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危ういキャッシュ信仰――日経金融スクランブル
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投稿者 Ddog 日時 2003 年 5 月 15 日 22:11:04:gb2b4T9TetGkU

危ういキャッシュ信仰――日経金融スクランブル

14日の東京株式市場で日経平均株価は反発した。政府の株価対策を手掛かりに買いが先行したが、円高・ドル安に対する警戒感が強く、上昇力は弱かった。市場関係者からは「企業業績の本格回復の見通しが立たず、投資家の買い意欲はぜい弱」(多田一昭・ジャパンクロス証券営業部長)との声も聞かれた。
世界的なデフレの進行で収益が伸び悩むなか、多くの企業は現預金をはじめとする金融資産を積み上げ、財務体質を改善することに力を注ぎつつある。
松下電器産業は2003年3月期にキャッシュフロー重視の経営姿勢を明確にし、大幅な設備投資圧縮や在庫削減などを断行した。この結果、金融資産から有利子負債を差し引いた「ネット金融資産」は前期末で約6800億円と1年間で3500億円程度増加した。
前期の金融資産拡大に最も効果を発揮したのが、買い入れ債務の支払い期間の長期化だった。同社は月末現金払いの原則を創業者である松下幸之助氏以来の伝統として堅持してきたが、昨年4月から同業他社並みの90日後支払いに変えた。この変更でねん出した金融資産は1000億円を超えた。
かつての松下の支払い条件を支えていたのは、「松下銀行」とも称された潤沢な金融資産に象徴される強固な財務基盤だった。しかし1990年代以降、エレクトロニクス製品の販売低迷やリストラ(事業の再構築)に伴って資金が流出。ネット金融資産は2002年3月期に3000億円台まで減少した。
金融資産の極端な減少が財務の機動性を損なうことは言うまでもない。資金不足を補うために外部調達を拡大し続けることは社債など債務格付けの低下を引き起こす恐れがある。
伝統を聖域としない前期の松下のキャッシュ創造戦略は、こうした財務上の危機感を背景としている。松下は2004年3月期も投資圧縮と在庫削減を継続、ネット金融資産は8000億円超に拡大する見通しだ。
金融資産の安定確保に向けた経営努力は同社に限ったことではない。法人企業統計に基づくグラフは、日本企業が1980年代に一貫して現預金を積み上げ、90年初頭に約150兆円のピークを付けた後も、約120兆円と高水準を維持している姿を浮き彫りにしている。
運転資金の需要や、貸し渋り対策など個別の事情は異なるにせよ、日本企業は東証一部時価総額(約240兆円)の約半分に相当する現預金を保有している。
ただ、円金利資産の投資対象としてみた場合現在の現預金は利回りが極端に低いという難点がある。企業の総資産に対する利益率を示す使用総資本事業利益率(ROA)が預金金利よりも高い企業であれば、本業に投資した方が資金の有効活用になる。現預金をやみくもに増やすことは企業価値拡大の観点からはプラスにならない。
新規の設備投資案件や魅力的な企業の合併・買収(M&A)案件がすぐに見つからない場合でも、効果的な投資対象が身近にある。それは自社株買いだ。
今期予想ベースの配当利回りは松下が1.2%、武田薬品工業は1.5%。東証一部の全銘柄平均も1%台。無配ではない限り多くの企業は預金金利よりも高い配当利回りを確保している。
どんなに利回りが高くとも、事業リスクが大きければ効率的な投資とは言えな
いため、配当利回りが預金金利よりも高いからといって単純に投資はできない。
しかし、自社株であれば話は別だ。投資した以上、何としても企業価値を高めよ
うという意志が経営者に働くかもしれない。 加えて、自社株を消却するのでは
なく、いわゆる金庫株として保有すれば、将来、企業や事業を買収する際に株価
交換方式としてそれを活用することもできる。株価対策を政府任せにするのでは
なく、民間が自らの企業価値を高め、投資家の魅力を高める。キャッシュ重視の
経営は転機を迎えているのかもしれない。(小林茂)

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