http://www.asyura2.com/18/hasan129/msg/366.html
Tweet |
(回答先: 「外国人に仕事を奪われる」は本当か アメリカの雇用を奪う男たち 儲かるのは誰かAIが予測 人口減少社会はレジリエンス 投稿者 うまき 日時 2018 年 11 月 09 日 16:39:57)
シャイロックにだってそりゃ無理だ
小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明
2018年11月9日(金)
小田嶋 隆
移民をめぐる議論が沸騰している。
話をはじめる前に、まず「移民」という言葉の定義をはっきりさせておかないといけない。
というのも、「移民」という言葉の周辺には「難民」や「外国人労働者」や「技能実習生」、さらには「不法滞留外国人」や「留学生」や「在日外国人」といった少しずつ違う立場の人々がいるからでもあれば、「移民」をめぐる議論が、それら周辺にいる人々を同一視する粗雑な論争に発展しがちなものでもあるからだ。
無用の混乱を避けるためには、とにかく「移民」という言葉が指し示す人間の範囲を、できる限り明示しておく必要がある。
「移民」は「国際連合広報センター」が説明しているところによれば、
《国際移民の正式な法的定義はありませんが、多くの専門家は、移住の理由や法的地位に関係なく、定住国を変更した人々を国際移民とみなすことに同意しています。3カ月から12カ月間の移動を短期的または一時的移住、1年以上にわたる居住国の変更を長期的または恒久移住と呼んで区別するのが一般的です。
−−国連経済社会局》
ということになっている。
これに対して、「難民」は
《難民とは、迫害のおそれ、紛争、暴力の蔓延など、公共の秩序を著しく混乱させることによって、国際的な保護の必要性を生じさせる状況を理由に、出身国を逃れた人々を指します。難民の定義は1951年難民条約や地域的難民協定、さらには国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)規程でも定められています。
−−国連難民高等弁務官事務所》
と説明される(こちら)。
もっとも、国連のこのページの解説が冒頭で自ら「国際移民の正式な法的定義はありませんが」と断り書きしている通り、「移民」という用語について、国際的に明確な定義が共有されているわけではない。
ということはつまり、「移民」のつもりで入国した人間が、行きずりの異邦人として冷遇されたり、逆に一時滞在のつもりで入国した外国人がその国の人間に「移民」として敵視されることも起こり得るわけで、結局、この言葉は、それぞれの国なり地域の人間たちが抱いている「余所者」への偏見や期待を体現した、どこまでも中途半端で、曖昧な言葉なのかもしれない。
さて、2016年(平成28年)5月24日、自民党政務調査会の労働力確保に関する特命委員会がとりまとめた報告書「『共生の時代』に向けた労働者受入れの基本的考え方」の注記の中で、「移民」を次のように定義している。
《「移民」とは、入国の時点でいわゆる永住権を有する者であり、就労目的の 在留資格による受入れは「移民」には当たらない。》(こちら、リンク先はPDF)
自民党および政府の解釈では、一般的な技能実習生や外国人就労者は、「移民」ではないことになる。さらに言えば、日本国内で何年働いていようが、納税をしていようが、入国の時点であらかじめ永住権を持っていないのであれば、日本政府としては彼らを「移民」には分類しないということでもある。
してみると、コンビニで働いている留学生や日本のプロ野球で活躍している外国人選手はもちろん、日本企業に正式に就職して10年以上働いて家族を呼び寄せて子供たちを日本の学校に通わせている外国人であっても、この定義上は「移民」に数えられないわけだ。
10月のはじめの国会審議の中で、
「安倍政権は、いわゆる移民政策を取ることは考えていない」
と言った安倍晋三首相の答弁は、この時の「移民」の定義から導き出された言葉であったはずだ。
政府は、人手不足解消のために、今後、出入国管理法(入管法)を改正して、外国人労働者の受け入れ枠を増やすつもりでいる。しかしながら、その外国人労働者拡大政策を「移民政策」として扱われることに対しては、断じて抵抗するということなのだろう(こちら)。
一方において「移民」の定義のハードルを上げつつ、他方で外国人労働者流入のハードルを下げれば、なるほど、統計数字の上では「移民」の数を増やさないままの状態で、労働現場に外国人労働者を大量に供給することが可能になるわけで、そうすれば、見かけ上は移民政策を採用せずに労働者不足を補うことができる。
しかし、その「見かけ上の純血国家」は、いったい誰のための看板なのだろうか。
自分たちの国が、日本人の日本人による日本人のための国家であることをいつまでも信じていたい忠良な人々の脳内に展開されている、幻想上の国体観のためであろうか。
でも、実態として街に外国人が溢れ、立ち寄った小売店のカウンターに外国人が立ち、子供たちの学校にカタカナ名前の同級生が同席している流れは、既に起こってしまっている変化でもあれば、この度の入管法の改正案によって、さらに加速化される傾向でもある。
われわれは、実態として、すでに移民国家に片足を踏み入れつつある。
そうでなくても、労働市場は外国人依存の度合いをより深めようとしている。 にもかかわらず、安倍首相が
「移民政策は取らない」
と断言するのは、いったい誰のためにそう言っているアナウンスなのだろうか。
私は、首相の言葉をどうしてもうまく了解することができない。
個人的な話をすれば、私は、日本が移民国家になるべきであるのかどうかについて、いまだに自分の中で確たる答えを見いだせずにいる。
あちらを立てればこちらが立たずで、迷う要素ばかりが心にひっかかる。だから、鎖国論にも開国論にも全力では乗れずにいる。
ただ、開国するなら開国するで、日本に来てくれる外国人には、日本人と同等の権益を保証すべきだと思うし、あらゆる点で彼らが暮らしやすい条件を整えるべきだとは思っている。
逆に、移民の流入がもたらすリスクを避けたいのであれば、外国人労働者の労働力をあてにすることは、潔く諦めなければならないはずだとも考えている。
つまり、労働者として利用する一方で、市民社会のメンバーとしての権益は与えないと宣言しているように見える現状の政府の方針には賛成できないということだ。
11月7日の衆院予算委員会で、山下貴司法相は外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正案に関連して、失踪した外国人技能実習生の87%が「現状の賃金などへの不満」を理由に挙げたことを明らかにしている(こちら)。
なにげなく紹介されているデータだが、この87%という数字が示唆している状況はなかなか深刻だ。
そもそも、「外国人技能実習生」について言われている「失踪」という言い方が妥当なのだろうか。
私見を述べるなら、むしろ、「脱走」と表現したほうが適切な感じがする。
ともあれ、結果として「失踪」した実習生が、行方をくらまさずにおれないほどの低賃金で労働していた調査結果があることは認めざるを得ない。
とすれば、政府としては「外国人技能実習生制度」が、「技能実習」の名のもとに、海外からやってきた青年たちに、職業選択の自由がなく、寝泊まりする場所も選べず、低賃金を強いる、奴隷労働的な枠組みであった実態を直視して、その改善に乗り出さねばならないはずだ。
が、政府は、そうするつもりを持っていない。それどころか、入管法を改正することで、外国人への単純労働の丸投げ枠を拡大する意図を明らかにしつつある。
少子高齢化に歯止めがかからない現状で、わが国の労働市場が、労働力不足に陥っていることは周知の事実だ。
とすれば、その労働力不足を補うべく、外国人労働者の受け入れ枠を拡大することは、必然と言って良い施策なのだろう。
ここまではいい。
私が、理解できないのは、ことここにおよんでいけしゃあしゃあと
「移民政策は取らない」
と明言してしまえる神経のあり方だ。
いったい、政府は、この答弁を通じて、いかなる方針を示唆しているのだろうか。
つまり、
「労働力は輸入するけど、移民は受け入れないよ」
ということだろうか。あるいは
「働き手として入国させつつも、人間的な生活はさせない」
「働く外国人は歓迎するが、その外国人が家族を呼び寄せて日本で子孫を残すことは許さない」
「労働する外国人が、日本の社会の中で労働以外の生活を営むことには賛成しない」
「外国人労働者が勤労者として富を生み出すことは応援するが、彼らが生活者として生活することには必ずしも共感しない」
「労働環境は保証するけど、人権は保証しない」
「給与は与える一方で、生活は与えない」
「生存は保証するが、永住するに足る資産形成は許さない」
「利用はするがリスペクトはしない」
ってなことだろうか。
いや、言い過ぎなのはわかっている。
いまここに書いた10行ほどは、撤回してもかまわない。
ただ、
「外国人労働者の受け入れ枠は拡大するが、いわゆる移民政策は取らない」
とする安倍首相の答弁が、「人間」でなく「労働力」だけを輸入する意図を物語ってしまっている事実は動かせない。
そんなことは不可能だ。
強欲な金貸しのシャイロックが、借金の担保として、心臓のまわりの肉1ポンドを、一滴の血も流さずに手に入れることができなかったのと同じように、いかな晋三のまわりの人間たちとて、生身の人間から商品としての労働力だけを抽出して売買することはできない。あたりまえの話だ。
アメリカでは、トランプ大統領が、移民阻止のために軍隊を出動させている。
中米ホンジュラスからメキシコを縦断してアメリカを目指す「キャラバン」と呼ばれる人々に対応するための派遣した軍隊に「忠実な愛国者」、“Operation Faithful Patriot” という作戦名を与えている。
11月7日、米国防総省はこのあからさまに扇情的な作戦名を、今後は使わない旨を発表した。
トランプ陣営が、中間選挙の投開票が終わった7日になってから作戦名の変更を告知したことは、とりもなおさず、「移民キャラバン」の脅威と、それに立ち向かう「忠実な愛国者」としての自分たちの活躍ぶりを選挙のためのイメージ戦略として利用したことを証明している。
移民は利用される。
労働力として経済的に利用されることはもちろん、スケープゴートとして政治的に利用されることもあれば、仮想敵として社会的な不満の持って行き場にされることもある。
どう扱うにせよ、私たちのような島国の人間が、外国人に対して平常心で向き合えるようになるまでには、一定の時間がかかる。
つまり、開国か鎖国かのいずれの結論を出すのであれ、拙速にコトを進めるやり方だけは避けるべきだ。
現状の政府の方針は、ウソがバレバレであり、かつ拙速であると言わざるを得ない。
大切なことや難しい課題に対しては、賢く、かつ、中途半端な態度を堅持しなければならない。
はなはだ中途半端な結論だが、私はそう思っている。
(文・イラスト/小田嶋 隆)
よろしかったら、こちらの記事もぜひ。
「『外国人に仕事を奪われる』は本当か」
なぜ、オレだけが抜け出せたのか?
30 代でアル中となり、医者に「50で人格崩壊、60で死にますよ」
と宣告された著者が、酒をやめて20年以上が経った今、語る真実。
なぜ人は、何かに依存するのか?
『上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白』
<< 目次>>
告白
一日目 アル中に理由なし
二日目 オレはアル中じゃない
三日目 そして金と人が去った
四日目 酒と創作
五日目 「五〇で人格崩壊、六〇で死ぬ」
六日目 飲まない生活
七日目 アル中予備軍たちへ
八日目 アルコール依存症に代わる新たな脅威
告白を終えて
日本随一のコラムニストが自らの体験を初告白し、
現代の新たな依存「コミュニケーション依存症」に警鐘を鳴らす!
(本の紹介はこちらから)
このコラムについて
小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明
「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/110800166/
2018年11月9日 莫 邦富 :作家・ジャーナリスト
中国のクルーズ船業界に陰り、豪華客船の撤退相次ぐ
ノルウェージャン・ジョイ Photo by Arno Redenius
人気を失い始めた
中国のショートクルーズ
少し前、東京に来た経営者の友人に、ある相談を持ち掛けられた。クルーズ乗船客関連のビジネスをやっている彼は、席に座るやいなや、「ショートクルーズをやりたい」と相談してきた。
「日本を訪問するショートクルーズは、すでに結構あるではないか」と、私は意外さを覚えた。しかし、友人の話によれば、ショートクルーズのほとんどが九州を目的地にしているため、だんだん“買い物船”に成り下がってしまい、新鮮さも失って人気を集められなくなっているということだった。
そこで、京都にアクセスしやすい神戸や、知名度の高い北海道などを目的地にするショートクルーズを企画したい。そして、クルーズ旅行の内容を充実させて、より多くの中国人観光客を日本に案内したいという。
そこで、友人は「力を貸してほしい」と真剣な表情で依頼してきたのだ。
人気が高いと言われてきた中国のクルーズ市場は、実はここのところ、いろいろな異変が起きている。
豪華クルーズ第1号が
進出からわずか1年で撤退
もっとも話題となったのはノルウェージャン・ジョイ(Norwegian Joy、中国語船名は諾唯真喜悦号)だ。この船は、ノルウェージャンクルーズラインが中国市場向けにデザインした豪華クルーズ船第1号である。全長334メートル、総トン数16万7725トン、最大乗客定員は4930名で、ツイン部屋の乗客定員は3850名、ゴージャスな客室が1925部屋あり、上海、天津を母港にして2017年6月28日に上海から就航した。
ノルウェージャンクルーズラインは、世界3大クルーズブランドの1つで、本部はアメリカのマイアミにある。中国市場に進出するために、同社はかなり力を入れていた。
まず、「海上でファーストクラス」とうたい、中国人客が満足する設備を整えた。船体に描かれた絵も、わざわざ中国の神話によく出てくる「鳳凰」をテーマに有名な中国人アーティストに創作を依頼した。
ノルウェージャン・ジョイには、さまざまな種類のレストランとバーが28店もある。無料レストラン10店、スペシャルレストラン10店、カフェやバー、ラウンジが15店。さらに24時間営業のルームサービスも行われている。
買い物好きな中国人客のために、免税ショッピングエリアは異例の900平方メートル。カルティエやオメガ、ブルガリなどの高級ブランド商品は何でも揃っている。チョコレートのゴディバや、アップル製品なども販売している。
買い物だけではなく、夜のコンテンツも非常に充実しており、ミュージカルショーなど豊富なエンターテイメントを楽しむことができる。
ところが今年7月19日、鳴り物入りで中国に進出したこの豪華客船が、2019年4月から中国航路をやめ、アラスカ航路で運営すると発表された。
これは、ノルウェージャンクルーズラインが中国市場で唯一就航させていた大型クルーズ船が、進出からわずか1年での撤退を宣言したことを意味する。中国メディアの報道によれば、ノルウェージャン・ジョイは中高年客が多く、船上での2次消費が少なかった。そこで経営的にかなり厳しくなり、中国撤退に踏み切ったという。
韓国への寄港が難しくなって以来
中国のクルーズ業界は低迷期に
実は、2017年以来、韓国への寄港が難しくなったため、中国国内のクルーズ船市場は低迷期に入り、加えて国際クルーズ船が次々に新しい船を投入したため、急速に競争が激化した。
中国市場の撤退を余儀なくされたのは、ノルウェージャン・ジョイだけではない。2017年11月に、プリンセス・クルーズのマジェスティック・プリンセス号も中国市場を離れ、オーストラリアクルーズ市場に移ると発表した。また、今年3月には、中国の豪華クルーズ船会社、天海郵輪の天海新世紀号(SkySea Golden Era)も、携程中国旅遊網とロイヤル・カリビアンの合併会社に売船された。
中国クルーズ業界の発表によると、2017年、中国のクルーズ船乗客数はのべ495.5万人、前年比は8%増で、初めて増加率のペースが鈍化した。中でも、中国で最も豊かだと言われる華東地区の減少が顕著だった。
多くの国際クルーズ船が中国から撤退し、市場は調整期に入ると見る人が多いが、一方で乗船希望の顧客を吸収できず、嬉しい悲鳴を上げているクルーズもある。
日本のピースボートだ。来年12月出航のクルーズ定期便を除いて、世界一周のクルーズ商品はすでに満席。一方、中国からは乗船枠を求める連絡がどんどん入ってくるという。
大きなクルーズ船を入手してニーズに応えようと取り組んでいるが、中古船の調達がうまくいかず、心を鬼にして断り続けている。「中国市場への取り組みをもう少し早く本気でやっていれば、こんなもったいないことをせずに済んだのに」と幹部は地団駄を踏む。
日本に上陸した中国人が
船に戻らないケースが増えている
一方、無視できない問題もある。クルーズ船で日本に上陸した中国人客が、船に戻らないケースが増えている。15年が21人、16年が36人、17年が79人と、わずか2年で約4倍になった。
確かに、滞在期間は最長30日間なので、船に戻らないからといって、すぐに不法滞在とはいえないが、ビザ(査証)なしで入国審査を通過できる制度を悪用したことには変わりない。しかも、その後も戻ってこなければ不法滞在者となる恐れもある。この問題は無視できない。
中国のクルーズ市場は大きく拡大している一方で、さまざまな課題も投げかけている。観光行政、そしてクルーズ業界も、一層力を入れて取り組むことが求められていると思う。
(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)
https://diamond.jp/articles/-/184848
日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔
日本人が捨てるべき「台湾への思い込み」
「本省人vs外省人」では語れない統一地方選
2018/11/09
早川友久 (李登輝 元台湾総統 秘書)
台湾の新聞は連日「首投族」について報じている。すわ、首を投げるとはなんと野蛮な、と思いきや、それは早とちりだ。
「首」とは、日本語で「首位」と使うのと同じように、一番とか初めての意味で、「投」は投票を指す。すなわち、選挙の前に成年に達し、初めて投票権を得た若者たちを中国語で「首投族」と呼ぶのだ。
「首投族」の獲得に躍起になる候補者たち
11月24日に投開票が行われる台湾の統一地方選挙まであと二週間に迫った。前回の「台湾の若者が『現状維持』を望むワケ」でも言及したように、この統一地方選挙では、6つの直轄市の市長から、各地方自治体の議員、そして町内会長にあたる「里長」までを一斉に選ぶという大掛かりなものである。特に、台湾の人口の7割が台北市や新北市といった直轄市に集中しており、市長選挙の結果がそのまま再来年1月の総統選挙に反映されるとあって、各党とも気の抜けない戦いが展開されている。
台湾の統一地方選挙は11月24日に投開票が行われる。その結果は、2年後の総統選にも大きな影響を与えると言われ、世界中から注目されている(写真:ロイター/アフロ)
2年前の総統選挙では約130万人が「首投族」として有権者となった。実に有権者の7%だという。こうした若者たちの初めての投票行動が選挙結果を大きく左右したとあって、各候補者とも「首投族」の心を掴もうと躍起になっている。
ただ、前回も指摘したように、国民党や民進党といった政党カラーだけではもはや若者たちの票を集める原動力にはなりえない。むしろ、2000年以降、二大政党がそれぞれ政権を担ったものの、有権者とくに若者たちが悩む、就職や賃金といった問題への成果が、発表される数字ほど実感できないという不満が結果的に若者たちの政党離れに繋がった。
自分たちの目の前の生活に耳を傾けず、統一や独立などといった日々の生活とは異なる「高邁な」次元の問題で紛糾する立法院(国会)での争いに背を向けたとも言えるだろう。
そうした若者たちの政党離れと、彼らの価値観を如実に表わしているのが、今回の高雄市長選挙だ。昨年、台中市に人口で抜かれ、台湾第3の都市となったが、現在も南部を代表する港湾都市である。
泡沫候補が一転、「時の人」になったワケ
高雄市は台南市と並び、長らく民進党の牙城であり票田とされてきた。総統選挙でも立法院選挙でも、民進党にとってはとりあえず高雄と台南は安泰という「票が読める」エリアであったのは間違いない。謝長廷(現駐日代表)の時代から、陳菊(現総統府秘書長)まで、10年にわたって民進党が市長のポストを占めてきた。その高雄がいま揺れている。
当初、民進党候補者の陳其邁の勝利は固いと思われたのだが、みるみるうちに失速した。原因は、国民党の候補である韓國瑜の躍進だ。韓國瑜は台北県(現在の新北市)生まれの外省人で、立法委員の経験者でもあるが、近年は政治の第一線から退いていたこともあって、候補者になった時点では泡沫候補に近かった。
しかし、泡沫候補ゆえの破れかぶれが功を奏したのか、ハゲ頭をシャンプーしながらインタビューに答えたり、「高雄にディズニーランドを誘致する」とぶち上げてみたりと、野党第一党の候補者らしからぬパフォーマンスと、破天荒な言動で注目を集めた。
これまでの政党政治に飽き飽きしていた若者たちにとって、韓國瑜はこれまでの候補者とは「何かが違う」と思わせるものがあるのだろう。事実、2014年に台北市長に当選した柯文哲も、政治は未経験の医師。いつもくしゃくしゃの髪に、大口を開けて豪快に笑い、インタビューにもどこか斜に構えたように答える姿が、有権者の若者たちには新鮮に映ったがゆえの大勝だったといえる。「高雄にディズニーランドを」という発言も、実現性はさておき、空洞化によって経済的に落ち込む高雄の人々を鼓舞したのだろう。
「外省人=悪」というステロタイプ
ここであえて注目したいのは、韓國瑜の経歴だ。国民党所属の外省人の彼がなぜ台湾人意識の強い本省人が多い台湾南部で躍進しているのだろうか。それはもはや台湾の主流を占める有権者のなかから本省人や外省人といった「省籍矛盾」とも呼ばれる対立が影を潜めたからだ。
日本人のなかには、「外省人」と聞くと嫌悪感を示す人がいる。「あの市長は外省人ですよ」と聞いただけで「そりゃダメだ」と断言する人がいる。しかし、あえて断言するならば、本省人や外省人といったくくりだけでは、もはや判断できない時代になっているのだ。
確かに台湾は戦後、1990年代まで国民党の独裁政権が続き、台湾人は自由を奪われた。それどころか、吹き荒れた白色テロによって命を奪われたり、人生の大部分を政治犯として過ごさざるを得なかった人々もいる。
この間、国民党に牛耳られた台湾を救おうと、台湾独立運動が主に海外で展開されたが、その最前線基地が日本だったことや、小林よしのりの漫画『台湾論』が外省人を徹底的に悪として描いたため、日本人の台湾に対する思考が「外省人=悪、本省人=善」「外省人=加害者、本省人=被害者」や「国民党=加害者であり悪」といったステロタイプが埋め込まれてしまったのではないかと見ている。
李登輝総統の誕生以降、民主化によって自由は保障され、白色テロの被害者の人々に対する名誉回復も行われた。もちろん、国民党については白色テロの情報公開や検証、不当資産の解明など、未だ問題は山ほどあるといってもいいだろう。
しかし、「首投族」と呼ばれる若者たちは、2000年前後の生まれだ。生まれたときから民主的かつ自由な台湾を謳歌して育ってきた。彼らにとってもはや「外省人、本省人」といったアレルギーはほぼ無いと断言していいだろう。
実際、2014年に立法院を占拠して行われた「ヒマワリ学生運動」でも、多くの外省人の若者たちが参加していた。特に若い世代における融和が続々と進む台湾で、未だにステロタイプを判断基準にして台湾を見ると、現在の高雄における韓國瑜の躍進に違和感を感じるかもしれない。
しかし、なんのことはない、韓國瑜が外省人か本省人かに関係なく、高雄の有権者はこれまでの民進党市政の「続き」を望むのではなく、現状を打破してくれる候補者に熱狂しているということだ。そしてそれは、決して国民党だから、ということでもなく、新鮮味のある破天荒な、かつ大風呂敷を広げることの出来る候補者こそ、高雄を救ってくれるのではないかという期待を込めての熱狂であろう。
日本人が捨てるべき台湾への「思い込み」
高雄や台南など、南部へ行くと、話される言葉も、台湾語の比率が飛躍的に高まる。だいぶ前だが、筆者が台湾大学で歴史の授業を受講していたとき、先生が「台湾語がわかる人、手を挙げてください」と聞いた。100人以上は入るであろう大教室だったが、8割以上の学生が手を挙げたように記憶している。続いて、「台湾語がわかる、だけでなく、ちゃんと話せるという人は手を挙げてください」と聞くと、挙手する学生は一気に減った。手を挙げたのはおよそ2割程度の学生だった。
恐らくこの学生たちはほとんど南部の出身だったと断言しても良いくらい南部では台湾語比率が高まる。言語はアイデンティティを形成するうえで最も重要な要素だ。台湾語比率が高いということは、自ずと台湾人意識が強いということになる。民進党が南部を除いて大敗したときなど、「南部だけで独立したらどうか」という意見を出す人がいたほどだ。
しかし、そんな「本省人の牙城」ともいえる高雄でさえ、外省人の韓國瑜の健闘が続いている。戦況はまだ五分五分のようだが、バンドワゴン効果によって民進党の牙城が崩れる可能性は大いにある。仮にそうした結果が出た場合でも、日本人は「なぜ高雄で外省人が当選するのか」という疑問を持つのだろうか。たとえ選挙であっても、もはや台湾の若者たちにとっては、外省人や本省人などというくくりが候補者を選ぶ判断基準にはなりえないことを、日本から台湾へ関心を寄せる人たちも学ぶべきであろう。
早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14466
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民129掲示板 次へ 前へ
- 中国の住宅の5軒に1軒は空き家、全体で5000万戸余り 生産者物価、4カ月連続で鈍化−消費者物価横ばい 日本株週間展望) うまき 2018/11/09 18:25:20
(3)
- 中国の景気刺激策は本当に必要か 消費増税で総合対策10兆円、国土強靭化 ドルと円の同時安 合意なき離脱ブラック・スワンか うまき 2018/11/09 19:15:36
(2)
- 米金融当局のQEプログラム巻き戻し、新たなリスク生むか トルコとアルゼンチン不況続く公算大 クオンツファンド信頼性危機 うまき 2018/11/09 19:19:41
(1)
- FOMC、12月利上げは引き続きほぼ確定事項 世界経済に悲観的な独企業が増加 韓国現代自動車はなぜ輝きを失ったか うまき 2018/11/09 19:25:48
(0)
- FOMC、12月利上げは引き続きほぼ確定事項 世界経済に悲観的な独企業が増加 韓国現代自動車はなぜ輝きを失ったか うまき 2018/11/09 19:25:48
(0)
- 米金融当局のQEプログラム巻き戻し、新たなリスク生むか トルコとアルゼンチン不況続く公算大 クオンツファンド信頼性危機 うまき 2018/11/09 19:19:41
(1)
- 中国の景気刺激策は本当に必要か 消費増税で総合対策10兆円、国土強靭化 ドルと円の同時安 合意なき離脱ブラック・スワンか うまき 2018/11/09 19:15:36
(2)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民129掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。