★阿修羅♪エイズミステリー 第1章


献辞 謝辞 序文
第1章 「ゲイ」の癌という神話
第2章 ストレッカーとの出会い
第3章 癌ウィルス学者とその使命
第4章 動物実験者とエイズ
第5章 B型肝炎ワクチン試験(1978-1981年)
第6章 「ゲイの疫病」
第7章 アフリカとハイチのつながり
第8章 エイズの世界的蔓延
第9章 エイズの政治学
第10章 エイズをめぐる陰謀
第11章 エイズと世界の狂気
エピローグ 参考文献 解説(中川米造)



エイズ・ミステリー


第1章 「ゲイ」の癌という神話
 エイズ(後天性免疫不全症候群)という疫病が最初に現れ たときから、私は、この病気がアメリカなりその他の土地なりでどのようにし て生じたのか、その説明を試みている理論にたえず不満を抱いてきた。不満を 抱いた理由の一つは、人々がエイズの名を耳にするずっと以前から私が携わっ ていた、癌といわゆる「ゲイの癌」の研究で学んだことからきていた。
 1981年、カポジ肉腫は「ゲイの癌」として広く知られるようになった。 というのは、この病気がエイズにかかった男性同性愛者によくみられたからで ある。特徴のある赤紫色をした皮膚腫瘍が、たちまち新しい死病の主たるしる しの一つになった。この死病は不思議なことに、若い白人のゲイの男性に好ん でとりついた。
 カポジ肉腫をエイズに結びつけたパラドックスを理解している人はほとんど いなかったし、「ゲイ」の癌と、エイズと呼ばれるこの「新しい」病気とが結 びついたのは、科学的事実の混乱によるものであることに気づいた者もいなか った。
 実際のところ、カポジ肉腫は一世紀以上も前から知られている癌の一種なの である。発見されたのはオーストリアのウィーンで、1872年、発見者は有 名な皮膚科医のモーリッツ・カポジである。エイズが出現する以前は、「古典 的」なカポジ肉腫は珍しい種類の癌で、おもに東ヨーロッパと地中海地方に祖 先をもつ家系の人にみられた。それがいまから数十年前になって、カポジ肉腫 は中央アフリカではいたって一般的な癌であることがわかった。
 たいていの医師は、高い地位にある科学の「権威者」が発表する見解を、頭 から信用してしまいがちである。すでに確定している見解に異を唱えようとい う医師はまれだし、また、そうすることは職業上きわめて危険でもある。しか しながら、皮膚科医として、また癌研究者としての特異な経験から、私はエイ ズ「科学」のある側面に懐疑的にならざるをえなかった。その結果、エイズに 関する「公式」の教養と、私自身の科学上の信念とが対立することがしばしば 起こった。
 私は30年以上にわたり、非常に特殊なやり方で、ある種の癌とその他の免 疫病を研究してきた。そしてその間に、これらの病気の原因に、簡単に見るこ とのできる「癌細菌」がかかわっていることを実証して、自分なりに満足もし た。30以上の科学論文を書いて発表したが、そこには医師や科学界のために この重要な情報が盛りこんであった。
 私が最初に「癌微生物」のことを知ったのは、ヴァージニア・リヴィングス トン=ウィーラー博士をとおしてである。彼女と会ったのは1960年代の初 期であった。癌微生物学における彼女の膨大な研究と科学論文に接して、私自 身も、癌を誘発する可能性がある病原体として癌細菌の研究を始めたのだっ た。
 ヴァージニア博士とはじめて会ったときから、私は、やはり癌微生物の秘密 の解明に身を捧げている他の医師や科学者と会う光栄に浴してきた。それらの 人々のなかには、ニューヨーク市のエリナ・アレクザンダー=ジャクソンをは じめ、フィラデルフィアのアイリーン・ディラー、フロリダ州セントピーター スバーグのフロランス・サイバート、カンヌのジョルジュ・マゼらがいた。
 私はまた、ロイアル・ライフのようなほとんど名を知られていない癌学者の 存在を知った。彼は高倍率の顕微鏡を開発して、1930年代にすでに癌細菌 の存在を示してみせた人物でもある。「バイオン」──明らかに癌細菌と関係 しているエネルギー粒子──を発見したウィルヘルム・ライヒの癌研究のこと を知ったときには、心から驚かずにはいられなかった。さらにまた私は、癌細 菌が癌の原因であると信じていた、その他多くの無名の科学者たちのことも知 った。これら癌微生物学の先駆者のうち何人かについては、私自身の本『エイ ズ─謎と解明』("AIDS: The Mystery & TheSolution", 1984)の中で触れてい る。
 ライフやライヒのような科学者は、癌に関する革命的発見と治療法でもって 医学の権威機構に挑戦したために、大きな代償を払い、大いに苦しまねばなら なかった。
 ライフは癌治療の可能性がある方法を発見したために、政府の執拗な迫害に あい、アルコール中毒に追いこまれた。いっぽうライヒは連邦医薬品局(FDA) への協力を拒んだために、禁固刑の判決を受け、連邦刑務所で服役中に死亡し た。1957年の投獄に先立って、FDAの役人はライヒの実験用具を打 ち壊し、書類や雑誌をすべて燃やした。米国政府によるウィルヘルム・ライヒ の研究室の破壊行為は、ナチス・ドイツの行為と同じであった。それがアメリ カで起こったのである。
 非妥協的で「非正統的」な医師や科学者に対する政府の厳しい処遇は、正統 的なアメリカ医学の「現状」を維持するのを目的とする。癌の研究・治療とい った問題で政府の権威に盾突く者を、当局は断じて容赦しない。
 この問題を研究してきた者なら誰でもよく知っていることだが、FDAのよ うな連邦機関や製薬業界と緊密に結びついている医学の「権力機構」は、癌や エイズなどの容易ならぬ慢性病における「研究の躍進」と「治療法」の発見に 反対なのである。いろいろな公式筋によれば、現在、癌の治療にかかる直接コ ストは、年間総額600億ドルに達するという。エイズ患者一人にかかる医療 および入院加療のコストは、平均15万ドルである。このように巨額な利権が 絡んでいるのであれば、癌やエイズの研究の躍進が、アメリカにおける政府認 可の癌産業とエイズ産業を危険にさらすことになるというのも理解できなくは ない。
 エイズが知れわたる1981年より数年前から、私は、自分が経営する皮膚 科治療所の患者だった三人の老人の「古典的」カポジ肉腫を研究していた。研 究プロジェクトの一環として、特殊な染色を施した癌腫瘍の微小切片を入念に 調べ、癌細菌の存在を探したのだ。
 微生物学者のダン・ケルソの助けを借りて、カポジ肉腫で皮膚に生じた癌腫 瘍を培養し、細菌を探した。それから病理学者のジェリー・ローソンも加わっ て、1973年にカポジ肉腫で死亡した老人の事後の分析を行った。エイズが 出現する以前は、この種の癌で死亡する例はきわめてまれだった。だがこの男 性は、この珍しい病気で亡くなる前の二年間を、しだいに体を冒していく腫瘍 と日和見感染に苦しめられたのである。
 エイズが始まる前に行った「古典的」カポジ肉腫の原因究明の微生物研究に よって、私は三つの重要な点を確信するに至った。
 まず第一は、組織を特殊な方法で染色すれば、顕微鏡でカポジ肉腫に細菌を 観察できることがわかったこと。
 第二は、私がカポジ肉腫に観察した微生物は、以前に他の科学者たちが別の 種類の癌に発見した癌細菌に似ていること。
 第三は、私がカポジ肉腫に観察した微生物は、細菌の生態実験室で増殖・培 養できるということである。
 エイズが始まってすぐに私は、エイズにかかった同性愛者の皮膚に現れた 「ゲイ」のカポジ肉腫を調べた。彼らの組織切片を「抗酸性」の染料で染めて 顕微鏡で調べてみると、「古典的」カポジ肉腫にかかっていた三人のゲイでな い老人の皮膚腫瘍に観察したのと同じ細菌が見つかった。
 診療所で男性同性愛者がエイズで死亡したとき、私は彼らの死後の組織を調 べた。すると驚いたことに、エイズで損傷を受けた組織全体に癌細菌が広 がっている証拠が見つかったのである。
 この研究結果を、1981年から86年にかけて科学雑誌に発表した。七編 の医学論文すべてに、「古典的」カポジ肉腫と「ゲイ」のカポジ肉腫とエイズ の組織から培養した、癌細菌の写真をつけておいた。
 これらの驚くべき発見は、どれも評判の高い一流雑誌に発表されたのだが、 エイズの「専門家」からの論評はいっさいなかった。新しい疫病で容易ならぬ 事態に直面しているにもかかわらず、そして、エイズ研究に何百万ドルも費や しているにもかかわらず、エイズとカポジ肉腫と癌のいずれもに癌細菌が発見 されたことは、いまも無視されつづけているのである。これらの細菌が無視さ れている第一の理由は、疑いもなく、癌とエイズの原因は細菌ではないと、医 師たちが注意深く教えこまれてきたからだろう。
 エイズという疫病がはじめて発生したとき、政府の科学者たちは、エイズは 新しい感染性病原体が引き起こす新しい病気だという確信を抱 いた。いちばんの原因として考えられたのがウィルスである。彼ら は、ウィルスは小さくてふつうの光学顕微鏡では見ることができないのだから と、光学顕微鏡を覗こうともしなかった。また彼らは、カポジ肉腫のなかに細 菌を探そうともしなかった。カポジ肉腫をはじめとするいかなる種類の癌に も、癌細菌は存在しないと信じこんでいたのだ。
 エイズの専門家はみな、「新しい」ウィルスを追い求めていた。私として は、なぜ真新しいウィルスが一世紀以上も前から存在する癌の原因たりうるの か、不思議でならなかった。まったく道理にあわないことに思われた。
 1984年にエイズウィルスが「公式」に発表されると、科学者たちはこの 新しいウィルスがエイズの「唯一」の原因であると主張した。しかし、こ の新しいウィルスはカポジ肉腫の原因ではなかった。このウィルスがカポ ジ肉腫の原因でないのなら、どうしてエイズの「唯一」の原因たりうるのだろ う!私にはかいもく理解できなかった。それからまた私は、カポジ肉腫がたち まち「ゲイ」の癌として知れわたったその早さに驚いた。古くからある癌が、 なぜ突然に「ゲイ」の病気になったのだろうか?
 エイズの専門家はただちに国民に向かって、エイズは癌ではない(た とえ癌につながることはあるにしても)と断言した。しかし私は、そ れまでの研究によってこう確信していた──エイズは癌である!と。 そして、エイズが癌であることを科学者たちが国民に教えようとしないのは、 それまでたえず癌は伝染性の病気ではないと言い張ってきたからではないか、 と疑った。しかし国民は、この新しい「ゲイ」の癌は伝染性であると知らされ たのである!
 いずれにせよ同性愛者たちが、このとうていありえないはずのことが実際に ありうるのだということを、身をもって証明することになった。
 エイズウィルスが発見され、ウィルスの抗体を検出する血液検査法が考案さ れたあとは、この「新しい」ウィルスがエイズに関係していることは否定でき なくなった。次から次へと発表される論文はどれも、それが致死性の作用を及 ぼすことを立証していた。私も結局は、癌を誘発するこの新しい免疫抑制性の エイズウィルスが現実に存在することを認めるに至ったが、それにしてもエイ ズにはたんなるエイズウィルスで説明できない、何かそれ以上のものが確かに あった。
 エイズも癌も、最後に行きつくところは同じであった。私は、癌で死んだ患 者とエイズで死んだ患者の死体を調べた。両者のあいだに実質的な違いはまっ たくなかった。
 癌で死亡した患者に癌細菌を観察することができた。また、エイズで死亡し たゲイにも同じ細菌を見つけた。私がこれほどはっきりと観察したのに、この 微生物を研究しようという関心をほかの誰ももっていないらしいのは、信じが たいことであった。
 1984年にエイズウィルスが発見されると、さっそくウィルス学者は、こ の新しいウィルスの期限は中央アフリカに生息するアフリカミドリザルにあ る、という理論を立てはじめた。彼らの説は、サルのエイズウィルスが「種を 飛び越え」てアフリカの黒人に感染したというものである。そこからこの恐ろ しいウィルスはハイチへ渡ったらしい。アフリカとハイチで異性間の性的接触 によって広まったあと、ウィルスは突然マンハッタンのゲイたちのあいだに入 りこんだ。
 科学者たちはさらに次のように理論づける。旅行に出かけたニューヨークの ゲイたちが、ハイチの男性と肛門性交を行った際に、ウィルスをもらった。ハ イチでウィルスをもらったゲイたちが、それをアメリカに持ち帰った。いった ん性的に乱脈なニューヨークのゲイのあいだへ持ち込まれたウィルスは、そこ から血友病者、麻薬常用者、そしてさらに「一般」の人々のあいだへ広がっ た。
 私にしてみると、エイズ「科学」の多くが狂気の色に染まっているように思 われた。エイズウィルスの「輝かしい」発見にもかかわらず、そして、科学者 たちはこの病気について「非常に多く」を学んだと主張しているにもかかわら ず、実際のところ彼らはエイズについてほとんど何も知らなかったのである。 この「必ず死に至る病」(1987年までに二万人以上が死亡) がもたらした死者の数の急激な増大が、それを証明していた。
 私は癌微生物に関する知識があったので、エイズ専門家が躍起になってマス コミに売りこんでいる理論にずっと懐疑的だった。だがこの理論は、医師や科 学記者たちがこぞって受け売りしたために、たちまち事実として定着してしま った。
 センセーショナルなエイズの物語は、ジャーナリストにとって願ってもない 格好の題材であった。記者たちは、セックスによってうつる恐ろしい病原体 が、同性愛という罪深い世界、精液と男色と麻薬と乱交の世界に潜んでいると 書きたてた。
 医師でもあり癌研究者でもあった私は、「ゲイの癌」などというものは存在 もしなければ、ゲイの男性だけをねらうウィルスなども存在しないことを知っ ていた。皮膚科医だったので、それまで性病の原因になるさまざまな種類の感 染性微生物を研究してきていた。エイズが現れる前は、きわめて狭い範囲に限 定された特定の人々、たとえばマンハッタンの若い白人同性愛者だけを襲う感 染性病原体など、いっさい存在しなかった。
 このようなことが起こるなどありえないことだった。しかし、そのありえな いことが現実に起こったのである。
 エイズには答えのない疑問が数多くあり、それが大いに私を不安にさせた。
 なぜエイズは、もっぱらゲイの病気として始まったのだろうか?
 なぜエイズの専門家は、自分たちが扱っているのは癌という疫病だというこ とを認めようともしないのだろうか?
 なぜ科学者たちは、エイズとカポジ肉腫の微生物に注意を払おうとしないの だろうか?

 やがて私は、これらに疑問に対する恐るべき答えを発見することになった。

>>第2章 ストレッカーとの出会い

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