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年内発効のTPPが日本に大きな恩恵をもたらす理由
https://diamond.jp/articles/-/184852
2018.11.9 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
TPPが年内に発効することが決まった。これはさまざまな意味で、日本にとって大きな意義のあることだ。
まず、TPP交渉が妥結した経緯を思い出そう。米国が抜けて11ヵ国になったのだが、その後、交渉をまとめあげた最大の功労者は日本だった。これは、「独自の外交交渉ができず、米国に追随するだけ」といった悪口も言われていた日本の外交にとって、画期的な出来事だったといえる。
そうしてまとめあげたTPPが、日の目を見なければせっかくの交渉も色あせるところだったが、発効にこぎ着けたことで、日本が独自の外交を繰り広げたこと、そして世界の自由貿易を推進したことなどが、人々の記憶に深く刻まれることになった。
分業のメリットを追求する
自由貿易は互いの国にメリット
TPPの本質は、多国間の自由貿易協定だ。自由貿易というのは、「お互いが得意な物を作って交換しよう」という分業のメリットを追求するものだ。
分業は、お互いのメリットになるもの。たとえ相手が、特に優れたところのない国であったとしてもだ。簡単な事例で考えてみよう。
今、あなたが隣人と家事の分業を検討しているとしよう。あなたは1時間で料理を3皿作って1時間で皿を3枚洗い、合計2時間働いて3皿の食事をしているとする。隣人は、2時間かけて料理を2皿作って1時間かけて皿を2枚洗い、合計3時間働いて2皿の食事をしているとする。
これを分業するとどうなるか。料理が得意なあなたは、隣人に代わって料理を受け持つことにより、2時間で料理を6皿作る。その代わりに料理が不得意な隣人は、料理作りを免除される代わりに皿洗いに特化することで、3時間で6枚の皿を洗うことになる。
分業によって、労働時間についてはあなたは2時間、隣人は3時間のままだが、2人の合計食事量は5皿が6皿に増えていることが分かるだろう。増えた1皿をどう分け合うかは交渉の問題だが、分業が双方にメリットがある話であることは理解していただけたと思う。
これを国際貿易に当てはめれば、何を作っても日本に及ばないような途上国とでも、分業するメリットはあるということ。ただ、国際分業の場合には、増えた1皿の分配を決めるのは交渉ではなく、為替レートということになる。
政治的な壁も乗り越えて
妥結したことは素晴らしい
日本は自動車を作るのが得意で、カナダは農産物を作るのが得意だとする。日本は自動車を大量に作ってカナダに輸出し、得た外貨で農産物を輸入すればいいというのが、経済学の教える国際分業のメリットだ。
しかし政治の世界ではそうはいかない。日本の農家と、カナダの自動車会社が強く反対するからだ。それを乗り越えて交渉が妥結したのは、素晴らしいことだといえる。
今回、筆者が注目しているのは、日本の農業の高齢化だ。高度成長期には、“金の卵”たちを都会に送り出し、残った親たちが農業に従事していた。だが、親たちが高齢化したにもかかわらず、かつての金の卵たちは戻ってこず、農業の高齢化は着実に進んでいった。
今回の交渉の妥結は、こうした状況が幸いしたと筆者は考えている。というのも、TPPの農産物自由化は明日からではなく、「10年かけて、ゆっくりと農産物の輸入を自由化していく」という取り決めが多いからだ。
若い農家であれば、そうした取り決めに対しても「絶対反対」を唱えるかもしれない。だが、10年後には引退しているであろう高齢の農家は「10年後は農家を続けていないだろうから、特に反対する必要はなさそうだ」と考えるだろう。
つまり、日本の農家の多くが10年後には引退していると思われる高齢だったことが、交渉成立の重要な要因であったと思われるのだ。
逆に、農家の高齢化は、TPPを促進する要因として働いた可能性がある。10年後には農業の担い手が不足して国内の農産物供給が減り、これまでよりはるかに大量の農産物を海外から輸入しなくてはならない時代がくるはず。
そうなると、関税を撤廃して海外の農産物を安く買いたいという消費者の声が上がる可能性が高く、促進する方向へ後押ししたと見ることもできるというわけだ。
当初から参加していた国の
メリットは大きい
世界に2ヵ国しかない場合に、自由貿易による国際分業にメリットがあるのは上記した通りだが、世界には多数の国がある。
TPP参加国が、自動車の輸入関税をゼロにしたとしよう。域内の主な自動車生産国は日本だけで関税がかからないのだから、域内の国々はドイツや米国から自動車を輸入するのではなく、日本から輸入するようになるはずだ。
また、TPP参加国が、農産物の輸入関税をゼロにしたとしよう。日本は米国から農産物を輸入すると関税がかかるが、カナダから輸入すれば関税がかからないのだから、米国から輸入している分をカナダからの輸入に切り替えるはずだ。
そうなると、ドイツや米国などはTPPのせいで輸出が減ってしまう一方で、日本やカナダはTPPのおかげで輸出が増え、雇用が増えると期待される。そうなると、現在はTPPに加盟していない自動車生産国や農業国が、TPPへの参加を希望するようになる。
すでに、タイやイギリスなどが参加を希望していると伝えられている。イギリスの場合は、EUを離脱するので代わりにTPPに加入するということのようだが、「どこの自由貿易協定にも属していないと損ばかりするから、どこかに加入したい」という意味ではタイと同じ立場といえるかもしれない。
その際、当初の参加国が有利になる。TPPは多国間協定なので、新規参加国が加入するたびに条件交渉をしていては面倒。そこで、原則として「当初の発効時の条件をそのまま用いることを条件に、新規参入を認める」とされている。
ここで重要なのは、当初参加国は、最低限の「わがまま」は通すことができているということ。締結に向け、各国は絶対に譲りたくない条件を出し合い、お互いのわがままを聞き合って交渉を成立させているはずだからだ。
一方で、途中から参加する国々はわがままを述べられず、既に決まったルールを守らなければならない。日本がこの立場でなくて本当によかったと思う。
筆者は大学の入学式で、とにかく早く友達グループを作るように促している。それは、最初にグループを作るメンバーであれば、遊びに行く曜日や場所の選定について意見を述べやすいが、後から加わるメンバーは望みを言いづらい。それと同じことが、もっと大きなスケールで国際貿易の世界でも起きているのだ。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
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