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2007. 10. 25 日経メディカル【緊急特別寄稿】
小松秀樹が語る「医療に司法を持ち込むことのリスク」
虎の門病院泌尿器科部長 小松 秀樹氏
http://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/series/kikou/200710/504479_2.html
厚生労働省が10月17日、「医療事故調査委員会」設置に向けた試案を公表した。「医療崩壊」(朝日新聞社発行)で医療への司法介入の問題点を指摘し、医療界のオピニオンリーダー的存在となった小松秀樹氏は、この試案に強く異議を唱える。試案のどこが問題なのか?医療事故調を議論する際に必要な視点とは?小松氏の最新論考を緊急掲載する。(編集部)
こまつ ひでき氏
1974年東大医学部卒。山梨医大助教授などを経て、99年より現職。
厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」が2007年4月に発足した。いわゆる「医療事故調」の設立のための検討会である。私は、第2回の会合で意見を述べる機会を得たが、各委員がキーワードの「医療関連死」という言葉さえ異なるニュアンスで使っているような状態で、議論が全くかみ合っていなかった。驚いたのは、議論をかみ合わせようとする努力なしに、猛スピードで議論が進められたことだ。議論をしたという実績を残そうとしているとの強い印象を受けた。
その後漏れ聞く情報によれば、「医療事故調」に、社会保険庁解体に伴って生じた余剰人員を吸収したいという意図があるとのことだった。本当かどうか知る立場にないが、これが本当なら、厚労省は、省益のために、将来の日本の基本設計の議論をないがしろにしたと非難されても仕方がない。
07年8月末に公表された「これまでの議論の整理」も何の方向性も見いだせておらず、成果はないに等しい。私は検討会の座長である刑法学者の前田雅英氏と07年8月14日の読売新聞朝刊で誌上討論を行った。前田氏の主張には「法的責任追及に活用」、私の主張には「紛争解決で『医療』守る」の見出しが付けられた。この議論から、厚労省の狙いが、法的責任追及に向いていることが強く懸念された。
07年10月17日、厚労省は検討会の議論とは別に、独自の第二次試案を発表した。案の定、「行政処分、民事紛争及び刑事手続における判断が適切に行えるようこれらにおいて委員会の調査報告書を活用できることとする」と明記されていた。
法律家は医療が不確実であることを理解していない
「医療関係者の中に悪いことをしている奴がいる。そいつらを見付け出して罰してやろう」というスタンスである。罰則で報告を義務付け、医療事故を広い範囲で収集して、罰を与えるかどうか網羅的に検討しようとするものである。医療について十分理解していない法律家が評価を下し、政治の支配を受ける行政官が事務方を担当することになれば、医師は逃げ出さざるを得なくなる。
法律家は医療がどのようなものかほとんど知らない。通常の患者と同じく、しばしば、医療は無謬でなければならないという前提に立っている。現代医学は万能であり、医療行為が適切であれば、有害なことは起こり得えないと信じているふしがある。有害なことが起きれば、それは善悪の問題であり、システムや費用のかけ方の問題ではないと思っているし、なによりも、医療が不確実で限界があることを理解していない。
(次ページに続く)