(回答先: 【「東奥日報」事件関連記事集】 <その2> 投稿者 あっしら 日時 2002 年 3 月 16 日 22:40:08)
『東奥日報』《「武富士」弘前支店強盗放火殺人事件関係記事》
2001年5月19日(土)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件で本紙記者が座談会
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件は、十八日で発生から十一日。弘前署と県警の捜査本部は懸命の捜査を続けているが、犯人に直接結びつく有力な手掛かりは得られていない。なぜ従業員五人が殺害され、四人がやけどを負うという事件になったのか。犯人はどこへ消え、逮捕への糸口はどこにあるのか、取材記者たちで話し合ってみた。
逃げ場ない店舗
A 支店内の出入り口は北側の一カ所だけ。犯人が店中央部のカウンター付近に放火し、炎で逃げ道が断たれた。
B 四人は窓から救出された。五人の遺体も窓や壁際に集中していた。
C 南の窓側には、非常時用の「緩降機」があったが、機器のロープやベルトは店内の倉庫にあった。消防法は、セットで設置することを定めているのだが。
B ガソリンの火の回りは早い。たとえ避難器具がきちんと設置されていても、逃げる余裕があったかは分からない。しかし、武富士は消費者金融。強盗被害のあり得る業者として、同社の防災対策も厳しく問われるのではないか。
逃走方向
A 出火直後に走り去った車が目撃されている。
C 緑色の軽ワンボックス車が有力だが、色や車種、乗り込んだかどうかに関して証言は百パーセント一致していない。
B 交通量の多い幹線道路沿いにもかかわらず、目撃情報が少ない。
D 逃走方向は弘前署方向というが、幹線道路を右・左折すると、入り組んだ生活道路となり、どこへでも逃げることが可能だ。
B とすれば、ある程度土地勘がある者の犯行か。あくまで単独犯と仮定した場合だが。
A 車の人物が犯人ではない可能性は。
D これだけの凶悪事件。事情があっても、事件と無関係ならば、名乗り出るのではないか。
似顔絵公開
C 似顔絵情報は一日当たり数十件寄せられている。それだけ住民の関心は高い。
A コンピューターグラフィックスによる犯人の似顔絵は極めて精ち。写真にも見える。
D 一方で「もし、似顔絵が似ていなかったら…」という懸念もいくらかある。リスクを負っていることは確かだ。
B これだけの似顔絵を全国に発信するのだから、捜査本部は相当な自信を持っているだろう。
A 「車は似ているが、顔は似ていない」とか、その逆などの情報が多く、両方が一致する有力情報は残念ながら伝えられていない。
C 先に挙げたように、車の目撃情報は完全ではない。徒歩で逃げた可能性もゼロではない。似顔絵も、絵であって写真ではない。車、顔の両方該当しなくても、不審者の情報は貴重だ。捜査本部にどんどん寄せてほしい。
空前の捜査体制
B 捜査本部は連日二百五十人を超す捜査員を投入。県警始まって以来の総力戦を展開している。捜査員も連日、疲労を押して全力捜査している。
C まれにみる凶悪事件。捜査には県警の威信がかかっている。
A それ以上に、この事件が解決されなければ、模倣犯罪多発の恐れがある。現実に、全国各地で”ガソリン強盗”が出始めた。
D われわれの市民生活が危ないということだ。一瞬で五人の命を奪った犯人の卑劣な行為は、社会への挑戦。われわれ住民側も関心を絶やさないことが大事だ。
※写真は事件現場は、弘前市の中でも極めて交通量の多い幹線道路に面している=18日午後2時
2001年5月20日(日)
-------------------------------------------------------------------------------- 放火殺人現場近くでつなぎ服発見
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」で起きた強盗殺人・放火事件の現場から約一キロ離れた空き地に、水色のつなぎ服が捨てられているのが発見されていたことが十九日、明らかになった。八日午前に発生した同事件の犯人は水色のつなぎ服を着ていたことが、やけどを負った同支店従業員らの証言で分かっている。弘前署と県警の捜査本部は、空き地で見つかったこの水色のつなぎ服を回収。事件との関連の有無について関心を寄せ、慎重に鑑識活動など捜査に入っている。
これまでの情報を総合すると、水色のつなぎ服が発見されたのは十八日午前。この空き地の雑草の上に無造作に捨てられているのを、近くの事業所に勤務する三十代の女性が見つけ、弘前署の捜査本部に通報した。
サイズは男性用としては小さめだったとされ、上半身部分に目立った汚れはなかったが、下半身部分にオイル状の黒い汚れが付着していた。焼け焦げたような跡などはなかったという。
さらに、つなぎ服と一緒に、丸めて捨ててあった白い無地の下着も見つかった。発見した女性は本紙取材に「つなぎ服の汚れから、何日間も放置されたような状態と思った」と語った。
事件は、八日午前、武富士弘前支店に男が押し入り、現金を要求して店内に放火、取り残された従業員五人が死亡、四人が重軽傷(やけど)を負った。従業員らの目撃情報から、犯人は四十−四十五歳、身長一六五センチ前後で、水色のつなぎ服様のものを着ていた−とされる。出火直後、緑色のワンボックス型の軽自動車が、現場から北方の弘前署方面に走り去ったのも目撃されている。
こうした目撃情報があるなかで、物証になる可能性が期待される「水色のつなぎ服」は発見された。見つかった空き地は弘前署がある北大通り、通称「堅田パイパス」の近くで、弘前署のさらに北方向にある。
女性からの通報を受け、捜査本部は空き地から水色のつなぎ服を回収し、一帯の捜索を行った。また、この服を慎重に分析し、事件との関連性の有無を調べている。
十九日の会見で三上栄弘前署副署長は、「”犯人のものと思われる着衣”は、まだ見つかっていない」としている。
犯人の現金要求は数回
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件で、事件を知らせる一一〇番通報の録音テープに、これまで一回とされてきた金の要求が数回だったことを示す犯人の声が残っていることが、十九日分かった。捜査本部は、犯人の絞り込みなどの有力な手掛かりになるとみて、詳細な分析を行っている。状況次第では公表に踏み切る方針だ。
支店からの一一〇番の連絡は八日午前十時四十八分。事件で軽いやけどを負った従業員の中村祐貴さん(19)が通報し、約二分間で途切れた。
犯人は、支店に入るなり、ガソリンをまき「金を出せ。出さねば火をつける」と津軽弁のような言葉で脅した。録音テープには、鳥居義尚支店長(30)が断った後にも、さらに数回にわたり「金を出せ」と叫ぶ犯人の声が記録されていたことが新たに分かった。
これまで不透明だった犯行目的だが、「金目当て」の線が強まってきたことを示唆する内容とも推定され、捜査本部は「放火目的」を含め、録音テープを分析するなどして、慎重に調べている。
十九日の記者会見で、捜査本部副本部長の五十嵐正幸弘前署長は、この録音テープについて「今後の捜査の進展具合を見ながら、公表も考えていく」と明言。犯人の声を公表して情報提供を求めることも検討していることを明らかにした。
2001年5月21日(月)
-------------------------------------------------------------------------------- つなぎ服、犯人との関連薄く
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」で起きた強盗殺人・放火事件の現場から約一キロ離れた空き地で発見された水色のつなぎ服に関し、弘前署と県警の捜査本部は二十日、服のサイズなどから犯人のものである可能性は低いとの見方を示した。
二十日の記者会見で捜査本部副本部長の五十嵐正幸弘前署長は「犯人の脱ぎ捨てた可能性は極めて弱い、違うと思う」と述べ、その根拠として(1)捨てられていた服は3Lサイズでかなり太め(2)犯人の身長は一六〇−一六五センチほどで、発見された服を着るとダブダブになる(3)かなり汚れ、破れており、用済み後に捨てられたものとみられる−を挙げた。
また、つなぎ服が十八日になって発見されたことについて「事件直後の検索ではあちらの方に行っていなかったかもしれない。現場周辺の聞き込みで一部残っているところもあり、念入りに聞き込み、検索しながら徐々に範囲を広げていきたい」と語った。
2001年5月21日(月)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件、絞り込めぬ犯人像
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件は二十一日、発生から二週間目となった。弘前署と県警の捜査本部には、犯人の男の人相に似た人物について、県内外から膨大な情報が寄せられている。提供された情報の追跡捜査と並行し、鑑識作業で得た資料、車の目撃情報の面からも、犯人の絞り込みを目指しているが、現時点で、男の身元割り出しに結びつく有力な手掛かりは得られていない。
「見落としがあれば困る。念入りに(事件当日の)確実にアリバイを取り、写真などで一人ひとり確認する。それでも違えば、初めて(捜査対象から)外している」。捜査本部副本部長の五十嵐正幸弘前署長は十九日の記者会見で、一般からの似顔絵情報の追跡・確認の徹底捜査を指示していることを説明した。
公開したCG似顔絵について「似た人物がいる」との連絡や通報は、弘前市周辺を中心に、今も一日数十件寄せられている。ち密な確認作業が日々増加する情報に追いつかない側面も。捜査本部が把握した範囲で犯人に結びつくものはなく、手探りの地道な捜査が続いている。
さらに、鑑識作業で検出したガソリン、走り去った軽ワンボックス車の目撃情報などからも購入者、車の所有者特定捜査を展開。「犯人は言葉のイントネーションから津軽の人」という従業員供述から、弘前市と周辺市町村に重点を置いているが、明確な犯人像は浮かび上がらない。
さまざまな情報の追跡について、五十嵐署長は「(捜査員の)裏付けがあっても、上司が何度もやり直しをかけている部分があり、その上で幹部がチェックする」と話し、慎重に慎重を重ねていることを強調する。
事件関連情報は膨大な数に上り、一つ一つの万全な確認が捜査進展のカギを握っている。
2001年5月28日(月)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件、有力情報依然なし
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件は、二十七日で発生から二十日目を迎えた。弘前署と県警の捜査本部はこれまで、同支店を含めたビル全体を数日間にわたって入念に実況見分した。現場から残さ物など、五百点以上の多数の資料を得て、鑑定・分析を急いでいるが、現時点で、犯人がガソリンを入れて持ち込んだブリキ様の缶の形跡は見つかっていない。
捜査本部は、犯人が缶を持ち去ったとみているが、従業員が「ブリキ缶のような金属製の缶」と話していることから、火災でも形跡が残ることがあるブリキとは違う材質の缶だった可能性も視野に入れ、調べている。
このほか、駐車場から採取した油を入れる容器のふた、階段にあった新聞紙や、目撃された水色のつなぎ服などからも手掛かりを探っている。現時点で、資料や着衣の面から直接男の身元割り出しにつながるものはないとみられる。
捜査本部は、似顔絵、車について寄せられた千六百件に上る情報を基に、追跡・確認捜査を続けているが、二十七日現在、有力情報はない。こうした状況にも、三上栄弘前署副署長は同日、「焦りはない。情報を一つひとつ、漏れのないようにつぶしていく」と強調した。
同日、捜査本部を督励した田端智明県警本部長は、犯人の声が入った一一〇番通報のテープ公表の可否について「情報の確認(捜査)が終わっても、犯人を見極められなかった場合は(公表を)考える」と話した。
2001年5月29日(火)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件、カウンター越し放火
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件で、弘前署と県警の捜査本部は二十八日までに、犯人の男がガソリンをカウンター越しにまき散らして放火していた事実をつかんだ。犯人はカウンターを盾にして、引火するガソリンが自分に燃え移るのを防ごうとしたとみられ、犯人は大きな負傷はしていない可能性がある。一方、犯行に使用したガソリン入りの缶は、目撃情報などから、オイル缶様の金属製缶との見方を強めている。
ガソリンをまいた状況は、二十八日に県警本部で行われた記者懇談会で田端智明県警本部長が明らかにした。
同本部長は記者団の質問に答え、「(具体的な)着火方法については言えないが、犯人はカウンターの向こうにガソリンをまいた、とは言える」と発言。さらに「少なくともカウンターの向こうで火が出た場合、犯人はカウンターの前だから、大きなやけどを負わなかった可能性もある」との見方を示した。犯人はガソリンを店内中央のカウンター越しの床にまいた可能性が強まっており、その際、ガソリンが窓口業務の従業員の足元にもかかったとされる。
これまでの捜査に対し、犯人がガソリンを入れていた缶について同従業員は「犯人はブリキ缶のような金属缶を持ち、片手で油をまいた」と話している。捜査本部は、持ち込んだ缶は、片手で携行可能なエンジンオイルなど、数リットル程度が入る金属性のエンジンオイル缶、あるいはペイント用の缶のようなものとみて調べている。鑑識捜査で、残さからは一切の缶の燃え残りが発見されていない。このため、犯人が持ち去った疑いが濃厚とされる。
また、捜査本部は二十八日までに、本部内に専従していた交番・駐在所勤務の警察官を担当地域に戻した。捜査本部に寄せられている情報以外にも、事件について、一般住民からの声を広く吸い上げることが目的で、似顔絵チラシ配布と並行し、不審な人物のあらゆる情報の収集を図る方針だ。
田端県警本部長は現在の捜査状況について「情報を丹念につぶしていくしかない。ある程度時間がかかるのは仕方がない」と強調。現時点で、捜査が難航している−との見方を否定した。
2001年6月3日(日)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件“決定打”は依然なく
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」で起きた強盗殺人・放火事件は「明確な事実」と「微妙な点」が交錯している。犯人につながる事実は、目や髪形、津軽弁とみられる特徴のある言葉。水色のつなぎ服のような着衣。そしてガソリンで放火−などだ。半面、微妙な点は、逃走に使われたとみられる深緑色の軽ワンボックスカー。現場の階段から採取した指紋。現場の駐車場付近に落ちていた缶容器のキャップなどだ。似顔絵情報を含めて、一つひとつの情報の精査を続ける捜査陣。決定打はまだない。
【明確な事実】
捜査本部のこれまでの会見や関係者の話によると、犯人の男が入ってきた時、カウンター付近には女性従業員二人、少し離れて鳥居義尚支店長の計三人がいた。男は素顔をさらしていた。カウンター越しに、オイル缶のような四リットル程度の金属製容器からガソリンをまいた。現金を要求すると女性従業員は後方の管理室に逃げた。店長はその後も犯人と対面、応接した。
犯人の素顔を見ている三人の証言で、犯人の年齢(四十−四十五歳)身長(一六五センチ前後)、立った髪、目の大きい顔、水色のつなぎ服のような着衣−などの特徴が明確になっている。従業員の一一〇番通報の音声記録には、津軽弁で現金を要求する犯人の声が残され、声紋鑑定の途上にある。従業員も津軽弁とする。
鑑識活動により、ビルの階段踊り場付近に新聞紙の燃え残りがあった。捜査本部は既に新聞社や日付も特定した。同新聞はビル内の事業所は購買していた事実はない。少ない遺留品のなかで重要な証拠には間違いない。
【微妙な点】
従業員の証言で作成された犯人の似顔絵は、コンピューターグラフィックス(CG)を用いてよりリアルに修正された。捜査本部は当初の似顔絵の類似率は八〇%、従業員の話からもCGはそれ以上とされる。その結果、「似ている男がいる」との情報は飛躍的に増加した。
ただ、最初の捜査本部は極めて特徴のある最初の似顔絵を捨てていない。微妙な点だ。
各警察署ではCGによる似顔絵を載せた立て看板を設置したり、チラシを配っているが、ここにきて五月三十一日、「野辺地警察署所在地交番連絡協議会」がJR野辺地駅に設置した立て看板には初めて“二つの似顔絵”が載った。
症状の重かった鳥居支店長は五月二十八日、集中治療室から一般病棟に移った。犯人と直接面接した支店長の証言が得られれば、さらにリアルに修正される要素も。
一方、火災発生直後にビル駐車場から走り去った深緑色系の軽ワンボックスカー。極めて重要な目撃情報が、犯人の逃走車両の可能性が高いとみてはいる。だが、犯人らしい男が乗り込むところを直接目撃したものではない。
同じ軽自動車ながら、異なる色の情報もある。捜査の幅は広がっている。これも微妙な点ではある。
さらに、階段の手すりから採取したいくつかの指紋。捜査本部内には、鑑定で「厳しい」の見方も。ビル駐車場付近に落ちていた金属製缶の容器のものとみられるキャップ。果たして、犯人の持ち込んだ缶のものなのか。微妙、いや不明だ。
※写真は野辺地署所在地交番連絡協のメンバーらがJR野辺地駅に設置した立て看板。看板には修正されたカラーの似顔絵(左)と最初の似顔絵が…
2001年6月4日(月)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件、解決向け綿密な捜査
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件で、弘前署と県警の捜査本部は一般から寄せられた膨大な情報をランク分けする一方、情報の対象の協力を得ながら確認に全力を挙げている。対象者は「おおむね協力的」(捜査本部)とされ、アリバイ(現場不在証明)の確認では、複数の関係者から慎重に事情を聴く必要が生じ捜査は時間を要している。行方が分からない人物も相当数いるが、二日までに犯人の特定につながるものはないもようだ。
捜査本部には、似顔絵中心に車両の関連などで、三日現在で約二千件の情報が入っている。似顔絵に似た人物の情報は明確ないたずらを除き数百件。捜査本部は情報を当初からのさまざまな目撃情報に合わせ、ランク付けし、連日、捜査員が確認を続けている。
捜査は対象となった人の協力が不可欠で、承諾を得ながら対応している。その市民協力(反応)について弘前署の三上栄副署長は、抗議のような話は今のところ聞いていない−としている。
アリバイ確認(事件当日)で捜査本部は、「××(人物)と会っていた」、「××(場所)に行った」、「車で××近辺にいた」などの徹底した裏付けに全力を挙げており、ある捜査幹部は「一人の捜査でも、一日や二日で、簡単に終わらない。一週間かかることもざらにある」と説明した。事件に直結する情報がない現状では、捜査の長期化も予想される。
これまでの情報のなかには、「何をしているのか消息不明。ただ、姿が見えないのはずっと前から」「何年も、どこにいるのか分からない」といった断片的な情報は相当数あり、捜査員が追跡中だ。しかし一方で、捜査本部は「事件後に行方をくらました人物の情報は、これまで入っていない」と明言しており、事件に直接つながる消息情報はないもようだ。
車両の目撃情報や、遺留物からの犯人割り出しが難しさを増している現在、「情報一件一件の漏れないち密な確認が極めて重要」と捜査本部。「助かった従業員ら“証人”がいるのは非常に大きい」(捜査幹部)とする県警は、現時点で「捜査は難航」との見方を否定しているが…。
2001年6月6日(水)
-------------------------------------------------------------------------------- 現場を再現し被害者3人が証言
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件で、弘前署と県警の捜査本部が、事件当時カウンター内にいた阿部美智子さん(22)と清野美奈子さん(20)、事務所奥の管理室にいた中村祐貴さん(19)の三人に事件現場を模した部屋へ集まってもらい、事件を再現しながら証言を得ていたことが、五日までに分かった。
捜査本部が三人から証言を得たのは三日。事件現場とは別の、現場を再現した部屋で、事件当時をたどりながら、犯行時の従業員たちの位置関係や犯人の行動などについて証言を得たとみられる。捜査本部は現場での実況見分を今後行うかどうかを検討している。
終了後、清野さんと阿部さんは再び病院に戻り、阿部さんは四日午前、退院。清野さんも近いうちに退院の予定。
弘前大学医学部付属病院の一般病棟に移った鳥居義尚支店長(30)には今後、容体をみながら話を聴くことにしている。
2001年6月6日(水)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件、5秒で火の海に
可燃性の高いガソリンが凶器として使われ、多くの死傷者を出した弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件。犯人が火をつけた直後、店内には一瞬にして炎と黒煙が広がり、阿鼻(あび)叫喚の様相を呈したという。弘前大学理工学部で、液体燃料や固形燃料の火炎伝播(でんぱ)に関する研究を行っている伊藤昭彦教授は、店内の見取り図を見た上で、「五秒以内でフロア全体に火が広がった可能性もある。逃げる時間はほとんどなかったのでは」と推測する。ガソリンの燃焼能力は果たしてどのくらい激しいものなのか−。伊藤教授に今回の放火事件について分析してもらった。
「密室であればあるほど、(引火時の)危険性は増す。一リットル入りペットボトルほどの量で、十分室内を焼き尽くすことができる」。伊藤教授は密室で気化したガソリンが引火した場合の威力について、こう語る。
一般にガソリンは揮発性が高く、マイナス三八度ですでに気化が始まる。今回の事件のように常温でまいた場合では、数秒のうちに引火しやすい「可燃混合気」が付近に形成される。
「犯人がガソリンをまいてから火をつけるまで、仮に四分近くあったのなら、かなりのガソリンが気化し、空気と混合することによって、燃焼の伝播速度が速くなっているはず」と伊藤教授。ガソリン蒸気に火種を投じると、数秒後に発火する。爆発的に燃え広がった火炎の温度はおよそ千−千五百度。その後、床面の液体付近が燃焼し、机など店内の可燃物に燃え移ったと見られる。
人間は、空気中の酸素が一七%以下になると、パニックになって意識を失う。燃焼時に立っていたり、一瞬でも顔を上に出して呼吸すると、ガスを吸い込んで意識を失ってしまう可能性があるという。
伊藤教授は「犠牲になった人は、ガスを吸って倒れ、火傷死したのかもしれない。逆に、新鮮な空気のある床をはっていった場合は助かる可能性が高い」と見る。従業員の生死の分けたのは、逃げる際の”高さ”だったのだろうか。
捜査関係者によると、助かった女性の一人は、「一瞬にして前が真っ暗になった。四つんばいになりながら、光の見える方へ進んでいったら、そこが窓だった」と脱出時の状況を振り返っているという。伊藤教授の推測と、この点符合すると言えよう。
それでは、犯人がやけどを負った可能性はあるのか。伊藤教授は「引火によって、犯人が一瞬、火を浴びた可能性はある。ただ一瞬だけでは、やけどにはならない。カウンターが遮る壁になったかも」とした上で、「ガソリンの危険性を、犯人は知らなかったのではないか。知っていたら、自分も危険だと分かる」と話す。
犯人は”手負い”なのか。それともガソリンの威力を熟知していた上で、計画的にカウンター越しにまいたのだろうか…。
2001年6月7日(木)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件、紙に火付け投げる
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件で、弘前署と県警の捜査本部は六日までに、従業員の証言などから、犯人がカウンター越しにあらかじめまき散らしたガソリン目掛け、脅した上でライターで点火した紙片を投げつけて放火したとの見方を固めた。支店に通じるビル階段二階にある踊り場のような場所からは新聞紙が発見され、捜査本部は点火した紙と新聞紙の関連について関心を寄せ、調べを進めている。
これまでの調べでは、犯人は店内のカウンター越しにガソリンをまき散らして「金を出せ。出さねば火をつける」と脅迫。応対した鳥居義尚支店長(30)が断ると、持っていた紙片にライターで火をつけ、ガソリンが浮かんだ床面に向かって投げ入れたとされる。犯人は紙片を投げると同時に逃走、支店内は瞬時に煙と火に包まれた。
捜査本部は火災直後の鑑識活動で、事件現場のビル二階付近から新聞紙を発見した。しかし、支店やビルに入居する他店はこの新聞を定期購読していなかった。捜査本部は犯人が持ち込んだ疑いが強いとみて、放火に使用した火種の紙片と、新聞との関連を詳しく調べている。
警察、消防への通報記録などから、男が支店内にいた時間は、少なくとも四分間はあったとされる。その際、犯人は「金を出せ」と数回にわたって声を荒らげたことが一一〇番通報の録音記録で判明している。
2001年6月9日(土)
-------------------------------------------------------------------------------- 武富士事件「犯人は捜査網の中」
弘前市の消費者金融「武富士弘前支店」の強盗殺人・放火事件で、発生から丸一カ月経過した八日、捜査本部長の木村哲・県警刑事部長が弘前署で記者会見。同日までに似顔絵に似た人物の情報が八百二十人分あり、うち四百人の捜査を終えたことを明らかにした。
木村本部長は「さまざまな捜査を慎重、ち密に進めている」と長期化を示唆したが「犯人は、似顔絵、車に関する情報など、今の捜査の網に入っていると確信している」と自信をにじませた。
会見要旨は次の通り。
【情報】
捜査本部に寄せられた情報は、六月七日現在、一般情報千十七件、フリーダイヤルでの情報八百五十六件など合計二千百七十七件。県外からの情報もあり、他県警に捜査依頼したものもある。
【捜査状況】
情報提供で、似顔絵に似ている人物は約八百二十人。四百人は捜査を完了したが、残り四百二十人は確認継続中、あるいは捜査が未了だ。車については、津軽(青森含む)にある緑色系の軽ワンボックス車約千二百台を抽出、約八百台の確認を終えた。情報をすべて確認するには、まだ相当時間がかかる。捜査方針の変更はなく、新たな遺留品は発見していない。
【一一〇番通報記録】
録音されている犯人の声は、遠くでわめいている状態だ。話が短くて、非常に(声が)低く不鮮明。個人を特定するのは難しい。現段階で、公開は考えていない。
【車】
緑色の登録で(車に)青色が入っていたり、その逆のケースも考えられ、青色登録の車も捜査している。スバルの「サンバー・ディアス・クラシック」の捜査はほとんど終えた。さまざまな目撃情報から、スバル車に限定せず調べている。県内で使用している県外ナンバー車は捜査対象だ。
【似顔絵】
手書き、コンピューターグラフィックス(CG)とも似顔絵の確度はきわめて高いと考えている。CGは、作成者が被害者に何度も確認して完成。修正は考えていない。似顔絵は両方とも(県民に)かなり浸透していると思う。
【犯人像】
犯人の津軽弁、イントネーションなどから、これまで通り、弘前市とその周辺に居住する者として捜査している。