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≪斎藤貴男 著『消費税のカラクリ』 第3章 消費者が知らない消費税の仕組み、他 より抜粋≫
Roentgenium:斎藤貴男氏の著作『消費税のカラクリ』 より第1章「消費税増税不可避論を巡って」・第3章「消費者が知らない消費税の仕組み」・第5章「消費税の歴史」・第6章「消費税を上げるとどうなるか」、他を抜粋、(緊急)転載。TV・新聞が報じない不公平税制の実態、誤解だらけの「消費税増税不可避論」。消費税を上げると誰が喜ぶのか?
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〔斎藤貴男 著『消費税のカラクリ』 第1章 消費税増税不可避論を巡って より P.12−P.29〕
■マスコミに広がる消費税増税支持論
消費税の大幅増税が不可避だと言われる。2000年代の半ばからこのかた、本当にその必要があるのか、何故消費税でなければいけないのかの理由が満足に問われることもなく、そのような雰囲気が何となく定着してしまっているようだ。
「何しろ財政が厳しいからね。消費税は広く薄く公平に掛かる税金なのだし、国の苦境をみんなで分かち合う意味でも、増税もやむを得ないのではないかな」
訳知り顔の講釈が、街のあちこちから聞こえてくる。問題は、そう語りたがる人々が、消費税という税制の本質を少しでも理解出来ているのかどうか、という点だ。1人1人に問い質すことは出来ないが、一般の主要な情報源であるマスコミが、いつの間にか消費税増税派ばかりになっていた事実だけは明白である。
1989年の導入以来、消費税の本質を比較的よく弁えていたはずの『朝日新聞』までが、近年は批判的な視点を失った。特に消費税に紙数を割いた政府税制調査会の答申か、財界の報告書を引き写したような主張さえ珍しくない。
論より証拠。2本の社説とそれらの下敷きになっている文書を並べてみよう。2007年12月9日付社説のタイトルは、ずばり「消費増税なしに安心は買えぬ」だった。現在の福祉水準を維持する為には、増税による負担増が避けられない、として、
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では、その負担増をその税金で行うか。それはやはり消費税を中心にせざるを得ない、と私達は考える。“消費税は国民が広く負担する税金だ。国民みんなが互いの生活を支え合う社会保障の財源に適している”。
また、少子高齢化が進むにつれ、所得を稼ぐ現役世代は減っていくので、現役にばかり負担を負わせるわけにはいかない。一方で、所得の少ない高齢者の中にも、現役時代の著積で豊かな層がある。こうした人々にも、消費する金額に応じて福祉の財源を負担してもらうことは理に適っている。
所得税や法人税の税収が景気によって大きく変動するのに比べ、“消費税収は安定している為、福祉の財源に適しているとも言われている”。
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次に2010年7月2日付の社説「財政再建と成長 両立へ、新たな道開こう」。菅 直人首相(1946−)や自民党の公約を受け、参院選の投票日を9日後に控えたタイミングで書かれた。もはや消費税増税は規定路線、歯向かう者は非国民だとでも言わんばかりの筆致が強烈だ。
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ここへ来てようやく、消費税から逃げない姿勢を政治が打ち出した。(中略)
消費税などの増税から逃げ続ければ、行政サービスを支える政府支出を大幅に削っても尚、国債という借金の泥沼から抜け出せそうにない。そのことに向き合うなら、増税反対では済まない。国民生活を危機から守り、向上させていくには、財源を如何に確保し、どう使っていくかを真剣に議論しなくてはいけない。
それには「消費税タブー」を乗り越えるだけでは駄目だ。増税による税収を雇用増、市場創出、経済成長へと結び付けなければ意味がない。
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■政府税調答申と同発想の新聞社説
そして政府税調の答申だ。最初に引用した社説の20日ほど前、2007年11月20日に発表されたものである。
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信頼出来るセーフティ・ネットの下で生活の安心が確保されることは、国民1人1人がその能力を発揮し豊かな人生を送る為の基盤である。その為にも、子や孫が未来に夢と希望が持てるよう、持続可能な社会保障制度を支える財源を確保することが税制の喫緊(きっきん)の課題である。
その際、財源となる税収については、一定規模の社会保障の財政需要を賄えるものであると同時に、経済の動向や人口構成の変化に左右されにくいことが先ず求められる。併せて、“現世代の国民が広く公平に負担を分かち合うことを通じて世代間の不公平の是正に資することも重要である”。
消費税は、これらの要請に応え得る他、財貨・サービスの消費に幅広く等しく負担を求める性格から、勤労世代など特定の者への負担が集中せず、その簡素な仕組みとも相まって貯蓄や投資を含む経済活動に与える歪みが小さいという特徴を有する。
また、“国境調整を通じて税率の変更が国際競争力に与える影響を遮断出来るという面も有する”。少子高齢化に伴って経済社会の活力の減退が懸念される状況にあっては、これらの特徴も重要な要素であり、このような様々な特徴を併せ有する“消費税は、税制における社会保障財源の中核を担うに相応しいと考えられる”。
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如何だろう。表現上の若干の違いはあるものの、基本的な発想はほぼ同一と断じて差し支えないのではあるまいか。税調答申の後段にある経済活動や国際競争力と消費税との関係については後述する。
民主党と自民党の2大政党は、どちらも近い将来の消費税増税を大前提とする、殆んど有権者の買収に明け暮れてきた。麻生太郎政権〔※麻生太郎(1940−)〕が全国民に12000円ずつ配った「定額給付金」。鳩山由紀夫政権〔※鳩山由紀夫(1947−)〕が15歳以下の子供の保護者に毎月26000円を支給すると言い出した「子ども手当」・・・・・・。
意義や理念は敢えて問うまい。何れにせよ莫大な財源が必要になってしまった現実は残る。ばら撒きの人気取りと、「消費税率を引き上げて初めて財源が確保され、引き上げられなければ危険度を高めた財政事情が後の世代にツケ回しされていくのだぞ」との脅しを兼ねた一石二鳥、予定調和、詰め将棋。
■政権交代と増税論議
自民党はかねて消費税増税と、これを財源とする法人税減税への情熱を隠そうともして来なかった。だから政権の座にあった2009年3月に可決・成立させた「所得税法等の一部を改正する法律」の附則104条に、《遅滞なく、かつ、段階的に消費税を含む税制の抜本的な改革を行う為、平成23年度までに必要な法制上の措置を講ずるものとする》の文言を紛れ込ませることまでした。
一方、当時は彼らの姿勢を安易だと批判し、無駄遣いを減らすのが先決だと主張し続けていた民主党は、09年8月の総選挙に「(衆院議員の任期の)4年間は消費税を上げない」と公約して圧勝したが、政権交代を果たして以降、態度を変えた。
連立政権を組んだ社民党、国民新党との三党合意でも次の総選挙までの税率据え置きを決定しながら、年も明けない内に仙谷由人(1946−)・国家戦略担当相(当時)が早期の消費税増税論議に着手すべきと発言。参院選での菅首相の公約へと繋がった。マスコミも2大政党と一体化して、それを言うことが政治家の責務ででもあるかのような言説が積み重ねられていった。
一般論としてはその通りなのだろう。但し、絶対に嘘を付かず、消費税の本質と、その増税論の実態を包み隠さず伝えた上で、という条件が守られる限りでの話だ。
また、しきりに社会保障の財源という側面が強調されているが、それは果たして、社会保障という用語の一般的な受け止め方と同じ意味があるのかどうか。少なくとも北欧のような福祉国家に生まれ変わろうとしているわけではないのは明白である。
■始まりは財界から
政府税調の2007年答申を想起されたい。前述の引用文の後段部分が、税調や財務省が繰り返し訴えてきた財政再建とか財政健全化といった議論を逸脱していることに気が付かれた読者も少なくないはずだ。
これらはむしろ経済産業省や財界の論理である。グローバリゼーションの進展や1990年代以降の規制緩和、構造改革路線を通して、雇用、教育、農業、医療、社会保障、郵政、公務員制度、司法制度、地方分権など、あらゆる領域で存在感を高めてきた多国籍企業の論理が、国民に消費税増税の必要性を説く政府文書に、かつてなくストレートな形で反映されている点に注目したい。
実際、この間には日本経団連が幾度となく、消費税率の引き上げと法人税減税をセットで求める提言を繰り返してきた。昨今の消費税増税論の源流は、2003年の元日付で公表された『活力と魅力溢れる日本をめざして』に求めることが出来る。
当時の奥田 碩(おくだ ひろし 1932−)・日本経団連会長(当時はトヨタ自動車会長、現在は相談役)の名を採って“奥田ビジョン”と通称された報告書は、第1章「新たな実りを手に出来る経済を実現する」の1「『民主導・自律型』システムが新しい成長をつくる」の(2)「活力を引き出す税制の再構築」で、次のように述べていた。
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日本経済の新たな“成長戦略を打ち立てる際に、税制の再構築は避けて通れない課題である”。
先ず重要なのは、個人や法人の収益に対して直接負担を求める所得課税と社会保険料に過度に依存する構造を是正し、“経済成長に対する影響が相対的に少ない間接税のウエイトを高めていくことである”。
とりわけ、国民が等しく負担を分かち合う観点から、消費税の重要性は今後益々高まっていく。税率引き上げのタイミングや支出の削減幅などの選択によって、必要となる消費税率は変わり得る。私達の試算では、社会保障や財政構造の改革を前提に、2004年度から毎年1%ずつ税率を引き上げた場合、2014年度から先は、消費税率を16%で据え置くことが可能になる。
消費税の段階的引き上げは、デフレ懸念を払拭し、住宅投資や個人消費を喚起する。現行の消費税には、益税の存在や逆進性なそ種々の問題が指摘されているが、インボイス制、内税化、複数税率の導入などの改革により、21世紀における基幹となる税目として機能するようにしていく必要がある。
第2に、日本企業の国際競争力を高め、企業が国内においてリスクに果敢に挑戦出来るようにすると共に、海外からの直接投資を活性化させる観点から、法人税について、地方税を含めた実効税率を大幅に引き上げていくべきである。(中略)
“こうした税制改革を一体的に実施することによって、個人の就業や企業の新規投資を躊躇させる要因が取り除かれ、新たな一歩を踏み出し易くなる。その結果、新たな成長分野に効率的にヒト、モノ、カネを向けることが可能となり、経済が活性化されていく”。
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元日付の公表というのは、年末の御用納めまでに記者発表を済ませ、但し元旦までは報道するなとの縛りを掛けなければ出来ない相談だ。年頭から国民の教化啓蒙を図りたい財界と、その広報係に甘んじている報道機関との関係が悲しい。参院選中の朝日の社説は、実際、これとそっくりだった。
〔資料〕日本経団連 著『活力と魅力溢れる日本をめざして』(日本経団連出版 2003年刊行)
http://www.amazon.co.jp/%E6%B4%BB%E5%8A%9B%E3%81%A8%E9%AD%85%E5%8A%9B%E6%BA%A2%E3%82%8C%E3%82%8B%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%92%E3%82%81%E3%81%96%E3%81%97%E3%81%A6%E2%80%95%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%9B%A3%E4%BD%93%E9%80%A3%E5%90%88%E4%BC%9A%E6%96%B0%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3-%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%9B%A3%E4%BD%93%E9%80%A3%E5%90%88%E4%BC%9A/dp/4818522155
〔資料〕日本経団連:『活力と魅力溢れる日本をめざして』〜時事通信社「内外情勢調査会」における奥田会長講演〜 2003年1月20日
http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/20030120.html
〔資料〕日本経団連:『活力と魅力溢れる日本をめざして(妙)』 第2章 個人の力を活かす社会を実現する 2003年1月1日(PDF、全10頁)
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/258151/www.soumu.go.jp/singi/pdf/No27_senmon16_01l.pdf
〔資料〕日本経団連:『これからの世界経済と日本の課題』〜内外情勢調査会における奥田会長講演〜 2006年1月18日
http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/20060118.html
■経済財政諮問会議と日本経団連
2007年の元日に公表された『希望の国、日本〜経団連ビジョン2007〜』は、4年後の2011年度までに2%程度の消費税増税はやむを得ないとするだけで、それ以上には踏み込んでいない。奥田前会長を引き継いだ御手洗冨士夫(1935−)・日本経団連会長(キヤノン会長)の主導による“御手洗ビジョン”は、当時の安倍晋三首相(1954−)のキャッチフレーズ「美しい国、日本」と連動し、憲法9条の改定や、教育現場、職場、スポーツ・イベント会場などでの日の丸掲揚と君が代斉唱などを提案するのに忙しく、消費税増税論は抑えた格好になっていた。
勿論、財界は、この間も消費税増税を急がせる動きを止めたわけではない。同じ年の秋、内閣府に設置された合議機関で、小泉構造改革路線の中心として知られた「経済財政諮問会議」が、「消費税の税率を2025年度までに最低でも17%程度までに引き上げる必要がある」旨の試算を基に議論を進めていく方針を決定。そのまま現在に至っている。
同会議には当時、他ならぬ日本経団連の御手洗会長が民間委員に名を連ねてもいた時期だった。まるで関係が無いと受け止めるほうが不自然ではないか。
そして2010年4月13日、翌5月に退任する御手洗会長の後任に米倉弘昌(1937−)・住友化学会長が内定して間もない日本経団連は、再び具体的なシナリオを描いて見せた。前日に菅財務相、この日は仙谷国家戦略相と経済同友会が相次いで消費税増税の必要や可能性を公言し、夜のテレビニュースや翌日の朝刊各紙がこの話題で埋ったのは、偶然ではなかったはずである。
日本経団連の新しい提言は『豊かで活力ある国民生活を目指して〜経団連 成長戦略2010〜』。そのW「成長戦略に関わる税・財政・社会保障の一体改革」は、4の「税制分野」で――、
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我が国の税制は、基幹税として位置付けられる所得税では課税ベースの侵食が著しく、また同じく“基幹税であるべき消費税は著しく低い税率である為”、何れも十分な歳入を得るものとはなっていない。“一方で国税・地方税共に法人所得課税に過度に依存しており”、景気後退期に税収を大きく損なうことになるなど、財政を安定的に支えるという税制に求められる重要な機能を十分に果たしていない。(中略)。
今、求められている税制改革とは、“消費税率を一刻も早く引上げ、所得税の基幹税としての機能を回復し(【図表1・4】)、法人税への過度な依存を改め”、社会保障給付をはじめとする中長期的な歳出の増大に耐えられる税体系の構築を一体的に講ずることである。
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2011年度予算編成に向けては、基礎年金国庫負担3分の1から2分の1への引上げ分の安定財源確保(消費税率換算約1%分)、社会保障費の自然増(毎年約1兆円)、待ったなしとなっている少子化対策(子ども手当を2010年度支給分に加え、満額給付すれば、消費税率換算1%強)など、巨額の新規歳出増が予想されている。
一方で、内外からの国債の信認性に対する懸念も心配される。こうした点を鑑みれば、“2011年度から速やかかつ段階的に(例えば、毎年2%ずつ引き上げ)、消費税率を少なくとも10%まで引上げていくべきである”。
その後も、高齢者医療・介護の公費投入拡大、基礎年金の全額税方式化等、安心で持続可能なセーフティ・ネットを確立する為には、国民の合意を得つつ、“2020年代半ばまでに消費税率を欧州諸国なみの10%台後半ないしはそれ以上へ行きあげていかざるを得ないと考えられる”。
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〔資料〕日本経団連:『希望の国、日本〜経団連ビジョン2007〜』 2007年1月1日(PDF、全145頁)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/vision.pdf
〔資料〕日本経団連:『豊かで活力ある国民生活を目指して〜経団連 成長戦略2010〜』 2010年4月13日(PDF、全129頁)
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2010/028/honbun.pdf
〔資料〕日本経団連:政策提言/調査報告 一覧
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/
■財界の「すべては経済成長の為に」
あらゆる存在は経済成長の為に捧げられるのが当然で、その牽引車たる多国籍企業、巨大資本こそがこの世の主人公なのだという自意識に溢れた提言だった。税制にも成長を促すか補完する道具としての役割ばかりを求めている。公正さとか法の下の平等とか、憲法で定められた生存権や財産権に照らしてどうかといった理念への配慮は皆無に等しい。
主人公たる多国籍企業は経済成長を阻害しかねない要素も人間も容赦なく斬り捨てるが、全体を食わせてやっているのだから、それで割を食う連中を生かしておいてやる費用ぐらいは、食わせて貰っているお前達下々が出してやりなさい、という論法であるようだ。
尚、最も新しい提言の内、《法人税への過度な依存を改め》や《所得税の基幹税としての機能を回復し》の記述には、大いに議論の余地がある。日本経団連が提示した図には、社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険等)の企業負担分が示されていないので、それを含めた国際比較も示しておきたい(【図表2】)。ヨーロッパの企業よりも日本企業が余計に負担しているわけでも何でもない実態がよく分かる。
2006年6月2日に開かれた政府税制調査会の会合に提出された、財務省の資料である。消費税をヨーロッパ諸国と同じ水準に引上げたいと主張するなら、このようなデータも併せて用意して貰いたいと思う。
日本経団連の提言で、まだしも公正性が保たれているらしいのは、所得税が基幹税としての機能を失ってしまったという認識だけかも知れない。
【図表3】が示しているように、かつて19区分、最高税率で75%あった所得税の累進課税の仕組みは、1980年代半ばから緩和され続け、99年からの8年間はわずか4区分、最高税率37%という状況に至った。年間所得が100億円の人と1800万1円の人の税率は同じであり、1000万円に満たない人とも余り変らないという、あからさまな金持ち優遇税制だ。
表には含まれていないが、この間には住民税の累進課税も大幅に緩和された。14区分だったものが89年までに3区分(5%、10%、13%)となり、2007年にはこれも廃止されて一律10%の完全フラット化。年間所得100億円の人も100万円そこそこの人も、課される税率は同じだというのが現状なのである。
かくて所得税の所得再分配機能は消失し、1991年度のピーク時には26兆7000億円あった税収も2009年度は12兆8000億円へと半減した。偶然では勿論ない。
財界の主導で進められた規制緩和、構造改革の、これも一環だった。彼らの基本的な発想を、当時も現在も構造改革の理論的支柱であり続けている竹中平蔵(1951−)・慶應義塾大学教授(経済学)が代弁したことがあるので紹介しよう。
同教授が小泉純一郎政権〔※小泉純一郎(1942−)〕の経済財政担当相に抜擢(ばってき)される前年の2000年4月、日本経済新聞社から刊行した『経済ってそういうことだったのか会議』(文庫版は2002年刊行)だ。大手広告代理店・電通の出身で、ヒット曲「だんご3兄弟」をプロデュースしたクリエイター、佐藤雅彦氏(1954−)との対談本で、話題が「累進課税による所得再分配の意義」に及んだ際――。
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竹中 (中略)やはり多くの人は税による所得の「再分配効果」というのを期待するわけです。再分配効果というのは、例えばこういうことです。佐藤さんはすごく所得が多いとする。こちらのAさんは所得が少ない。そうすると、Aさんは佐藤さんからお金を分けて貰いたいわけです。佐藤さんが儲けたお金の一部を自分も貰いたいんですよ。貰いたい時に、政府を通して貰うんですよ。
佐藤 でも、それ、貰いたいって、ずるいじゃないですか。
竹中 ずるいですよ、すごく。『フェアプレーの経済学』という本にもはっきりと書かれているんです。著者はランズバーグという数学者なんですけど、すごくシンプルに見ていくと、今の税はおかしいと言うのです。彼はそれをこんなふうに表現しています。
子供達が砂場で遊んでいるんです。或る子はオモチャを沢山持っている。その子はお金持ちの家の子なんですよ。もう1人の子は家が貧しいからオモチャを1個しか持ってないんです。しかし、だからといって、自分の子に向かって「○○ちゃん、あの子はオモチャ沢山持っているからとってきなさい・・・・・・」などと言う親がいるかというわけです。
ところがそんなことが、国の中では税という形で実際に行われているという言い方をしているんですね。
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ちなみに『フェアプレイの経済学―正しいことと間違っていることの見わけ方』(Steven E. Landsburg 著, 斉藤秀正 翻訳、ダイヤモンド社 1998年刊行)を著したスティーヴン・ランズバーグ Steven E. Landsburg(1954−)という人物は、オーソドックスな研究者ではない。数学者と経済学者を兼ねていて、私有財産権を絶対の価値と見なし、経済や社会への公共セクターの一切の関与を否定する、“リバタリアン”と呼ばれる、特異な系譜に連なる人物だった。
社会保障のごときは所得の少ない人間が多い人間から強奪する、泥棒同然の「ずるい」行為だという論法である。竹中教授は『経済ってそういうことだったのか会議』の別の箇所でも、「集団的なたかりみたいなものが所得再分配という名の下に、税に纏わり付いて生まれてくるわけです」などと表現していたが、果たして所得税の累進税率は極端に緩和され、彼らの悲願は叶えられたのだ。
この税目に基幹税の機能を回復させるべきだとの認識を示した日本経団連には、さすがに行き過ぎへの反省が窺えなくもない。だが、では彼らが尚執念を燃やしている消費税増税に、累進税率の緩和、フラット化と同様の思想は込められていないだろうか。
もしも彼らの思惑通りに事が進んだら、どのような社会が現われるのだろうか。
〔資料〕佐藤雅彦, 竹中平蔵 共著『経済ってそういうことだったのか会議』(日本経済新聞社 2000年刊行)
http://www.amazon.co.jp/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%9D%E3%81%86%E3%81%84%E3%81%86%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%8B%E4%BC%9A%E8%AD%B0-%E4%BD%90%E8%97%A4-%E9%9B%85%E5%BD%A6/dp/4532148243
〔資料〕Steven E. Landsburg 著, 斉藤秀正 翻訳『〔資料〕Steven E. Landsburg 著, 斉藤秀正 翻訳『フェアプレイの経済学―正しいことと間違っていることの見わけ方』(ダイヤモンド社 1998年刊行)』(ダイヤモンド社 1998年刊行)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6%E2%80%95%E6%AD%A3%E3%81%97%E3%81%84%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%A8%E9%96%93%E9%81%95%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AE%E8%A6%8B%E3%82%8F%E3%81%91%E6%96%B9-%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%83%B3%E3%83%BBE-%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B0/dp/4478200440
〔資料〕田中康夫議員がTPPと野田政権の本質を斬る - Kaleidoscope 2012年2月7日 ※重要
http://kaleido11.blog111.fc2.com/blog-entry-1088.html
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