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第26回 アメリカの最新核融合拠点 国立点火施設「NIF」の全容 (2005/07/05)
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投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 06 日 16:34:41: Dh66aZsq5vxts
 

(回答先: 立花隆さんの「メディア ソシオ-ポリティクス」の海外アーカイブを阿修羅のスレッドでまとめて保存してくれないかと、。 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 05 日 18:06:37)

第26回 アメリカの最新核融合拠点 国立点火施設「NIF」の全容 (2005/07/05)
http://web.archive.org/web/20060103022316/nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/

2005年7月5日

 図1に示したのは、NIFの全容である。1本260キロジュールという世界最強の極端紫外光パワーレーザーが走るパイプが192本ならび、それが全部最後に図で5の位置(図をクリックして拡大するとわかる)にあるターゲットチェンバーに入っていく。ターゲットチェンバーの表面の穴が全部レーザーの入口である(第25回冒頭の写真参照)。

図1 NIFの全容(拡大)
(出典:NIFホームページより)

 そしてチェンバーの真ん中に置かれたターゲットに、ミクロの精度で192本のレーザーを当て、高エネルギーを注ぎ込む。その最終段階で、エネルギーを更に高めるために極端紫外光をX線変換器に通すことでX線に変換する。電磁波のエネルギーは波長が短いほど強くなるから紫外光をX線に変換すると、エネルギーは千倍以上強くなる。本物の水爆でも、火点け役の原爆のエネルギーを高めるためにX線変換器が使われている。

 この装置で、ほんの数ナノ秒間ではあるが、ターゲットに注ぎ込まれるエネルギーは、500兆ワットというとてつもないレベルに達する。500兆ワットのエネルギーといったら、全米の総発電量の500倍にあたると聞けばそれがどれほどすさまじいものであるかわかるだろう。

 半分軍事機密ということもあり、日本人でこのような事態の進行を知っていたのは、きわめて一部の人だけだった。日本人は、核融合の研究者ですらこのような陰の事態の進行を何も知らず、ただ呆然としていたのである。

 NIFの計画はその後も順調に進行しており、99年にNIF計画の中間評価が行わたが、「アメリカの歴代の国家プロジェクトの中で、これほど順調に進行した例はない」と大変な賛辞が贈られている。ターゲットチェンバーも見事に完成し、この中間評価で全計画が細部にいたるまでスケジュールにのっていることが確認された上で、もはや慣性核融合が点火することは確実と、アメリカはITER計画から降りたのである。


 
next: 図2は、アメリカにおける…
http://web.archive.org/web/20060103022316/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/index1.html

図2 核融合予算の日米比較(拡大)
(出典:IFEフォーラムホームページより)

 図2は、アメリカにおける、慣性核融合と磁場核融合の、研究者の数と予算の推移を示している。NIFがスタートしてから、慣性核融合の予算はどんどん大きくなり、その反対に磁場核融合の予算はガクンと減ってそのままになってしまったことがたやすく読みとれるだろう。

 アメリカでは、慣性核融合の研究者には、研究内容を一切口外しない秘密保持義務が課されていた(軍事研究の一部だった)。

 そのため、研究者仲間にもその研究水準が伝えられていなかったが、仲間うちではずっと前から、自分たちのほうが磁場核融合よりずっと進んでいると語り合っていたのだという。80年代に入ると、自分たちにアポロ計画なみの予算をつけてくれたら、核融合の点火などいつでもできると自慢しあっていたという。それがいま現実化しつつあるわけだ。

 80年代後半から、守秘義務の程度が緩和されたため、慣性核融合の急速な進歩の情報が外部にどんどん出るようになり、国家プロジェクトとしてNIFが発足することになったということのようだ。

 先に示した予算で、最近金額がふえているのは、いよいよパワーレーザーの大量生産過程に入ったためである。最初の四本は2003年に完成しており、すでに試し撃ちで設計値以上のパワーが出ていることが確認されている。

 
next: 図3に示したのは…
http://web.archive.org/web/20051117134815/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/index2.html

図3に示したのは、今後の予定で、2006年から量産態勢に入るパワーレーザーは驚くほどの勢いで整備されていき、2008年までには予定通り192本全部そろう予定である。

図3 NIFのスケジュール(拡大)

 同時にターゲットの量産も進み、レーザーがそろったあと、すぐにターゲットを撃ちはじめ、早くも2010年には「点火」する予定という(当初予定では点火は2013年だったが計画があまりに順調に進んでいるため予定が三年くりあげられた)。予定がプロジェクトのスタート前から3年もくり下げになっているITERとはえらいちがいである。

 NIFの内部レポートによると、すべてが順調に進行しており、これまでの実験の積み重ねと理論研究の成果から、2010年の点火を疑わしめるような要素は何もないと、圧倒的な自信である。

 慣性核融合は、強力なパワーレーザーをターゲットの針先ぐらいのポイントに照準よくぶちこめば、ほとんど力ずくで核融合を起こすことができる。

 点火というのは、核融合の出力が入力より高い状態を安定的に維持する状態のことをいう。入出力比(エネルギー増倍率)をQ値というが、Q=1が臨界条件で、Q=20までいくと一般に点火と認められている。

 ITERは標準運転時Q=10という設定で、Q=20も視野のうちという設計だが、NIFは最初からQ=20の実現をめざし、それに必要なパワーは二メガジュールとちゃんと計算上も実験上も確認ずみである。

 そして192本のレーザーがそろえば、2メガジュールを確実に超えるので、2010年の点火は必至なのである。それに対して、ITERはすべてが順調に進んだとしても、本当に点火というレベル(Q=20)まで行けるかどうか基本的にわからないのである(可能性はあるという程度にとどまっている)。

 慣性核融合にも特有のプラズマ不安定性問題があるが、トカマクのように不安定性がどんどん成長していって、プラズマをこわすようになる以前に反応は終ってしまうから問題にならない。2010年の点火はよほどのことがないかぎり、ほぼ確実と考えられている。

 このあたりの文章は、磁場核融合の研究がいまおちいっている最大の問題が、プラズマの不安定性の問題であることを前提に書かれている。

 この程度の説明で十分という人は先のページまで読みすすめていただいてよいが、もう少し詳しく知りたいという人は、以下の、原論文では事前に加えられている説明部分を先に読んでいただいた方がよいだろう。

 
next: プラズマの不安定性の問題とは…
http://web.archive.org/web/20051117134815/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/index3.html

 プラズマの不安定性の問題とは、プラズマがすぐにこわれてしまうという問題である。プラズマというのは、一種のガスのかたまりのような状態(いわゆる火の玉現象は自然界に自然に生まれたプラズマ)なのだが、これが安定状態にはなく、こわれやすいのである。トカマクの中に作ったプラズマを加熱して、高温高密度状態にもっていくのが核融合反応を起させるための基本なのだが、加熱を強くするとプラズマがすぐにこわれてしまって、またゼロからはじめなければならなくなる。これが核融合研究の最大の難しさなのである。

 そもそもトカマクではなぜ、プラズマがこわれるのかという問題だ。

 何が起きるのかを語っておく。トカマクは、閉じこめたプラズマに電流を流し、その電流によって加熱するとともに、その電流が作る磁力線によって圧力を強め、プラズマの密度も高めることで核融合に必要な高温高密度状態を作りだす方式である。

 しかし、磁場も電流も強めていくと、電流が不安定になり、それにつれて磁場も不安定になる。やがて電流がブルブル、ギザギザ変動し、磁力線がピクピクゆれだす。そして、突然、磁場が崩壊し、電流も消え、プラズマも消滅してしまうという劇的現象が起る。

 これをディスラプション(自己崩壊)というが、これが起きると、雷のような(雷も大気中で起こるプラズマ現象だ)すさまじい閃光が走り、ドーンと音がして、百トン以上もある巨大なトカマクの真空容器全体がブルブル、ガラガラと音を出してふるえ、ときには全体が床から一センチ以上も跳びあがってしまうことすらあるという(外国の例だが)。トカマク内壁の耐熱タイルなども相当深刻に損傷され内壁面が熔融したりする。これが相当の頻度で起きる。

 これをおさえこめないと、点火しても、連続燃焼などできないわけだが、おさえきれない。そもそもなぜディスラプションが起きるのかがよくわかっていない。わからないから、おさえこみようがないのである。現在できることは、いろんなディスラプションのデータを集めておいて、前兆現象のようなものが見えたら、逃げるだけなのである。

 原研の内部文書を読むと、ディスラプションが最大の課題であることはよく認識されており、実証炉では2年に1回程度しか起らないレベルまでおさえこむ必要性が書かれている。しかし、ではどうしたらおさえこめるかはさっぱり書かれていない。「発生原因は多数ある」として、10以上の原因が列挙されている。

 対策としては、もっぱら「運転シナリオの最適化による回避」だ。要するに起りそうになったら逃げるということなのだ。

 しかし、ケースによっては、予兆からディスラプションまでがあまりに早くて逃げられない直下地震型もある。だから、ディスラプションはおさえきれないのである。

 ただ逃げているだけでは長時間運転などおぼつかないから、いろいろ抜本的回避策の試みも行われている。たとえば、プラズマを精密にモニターしておいて、ちょっとでもおかしくなりかけたら、高周波を入れて、プラズマにリアルタイムのフィードバック制御をかけるといったことが考えられている。しかし、まだ試みがなされているだけで、見通しは十分たっていない。

 
next: さらに問題なのは…
http://web.archive.org/web/20050714010955/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/index4.html

 さらに問題なのは、ITERになったら、当然、ディスラプションが起るであろうことは予測されているし、その破壊力が今までになく大きくなることも予測されていることだ。原研の内部文書に「現在の大型トカマクに比べてさらに巨大な熱及び磁気エネルギーが解放される」とある。

 しかし、それがどの程度の範囲におさまるか(大損傷にいたるか、そうはならないか)、今のところ皆目わからないのである。

 これほどわけがわからない状況なのに、これほど高価で大型の装置を作るというのは誤りなのではないか。

「一日以上の長期運転が楽にできます」

「ヘリカル型(核融合研にあるトカマク型とはちがうタイプの磁気閉じ込め装置。安定性がきわめて高く、ディスラプションは起きない。2000万度のプラズマを30分以上保持するという世界記録を持っている)に負けない制御ができます」

「ディスラプション回避技術は基本的に確立されました」

「大きな損傷を起すようなディスラプションが起きることはもうありません」

 こう胸をはってはっきり宣言できるだけのプラズマ制御技術が確立されてからでないと、一千億円単位もの新巨大トカマク建設に乗りだすべきではないと思うがどうだろうか。

 ディスラプションに関して、これまであいまいなことしかいえなかったのは、そもそもディスラプションがなぜ起るのかの説明がちゃんとついていないということがあるが、それ以前の問題として、プラズマはどんな状態のときにどのような力が加わったら、どのようにふるまうのかという基礎的な物理学がよくわかっていないからなのである。

 そんなバカなと思われるかもしれないが、実はそうなのである。これは物理的に非線形現象なるものに属し、要するに近未来のふるまいが予測がつかないのである。

 プラズマの不安定性をおさえるためには、これがこうなっているからこうしたらいいというように、何らかの原理にもとづいてのフォーミュラーがあるわけではなく、いままでの経験ではこういうときはこうしたら止められるといった経験知のかたまりみたいなものしかないのである。

 その程度のことしかわかっていないのに、どうして、ITERのような巨額の投資をして巨大なトカマクを作る計画が進んでいるのかというと、プラズマの不安定性をおさえるためにも、実験装置を大きくする必要がある、というのが関係者の主張だ。

 JT60やJETのサイズでできる実験はやりつくしたから、これ以上の実験はサイズを大きくしないとできないという。

 これはある程度はウソではないが、本当でもない。

 磁気閉じこめの実験装置は、たしかにサイズを大きくすることによって安定性を増してきたし、実証炉に向けてのさまざまの目標値もよりよく達成されてきた。しかし、JT60の最近の研究実績を見ると、実に多方面にわたる研究が展開されていて、それぞれ大きな成果をあげている。それを見れば見るほど、

「まだまだできることが沢山あるじゃないか」

 といいたくなるし、前述したディスラプションおさえこみの弱さを見たら、まだまだ一千億単位の巨費を投ずる段階に進むためには、

「やるべきことでまだやっていないことが残っているんじゃないの」

 といいたくなる。

 
next: 要するに問題はこういうことだ。磁場核融合では…
http://web.archive.org/web/20050714012801/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/index5.html

 要するに問題はこういうことだ。磁場核融合では、プラズマの不安定性の克服が最大の課題で、これを克服しないことには、そもそも核融合がはじまらないし、核融合がはじまってからも、それを安定的な持続状態にもっていくことが難しい。

 それに対して、慣性核融合では、ターゲットの燃料を包む外皮の部分がレーザーをあてられて融けて燃えていくごく初期過程のところで、一瞬、一時的に不安定性が発生するが、それは次の瞬間に爆発的燃焼過程に移行してしまうから問題ではないということである。そして、慣性核融合では、燃料をじっくり燃やすという発想がそもそもなくて、微小な連続爆発を次々に起していくだけでよいというパルス運転方式が基本なのである。安定的持続燃焼など最初から考えていないから、これでよいということなのである。

 話を戻すと、最近の「ニュートン」誌のインタビューで、アメリカ核融合協会会長のスティーブン・ディーン博士は、「磁場核融合(ITER)と慣性核融合(NIF)とどちらの点火が早いと思うか?」と問われて、「NIFが早いと思う」とはっきり答えている。

 注意していただきたいのは、この人が慣性核融合の研究者ではなく、有名な磁場核融合の専門家であることだ。アメリカでは核融合協会会長という全米の核融合研究者を代表する立場にある磁場核融合の専門家ですら、こう答えざるをえない現実を見せつけられているのだ。アメリカではもうこれが常識なのだ。

 とはいっても、点火から実用炉にいたる過程では、慣性核融合にも磁場核融合と同じような難問が沢山ある。さらに、慣性核融合に固有の問題として、実用炉では微小水爆の連続爆発を毎秒十回以上に高めなければならないが、それだけの連発能力を持つパワーレーザーがまだ開発できていないという問題がある。

 NIF点火予定の2010年といえば、ITERは順調にいってもまだ建設半ばである。

 ここに述べたように、ITERはすでに3年遅れのスケジュールになっているから、今年中に建設をはじめたとしても、2010年といったら、建設計画(10年計画)の半ばにも達していない時期ということになってしまうのである。

 ITERをとりまく状況が変化しているといったのは、こういう意味なのだ。

 慣性核融合が点火したあと、ITERがもたついていたら、時代遅れの計画に一千億単位のムダ使いという非難の声が飛ぶことは必至なのである。(文藝春秋2005年3月号「日本の敗北 核融合と公共事業」より)

 
next: ITER計画に固執すれば日本は…
http://web.archive.org/web/20050714013935/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/index6.html

ITER計画に固執すれば日本はアメリカの10年遅れに
……………………………………………………………………
 以上のことがもっとわかりやすくなるように、図をもって示しておこう。これは当初のITERの建設・実験スケジュールである。

図4 ITERのスケジュール(拡大)
(原子力研究所ホームページより)

 本当は、2003年から建設がはじまっているはずだったのである。建設には、どう急いだって10年かかるから、今から建設をはじめると、2016年が、ファースト・プラズマということになる。そして、はじめは各システムがうまく働くかどうかチェックするために、3年間水素を燃料とする予備運転実験をつづけなければならない。それがうまく働くことを確認してから、燃料を重水素に変えて1年。これがうまくいってから、さらにそれにトリチウムを加える(そうしないと核融合が起きない)本運転に転ずるわけだが、そこまでいくのは、3年遅れのスケジュールだから、どうしても2021年ということになる。

 それで核融合は一応はじまるかもしれないが、最初はQ値が低い核融合である。徐々にQ値を高めていくだろうが、それが点火といえるQ=20のレベルにいつごろたどりつけるか、今のところ全く予測がつかない。いずれにしても、それは慣性核融合の点火より10年以上遅れることは必至なのである。

 こういう状況を日本のマスコミが何も伝えてこなかったというのは驚くべきことである。

 こう書いてきたからといって、私は核融合研究に対して、アンチでもなければ、ITER計画に対して、アンチというわけでもない。

 それどころか、核融合研究は日本の将来にとって大切だから、これからも大いに推進していくべきだと考えている。

 しかし、ここまでに述べてきたことでわかるように、核融合の研究の世界全体が、いま大変貌を遂げようとしているところで、先行きがきわめて不透明なのだから、ここで変にあわてふためかないのが何より大切と思っている。

 だから、何が何でも日本にITERを引っ張ってこようとして、全財産をかき集めてきて、ITER誘致に賭けてしまうようなバカなことをしなくて本当によかったと思っている。

 ITERが日本に来なくても、日本が失うものはほとんどない。ITER開発のヘゲモニーはこれまでも日本がとってきたし、これからも日本なしには研究が進まないことは明らかなのである。

 
next: レーザー方式が磁場核融合に…
http://web.archive.org/web/20050714015638/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/index7.html

レーザー方式が磁場核融合にとって変わる!
……………………………………………………………………
 核融合には、まるでちがう方式が三つあり、どれが最も有望かはまだわからない。それぞれの研究者は、みんな自分がやっている方式が最有力と思っているから、研究者によっていうことがみなちがう。

 私はトカマク方式も、レーザー方式も、ヘリカル方式も、すべて研究現場を知っており、研究者たちにも会ってきている。いろいろの情報を総合すると、やはり点火が早いのは、レーザー方式なのだろうと思う。念のためにいっておけば、これはあくまで「国際的には」ということであって、「日本では」ということではない。日本でもレーザー方式の研究が細々と行われてきたが(図2参照)、その予算は微々たるものであり、それなりに高い研究水準を保ってきてはいるものの(高速点火方式という独自技術がある)、どんなに急いでもアメリカにすぐに追いつくことはとても無理である。

 日本ではレーザー方式が研究者も少なく、国からもずっと冷遇されてきたので、その情報を知る人が少ない。たまたま私は、日本のレーザー方式の最大の研究拠点、「大阪大学レーザー核融合研究所」(現在は名称が変わって「レーザーエネルギー学研究センター」)の参与という立場にあったので、この方面の情報をいち早く知る立場にあり、それで、ここに書いてきたようなことを知ることができたのである。

 この分野の研究が、諸外国では軍事機密(日本だけは軍事とかかわりなく大学における研究が自由になされてきた)であったために、オープンにされる情報があまりに少なく、マスコミの科学記者ですら、この問題をほとんどわかっていなかったのである。

 日本では、核融合の話というと、ニュースソースになる人は99%まで磁場核融合の関係者で、しかも、トカマク型の研究者が圧倒的に多く、ヘリカル型の研究者はその数分の一という現状なので、レーザー型については、「あんなものダメですよ」の一言で切り捨てられてしまうのがあたり前という状況がずっとつづいてきたのである。

 事態がここまできても、いまだに一般のマスコミではレーザー方式に関する情報量があまりに少ないのは、マスコミが頼りにする情報源にあまりに大きなバイアスがかかっているためである。

 しかし、これからの数年で事態はさらにさまがわりするだろうと予測される。

 それは、フランスでも、NIFと似たような研究施設ができていて(レーザーのパワーはアメリカ以上と伝えられている)、そちらも着々と研究が進んでおり、NIFが点火に成功したら、すぐにその後を追って点火できるだけの体制がすでに整っているといわれるからだ。

 ITERが本格稼動する前に、レーザー方式でアメリカが点火し、それにつづいてフランスが点火ということになったらどうなるか。核融合の世界で優位な方式が完全に逆転してしまうだろう。アメリカはそういう時代を見越しているから、研究資金も、設備も、人の配置も、慣性核融合中心に切りかえたのである。アメリカの磁場核融合研究は、90年代後半から、研究コミュニティが死なないように研究資金を細々とつないでおくという程度のレベルにまで落されてしまったのである(図2参照)。

 
next: 核実験中止の裏取引に…
http://web.archive.org/web/20050714021332/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050705_nif/index8.html

核実験中止の裏取引に使われたシミュレーション・コード情報
……………………………………………………………………
 なぜフランスでもレーザー核融合の研究がそこまで進むようになったのか。

 よく知られているように、フランスも核兵器大国で、かつては南太平洋で核実験を繰り返してきた。

 しかし、アメリカが包括的核実験禁止条約を推進する方向に政策を切り替えた直後から、フランスも同条約を批准して核実験を中止する方向に政策を切り替えた。アメリカが強力なプレッシャーをかけたためである。

 その背景で起きたことは、私が側聞するところでは、独自の核実験をやめようとしないフランスに対して、アメリカが、これ以上の核実験をやらないなら、その見返りとして、核兵器のシミュレーション・コードのキーになる部分の情報を与えるといい、さらに、NIF方式のレーザー核融合に関する情報も与えるということで、裏取引が成立したということらしい。

 どこまで本当かわからないが、フランスがすでにNIFと似たタイプのレーザー核融合の実験施設を着々と整えているのは事実なのである。

 実はITER誘致にフランスの磁場核融合研究者が非常に熱心になった背景には、核融合研究がいまそういう状況にあり、うかうかしていると、フランスでもレーザー核融合のほうが点火に先に成功してしまい、アメリカと同様、磁場核融合研究の出番がなくなってしまう恐れが目前に迫っていると思ったからだともいわれている。

 フランスでも、レーザー核融合は、軍事研究の一貫として行われており、磁場核融合の研究者とは、必ずしも情報の疎通がよくない。レーザー核融合と磁場核融合は互いに疑心暗鬼のまま独自の研究の道を進んでいるのである。

 しかし、客観的に見て、レーザー核融合は、点火には早く成功しても、そこから核融合発電にまでもっていくためには、重大な難関が二つも三つも待ち受けているようだから、まだどれが本命といいきれない状態なのである。

 最近では、球形トカマク(ST)といわれる方式の核融合のほうが、将来性はずっとあるという話が登場したりもしている。核融合が本当の発電用実用炉のレベルにまで行き着くのは、早くとも今世紀末ともいわれている。

 それだけ先の話になると、いま下手に研究の筋を絞り込まないほうがいい。先端研究の世界では、いつ何どき、研究地図を全面的に塗り替えなければならないような革命的なブレークスルーが生まれぬともかぎらないからである。

 日本では、トカマク方式とヘリカル方式の研究は国際的にトップレベルの水準にあるが、いま近未来でいちばん可能性がありそうなレーザー核融合では、アメリカに決定的に遅れをとっている(図2参照)。アメリカがこれ以上そちらの方向の研究開発に拍車をかけたら、日本はまったくついていくことができず、置きざり状態になってしまうだろう。

 日本にITERが来なかったのを幸いに、この際日本は、もう一度核融合研究の全方位的な戦略の見直しをはかるべきなのではないか。

 
立花 隆

評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。

著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
 

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