現在地 HOME > 掲示板 > 日本の事件8 > 138.html ★阿修羅♪ |
|
長崎市の男児誘拐殺害事件で、補導された中学一年男子生徒(12)の精神鑑定を依頼された精神科医は十九日、少年の鑑定書を長崎家裁(伊東浩子裁判長)に提出、鑑定が終了した。家裁は同日、鑑定留置のため中断していた十三日間の観護措置を再び決定。近く少年審判を再開し、十月一日までに刑事事件の判決に相当する処分を決める。
家裁は少年審判の非公開原則を根拠に鑑定内容を明らかにしていないが、少年は統合失調症など精神病院への強制的な措置入院が必要な状態ではないことが関係者の話で分かった。
十四歳未満は刑事責任を問われず少年院送致もできないため、県中央児童相談所は少年を家裁送致する際、「強制措置が可能な児童自立支援施設が適当」との意見書を添付。措置入院がなければ、個別の強制処遇が可能な国立武蔵野学院(さいたま市)に送致される可能性が高くなった。
少年の鑑定は、家裁が指定した鑑定人一人が担当。自閉症やパニック障害などで豊富な臨床経験がある児童精神医学の専門家とみられる。十九日まで五十八日間の鑑定留置期間中、鑑別所に少年を訪ね、国際診断基準に沿った問診や脳波検査、心理テストを実施。両親への面談など家庭環境や成育歴にも踏み込んで事件の背景を総合的に分析したとみられる。
西鉄高速バス乗っ取り事件(二〇〇〇年)や大分県野津町の一家六人殺傷事件(同)でも、少年に対する精神鑑定が行われ、それぞれ処分に大きく影響した。今回の鑑定書は、県警が提出した事件記録や家裁調査官の報告書などと併せ、処分決定の判断材料になる。
一方、遺族側は十九日、鑑定書の閲覧・複写を家裁に申請。閲覧は一部を除き許可されたが、複写は認められなかった。男児の両親らは、鑑定内容を読んだ上で、裁判官に事件への心情を訴える意見陳述を申請しており、近く閲覧に向かう。
“凶行”解く鍵になるか 情報公開求める声も
長崎市の男児誘拐殺害事件で補導された中学一年の男子生徒(12)の精神鑑定の結果が十九日、長崎家庭裁判所に提出された。鑑定結果は「少年の凶行」を解き明かす鍵となるのか。裁判などで精神鑑定作業に携わった関係者らは、今後の手続きや情報公開についてさまざまな注文を付けた。
長崎家裁は少年審判の原則に基づき、鑑定書の中身をはじめ、鑑定の内容や手法についても一切非公開とした。
県内外の精神科医らの話を総合すると、一般的に少年の精神鑑定では、問診や心理テスト、脳波検査、MRI(磁気共鳴画像装置)検査などに加え、家族などへの聞き取り調査を総合し、成育状況や精神状態、深層心理を探る作業を行う。
「大人の質問などに誘導されやすかったり、表現力が乏しいこともあり、大人に比べて鑑定は時間がかかる面はある」(ある精神科医)という。
その上で、あらゆる精神疾患を分類した、米国精神医学会のDSM―W(精神疾患の診断・統計マニュアル第四版)や世界保健機構(WHO)が作成したICD―10(国際疾病分類第十版)の診断基準などを参考に、精神疾患の有無を慎重に見極める。十二歳少年の精神鑑定でもこうした流れに沿って、鑑定が行われたとみられる。
刑事罰を適用されない十二歳の触法少年に対する精神鑑定は異例。鑑定の是非について、二〇〇〇年の佐賀・西鉄高速バス乗っ取り事件で家裁送致された少年=当時(17)=の精神鑑定を担当した精神科医は「大人でも、十七歳でも十二歳でも鑑定手法は同じ。年齢に応じて精神状態は浮かび上がる」とし、「(鑑定結果は)少年の処遇決定の上で重要な役割を果たす」と指摘する。
刑事、民事裁判で精神鑑定結果を積極的に採用してきた元裁判官は「少年は先天的に治療が必要だったのか、社会的な環境要因のため何らかの疾患が芽生えたのか、その判定は再発防止の観点から意義深い」と鑑定の必要性を強調する。一方で、心身の発達が未成熟な十二歳が対象なだけに、「鑑定は複数のグループが担当し、それぞれの結果を付き合わせて検証する手法が理想」と慎重さも求める。
少年法や精神医学に詳しい県内の弁護士は「少年審判は更生・保護が目的だが、触法少年の場合、教育的側面に傾き刑罰的発想がないがしろにされている」と不満を漏らす。今回は「鑑定結果だけに重点を置かず、司法・治療・教育の三側面をバランスよく処分に反映させるべき」と話す。
県内で精神鑑定に携わってきた大学関係者は今回の少年については「小学生時代にパニック状態に陥ったり、対外的なコミュニケーションを苦手にしたり、特定のものへのこだわりが強かった―などの要素から何らかの発達障害が考えられる」とみる。今後については「二度と同じような事件が起きないよう、家裁は鑑定結果を含めできるだけ公開すべき」と指摘している。
「普通の子」印象変わらず
少年は七月九日の補導から二日後、長崎少年鑑別所で付添人弁護士と初めて面会した。殺害状況について「自分が分からなくなった」と話し、男児に対しては「(長い人生の)先をなくしてしまい申し訳ない」とうなだれた。少年の第一印象は「あまりにも幼い顔」。柴田國義、森永正之両弁護士は、「普通の子」という思いを抱いた。
少年の鑑別所での生活は二カ月余りになり、付添人三人は週一、二回ペースで面会を続けた。当初は「なかなか寝付けない」と漏らしていたが、徐々に生活に慣れ、中学校の友達やゲーム、愛読書の「三国志」の話題になると明るい表情で会話が弾んだ。
しかし、事件の話になると、言葉に詰まる場面ばかりだった。付添人は男児の父親が公表したコメント文はすべて読んで聞かせた。その際、「黙ったままうつむき、つらそうな表情を浮かべた」という。
付添人は、精神鑑定への影響に配慮し、鑑定留置期間は事件の話題を控えてきた。考えをつづるよう差し出したノートには、鑑別所での生活などと併せ、反省や謝罪の言葉も見られた。戸田久嗣弁護士は「少年なりに考えていると思う」「書こうとする意欲は伝わってくる」と見守るが、遺族への具体的な謝罪文となる見通しはない。
教師の経験もある柴田弁護士は、現在も「普通の子」という印象を崩していない。「鑑別所での生活によく耐えている。本当はつらくて不安もありそうだ」と気遣った。
動機解明に期待 付添人弁護士
長崎市の男児誘拐殺害事件で、長崎家裁に送致された中学一年の男子生徒(12)の精神鑑定書が同家裁に提出されたのを受け、付添人弁護士二人が十九日、記者会見。鑑定結果について「鑑定書はまだ見ていないが、対人関係に障害があるとは見受けられない少年がなぜあんな行動をしたのか、非常に関心がある」と動機解明に期待を寄せた。十二歳少年には刑事責任が問われないが、社会的、道義的責任について「できる限りのことをしたいのが本音。少年に配慮しながらも責任を果たせるよう検討したい」と述べた。
付添人三人のうち柴田國義、戸田久嗣両弁護士が会見。同日、戸田弁護士が少年に面会し、鑑定書が提出されたことや今後の処分決定までの手続きについて説明したという。
精神鑑定の意義について柴田弁護士は「(事件前は)社会生活にも適応し、家庭生活にも異常はなかった。われわれは(専門的でなく)常識的な判断しかできない。なぜ(殺害に)至ったか、精神医学的な解明がなければ分からない」と述べ、鑑定結果を柱とした動機解明に期待感を示した。
社会的、道義的責任について戸田弁護士は「責任は感じるが、守秘義務や少年のプライバシーへの配慮、少年審判の非公開の原則がある。総合的に考えて検討したい」と述べた。
2003年9月20日長崎新聞掲載
http://www.nagasaki-np.co.jp/press/yuusatu/09/011.html