http://www.asyura2.com/09/dispute30/msg/691.html
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経済学は参加者すべてに情報がまんべんなく均一に行き渡っているという前提に立っている、ということを小室直樹が言っていたと記憶する。だが、この前提が非現実的であることはちょっと考えればすぐ分かる。世に情報は溢れかえっているが、それさえも部分的である。さらに溢れかえった情報の中からわれわれが取り入れるのも部分的であり、また人によって偏っている。こんな現実を前提にしない経済学が現実に役立たないのは当然と考える。
下は情報が不均一不均等としても成り立つ理論の若き研究者たちの現時点の成果だと思う。マルクスの貨幣論が弁証法的に三段跳びして隠れてしまっている部分も解明した新解釈ともとれる(第一章だけでも原書を一読されたい)/仁王像
『経済学の船出〜創発の海へ』安富歩/NTT出版‘10年の第一章の抜粋(要旨)
第一章 貨幣の存在構造とその正しい使い方
<貨幣の自成と自壊>
イリア・プリコジンの『混沌からの秩序』と『散逸構造』とを読み、「非平衡開放系」という概念を知って、大きな衝撃を受けた。非平衡系とは、物質やエネルギーの流入と流出とが常時生じているような系である。物理学の観点から見れば、我々が日頃目にするすべての系は非平衡開放系であり、平衡状態は生命が出現する余地などない。経済現象は言うまでもなく、人間という非平衡開放系に生成する構造の活動として生じているのである。
ところが経済理論の大半は「均衡」概念に基づいている。現代経済学の均衡概念は最適化を基礎に作られているが、これは明らかに平衡統計学を参考にして構成されている。それゆえ均衡経済学が、非平衡開放系に生じる経済現象を扱うことは原理的に不可能だ、ということになる。経済理論全体に深い疑問を抱いていた私は、ここにその根本的理由があると感じて、目が覚める思いであった。
(あるとき)に、「貨幣とは、非平衡開放系の中に出現する散逸構造だ」という考えが湧き上がってきた。この構造は、次々と現れては消える人々の需要行為を要素として形成され、その中心に位置することで貨幣には大きな市場性が与えられ続ける。
私はこの考えを練り上げて、…コンピュータ・シミュレーションで、メンガーの主張したように、画面上に貨幣が自律的に生成するのを目撃したのである。さらに念のために、長時間のシミュレーションを行ったところ、思いもかけないことに、貨幣が突然、崩壊したのである。そしてまたしばらくすると、貨幣が生成した。私のコンピュータ・シミュレーション・モデルの世界では、貨幣の生成と崩壊とが繰り返された。
貨幣というものが、このようなダイナミックスを持つ構造である以上、その不安定性はいわば必然であり、それが景気循環や大恐慌やハイパーインフレーションといった現象の一因だ、と私は理解する。
<知識の遷移と貨幣の必然性>
私の共同研究者である葛城政明は右の研究と並行して、「物々交換は貨幣なしには実現し得ない」という驚くべき定理を予想した。葛城が考える対象としたのは、「ヴィクセルの三角形」と呼ばれる三すくみである(三人がそれぞれA、B、Cの商品をもっているが、AはBと、BはCと、CはAと交換したがっている状態)。
ここで葛城は「知識状態の遷移」という独創的なアイディアを持ち込んだ。普通の経済学では、この三すくみの問題を考える場合でも、三人とも同じ知識を持っている、という想定をするが、これは(現実の社会生活に照らし合わせて)不自然である。
「知識状態の遷移」という動的な知識形成の(概念を持ち込むと)、三すくみは、誰かが打診行動を起こすだけで、自然に解消される。しかもよく見ると、三つの商品の中の一つは、全体の交換の媒介の役割(「貨幣」)を果たしていたのである。
これは実に驚くべき発見であった。清滝信宏をはじめとする多数の理論経済学者が(成し得なかったことである)。この発見に私は仰天し、葛城と共同で、N人が存在する経済について考察し、どんなにたくさんの人がいても、物々交換経済は不可避的に貨幣を生み出してしまうことを示した。
以上の理論的研究と並行して、中国近代の貨幣史についても研究を進め、…近代中国がでは多種多様な貨幣が混然一体となって流通していることを知った(1000〜2000年にわたり)。また、中国という社会が「共同体」などの強固な集団を欠いており、ヨーロッパや日本とはまったく異なるネットワーク性を持っていること知った。
私は、黒田明伸の一連の研究を知って強い影響を受けた。黒田は、中国の集団性が低くネットワーク性の高い社会関係が、複雑な貨幣と相互依存関係にある、と主張した。
このような歴史学の知見は、私が到達した貨幣理論を大きく揺るがすものであった。…私の貨幣のシミュレーション・モデルは、現時点から振り返って考えると、適当な拡張を行うなら、ネットワーク的状況に対応できるようになっていることに気づいた。残念ながら、このような拡張の仕事には着手できないでいる。
<おわりに>
貨幣とは、人間が取り結ぶ縁の作り出す、一つの構造である。それは、人々を即席でつなぐ機能を帯びており、その機能によって人々に需要されるが、この存在の本質的な虚構性が、貨幣の不安定性の根源的理由である。…
以上が現時点での私の貨幣研究の成果のエッセンスである(が)、こんなことは少なくとも2000年前からわかっていたことであり、何も私が四十年も悩む必要はなかったのではあるが。
(関連)
・経済学は、速度限界(相対性理論)・熱力学第二法則・因果律という三つの物理法則を否定した上に打ち立てられている/安富歩
http://www.asyura2.com/12/hasan77/msg/316.html
投稿者 仁王像 日時 2012 年 8 月 11 日 14:17:48: jdZgmZ21Prm8E
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