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(回答先: 立花隆さんの「メディア ソシオ-ポリティクス」の海外アーカイブを阿修羅のスレッドでまとめて保存してくれないかと、。 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 05 日 18:06:37)
第41回 イラク“3兆ドル戦争”がアメリカにもたらしたもの (2005/08/22)
http://web.archive.org/web/20051219003412/nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050822_trillion/
2005年8月22日
ニューヨーク・タイムス紙を少し丹念に読んでいたら、Aセクションの後ろの方に、「3兆ドル戦争(Three Trillion Dollar War)」という特設欄があって、イラク戦争(アフガニスタン戦争を含む)にどれだけ費用がかかっているか(いまなお、それがどれだけ拡大しつつあるか)を数字できちんとわかりやすく示している(その数字は毎日更新されている)ことに気づいた。
年々膨れ上がるイラク戦争のコスト
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その主な数字をここに示しておく(以下わかりやすくするため、1ドル=100円で換算、つまり100億ドル=1兆円)。
■すでに使った戦費…25兆8000億円
■これからの5年間にかかる戦費…46兆円
<その内訳>
・作戦費(武器弾薬、燃料等消耗品の調達費を含む)…34兆5000億円
・新兵補充費…5000億円
・戦争周辺国家(パキスタン、ヨルダン、トルコなど)への援助…1兆円
・装備の更新費用(航空機、ヘリコプター、車両、船舶、武器など)…10兆円
■退役兵にかかるコスト…31兆5000億円
<その内訳>
・医療費と退役兵に与えられる特別手当、給付金(教育ローン、住宅ローンなど)の後年負担分…9兆円
・兵ならびに軍属で戦場で傷害者となった者への長期支払い年金、手当など…22兆5000億円
■戦費の赤字分の繰延べ償却費用(利息のみ)…22兆円
(戦費赤字は自動的に5年単位で何度も繰延べ償却される)
■戦争によって原油価格が5ドル上昇したことでもたらされた米経済全体へのマイナス効果(IMFの試算による)…11兆9000億円
(その後、原油価格はそれどころでなく高騰している)
総計…137兆2000億円
まだ3兆ドル(300兆円)戦争というにはちょっと遠いが、このままいけば確実に近未来にそのラインまで届くことは確実である。
3兆ドル戦争に突入すれば米経済は確実に破綻する
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これはいい加減な見積もりではない。つい先日(8月20日)も、AP通信の記者と会見した、米陸軍参謀総長、ピーター・シューメーカー大将が、今後 4年以上にわたって(09年まで)、駐イラクの米軍の規模を、最悪の事態に備えるため、現在の水準(10万8000人)を大幅に削減する予定はない(10 万人を大きく超える水準を維持する)と言明している。
この水準というのは、全世界に展開している米軍全体の、なんと40%を超えるというもので、できれば、これを25%程度まで引き下げたいと考えているが、それにはイラクの政情の安定という前提が満たされることがどうしても必要だという。
next: 具体的には、イラクの憲法の原案が…
http://web.archive.org/web/20051219003412/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050822_trillion/index1.html
具体的には、イラクの憲法の原案が、憲法制定議会で正式に認証された上で、国民投票によって、その原案が認められ、正式に発布されることである。しかし、それがいつ実現されるか見通しは、いまのところ全くたっていない。
2004年6年28日に、ブッシュ大統領は、米軍によるイラク占領は正式に終結したと宣言し、連合国暫定当局(CPA)から、イラク暫定政権への主権委譲式が行われた。しかし、その式は米軍基地内で行われ、直接の関係者以外誰も呼ばず(もちろん国民的記念式典など何もなかった)、ポール・ブレマー CPA行政官にいたっては、式が終わるとただちにヘリコプターに乗ってその場を脱出し、その後イラクに全く顔を見せないという異常きわまる主権委譲記念式だった。
その後もイラク政府は、国土を自分たちの手で有効に管理できているとはとてもいえず、米軍にオンブにダッコの状態で、かろうじてその存在感をつなぎ止めているにすぎない。
こんな状況が、ブッシュ大統領以下のネオコン指導部が、かねてからいっていた、「最悪の独裁者フセインを放逐して、民主主義社会をイラク国民に与える」という約束の実現に全くならないことは、明らかすぎるほど明らかである。
結局、イラクは、米軍が軍事力による強権支配をつづけないかぎり、暫定政権はいつでも破綻しかねない状態にあり、米軍はこれからも大変な戦費を注ぎこみつづけ、多大の人命の犠牲を払いつづけなければ、イラク暫定政権への民政移管というフィクションを維持できないのだ。要するにイラクは、第2のベトナム化の運命をたどりつつある。
しかし、イラク戦争が今後数年以内に3兆ドル戦争の様相を呈しはじめたらどうなるのだろう。そうなったら、米経済は確実に破綻する。
戦争経済は結果的に国力を衰退させる
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一般に戦争経済は、初期はその国の経済を繁栄させる(戦争景気)。短期に片をつけ、その上、戦利品(領土、利権、賠償金など)を沢山獲得できれば、戦争はその国を大いに繁栄させる。
日清戦争がこのパターンで、日本は巨額の賠償金を獲得し、領土(台湾)を拡張し、多くの利権を獲得し、産業を大いに発展させた。日本は一挙に世界の新興国家として国際社会で広く認められるようになった。
日露戦争でも、日本は領土を拡張し、利権を大いに獲得したが、犠牲(戦死者約8万8000人)の割に獲得したものが少なすぎるというので、ポーツマス講和条約に際しては、国民の不満が爆発して、全国で暴動騒ぎ(日比谷暴動など)が起きた。しかし、大きく見れば、日本はこの戦争で国際社会に大いに認められた(超大国ロシア帝国を敗った)。ロシアはこれがきっかけで革命の時代に突入し、国を滅ぼした(ロシア帝国→ソ連へ)。
日本は世界の一等国にかぞえられ、経済も大いに繁栄させた。この大いなる勝利の記憶が、日本に「日本は戦争に強い国」「戦争は儲かる」の幻想を日本人に植えつけ、それがあの無謀な15年戦争(日中戦争・太平洋戦争)の遠因となった。
そして、あの大いなる敗北の結果生まれた「日本は戦争が弱い国」「戦争は犠牲が多いばかりで、全く引き合わない国家的愚行」「戦争は二度とすべきではない」という国民的共通認識(それが憲法9条に結実した)が次第に薄れてしまったことが、最近の憲法改正騒ぎ(9条改正)の最大の背景になっているのだと思う。
以下の3頁目は元ファイルのURLでもさがしたり、色々やったのだがどうしても出ませんでした。
next: ひるがえって、アメリカはどうか…
http://web.archive.org/web/20051126165736/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050822_trillion/index2.html
next: ドルからユーロへ流れる逃げ足の早い金融資本
http://web.archive.org/web/20051126165800/nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050822_trillion/index3.html
ドルからユーロへ流れる逃げ足の早い金融資本
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イラク戦争がはじまってからしばらくの間、アメリカ経済は戦争景気効果のおかげで繁栄をつづけていたが、最近ではマイナス効果のほうが強く出て、先行き見通しは暗くなっている。
逃げ足の早い金融資本は、アメリカ経済の先行きの見通しの暗さを先取りして、アメリカ市場からむしろユーロ市場に流れている。これがこのところずっと持続的につづいているドル安、ユーロ高の背景だ。
NHKの特番の取材の舞台もアメリカからヨーロッパに渡り、本日ロンドンにきた。空港で両替したら、アメリカ在住十数年のスタッフが、しばらく前と比較すると、ドル・ユーロの比が2割ぐらい悪くなっているので、ヨーロッパに来るアメリカ人観光客の数がガクンと減っているという。
戦争経済は、一時的にその国を繁栄させても、長期的にはマイナス効果のほうが大きく出て、その国の経済を弱くする。イラク戦争の場合、アメリカは得られたものがほとんどなく、(石油利権の獲得に失敗し、国際社会における声望もほとんどなくなった)。出費は増えるばかりで、人的犠牲も止まるところを知らず、国内でも不満の声が高まるばかりというわけで、ブッシュ政権の先行きは暗い。
といっても、米大統領は弾劾されない限り任期途中でやめさせることはできないから、このままブッシュ政権はつづくのだろう。そして、アメリカの評判をどんどん悪くしていくことになる。
空港の本屋に入ったら、ブッシュ批判本が沢山ならんでいたので、思わず3冊ばかり買ってしまった。
そのうちの1冊、マーク・クリスピン・ミラーの「残酷と異常」は、ブッシュ政権がやっていることは、アメリカのよき伝統に反する異常なことばかりと切り捨てる。今のアメリカでは「言論の自由」が制限され、憲法で禁じられている拷問や盗聴が日常的に公然と(あるいは非公然と)行われるような国になってしまっているという。
アメリカのよき伝統を代表するジョージ・ワシントン、エイブラハム・リンカーン、トーマス・ジェファーソン、テディ・ルーズベルトといった人たちが生き返ってきて、この国の現状を見たら、「ここはいったい何という国なんだ(とてもアメリカとは思えない)」というにちがいないという。
そして、ルーズベルト大統領がいま生き返って、かつて彼が実際に言った言葉、
「“大統領を批判する声があってはならない”“大統領がすることが正しかろうと間違っていようと、我々はいつも大統領の側に立とう”などといったことを主張するのは、非愛国的である上、奴隷的ですらある。そして、アメリカ国民に対する裏切り行為でもある」
という言葉を公然と言ったら、たちまちフォックス・テレビのコメンテーターから”国家的裏切り者”の非難の声を浴びせられるにちがいないという。
next: 愛国主義をふりかざすメディアが台頭する危うい社会に…
http://web.archive.org/web/20051126165800/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050822_trillion/index4.html
愛国主義をふりかざすメディアが台頭する危うい社会に
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この表現は日本人にはわかりにくいかもしれない。日本ではフォックス・テレビを見ることができないからだ。この局は、保守強硬派の論調で埋め尽くされた24時間ニュース局で、この局を見ていると、アメリカの保守派の人々のものの考え方がよく分かって興味深い。フォックス・テレビは、ブッシュ政権下でイラク戦争の従軍取材で軍から特別の恩恵を与えられたため、独自の情報量が圧倒的に大きいニュース報道をつづけたため、いまやCNNを抜くほどの有力メディアにのしあがっているが、その基本的論調は、先のルーズベルトの発言の中の
「“大統領を批判する声があってはならない”“大統領がすることが正しかろうと間違っていようと、我々はいつも大統領の側に立とう”」の部分と同じ、大統領がすることはすべて正しく、大統領を批判するものはすべて国賊扱いにするという、妄信的大統領擁護メディアである。
だから前に紹介したイラク戦争反対運動をつづけるシンディ・シーハン夫人などは、これでもかこれでもかというほど、連日の悪罵を投げつけれられている。
たしかに、ブッシュ政権下、9.11以降、イラク戦争がはじまってからのアメリカは、社会が相当異常になりつつある。最近、ニューヨークの地下鉄では、突然何の特別の疑わしい理由もなしに、一定の乗客をアトランダムに選びだして、その持物検査、身体検査を「セキュリティのため」と称して行うなどということが行われたりしている。この国では、「セキュリティのため」という大義名分さえつけば、どんな異常なこと(通常の市民国家なら許されるはずがないこと)もまかり通るようになっている。
アメリカという国はいったいどうなってしまうのだろうかと、心配になる。それとともに、小泉首相のおかげで、こういう国と運命共同体的つながりを深めてしまった日本の行く末も気になる。
立花 隆
評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月から東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。
著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
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