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(回答先: 有事が来るぞ(2)暮らしはどうなる? 投稿者 竹中半兵衛 日時 2004 年 5 月 20 日 09:43:02)
【世相百断 第53話】有事が来るぞ(3) あなたも徴用される
http://www5a.biglobe.ne.jp/~katsuaki/sesou53.html
前回の『有事が来るぞ(2)暮らしはどうなる?』で見たとおり、日本が現実に武力攻撃にさらされなくとも、「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫している」と総理大臣が認めたとき、または「事態が緊迫し、武力攻撃が予測される」と判断すると、有事法制が発動され、政府・自衛隊は国民にさまざまな協力を求め、犠牲を強いてくる。だがこうした協力・犠牲の強制は前回見たような土地・家屋や物資・資材の収用・管理にとどまらない。広範な市民もまた、業務従事命令という名の軍事徴用で軍事行動に組み込まれていく。人間の徴用なくして、徴用・収用した施設や機材は動かないし、管理・収用した物資を動かすこともできないからだ。
市民の身に何が起きるか、有事法制三法や政府答弁などをもとに想像力を働かせて想定してみよう。
武力攻撃等事態法第5条では、「地方公共団体は……国及び他の地方公共団体その他の機関と相互に協力し、武力攻撃事態への対処に関し、必要な措置を実施する責務を有する。」と有事への協力が義務化されている。
また自衛隊法第103条第2項では、自衛隊の展開地域以外であっても、必要に応じ総理大臣が告示して定めた地域では、第1項と同じく都道府県知事は「施設の管理、土地等の使用若しくは物資の収用を行い、又は取扱物資の保管命令を発」することができるだけでなく、「当該地域内にある医療、土木建築工事又は輸送を業とする者に対して、当該地域内においてこれらの者が現に従事している医療、土木建築工事又は輸送の業務と同種の業務で長官又は政令で定める者が指定したものに従事することを命ずることができる。」とされている。実際は「できる」ではなく、長官又は政令で定める者の指示・命令に従って「しなければならない」だ。
知事は自衛隊が必要とする私有地や建物の収用に関する公用令書を交付して、その実務を行なわなければならない。また、病院その他の施設の管理、物資の保管や収用も行なわなければならない。有事体制下では、地方公共団体は国や自衛隊の下部組織となる。
実際は、こうした実務は国や自衛隊の指示・命令のもとに地方公務員がやることになるだろう。こうした形で、一人一人の思想や良心に関わりなく、地方公務員は「職務として」民間人に協力や犠牲を強いる側に立たされていく。
たとえば武力攻撃予測事態となって自衛隊に出動待機命令が出され、「展開予定地域」が指定されてその地域内で陣地構築が始まったとしよう。この工事は自衛隊員がやるのか?
答えはNOだ。自衛隊は狭義の戦闘準備におおわらわで、とても土木工事に人を割くことはできないだろう。自衛隊と地方自治体の管理者の命令・管理のもとに、こうした工事には民間の土木建築業者とその従事者が動員される。
陣地構築工事に伴う土砂の搬出搬入にはダンプカーを保有する運送会社の従業員に業務従事命令が出される。そこに建物の建築や改築が必要なら、建築技術者、大工、左官、とび職、建築会社や工務店の従業員が動員される。
この「陣地構築」のなかには防空レーダー、対空ミサイル陣地、原発等の攻撃対象周辺の防御施設などの構築工事も当然含まれる。
つまりこうした業に従事している人たちは、ひとたび有事法制が発動されると、自衛隊の展開地域であるか否かにかかわらず、業務従事命令という形で軍事徴用されるということだ。
そしてこうした従事命令についてもまた、行政不服審査法による不服申立てをすることができない。土地・家屋や物資、資材の収用・管理と同じく問答無用、絶対服従だ。
武力攻撃等事態法は地方公共団体だけでなく、第4条では国に、第6条で指定公共機関にも戦争協力義務を課している。医療機関が指定公共機関にされると、国立病院・国公立大学の附属病院はもちろんのこと、その他の公立病院、私立大学病院、日本赤十字病院なども協力義務を負わされる。
自衛隊の指示・命令によって地方自治体が病院・診療所等の収容・管理を行なうと、民間の病院や診療所は実質的に軍管理病院になっていく。公・民営を問わず、収用・管理の対象となった医療施設では、自衛隊の使用に供するため、軍を背負った地方公務員によって、入院患者の追い出しや一般住民の診療制限などが行なわれるだろう。
こうした施設で行なわれる自衛隊員の戦傷病者の治療には、そこで働いていた医師、歯科医師、薬剤師、看護士、検査技師などに業務従事命令が発せられる。
医療従事者に限らず、こうした業務従事命令を発せられた労働者が自己の思想信条や良心に従って業務従事命令を拒否したらどうなるのか。
前回の「有事が来るぞ(2) 暮らしはどうなる?」で触れたように、物資の保管命令の違反者、立ち入り検査の拒否者等には今回の法改定で新たに罰則規定が設けられた。しかし業務従事命令の拒否者には現在のところ罰則規定はない。
有事法制の改定作業にあたって、防衛庁や自民党の一部には業務従事命令違反者にも罰則を設けるべきだとの意見があったようだが、物資保管命令と違い「強制労働のイメージが強くなる」(防衛庁幹部)として政府案では見送られたということだ。
物資の保管命令に違反して所有者が指定物資を売却したり移動したりしても、刑法上の窃盗罪や横領罪にはあたらない。だから罰則規定で保管命令の実効性を確保しなければならなかったが、業務従事命令は事業者(企業)と従事者(労働者)に対して発令できる。したがって業務従事命令の対象職場に勤務する労働者が命令を拒否すれば、企業からの解雇その他の処分を受けることになるので、今の状況の中で国民の抵抗を生み出す可能性が大きい罰則規定を定めなくても実効性は確保できる、という計算によるものらしい。
ただし、武力攻撃等事態法第23条には、事態対処法制の「総合的、計画的、かつ速やかな整備」を謳っており、この整備は同法成立後2年間を目標にしているそうだから、国民の有事法制への抵抗感が薄くなれば、この時点で業務従事命令違反者への罰則規定も制定される可能性がある。
武力攻撃等事態法第6条によって、民間企業は「指定公共機関」に指定されると地方公共団体と同じように対処措置について責務を課せられる。政府が協力させたい業者を「指定公共機関」と指定すれば、民間企業も否応なく戦争体制に動員される。
たとえば道路公団やJRをはじめとする鉄道会社、運送会社、航空会社や空港の従業員なども自衛隊員や必要物資の輸送のために働かねばならなくなるだろう。必要物資の中には武器・弾薬も入る。船舶や港湾労働者も同様だ。電波が徴用されれば、通信事業者の従業員も自衛隊のために働かねばならない。電気・ガスをはじめ、燃料・エネルギー関連の事業者の従業員も自衛隊のための労働を強いられることになる。
いったん有事法制が発動されて業務従事命令が発せられたら、こうした広範な職種の人たちは業務命令に従って戦争協力をするか、業務命令に背いて解雇を選択する他に方法はなくなる。
NHKをはじめとする報道機関が「指定公共機関」に指定されると、警報の発令や緊急情報の伝達に「協力」させられることになる。「緊急情報の伝達」の内容は軍事に関わるものなので、「協力」によって報道の自由が一挙に侵害される事態が想定される。たとえ政府による「武力攻撃事態」の認定は合理的ではないと報道機関が判断しても、また自衛隊の陣地構築が不必要に拡大されていると判断しても、そうした事態を批判する報道は事実上かぎりなく困難になるだろう。だいいち、そうした判断を行なう材料が政府側から出てこなくなる。こうして報道機関に働いている人たちはかつての「大本営発表」と同じ役割を与えられ、政府の戦争遂行政策に荷担させられていく。
武力攻撃等事態法第8条では、「国民は……指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が対処措置を実施する際は、必要な協力をするよう努めるものとする」と、国民の協力義務も定めている。いまのところ法律上は努力義務にすぎないし、罰則規定もない。しかしいったん協力義務が定められてしまえば、有事の際には職場や町内会などさまざまな場面で市民は戦争協力の大きな圧力にさらされるようになるだろう。「いまは国の一大事なんです。隣近所(または職場)の皆さんが協力してくれてます」という言葉の前で、協力の要請に疑問を呈したり拒否できる勇気をもった人がどれだけいるだろう。
「事態が緊迫し、武力攻撃が予測される」と総理大臣が判断し、いったん有事法制が発動されると、まだ現実に日本が武力攻撃されるおそれがない時点でこうして「総動員体制」が作られる仕組ができてしまった。
たとえ業務従事命令は発せられても、民間人は最前線には出されることはないだろう、などと考えるのは甘い。後方地域だと思われていたところが、敵のミサイルの着弾でたちまち戦闘地域に変わる。現代戦の恐ろしいところは、いったん戦争が始まると前線と銃後の区別がなくなることであるのは、アフガニスタンやイラクの例で明らかだろう。
もしあなたに業務従事命令が出されて戦闘地域で働かなければならなくなったらどうなるか。
医療従事者は野戦病院で傷病兵の応急処置を行なうことを命じられるかもしれない。
土木建築業者とその従事者は施設隊(工兵)に軍属としてに配属され、軍用車両が通行するための道路や橋梁の工事・補修に従事させられるだろう。もしそこが前線であれば、戦車や砲兵の援護もないなかで作業をしなければならないかもしれない。
飛行機・船舶・トラックなどの輸送労働者は最前線への兵員輸送や武器・弾薬をはじめとする軍需物資の輸送を命じられるかもしれない。なにしろ現在の自衛隊はいざ戦争になったら戦闘行動に手いっぱいで、兵站活動にまで手が回らない。兵站活動の大半は民間企業に負わせなければならなくなるだろう。だからこそ、法律に民間企業を戦争に荷担させる規定を盛り込んである。
民間航空機はミサイルの飛んでくる空で輸送業務に従事しなければならない。民間空港は事実上軍の管理下に置かれ、管制作業も、整備作業も、物資の積みおろしも、すべて軍事優先でなされるだろう。空港労働者は危険の大きな爆発物や武器を限られた時間内で積み降ろす作業を日常茶飯に行なわなければならなくなる。ちょっとした事故が大惨事にむすびつき、真っ先に犠牲になるのは労働者自身である。さらに、敵機が出撃し、物資の輸送拠点になる空港は、相手国から見れば最大の攻撃対象である。民間航空機は軍事に利用されると、戦時の保護対象から外される。
同じことは船舶労働者にもいえる。戦争のなかで軍艦や軍用機の護衛のもとに航行している民間船舶、軍需物資を輸送する民間船舶を攻撃することは、国際法上「合法」なのである。しかも、相手国から無警告で攻撃されても文句が言えない。
業務命令を受けたこうした輸送労働者は、死と隣り合わせの仕事を強いられることになる。
これでもまだ、有事法制など自分や自分の家族親戚には関係ないと、あなたは見ざる、聞かざる、言わざるをきめこみつづけますか?
(2003年8月31日)