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水素エネルギーの限界と二酸化炭素地中貯留プロジェクト[ヴィニッチの科学書]
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投稿者 傍らで観る者 日時 2004 年 12 月 11 日 15:54:24:ayjHlPlEsGXTU
 

Chapter-39 2004年7月3日水素エネルギーの限界と二酸化炭素地中貯留プロジェクト

水素燃料電池はエネルギーを供給した後に水しか出さない究極のクリーンエネルギーとして注目されています。メタノール改質燃料電池を搭載したパソコンの発売が決定したり、携帯電話のバッテリーに使える超小型の燃料電池が開発されたりと燃料電池の将来は明るいように見えます。が、燃料電池の研究者が最近頭を抱えているのは、燃料電池は実はクリーンではない。たとえば、電気自動車の電源に燃料電池を採用するとガソリンや軽油を使った内燃機関の自動車よりも空気を汚してしまうという問題(*)です。

(*) エネルギーの使い道はいろいろあるにもかかわらず、ここで自動車にこだわる理由を述べておきます。アメリカの例ですがアメリカでは1日に32億リットルもの石油が使われています。このうちの2/3が自動車、列車などの輸送機関によって消費されていることがわかっており、自動車や列車に搭載されている内燃式のエンジンを別のクリーンな動力に置き換えることは地球環境を守るに当たってもっとも効率の良い方法であるので、一般に議論は自動車のエンジンをどうするかということを中心に行われています。

 その理由は、燃料電池のエネルギー源である水素は天然に単体で存在しないため、水素を製造するには当面、水の加水分解に頼らねばならず(*)、その電源を得るために石炭、石油などの温暖化ガスを排出する化石燃料などを使用しなければなりません。その結果、トータルでの環境負荷は例えば車の動力源として考えた場合などはかえって悪化してしまうと思われるのです。

(*) 水素の供給方法は様々ありますが、現在の技術や政治経済状況から判断すると、水の電気分解がもっとも実現が容易で安全であると考えられます。

 水の電気分解のためには電気が必要で、そのために化石燃料を使うと水素を作る過程で大量の温暖化ガスを発生してしまいます。では風力や太陽電池のようなクリーンな発電を使えばよいかというと、これらで得た電気で水を電気分解して燃料電池として使うより、クリーンな電気でそのままモーターを回した方があらゆる点で効率が良く、燃料電池にする意味がありません。

 また、水素を安全に輸送、貯蔵する技術、水素火災に対応する技術も未だ確立されていません。このように水素をエネルギー源とするためには解決しなければならない問題が山積みなのです。

 メタノール改質燃料電池の場合は、パソコンのような小型の物には有効かもしれませんが輸送機関を動かすような大きな電力が必要な場合にはエネルギー効率の点でジレンマがあります。現実に水素を炭化水素から取り出すとなるとその原料は工場でコストをかけて精製したメタノールを使うのではなく、天然ガスが有望であると考えられますが、天然ガスはタービン発電技術が確立されており、これは60パーセントもの高い効率で発電することができます。石炭火力発電の効率が30パーセントであることを考えると天然ガスを燃料として発電することは理想的な方法で、限られた資源である天然ガスからわざわざ水素を取り出すことは望ましくありません。

 また、環境問題の他にも燃料電池のユーザーになった場合の問題点は端的にはコストが5倍になるという問題もあります。従って当面はメタノールを燃料として小型電器製品向けの範囲内で実用化が進むと思われます。ということは化石燃料消費の2/3をしめる輸送機関はこれからも二酸化炭素を放出し続けるということになります。そこで、この発生した二酸化炭素を上手に処分しようというプロジェクトが世界各国で進んでいますが、日本での状況を次に紹介します。

 それは、財団法人地球環境産業技術研究機構が行う「CO2地中貯留プロジェクト」で、新潟県長岡市の天然ガス採掘場跡地の地下1000メートルの帯水層(*)に二酸化炭素を送り込んで貯留する実証実験です。

(*) 帯水層とは粒子間の隙間が大きいために水や気体を通しやすく通常は地下水で満たされている地層で例えば砂岩などが該当します。

 人類の活動により発生する二酸化炭素は全世界で年間約240億トンといわれています。二酸化炭素の発生量を減らすことが非常に困難であることがわかってきた現在、発生した二酸化炭素を大気から隔離する技術は世界的な注目を集めています。世界各国が協力して当たるこのプロジェクトでは人類が発生する大量な二酸化炭素のうちの十分な量を隔離可能な当面、数百年から数千年隔離することを目指して研究が進められています。

 二酸化炭素圧入実証実験基地は新潟県長岡市の岩野原CO2圧入実証試験基地でタンクに蓄えられた液体に酸化炭素をポンプでくみ出し、深さ約1100メートルの井戸を通じて帯水層へ送り込む施設です。このプロジェクトは平成12年から5年間にわたるプロジェクトで今年が最終年度となります。また、今からちょうど1年前に二酸化炭素の圧入が開始され、4月末の時点で4万トンの二酸化炭素が地中に処理されました。

 この方法はすでにノルウェーの国営石油会社で運用されていますが日本で実証試験を行う目的は日本の複雑な地層の中での二酸化炭素の振る舞いを確かめることにあり、二酸化炭素が送り込まれた地層の様子を確認するために温度や圧力の測定やガンマ線、中性子線、音波などを用いた物理検層と呼ばれる測定が行われています。

 地球物理的な問題の他にコストの問題もあります。1トンの二酸化炭素を分離回収するために4900円、輸送するために1700円。さらに地中への圧丹生に数百円を要します。日本では1kWhの電気を作るために379グラムの二酸化炭素を排出していますので発電で発生した二酸化炭素をすべて隔離するとすると1kWhあたり3円程度の負担となります。この負担を社会が受け入れるかどうかも問題なのだそうです。

 日本国内および日本近海の帯水層は約900億トンの二酸化炭素を貯留する能力があると思われており、この処理能力は日本の二酸化炭素発生量の70ないしは80年分に相当するそうですが、ただ、この技術を大規模に本格的に実施するに当たっては長期安全性の評価などの課題があり、この点について世界各国と協力して問題を解決すべくプロジェクトが進んでいます。

参考文献
日経サイエンス 2004年8月号
財団法人 地球環境産業技術研究機構Webサイト
The Journal of The Institute of Electrical Engineers of Japan Vol.124 No.2 2004

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