クラシック音楽 一口感想メモ フランツ・ペーター・シューベルト( Franz Peter Schubert 1797 - 1828) https://classic.wiki.fc2.com/wiki/シューベルトシューベルトは作品の完成度が高まってきた矢先にたった31歳で亡くなってしまった。 曲が長くて冗長さのある場合が多いこと、また同じ曲の中で楽章により出来不出来が激しいために、とっつきにくいところがある。 同年齢比較ではモーツァルトとベートーヴェンに匹敵するような大作曲家ではあると思うが、この2人と比較してしまうとややマニアックな扱いの作曲家である。 若い時にも傑作はあるが、30歳を過ぎてからの最晩年の傑作群はハズレなしの史上最高峰の作品ばかりであり、せめてあと数年長く生きてくれたらと残念に思わざるを得ない。 ロマン派に分類されているが、曲の構成はかっちりしており、ベートーヴェンと同時代であることから、聴き方としては古典派に近いと思う。 交響曲 交響曲第1番 ニ長調 1813 D82 2.5点 どの楽章も主題の部分は古典派音楽としてかなり魅力的で才能を感じるのに、そこからの発展がかなり単純なことしかできておらず、音楽が進むにつれて残念なことになる。 交響曲第2番 変ロ長調 1814-15 D125 2.5点 形式も内容も1番より上かもしれないが、ただの18世紀古典派からベートーベン的な世界に脱出を計り始めている代償か、旋律や音楽の魅力は少し落ちてる気がする。 交響曲第3番 ニ長調 1815 D200 2.0点 作曲技術は上がっているのが分かる。しかし、快活で聞きにくくはないものの、音楽的な内容は薄く、心に響かない。 交響曲第4番 ハ短調『悲劇的』 1816 D417 2.0点 成長してがっちりした風格が出てきたのの、冗長な感も強くなっていて残念。短調の曲としてベートーベンやモーツァルトよりはるかに劣る。 交響曲第5番 変ロ長調 1816 D485 2.5点 後半が少しモーツァルトやハイドンを思い出させる。2人の若い時期の作品レベルに近く、たいした作品ではない。最終楽章が少し魅力あり。 交響曲第6番 ハ長調 1817-18 D589 2.5点 ハ長調らしい堂々とした曲調。アンダンテは美しい。他の楽章は悪くないのに聞いた後に記憶に残らない。 交響曲第7番 ロ短調『未完成』 D759 5.5点 シューベルトの器楽曲の入門には間違いなくオススメ。1楽章のスマートな美しさ、歌心にあふれたフレーズ、2楽章の天国的な美しさ、絶妙なメロディーや転調といい、端的なシューベルトが楽しめる。未完成なので曲の長さがちょうどいい。完成していたら長くて聞くのが大変だったろう。 交響曲第8番 ハ長調『ザ・グレート』 1825-26 D944 3.0点
高く評価する人も多い曲だが、自分には若いときの交響曲よりははるかに充実していて、旋律の魅力はそれなりにある者の、長さに見合った内容や未完成交響曲のように魅力にあふれた曲とは思えない。 大作曲家の名交響曲群と同列とするのは過大評価だろう。 他の多くのシューベルトの曲は好きだが、この曲は苦手である。 協奏曲 ヴァイオリンと管弦楽のための小協奏曲 ニ長調 1816 D345 2.8点 ヴァイオリン協奏曲として華やかに書けていてなかなか優秀である。モーツァルト等の強い影響を感じる。しかし、それ以上のものは感じない。 ヴァイオリンと弦楽のためのロンド イ長調 1816 3.0点
爽やかな古典派音楽で、あまりシューベルトらしさが感じられない。独奏ヴァイオリンが大半の場面でずっと表で出ずっぱりである。音楽的な内容は割と大人っぽいため、本格的な曲だと感じられる。 ヴァイオリンと管弦楽のためのポロネーズ 変ロ長調 1817 D580 2.0点 優雅で心地よいがそれだけである。独奏とオケの絡みはいまいちであり、音楽はモーツァルト以前のような素朴さである。 弦楽四重奏曲
弦楽四重奏曲第1番 ハ短調/変ロ長調 1811 D18 3.3点 伴奏は初期らしいシンプルさではあるが、バランスがよいため悪くない。少なくともつまらなさは全然感じない。そして、旋律にシューベルトらしいしなやかな旋律の良さがあり、単なる古典的な均整の取れたムード音楽でなく、どの楽章も聴き応えが十分にある。期待していなかっただけに、出来の良さに驚いた。 弦楽四重奏曲第2番 ハ長調 1812 D32 3.3点 1楽章は運動的な曲で工夫の意志を感じるが、成功とは思えない。2楽章は泣きのシューベルト節を全面に出した歌曲のような曲で、印象的で素晴らしい。3楽章は割と良い。4楽章はシューベルトの通例のように、頑張ってはいるがパンチが弱い。 弦楽四重奏曲第3番 変ロ長調 1813 D36 3.5点 1番2番よりずっと巨大な曲。ベートーヴェン的な構築性と強靭で壮健な力強さを全面に出した曲。巨匠的な響きに満ちており、非常に頑張っている。そして、その努力はほぼ完全に成功していると思う。若さゆえの複雑さの不足はあり、名曲の域には達することが出来ていないにせよ、この巨匠性は天才しか出せないものであり、見事な作品である。 弦楽四重奏曲第4番 ハ短調 1813 D46 3.3点 音に緊密な緊張感があり、高貴さがあるという巨匠性は3番同様に現れている。しかし、短調の響き方の問題からか、伴奏の単純さなどの若書きの欠点がやや気になってしまった。最終楽章がうまく高揚感を持たせられており、優れているのは良いところ。 弦楽四重奏曲第5番 変ロ長調 1813 D68 3.3点 1楽章は跳ねるようなリズムに極端に支配された曲であり珍しい。実験的と言ってよいほどである。2楽章はいきなり終楽章であり、極端ではないもののやはりリズムが重要である。シューベルトにしては高揚感に優れた2楽章がなかなか良いため、聴後感がよい。 弦楽四重奏曲第6番 ニ長調 1813 D74 3.5点 柔らかい歌謡性が主要な雰囲気を作っている曲。歌謡的な才能の豊かさには舌を巻く。ものすごい名作というにはまだ素朴すぎる感じはするものの、かなり素敵な曲として聞き入ってしまう。魅力の点では後年の作品に匹敵するかもしれない。素朴だが素直に自分の強みを活かしている。 弦楽四重奏曲第7番 ニ長調 1811 D94 3.5点 2楽章がとても美しいメロディー。これだけでも聴く価値がある。その他にも、冒頭でいきなり短調になるなど工夫が感じられる1楽章はなかなか面白いし、3楽章や.4楽章は普通の曲であるが、曲全体の価値を落とさない程度にはよく出来ている。ビアノよりも弦楽の方にシューベルトの適性があると感じさせられる。 弦楽四重奏断章 ハ短調 1814 未完 D103 3.5点 ハ短調の荘重で本格的で悲劇的な曲として、予想外の出来で驚いた。かなりの聴き応えであり、こういう曲も若い時から書けたのかと驚いた。音の密度はいまいちだが音感がよい。 弦楽四重奏曲第8番 変ロ長調 1814 Op.168 D112 3.3点 同じ時期の曲と比較して、かなり複雑で大人びた曲である。優美であるが古典的すぎる作風からの脱却を計っているように思える。その過渡的な作品であるがゆえに、魅力でいえば一歩引いたものになっているというのが率直な感想である。頑張っている感が出てしまっているし、複雑でよくわからない。曲がすんなり理解できない。ベートーヴェンの影響かなと思う箇所はある。とはいえ、天才的な作曲センスは相変わらず楽しめる。 弦楽四重奏曲第9番 ト短調 1815 D173 3.5点 1楽章は、真剣な短調曲であり、まだ内容の緊密さはないにしても、そこそこの満足は得られる。2楽章は短調の曲らしい、愛おしさにあふれた緩徐楽章であり、シンプルではあるがロマンチックであり、あのモーツァルトの短調の曲にかなり近い世界を構築できていると思う。3楽章や4楽章も簡素な書法ながら心に迫るものがあり十分に全体のバランスを取った曲になっている。 弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 1813 D87 3.3点 優雅な曲から大人の曲に脱皮しようと背伸びしているのが、いかにも伝わってくる曲。ぎこなちさを感じてしまう。ベートーヴェン的な立派な堅さを少し帯びている。時にモーツァルト的な優美なセンスも見せている。やはり発展途上を楽しむ曲と思った方がよいと思う。 弦楽四重奏曲第11番 ホ長調 1816 D353 3.5点 まだ19世紀に書かれただけあって、古典的な均整が非常にしっかりと取れている作品である。20分とシューベルトにしては短くて、全ての楽章において緩みがない。個性が強くみられるわけではないが、ハイドンやモーツァルトにも匹敵するような古典派弦楽四重奏に聞こえた。古典的な完成度が高く、書法は密度が高くなっている。音に自分らしさを確立してきた自信を感じる。 弦楽四重奏曲第12番 ハ短調『四重奏断章』 1820 D703 3.5点 順番に聞くと、急に立派な作品になって驚く。ベートーヴェンにもひけを取らなと言ってもいいくらいに、重厚で規模が大きく、力の篭った力作である。強く訴える力を音楽に与えているのが印象的だ。場面のコントラストが強く、少し聞き疲れする感じもある。管弦楽的な響きの充実がある。後期の偉大さを見せた作品の一つであり、未完成なのが残念だ。 弦楽四重奏曲第13番 イ短調『ロザムンデ』 1824 D804 3.8点 音の濃密さ、ロマンチックな情緒と陰影の深さ、音のなめらかなつなぎなど、前作までとは大きく異なり、別の作曲家かと思うほどの成長を見せている。 このようなメロディーを楽しませる正統派の弦楽四重奏曲は少ないため、重宝されているのはよくわかる。弦楽四重奏曲への作曲者の個性の適性の良さは相変わらずである。メロディーと音と情緒の濃密さに心を委ねて聴くとあっという間に時間が過ぎていく。聴き方がベートーヴェン以前とは全然違う曲である。 弦楽四重奏曲第14番 ニ短調『死と乙女』 1824 D810 3.8点 全部の楽章が短調であり、全体としてはかなり暗澹とした気分にさせられる曲である。もちろん部分では多くの救いがあり、美しさにはっとする場面は多い。1楽章は特に立派であり、多くの素材を使っており幅広い世界を表現しており、交響的な充実感がある。13番で主役だったシューベルトらしい甘いロマンはここでは脇役であるベートーヴェン的な厳しさをもうすこしロマン派に近い情緒表現で使っているイメージだ。もちろんシューベルトらしい柔らかさと歌謡性は残っており、むしろこの曲独自のそのバランスが魅力になっている。個別部分の表現の濃厚さはすごい。2楽章の変奏曲の魅力は特に心惹かれる。 弦楽四重奏曲第15番 ト長調 1826 D887 3.8点 急な転調などで陰影を与えて心を撃つことで晩年のシューベルトらしい感動を与える。しかし多用されるトレモロが煽る不安定さは心にせまる。しかしたまにみせる管弦楽的な響きについては、効果的かというと個人的には疑問符がつく。副題付きの2曲と比較すると、わかりやすさや親しみやすさで一歩譲る。密度や内容でいえば一歩もひけをとらない作品である。晩年らしい達観の世界が、ここでは珍しく鬼気迫るような迫力に達しているのが良い。 その他の室内楽曲 ヴァイオリンソナタ(ソナチネ)第1番 ニ長調 1816 D384 3.5点 一見爽やかなだけの工夫のなく繰り返しが多い古典派音楽のようだが、もう一度聴きたいと思わせる魅力がある。リートの名手だけに純度の高い歌心がうまく込められており、ヴァイオリンソナタは相性の良い形式のようだ。 ヴァイオリンソナタ(ソナチネ)第2番 イ短調 1816 D385 2.8点 1番と違い音楽の密度が薄く、早く次に進まないかと思ってしまう場面が多い。美的なセンスは優れており、特に1楽章で短調の美しさを楽しめるものの、冗長すぎるのが残念。 ヴァイオリンソナタ(ソナチネ)第3番 ト短調 1816 D408 3.0点 シューベルトの仲では珍しいほどモーツァルトを感じる場面が多いのが特徴。古典的なオーソドックスな曲であり、プラスアルファはあまりないが、あまり冗長でないのは良い。 アダージョとロンド・コンチェルタンテ ヘ長調 1816 D487 3.5点 室内楽だが協奏曲のように書かれており、明るく華やかで楽しい曲。ピアノ協奏曲にもシューベルトの才能があった事が分かるだけに、もう少し長生きして本格的な協奏曲を残して欲しかったと思う。効果的な序奏と本編のロンドと両方良い。 ヴァイオリンソナタ(第4番) イ長調 1817 D574 3.0点 前の3作品はソナチネであり本作はソナタとされている通り、楽曲の規模も内容的なスケールも大きくなった。1年の成長もあるのか、より成熟感もある。名曲に分類できる内容ではないものの、作曲者の意欲を感じられるので印象は悪くない。 弦楽三重奏曲第2番 変ロ長調 1817 D581 2.8点 伴奏とメロディーが完全に分離してしまっており、うまく絡んでいない感じの箇所が多いのが残念。そういう箇所は息長くメロディーを歌い継がせる能力で間を持たせている印象がある。うまく書かれている箇所も所々にある。つまらない曲ではないが今一歩。 ピアノ五重奏曲 イ長調『鱒』 1819 D667 4.0点 若々しくてすがすがしくて、平明な音楽は非常に心地よくて気持ちよい。晩年のような深みはないものの、音楽的な充実度ではひけをとらないと思う。ユニゾンを中心とした軽いピアノが、コントラバスまで入った厚めの弦楽とバランスがよい。また、ヴァイオリンが2台ないため、ピアノ四重奏曲のバランスにも近くて、弦楽が分厚すぎないのもよい。難しく考えないで楽しめる娯楽作品として優秀だと思う。 『萎れた花』の主題による序奏と変奏曲 ホ短調 1824 D802 3.5点 フルートとピアノ。フルートの音色の美しさを生かした主題と変奏曲。長大だが、主題が良いので、美しさに浸る事が出来るのでゆったりと楽しむ事が出来る。シューベルトの歌心とフルートの相性が良く、秀逸な曲だと思った。 八重奏曲 ヘ長調 1824 D803 4.0点 編成の大きさも楽曲の規模も大きいが交響曲というよりセレナードに近い。明るくて柔らかく、巨匠的な質の響きに満たされている。1時間は長いが、集中して聴くというより軽い気分でゆったり聴く娯楽曲なのでしんどいものではない。シューベルトが力を入れて書いた曲と思われ、音に充実感がありメロディーやニュアンスが豊富な傑作である。これだけ心地よい曲は滅多になく、また聴きたくなる。 アルペジオーネ・ソナタ イ短調 1824 D821 3.8点 有名曲であるが、暗い曲であり、個人的にはあまり好んでは聴きたい気分と過去には思っていた。シューベルトらしい歌心が全体を覆っていて隙がなく、中身の詰まった聞き応えのある曲である。短調ではない場面も実は多いのだが、精神的な暗さや生への憧憬を色濃く感じさせる場面が非常に多い。しかし、アルペジオーネを使った演奏だとチェロほどしつこさがないため、もう少し軽い気分で聴くことができる。シューベルトの熟練した本格的な二重奏曲がこれだけになったのは非常に勿体無いと思う。 華麗なるロンド ロ短調 1826 D895 2.8点 ヴァイオリンとピアノ。悪い曲では無いかと思うが、特段優れている所もなく、シューベルトならいつでも書けそうな曲なので、15分は少し長すぎる。長大な序奏あり。最後はのエネルギッシュに締めるので聴後感は悪くない。 ピアノ三重奏曲 変ホ長調『ノットゥルノ』 1827/28 D897 4.0点 一聴して素敵と感じる独特の歌心に満ちた美しいメロディーの変奏曲。単品のピアノ三重奏曲。いい夢を見ながらすやすやと眠る子供のよう。おとぎ話のような温かくて幻想的な曲。 ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調 1828? D898 4.0点 晩年の成熟してワンランク上がった実力が発揮されている。曲の素晴らしさのわりに、知名度が低い気がする。寂寥感を常に持ちながらも、美の結晶のようなあまりにも美しいメロディーが連綿と続く。音のバランスや楽曲の活躍のさせかたが良く、ピアノ三重奏曲としての書法が優れていると思う。全く曲の長さが気にならず、むしろもっとずっと聴いていたいと思わせる。特に1楽章と2楽章は泣きそうになるほど感動的であり、密度が濃くて素晴らしい。3楽章と4楽章は比較すると軽いが、十分な聞き応えを持っている。 ピアノ三重奏曲第2番 変ホ長調 1827 D929 3.8点 1番ほどの神がかった素晴らしい感動は感じないが、壮健な精神と、堂々とした内容は素晴らしい。晩年に達した大作曲家らしい充実感のある筆致を見事に発揮している。長さも気にならない。爽快で力強い曲調だが、当然裏にはシューベルトらしい歌心も込められていて、陰影もある。ピアノ三重奏曲はメロディーを中心として、線をつなげて作られるシューベルトの音楽に合っているようだ。 幻想曲 ハ長調 1827 D934 2.5点 あまり聴き応えがある曲という印象がなかった。メロディーにインパクトがなく、編曲もいまいちであり、22分が長く感じた。ただし、冒頭の序奏はロマン派的な内容でありシューベルトにしては大胆で目新しい。 弦楽五重奏曲 ハ長調 1828 D956 3.8点 最晩年らしい充実感と、見通せないような深遠への扉を開けている曲。チェロが2本であるおかげで、低音のずっしりした重さが芯となり、弦楽四重奏の曖昧模糊とした雰囲気を避けている。空間的な広がりにも貢献している。この曲は巨匠的な充実感であり、かなり多くの素材を盛り込んで、長い曲であるにも関わらず飽きさせない。構成も良い。陰鬱さが少なく、大人になって前向きに人生を生きようとする、吹っ切れたものがあるのに感動する。 ピアノソナタ ピアノソナタ第1番 ホ長調 1815 D157 3.0点 一、三楽章は若書きらしいありきたりさだが、二楽章がシューベルトらしい歌心が見事に込められていて素晴らしい。驚いた。 ピアノソナタ第2番 ハ長調 1815 D279 2.5点 緩叙楽章が一番よくて、スケルツォも割とよいが、いずれも一番ほどは光らない。 ピアノソナタ第3番 ホ長調 1817 D459 2.5点 5楽章の力作。全体的には音の充実感など二番までより大分進歩してる。いい曲といえるほどの楽章は無いが、どの楽章もなかなか美しい。 ピアノソナタ第4番 イ短調 1817 D537 3.0点 割としっかりと書かれていて大作曲家らしい風格が垣間見れる。短調だがあっさりしていて、心地よく楽しんで聴ける。 ピアノソナタ第5番 変イ長調 1817 D557 2.5点 未完成とされているが三楽章が最終楽章のような雰囲気を持っているので、知らずに聴けばあまり大きな違和感はない。出来はまあまあ。 ピアノソナタ第6番 ホ短調 1817 D566 3.0点 1楽章は所々美しい場面が出てくる。歌うような二楽章も魅力的。 ピアノソナタ第7番 変ホ長調 1817 D568 3.5点 完成作であり自分で出版した曲。3番から9番までの同年に書かれた作品の中でも特に非常に美しい歌心に満ちていて聞き応えがある。歌に身を任せてゆったり聴ける。 ピアノソナタ第8番 嬰ヘ短調 1817 D571 3.0点 1楽章だけ完成。特に第2主題以降が美しい。どこか寂寥感がある。自分の聞いた演奏のせいだろうか。 ピアノソナタ第9番 ロ長調 1817 D575 3.0点 ロ長調は珍しいので新鮮に感じる。力強さと明朗さがある。 ピアノソナタ第10番 ハ長調 D613 断片だけしか残ってないそうで全集にも未収録。 ピアノソナタ第11番 ヘ短調 1818 D625 3.0点 三楽章冒頭のユニゾンや一楽章の第2主題後のキラキラした部分などピアニスティックな箇所が印象的。 ピアノソナタ第12番 嬰ハ短調 1819 D655 未完成のため全集に収録なし ピアノソナタ第13番 イ長調 1819 D664 3.5点 優美で温かみや優しさがある素敵な名曲。一楽章が非常に印象的で二楽章もかなりいい。楽章が3つでコンパクトなのもいい所である。しかし、14番以降の独自の魅力はまだなく、若書きの作品という印象は支配する。 ピアノソナタ第14番 イ短調 1823 D784 3.8点 最初は軽視していたが、よく聴くとこの曲はこれ以降にないほどの濃厚なロマンに満ちた強烈な魅力を持っている作品である。1楽章のムソグルスキーの展覧会の絵のような目新しさが耳を引く重々しさと、第2主題のショパン以降でも滅多に聞けないようなロマン的情緒が濃厚な旋律はいずれも素晴らしい。何度もなんども聞きたくなる。2楽章は平凡な旋律のようで、実は魅力がある。3楽章はふわふわと中空を彷徨うような冒頭の独特のパッセージと、ロマンでかつ落ち着いた情緒的な旋律が素晴らしい。 ピアノソナタ第15番 ハ長調『レリーク』 1825 D840 3.5点 あてもなく精神の赴くままに彷徨うような構成感の薄い音楽である。1楽章も2楽章も穏やかであるため、交響曲の未完成ほどに2つの楽章だけで十分完結している感じはない。未完結のソナタだなと感じる。とは言え、1楽章のしなやかで繊細さにゆっくりと流れに心を浸せる巨大さは良いし、それより2楽章はかなり美しい傑作の楽章であるため、心を捉えるような音楽の魅力がかなりある。 ピアノソナタ第16番 イ短調 1825 D845 3.5点 1楽章は最初は良さが分からなかったが、15番を少し密度を上げたが同系統の音楽と思ってゆったりと心を浸すように聞けば良いと気づいたら魅力的に感じるようになった。二楽章は美しい変奏曲で素晴らしい。三楽章は印象が薄い。四楽章はピアノ的な音楽でシューベルトのアレグロにしてはなかなかの盛り上げ方である。 ピアノソナタ第17番 ニ長調 1825 D850 3.5点 一楽章はあてのない感じがありつつも非常に快活な曲。二楽章はとりとめのない感じの中に、しつこいほどにじっくりと情緒的な曲である。三楽章は突然にベートーヴェンぽい曲。四楽章は大作の最終楽章の威厳が皆無なチャーミングな曲ではあるが、悲しみ喜び多くの感情が混ざるため重くはないが感慨を感じる印象的な作品である。ガチャガチャとしてまとまりはないが、ある意味で強いロマン的主張を持つ楽章が並んでいる曲。 ピアノソナタ第18番 ト長調『幻想』 1826 D894 3.8点 全体に穏やかで幻想的な雰囲気が支配的である。美しい幻想性のおかげで、他のソナタとは違う大きなワンアンドオンリーな存在感がある。特に1楽章はタイトルの元になった楽章であり、幻想性をたっぷり楽しめる。またこれは全楽章のバランスが良いソナタの一つであり、最後まで各楽章の個性を楽しめる。出版社が勝手にタイトルをつけて出版したソナタとのことだが、確かにソナタ形式でありながらも組曲的な楽しさがある曲である。 ピアノソナタ第19番 ハ短調 1828 D958 3.3点 この曲は個人的には、前後の大作群と比較すると、あまり魅力を感じていない。短調と長調が交錯する長大な曲は立派ではあるけれど、驚くべき傑作群の中では「これは」という名作と言える楽章がないと思う。 ピアノソナタ第20番 イ長調 1828 D959 4.5点 全ての楽章が均等な存在感を持っており、壮大なスケール感を持っている曲である。そして、英雄的な力強さや2楽章に代表されるような感情の起伏の激しさを持っている。全曲通しての素晴らしさでは21番以上のピアノソナタかもしれない。特に終楽章のイ長調らしい明るく伸びやかな主題を高揚感を保ちながら聞かせる音楽が大変素晴らしい。 ピアノソナタ第21番 変ロ長調 1828 D960 4.0点 最後のピアノソナタ。前半二楽章の特別感は素晴らしい。平安な心の中に感動と追憶をはらみ、未来を夢見て、現実に追い立てられるような感じで深い精神性。後半二楽章は音楽としてよくまとまっているが特別感が足りておらず、前半2楽章の深さを受け止めきれていない。特に4楽章がもう少し重量級の作品であってくれれば、最高級のピアノ音楽としての手放しで賞賛できるものになっていたと考えている。全体的に薄暗い中を長く細い道筋をたどって終わりまでたどり着くように聴く曲である。 その他のピアノ曲(連弾含む) 2つのスケルツォ 1817 D593 1曲目 3.5点 ちょっとしたお宝発見を感じた優れた小品。主題も挿入部分も魅力的で、聴き入ってしまう。 2曲目 3.0点 スケルツォにしては優雅である。どの部分もセンスはあって感心するのだが強い印象には残らない。 3つの英雄的行進曲 1818-24 4手 D602 ピアノ小品 イ長調 1816-17 D604 3.0点 ロマンチックさを秘めており、はっきりしない密やか感情がふわふわと揺らぐような小品。 行進曲 ホ長調 1818? D606 ロンド ニ長調 1818 D608 3.3点 ロンドの主題にシューベルトらしい柔らかくて夢のような美しい魅力があるので楽しめる曲。 アダージョ ホ長調 1818 D612 2.5点 センチメンタルな曲盛り上がった想いを即興演奏したものをそのまま書き留めたような曲。巨匠らしさは感じない。 大ソナタ 変ロ長調 1818 4手pf D617 3.5点 明快で陰がない曲。シューベルトらしい純度の高さと透明感と優しい手触りを単純に楽しんで聴ける。冗長でなく、割と引き締まった内容である所も良い。 幻想曲 ハ長調 『さすらい人』 1822 D760 4.0点 4楽章がつながっていて20分。リスト的な外面的な華やかさを持つシューベルトには珍しい作品。英雄的で勇壮で力強く、ピアノは技巧的であり聴いていて楽しい。精神的にも自由で広々とした精神的世界を旅するような趣がある。形式の自由さとテクニック的な楽しさを存分に聞かせる音楽として、リストに大きな影響を与えていると感じる。そして音使いのセンスに優れているだけあって、エンターテイメント的にかなり楽しめる音楽となっている。 楽興の時 1823-28 D780 4.0点 シューベルトの良さがよく現れている6曲の曲集。簡潔な書法の中に、静けさと歌心、メロディーの柔らかく儚い美しさが現れていて魅力的である。最後の締めが良いため、全曲を聴くと実にいいものを聴いたと満足感を得られる。とは言え書法の簡潔ゆえの物足りなさもなくはない。 ソナタ ハ長調『大二重奏曲』 4手 1824 D812 3点 シューベルトらしい曲。完成度はなかなかで大規模。 しかし、特記するべき特徴は感じなかった。 幻想曲ヘ短調 4手 1828 D940 4.5点 切なく奥ゆかしい悲しみに満ちた主題が大変に魅力的である。純粋なる美を湛えたその主題を何度も繰り返しながら、魅力たっぷりに場面展開していく。主題が何度も再現するたびに胸が締め付けられそうになる。主題以外も、全ての場面が音楽的な密度の高さを持っており、聴くものの心を強く捉えて離さないような歌心に満ちていて隙がないことから、シューベルトのピアノ音楽の中でも最も魅力的な曲の一つであることは間違いない。連弾曲ということで聴くのを避けては絶対にいけない曲である。 3つのピアノ曲 1828 D946 3.8点 1曲目と2曲目は、晩年らしい充実感であり、諦観や歌心などシューベルトらしい素晴らしさにあふれている佳曲。ただし、少し長いので曲を把握しにくいところがある。3曲目は早いテンポでソナタの最終楽章のような曲想であり、やはりシューベルトの最終楽章がとってつけたようで面白くないという弱点はそのままこの曲にも当てはまる。 アレグロ イ短調『人生の嵐』 4手 1828 D947 4つの即興曲 1827 D899 第1曲 4.5点 ハ短調の悲劇的な主題による変奏曲。はかなく切なく美しい心に強く訴える主題が、変奏しながら何度も切なく繰り返し演奏される事で深く心をえぐられる。短調と長調の交代が絶妙であることが、大変な効果を発揮している。 第2曲 4.0点 主題はショパン的な華麗さと軽やかさを持っている。挿入部分が対照的な短調の悲しい歌であり、絶妙な効果を挙げているため、全体にまとまりが良く演奏効果が高い曲になっている。 第3曲 4.0点 軽やかながらもしっとりとした歌心に満ちた曲。特に対比される部分による変化が無いのため間奏曲のような雰囲気ではあるのだが、そんなことは関係なく、メロディーも伴奏も完璧に美しく素晴らしく、強く心に感動を与える。 第4曲 4.0点 2曲目と同様のショパン的な軽やかなパッセージによる主題が魅力。中間は暗い旋律的な場面で強い対比を与えている。中間部分はわりと長いため、一度没入してしまった所で軽やかな冒頭に戻る。 4つの即興曲 1827 D935
曲集全体 4.0点 全体で一つの巨大なソナタのような構築性がある曲集。全体を通しでし聴くと素晴らしい大作であるが、個々の曲の良さはD899に負けると思う。 第1曲 3.5点 優雅でおおらかで幻想的。広大な空間の大きさを持っていて、心をあちこちに連れて行ってくれる。4曲セットのこの曲集の開始として素晴らしい雰囲気を作っている。印象的なメロディーではないので単独での名曲性は高くないが、大規模な曲の冒頭曲として優れている。 第2曲 3.8点 1曲目と違い、歌謡性のある曲で聞きやすい。優雅さとメヌエットのような舞曲性と重厚性を兼ね備えており、優れた曲。 第3曲 4.0点 儚く美しいメロディーを味わい尽くせる変奏曲。サロン的な上品な聴きやすさが優勢だが、シューベルトらしい陰もあり深みもある素晴らしい曲。 第4曲 3.3点 跳ねるようなリズムに民族的な味がある。豊富な時間を使って即興的な驚きのある展開を見せる面白さ、主題の面白さで楽しめる作品。とはいえ、最終楽章の苦手は払拭しきれていない印象はどうしても残ってしまった。 歌曲 歌曲集「美しき水車小屋の娘」(20曲) D795, Op.25 (1823) 4.3点 冬の旅と比較すると、心を揺さぶるような深い曲は少ないが、明朗で生き生きとして、青春の輝きに満ちているとともに、話のストーリーがあるのが特徴。最後の2曲の文学的な美しい締めくくり方は最高である。冬の旅と比較して曲の出来が平均的であり、ものすごい名作は少ないが、ほとんどの曲が最後まで聴きたくなる。リート作者としてのピアノと歌唱による表出力の才能の高さには脱帽するしかなく、まさに天才である。10曲目が好き。最後の20曲目は最高であり、感動で胸がいっぱいになる。 歌曲集「冬の旅」(24曲) D911, Op.89 (1827) 4.5点 1曲目から哀しい叙情の素晴らしさに心を奪われる。暗くしんみりした曲が多い。しかし鬱屈せずに輝きと静寂のなかにドラマを持っている。ピアノの表情の豊かさと詩情、次から次へと現れるシューベルトの天才的なメロディーは凄みがある。曲のつながりがよいし、短い曲も多いので聴きやすい。正直全てが名曲という訳ではないと思う。自分がリートに慣れていないせいかもしれないが、途中で次の曲に行きたくなる曲も3分の1位ある。しかし、強く心を揺さぶり、最後まで聞きほれてしまう曲も3分の1位ある。シューベルトの才能が最も端的に結晶している傑作であり、器楽曲が好きになったらぜひ聴いてみるべきと思う。 歌曲集「白鳥の歌」(14曲) D957,965A (1828) 3.8点 前半7曲は無名の詩人の詩によるもの。有名な4曲目のセレナーデこそ素晴らしいが、その他はあまり良いと感じない。後半は6曲がハイネ。非常に劇的で大胆なのに驚く。ロマン派的な世界により近づいており、凄みがある。かなり暗い。最後の一曲はまた無名の詩人による曲で毛色が違い、明るくて天真爛漫であり、ハイネでどんよりした気分を癒やして明るくしてくれる。この曲はシューベルトの絶筆だそうだが、非常に感動的で、この曲集で一番好き。本人が歌曲集として編纂したわけではなく、一つの連作歌曲と呼ぶにはまとまりが無いと思う。 https://classic.wiki.fc2.com/wiki/シューベルト
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