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命かけ1票、イラク各地で国民の希望の証し
イラクで30日に行われた暫定国民議会選挙は、武装勢力のテロ攻撃に見舞われながらも、ほぼ成功裏に終わった。イラク・米軍の徹底的な治安対策もさることながら、民主国家建設に参加しようと危険を冒して1票を投じた国民の意思によるところが大きい。(バグダッド ソブヒ・ハッダード特約通信員、カイロ 柳沢亨之)
◆バグダッド――バグダッド南部の繁華街カラーダ地区。投票開始時間の午前7時(日本時間午後1時)、商店はシャッターを閉じ、サッカーボールを追いかける子ども数人の声以外、辺りからはほとんど何の音も聞こえない。暫定政府が28日から実施している夜間外出禁止令や車両移動制限のせいだ。
だが、通りには、投票所となったマルジャユン小学校に歩いて向かう数十人の人々の姿があった。息子に車いすを押してもらう老女。小さな子どもの手を引いて歩く家族連れ……。
同校の周囲には鉄条網が張り巡らされ、女性隊員を含むイラク治安部隊約20人が、投票者を男女別に入念にボディーチェックした。
選挙のための治安計画作成で1日3時間しか眠っていないという国家警備隊の大尉は、「選挙直前に全隊員に通常の3倍の武器を渡した。テロ攻撃があっても7日間は現場で戦い続けられるという計算だ」と自信を見せる。
パトロールを続けるイラク・米軍の装甲車の姿が数分おきに見える。学校から50メートル離れた3階建てビルの屋上には、米狙撃兵3人が銃を構え、不審人物に目を光らせていた。
厳戒態勢の中、投票を終えた国家公務員のブシュラ・アリモフセンさん(45)は、「自由で公正で誠実な政府を作り、混乱に倒れたイラク同胞にささげたい」と感極まった様子だった。
市中心部バタウィン地区の投票所。投票を終えた地元商店主のムスリムさん(61)が、二重投票防止用に投票者に塗られる青インクの付いた自分の指を掲げて、まくしたてた。「このインクの意味が分かるかい。危険を顧みず投票したイラク人への名誉の勲章さ」
その時、付近で爆音が鳴り響いた。原因は分からない。「あてどのない者どもの叫びだ。テロリストの敗北の音だ」とムスリムさんは言った。
同投票所で1票を投じた主婦のウンム・タグリードさん(45)は、「繁栄と独裁反対のため、命をかけて投票に来たのよ。新政府にはその意味をかみしめてもらいたい」と強調した。投票前、娘から「危ないからやめて」と反対されたのを押し切って投票したのだという。
◆北部クルド人自治区――北部のクルド人自治区では、国民議会選や北部3県の県評議会に加え、自治区議会に相当する「民族議会」や、自治区の分離独立を問う非公式住民投票まで、計4つも投票が行われた。思いは一つ。自治の死守、そして独立の夢だ。
クルド人政党筋は「自らの運命を決められるクルド人史上初の快挙の日」と評した。ただ、クルド人が熱を帯びれば帯びるほど、国内の他の民族や、少数民族としてクルド人を抱えるトルコなど隣国の警戒を高めることにもなりかねない。
主要都市スレイマニヤはお祭りムードで、民族舞踊を踊る男女の集団や、チョコレートを子どもに配る人の姿も見られた。アルビルの投票所にも朝から長蛇の列ができた。
「子どもたちによい未来を与えるために投票する」(83歳女性)、「長い間、民主主義から遠ざけられていた。やっと自分の手で代表を選べる」(19歳男性)と、有権者は感激の様子だった。
◆南部シーア派地域――人口の約6割を占めるイスラム教シーア派アラブ人が多い南部は、治安が安定していることもあって、順調に投票が行われた。同派宗教政党連合「統一イラク同盟」を、アラウィ首相率いる世俗シーア派連合「イラク・リスト」が激しく追う構図だ。
南部最大都市バスラの若者はロイター通信に、「(テロなど)怖くない。幸せだ。全国民にとってお祭りだ」と笑顔を見せた。
また、投票所一番乗りを目指して早朝から並んでいた男性はAFP通信に、「年寄りなので、みなに模範を示そうと思った」と意気込んだ。同派聖地ナジャフでも投票所の設営された学校前に数百人の列ができた。
一方、本紙通信員によると、陸上自衛隊が駐留するムサンナ県サマワの投票所も朝から満員。同県では多国籍軍駐留存続を求める両政党連合が優勢だが、県評議会選では有力部族2大勢力が「自衛隊発注工事を十分に透明化していない」などと現県政の「汚職体質」を批判し、激戦となった。
◆中部スンニ派地域――治安悪化がもっとも影響したのが、イスラム教スンニ派の多い中部。武装勢力が拠点とする「スンニ派三角地帯」もこの地域。武装勢力が大規模テロを予告したのに加え、同派の有力組織「イスラム聖職者協会」などがボイコットしたこともあって、出足は国内最低。投票率があまりに低いようだと選挙の正統性も疑問視されかねない。
独立選挙管理委員会の報道官は30日昼、バグダッド南方のマフムーディーヤ、ラティフィーヤ、ユスフィーヤの投票所は治安上の理由から開けなかったと言い、有権者に近隣地域で投票するよう促した。サマッラでは投票所となった学校に迫撃弾が着弾。衛星テレビ「アル・ジャジーラ」によると、市長が一部投票所の閉鎖を発表。AFP通信によると、サダム・フセインの出身地に近いティクリートの投票所もがらがらだった。
次第に投票率の上がったケースもある。ファルージャでは、米軍戦車や装甲車が配備された投票所に数十人の列ができた。22歳の男性は「投票することが市のためになる」と話した。
(2005/1/31/03:03 読売新聞 無断転載禁止)
http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20050131i101.htm