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連載第五回 社会システムとは何か(MIYADAI.com)
http://www.asyura2.com/0401/dispute16/msg/141.html
投稿者 まさちゃん 日時 2004 年 1 月 07 日 13:09:59:Sn9PPGX/.xYlo
 

(回答先: 連載第六回 構造とは何か(MIYADAI.com) 投稿者 まさちゃん 日時 2004 年 1 月 07 日 13:06:33)


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連載第五回 社会システムとは何か
http://www.miyadai.com/message/?msg_date=20030815
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■連載の第五回です。前回は「秩序とは何か」でした。秩序とは、複雑性が相対的に低い状態でした。複雑性とは、与えられたマクロ状態に含まれる、ミクロ状態の違いによって区別された場合の数です。秩序とは、場合の数が少なくて生起確率の低い状態のことです。
■色だけ違う白玉と黒玉を十個ずつ入れた瓶をシェイクしたとき、遠くから見てグレーに見えるように混ざったマクロ状態と、上に白玉、下に黒玉ばかり集まったマクロ状態では、後者が秩序立っています。そこに含まれる場合の数が少なく、生起確率が低いからです。
■日常語では、進化した生物のように込み入った構造をもつ秩序を複雑だと言います。これは記述に必要な情報量のことで、システム理論では複合性に当たります。複合性の高い(日常語では複雑な)秩序ほど、場合の数が少なくて生起確率が低いので、複雑性は低い。
■社会学は定常システム概念を採用しますが、無限波及的均衡が秩序を構成する均衡システムと違い、定常システムは要素間の交互的条件づけという内部メカニズムの永続的作動で、確率論的にありそうもない状態を維持します。内部的作動による秩序維持と言います。
■定常システムは、内部的作動を永続させることで、システムと環境との間の複雑性の落差──環境よりも複雑性の低い状態──の維持という課題に応えます。内部的作動による境界の維持というダイナミズムに注目するところが、定常システム概念の認識利得でした。

【社会システムが行為を要素とするとは】
■さて第四回「システムとは何か」、第五回「秩序とは何か」で説明してきたこと──定常システムや複雑性の概念──は、社会システムに限らず対流から生物有機体まで含めた多様な対象に適用できます。でもまだ社会システムに固有の問題には立ち入っていません。
■定常システム一般の中で、社会システムはどんな固有性を持つのか。これが今回のテーマです。実は社会システムには、対流から生物有機体まで含めた物理的なシステムとは異なる奇妙な性質があります。キーワードは「意味」「行為」「コミュニケーション」です。
■目の前で行われている野球のゲームを考えてみます。社会システム理論は、これを内部的作動により境界の維持(自己維持という)を行うシステムとして記述します。一見、行為を要素とする関係が、複雑性の低い状態を自己維持する態様を記述すれば足りそうです。
■ところが、行為がその行為である、行為と行為の関係がその関係である、といった要素や関係の同一性は、物理的な記述によっては与えられません。物理的なシステムにはあり得ないことです。例えば火星人が地球に降り立って野球を観察する場合を想定してみます。
■火星人には個体の物理的な行動や個体間の行動連鎖が見えます。ある個体から球体が投げ出され、別の個体が棒状の物体で打ち返し、右方向に走り出す。こういう記述を幾ら積み重ねても眼前の野球の記述になりません。火星人が行動の「意味」を知らないからです。
■すなわち社会システムの要素や関係の同一性は、物理的ではなく意味的なものです。だから社会システムの秩序──確率論的なありそうもなさ──とは、「有意味な行為の間の有意味な関係」が本来ありうるよりもずっと少ない場合の数しか取らないということです。
■火星人が眼前の野球ゲームを記述できるようになるには、時間がかかります。火星人は、言語の習得と似たプロセスを辿りつつ、行為の意味や、行為と行為の関係の意味を掴めるようになります。かくしてようやく社会システムとしての野球ゲームの記述に至るのです。
■社会システム理論では、同一性が物理的に観察されるものを行動、同一性が意味的に記述されるものを行為と呼びます。社会システムの要素は行動でなく行為です。行為の意味的同一性は、野球なら野球のゲームを、内側から生き得る内的視点に対して与えられます。
■すなわち火星人が眼前の野球ゲームを記述できるようになるとは、プレイヤーが何をしているかが分かるようになることであり、プレイヤーの視点を取れるようになることです。野球を例にしましたが、家族を、企業を、教団を、記述できるようになる場合も同じです。

【社会システムがコミュニケーションから成るとは】
■均衡システム概念を採用していた70年代まで、社会システムの要素は行為だとされました。ところが定常システム概念を採用するようになるにつれて、社会システムの要素はコミュニケーションだ、社会システムはコミュニケーションから成り立つと言われ始めます。
■誤解されがちですが、こういう意味です。行為は別の行為との意味的な関係でしか意味を持ちません。投球という行為は、打撃という行為を後続させうる限りにおいてのみ投球です。逆に打撃という行為は、投球という行為を先行させうる限りにおいてのみ打撃です。
■社会システム理論に限らず、システム理論では、選択と選択との時間的な接続をコミュニケーションと言います。人文諸科学でコミュニケーションというと、メディアで繋がれた送信機と受信機を挟む二人の間でメッセージが伝わることを言いますが、違う概念です。
■システム理論のコミュニケーション概念を使えば、行為は必ずコミュニケーション(選択接続)において意味を与えられるということになります。ロビンソン・クルーソーのように一人ぼっちの離れ小島で摂る食事はどうか。結論的にはやはり同じことになります。
■ハイデガーの用在性の概念がヒントになります。バットがバットという用在(道具)なのは打撃行為を潜在させるからです。同じく一人摂る食事が食事なのも「食休みしてから運動しろ」といった忠告などを(本国に帰れば)後続させる可能性を潜在させるからです。
■社会システムの要素たる全行為は、潜在的な(先行的・後続的)選択接続の可能性の束によって有意味性を与えられます。社会システムがコミュニケーションから成り立つとは、選択接続の潜在的可能性によって同一性を与えられる行為を要素とするという意味です。

【行為の「出来事」性と「持続」性】
■行為の同一性が、物理的なものでなく、意味的なものだということが、さまざまな問題を派生します。今まで「意味」という言葉を無定義で使って来ましたが、これを定義する前に、行為の同一性が意味的であることで派生してくる問題を簡単に一瞥してみましょう。
■「意味がある」というとき、「モノがある」という場合とは異なる「持続」が含意されます。格言的に言えば「モノは消えても、意味は残る」ということです。行為の同一性が意味的なものだというときにも、この「持続」が、独特の機能を果たすことになります。
■物理的に言うと行為は時点的です。つまり「行為がある」は「モノがある」とは違います。行為は起こった瞬間に消えます。行為は生成消滅します。だから哲学的に言うと、行為は「出来事」的側面を持ちます。ところが他方で、行為は「持続」的側面をも持ちます。
■僕が恋人に嘘をつくとします。嘘をついたのは某年某月某日の何時何分です。物理的には時点的。哲学的には「出来事」的です。何時何分で終わりです。ところが意味的には「持続」しています。「出来事」自体は消滅しているのに、嘘をついたことは取り消せません。
■取り消せないので、恋人による非難が後続しえます。恋人による非難も同じで、「出来事」として消滅しても、僕が非難されたことは取り消せない。だから、僕による謝罪が後続しえます。つまり「持続」という性質ゆえに行為と行為は選択接続の可能性を持ちます。
■かくて、行為を要素する社会システムを、あえて「社会システムはコミュニケーションから成り立つ」と言いなす意図も、一層明確になります。行為は物理的に生成消滅しても、意味的に「持続」するので、たえず選択接続に道を開く、ということを示唆したい訳です。

【意味の機能とは何か】
■これを踏まえて「意味とは何か」を機能的に記述します。第一に、意味は「示差的」です。それゆえに第二に、意味は「二重の選択性」を与えます。それゆえに第三に、意味は「否定性」を帯びます。それゆえに第四に、意味は「選び直し」を可能にします。
■第一の「示差性」とは何か。これはソシュールの概念です。古典的には、同一的な事物(概念)に名前(音声)を割り振ったものが言語です。彼はそれを逆転し、互いに区別される(=示差的な)音声によって、世界を適当に分割したものこそ概念なのだとしました。
■イヌ/オオカミ/キツネ/タヌキ…といった「示差的」な音声区別に対応して、存在界が勝手に分割され、犬/狼/狐/貍…なる概念(の対応物)が与えられる訳です。「示差的」な音声体系が異なれば、概念分割も異なってきます。これを「恣意性」と言います。
■第二の「二重の選択性」とは何か。何かを差し出されて「コレは何か」と尋ねられたとします。同じモノでも「コップです」とも「ガラスです」とも答えられます。なぜこうしたことがありうるのでしょうか。それは、意味が「二重の選択性」を可能にするからです。
■先の話を踏まえれば、「コップです」と答える場合「カップでなく/皿でなく/…」といった示差的音声による恣意的概念分割セットが事前に選択され、「ガラスです」と答える場合「木でなく/金属でなく/…」といった恣意的概念分割セットが選択されています。
■現象学の言葉を使えば、「主題」を選択したときには、同時に必ず「地平」をも選択しています。これを社会システム理論は「二重の選択性」と言います。意味は、「地平」の選択を前提にした「主題」の選択という「二重の選択性」を可能にする機能を、有します。
■第三の「否定性」とは何か。既に述べたように「コップ」という主題は、「カップでなく/皿でなく/…」という具合に、同一地平内の他項目の否定を経由して与えられています。と同時に、否定された他項目の全ては、消去されずに地平内に留まったままでいます。
■「否定性」をプールするという意味の独特の機能によって、主題すなわち選択されたものは、否定された他項目のどれかを選ぶこともできたのに、あえてそれを選んだという「偶発性」という様相──可能だけれど必然ではないという様相──を、必然的に帯びます。
■第四の「選び直し」の可能性とは何か。選択された主題は、選択によって否定された他項目を地平にプールしており、かつ主題は、他でもありえたという偶発性を帯びています。こうした意味の諸機能のお陰で、全ての選択は「選び直し」の可能性を潜在させています。
■「コップだと思ったらカップだった」といった体験次元でも、「いったん嘘を言ったけど正直に言い直した」といった行為次元でも、こうした「選び直し」の可能性の存在は、社会システムの要素である行為の間の関係が、動態的に変化する可能性を与えています。

【秩序を定義する場合の数と、意味の機能】
■社会システムの秩序を定義する場合に必要な「与えられたマクロ状態に含まれる、ミクロ状態の違いによって区別された場合の数」は、示差性・二重の選択性・否定性といった意味の諸機能が与える「選び直し」の可能性を前提にして、初めて数えることができます。
■宇宙船から降り立ったばかりの火星人が、私たちの社会システムの秩序を記述できないのは、私たちの視点に内在できないからだと言いましたが、それを言い換えれば、火星人はこうした意味の諸機能を「まだ」利用することができないからだということになります。
■それを踏まえれば、「現にある社会」としての社会システムは、可能なコミュニケーション(選択接続)の順列総体──「社会」という──の中から、特定のコミュニケーション(選択接続)の順列のみを、内部的作動による境界維持で、継続的に現実化したものです。
■「現にある社会」の秩序が壊れても、単に「乱れた社会」になるだけで、社会でなくなるわけではありません。可能なコミュニケーション(選択接続)の順列総体を「社会」と呼ぶのはそうした含意です。それとは別に、「社会」の外には「世界」が広がっています。
■コミュニケーション(選択接続)可能なものの総体が「社会」だとすれば、「世界」とはありとあらゆるものの総体です。ありとあらゆるものにはコミュニケーション不可能なものも含まれます。「現にある社会」⊂「社会」⊂「世界」、という具合になっています。
■ちなみに古い社会システムでは「社会」と「世界」が一致し、あらゆるものがコミュニケーション可能だと観念されました(アニミズム)。社会システムが進化すると「社会」の外にコミュニケーション不可能な「世界」が広がるという観念が必ず一般化してきます。
■それはコミュニケーション不可能な「事物の世界」であり、「法則の世界」であり、「形而上的な(イデアの)世界」です。かくして、なぜ「現にある社会」はあるのかではなく、なぜ「社会」はあるのかという抽象的な問いが問題化し、宗教進化論的な画期を迎えます。

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