数派がこれまで進めてきた物事の扱い方、考え方、選択が通用することが多く、何も考えずに集団の誰かについていくことでそれほど大きな失敗もなく、平均的な幸せがある意味で約束されていた時代だと考えることができます。
しかし変革期はそうはいきません。変革期は、むしろ多数派が間違っている可能性が高まる時代だからです。
したがって、何も考えずに「なんとなく周囲と同じ行動をする」ことのリスクが段階的に高まっていくことになります。時代の曲がり角は、自分のアタマを使わないことがそのまま人生の大きなリスクとなってしまうのです。諭吉は『学問のすすめ』第15編で、疑う能力を高めること、そして疑った上での判断力の重要性を説いています。
1. 従来の学説、常識、社会通念などの限定枠
ガリレオやニュートンなどの科学者は、従来の学説を疑うことで新たな真理を発見し、社会に大きな恩恵をもたらす文明の進化を成し遂げました。この従来の学説、常識や社会通念を「健全な形で疑う」ことは、新たな可能性を発見するきっかけです(諭吉は宗教改革を成し遂げたマルチン・ルターにも言及している)。
あなたが考えている「現在の限界」は、実は限界でもなんでもなく、極めて底の浅い思い込みに過ぎないかもしれません。「これ以外に方法はない」と社会が思い込んでいる限定枠も、実際はその思い込みが生み出している限界であって、より素晴らしい選択肢をたくさんつくり出す努力を怠っているだけかもしれないのです。社会を進歩させる、科学技術の新しい定理を発見する、個人の人生の限界を押し広げるためにも「健全な疑う能力」を高めることは、極めて重要になるのです。
2. 社会変化への不安から、新しいものを盲信する「開化先生」の言説
時代が移り変わり始めると、なんでも新しいものに飛びつき、新しいものを疑わずに盲信し、古いものを何でもダメなものだと決めつける軽率な「開化先生」がたくさん出現すると、『学問のすすめ』は指摘します。
本来であれば、物事は良し悪しを慎重に吟味して、時間をかけて正しい判断を下すべきなのに、これらの「開化先生」は古いものを信じていたのと同様に、新しいというだけで盲信してしまう軽率な人たちで、時代がどれだけ移り変わっても、自分の判断力をまったく向上させず、賢くなることもありません。
このような人は古いモノの中にあった「本当は優れていたもの」を簡単に捨ててしまい、実は役に立たない新しいモノに飛びついて有頂天になっていたりします。現代日本でも、盲目的に新しいモノ、海外の習慣や製品を礼賛する傾向が私たちの周囲に溢れていないでしょうか。私たちは正しい判断をできているでしょうか。
『学問のすすめ』は、このように新しいものに盲目的に飛びついて、当時外国のものが何でも優れていると論じ、日本のものが何でも時代遅れであると考えた流行モノが大好きな軽薄な人間を、疑う能力と判断力に欠けた人物の典型であるとしています。真の学問とは、健全な疑う能力と正しい判断力を養うためのものだと諭吉は喝破していたのです。
(3)日本人に多い「怨望」を避けよ。
他人の足を引っ張る愚かさ
『学問のすすめ』で諭吉は、怨望こそもっとも社会に害毒を流すものだとしています。では、「怨望」とは一体なんなのでしょうか?
「怨望」とは、例えば他人の幸福と自分の不幸を比較して、相手が良く自分に不足があれば、自分を改善するという手段を取らず、逆に他人を不幸に陥れて他人を自分と同じ状態にしようとすることです。このような者の不平を満足させるならば、世間一般の幸福が減るだけであり、何の得にもなりません。
【怨望から生まれる行動事例】
・働き方が陰険、自分から積極的に何かを成すことがない
・他人の様子を見て自分に不平を抱き、自己反省ではなく人に多くを求める
・不平を解消して満足する方法は、自己の向上ではなく他人に害を与えること
このような社会に損失を与え、幸福を減らすだけの「怨望」が実は日本社会には溢れていると諭吉は指摘しています。「怨望」を元に私たちが行動すれば、優れた人や存在に出会うたびに、ひたすら他人の足を引っ張り、自分と同じ低いレベルまで陥れることで満足を得ることになります。これは極めて醜悪で、非生産的です。
では「怨望」の逆を実行すればどうでしょうか。自分より優れた人、幸福な人に出会ったら自分に欠けている部分をまず補い、自らを向上させることで、優れた人と同じ高さに少しでも近づく努力をする。相手が自分より幸せであれば、相手の足を引っ張ることなく、自分もより幸せになれる努力をする。
「怨望」から生まれた思考や行動には学びがなく、社会全体への貢献も皆無です。一方で「怨望」とは逆の人生態度は、優れた誰か何かに出会うたびに、あなたの中に健全な学びと成長の意欲を生み出すことになります。 世間に流布する「怨望」を捨て、逆の行動指針を持つことで、人に出会うたびにあなたは成長する学びを行うことが可能になるのです。(第4回に続く)※4/8掲載予定
新刊書籍のご案内
『「超」入門 学問のすすめ』
この連載の著者・鈴木博毅さんが、『学問のすすめ』を現代の閉塞感と重ね合わせながら、維新の「成功の本質」を23のポイント、7つの視点からやさしく読み解く書籍が発売されました。歴史的名著が実現させた日本史上最大の変革から、転換期を生き抜く方法をご紹介します。変革期に役立つサバイバルスキル、グローバル時代の人生戦略、新しい時代を切り拓く実学、自分のアタマで考える方法など。140年前と同じグローバル化の波、社会制度の崩壊、財政危機、社会不安などと向き合う転換期の日本人にとって、参考になることが満載です。
13万部突破!好評発売中!
『「超」入門 失敗の本質』
野中郁次郎氏推薦!
「本書は日本の組織的問題を読み解く最適な入門書である」
13万部のベストセラー!難解な書籍として有名な『失敗の本質』を、23のポイントからダイジェストで読む入門書。『失敗の本質』の著者の一人である野中郁次郎氏からも推薦をいただいた、まさに入門書の決定版。日本軍と現代日本の共通点をあぶり出しながら、日本人の思考・行動特性、日本的組織の病根を明らかにしていきます。現代のあらゆる立場・組織にも応用可能な内容になっています。
http://diamond.jp/articles/print/34110
【第5回】 2013年4月4日 鎌塚正良 [ダイヤモンド社論説委員]
日々の株価に右往左往しない!
世界一の投資家が莫大な資産を生み出した流儀
『[新版]バフェットの投資原則 世界No.1投資家は何を考え、いかに行動してきたか』
アベノミクスに対する期待感から株価は上がり続け、ここ数年ではありえなかった日経平均株価1万2000円も珍しいことではなくなってきました。日本人の株への関心も目に見えて高まっています。今回登場するウォーレン・バフェットは、1万ドルを元手に株式投資だけで620億ドルの資産を生み出した世界一の投資家。彼の投資手法に学びたいと考える人は多いと思いますが、バフェットの流儀は日々の株価の値動きに一喜一憂する短期投資家には耳の痛いものかもしれません……。
アメリカ経済に多大な影響力を持つバフェットの
誠実でユーモアのある日々の言葉
ジャネット・ロウ著/平野誠一訳『[新版]バフェットの投資原則 世界No.1投資家は何を考え、いかに行動してきたか』(写真左)
2008年8月刊行。本書のルーツは、1999年7月に刊行された『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』(写真右)にあります。読者の方々からの復刊のご要望にお応えして、2005年6月に『バフェットの投資原則』(写真中央)と改題して刊行されました。その後、原書が改訂・増補されたのに伴って、新版の出版に至っています。
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株式ブローカーの父親を持ち、11歳にして初めて株式に投資したウォーレン・エドワード・バフェット。世界的大富豪として知られ、歴史上もっとも成功した投資家とされています。
近年では、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツが設立した財団に300億ドル相当(2006年当時の為替レートで3兆4500億円!)の株式を寄付するなど、慈善事業家という新しい顔も覗かせています。また、「財政の崖」危機に瀕した米議会やオバマ大統領に対して富裕層への増税を訴えるなど、その行動力や影響力は80歳を過ぎてなお衰える気配はありません。
つい先日も、リーマン・ブラザーズが経営破綻した直後の2008年9月、経営危機に直面したゴールドマン・サックスのワラント(株式引受権)を巨額購入していたことが判明しましたが、日本の株式市場が活況を取り戻してきた昨今、彼の著作に関心が高まるのはごく自然な流れなのかもしれません。
『[新版]バフェットの投資原則』は、テクニカルな投資技法やライバルを出し抜く戦術を公開したものではなく、この種の本にありがちな自慢話に終始しているわけでもありません。日々の発言を丹念に拾い集めて編集した「バフェット語録」といったほうが正確です。およそ鉄火場の住人とは思えない誠実でユーモアのある語り口が象徴するように、バフェットはいかなる投資においても誰も傷つけていないし、また誰からも憎まれていません。たぶん。
用意するのは紙と鉛筆
そして「年次報告書」を精査すること
バフェットの投資作法は、まず紙と鉛筆を用意することから始まります。
「自分が理解できる企業の名前を紙に書いて、それを取り囲むように輪を描きます。次に、その輪のなかにある企業のうち、その本来の価値に比べて株価が割高なもの、経営陣がダメだと思うもの、事業環境が芳しくないものなどを消します」
「1つの企業に目をつけたら、自分がその企業を相続したつもりで調査をします。要するに経営者兼大株主の立場に立って考えるわけです。しかも、自分の一族が保有する資産はこの企業だけだと仮定します。……経営者として自分は何をするか、何をしたいと考えているか。心配事はないか。どんな競争相手がいて、どんな顧客がいるか。こういう質問をいろいろな人にぶつけてみます。……そうすれば、その会社の長所と短所が見えてきます」(49〜50ページ)
カバーのソデ部分に抜粋されたバフェット語録。奇をてらわない、誠実な言葉が並んでいます。
[画像を拡大する]
企業を調べるうえで、主たる情報源の1つに挙げているのが「年次報告書」です。目をつけた企業の年次報告書を読み、次にその企業のライバル会社の年次報告書を読みます。脚注も飛ばさず読みます。もし理解できない脚注があったら、それは理解してほしくないという会社側の姿勢の現われであると判断して、そんな脚注を書く会社には投資しないのです。
調査はこれで終わりません。ときに図書館にこもって書籍や参考資料を読みまくります。必要があれば専門家に話を聞き、可能な場合は経営陣にも会って話を聞くのです。
「ニューコーク」が大失敗したあとのコカ・コーラや金融危機時のゼネラル・エレクトリック(GE)などの株式を、かつてバフェットが大量購入したことはよく知られています。
「絶好の投資機会がやってくるのは、エクセレント・カンパニーと称される優良企業が異常事態に直面し、株価が適切に評価されなくなるときです」(34ページ)
短期的な利益予想に左右されない
長期的な投資こそが大きな実りをもたらす
コカ・コーラの株式公開は1919年、初値は40ドルでした。ところが、コーラの原料となる砂糖の価格が高騰したため、株価は翌年、19ドルに暴落してしまいました。しかし、それにもめげずにコカ・コーラ株を持ち続けた投資家は、その後笑いが止まらなくなりました。この間、砂糖価格のみならず、恐慌や戦争など数えきれないほどの変化や変動があったにもかかわらず、コカ・コーラ株は大きく値上がりしたからです。
「要するに、大事なのは商品そのものが長期間持ちこたえられるかどうかを考えることです。その銘柄を買うべきか売るべきかを延々と考えるよりも、そちらのほうがはるかに実りが大きいとは思いませんか」
(93ページ)
「私たちが大量保有している銘柄の大半は、この先何年も保有するつもりです。そしてその間の私たちの運用成績は、特定の日の株価ではなく、それらの企業の業績によって決まることになります。企業を丸ごと買収するときに、短期的な業績見通しだけに着目することがばかげているように、短期的な利益予想に惚れ込んで株式を買うのは不健全だと思います。市場で売買されている株式は、その企業の一部だからです」
(109〜110ページ)
ロバート・G・ハグストローム著/三浦淳雄、小野一郎訳『株で富を築く バフェットの法則』
2005年9月刊行。バフェットの投資手法から、じっくり資産を育てる成功則を学ぶ一冊。
『株で富を築く バフェットの法則[新版]』によると、彼が売却しないと決めている銘柄が4つあります。コカ・コーラ、ワシントン・ポスト、保険業のGEIC、そしてメディア会社のキャピタル・シティーズ/ABCです。これらの銘柄にはバフェットが認める特性があり、同書において詳細に分析しています。
バフェット式投資の要諦とは、誠実で有能な経営陣が率いる優れた企業を探し出し、その企業の株式を割安価格で購入し、そして長期間あるいは永久に保有する――詰まるところ、そういうことです。
◇今回の書籍 6/100冊目
『[新版]バフェットの投資原則』
わずか1万ドルの元手から620億ドルを超える資産を築いたバフェット。その経歴を見れば、誰もがその成功の秘密を知りたいと思うだろう。本書は、この世界最高の投資家が株式投資やビジネス、人生について語った言葉を集めたもの。達人の言葉から学ぶ成功する投資の作法。
ジャネット・ロウ著 平野誠一訳
定価(税込)1,680円
→ご購入はこちら!
【お知らせ】ジョン・ウッド氏 来日決定!
ダイヤモンド社創立100周年記念講演会
教育と人材育成でイノベーションを起こせ!―世界基準のリーダーシップの育て方
経済全体がボーダーレス化し、めまぐるしく変化を続ける国際社会にあって、世界で活躍できる人材を育成することは、日本にとって喫緊のテーマです。そのために、これまでにないコンセプトで「教育と人材育成」の分野で大きなインパクトを生み出そうとしている人たちがいます。
ダイヤモンド社は、これからの日本を担う人材育成のために、新たな挑戦を始めたリーダーたちに注目し、教育や人材育成、リーダーシップ、組織運営といったテーマを論じる講演会「教育と人材育成でイノベーションを起こせ!―世界基準のリーダーシップの育て方」を開催いたします。
ルーム・トゥ・リードのジョン・ウッド氏の来日基調講演のほか、パネルディスカッションにはダボス会議でも活躍する注目のリーダーたち(小林りん氏、小沼大地氏、松田悠介氏、石倉洋子氏)が登壇いたします。豪華な顔ぶれが一堂に会するこの機会、ぜひお聴き逃しなく!
【開催概要】
□日時:2013年4月17日(水) 19:00〜21:00(開場18:30)
□会場:モード学園コクーンホールB
□住所:〒160-0023 東京都新宿区西新宿1-7-3 モード学園 【会場】(PDF:283KB)
□定員:500名(一般450名/学生50名)
□参加費:一般 5500円/学生 1000円
※本講演会の利益は、登壇者が所属する4団体に全額寄付されます。
□プログラム:
●基調講演「教育で世界を変える」
ジョン・ウッド氏(ルーム・トゥ・リード創設者兼共同理事長) ※逐次通訳
●パネルディスカッション「教育と人材育成でわたしたちが目指すもの」
小林りん氏(公益財団法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団代表理事)
小沼大地氏(NPO法人クロスフィールズ 代表理事)
松田悠介氏(Teach For Japan創設代表者)
石倉洋子氏(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授)
【第6回】 2013年4月4日 紺野登 [多摩大学大学院教授、KIRO(知識イノベーション研究所)代表],目的工学研究所 [Purpose Engineering Laboratory]
「目的工学」(パーパス・エンジニアリング)でよりよい未来をつくろう
――本文から(その6)
「手段の時代」から「目的の時代」へ――はじまった目的工学の取り組みをさまざまな形で紹介していく。『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』の第1章「利益や売上げは『ビジネスの目的』ではありません」を、順次公開してきた。
第1章の最終回となる第6回では、われわれが提案している目的工学が、どのような思いと意図のもとに生み出されたのか、どんな役割を果たすものなのかをまとめる。
ドラッカーの思いを
さらに発展させたい
われわれ目的工学研究所の結論はこうです。
よい目的(パーパス)が、よい会社、よい組織、よい事業、よいリーダー、よい人間関係をつくる。その結果、よりよい未来が生まれてくる ― 。
たいていの企業には、創業の理念、社是や社訓など、まさに社会的で、利他の心あふれる目的(パーパス)があるものです。ところが、多くの場合、いつの間にか空疎なお題目に変わってしまい、すっかり忘れ去られています。それが、だれもが共感するような目的(パーパス)であっても ― 。
それはなぜでしょう。私たちには、そもそも利他性が宿っているのではなかったのでしょうか。したがって、困っている人を助けたり、社会に貢献したりすると、充足感が得られるのではなかったのでしょうか。
せっかくのよい目的(パーパス)が空念仏(からねんぶつ)に終わってしまうのには、いくつか理由が考えられます。経営者から新入社員まで、みんな目の前の仕事や目標に追われている。
●何を言おうと、結局「会社は株主のもの」である。
●財政面での安定がなければ、何もできない。
●一人ひとりの小目的がバラバラである。
●社会に貢献し、かつ利益が出るようなビジネスモデルなど考えられない。
ほかにもあるかもしれませんが、だいたいこんなところではないでしょうか。
ドラッカーは、市場原理、資本家や企業家が支配する資本主義の限界を見て取る一方、「知識労働者(ナレッジ・ワーカー)」が台頭し、彼らが組織の枠にとらわれることなく自由自在にコラボレーションし、イノベーションや新しい価値を生み出すという未来を予言していました。そして、この新しい現実において、非営利組織こそ企業が学ぶべき手本であり、ここにマネジメントの本質があるという見解に達しました。
ドラッカーは、ナチズムの台頭に危機を発していた若き20代の頃から、リーダーの社会的役割を問い続けてきたように思います。つまり、社会の安寧(あんねい)はリーダーの品格や力量に大きく左右されると考えていたのです。
ですから、アメリカに亡命した後、政府と同じくらいの影響力を有する大企業の経営者たちに期待し、その啓蒙に努めてきました。もしかすると、「非営利組織に学ぶ」という教えは、そのための最後の手段だったのかもしれません。
これからわれわれが紹介する「目的工学(パーパス・エンジニアリング)」は、このドラッカーの思いを発展させるものであり、また「社会と企業の共生」(われわれは「共進化」と呼んでいます)という日本企業の忘れ物を再発見するためのものでもあります。
目的工学は、組織メンバー全体を
一体化するための方法論
組織は人間の集合体であり、そこにはさまざまな人たちがおり、考え方や価値観、働く動機もバラバラです。大目的に目覚めて「社会のために」働いている人もいれば、「生活のために働いている」人もいるでしょうし、「とにかく出世したい」という上昇志向の人もいれば、「他人にはできないことをやってみたい」という野心家、「ここでいろいろな経験を積んでもっとよい会社に転職したい」というキャリア志向の人もいるでしょう。このように動機が異なれば、その目的(パーパス)も当然異なります。
経営学における古くて新しい課題の一つが、組織メンバーを一つにまとめることです。何しろ組織というものは、一人ではできないことを、複数の人たちの力によって成し遂げるために生まれたものです。しかし残念なことに、これまでの手法の「成功率」はあまりほめられたものではなさそうです。
われわれは、その最大の原因を「大目的の不在、あるいは喪失」にあると考えています。組織メンバーのさまざまな目的 ― なかには相容れないもの、荒唐無稽なものもあるでしょう ― を調整しながら、大目的に向かってメンバー全員を一体化するための方法論、これが目的工学の目指すところです。そして、その大目的は言うまでもなく、「世界じゅうの人々の幸福」を企業や組織、個人が実現する道筋を見出すことです。
さぁ、みなさん、一緒に目的工学を研究してみませんか。
(今後もさまざまな形で目的工学を紹介していく予定です。)
【新刊のご案内】
『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』
アインシュタインも語った――「手段はすべてそろっているが、目的は混乱している、というのが現代の特徴のようだ」
利益や売上げのことばかり考えているリーダー、自分の会社のことしか考えていないリーダーは、ブラック企業の経営者と変わらない。英『エコノミスト』誌では、2013年のビジネス・トレンド・ベスト10の一つに「利益から目的(“From Profit to Purpose”)の時代である」というメッセージを掲げている。会社の究極の目的とは何か?――本書では、この単純で深遠な問いを「目的工学」をキーワードに掘り下げる。
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紺野 登(Noboru Konno)
多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。
組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。
著書に『ビジネスのためのデザイン思考』(東洋経済新報社)、『知識デザイン企業』(日本経済新聞出版社)など、また野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)との共著に『知力経営』(日本経済新聞社、フィナンシャルタイムズ+ブーズアレンハミルトン グローバルビジネスブック、ベストビジネスブック大賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(東洋経済新報社)、『知識経営のすすめ』(ちくま新書)、『美徳の経営』(NTT出版)がある。
目的工学研究所(Purpose Engineering Laboratory)
経営やビジネスにおける「目的」の再発見、「目的に基づく経営」(management on purpose)、「目的(群)の経営」(management of purposes)について、オープンに考えるバーチャルな非営利研究機関。
Facebookページ:https://www.facebook.com/PurposeEngineering
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