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Re: <普通>の市民たちによる「つくる会」のエスノグラフィー 【先行研究の批判的検討】
http://www.asyura2.com/0311/nihon10/msg/1209.html
投稿者 なるほど 日時 2003 年 12 月 26 日 16:57:19:dfhdU2/i2Qkk2
 

(回答先: <普通>の市民たちによる「つくる会」のエスノグラフィー 【序章】 投稿者 なるほど 日時 2003 年 12 月 26 日 16:47:59)

2.先行研究の批判的検討
「つくる会」自体の発足が96年2月、そして中学校教科書採択が終了したのが2001年

8月15日である。「つくる会」前身の「自由主義史観研究会」を考慮に入れても、その間保守運動を進める参加者たちの生活意識を分析したものは、管見の限り存在しない。

「つくる会」の幹部メンバーたちによる著作、またそれらの著作に対する反論本は数多く出版され、また話題性の高さゆえ発行部数も類を見ないほど伸びた。 しかし、それらは藤岡氏らの提唱する歴史観や歴史教育方法、そしてそれに対する批判のみであり、上述したように「つくる会」を運動として分析したものは未だ存在していない。

 本研究の目的に完全合致とまではいかずとも、本章で批判的検討の俎上にのせるに値する論文として、2つほど挙げておく。ひとつは『歴史認識と授業改革』(村井:1997)、のこるひとつは『文化ナショナリズムの社会学』(吉野耕作:1997)である。前者は、「自由主義史観研究会」所属の教師たちに聞き取り調査を行っている、という点が本研究と非常に似かよった手法であり、考察に値すると考えた。また、後者は「日本人論」をめぐり、どの社会集団がいかなる理由で「日本人論」に積極的に反応して「消費」したのかをフィールドワーク(主に聞き取り調査)で実証した。

2−1 『歴史認識と授業改革』の批判的検討

 “よりよい「平和教育」「歴史教育」のありかた”を大きな問いとしている研究である。

この研究は、あくまでも教育モデルの吟味・改善であり、藤岡の提唱する教育モデルの批判的な検討からはじまって、歴史家にインタビューを行ったり、自身の大学での講義例をあげながら「歴史をどう教えるか」を研究している。

 藤岡の著作に対し、批判本が数多く出版されたが、村井の論が新しくかつ評価できると思われる点は、学習者という要素見逃さなかったことにある。当たり前といえば当たり前なのだが、藤岡の主張に明らかに不足していた面であり、その指摘は妥当なものだと考える。具体的にみてみよう。本書の序章で、村井は藤岡の《現場教師を代弁する教育学》モデルを次のように図示し、批判を行っている。

*藤岡氏の《現場教師を代弁する教育学》モデル−p22より抜粋

歴史学者


教育学者


歴史教育者


 学習者

(藤岡氏の教育モデルは)…教師がよしとする授業と、学習者が充溢を感じる授業とが予定調和的にとらえられている。私は、年間数十万人に及ぶ中途退学者・登校拒否児を生み出している学校教育の惨状を顧みたとき、藤岡氏の教育研究はもっとも肝心な点を主題化していないと感じていた。藤岡氏の教育学は現場教師に対する学者の啓蒙主義には批判的だが、学習者・子供に対する教師の啓蒙主義に対しては警戒感が欠けているのだ。(下線、引用者)

 と、藤岡のモデルでは荒廃した教育現場に対応しきれないことを指摘し、次のような教育モデルを提案している

*村井の《学習者を代弁する教育学》モデル−p23より抜粋

歴史学者


   歴史教育者


 

教育学者


 学習者

…例えて言うならば、歴史学者は劇作家、歴史教育者は舞台人、学習者は観客、教育学者は演劇批評家である。劇評家は観客の代弁者である。(中略)観客が芝居に感動しなかったとき、劇評家は“観客の理解力が低いので、こうしたすばらしい芝居を理解できないのだ”とは絶対に言わない。あくまで原因を、原作か舞台製作の側に求めて分析しようとする。そうした、徹底して観客の代弁者たろうとする専門家の存在が、舞台人や劇作家の長期的な力量向上につながる。つまり教育学者が本当に学習者や生活者たちの要求や意識を代弁できれば、歴史学者にとっては研究モチーフを、歴史教育者にとっては実践設計を「常に問い直す」ため有力な資料となり得るだろう。

 すなわち、村井が主張する教育モデルは、「学習者」をひとくくりに受動的な立場においやり現場の教師だけが影響を与え得るという藤岡のモデルではなく、「学習者」を代弁できる教育学者を授業改良に役立てる、というものである。以上見てきたように、村井の研究は教育学の観点から非常に鋭い指摘を行っており、そのオリジナリティーは評価できるものといえよう。

では、村井の論文に欠けているところは何だろうか。私の問題設定は「つくる会」運動の参加者・当事者の意識を追うことにより、草の根レベルでの保守活動の実態をリアルにつかむことである。村井は、本書第5章「自由主義史観研究会のエスノグラフィー」で、現場の教師に対してインタビューをおこなっている。史観の是非、彼我ではなく、自由主義史観研究会に所属している現場教師たちの実態を探るという手法である。ただし、この場合、電話を使ったインタビューであるため、1人1人の教師に関する意識は十分に分析できるのだが、「会員」としての意識(他の教師とどのようにかかわり、どういった会話を交わしているいるのか)は追うことができない。 自由主義史観研究会に所属し、そしてもし現在も継続しているのであれば、その理由の一要因として会員同士の人間関係などが挙げられても不思議ではない。教師たちを4つのタイプに分けてまとめる手法は斬新であったが、現場教師はお互いに他のタイプの教師をどう見ているのか、まで考察できればさらに完成度の高い研究になったであろうと思われる。

 そうした意味で、本研究は村井の論文を「運動体」としての「つくる会」の視点から補強できるのではないかと思っている。私の問題意識は「歴史をどう教えるか」ではないが、<普通の>市民が現場教師たちの理由とは違う理由で藤岡氏らの主張に賛同し、支援活動を続けている実態を考察することにより、村井のテーマをより深められるのではないかと思う。

 

2−2 『文化ナショナリズムの社会学』の批判的検討

 吉野の研究では、日本人論の受容・社会内伝播の過程を探るために教養中間層の中でも教育者と企業人に対象を絞り、日本人論に対する反応と受容の状況について聞き取り調査を行っている。(第7章)私の研究と吉野研究の視点が類似しているのは、次のような問いの立て方にある。

 文化ナショナリズムは、知識人・文化エリートが自民族の独自性をめぐる考え方を「生産」し、他の比較的教育程度の高い社会集団がそうした考え方に反応し「消費」する過程を伴う場合が多い。本章では、知識人・文化エリートによって「生産」された日本人論に反応し、「消費」した人々の特徴、理由、契機について考察する。先にも述べたように、日本人論をめぐる既存の議論では、日本人論のテクスト批判に終始し、受け手・消費者側の分析が欠けていた。本章では、筆者の行った調査結果に基づきながら、日本人論の受容、消費の背景を探りたい。(下線、引用者)

 研究対象は「つくる会所属の市民」と「中里市の日本人論消費者」でまったく異質なものである。しかし、前者は藤岡氏らの言説を消費しつつ活動を行っているという点、そして後者は日本人論ブームの際に書かれた多くの著作に影響を受けながら活動(この場合、職業)をしているという点が非常に似通っていると思うのである。どちらも「日本人」がキーワードである。「日本人とはもともと(昔から)…であり、…のように行動するものである」という固定化したイメージをそれらの言説から汲み取り、消費する。その消費の仕方に共通性をみることができるのである。

 では、吉野論文を批判的に検討してみよう。吉野は、中里市の教育者と企業人計71名(うち、教育者35人、企業人36人)を対象に聞き取り調査をしている。論文の主題が「日本人論」の消費であるため、前提として日本人論をかつて読んだことのある可能性の高いこれらの人々が選ばれたことは理解できるし、吉野も文中で触れている。しかし、この調査の結果、どれほどまでの「一般性」が確保できたかは疑問が残る。ある地方都市における限定的な人々(教育者・企業人)を調査対象としているため、これを「日本社会の一般化」として提出することはできない。 

私は、普段の生活をしている上で「日本人とは」という問いに差し迫って答える必要のない人々が、なぜ藤岡氏らの言動に影響され保守的な運動へと向かったのかを調べてみたい。それほど経済的な不安もなく、平和に暮らしている主婦が、学生が、そして会社員がなぜ「日本人としての誇り」を声高に叫ぶのか。−フィールドワークを通じて、草の根運動のリアリティを探ることにより、吉野論文に欠けている要素--研究対象としての<市民>--を補っていければ、と考えている。

http://web.sfc.keio.ac.jp/~oguma/report/thesis/2001/ueno.htm

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