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5分でわかる『個人情報保護法』
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投稿者 外野 日時 2005 年 3 月 19 日 13:37:58: XZP4hFjFHTtWY


 「週刊現代・増刊号」2003.05.02
 緊急出版 断固拒否! 『個人情報保護法』の正体暴く
 ──政治家や官僚の不正・腐敗を書かせない「世紀の悪法」──


 超入門篇 なぜこの法を断固拒否するのか? 【監修】喜田村洋一(弁護士)

 ●Part.1…5分でわかる「法案、ここが大問題!」

        ※        ※
 個人情報保護法って何だろう?なぜ、こんなに多くの人が反対しているの?こうした疑問を持つ方のために、このコーナーでは法案の中身について、わかりやすく解説しよう。この法律ができれば、私たちは友人同上で、同窓会名簿を貸し惜りすることもできなくなってしまうのだ。
        ※        ※

 1 ”個人情報”って何なの?

 法案では「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」などと小難しいことを言っているが、要は「ちょっと調べたりすれば、どの人に関することかがわかる情報」。
 氏名や住所、年齢、性別をはじめ、メール・アドレスや携帯電話の番号、医療カードの番号、クレジットカードの番号、さらにレンタルビデオ店の会員番号なども、みんな個人情報といえる。つまり、私たちが日常生活で使っている、自分を表すためのすべての情報と考えればいいだろう。

 2 誰が法律の対象になるの?

 法案は「個人情報取扱事業者」といい、この事業者とは「個人情報データベース等を事業の用に供している者」といっている。
 これだけでは、何のことやら、さっぱりわからないだろう。
 まず「個人情報データベース」とは、パソコンをはじめとしたコンピュータに貯えられた情報や、ディスク化された社員録などの名簿を指す。つまり、個人の情報をコンピュータで簡単に調べられるようになっている資料全般のことだ。
 これを「事業の用に供する」とは、普通なら、企業の営業活動を連想するだろう。
 だが、それだけではない。
 この「事業」という言葉は、営利活動に限定しているわけではない。たとえば、NGO(非政府機関)やNPO(非営利法人)のように、商売のために存在しているわけではない団体の活動も、「事業」に含まれるのだ。
 広辞苑によると、「事業」とは
[1]社会的な大きな仕事「慈善──」
[2]一定の目的と計画とに基づいて経営する経済的活動、とある。
 この法案でいう「事業」とは、一般に考えられる[2]だけではなく[1]も含むと考えられるのだ。
 さらに、[1]にある”社会的な大きな仕事”という意味を考えてみよう。その仕事が大きいか小さいかは、主観的な判断でしかない。つまり、法律を運用する者が「これは大きい」と判断すれば、あらゆる仕事や活動が「事業」に該当してしまう。
 このように考えれば、「事業」とは、組織として行うもの以外にも、個人として行うものも含まれることになる。なぜなら、私たち一人一人が”社会的な仕事”をしているのであり、それは立派な事業ともいえるからだ。
 同様に考えれば、「個人情報取扱事業者」とは、会社経営者のような人だけではなく、個々人にも当てはまるといえる。すなわち「パソコンを使って社会的活動を行っている国民全員」が、「個人情報取扱事業者」なのだ。

 3 私たちは何を守らなければならないの?

 法案は「個人情報の適正な取り扱い」のために、次のようなことを義務づけている。
[1]目的外利用の禁止……本人の同意がなければ、当初に予定した利用目的を超えて個人情報を取り扱ってはならない。
[2]第三者提供の禁止……本人の同意がなければ、個人データを第三者に提供してはならない。
[3]個人データの開示……本人から個人データの開示を求められた時は、その人について保有しているデータを開示しなければならない。
[4]個人データの訂正……本人から個人データが誤っているとして訂正や削除を求められたときは、必要な調査をして内容を訂正しなければならない。
 何だか、とてもいい法律のように感じませんか?
 しかし、これには大問題が隠されている。そのことについては、もう少し、後で説明しよう。

 4 誰が取リ締まることになるの?

 ズバリ、お役人である。
 法案には「主務大臣」と聞き慣れない言葉が記されているが、要するに「監督官庁」のことで、私たちにあれこれ指示をする役所だと考えればいい。
 この「主務大臣」は「個人情報取扱事業者」に対して、個人情報の取り扱いに関して報告させることができるし、必要な助言をすることもできる。
 さらに、先ほど挙げた義務の違反があった時は、「個人情報取扱事業者」に対して必要な措置をとるよう勧告することもできるし、重大な場合にはその措置を実施するよう命令することもできる。
 また、大臣の命令を守らなかったり、大臣へ報告せず、またはウソの報告をしたりすると、刑事罰も科せられることになっている。罰則は懲役6ヵ月以下、または罰金30万円以下とされている。
「パソコンを使っているなら、十分に注意しなさいよ。場合によっては罰しますからね」と、国から言われているようなものである。

 5 どうして、この法律が必要になったの?

 昨今の社会のIT化が大きく関係している。
 コンピュータの普及は、あらゆる面で、私たちの生活を便利なものにした。だが、同時に、個人にとって他人に知られたくない情報が流出しやすくなったのも事実。
 たとえば、ある日突然、見ず知らずの通信販売業者から電話がかかってきて、欲しくもない商品を購入するようにしつこく迫られたり、家族構成を知っているかのような妙なダイレクト・メールが郵送されたりと、多くの人が不愉快な思いをしたことがあるだろう。
 そのため、経済界や消費者団体から、個人情報の不正流出を防ぐための、新しい法律が必要ではないかという発想が生まれた。
 ここまでは、誰もが納得する議論だろう。
 ところが、実際に登場した法案は、そうした当初の趣旨から大幅に逸脱したものだった。ここから話がややこしくなってしまった。

 6 なぜ、多<の人が法案に反対しているの?

 たとえて言えば、この法案は劇薬のようなものであるからだ。有効な面もあるが、あまりに危険な面がありすぎるのだ。
 体調がよくない場合、私たちは医者に、もっとも効き目のある薬を適切に選んで、処方してもらいたいと思うだろう。だが、医者が症状に構わず、いつも副作用の激しい薬を処方したら、どうなるか。回復するどころか、私たちは入院する破目になってしまう。
 個人情報保護法は、これとまったく同じ事態を引き起こしてしまう恐れがある。
 私たちが求めているのは、前述したように、それぞれの人が持つ金融情報や医療情報、通信記録の情報、そして出自や思想・信条といったプライバシーに関わるさまざまな情報を、不正に扱われないようにすることである。そのためには、各分野に応じてセキュリティー対策を施すためのルールを定めればいいし、そのほうがより具体的な対策を講じることができる。それぞれの”病気”に対して、適切な”薬”を作ればいいというわけだ。
 ところが、この法案は「すべての病気を一律に治せる特効薬!」といわんばかりに、すべての分野の情報を対象としたため、すべての国民に適用されることになっているのだ。

 7 効き目はあるの?普通の人が飲んでも副作用はないの?

 他人の情報を悪用して犯罪行為や迷惑行為を働こうとする者を取り締まるためには、有効な法律で効き目もあるかもしれない。
 だが、その一方で、大変な副作用が考えられる。
 不正や疑惑を糾すといった、国民の利益にかなう調査がきわめて困難になる危険性もあるからだ。
 また、他人の情報に接するたびに、利用目的を制限されたり、第三者に教えてはならないとされたりと(第3項参照)、窮屈な思いをしなければならない。なぜなら、パソコンやディスク化された名簿を持っているあなたは「個人情報取扱事業者」であり、何らかの事情で情報の取り扱いを誤れば、意図的であろうとなかろうと、法律違反に問われる恐れもあるからだ。
 ありそうな例を挙げれば、次のようなケースも考えられる。
 A大学出身のあなたがB大学出身の友人の営業マンから、「A大学にいた友人たちに手紙を書きたいから、君の大学の同窓会名簿を貸してくれ」と頼まれたとしよう。もし、あなたが言われたとおりに名簿を貸し、さらにその友人が手紙を書くだけではなく、後年になって自分の営業のためにも使ったなら、二重の意味で個人情報保護法違反となる。あなたは「本人の同意もなく個人データを第三者に提供」し、友人の営業マンは「本人の同意もなく個人データを目的外利用」したことになるからだ。
 法律を適用すればそうなる、といえばそれまでだが、日常生活において、他人の個人情報の利用や交換が非常に難しくなるのは間違いないだろう。個人情報を扱うたびに戦々恐々とする社会が、はたして健全といえるだろうか?
 この法案は、いい意味での情報の広がりを阻み、日常生活を不健全なものとするという危険性を持つ。まさに、「角を矯(た)めて牛を殺す」法律になりかねないのだ。

 8 「不正や疑惑を糾すのが難しくなる」とは、どういうこと?

 前項で述べたことを、もう少し詳しく説明しよう。
 この法案の最大の欠陥は、個人情報の収集目的も、その収集する個人情報の対象者もいっさい区別せず、すべて同一に扱い、厳しく制限しようとしていることだ。
 これをもっとわかりやすく言うと、隣人のプライバシーを覗き見して情報を集めようとするストーカーを取り締まるための厳しいルールを、政治家や官僚、企業などの不祥事を追及するために情報を集めようとする市民にも適用するということだ。両者の立場はまったく違うのに、だ。
 後者の、政治家や官僚、企業の不祥事を暴こうとする市民への影響を考えてみよう。この市民の代表例には、メディアやNPO、NGOを挙げるとわかりやすい。
 たとえば、昨年は食品の安全問題が大きな話題となった。添加剤としてどのようなものが使われているかとか、汚染された食品が利用されていないかといったことについて、消費者は強い関心を持っている。そのための活動をしているNPOやNGOが多いことは、ご存じだろう。
 このような食品の安全性に関する情報は、直接的には企業の情報であり、個人の情報そのものではないかもしれない。だが、その情報のなかに、責任者の名前が記載されていれば、その情報は、企業の情報であると同時に個人情報ともなってしまうのだ。
 あるNPOが、食品汚染の疑惑がある会社を調査したとしよう。だが、核心まで迫った時に、調査活動に気づいた社員が「私についてどのような情報を持っていますか」と尋ねてきた。その社員は、じつは疑惑の渦中にある人物だったが、この法律ができてしまえばNPOは調査の目的を明かさなければならない。応じなければ、役所に訴えると脅されるからだ。そして、調査意図を聞き出した社員は、慌てて重要資料を改竄(かいざん)してしまった──。
 役所側としては、「やましい意図で調査しているのでなければ、その社員から訴えられても堂々と受ければいい。その調査が妥当かどうか、私たち役人が判断してあげるから、NPOは事情を話しなさい」と言うだろう。だが、そんな面倒なことをくり返せば、調査活動が大幅に遅れてしまううえ、その間に、企業が不祥事を組織ぐるみで隠蔽する恐れもある。

 9 善意の社員が会社のために内部告発する場合は?

 また、組織の不祥事を内部告発によって明らかにしようとする場合は、さらに厄介だ。
 内部告発というと聞こえが悪いかもしれないが、昨年、米国ではエンロンという会社の不祥事が内部告発によって発覚。米国の経済史上最悪の不祥事といわれるほどの大事件に発展したのだが、この内部告発者は社会に大きく貢献したとして賞賛され、映画化されることも決定した。社会の健全な育成のためにも、内部告発は不祥事に対して、非常に重要な抑止力となると認められているのだ。
 だが、個人情報保護法が成立すれば、内部告発を行うこと自体が困難になる。個人情報を集めて、外部に伝えようとすれば、違法行為となってしまうからだ。個人データの目的外使用、第三者への不当な提供などに該当するからだ。
 法案では内部告発について、簡単に言えば、「あなたたちが報道機関に、報道目的のために他人の個人情報を渡す場合は、主務大臣は関与しません」と記している。
 これを読んで、「内部告発は法律上、問題ないじゃないか」と思ったら、じつは大間違いである。
 ここで言っているのは、単に内部告発者に刑事罰(懲役・罰金)は科さないということで、合法行為と認めているわけではない。つまり、個人情報保護法違反であることには変わりないのだ。企業側は内部告発者を「違法行為を働いた」として訴えることができるし、損害賠償を求めることもできる。そういう意味なのだ。
 内部告発者はまったく守られていないのである。

 10 でも、報道機関は罰則規定から除外されているのでは?

 確かに、法案では、個人情報の取り扱いが報道目的でなされる場合には、個人情報取扱事業者としての義務は適用されないこととされている。端的にいえば、言論の自由を守るために、政府はメディアヘ不当に介入しませんよ、と言っているわけだ。
 だが、ここにも言葉上のまやかしがある。
 法案には「報道」の定義として、「不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること(これに基づいて意見又は見解を述べることを含む)」とある。またもや、何のことやらさっぱりわからないだろう。
 定義によれば、「不特定かつ多数」を対象としなければ、「報道」にはならないという。たとえば、NPOの機関紙(誌)や社内報、メール・マガジンなどは「特定の会員や社員だけを対象としている」という理由で「報道」と認められないことになる。
 つまり、新聞やテレビなどの、いわゆるメディア産業に携わる人々と、それ以外の人々とでは、情報にアクセスする際の条件が、まるっきり違うということになる。皮肉な見方をすれば、メディアに携わる人々は「特権階級」になるわけだ。
 しかし、これでメディアが安心できるかといえば、それは大間違い。そうした「特権」という”アメ”と引き換えに、取材活動を規制するという”ムチ”も用意されているからである。
 この”ムチ”を読み解く鍵となるのは、「客観的事実を事実として知らせる」という奇妙な定義だ。
 ここに隠された意図とは、政治家や役人が「報道」かどうかを判断する権限を持つということだ。
「客観的事実」とは政府や企業が公的に発表する情報であり、さまざまな情報を組み合わせて類推される情報や評論などは「客観的事実とはいえない」という論法も成り立ちかねない。
 これが非常に危険なのは、為政者が、自分たちにとって都合の悪い情報は「報道ではない」と決めつけることができるからだ。
 実際、最近も、疑惑を報道された政治家や官僚が「単なるプライバシーの暴露であり、報道ではない」と猛反発し、訴訟を起こすというケースが多発している。
 2000年秋に中川秀直官房長官(当時)の女性スキャンダルが報じられた際、自民党の野中広務代議土と亀井静香代議土が「こんなものは報道ではない」と激高したことは、記憶に新しい。このことを思い起こせば、「報道か否か」の判断権を手中にすることがいかに重要なのか、理解しやすいだろう。
 もし、「報道ではない」とされたら、主務大臣は、どのように個人情報を収集しているか、どのような情報を収集しているかについて「報告」を求め、また「このようにしてはどうか」という「助言」をすることができる。助言に応じなければ罰則が待っている。
 日常的にこのように干渉されれば、メディアの自律性が失われ、国民の「知る権利」も奪われることは自明の理である。

 11 この法案はどうすればいいの?

 個人情報保護法は、社会のほぼすべての人と団体の活動を対象として、これに対して監督官庁が干渉できるようにしている。個人の自律や自己責任が強調される中で、役所の権限がこれほどまでに増大するのは異常としか言いようがない。これが認められれば、官庁は現代社会の要である「情報」を自在にあやつり、好ましくない情報は流通しないようにすることが可能になる。
 現行の個人情報保護法案は、あまりにも問題が多すぎる。この法案は廃案として、真に保護の必要性が高い金融情報や医療情報の適正な利用に絞った法案の作成から、再スタートすべきであろう。


 ●Part.2…パソコン持ってるだけで罰則の対象に「これもダメ、あれもアウト」恐怖のトラベル事例10

        ※        ※
 インターネットの普及により、わが国は急速に情報化が進んだ。これにより、従来では考えられなかった「情報」をめぐるトラブルも頻発している。現在、そして近い将来、われわれの社会はどうなるのか。その実例集を紹介しよう。
        ※        ※

 1 パソコン使用者はみんな監視の対象に

 あなたが仲間と一緒に、ホームページ(HP)を立ち上げている場合を想定しよう。
 HPは非常に人気が高く、5000人以上の人々がアクセスするようになった。そして、配信する情報は一種のメール・マガジンにまで成長した。あなたは立派な「個人情報取扱事業者」である。
 そんなある日、日本が大国に追随して、戦争に参加しかねないという情勢になった。
 あなたたちは「戦争反対!」を主張して、HP上で大アピール。世間の注目を集める存在となったが、これが政府に睨まれた。
 反戦の気運が高まれば、世情が不安定になる。そんな危機感を抱いた政府は、「個人情報が漏れている疑いがある」「あなたたちが批判している政治家に関する記載に、事実誤認がある。データを正しく改めなさい」などと、さまざまな理由をつけて、あなたの活動について報告を求め、さらに逐一、指導もするようになった。
 あなたが政府の求めに応じなければ、最終的に待っているのは懲役や罰金。結局、活動資金も底をついたうえ、仲間も嫌気がさして離れたために、泣く泣く解散する破目になってしまった。

 2 疑惑取材はすぺてお断り

 フリーライターであるあなたが「某閣僚が裏金を受け取っているらしい」という話を聞き、さっそく、その閣僚の取材を開始。そして、現場で、某新聞社の記者も取材を進めていることを知った。
 すると、閣僚本人が姿を現して、こうまくし立てた。
「お前たちは私のことを調べているようだが、いったい何のためにやっているんだ。意図と、今までに集めた情報を教えろ。これは個人情報保護法に基づいている」
 あなたは「報道活動だから、法律の対象からは除外されている」と反論したが、閣僚は「報道は客観的事実を伝えるものだ。私は裏金なぞ受け取っていないから、疑惑は存在しない!だから、お前がやっていることは報道じゃない!第一、お前はライターというが、実績はあるのか?どこの社に所属しているんだ」と激高。
 悪いことに、あなたは新人ライターで、まだ実績がないうえ、特に所属先の会社が決まっているわけでもなかった。さらに収入を補うために、家業のパン屋も手伝っていた。
 この時点で、一緒にいた新聞記者は「疑惑は客観的事実とはいえない」という言い分に屈して、撤退してしまった。
 あなたはなおも粘るが、結局、役人が飛んできて、こう言った。
「まあまあ。先生もああ言っていることですし、とりあえず、取材趣旨を教えてください。あなた、著述業?何か実績があるの?ない?実家のパン屋さんも手伝ってる?う〜ん、だったら、あなたはパン屋さんじゃない?もしくは家事手伝いか、フリーターってところだね。『報道機関」の枠には入らないよ。個人情報の取得や使用の目的などについては、先生に了解を得なければなりませんよ」
 かくして、疑惑は藪の中……。

 3 医療情報はまる裸

 本当の意味での個人情報といった場合、もっとも守ってほしいのは医療情報である。
 現代では、医療技術の発達により、血液一滴からいくつもの医療情報がわかってしまう。しかも、遺伝情報の解明によって、その個人が将来、どのような病気に罹るかも判明する可能性がある。
 この法案は、基本的には医療情報も適切に扱うように求めているが、じつは「公衆衛生の向上」のためなら、「目的外利用」や「第三者への提供」が認められるという例外規定も設けられている。つまり、絶対に他人に知られたくない医療情報が他人の手に渡ることもありうるのだ。
 たとえば、SARSのような謎の病気が流行したとしよう。その場合、厚生労働省や病院、製薬会社は合法的に不特定多数の人々の医療情報を集積できる。この時は病気の蔓延を防ぐために、有効利用されるだろう。
 ところが、いったん集積された医療情報は返却のしようがない。数年後、この医療情報を密かに保険会社に売りつける不届き者がいたら……。彼は個人情報保護法の禁止事項に違反したとして巨額の損害賠償を科せられるかもしれないが、われわれの医療情報は奪われたままになってしまった。

 4 AV愛好看は性犯罪予偏軍にリストアップ?

 あなたが住んでいる街の周辺で性犯罪が頻発し、容疑者が捕まらないとしよう。
「AVを見すぎた者が、現実に実行しようとして起こした犯罪に違いない」と睨んだ警察は、レンタル・ビデオ店で顧客情報を手に入れようとした。個人情報保護法では「第三者への提供」は禁止されているが、警察は「個人情報保護法では、ほかの法令に基づく場合は第三者への提供も認めている。警察の捜査は警察法と刑事訴訟法に則っている」と主張して、顧客情報を持っていってしまった。合法行為だから、何の問題もない。
 その後、事件は解決したが、警察は「AVやバイオレンス映画を実際の犯罪に使用する者がいるかもしれない」と考えて、参考資料としてビデオの趣味・嗜好を表したリストを作成した。
 あなたがAVやバイオレンス映画が好きで、何本もこうした作品を借りていた場合、性犯罪予備軍や暴力犯罪予備軍として密かに分類されてしまう恐れもある。ビデオ店の会員登録の際に、運転免許証や保険証を見せているから、身元もすぐに割れてしまうだろう。

 5 支持する政党を知られてしまう

 個人情報保護法では、政治団体が政治活動に使う目的で個人情報を取り扱う場合には、個人情報取扱事業者としての義務は及ばないし、主務大臣の権限も及ばないとされている。だが、国民がどの政党を支持しているか、どのような政治的信条を抱いているか、そうした思想に関わる情報が守られるかどうかは、疑問である。
 たとえば、あなたが野党の元代議士で、会社役員でもあるとしよう。あなたは前回の選挙で敗れて浪人中。現在は政治活動を一時休止しているが、まだ引退宣言はしていない。現職の与党代議士と再び争う意思も、なくはない。
 政治家にとって後援会名簿は、何よりも大切なものだ。だが、ライバルの与党代議士は一計を案じた。次の選挙を有利にするためにあなたの後援会名簿を手に入れようとした。
 そこで、与党代議士は「私の選挙区の元代議士は、事実上引退しているのに、どうやら後援会名簿を自分の仕事に転用しているようだ。これは個人情報保護法でいう『目的外使用」のはず。会員の同意を得て、再び使用しているかどうか、後援会名簿を提出させて調べてほしい」と、役人に訴えた。
 役人は名簿を記録したディスクの提出を求めた。当然、あなたは拒否するが、役人はこう迫る。
「あなたは落選中で、現在の職業は会社役員でしょう。それに、政治活動は中止している。ならば、個人情報保護法の義務規定の対象となります」
 こうしてディスクは役人の手に渡ったが、この役人はなんと、与党代議士と気脈を通じた仲。かくして、あなたの大切な後援会名簿はライバルの知るところとなり、当然、会員の個人情報まで漏れてしまった。

 6 危険人物としてマークされる

 大学生のあなたは、テロリズムや爆弾、化学兵器などの情報を、パソコンを使って調べていた。テロに関する論文を作ろうと思ったからだ。あなたは外国のサイトも閲覧して、資料の収集に励んだ。そのなかには、当然、各種の個人情報も含まれている。
 だが、一部には違法サイトもあり、これが「不正な情報の取得」として監督官庁の知るところとなった。役人からあなたの情報を横流ししてもらった警察はあなたを危険思想の持ち主と勘違いして、マークしはじめた。
 幸い、逮捕されなかったが、警察の資料には要注意人物として、あなたの名前が記された。

 7 内部告発は不可能になる

 ある企業の社員のあなたは、上層部ぐるみの不祥事を知った。何とか悪事の拡大を止めたいが、社内でアピールしても潰されるのがオチ。そこで、知人の新聞記者に伝えて不祥事の一端を報じさせ、社内の浄化を図ろうとした。
 あなたは記者から「上層部の人々を取材するために、彼らの住所を教えてくれ」と頼まれたが、ここでハタと気づいた。あなたはモロに個人情報保護法に引っかかってしまうのだ。
 というのも、新聞記者は「報道活動」のため、個人情報保護法の制限から外れるが、情報を流したあなたは、刑事罰は逃れるが、違法行為を働いたことに変わりはないからだ。万一、情報を流したことがバレたら、会社側から損害賠償訴訟を起こされるだろう。
 やむなく、あなたは記者に取材の中止を依頼。不正を見て見ぬふりをしたが、1年後、不正が摘発されて会社は倒産。あなたは路頭に迷ってしまった。

 8 読者アンケートから信条や趣味が漏れる

 あなたが、出版社や新聞社の営業部員であるとしよう。あなたの仕事は定期購読者の名簿や、プレゼント・コーナーに応募してきた読者のはがきを、パソコンに入力して管理することである。
 ところが、ある日突然、役人から「貴社の顧客名簿と称するものが出回っている。照合する必要があるから原本を提出しなさい」という指示がきた。
 あなたは報道機関に属するとはいえ、パソコンに入力した個人情報は「報道目的」で入手したものではないから、個人情報保護法の義務規定が適用になる。つまり、基本的には役人の指示に従わなければならないのだ。
 しかし、雑誌や新聞によっては購読者の信条や趣味などの情報を反映しているものも多い。
 お上の本当の狙いが、すべての出版社や新聞社の購読者情報を集めて、大リストを作ることにあったとしたら……。
「この読者は週刊○○もXX新聞も読んでいるから、左翼的志向が強そうだな」
「この読者はエロ本マニアらしいな。性犯罪予備軍かもしれない」
 こんな調査結果を出すための野望に手を貸したら、購読者への裏切り行為になってしまう。

 9 会社で使用する顧客名簿は部下に託せない

 あなたが会社経営者で、顧客情報を預かる責任者だったとする。
 あなたの会社では膨大な顧客名簿を、デスクトップのパソコンに入力して保存している。
 個人情報保護法では「個人情報取扱事業者」に安全管理の義務を課している。従業員や委託先に対しても、情報が適切に取り扱われるよう監督しなければならない。
 ある日、部下の一人が転職して退社したが、どうやら転職先でディスクに落とした顧客名簿を使用しているらしい。彼は「自分の顧客でもあったから転用しても構わないはず」というが、厳密には「目的外使用」に該当して法律違反となる。ただ、あなたの会社には、転職の際に顧客情報を持ち出すことを禁じた内部規定がなかった。
 一部の顧客からも「自分の知らない会社から営業電話がかかってくるが、お宅から漏れたのでは」と指摘され、結局、あなたは個人情報保護法に違反したとされた。
 以来、あなたは部下にはデスクトップを触らせず、自分が目を離す際には必ず、パソコンにロックをかけなければならなくなった。その結果、あなたが不在の緊急時に顧客名簿を閲覧できる者がいなくなり、業務に支障をきたした。

 10 会祉が訴訟を起こされて次々と倒産する

 現在、一部では、個人情報を漏洩した企業に対して集団訴訟を行おうとする動きがある。
 最近、企業のホームページに集積された個人情報が内部の社員によって持ち出され、不正販売されるという事件が頻発している。また、事故によって流出したという例も多い。こうした企業の責任を追及しようというわけだ。
 被害者の怒りはもっともだ。しかし、その結果、企業が大打撃を受ける可能性はきわめて高い。というのは、一企業に数万人分の顧客情報が集積されているのはザラで、小さな会社でも、ホームページを開いて顧客情報を集めていれば数百人、数千人単位の情報が寄せられるからだ。ネット上でプレゼント企画でもしようものなら、あっという間に数万人がアクセスするだろう。こうして集めた個人情報を、絶対に漏らさないようにしなければならないのだが、なかなかそうもいかないのが現実だ。
 専門家によれば、「集団訴訟に伴う困難はあるが、仮に一人1万円の慰謝料が認められでもすれば、その金額は膨大になる」という。
 1万人に1万円ずつ支払うとしたとしても1億円もかかってしまうのだ。
 会社が大きければいいが、小さければ支払いに応じる資金力もないだろう。最悪の場合、会社は倒産してしまうかもしれない。


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 こんな悪法が成立したら薬害エイズ事伜は再び起きる
 川田悦子(代議士・無所属)

 かわだ・えつこ
 1949年生まれ、福島県出身。1993年、次男・龍平氏とともに東京HIV訴訟原告団に参加。訴訟和解後の2000年、衆院補選に出馬し、当選した。「いのち」と「人権」を守るために、厚生労働委員会で奮闘中。

 私は薬害エイズ訴訟の原告として、国を相手に闘い、そのとき、この国の官僚のやり口を嫌というほど見せつけられてきました。
 薬害エイズ事件は、国が血友病患者へのHIV感染を隠し続けたことで、被害が拡大していきました。国が適切な措置をとっていれば、500人もの血友病患者が命を奪われることはなかったはずです。しかし、官僚は製薬企業や医師の利益を優先し、血友病患者を見殺しにしたのです。
 もう一つ、言いましょう。情報公開法が施行されて2年が経ちました。しかし今、国民が国の情報に触れることは、これまで以上に困難になっています。官僚が文書を残さなくなっているからです。都合の悪いことは徹底的に隠す。それが官僚という組織なのです。
 私は今、「内部告発者保護法」を成立させようと、活動を続けています。企業や役所の不正を告発しようとする、勇気ある人を保護するためのシステムを作りたいと考えています。
 雪印食品や日本ハム、東京電力などの不祥事はすべて、内部告発によって明らかになりました。内部告発がなければ、これらの悪行は埋もれたまま、私たちの安全は脅かされ続けていたでしょう。
 個人情報保護法が成立すると、内部告発は常に、違法と背中合わせの行為となってしまいます。官僚が情報を独占し、私たちの知る権利は制限される。その先に待っているのは、第二、第三の薬害エイズ事件であり、罪のない子供たちの死なのです。
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 【緊急アッピール】
 『個人情報保護法案』は雑誌を黙らせる法律です!
 社団法人 日本雑誌協会

 いま戦争報道の陰で、言論・表現の危機が迫っています。
 新聞・テレビではあまり報道されませんが、今国会で新「個人情報保護法」案が短期間審議で、強行されようとしているのです。
 昨年メディア規制法案のひとつとして、新聞・放送・出版・通信各社や多くの作家・ルポライターなどが反対して廃案になった法案が、装いを新たにまた提出されてきたのです。
 今度は反対されていた昨年の法案の「基本原則」を取り払うなど一定の配慮はなされています。しかし、言論・表現の自由に関わる最も重大な条文は改悪されたり、厳しい規定が盛り込まれたりしているのです。
 まず、個人情報保護法案の適用除外規定の基準となる「報道」の定義が「不特定かつ多数の者に対して客観的事実を事実として知らせること(これに基づいて意見又は見解在述べることを含む)」という極めて狭義なものとされ、この概念通りに主務大臣が「報道か否か」を決めるとなると、万人が知るニュース報道とその論評以外は、すべて「報道ではない」と判断されかねません。
 出版社の発行する週刊誌、月刊誌、写真誌などは「客観的事実を事実として知らせる」だけの媒体とはいえません。むしろ、誰も気づかない、隠された事件の真相や政治家の汚職、不正、道徳的堕落などを取材して記事にすることがメディアとしての使命と考えています。これは極めて手間暇のかかる仕事です。誤解を恐れずに言えば個人情報の積み重ねなのです。そのいわば「予備取材」「先行取材」の段階で「報道」の概念を適用されるとどうなるでしょう?たちまち「個人情報保護法」違反で、主務大臣のストップがかけられます。不正を調べ始めることさえできなくなります。昨年から今年にかけて辞任が相次いだ政治家の数々のスキャンダル報道などは、そのほとんどが雑誌記事なのです。だからでしょうか、個人情報保護法の適用除外規定には「放送機関・新聞社・通信社・その他の報道機関(報道を業とする者)」としか記されず、「出版社」「雑誌」は明記されていません。
 法律の解釈・運用は条文に記されているか否かがすべてです。「雑誌を黙らせる」政治的意図を見て取るのは、われわれの杞憂でしょうか。
 日本には憲法二十一条の一項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」という民主主義を支えるテーゼがあります。いまそれが風前の灯火なのです。巨悪の逃げ道を公然と作ってよいのでしょうか?
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