小林よしのりインタビュー:教科書「わしの執筆部分」と「採択戦略」(週刊ポスト5/4)

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投稿者 YM 日時 2001 年 4 月 22 日 19:35:09:

週刊ポスト2001/5/4・11
独占!ゴーマン激白120分
小林よしのり「これがわしらの反撃だ!」

鳴り物入りで登場した「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書で、小林よしの
り氏は多くの部分を執筆している。特に「大東亜戦争」における特攻隊を〃英
雄〃として描くなど、これまで通説とされてきた歴史観に大胆に挑戦している。
その新しい歴史教科書が、検定による大幅な修正を受けたのち、世に送り出され
た。小林氏がこの教科書に込めた思いは何か。そして検定を逆手に取った〃次の
一手〃とは──。

歴史とは「物語」である
──「つくる会」版教科書がようやく検定を通過した。あなたはこの歴史教科書
の、どの部分を執筆したのか。
小林 話しちゃってもいいのかな?神話のところと大東亜戦争のあたりのような
気がするね(笑い)。わしは太平洋戦争はカッコでくくって、「大東亜戦争」に
してるんだけど。東大名誉教授で近現代史の権威でもある伊藤隆さんに、わしの
文章を〃検定〃してもらった。
──今回最も注目を集めた記述は特攻隊に関するくだり。「米軍の将兵はこれを
パニックに近いおそれを感じ、のちに尊敬の念すら抱いた」という記述は、特攻
隊を英雄視するものとして削除された。
小林 そう。その部分は大幅に修正された。
──あなたは、特攻隊員は、泣く泣く死んでいったのではなく、「私」より
「公」の感情を優先させ、自らすすんで死を選んだのだということを「遺書」を
紹介することで知らせようとした。
小林 わしは当初、沖縄で戦死した宮崎勝という19歳の特攻隊員が妹に残した
遺書を紹介していた。
〈ヤスコチャン、……マイニチクウシュウデコワイグロウ。ニイサンガカタキヲ
ウッテヤルカラデカイボカンニタイアタリスルヨ〉
というものだったが、これを本文に入れてはならないという。
──そして、検定に従った?
小林 コラムだともう少し自由な表現が許されているので、だったら遺書をコラ
ムの欄に入れてやろうと。なおかつもっと過激な遺書をもう一本入れてやれと考
えた(笑い)。
──もっと過激とは?
小林 緒方嚢という特攻隊員の遺書のこと。彼の過激さとは、徹底した「公」の
価値観で言葉を発していて、ものすごく勇ましいわけ。「死するともなほ死する
とも我が魂よ永久にとどまり御国まもらせ」というのもある。特攻隊員は死にた
くない、といった「私」的な思いだけではなく、国のために死んでやるという
「公」的な精神もあったんだということをここで強調できたわけよ。
──さらに「戦争に善悪はつけがたい」という記述も削除されている。
小林 これは一つの哲学の問題だから。戦争にはこっちが善玉、あっちが悪玉と
いった漫画みたいな話はないわけ。わしは歴史は物語でなければならないと思っ
ている。京都大学の中西輝政教授が新聞で、「歴史の本質はドラマ」なんだ、
「もっと劇的であるべきだ」と書いていたけど、わしはまさにそういう考えで執
筆した。たとえばアッツ島での玉砕シーンを当時の米兵の証言を参考にして、
「わずか2000名の日本軍守備隊が2万の米兵を相手に一歩も引かず、弾丸も
米も補給が途絶え、ついに残った300名ほどの負傷した兵がボロボロの服で足
を引きずりながら、日本刀を持っでゆっくりと米軍ににじり寄るようにして玉砕
していった」と描いた。本当にこんな光景だったし、光景が思い描けるような表
現をしないと、子どもたちは感じてくれないと思うんだな。ああ、祖父たちは本
当に戦って死んでいったんやねと。単に「玉砕」と書いてもわからないわけよ、
その悲惨さが。
──そこも修正させられた?
小林 させられた。事実関係だけに絞る形で修正させられた。
──そこまでヒロイックに書く必要はない、と。
小林 しかし、それじゃア、もう書けないよ、歴史は。わしらはこの教科書の冒
頭で「歴史を学ぶのは過去の事実を知ることだと考えている人がおそらく多いだ
ろう。しかし、必ずしもそうではない。歴史を学ぶのは、過去の事実について過
去の人がどう考えていたかを学ぶことなのである」と。時間軸に沿って事実をい
くら羅列しても、それは年代記であって、歴史ではない。事実と事実の間にある
ドラマなり解釈があって、初めて歴史を知ることができると思っている。今まで
の教科書に対して、わしがすごい不満だったところは「歴史事項」の羅列に過ぎ
なかったところなんよ。それを今回の教科書でうち破りたかった。その目的はか
なりの部分乗たせたと思っている。

「その記述は中国に失礼だ」
──今日まで「歴史事項」を羅列しただけの教科書ばかりだったのはなぜか。
小林 要するに国家を否定したいからなんよ。
端的な例を挙げよう。従来の教科書を読んで、日本という国がいつでき上がった
のか、日本という国号がいつできたのか、説明できる?誰も答えられないはずだ
よ。
──確かに答えられない。
小林 従来の教科書では全く書いていないか、良くて「日本という国号や天皇と
いう称号はこのころ正式に定められた」と、欄外に書いてあるだけ。これはおか
しい。日本という国ができ上がったのは、白村江の戦い(西暦663年)に敗れ
た後なわけよ。朝鮮半島の南西付近にある白村江での海戦で唐に敗れた日本は、
唐と新羅の連合軍が日本に攻めてくると危機感を高め、海岸線に防人を置くなど
して国防を固めるんよ。そういう危機的状況のなかから国家統合の意識が醸成さ
れ、日本という国号もでき上がってきた。わしらの教科書は白村江での2日間の
戦いで日本軍が大敗北したことを、「日本の軍船400隻は燃えあがり、天と海
を炎でまっ赤に焼いた」と描写して、以後、天皇号が成立し日本という国号がで
きるまでをきちんと書いてある。
──それなら、外圧という〃ヤスリ〃によって国家意識がみがかれ、国号が固
まっていく経緯がよくわかる。
小林 それをわかっているにもかかわらず従来の教科書は書こうとしない。なぜ
なら、日本という国家を否定したいという意識が働いているからなのよ。子ども
たちが、「なるほど、こうやって日本という国はでき上がってきたのか」と思っ
ては、日教組やマルクス主義の歴史学者たちは困るわけでしょう。
──物語化することのなかに偏向した歴史観がすり込まれる危険があるという批
判もある。
小林 物語として歴史事項を有機的に構成していくと、どうしても「天皇」とい
う存在が浮き彫りになってくる。「公地公民」という言葉は知っていても、それ
がいったい何だったのか、説明できない人がほとんどで しょう?「公地公民」と
は、豪族が所有していた土地や人民を取り上げて、国家が直接統治し、公平に土
地の再分配を行なったこと。それによって、天皇中心の中央集権国家ができ上
がっていったわけよ。
──そこで日本という国の体制が確立したと。
小林 左翼や日教組にとっては、日本の歴史での天皇の意義を隠したいわけ。実
は歴史事項を羅列するだけで、物語としての歴史事実を書いていないのは、今ま
での教科書の方だったわけね。
──検定に関してお聞きしたい。従来は暗に自主修正をほのめかす口頭による参
考意見、いわゆる〃つぶやき〃がまかり通っていたのに対して、今回からは「文
書による意見書以外は検定意見ではない」という透明性が徹底されたとか。
小林 確かに文書で「一面的である」とか「理解しがたい」とか書いてあったけ
ど、わしらの教科書に関してはなんでそんなに理不尽なことばかりいうの、とい
う「理解しがたい」感覚は強かったね。検定意見のトーンとしては、つまり中国
にとって歴史の頁の記述は絶対にいけない。対照的に、日本の悪いところはでき
るだけ書いてくれと。日本は何かもっと悪いことをしてるはずだろうと。
──82年に近隣諸国に配慮した教科書作りを約束した、「近隣諸国条項Lが
しっかり機能している。
小林 チベットに関する部分もしっかり変えられた。わしは「中国はチベットに
侵攻し、現在までに128万人のチベット人を虐殺した」と書いたんだけど、検
定で「中国はチベットに軍隊を進め、多数のチベット人が犠牲となった」と変更
されてしまった。
旧ソ連に関してもいまだに他の教科書はロシア革命を賛美して書くし、スターリ
ンの粛清でどれだけ死んだかは隠されたまま。日本に関しては南京で一般民衆を
虐殺したと書けというくせに、中国や旧ソ連に関しては、虐殺という言葉も、具
体的な犠牲者数も書くなど。そんなバカな話があるかって怒りを覚えるよね。

「菅直人はわしと対決しろ」
──まだ検定中だった前回のインタビュー(本誌3月23日号)の最後に、オフ
レコで「わしなりに作戦はあるんだが、今はまだ話せないんよ」といっていた
が。
小林 修正要求がいくら来ても、そう簡単には向こうのいわれるままにはならな
いぞ、100か所以上直したといっても転んでもただで起き上がっちゃいない。
さっき話した特攻隊の記述にしたって、わしなりの作戦はあったということ。結
果としてはわしなりの復讐も果たせたと思っているのよ(笑い)。
──次のステップは、いかにこの教科書を実際の教育現場で取り上げてもらうか
ということになる。合格した教科書は、公立学校では所管の教育委員会の、国・
私立学校については校長の権限で採用が決まる。採択決定の期限は8月15日だ
とか。
小林 その採択に関して、すでにわしらの教科書にいろいろな妨害の動きが出て
いる。教育委員の手元に集まってくる教科書は、中学歴史だけで8社、8種類も
あるし、その他にも国語から算数から何科目もあるから、全部を読んだうえで、
どれがふさわしいかを判断するのは難しい。そこで調査機関を設けて絞り込みを
やっちゃう。その調査委員に日教組系の教師が多く入り込む。こうした構造の中
で教科書が左傾化し、自虐史観が浸透していった。それを覆すのは大変だ。
──そこで、「つくる会」の次なる作戦は?
小林 教科書を市販する。しかし、文部科学者とか公正取引委員会とかが難色を
示している。でも何がなんでも市販するつもりでいる。ひとりでも多くの人に読
んでもらいたいからね。以前に発売した『国民の歴史』でさえ、あれほど厚い本
だったにもかかわらず70万部も売れた。今度はもっと売れる確信もある。
──この前テレビを観ていたら「つくる会」の教科書を支持するか、しないか世
論調査をやっていた。支持する人は20数%で、支持しない人は40数%だっ
た。わし、案外すげえなと思った。これだけ叩かれたにも関わらず20数%の確
信者がいるわけだからね。さらに支持しない人も内容を読んだわけではない。彼
らは「つくる会」の教科書への悪いイメージばっかりの報道を頼りにして判断し
ているだけ。絶対こちらの方が面白いとわかってもらえる自信はある。
──今回の教科書問題では、戦争を体駐した昭和ヒトケタ生まれの世代と、小林
さんたち40代との間での論戦が盛んだが、なぜか「団塊の世代」の人々は沈黙
したままだ。
小林 団塊の世代は、全く歴史を知らないんだ。学生時代に日常支配粉砕なんて
いいながら日本という国を否定しようとした時の左翼思想を引きずったまま、妥
協して社会に入ってしまっている。彼らは日本にとって何が大切か、何を守らな
ければいかんのか、そういうことを考えること自体に嫌悪感があるわけ。菅直人
(民主党幹事長)なんかもそのひとりだよ。菅はわしらの教科書を、「不況とか
日本人のあいだに蔓延している閉塞感を、アジアの人々への優越感をかき立てる
ことによって逸らそうとしている」という論旨で批判している。戦後民主主義を
相対化するほどの頭脳の柔軟性もなく、アジア諸国の民主化、近代化の差異も直
視せずにアジアの国々は全て横一列で平等ですよといってりゃリーダーシップを
取らなくてすむ。一度、一対一でわしと対決してみろといいたい。歴史教科書を
読み比べたこともないくせに、朝日新聞的偏見だけでぬけぬけと批判をする馬鹿
者めが。
──中国との関係でいえば、李登輝・台湾前総統の訪日問題で、あいも変わらず
日本政府は弱腰でいる。
小林 橋本龍太郎がテレビで、「中台の喧嘩を日本に持ち込むな」と語ってい
た。それで済むと思っているのが、今の日本の状況。心臓疾患の治療という人道
上の理由でごまかすんじゃなくて、むしろ李登輝を毅然と訪日させることによっ
て、中台双方の歩み寄りの機会を演出するぐらいの主体性がなきゃいかんとわし
は思う。日本人は、この国の集団的自衛権や、国家安全保障問題を見直す機会だ
と考えねぱならないんだ。
(インタビューは4月15日、都内のホテルで約2時間にわたって行なった)



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