投稿者 記事転載’ 日時 2000 年 10 月 03 日 13:23:19:
2000年3月14日付掲載
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「情報革命」考
第二幕はメディア業界で始まる
世界、そして日本を変える大波
慶応義塾大学教授 榊原 英資
《臨界点を超えて進展》
情報通信革命、あるいはIT革命が今後、大きく、世界経済、そして、日本経済を変えていくだろうという点については、次第にコンセンサスが出来つつあるようだ。しょせん、IT革命やマルチメディアの展開がバブルに過ぎないと考えている人達もまだ少なくないようだが、IT革命をパソコンとかインターネットのような具体的現象に限ることなく、より一般的に、大量の情報がリアルタイムで、安価に個人のレベルでも受信かつ発信できるようになることだと考えれば、その「革命的」インパクトはむしろ自明である。
企業とか官庁等の組織を情報という視点から分析すれば、それは外部から情報を受け取り、情報を内部でプロセスし(つまり、組織としての意志決定をし)、再び外部へ発信するメカニズムだと考えることができる。その意志決定はものを作ること、移動すること、あるいは購買することかもしれないが、それが情報の受信・処理・発信であることにちがいはない。その情報の受信、処理、発信がIT革命によって、構造的に変わるのだから、企業をはじめとする組織は大きく変化せざるをえないし、組織や個人の相互関係によって形づくられる産業構造、経済・社会構造も変わっていかざるをえないのである。
戦後、トランジスターからはじまりマイクロ・プロセッサー・コンピューターと展開してきた情報面での技術革新が光ファイバーとレーザー技術の合体、そして、人工衛星の広範な利用等の通信面での技術進歩と結びついて、こうしたIT革命が可能になったのだが、今やハード面での技術革新がソフト面での大きな構造改革を引き起こす臨界点を超えて進展してきたことが、「革命」的変化を世界にもたらすようになったのだということができるであろう。
《不可欠な「創造的破壊」》
このように考えていくと、情報通信産業と従来の製造業を区別して、「ものづくり」への回帰を説くことが、実は余り意味のないことがわかってこよう。一九九九年のアメリカ経済の生産性の成長率は二・九%に達し、一九九九年第四・四半期のそれは実に五・〇%になっている。五%は瞬間風速だとしても、アメリカの生産性の成長率が三%を超える勢いになっていることはどうもまちがいないようなのだ。この一般的生産性の向上は、情報、通信産業のみの成長の結果だけではなく、IT革命が広く経済全体に浸透しつつあることを示している。そして、この影響は少なくとも今後しばらくは続いていくと考えられている。
新しい、情報の受信・処理・発信の仕組みをつくるためには、従来のシステムをある意味では破壊していく必要がある。そして、この五〜十年、アメリカで起こってきたことは、まさに、そうした創造的破壊であったといえる。サマーズ財務長官が、この何年かアメリカではある種の革命が起こったといっているのも、このことである。
このように、IT革命が一般的、普遍的なものであるとすれば、当然、アメリカからヨーロッパ、日本、アジアに波及する可能性が高い。日本がアメリカのような創造的破壊が出来るかどうかを疑問視する向きも多いが、グローバル化された市場の圧力は様々な紆余曲折はあっても、大きな構造変化を世界的に実現することになるだろう。日本の企業が変わらなければ、外国の企業に市場を奪われるだけのことであり、ぎりぎりの局面では、そうした危機感が多くの日本の企業を動かす可能性は決して低くないだろう。
《最後の本命はテレビか》
日本でのIT革命の展開は、携帯電話、ゲーム機等を中心に、パソコンをある意味では飛び越える形で進んでいるが、最後の本命はデジタル化されたテレビになる可能性が高い。今年十二月の民放でのBS(放送衛星)放送の開始、二〇〇三年の地上波及びCATV(ケーブルテレビ)のデジタル化は、テレビ事業を一気に変革し日本にメディア・ビッグバンをもたらすことになる。IT革命は、まず金融ビジネスを大きく変え、日本に金融ビッグバンをもたらしたが、いよいよ情報通信の核にあるテレビに「革命」が及んできた訳だ。キー局と地上局のネットワークはデジタル化されたシステムのもとでは必要なく、地方局の再編が起こるだろうし、他業態のテレビ進出も当然起こってこよう。アメリカで起こったインターネット接続大手のAOLとタイムワーナー社のような合併、敵対的公開買い付け(TOB)を含む買収も当然視野に入ってくる。
過去の金融業界と同様、あるいはそれ以上に護送船団行政のもとにあるメディア業界にとって、そのインパクトは極めて大きいだろうが、IT革命の第二幕、メディア・ビッグバンを止めることは誰にもできないであろう。折しも、香港ではかつてスターTVをもっていたパシフィック・センチュリー・サイバーワークス(PCCW)のリチャード・リーが旧香港テレコムの買収を試み、成功した。
(さかきばら えいすけ)
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わたくしは、今までこのような御方の高尚な意見はあまり拝聴した事がございませんでした。
先日紹介されておりました船橋洋一様と榊原様が誠に似通った御意見をお持ちなのは、これが天の意志であり避ける事が出来ない計画なのだという事をあまねく知らしめるおつもりかと察しております。
IT革命の第一弾が金融ビックバンで、第二弾はメディアビックバンとなりマスコミ業界にも金融業界に起きておりますような業績不振や外国資本によります買収劇が決定しているとの事ですのでタイムテーブルに従って株の値段も上下するものと承知致しました。
IT革命の掛け声の元に大幅な社会や企業の改革が行われ、改革を行なわなければ外国企業に負けて生き残れないのだという説を強調して危機感によって動かして行くという点も大変に参考になるかと思います。
このような従来の社会構造の破壊が創造的なもの、良い事であるという正論も非常に重要なポイントかと存じます。
結果的には「ものづくり」に根差さない空洞化した社会をIT革命による情報の流通で置き換える事が急務であるとお考えになられているのでありましょう。
素晴らしいご意見に触れる事が出来まして、目を見張るばかりでございます。